今週のバキ231話〜240話

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2004年12月2日(1号)
第2部 第231話 海皇の拳 (611+4回)

 範馬勇次郎と郭海皇の辞書には「ハッタリ」という文字が無いらしい。
 でもきっと、「思い込み」「誇大妄想」は太くてデカい文字で書かれている。
 どちらの妄想がより真実に近いか、勝負だッ!

 勇次郎は命拾いした。そう郭海皇が言う。
 どうも、郭海皇の放ったゆるいパンチが当たると大変な事になっていたらしい。
 ハエがとまりそうな速度のパンチのどこを警戒すればいいのだろうか。
 そんなパンチで倒されるのは郭春成と範海王でじゅうぶんだ。
 本気になった寂海王なら余裕で護身できそうだ。

 だが、郭海皇はまたもや無防備にちかづき、無造作に左の逆突きで殴ってくる。
 あいかわらず、とろいスピードだ。
 ところで、爺さんは歩きながら打っている
 移動しながら攻撃するのは難しい。
 つまり、いいかげんに打っているようで高度な打撃技なのかもしれない。

 しかも、消力(シャオリー)を破られた直後なのに、郭海皇は平然と近づいている。
 今度は髪の毛をつかまれない自信があるのだろうか。
 勇次郎の攻撃範囲内にあっさり入る手腕もさりげなくすごい。
 大昔の本部なんて勇次郎に触れることもできなかったのだ。
 普通の人なら不可能に近いことを、あっさりやってのける所が郭海皇の偉大なところなのだろう。

「受けてみ…」

 パンチの途中に会話ができるほど、おそいッ!
 ピザ屋なら割引サービスになるおそさだ。
 おそい拳を見た勇次郎の表情が激変した。
 すさまじいまでに必死のよけッ!
 全力で腰を引いて、攻撃をよけた。なんかマヌケな格好での回避だ。
 拳は指一本分の差で当たらなかった。

(父親(おやじ)が…ッッ)
(逃げた…!!?)


 あれほど必死になって攻撃をよける父の姿を見たのは、息子である刃牙も初めての経験だろう。
 実際に郭海皇と闘っている勇次郎は、あの攻撃に危険なモノを感じたようだ。
 それが証拠に、見よ! 勇次郎がを流しているッ!
 わずかとはいえ、ほほに流れるのは冷や汗だ。
 いままで戦場で生き残ってきた彼だ。危機を感じとる能力は高い。
 一個師団に匹敵する脅威を感じないと、範馬勇次郎は汗を流さないと言われる。(誇大妄想)
 今の郭海皇は戦略行動が可能な軍隊とおなじ戦力があるッ! と思う。

「この老いぼれのパンチを…」
「逃げおったか」


 素晴らしいリアクションでよけてくれた勇次郎を見て、郭海皇もうれしそうだ。
 勇次郎はちょっぴり、コケにされた。

 郭海皇が近づく。勇次郎が逃げた。
 郭海皇が近づく。勇次郎が逃げた。
 範馬勇次郎が、敵を前にして逃げまわっている。
 勇次郎らしくない姿に、刃牙も動揺している。

「バカヤロウ」
「ペッ」
「なにビビってんだよ」


 ツバをはいて刃牙が悪態をつく。
 神聖な擂台でなんということをしやがる。
 となりの烈老師が激怒しますよ。むしろ、怒れ。
 ついに勇次郎は壁際にまでおいこまれた。

「生物界最強とまで……」
「讃えられている人とは思えぬ臆病さ…」


 いつのまに、陸につづいて海空まで制覇したんだッ!?
 気がつけば生物界最強かよ。
 郭海皇はハッタリをいう人ではない。ならば勇次郎の格付けが最近ランクアップしたということか。
 でも、ハッタリは言わないけど、お世辞を言っているのかもしれない。

「強き人よ………」
「なにを恐れる……」


 どちらにしても、強き勇次郎を追いつめている自分の方がもっとスゴイ郭海皇さんの主張はそこにある。
 とてもうれしそうに笑っている。
 妖怪だけに笑顔がこわい。白目だし。
 そして、またまたユルい拳を打ってくる。

 ドン

 勇次郎がまたよけた。拳は壁に当たる。
 そして、壁にクレーターが作られた。
 高さ三メートル以上あると思われる壁が、ひび割れへこんだ。
 うわぁっ、大変な事になっちゃった。

「バケモノかよ…」

 想像もしていなかった破壊力を見せつけられ、刃牙は普通におどろく。
 いいリアクションをとる余裕すらない。
 龍書文に振りおろされたオリバの鉄槌×2よりも、威力がでかそうだ。
 さっき「なにビビってんだよ」と、暴言したばかりの刃牙はだまるしかない。
 勇次郎のかわりに刃牙が闘っていれば、すでに勝負ありだ。

「消力(シャオリー)だッッ」
「己の体重をも消し去る程の―――――
 脱力を生み出す消力」
「その究極のリラックスから繰り出される打拳」
「守りの消力転じて………」
「攻めの消力!!!」


 刃牙がおどろくだけの役立たずなので、頼りになるのは烈海王だ。
 すかさず解説をしてくれる。
 究極のリラックスが生んだ破壊力らしい。
 ごめん、まったく意味がわからない。
 なんか、環境にやさしそうなキャッチフレーズだとは思うけど。

 体によけいな力を入れずに打つことが、理想の一つだと言うのはわかる。
 しかし、それで壁にクレーターを作れるのか?
 軽量の郭海皇が、ゆるく打った打撃だ。どこかでエネルギー保存の法則がゆがんでいる。

 壁の破壊形状から判断すると、衝撃のつたわる速度はおそいようだ。
 速度が速いと、破壊形状は穴状になる。破壊が広がっているので伝達速度はおそい。
 拳が壁に当たってから力を加えると、こういう形状の破壊になるかもしれない。
 当たる直前までリラックスして、当たった瞬間に力を送り込んでいるのだろうか。
 原理的には寸勁+消力か。

 しかし、この方法ではあの破壊力は生まれないだろう。
 あれだけの力を送り込むには、同じだけ踏ん張らなくてはならない。
 壁の破壊にエネルギーを消費したとしても、体に反作用が生じるからだ。
 しかし足元には変化が無い。と、なると踏ん張らなくても良い技術なのか?
 う〜〜む、海皇の闘いは難しすぎる。

 キーワードは脱力だ。
 だから、筋肉に力を入れまくって打つ剛体術やマッハ突きとは正反対の技術だろう。
 どちらかというと、脱力した拳で打つ独歩の菩薩拳に近いと思う。
 肩に力の入る若造には使えない技術という気がする。

 そういえば、脳が脱力した怒李庵海王もゆるいパンチを打っていた。
 人生に深みを持たないと消力は使えないのだろう。
 烈の「今のわたしが真似るには」「若すぎる」発言は正しいようだ。


 郭海皇が愛する力を捨て去ったのは、これを見たからだろう。
 自分が必死になって身につけた力よりも上の破壊力だ。
 こんなパンチ見たら、理合に走りたくもなる。

 武術省の利き手を切り落とした手刀も、この技術の応用なのだろう。
 毛海王を一撃で沈めたのも同じく。
 となると、サムワンへのアレもやっぱり……

 普通のデコピンだと言っていたが、あれはハッタリだったのか。
 いや、あれは謙虚な言葉だったのだろう。
 ついでに、サムワンが弱いと主張できるので、なお良い。

 相手をほめるのも、技を謙遜するのもすべて計算している。
 郭海皇の理合は政治的な駆け引きレベルでも有効だ。

 この男、人生においても達人ッッ。
 ただし、子育てに関しては凡人ッッ。

by とら


2004年12月9日(2+3号)
第2部 第232話 脱力 (612+4回)

 攻めの消力(シャオリー)と聞くと、攻撃力が消えちゃってハデに殴ってもダメージが無い技に思える。
 安心せい、峰打ちだって感じで。
 アクション系の役者にとっては最高の奥義だ。

 闘っているのは勇次郎と郭海皇だけではない。
 舞台のソデでは範馬刃牙と烈海王が熾烈な驚愕・解説をくりひろげている。
 今のところ四千年の叡智をほこる烈海王が有利だ。刃牙はオドろくばかりで活躍が無い。
 されど、主人公である。いつまでもオドろき役に甘んじている刃牙ではなかった。
 守りの驚愕転じて、攻めの解説!

「消力(シャオリー)とは」
「つまるところ弛緩(リラックス)…」
「武術 格闘技に限らず近代スポーツで
 瞬発力を要求されるとき必ず指摘される弛緩(リラックス)

「いすれも強調されるのはインパクト」
「その瞬間までのリラックス」


 言いながら、刃牙が拳を振ってみせる。
 剛体術もインパクトの瞬間の緊張が大切だ。
 そういえば、紅葉との戦い以降は打っていない。ひょっとしてタイミングを忘れているとか?
 刃牙の解説に対し、烈が反撃に出る。

「インパクトまでは脱力――――――
 弛緩(リラックス)しているほどよいとされる」
「優れたアスリートほど筋肉が柔らかいのはそのためだ」
「高名な指圧士がモハメド・アリを指圧したところ
 かつて客として訪れたマリリン・モンローの筋肉と同じ柔らかさだったと述懐している」

 ッ!
 四千年の歴史じゃねェッ! わりと最近、それも日本の小ネタじゃねぇか!(参考
 刃牙の筋肉が柔らかく、一流選手の筋肉も柔らかいという話は過去に書いた。
 しかし、モハメド・アリの筋肉が性差を超えてマリリン・モンローと互角とはまさに驚愕だ。
 永遠のセクシー女優のムチムチ ボディーと互角とは、恐るべしモハメド・アリッ!
 つうか、マホメッド・アライじゃなくて、モハメド・アリでいいんですよね?
 愚地独歩と大山倍達が同時に存在するように、アライとアリの共存も可能なのだ!

「弛緩と緊張の振り幅が―――――― 打力の要」
「ならばあり得る!
 あのバカげた打撃力も納得できる!」


 刃牙が納得しちゃった!
 弛緩と緊張の理論は問題ないと思うけど、同じ内燃機関の理論で動いても乗用車とF1カーではスピードが違いますよ。
 あの破壊力は、どこから生み出されるのか?
 弛緩と緊張をマスターすれば、小柄な女の子でもコンクリートの壁を破壊できるというのか。
 消力をマスターしちゃえば、破壊できたりして。
 文句があるなら消力をマスターして試してから言えって事か?


 動きはおそいが絶大な攻撃力をもっている攻めの消力が勇次郎をおそう。
 余計な力が入っていないから、予備動作が見分けにくく、よけにくい攻撃なのだろう。
 勇次郎は左ヒジと左ヒザを使い、ムエタイ風のブロックでガードする。

 だが、吹っ飛ぶ。地上最強の生物が舞った。
 しかも、衝撃がビリビリ来ている。

「100キロを超える親父が軽々と…ッッ」

 刃牙と烈がそろって驚愕している。
 飛んでいるのが除海王や、リーガン、ロージャー・ハーロンなどのデカいだけの人なら何キロあっても、驚かない。
 範馬勇次郎が飛ぶところに衝撃がある。豚が飛んでたら驚くのと同じだ。

 そして、ついに勇次郎の身体データーが判明した。
 とりあえず体重は百キロ超らしい。
 勇次郎の身長・体重は気迫によって上下しているように見える。
 怒っているときは大きく、ヒマなときは小さく、説教するときはデカデカと。
 固定された数字が出てきたのは、ファンとしてちょっと驚きだ。

 郭海皇の攻撃はつづく。
 ゆるい、蹴り!
 勇次郎は両手を交差し、ガードする。
 吹っ飛ぶ!

