今週のバキ211話〜220話

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2004年6月17日(29号)
第2部 第211話 一人一殺 (591+4回)

 オリバのパンツは破れずにすんだ。
 オリバ自身も敗れずにすんだ。

 光あふれる闘技場から薄暗い通路へと男が入ってきた。
 逆光の中に浮かび上がるシルエットは、頭が三つあると錯覚するほどに肩の筋肉が盛り上がっている。
 その男は、オリバである。
 勝利の余韻に浸っているわけではない。神妙な表情で、少し息を乱している。
 なにか素直に勝利を喜べない事情があるのだろうか。

 勝ち方に不満があるのかもしれない。
 前半の苦戦は余計だったと思っているのかもしれない。
 もしかすると、今ごろになってパンツのゴムが切れそうになっているのかもしれない。
 なんにせよ、オリバさんはちょっぴり憂鬱もようだ。

 そんなオリバを励ますように四人の仲間が勢ぞろい。
 不気味なほどさわやかな笑顔で出迎えている。勇次郎だって、ちょっと笑っているぞ。
 そろいもそろって、笑顔が怖い連中だ。
 街中でこんな四人にかこまれて笑いかけられたら、こっちも笑い返しながら失禁するだろう。
 顔は命をかけた愛想笑いで、シモは恐怖の失禁だ。

 みなさん、刃牙vsジャック戦の殴り合いが始まる直前のような笑顔なので、ページをめくると全員で殴りかかるんじゃないかと不安になる
 実際は、全員拍手で勝利をたたえる。ただ、勇次郎だけは拍手していない。協調性0です。

 友情の拍手を受けて、オリバに笑顔がもどった。
 欲しかったオモチャを買ってもらった子供のような純粋な笑顔だ。
 オリバ、ちょっと喜びすぎ。
 なお、失禁しているかどうかは不明だ。

「顔面への頭突きで決着」
「おめェのほうがよっぽど スマートじゃねェぜ」


 そういって勇次郎が、祝いの拳をオリバの顔面にメリこませる
 勇次郎も笑顔を見せているのだが。だが、怖いんですよ、この人の笑顔は。
 まず、目が笑っていない。むしろ白目だ。
 口元を隠すと激怒しているように見える。一人だけ拍手していないし。
 オリバだって、顔に拳を入れられて「イデ…」と言ってしまうわけだ。
 関係ないけど、「祝い」って字は「呪い」に似ている。

 ページをめくると、顔面が陥没している
 でも、オリバじゃなくて龍書文だった。
 寝台にのせられ靴は脱いでいるが、手はハンドポケットのままだ。
 これが、中国連合の友情なのだろう。

「儂の勘違いかのう」
「とんでもない連中を敵に回してるのかも知れんのう」


 郭海皇さんよ、それは勇次郎が劉海王の皮はいだときに気がついて欲しかった。
 というか、気がつかなかったのか?
 アンタ、試合前に勇次郎と会話しっとったやん!?
 あ〜〜〜、やっぱ年取るとアレなんですか。
 たぶん、次の試合後も同じこと言います。

「……だとするなら老師…………」
「いかがなさる おつもりですか」

「残り4名4試合」
「儂が全部やる」


 烈の問いに対し、郭海皇が暴言で答える。
 しかも、郭海皇の場合は100%本気中の本気だろう。
 いざとなったら、この部屋にいる仲間を全員ブッ倒して交代するぐらいの事はする。

 暗に、年齢2ケタのオマエらは弱いといわれ、烈が屈辱に震える。
 思わず郭海皇に詰め寄ろうとするが、それを止める男がいた。
 郭海皇の息子である狂獣・郭春成である。

「父ちゃん」
「我が子からオモチャを取り上げちゃイカンなァ」

「一人一殺」
「残り4勝」
「4人全員ブッ殺しちまえばカッコつくでしょ」


 さすが狂獣、さすが郭海皇の息子だ。
 考えることが過激すぎる。普段からこんな調子でムエタイとかロシア人とかを破壊していそうだ。
 もちろん、倒した上でパンツを脱がす。