 だが、勇次郎に汗は無い。
 口元のゆがみは、笑いなのか?

 郭海皇の手刀がせまる。
 ヒットして、勇次郎が空中で横回転する。
 人を回転させることがあっても、勇次郎が回転することがあるなんて。

「強き人よ」
「嬉しかろう」
「一歩違えば出遭わなかったかも知れぬ好敵手」
「何の因果か」
「それが今 こうして出遭ってしまった」
「ワシとて同じじゃよ」
「長生きはしてみるものじゃ」


 戦いに生涯をささげた郭海皇が笑う。
 彼もまた、鬼だ。武術の鬼だ。
 好敵手を得たよろこびに浸っている。

 郭海皇は、肝心の理合を手にしたものの、好敵手がいないのかもしれない。
 せっかく身につけた技術を使えない。
 それはそれで、無念だろう。
 一気に仕留めようとしないのも、喜びを長く味わいたいからだろう。

「長生きしすぎだぜクソジジイ」
「もうろくが過ぎて気付かなきゃならねェことまで気付かねェッ」


 範馬勇次郎が笑い出した。
 なぜか、自信満々で余裕の表情だ。前回汗を流したのは何だったのだ?

 今のところ、致命的なダメージは受けていない。
 この程度の打撃なら、受けきれる自信があるのだろうか。

「えれェことが起こってるぜジジィ」

 勇次郎がそういった瞬間、郭海皇が車イスの車輪を投げつけた。
 勇次郎の顔に車輪が当たって、体が回転………
 足から着地。
 こッ、この動きはッッ!?

「あり得ない…」
「範馬勇次郎がッ
 消力を駆使(つか)ってる!!!」


 車輪が当たったときの脱力っぷりは、まさに守りの消力だ。
 郭海皇が長年かけて会得した技術を、四十歳前後の範馬勇次郎が使えるのか?
 この試合、やはり範馬勇次郎のものなのか?

 消力をつかう直前に「えれェことが起こってる」と勇次郎は言った。
 現在形で話している。今、この瞬間に「起こっている」現象なのだろうか。
 つまり、郭海皇の消力を体感しているうちに、勇次郎が消力を学習したと考えられる。
 元から消力を知っていれば、攻めの消力に汗を流したりはしないと思う。
 それとも、守りの消力しか知らなかったのか。

 範馬一族の強さは肉体だけでは無い。
 対戦相手たちの技術をコピーする能力も優れている。
 刃牙だって、体感した紐切りだけではなく、見ただけのマッハ突きだって使えてしまう。
 まさに、天才だ。

 その範馬一族の頂点たる範馬勇次郎なら、試合中に相手の技をコピーすることができるかもしれない。
 脱力が近代スポーツの基本であるなら、一流選手には脱力の基礎があるはずだ。
 勇次郎であれば、弛緩と緊張の振り幅も大きいだろう。
 つまり、コツさえつかめばすぐに学習できる技術なのかもしれない。


 郭海皇の引き出しにどれだけの技が詰まっているのか。
 今度の展開はそこにかかっている。
「消力など基本の基本」と言いはじめたらハッタリ、じゃ無くて郭海皇の反撃開始だろう。

 勇次郎も切り札である「背中の鬼」をまだ出していない。
 試合はこれからも二転三転する可能性が高い、と期待している。

 とりあえず、郭海皇が勇次郎の髪の毛をつまんで消力を破ったら、ちょっと困る。
 やっぱり、消力って「お遊び」ってことになるし。


追記(04/12/16)
 今週はチャンピオンが休みなので、オマケの追記です。
 上羽さんと、haduoさんからメールをいただきました。
 くしくも内容はほぼいっしょッ! シンクロニシティーッッ!

 お二人の指摘は、郭海皇の手刀で勇次郎が回転したとき、すでに消力を使っていたのではないかと言うものでした。
 だから、その時点で郭海皇は「消力を使っている」ことに気がつくべきだったと。

 たしかに、その通りです。
 私も、もうろくが過ぎて、気づかなきゃならねェことに 気づいてねェッ!
 見事な観察眼、御見それしました。

 これをふまえてバキを読み返すと、最初はガードした腕がビリビリしていたのに、次は痺れが無い。その次は、回転する。
 そんな感じで、次第に脱力しているようです。
 でも、表情は変わらないようだ。もっと優しげな表情になれば、インパクトがあるのに。

 勇次郎が消力を使って、攻めの消力を打ち破った。
 つまり、「理合 vs 暴力」は「理合」の勝利と言うことになるのだろうか。
 郭海皇は、試合に負けて勝負に勝ったのだ。いや、まだ負けていないけど。

 勇次郎が「理合」に歩みよった。次は、郭海皇が「暴力」に戻るのだろうか。
「とうの昔に捨てたはずの『力』、まだ こんなに残っておったッ!」
 そんな感じで。
 でも、それはちょっとバキらしからぬ展開なので、違っていそうだ。
 けっきょく、次回のお楽しみですね。


 お楽しみといえば、「餓狼伝」の連載予告がイブニングに載っていました。
 絵はなくタイトルだけでしたが、こいつはうれしい知らせだッッ!
 イブニングは発売日が第2・第4火曜日なので、ヤングチャンピオンと勝負ですな。
 連載開始は二月から。
 一応、初心者にもやさしい前夜祭として、(偏見の入った)キャラクター紹介を「今週の餓狼伝」でやる予定です。
by とら


2004年12月22日(4+5号)
第2部 第233話 流儀 (613+4回)

 本日のチャンピオンはサンデー・マガジンと並んで置かれています。
 なぜかチャンピオンの部数だけが消力(シャオリー)している。
 なに、このコンビニってオレのためだけにチャンピオン入荷しているのか!?と思った。

 勇次郎が見せた消力に動揺することなく、郭海皇が追撃の拳を打ちこむ。
 狙いは腹部だ。
 体を「く」の字にまげて勇次郎が吹っ飛ぶ。
 だが、無傷だ。
 守りの消力を完全に使いこなしているのか。

 郭海皇の攻撃には考えがありそうだ。
 頭部への攻撃だと、回転しやすく威力も殺しやすい。
 だが、腹部への打撃はよけにくい。
 人間の重心だって腹部にある。回転の中心を押さえたようなものだ。
 見せかけの消力ではかわせない場所に拳を打ち込んでいる。
 しかし、勇次郎はまったくダメージが無いようだ。やはり、本物の消力を使っている。

「見ただけで真似たと言うのか!!?」
「極意 消力を………ッッッ」


 烈海王が驚愕し、歯噛みする。
 自分だってマネのできない極意中の極意をあっさりやってのけたのだ。
 ええぃ、クソッ。また、理不尽な範馬の力かッッ! と思っているだろう。
 オレが烈なら、とりあえず刃牙を殴っている。

「マネたのか」
「すでに持っていたのか…」


 すかさず刃牙が追撃をいれる。
 勇次郎のことだから、前から使えたんじゃないの?という偉そうな説を持ちだす。
 なにがあろうと、刃牙は父の最強を信じているらしい。
 そして、それは消力を簡単な技とみなし、中国武術をコケにする発言だ。
 オレが烈なら、なにがなんでも刃牙を殴っている。四回ぐらい。

「ホッホッホッホッホッ」
「真似られたか強き人よ」


 郭海皇は余裕だった。
 消力を使って見せた勇次郎をほめる。やはり、この人は大物だ。
 ただ、郭海皇としては「勇次郎が真似た」と言う点だけは強調したいようだ。
 昔から使えたんじゃ、海皇の技術も安いものになってしまう。

「噂に恥じぬ天才振り」
「さぞや戦う相手に不自由したじゃろう」
「人生楽しからずや」
「こういう出逢いもある」


 このセリフには修羅の人生が垣間見える。
 誰よりも強さをもとめ、強くなるために一度は強さすら捨てた男だ。
 しかし、せっかく手に入れた強さを試せる相手に恵まれなかったようだ。
 対等に戦える相手を渇望する気持ちは、力を求めるのと同じぐらいに強そうだ。
 勝とうが負けようが、おのれの強さを発揮できればそれでいい。そう思っているのかもしれない。

「人生楽しからずや」は孔子の論語をもじったものだろう。
 有朋自遠方來,不亦樂乎?(友あり遠方よりきたる、また楽しからずや)
 強敵との出逢いを、遠方の友がやってくることに対応させている。
 それも、楽しいではないか。
 闘争に生きがいを感じる者の喜びだ。
 日本の言葉にするなら夜の公園で武術家2人。勝負でしょう(by 本部以蔵)」か?
 いや、なんか違う。

「心配するなジジイ」
「消力は2度と使わねェ」
「自慢気に技を披露するキサマをちょっと からかっただけのこと」
「もともと俺の流儀じゃねェ」

 やっぱり勇次郎はムリして脱力していたようだ。
 普段は考えたことも無いだろう脱力を、精一杯がんばってやったのだろう。
 なれない脱力をしたから、血尿とか出るかもしれない。

 そして、またもや中国武術をコケにしている。
 消力は海皇でなくても使えると証明した。
 それも、からかうための遊びで使用したのだ。
 こんな技など、しょせん児戯だと言わんばかりだ。

 範馬勇次郎の流儀とは?
 無言で右腕を上げ、力をこめる。
 腕の筋肉は膨れ上がり、血管は浮き出て、範馬勇次郎のテンションがみるみるうちに上がっていく!
 折れる寸前の限界まで引きしぼった弓のように、勇次郎の力みが極みに達する。
 そして、拳が振り下ろされた。

 ピッシャアァァ

 自然現象の地震すら止めると言われる拳が地面に突き刺さった。
 擂台に局地的地震が発生する。
 会場をゆらす一撃で、闘技場の地面にヒビが走った。
 たった一撃で、地面はヒビだらけだ。

 圧倒的な破壊劇を目撃した刃牙は、驚愕しつつ なんとなく嬉しそう
 やっぱり、誇りたくなるほど強い。そう思っているのだろうか。

 破壊音が高かったので、郭海皇の「攻めの消力」とは違い、速い衝撃だったのだろう。
 破壊力の点でも、郭海皇の上を行っている。
 あとは、この攻撃が守りの消力に勝てるのかどうかだ。

「闘争とは」
「力の解放だ」
力みなくして解放のカタルシスはありえねェ…」


 郭海皇とは逆の理論で上回る威力を見せた。
 これで中国拳法をさらにコケにしたことになりそうだ。

 勇次郎の言う「解放のカタルシス」は、生み出される破壊力ではなく、生む人間が感じるものだ。
 ガマンして、苦労して、自分を抑えて、攻撃力を高めても「楽しくない」のだろう。
 威力を高めるためではなく、自己の快楽のための力みだ。

 理論的には必要以上に力むと破壊力が落ちるはずだ。
 ただ、自分の楽しみのために戦っている人にとっては、自分の心地よい攻撃方法こそが正解なのだろう。
 そして、自分だけの正解を積み重ねていった先に、理論を超えた破壊力があった。の、だろうか。

「100年はなかったぞ」
「これほどの緊張は…」

 ついに郭海皇も動揺した。
 生唾を飲み込み、汗を流すほど動じている。
 百年と言うことは、かつて郭を叩きのめした本物以来の強敵ということになる。
 郭海皇こそ、相手に恵まれていない。

 そう考えると、郭海皇の震えは動揺ではなく、喜びなのかもしれない。
 百年も夢見てきた強敵との出逢いだ。
 赤い糸でつながった恋人よりも待ち望んでいたことだろう。
 強敵あり遠方よりきたる、また楽しからずや、だ。


 じっくりと戦っているのは、美味い料理を味わうがごとく、よくかんで時間をかけているのだろう。
 両者とも生涯最高になるかもしれない、頂上決戦だ。
 じっくり取り組みたいのだろう。

 しかし、大将戦がビックリ人間かくし芸大会になっている。
 よりすごい隠し技をだして、相手と周囲をビビらせる。
 タネがつきたら、そこで負け。
 次は、郭海皇の隠し芸の番だ。今度はどんな技を出すのだろう。

 そして、解説の刃牙と烈海王はすごい勢いで置いていかれる。
 烈海王ですら、門前の小僧クラスに見える異次元の闘いだ。
 ここでいきなりシコルスキーが乱入してきたりすると、すごく哀れなピエロに見えるだろう。

 姿を見せない連中はなにをしているのだろう。
 負け犬ピエロと化した海王たちは治療中かもしれないけど。
 とりあえず、亀になって護身開眼したと思っている寂海王は脱力することも学んだ方がいいかもしれない。
by とら


2005年1月6日(6号)
第2部 第234話 弱者 (614+4回)

 そろそろ範馬タイムが始まるか?
 今までの苦戦は何だったの? と言う感じで範馬が大爆発する、アレだ。
 範馬に限らないが、主人公というものは最後に爆発するものだ。
 最初に爆発して、最後がしょぼいのでは作品が終わってしまう。
 尻すぼみな死刑囚たちは、主役になれないのだ。

「脱力だの…」
「消力(シャオリー)だの…」
「そんなものはオマエたちで共有したらいい」


 範馬勇次郎、仁王立ちでお説教するの図だ。
 ジョジョ立ちとか ベストキッドのダニエル立ちとかと違って安定感もバツグンだ。
 金八先生よりも雄弁に、傍若無人なまでの熱さで大いに語る。
 緊張する観客の力みなくして、説教のカタルシスはありえねェ。

「オマエたち…………」
「とは……」


 中国武術界の最長老である郭海皇も、思わず緊張する。
 汗まで流しちゃって、元気が無い。
 正月休みの間、水をもらえなかった植物みたいにしおれ気味だ。
 なんか、賞味期限切れ寸前の値引きをされた商品のような哀愁がある。
 こういう時は、定価が消力(シャオリー)されているッ!と驚くのが礼儀か?

「俺を除く総て

 範馬勇次郎だけが肉食獣で、彼以外はすべて草食動物だと言いたいらしい。
 やはり勇次郎は遺伝子異常的な強さをもった変異体なのだろう。
 ジョジョの奇妙な冒険で言えば究極生命体のカーズみたいなものだ。
 頂点はひとり。強いがゆえに孤独なのだ。
 でも、カーズとちがってSEXは必要らしい。

「奥義だの 秘伝だの 秘技だの」
「ウエイトだの スタミナだの………………と」
「それらの創意工夫は」
「闘争という物質にある不純物だ」


 奥義・秘伝・秘技はともかく、ウエイトとかスタミナまで不必要とはッ!
 体重と筋肉の質は生物の生存競争に深く関わる要素だ。
 闘争に強くなるためには体重(ウエイト)を上げる。
 その究極が象だ。成長した象は肉食獣でも倒せない。

 長距離を移動するときに必要なのはスタミナだ。
 生物はスタミナをつけるために筋肉を変化させた。
 海を回遊するマグロの肉が赤いのは、スタミナに優れる遅筋(赤筋)が多いからだ。
 逆に近海などにいる移動距離の少ない魚は速筋(白筋)が多く、身は白い。

 つまりウエイトもスタミナも超越しちゃった範馬勇次郎は、人類だけではなく動物すら置いてきぼりにしているのだ。
 まさに地上最強の生物ッ!
 進化の歴史に突如あらわれた異端児だッッ!


 異質な生命体が前進する。
 人類史上にも、生物史上にも出現したことの無い筋肉をリキませて、アッパーを放つ。
 郭海皇は理合の結晶・守りの消力で迎え撃つ。
 地面すらえぐる一撃を軽やかに受け流す。
 しかし、両者の激突音が激しくひびいていた。威力を殺しきれていないのか?

 郭海皇が着地をすると同時に勇次郎が第二撃を出す。
 フォームもクソも無い、全身リキみまくりの強烈な右拳がぶつかってきた。
 グラップラー刃牙・幼年編で、刃牙が夜叉猿に放ったセオリーを無視した一撃に似ている。
 人間につかう技ではなく、対動物用の力まかせの攻撃だ。

 バカッ

 これまた頭蓋骨が割れたかのような音をたてて郭海皇が吹っ飛んでいく。
 壁まで飛ばされ、壁に着地して、地面におりる。
 ダメージは……………無さそうだ。血は出ていない。
 だが、後が無い。
 今度飛ばされたらうしろが壁だ。
 飛んでかわすだけの場所が無い。もう、喰らうわけにはいかない。

「これが…」
「勇…」


 四千年の時をかけて精錬された技術を、人知を超えた筋肉が凌駕しようとしつつある。
 その状況を見て、刃牙の心が動いている。
 思わずとなりにいる烈に誇りたくなるほどの強さだ。
 これが勇次郎だ。これが俺の親父なのだ。
 そんな感じに、また父のことを尊敬しちゃったんでしょうか。
 でも、勇次郎から見れば、刃牙も「その他の弱者」に分類されているはずだ。

 今この瞬間も、光の速さで勇次郎と刃牙の差が開いている。
 この状況でほうけた表情をしていていいのだろうか。
 それとも、絶望が刃牙の心をこわしてしまったのだろうか。
 ショックで毒が表返りつつあるのかもしれない。

 ドカッ

 郭海皇の反撃ッ! 攻めの消力による蹴りが炸裂した。
 今度の勇次郎は力いっぱいにガードする。
 力と力がぶつかり合い、ダンプカー同士が激突したような音がひびく。

 勇次郎は必死に踏ん張っている。消力が働かないようにがんばってリキんでいるようだ。
 足は地面を削り、腕には打撃痕が浮かび、煙まで出ている。
 必要以上にリキみすぎだッ!
 リキまなくていい部分までリキんでいる。少しは解放してやれ。
 あんまりリキんでばかりだと、痔になるぞ。

「力みが…」
「足りねェか…………」

 ッッッ! この人、まだ足りないとか言っているゥ!
 足りないのは、貴方様の脳みそではございませんか?(注:こわいので敬語)
 激辛カレーに唐辛子とコショウとワサビを入れるがごとき所業でございます。
 攻めの消力すら止められるだけのリキみをお望みですか。
 やっぱり、宇宙人の考えることは理解しにくい。

 吹っ飛ばされて開いた距離を勇次郎が走る。
 見る間に郭海皇は目の前だ。
 即、殴る。

(技術こそが!!)
(闘争の構成物質そのもの!!!)


 勇次郎の右フックを消力で回転に変え、その回転の勢いで勇次郎の頭部を蹴るッ!
 まさに攻防一体の戦術だ。
 これでは範馬選手 自分で自分の頭を殴ったようなものです!

 この戦法はグラップラー刃牙の初戦をかざった「範馬刃牙 vs 末堂厚」で披露されたものと同じだ。
 究極の戦いにふさわしい奥の深い闘いだ。

 勇次郎は「対人用」ではない力まかせの一撃をつかう。
 郭海皇は百戦錬磨の経験が可能にした精妙なカウンターを出す。
 共に刃牙が使ったものだが、力と技の対極にある攻撃だ。
 二人の闘いは範馬刃牙が進むべき方向にも関わってきそうだ。

 背中の鬼と共存して、力まかせの暴力をとるのか。
 背中の鬼を捨て、人の人たる強さを目指す技術を選ぶのか。

 刃牙なら主人公らしく力と技の融合した境地を目指すかもしれない。
 その前には、力のオリバを超えて、技の渋川に勝つ必要があるかもしれない。


 さっきは 力みが足りないと言っていた。そして、今度の勇次郎は吹っ飛ばない。
 顔はひしゃげるが、ふんばってこらえている。
 今度は万全のリキみだから、動かないのか? やはり弱者の感想などウシのフンなみに役に立たない。
 そして蹴られながらも拳はリキみ握られ、殴る体勢が整っている。

 郭海皇の反撃が攻防一体の高度な技術なら、勇次郎の反撃は力まかせの強引なものだ。
 ジャンケンで例えると、チョキを出しながら一歩も引かずにグーを砕くようなものだ。
 人類の規格から外れた男だけに、ルール違反の返し技だ。

 極限の力みから――――、解放のカタルシスへッ!
 着地した瞬間の郭海皇を殴り、壁まで吹っ飛ばす。

(その他一切が―――)
(不)(純)
(物)


 技術以外のものは不純物との思いを抱きながら、郭海皇に痛恨の一撃が決まった。
 フキダシまで意識が消えるように小さくなっていく。
 理合は、技術は単純で凶暴で強大な力に敗北してしまうのか!?
 次号へつづくッ!

 郭海皇がロシア人ならトロッコを引っ張るところを回想しそうな勢いで吹っ飛んでいる。
 はじめての本格的なピンチをむかえ、郭海皇の真価が問われるところだ。
 勇次郎は切り札の「鬼の形相」を出していない。
 郭海皇も帽子をまだ脱いでいない。
 つまり、まだ踏ん張る余地がある。
 でも、最近はこういう展開のまま沈む人が多いので楽観はできない。

 今のところ郭海皇以上にピンチなのが範馬刃牙だったりする。
 ますます打倒勇次郎が難しくなってきている。
 究極の技術をもつ郭海皇ですら勇次郎を苦しめられないとなると、素手で倒す手段がなくなってしまう。
 そうなると刃牙のとるべき手段は、打倒勇次郎から引退して梢江ちゃんと前向きに引きこもるぐらいしかない。

 もしくは、素手はあきらめて、腕っこきのハンターに弟子入りする。
by とら


2005年1月13日(7号)
第2部 第235話 ハンデ (615+4回)

 野球のバックホームのような勢いで、殴られた郭海皇がスッ飛んでいく。
 そして壁にたたきつけられる。
 くしくも郭海皇が攻めの消力で破壊した壁のとなりだ。
 郭海皇が作ったのは、人間が長い間かけて編みだした打撃の極意によるものだ。
 そして、勇次郎の技を超えた力が、ほぼ同じ大きさのクレーターを生み出した。

 打撃力は一見互角だ。
 しかし、郭海皇は直接殴って作った。それに対し、勇次郎は郭海皇をぶつけて作った。
 直接殴ったほうが、力を伝えやすいはずだ。
 つまり、攻撃力に関しては、勇次郎が圧倒的に上か!?

 しかし、壁や床を破壊されて、壁が弱くなっていたという可能性もある。
 不確定要素が多いので、結論は保留とする。

 ところで、郭海皇の作った壁のクレーターが、小さくなっている気がします。
 もしかして、これも消力なのかッ!?
 三年殺しならぬ、殺さずの消力だ。ケガをしてもすぐに治る。
 暴徒鎮圧などの時は便利そうだ。

「壁を利用しているッッ」
「消力(シャオリー)が使えないッッ」


 烈海王が驚愕中だ。圧倒的な範馬力の前に、解説するチャンスが無い。
 壁を利用しているというより、回転して力を消すことができていない点が問題だと思う。
 それだけ、速くて強い打撃なのだろう。
 壁を利用するというのは「技術」であり、人間的な理性ある行動だ。「ただ、ぶん殴る」とは すこし違う。
 勇次郎は、たぶん何も考えずに殴っている。
 人間の基準で考えちゃ、ダメだろ。

 範馬勇次郎が、追撃の蹴りッ!
 ガードがら空きで、防御を無視した一撃だ。
 喰らった郭海皇は、また吹っ飛んで壁に激突する。

 壁で跳ね返り、倒れこんでくる郭海皇を勇次郎が待ち構えていた。
 足指、足首、ヒザ、腰、腕とひねりにひねって、最大限に力んだ状態で拳を放つ。
 動きが速すぎて見えない。構えた次の瞬間には、拳が当たっていた。
 ゼロ秒のアッパーカットが、郭海皇を回転させる。

 攻撃は喰らってしまった。だが、ひさしぶりに回転しできた。
 すこしは消力できたかもしれない。
 出血はしているが、骨折はしていないようだ。
 郭海皇は、この状況でも致命傷を受けないように防御している可能性がある。

「これが範馬勇次郎だッッ」

 父の活躍におもわず笑顔を見せる。これが範馬刃牙だ。しょせん、パパ大好きっ子なのだ。
 母の敵討ちとか、父越えの目標とか、異母兄の存在とか、忘れていないか心配だ。
 梢江ちゃんのことは、忘れても良し。
 油断していると、梢江ちゃんをお姫様だっこして逃亡する暴挙に及びそうだ。

「……………バキくん…」
「バカにウレしそうじゃないか」
「打ちのめされているのは100歳を超える老人だというのに」

 あ〜〜〜ッッと、烈がついにツッコんだ!
 もう、そのまま殴ってしまえ!

 一応、チームは別れているけど二人は友人だ。
 しかも、烈は命の恩人でもある。
 そして、刃牙と勇次郎の因縁も存在している。
 普通なら、郭海皇を応援する義理が生じる。
 だが、勇次郎を応援している人のように、この状況を楽しんでいる。

 葬式でひたすらギャグ話をするぐらい無神経だ。
 リアル妹持ちの前で、妹萌えを熱く語るぐらい空気を読めていない。
 板垣漫画にも美少女が必要だッ! と言い出すぐらいに、頭のネジが飛んでいる。

「ヒイィイアアァアッッ」

 郭海皇が反撃したッ!
 勇次郎は、防御をすてた力みの攻撃をしていたため、防御できない。
 カウンターで四発もらった。

「老人…?」
「バカ言ってるぜ……」
「相手はキャリア140年の超武術家だぜッッ」


 突然、逆ギレたかのように刃牙が郭海皇をほめはじめた。
 対戦相手の力なくして、撃退のカタルシスはありえないのか?
 郭海皇をほめつつ、烈の見る目の無さを攻撃している。まさに解説のカウンター攻撃だ。
 怒られてもタダでは起きない。

 老人だろうがなんだろうが、私の同胞が殴られているときにウレしそうにしないでくれ。
 そういう意味も込めて、烈は「バキくん」と呼びかけたのだろう。
 でも、老人を殴っているという部分を取り出し、問題をすりかえた。
 まさに無敵の範馬流話術だ。


 郭海皇の反撃は、勇次郎を一時的に止めたものの、威力が足りない。ダメージを与えていない。
 さすがに攻めの消力を発動させることができなかったようだ。
 とりあえずの緊急避難という感じで、ピンチは続いている。

 顔がひしゃげたままの勇次郎だが、そんなことを気にする男ではない。
 そのまま、リキんで拳を放つ。

 郭海皇は、これもカウンターで返す。
 跳躍し両ヒザで勇次郎の顔面を打ちぬく。そのまま勇次郎を蹴って離脱し、距離をとった。
 蹴られた勇次郎はバランスを崩しダウンする。
 ダメージは無さそうだが、完全に攻撃を止められた。

 さりげなく郭海皇が絶技をみせた。
 百キロを超える独歩の落下をささえる足腰を持つ勇次郎が、ダウンしたのだ。
 攻撃するタイミングや場所が絶妙だったのだろう。
 ダメージは少ないかもしれないが、ダウンしたスキをつかれると厄介だ。
 勇次郎も思わず「ぬゥッ」と うめく。
 打撃力では負けても、攻防の上手さなら郭海皇だ。

 さらに郭海皇は、勇次郎の攻撃をまともに喰らっているのにまだ立っている。
 勇次郎の攻撃をまともに喰らって立っているのは、刃牙でもむずかしい。
 しょっちゅう転がされて目を回している。
 郭海皇は、消力以外の技術をこっそり使って耐えたのかもしれない。

 空中での攻防で、郭海皇の帽子が落ちた。
 なにか、象徴的な光景だ。海皇の名が地に落ちる予兆だろうか。
 落ちた帽子を気にもせず、擂台の中心で郭海皇が叫ぶ。

「ちょうしこいてんじゃねェ 小僧ォッ」

 今まで温厚な爺さんをよそおっていた郭海皇がついに本性をあらわしたッ!
 もちろん温厚な人は、公衆の面前で玉ピンしたり、利き腕三本ごっそり落としたり、敗れた息子に言葉の追い討ちかけたり、などをしません。する人は、どこかおかしい。
 読者的にはバレバレだが、観客の前で狂気の部分を見せたのはこれが初めてだ。

 郭海皇がついにリミッターを外した。
 中国武術の威信などという、建前はすてた。
 郭海皇の本性は、自分さえ強ければ他はどうでもいい、強さに魅せられた狂人だろう。

「ハンデがあるのはむしろ」
「こっち


 刃牙は、勇次郎の勝ちを確信しているのだろう。
 しかし、表面上は郭海皇のことをおだてる。
 でも、ボロを出して「こっち」とか言っています。結局、あんたは勇次郎陣営なのね。

 刃牙の表情が凍った。
 範馬勇次郎が、郭海皇に背を向けている。
 その両手は、天に挑むかのように高くかざされている。
 鋼の筋肉が盛りあがり、服を押しやり、破いていく。
 禁断の扉が開かれようとしている。広がっていく隙間から異形の姿が見えてきた。

「ジジイ…」
「ちょうしこかせて もらうぜ!!!」


 素手で敵を屠る戦闘行為を積み重ね、適応し、造られてきた筋肉が出現した。
 グラップラー刃牙73話以来、約十年ぶりの範馬勇次郎・鬼の形相(めん)だッッ!!

 ついに、ついに出やがったッッ!
 数々の野生動物を屠り、己の子を産んだ女すら殺し、武神・愚地独歩を仆した、
 変異生物・外道・神殺しの鬼が目覚めやがったッ!

「終わらせる気だ…ッッ」

 刃牙でなくとも、そう思う。
 ついに最後の門が開かれたのだ。
 というか、直前に言おうとした「ハンデ」はどうした。

 次号、巻頭カラーで鬼が完全開放される。


 郭海皇の帽子は落ち、勇次郎の鬼が覚醒す。これで、役者がそろった状態だ。
 ただ、鬼の解禁がすこし早い気がする。
 勇次郎は有利に試合を進めていた。無理に鬼を出さなくても勝てそうだった。
 しかし、ここで鬼を出してしまう。
 言葉どおり、ちょうしこいてる。

 郭海皇に秘策がある場合、先に切り札を出してしまった勇次郎は不利になる。
 もしかすると、勇次郎には更なる切り札があるのかもしれない。
 なにしろ、息子の刃牙も鬼を宿している。
 両者・鬼では互角になってしまう。現在の実力差が説明しにくい。
 勇次郎に隠し要素があれば、二人の実力差も理解できる。

 もちろん、このまま勇次郎が圧勝する可能性は高い。
 郭海皇の敗北伏線はじゅうぶんに張られている。

 それでも、なお気になるのが、海皇ブチ切れ直前の攻防だ。
 勇次郎の力を、技術で翻弄している。
 ああいう技がある限り、すぐに決着はつかないかもしれない。

 ただ、どんなに郭海皇が頑張っても勇次郎に大きいダメージを与えられない。
 逆に勇次郎の攻撃は、まともに入ればそこで終わりだ。
 必死でよけながら、ジリジリと勇次郎の体力を削って行かないと勝てない。
 郭海皇の勝利への道は、絹糸よりも細く、黄河よりも長い。

 唯一ある逆転の秘策は、カウンターで勇次郎の攻撃力を逆利用することだろう。
 勇次郎は、最強最大である己の力を受け止めることができるのだろうか?

 しかし、今回の刃牙はひときわ言っていることがメチャクチャだった。
 心情的には勇次郎が勝つと思っているし、勇次郎を応援しているけど、烈に怒られたからごまかしているのだろうか?
 高速回転する郭海皇とかを見て、「この技、梢江ちゃんとのプレイに使用(つか)える!」と思っていそうで、イヤだ。


 今月19日(水)に発売されるチャンピオンREDで、『バキ外伝 ――疵面(スカーフェイス)――』が連載開始となる。
 原作:板垣恵介、漫画:山内雪奈生で、喧嘩師・花山薫を主人公にした外伝らしい。
 餓狼伝復活も近いというのに、さらに追加するとはッッ!
 さすが、毎年不自然主義の板垣先生だ。24時間、年中無休で不自然だ。

 当然、感想も書きますが、毎月19日発売という変則攻撃にどこまで対応できるのか!?
 今年は、読者も不自然主義で行くしかないッッ!
by とら


2005年1月20日(8号)
第2部 第236話 鬼 (616+4回)

 ついに範馬勇次郎が背中の鬼を解放した。
 盛り上がる背面の筋肉が形づくる鬼の形相(めん)。
 これを見せたときの勇次郎はキケン度が数段上がる。
 力みに力みまくった筋肉が、開放のカタルシスを求めているッ!

「筋肉の形態(かたち)が我々と明らかに違う……ッッ」

 はじめて見た勇次郎の背中に、烈海王が動揺している。
 それは刃牙をのぞく観客全員とて同じことだ。中国四千年がはじめて目撃する異形の筋肉であった。
 烈海王ほどの実力者であれば、拳士の体つきを見て流派や修行方法、得意技などを推測できるはずだ。
 その烈海王が「違う」というのだから、かなり異常な筋肉のようだ。

 指で言えば「常よりも一指多」いクラスの異常だ。
 具体的には、岩本虎眼先生やハンニバル・レクター博士など。その道の権威シンクロニシティーだ。

 なお、烈はベッドで寝ていたので刃牙の「鬼の形相」も見ていないだろう。
 そのことを思い出して、となりにいる少年を殴りたくなったとしても、誰が烈を責めることができようか。

「打突の要と言われる」
「背なの筋肉…」
「その筋肉の構成が……」
「明らかに通常と異なる」


 郭海皇も烈と同意見のようだ。
 ところで「背なの」と言っているのは「背なかの」の誤りだろうか。かなり動揺しているようだ。

 ストレート系の打撃は背中の筋肉を使うらしい。
 異形の筋肉に動揺しながらも、郭海皇は勇次郎の攻撃力を分析して対策を考えていそうだ。
 さすが、年の功といったところか。キャリア百数十年はダテじゃない。

「言うなれば生まれながらの……」
「天然戦闘形体………」


 郭海皇も認めた。人類から外れて生まれた変異体だ。
 神が選んだと言ってもいいし、悪魔のイタズラと言ってもいい。どちらにしても規格外なのだ。
 生物の遺伝子異常は少ないが確実にある。
 六十億の個体数があれば、怪物が誕生することもある。

 範馬勇次郎は、生まれたときから異常だった。
 脱力の説明で、赤ん坊の体はやわらかいから衝撃を吸収すると言っていた。
 しかし、範馬勇次郎はへその緒を切る前から硬かったらしい。新生児のころから力みまくりだ。

「百獣の王ライオンは他の動物達をライバルとは思わぬ」
「全ては餌」
「おぬしとその他全人類の構図はそれと似る」


 突出した強さは、神の設計ミスと言うしかないレベルだ。
 草食動物が肉食動物に勝てないように、普通の人間では範馬勇次郎に勝てないのだ。
 そうなると、やっぱり範馬を倒せるのは範馬ということになりそうだ。
 父親殺しは神話の時代から何度も語られてきたモチーフであり、生きた神話にも適用されるものらしい。

 あ、でもライオンが他の動物をライバルと思わないのは、そういう頭脳が無いからだと思います。
 動物園で、パンダに対抗意識を燃やしているライオンなんて居ませんから。

「始めよう…………」
「獅子 対 ………」
「餌!!!」


 勇次郎に比べて、自分のスタートラインは30キロぐらい後ろに設置されていると郭海皇は認識している。
 しかし、それで立ち止まる男ではなかった。
 自分が「餌」であると認識しながら、前進をやめない。
 真正面から、範馬勇次郎に打撃戦をいどむ!

 蹴りッ!
 拳ッッ!
 だが、勇次郎には届かない。
 逆に超常の速度で放たれた勇次郎の右拳を受けてしまう。

 またもや、地面と平行に吹っ飛んでいく。
 そして、郭海皇は壁にメリ込んだ。

 体のラインにそった形状で、そのまま壁にめり込んでいる。
 クレーター状に壁が壊れなかったのは、さっきよりも速度が速かったためだろうか。
 うっかりすると、ギャグ漫画になってしまうような形状だ。
 肉体にダメージを与えながら、中国武術もコケにしている。
 恐るべし、範馬勇次郎ッッッ!

 意識は朦朧となり、足取りもおぼつかない。
 しかし、郭海皇はまだ倒れない。
 ひからびた体つきでありながら、驚異のタフネスを発揮している。
 これも、消力なのか?

 生れ落ちて百数十余年。実に五万日の長きにわたって鍛錬してきた。
 力を求め一度は挫折し、ゼロから再スタートしたこともあった。
 目標を立てて努力し、学習し、達成させる。野生動物とは違う、人間の知恵で成長してきた。
 小柄という肉体的ハンデを克服し、努力でおぎなった実力は、まだ残っている。

 誰よりも永く、誰よりも濃く武にたずさわったという自負をこめ、郭海皇が猛烈ラッシュを勇次郎に仕掛ける。
 もう、攻めの消力はすてさったようだ。なりふりかまわぬ連打を打ち込む。
 正拳、人差指一本拳、つま先蹴り、掌。
 あくまで多彩に攻めたて、鮮血が飛び始める。

 命を燃やし、郭海皇が光る。
 対する勇次郎はハンドポケットだった。

 龍書文のように、あるいはオリバのように、首をかたむけ余裕の構えだ。
 その周囲に散っている血は、勇次郎のものか、郭海皇のものなのか。
 範馬勇次郎 優勢なれど、勝負の行方はいまだにわからず。
 この勝負、どう転ぶのかッ!?


「暴力 vs. 武術」の戦いは、「力 vs. 技」となり、「魔獣 vs. 人類」となった。
 もう、勝負は異次元に突入している。
 でも、魔獣とか言うとボブ・サップみたいで、ネーミングとしてはイマイチだ。

 勇次郎は鬼を解放して圧倒的優位に立っている。
 しかし、トドメをさしきれていない。まだ、ちょっとだけ逆転の可能性はありそうだ。

 ラストに舞っている血は、どちらのものか判別できない。
 直前に出ている郭海皇の表情は敗北寸前の表情に見えるので、攻撃している郭海皇の拳足が逆に砕けて出血しているのかもしれない。
 そもそも範馬勇次郎が大量に出血する姿は想像しにくい。
 郭海皇が負傷している確率が高い。

 郭海皇の血だとすると、逆転できずそろそろ勝負アリとなりそうだ。
 出血の行方が勝負を決めると見た。


 5対5のチーム戦になってから、範馬一族の宇宙人化が進んでいる。
 刃牙のベストコンディションは郭春成を一蹴し、異世界にいるはずの読者にもダメージを与えた。
 これはもう、人間のワザじゃない。

 そして、222話にて刃牙は、
「烈 海王に勝てる人間など―――――」「地球上を探し巡ったとしても見つかるかどうか」
 と、いきなり話を地球にもっていった。
 烈海王に勝った自分は地球外生命体だとにおわせる発言だ。

 そして、今回改めて範馬の筋肉は通常の人間とは違うと判明した。
 刃牙は折れた歯が生えてきているような様子があったり、前から異常な傾向があった。
 だが、これで本格的に範馬勇次郎は人類亜種である疑いが濃くなった。

 島 泰三『親指はなぜ太いのか 直立二足歩行の起源に迫る』によれば、動物の種の違いで多少体が大きかったり色が違っていても、骨格から見れば同一種族とみなせることが多いらしい。
 その考え方だと、筋肉のつきかたが違っていたり、皮膚のテカりがすごくても人間と同種といえるかもしれない。
 まあ、勇次郎の犬歯は牙状になっていますけど。
 ちゃんと調べたら、骨格からも別種と見なせそうだ。
 これが夢枕獏作品なら、範馬一族は空海が唐から連れてきたとか、武蔵坊弁慶の末裔だとかの説明が入るんだろうな。

 とりあえず、範馬勇次郎は突然変異の怪物だと定義します。
 すると、国連などが恐れている理由も理解できる。

 息子の刃牙を見るとわかるように、鬼の素質は遺伝するのだ。
 勇次郎が好き勝手に子供を作ると、世界中エラい事になる。
 肉体的にも強いし、好戦的な性格だろうし、SAGAりまくったりしそうだ。

 こんな連中が大暴れすると、人類を駆逐して、種をのっとってしまうかも知れない。
 現代の人類だって、進化の過程で近い種の原人と生存競争して勝ってきたのだ。
 より強い種が登場すれば、人類は滅ぶ可能性だってある。
 そりゃ、国連も心配するというものだ。

 世界が百人の範馬勇次郎だったら……
 創造しただけで、恐ろしい。
 たぶん、土台の世界が最初に崩壊します。

追記(05/1/21)
「背な」という言葉は存在します!
 え〜、今までにないほどに指摘を受けています。
 今まで「ムチャ理論の展開なくしてツッコミのカタルシスはねェ」とばかりにツッコんできた因果でしょうか。
 メールで四人、掲示板で三人の方から指摘を受けました。

 ミキサー大帝さんに「って とらさんならわかってて茶化してるんですかね」と言われました。
 でも、今回は、ただの無知です。
 いや〜〜、無知ってこわいなぁ。

 てっきりお爺ちゃんがボケちゃったのかと心配していましたが、ボケていたのは私のほうでした。
 情報、ありがとうございます。

 個人的には234話で「成長した象は肉食獣でも倒せない。」と書いておいて、今回「草食動物が肉食動物に勝てないように」と書いたあたりにツッコまれなくてホッとしています。
 ここだけの話ですが、「草食動物が肉食動物に勝てないように」ってのは、百獣の王へのリップサービスです。

 なお、ライオンが餌をという話は板垣先生の著書『激闘 達人烈伝』に出ている。
 達人・宇城先生の話の中で、板垣先生がサファリパークでライオンと目を合わせた話がある。

『俺のこと、戦う対象としてなんか見ちゃいない。
 そう、ただの食い物を見る眼。ライオンから見てあまりに無力な人間の俺は、ただのエサにすぎないのだ。
 だけど、不思議なもんだ。俺のほうにも怖(こわ)いという感情は浮かばない。犯される快感とでも言えば近いか。エサとして見られる経験なんて生まれてこのかたなかったから、恐怖を通り越して逆に気持ちいいんだ。絶対的な強者に食われるという恍惚……。』

 まだ、郭海皇は恍惚の表情になっていないから、敗北しないかもしれない。
 勇次郎もエサを見ているわりには力みすぎ。
 気合入れすぎて割りバシを割ろうとすると、途中で折れますよ。
 そんなワケで、この情報は予想の材料になりません。

 宇城先生の話では、漫画連載を二つ持ち、その二つを競わせることで質の向上につながるという話もある。
 バキと餓狼伝。この二つの作品を競わせることで、板垣先生は更なる進化を目指しているのだろうか。
 そして、原作仕事としてバキ外伝 疵面もはじまった。
 板垣先生の不自然主義はとうぶん止まりそうもない。
by とら


2005年1月27日(9号)
第2部 第237話 中国拳法 (617+4回)

 範馬勇次郎が出血している! いるのか?
 血は出ているけど、皮膚に裂け目が見えない。
 鼻血と口の中を切っている様子はある。
 つまり、大量の出血の半分以上は鼻血なのか!?
 究極なまでに力むと、ここまでの鼻血を出せるのだろうか。鼻血なくして流血のカタルシスはありえねェ。

 出血しているが範馬勇次郎は大威張りだ。
 ハンドポケットで、大威張りだ。
 殴られていたのに大威張りだ。
 勇次郎は生れ落ちたときから大威張りなんで、威張っているのが自然体なのだ。

 この自信たっぷりな姿に、攻撃している郭海皇や脇で見ているバキ&烈のほうが呆然としている。
 特に郭海皇は違う方角を向いていて、とうとうボケちゃったんじゃないのかと心配になってしまう。

 勇次郎がハンドポケットをしているのは、ズボンのズリおろし対策だろうか。
 こうやってズボンをささえている限り、下半身につけいるスキは皆無だ。
 そのかわり上半身はスキだらけ。ムエタイ使いにはお勧めできない。
 服が破れるほど力んだのだから、ズボンのゴムに問題が発生していてもおかしくない。
 さりげなく、勇次郎のピンチなのかもしれない。

「オエアァアアアァア」

 よそ見をしていた郭海皇が、急に目覚めた。
 奇声をあげて怒涛の連打を放つ。
 その攻撃は、拳のようで拳でなく、掌底や手刀でもない。
 体軸はなんか不安定だし、どういう攻撃なのかよくわからない。

「もやは………」
「拳法に見えぬほどのオリジナル」


 あまた繰りだされた難解な秘技を、一歩も引かず解説してきた烈海王がついに倒れた。
 もはや、烈海王をもってしても解説不能なのか?
 解説が消力されている。
 バキが逆転を狙うなら、ここで解説返ししかない。
 主人公の矜持を守ることができるのか?

「これが…」
「拳法…?」


 ダメだ、コイツ! もう いいリアクション返すこともできない。
 まるで踊っているような郭海皇の動きに、バキも対応できないようだ。
 それとも、父が打たれていて冷静に驚くことができないのだろうか。

「郭 海皇がやっているのだ」
「中国拳法以外の何ものでもない」


 対する烈は、解説(技)を捨て強弁(力)に切りかえた
 力説せずして、説得のカタルシスは無い!
 もはや理屈が通用する相手ではないのだ。

 郭海皇がやっていれば、なんでも中国拳法になるらしい。
 ラーメン屋でやっているんだ、ラーメン以外の何ものでもない、と言いながらカレーを喰っているような説得力にあふれている。
 たぶん、ムエタイの動きをしても中国拳法だ。
 ムエタイも中国拳法の一流派だと言い張る。

 相変わらず、手のどこで殴っているのかわかりにくい攻撃を郭海皇は出している。
 こういう変則的な攻撃だと予想がつかないから、よけにくいのかもしれない。
 しかし、攻めの消力を捨てたガムシャラな攻撃は理合から遠い。
 力を捨て、理合も失った郭海皇は、まだ戦いをやめようとしない。
 全てを失おうとしている状況でも、闘争心だけは損なわれず純粋に輝くのだろうか。

「ジジィ…」
「もう十分だろう…」


 赤い雨の中を歩いてきたかのように、血に濡れそぼったままで勇次郎が笑った。
 どんな生物のツノや牙やツメよりも危険な両の拳をポケットから抜きだし、開放した。
 今まで無抵抗に殴らせていたのは、郭海皇へのはなむけの気持ちからだろうか。
 稀代の中国武術家である郭海皇の最期になる攻撃を存分にわが身で味わっていたのかもしれない。
 だが、勇次郎は終わらせる気だ。

(出た……)

 唯一、それを知る刃牙だけがこれから起きる惨劇を予想できた。
 それは板垣作品にムエタイ戦士が登場したとき感じる無力感に近いものがあるかもしれない。
 避けられない悲劇と、やがておとずれる(想像のナナメ上を行く)惨劇だ。

 範馬勇次郎が両手を高く上げていく。
 鬼の形相を生む角度よりも高く、天をつかむかのように上へ。
 それにあわせ、背中の形状がさらに変化する。

「これは…」
「まるで……ッッ
 泣き顔のような…ッッ」


 背中の鬼が哭(な)いている。
 いままで葬られてきた、数々の絶滅危惧動物たちの怨恨がその背に乗り移っているのだろうか。
 鬼も哭く範馬勇次郎の最終攻撃が炸裂する。

 ブオ
 思わず、刃牙は眼を閉じていた。

 パン

 郭海皇の両耳を打った。
 まちがいなく両鼓膜破損、おそらく脳内出血、頭蓋骨は無事か!?
 さらに間をおかず、胸が消えて見えるほどの高速で拳を顔面に叩き込むッ!

 !!

「バッ…バカかてめェェッ」


 範馬勇次郎が思わず拳を止め、表情を崩し、まで流す緊急事態が発生した。
 勇次郎をここまで動揺させるとは、郭海皇はなにをやったのだ?
 オオッ、次号が、次号が気になるッ!
 否ッ、なりすぎるッッッ!!
 今から一週間寝つづけて、主観的一瞬で続きを読みたいところだ。


 さて、頭を切りかえて、郭海皇はなにをやったんでしょうか。
 最初に「ズボンを下ろした」と思った人は人間として失格です。
 ……………失格だよ、俺。

「バッ…バカかてめェェッ」と聞いて67話ラストの末堂を思い出した方は多いだろう。
 末同は「バカかてめェ〜〜〜〜ッ」と言いながら、ドリアンといっしょに落下した。
 余談ではあるが、ジェットコースター上で闘うならバランスのいい山本選手は無敵だと思う。
 もちろん、重力には逆らえないので落下するときは落下するんだろうけど。

 閑話休題(それはさておき)、あれほど強くなることに執心していた郭海皇があっさりと敗北を受け入れるとは思えない。
 やはり、かつてのドリアンと同じく自爆を考えているのではないだろうか。

 勇次郎の攻撃と、郭海皇の踊るような攻撃により地盤が緩んでいる可能性がある。
 そこに一撃を加えれば、闘技場ごと崩壊するかもしれない。
 勇次郎には勝てないかもしれない。しかし、負けないためなら観客が何人巻き添えになろうともかまわん。
 そんな自爆テロもありうる。
 ただ、郭海皇はしゃがんでいるようには見えない。
 地面に仕掛けをした可能性は低いだろう。

 あとは、言葉どおりに、すごいバカなことをしたのかもしれない。
 まず、ズボンを脱い……じゃなく、たとえば勇次郎の拳を大口開けて受け止めようとする。
「殺し屋1」の垣原が好きだったプレイ(?)だ。
 噛まれると面倒だし、あんまり殴りたくない部分だ。思わず、手を止めちゃうかも。

 絶体絶命のピンチをむかえた中国拳法家というと、板垣先生の著書「激闘! 達人烈伝」に出てくる蘇東成老師のエピソードがある。
 刃物と拳銃で武装した多数の敵にかこまれた蘇老師は、持っているナイフを自分の腕に突きたてたそうだ。
『それだけの心意気を見せれば相手もわかってくれる。それに、相手に刺されるより、自分で刺したほうが安全だろ?』
 とのこと。
 郭海皇も、自分で自分を攻撃して勇次郎の意表をついたのかもしれない。

 あとは、郭海皇が自分の皮をはぎ取ったら、中から若い郭海皇が出てくる。
 いや、それはない。


 なんにしても、先に最終奥義を出してしまった勇次郎は、かなり不利だ。
 ゲームの大富豪(大貧民)で、あと一枚で上がるつもりで最強のカードを出したのにつぶされたような状態だ。
 ちょっと景気よくカードを出しすぎた。
 やはり、鬼を出すタイミングが速かったのかもしれない。

 これで次週、郭海皇が逆転しちゃうと勇次郎は手詰まりで戦いを続けなくてはならない。
 強者として生れ落ちてから、はじめての大ピンチではなかろうか。

 そういえば刃牙って出産時に勇次郎が立合ったのだろうか。
「いい子だ……。出てこいッッッ」
 とか、誕生時から命令されてそう。つうか、すごく出て行きにくい環境だろうな。
 もっとも危険な状況での出産として、ギネスブックに認定していただきたいものだ。
by とら


2005年2月3日(10号)
第2部 第238話 鬼哭 (618+4回)

 範馬勇次郎が放つ驚天動地の寸止めッ!
 拳圧がまきおこす颶風が郭海皇の皮をめくり上げ、歯はもちろん歯茎までまる見えだ。
 マリリン・モンローも高速モンローウォークで逃げ出すようなハグチラだった。
 しかし、郭海皇はそれ以外の部分をピクリとも動かなかった。防御の動きが無いのだ。
 敗北を受け入れるつもりだったのだろうか?
 戦闘意欲を消力(シャオリー)して、勇次郎のやる気をそいだのだろうか?

「バカかてめエェッッ」

「ふざけんなアァッッッ」


 擂台の中心で鬼がバカと叫んだ。
 その叫びは郭海皇に届いていない。
 口や耳から流れる血は、いつの間にか止まっていたようだ。
 心臓が停止すると、出血も止まる。

「老衰です」

 勝者も敗者もみな出てきて見守る中で、医者が郭海皇の体を検査した。
 そして、診断は老衰だ。

 いや、死因は老衰じゃないだろ。
 勇次郎の鼓膜打ちとか、その辺が聞いていたんじゃないのか?
 急に老いて死んだわけじゃ無いんだからさ。
 それとも、消力は使うたびに寿命が百日縮むのか?

 力みに力んで、ためにためて、解放のカタルシスを味わう寸前だったのに、不発に終わったのだ。
 勇次郎の憤懣たるや、会場にいる全員に八つ当たりしても解消できるものではなかろう。
 試合が終わったというのに、拳をにぎりしめ体を折りまげて怒りに震えている。

 この怒りかたは172話で、Jrにアライ・猪狩状態のまま放置されたときよりもデカい。
 置いてきぼりを食らったときは、怒りの新記録を出したと思う。
 そして、今回記録更新だ。
 ヤバいッ! 八つ当たりの可能性が高い。とりあえず近くにいる烈がピンチだ!
 暴れるときの勇次郎は、友人の安藤さんだろうとみさかいなく殴るぞ!

「なにもこんなときに…」

 刃牙も無念そうに眼を閉じる。
 なにもこんなときに…、って生きていたら勇次郎の攻撃喰らって死んでいたかもしれない。
 老衰という自然死(?)ではなく、勇次郎に殺されろとでも言うのか?
 さすが、独特の格闘倫理をもつ種だ。
 戦わず死んだことが許せないらしい。今すぐドラゴンボールで生きかえらせて、もう一回殺すとか言いだしそうだ。

 勇次郎は普通に去っていく。
 てっきり怒りを爆発させるかと思っていたが、不発のようだ。
 それとも、巨大恒星が大きすぎる引力のためブラックホールとなるように、巨大すぎる怒りは行動を停止させるのだろうか。
 背中の鬼も、心なしか さびしそうだ。

 勇次郎がむかう出入り口には刃牙と烈以外にも、オリバ・Jr・寂がそろっていた。
 もしかして、勇次郎が暴れたときのために出てきたのだろうか。
 でも、無駄な抵抗はしないで観客を避難させたほうが良い。絶対に良い。
 五人のなかで前列にいる刃牙と烈は、勇次郎が近づいてきたので思わず道をあけてしまう。やはり、まだ格下状態か。
 勇次郎の背中はまだまだ遠いようだ。

「フン…」
「くたばっちめェやんの」


 勇次郎の表情は勝ち誇るでもなく、悲しむでもなく。
 形容しがたい複雑な感情が入り乱れているようだ。

 愚地独歩を殺したときや、明沢江珠を殺したときも、そうだった。
 勇次郎は勝利の余韻にひたるでもなく、複雑な表情を見せていた。
 なにも考えず闘うといっている勇次郎だが、戦いを通じて相手に親しみを感じていたのかもしれない。
 戦うことでしか相手を理解できず、理解することはすなわち相手の死なのだろうか。
 みにくいアヒルの子は大変だ。この場合ライオンだけど。

(これは…)
(勝利(かち)なのか?)


 勝利した勇次郎は去っていく。
 刃牙おしゃれポエムを完成させたあとのような にがい勝利だった。
 なんか、中国連合軍 vs. 日米軍がうやむやになってしまいそうな幕切れだ。


 郭海皇の遺体が運びこまれた医療室では大異変が起きていた。
 医師団が驚愕している。
 なぜなら、死んだはずの郭海皇が普通に起きたからだ。

「武術の勝ち」

 し、死んだフリだったのかッッ!?
 というか、フリじゃなくて死んでいた。心機能を消力(シャオリー)した?

 もしや、キョンシーかッ!?
 やっぱ、コイツ妖怪だったと、周囲の人にクイを打ち込まれそうだ。いや、キョンシーはお札か。
 なんにしても、郭海皇の正体が妖怪であることは確定だ。
 さっきまでの戦いが人知を超えていたのもうなずける。
 だって、闘っていたの二体とも人間じゃないんだし。


 武術は、生き抜くための技術だ。
 別に戦って勝たなくても問題は無い。生き延びるためなら逃げるのも手段の一つだ。負けるくらいなら逃げる。
 そういう意味で、この戦いは死に飛び込み、生を拾った郭海皇の勝ちだろう。
 ただ、試合としては負けているけど。

 この決着は、戦国時代の剣豪・塚原卜伝を思い出させる。
 塚原卜伝が船に乗っているとき、兵法者にケンカを売られたことがある。
 塚原卜伝は、「船の上では他の人に迷惑がかかる。あそこにある離島で決着をつけよう」と言って船を島につけさせる。
 で、相手の男が島におりたら、自分は船からおりずに船を出して男を置き去りにしてしまう。
 男は遠ざかる船に罵声を浴びせることしかできなかった。
 つまり、戦って勝つのはまだ下策で、無傷で目的を達成するのが上策なのだ。


 まともに闘えば勝てなかった勇次郎を、郭海皇は出し抜いたのだ。
 これこそ、暴力に対する武の勝利だ。
 無念に体を震わせた分、勇次郎の負け。
 でも、試合に負けて技をやぶられダメージを受けた分は、郭海皇の負け。
 総合的に見て、この勝負は引き分けだろうか。

 でも、ダマされたと知ったら勇次郎は烈火のごとく怒るだろう。
 今回のタイトルは鬼哭だけど、バレたら鬼怒になる。
 そうなる前に、お帰り願うしかない。
 接待役は烈がやるしかなかろう。烈しか生き残っていないんだし。

 護身に開眼した寂海王も、この試合にはビビっただろう。
 今後の課題として消力の習得と心停止の秘術を完成させねばならない。
 さすがに心臓が止まれば烈だって殴るのをやめただろう。けっきょく試合には勝てないけど。


 これで全試合が終了したことになる。
 次回からは大擂台際のまとめに入るのだろうか。
 生き残っている海王は、烈海王しかいないから、海皇を襲名するなら烈だろう。
 いろいろもめたけど、落ちつくべきところに落ちついたという気がする。
 とりあえず、寂海王の勧誘は失敗に終わりそうだ。海皇を連れだすワケにはいかんだろう。
by とら


2005年2月10日(11号)
第2部 第239話 死 (619+4回)

 致命となる範馬勇次郎の攻撃を回避するため、郭海皇がとった行動は仮死だった。
 高齢だけに、うっかりポックリそのまま逝ってしまう可能性も高かったはずだ。
 さらに勇次郎が拳を止めるかどうかも賭けだった。
 というわけで、万馬券に匹敵する賭けが成功して、郭海皇は生還した。
 蘇生した郭海皇は、中国連合の仲間に顔を見せる。

「わ〜〜ツッ」

 烈海王・龍書文という強豪から、郭春成・範海王という消耗品まで、全員びっくりしすぎだッ!
 まるで死人がよみがえったような反応を見せている。
 いや、実際に死人がよみがえったのだけど。

 特に範海王のリアクションがすばらしい。
 ふり返って驚いているようで、腰をひねって上半身だけでふり返っている。
 雄大で勢いがよく いなせで妖艶の趣があり、小物っぷりまでアピールしている。
 見事なおどろき役だ。これなら武術から手を引いても立派にやっていける。

 龍書文はポケットに衝撃が走っている。驚きのあまり、思わず抜拳してしまったらしい。
 これでは持ち味がイカせない。姿を見せただけで龍書文を死に体にするとは、さすが郭海皇だ。

「人と闘(や)っとる気がせん」
「ワシも若年時代は人間以外とも幾度か立ち合ったが………」


 虎や牛と闘ったことのある郭海皇も、範馬勇次郎には歯が立たないと認めた。
 百年かけて身につけた理合で敗北した。しかし、あまりくやしそうではない。
 相手が人外の魔獣だったから、勝てなくてもしょうがないと思っているのだろうか。

 CMあけのTV番組よりも自然に、郭海皇は先ほどの試合をふりかえっている。
 しかし、烈たちにとっては郭海皇の老衰死というショックの後なのだ。
 不人気打ち切りが奇跡の復活をしたようなものだ。普通に会話されてもついていけない。

「あの… 老師…」
「そういうモンダイじゃなく…」


 烈海王がみんなを代表して精一杯のツッコミをする。
 もしかして、これってキョンシー? と疑っているのかもしれない。
 ちょっと腰が引け気味だ。
 ただでさえ妖怪だったのに、本格的に妖怪になってしまっては手の出しようがない。

 しかし、さすが魔拳・烈海王である。
 他の連中は驚くだけで声も無い。
 ツッコミという反撃ができたのは、日ごろ行っている站椿(たんとう)の成果だろう。

「医師は確かに………」
「老衰…………と…」


 烈海王ですら、いっぱいいっぱいだ。
 すでに烈士の表情を維持できていない。北辰会館トーナメントで松尾象山のワガママにふりまわされる審判の表情だ。
 たしかに、属性としては正しい。でも、いいのかそれで?
 蛮勇魔拳の二つ名も地に落ちたものだ。

「臨床学的には非の打ち所もなく」
「ワシの死亡は確認されたと聞いとる」


 医師団は万全の体制で確認をしたと思われる。
 中国人(特に王(ワン)姓の人)の言う「死亡確認」は信用できない。そういう伝説がある。
 いくら確認してもすぐに生き返るらしい。

 失った信頼を取り戻すため、医師団には絶対に誤診が許されない。
 オリンピック柔道の審判よりも正確に、ワールドカップの審判よりも公平に、確実に死亡確認をするのだ。
 でも結果的には「死亡確認」からよみがえった人が、またひとり増えた。誤診完成だ。

 郭海皇が死亡したことにより、勇次郎の一撃は止まった。
 勇次郎には死体を殴る趣味はないし、相手の生死を一瞬で判断する力があると読んでの死亡劇だったのだろう。
 そして、今ここに海皇が復活する。

「おわかりか?」
「武が勝利したのじゃ」


 栄光の光を受けながら、郭海皇がふたたび勝利宣言をした。
 その確信には一点の曇りもないように見える。
 しかし、中国連合の四人には言葉が届いていない。
 みな、ぼかーんとしている。
 第三者の立場なら、ここで笑って郭海皇の 変態 天才性を堪能すれば良い。
 だが、彼らは当事者なのでちゃんと事態を受け止めなくてはならない。

「疑(うたぐ)るかァ!!!」

 みんなの反応がにぶい。
 そこで郭海皇が一喝する。丹波文七BOYばりのハッタリイズムか!?
 もはや、理論抜きの強弁という感じもする。
 いや、そういうこと言ったら殴られそうだ。攻めの消力で。

 百数十余年のあいだ鍛えた郭海皇の体は「武術体質」になりつつあるらしい。
 ぶ、武術体質ッッ!
 言葉の意味はよくわからんが、とにかくすごそうだ。
 むしろ、武術のやりすぎで気脈が変に曲がって、精神がすごいことになってそうな気もする。

「完成じゃ」
「死に勝る護身なし!!!」


 あ、やっぱり精神がすごいことに……
 心涼しきは無敵なりのはずの龍書文も、バカみたいに口を開けるしかない状況だ。
 中国連合の面々も、これでは納得できない。
 そんなわけで、郭海皇が解説をする。

「ゲーム・スポーツから殺し合いに至るまで」
「相手が死すれば勝負なし!!!」
「故に負けもなし」


 郭海皇が、悟りきった表情で説明する。
 昆虫や小動物の死んだフリも生き延びるための策であり、生き延びる結果が大事なのだ。
 試合でも、死んでしまえば無効試合になって、勝ち負けはつかなくなる。

「ずっる〜〜………」

「その通り」
「武とは 技とはズルきもの」


 弱き者のための技術が武であるなら、戦力差を埋めるためにズルも必要なのだ。
 そうなると、体を鍛える行為を女々しいと感じている花山も、間違っていない。
 相手の弱い部分を防御できないように攻撃するのが武だ。合理的ともいえるけど、どこかズルい感じもする。

 しかし、死んだらやっぱり負けではないだろうか。
 映画の『麻雀放浪記』でも「死んだら負け」と言われて、服を脱がされ捨てられていた。
 だいたい、殺し合いで「相手が死すれば勝負なし」には、ならないだろう。
 その理屈だと、殺し合いは絶対に勝負なしになる。

 また、動物の死んだフリ(擬死)も解明できていない部分のある行動だ。
 擬死をする生物が絶滅していないことは、どこかで有利に働いている証拠ではある。
 しかし、単純に生き延びるための行動とは、断定しにくい。
 参考(トゲヒシバッタの擬死シシバナヘビの擬死

「あの怪物とわしは闘った………」
「そしてなお 立っている」


 勝負なしや死んだフリは強引すぎる説明だと思う。
 しかし、この言葉には重みがある。
 勇次郎にちょっと口答えしただけで、アゴを砕かれた柳とか、ムエタイというだけで倒された人が多数いるのだ。
 それらの悲劇に比べると、闘った直後でありながら自力で立っているのは、武術の勝利と言っても良いだろう。
 ムエタイ戦士たちは、もっと切実に死んだフリを学習しよう。

 郭海皇の言葉にみなはうなだれるしかなかった。
 言葉の威力で、心を砕いた郭海皇の勝ちだ。
 ツッコミは消力されてしまった。


「親父…」
「今……烈さんから報せが…………………」


 一方、刃牙たちの控え室にも海皇蘇生の情報が届いていた。
 刃牙は、すっかり使いっぱしり状態だ。
 勇次郎への反抗心もなくしたようだ。それもまた「武」か?

 勇次郎はデコピンでコーラ瓶を斬って、祝杯としていた。
 刃牙のコーラ好きは、勇次郎ゆずりらしい。
 炭酸を抜いていないところは、炭酸なくして解放(ゲップ)のカタルシスはねェという主義なのだろうか。

「さすが海皇ということだ」

 八つ当たりで、医務室のサムワンにコーラ瓶をぶつけに行くのかと思いきや、わりと静かに勇次郎は情報を受け入れた。
 心臓まで止めたのは勇次郎も評価しているのだろうか。
 武の真髄は一通り味わったので、もう興味が失せたのかもしれない。
 勇次郎がおとなしくしていると言うことは、次回平穏に大擂台賽終了か。


 今回、郭海皇は普通に受け答えしている。
 郭海皇の鼓膜は237話で、両方やぶられたはずなのだが?
 あの出血すらも擬態だったのだろうか。
 体をきたえるのが大好きなオリバでさえウエイトトレーニングできなかった鼓膜だ。
 究極の武は鼓膜への消力すらも、可能としたのか!?
 やはり、妖怪かもしれない。
by とら


2005年2月17日(12号)
第2部 第240話 最強の称号 (620+4回)

 大擂台賽 終了ッ!
 閉会式も無しに終わってしまった。
 百年に一度の神聖な大会なのに、いいかげんだなぁ。

 しかし、観客は満足気に帰っていく。
 最終試合なんて勝負無しだったのに、良かったのか?
 まあ、普通では見ることのできない事件が多かったから、満足だったのだろう。
 生皮はいだり、生玉打ったり、146歳が壁を破壊したり、鬼の宿った背中を見せたり。
 ほとんど奇人変人超人大会だった。この話題だけで、五十年は楽しめる。

 そして、「海皇」襲名はうやむやになった。
 外国人をボコりまくれば、それでよし。最悪の場合でも「海皇」の海外流出は避けたい。
 おそらく郭海皇のシナリオ通りだ。201話の時点で、この展開を考えていたのだろう。

 郭海皇ほどの男になると、策略にも長けている。むしろ謀略といっていい。
 試合の勝敗には不確定要素が多くかかわる。確実とはいえない。
 そこで、結果にかかわらず目的を達成できるような策を立てたのだろう。
 試合の前から決着はついていたのだ。郭海皇おそるべし。

 団体戦も、中国連合軍の完敗のはずだ。
 龍書文、郭春成、範海王はきっちり負けている。
 唯一勝ったはずの烈海王も、寂に「君こそが勝利者だ」と言っている(221話)。
 郭海皇は試合中に老衰死だ。勝負なしとは言っても、不戦敗あつかいだろう。
 つまり、ちゃんとした勝利がまったく無い

 この状況下、最終試合で最大限のムチャをする。
 あまりのインパクトに今までの試合を全部忘れてしまう。団体戦の決着すらあいまいなまま終わらせる。
 敗北の記憶は弛緩させ、インパクトのある事件で緊張させる。
 弛緩と緊張の振り幅が―――――― 打力の要、これぞ記憶の消力(シャオリー)だ!

 お客さんも、なんだかよくワカらないまま大満足だ。
 全然ダメだったのに、なんか勝った気分にさせているところがすごい。
 エンターテイナーとしても、郭海皇は超一流かもしれない。


 無人となった試合場に範馬勇次郎が一人で立っていた。
 勝利したはずなのに、勇次郎をたたえる者はいない。

 勝った 負けたと感じるのは、人の心だ。
 K-1なんかの試合でも、判定に不服があれば、記録上はともかく当人は負けたとは思わないものだ。
 郭海皇は負けたと思っていないだろう。勇次郎は勝ったと思っていないだろう。
 つまり、この試合は当人同士にとっては引き分けだったと思う。

 床や壁に残る破壊痕を見ている。
 おたがい、よく戦ったと思っているのだろうか。
 範馬勇次郎にしても、あそこまで力むに足りる相手は久しぶりだったのだろう。

 かすかな足音がする。勇次郎の髪の毛が気配を感じとる。
 入り口に、郭海皇が立っていた。

「よき擂台賽じゃった」
「ともに意識し…」
「ともに尽くしあった」


 この二人は、はじめて言葉を交わしたときから、意識していたのだろうか。
 なんですか、ラブラブですか。Get you! Love Love モードじゃん?

 死力を尽くしあった者同士、通じるものが生まれたようだ。
 ふたりの息子たち、範馬刃牙と郭春成のあいだでは百万年たっても期待できない交流だ。

「のう範馬海皇」

「この郭海皇が認めているのだ」
「堂々と名乗り上げたらよい」


 いかなる心境の変化か。郭海皇が勇次郎に「海皇」の資格があると認めた。
 さすがの勇次郎もちょっと驚いているようだ。
 なにしろ、負けないためなら自分の心臓だって止めてしまう執念の男だ。
 なにか、裏がありそうだ。

 それとも一回死んで、いい人になったのか。
 そういえば、前回の郭海皇は言動が軽やかで穏やかだった気もする。
 回想〜「疑(うたぐ)るかァ!!!」
 ぜんぜん穏やかではなかった。

「中国武術に命を賭した者達の中から」
「たった1人だけが名乗ることを許される海皇の称号」
「たとえあんたを倒したとしても」
「俺が名乗ることなど誰も納得するまいよ」

「倒しちゃおらんがの」


 勇次郎も郭海皇を持ち上げてみる。
 おだてられても、自分は負けていないときっちり主張する郭海皇だった。
 この二人は意地の張りっぷりが似たもの同士だ。

 勇次郎は試合前に「海皇」を褒め上げた
 あれは、より強く叩きつけるために持ち上げたと思っていた。しかし、今回持ち上げているところを見ると、本心で言っていたのかもしれない。

 勇次郎だって寿命には勝てない。
 老いていく自分を想像したとき、老いてなお盛んな郭海皇を尊敬したのかもしれない。
 そして勇次郎の場合、愛情表現が暴力行為に変化するということは十分考えられる
 愛すればこそ、叩きつぶす。それが範馬勇次郎なのだ。

「気持ちだけもらっておくぜ」

 眼が白目になっている。でも、勇次郎はすこしうれしそうだった。
 そして、そのまま退場していく。
 去っていく勇次郎の背に郭海皇が声をかけた。

「100年経ったらまた闘(や)ろうや」

 両者笑いあう。
 146歳にして、百年後の闘いを夢見るとは、おそれいりました。
 そして、勇次郎もこの約束のため、あと百年の命を目指すのだろう。
 目指して手に入るものでも無いと思うけど。

(ワシも…)
(呼ばれてみたいのォ…)
(地上最強の生物……)


 武で勝ったとはいえ、本心では完全な勝利をしたかったようだ。
 価値観の違いから反発していた二人だが、それだけに互いを高く評価していたのだろう。
「地上最強の生物」では無いが、郭海皇には「地上最長寿の哺乳類」という称号を与えたい。
 植物やカメ(ゾウガメの寿命は約180年らしい)には負けるけど、哺乳類の中ではたぶん最長寿だ。
 じゅうぶん妖怪なので、これ以上がんばらなくても大丈夫です。

 範馬勇次郎は傲岸不遜な男だ。礼や挨拶なんてしない。
 とうぜん、郭海皇に声もかけず去っていく。手も振ったりしない。
 ただ、生物界最強の右手をポケットから出し、かるく横へ向けた。
 たったそれだけの行動だった。それだけが郭海皇への好意を示していた。


 海上をヘリが飛んでいる。
 このヘリこそ170話で刃牙を拉致した「中華人民共和国 特別搶救隊」のヘリだ。
 乗っているのは、範馬刃牙、松本梢江、烈海王、寂海王、パイロットだった。

 あれ? なんで寂が当たり前の顔して乗っているんだ?
 まさか、今回拉致されたのは烈海王その人であったか。寂海王の誓いどおりお持ち帰りされるのか?

 彼らと同じく、日本から来たはずのJrとオリバの姿も見えない。
 Jrは完成されたアライ流を試すため中国へ来た。だが、相手が弱すぎて試せなかった。
 今も相手を求めてさまよっているのかもしれない。
 オリバは、飛び立つヘリを相手に綱引きしようと、ロープを探しているうちにヘリが飛び立ったのだろうか。

 勇次郎がいないのは、鬼のいぬ間に全力で逃げ出したためだろう。
 卑怯・逃亡も武のうちじゃ。

(勝てるとか―――――)
(勝てないとか――――)
(そういう次元のハナシではない)

(やれる理由もやれぬ理由も)
(無限に用意できる)

(だからやる……)
(時期が来た!!!)


 範馬刃牙がついに父・勇次郎との決戦を決意した!
 次号へつづくッ!


 …………オイ。
 寝ぼけてんな、コラ。
 チャンピオン、裂くぞ。


 腐海系美少女・松本梢江の肩に腕を回したまま刃牙が宣戦布告だ。
 倒すべき相手を置きざりにして、日本へ帰る人のセリフとは思えません。
 こいつは、範馬勇次郎 vs. 郭海皇で、なにを見ていたんだろう。
 己の小動物的な立場を認識できていないのか?

 でも、勝ち負けではないと言っているし、勝てないことはワカっているようだ。
 となると、郭海皇の疑死を見て「これだッ!」と思ったのだろうか。
 まだ、脳みそ裏返ったままなんだろうな。


 213話以来、姿を見せず一部ファンを不安におとしいれていた(ホラー映画で言えば、倒したはずの敵の死体が消えてしまった状態)松本梢江も、発見できた。
 烈 vs. 寂戦のあと、飽きて寝ちゃったんでしょうか。
 勇次郎じゃなくて、こっちを置き忘れればよかったのに。

 忘れるといえば、けっきょく範海王・李海王兄弟のなぞは不明のままだ。
 あの兄弟は何だったのだろう。
 ただ、177話での会話の意味はすこしわかる。
 李海王の「本当に擂台へ上がるおつもりですか」というセリフは、そのままの意味だったのだ。
 本当に擂台へ上がるおつもりですか。負けて恥かくだけですよ?
 そういう意味だったのだ。そして、大正解だった。


 終わってみれば、大擂台賽は範馬勇次郎が主人公のような展開だった。
 最大トーナメントでもそうだったが、主人公は最初と最後の試合をするものなのだ。
 つまり、今大会は範馬勇次郎が主人公といえる。

 ところで、郭海皇は簡単に「海皇」の称号をくれた。
 実際のところ、「海皇」は名誉職のようなもので価値は少ないのだろう。
 郭海皇だって、海皇になったあとで大会に参加しなかった本物に負けている

 勇次郎が「海皇」を名乗った場合、得をするのは中国武術だったりする。
 なにしろ地上最強の生物が「海皇」なのだ。以後、「海皇」の最強・無敗・無敵は約束されている。
 いずれ「海皇」の名は、最強の代名詞となる。

 一見、勇次郎へのプレゼントに見せかけておいて、裏で策略を練る。
 相手も利益を得るだろうが、それ以上に相手の力を利用する。
 郭海皇は、やはり一筋縄ではいかない男だった。
by とら


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