「大きく出たな」

 ボソ…と範海王がいう。
 強敵をあなどっているような郭春成に多少の反感があるようだ。

 刃牙は烈海王の友人である。やっぱり、殺すというのは穏便ではない。
 しかし、烈ではなく範海王がこういう事をいうのは、ちと不思議だ。
 範海王は弟の李海王を刃牙に倒されている。
 つまり、刃牙は弟の仇なのだ
 だが、なんとなく日米同盟を弁護するような発言をしている。
 範海王は、日米同盟に対してなんらかの親しみでも持っているのだろうか? などと言ってみる。

 口をはさまれた郭春成は、いきなり裏拳で範海王を攻撃する。
 だが、範海王はその攻撃を平然と片手で受け止める。
 両者がにらみ合う。
 同国人だというのに、チームワークがゼロで、内部崩壊寸前だ。

「よろしい」
「一人一殺」
「やってみせい春成」


 組織をまとめるのは長たる者の仕事だ。
 最長老・郭海皇が、この紛争をみごとに収める。
 いきなりジャンプして春成の腕に乗っちゃうあたりが妖怪爺だ。
 郭海皇が人の手に触ると、そのままズバッと斬り落としそうな感じがする
 だから、この人が腕に乗ったりすると非常に怖い。
 我が子だろうが、孫だろうが、容赦なく落としそうだし。

 猿(ましら)のごとく人の腕にのる郭海皇だけに、郭春成の腕に尿でマーキングしているかもしれない。
 ほら、あの爺さんちょっとボケ気味だし。
 一度砕いたムエタイを、砕いていないと言い張って、もう一回砕いたりしてそうだ。
 まあ、ムエタイいじりはボケたふりをした確信犯なんだろうけど。

 父のお墨つきをいただき、郭春成が試合場に登場する。
 郭春成は試合前に烈から忠告を受けていた。
 日本で行われた格闘トーナメントの優勝者が、対戦相手の範馬刃牙だと。
 試合場に入った刃牙をみて、郭春成はただちに感じ取った。

[共に偉大な父を持つ者同士の共有感(シンパシー)]

 試合開始前から、脳にチリチリきそうなナニか飛ばしている。
 共にアレな鬼父を持つ者同士だ。間違いなく、二人とも苦労しているはずだ。
 そして、一般人には感じ取れない波動とかを感じ取れちゃうのだろう。
 コイツらとは言語も考え方もちがうって感じで。
 一回戦が、黒社会のアンチェイン対決なら、二回戦は二世対決だ

[ともかく一頭が奔(はし)り出した]


 開始の合図と同時に、上着を脱ぎ捨て郭春成が走るッ!
 この試合もしょっぱなから飛ばしまくるか。
 薔薇柄のステキズボンをはいた郭春成は、る気だぞッ!

 一方の刃牙はなんとなくやる気が見えない。
 今ごろになって、暴飲した砂糖水が腹にこたえているのかもしれない。
 それとも、オリバから友情の証として黒パンツを無理矢理はかされたのだろうか。
 刃牙のトランクスの下に隠された事情はいかに?


 今回、烈が最大トーナメントの事を次のように説明している。
「19×○年○月○日 東京後楽園巨大ドーム地下で行われた格闘トーナメント」

 よし…。うん、よし。わかった…、わかったよ。
 最大トーナメントは20世紀中に行われた。それでいい。
 しかし、その最大トーナメントから一年たっていないと思われる今も、20世紀中なのだろうか。
 まあ、そうなんだろう。
 勇次郎がベトナム戦争に参加していたとしているために、どうしても年代設定に無理が生じてしまうのだろう。
 長期連載が抱える悩みだ。

 そして、最大トーナメントは一日で終了したようにも取れる。
 あの壮大なトーナメントが一日で終了していたとは、ちょっと意外だ。
 まあ、スポーツ漫画だと一分が一年にも感じられるものだ。だいじょうぶ、どーってことない。
by とら


2004年6月24日(30号)
バキはお休みです

 団体戦の次鋒は、地味な役どころだ。
 Gooの辞書で引けば、先鋒次鋒中堅副将大将とそれぞれ………
 ブルワァッ!

 次鋒だけ、辞書に載ってねぇッッ!
 ええ、まあ、次鋒とは、そんな役どころです。
 みんなの嫌がるトイレ掃除を進んで引き受けるような縁の下の力持ちさ。
 刃牙の人格とは正反対かもしれないが。

 なんとなく、みんなの望まない事を進んでやるタイプかと。
 ……………………SAGAとか。
 SAGAとサムワンさえいれば十年間ギャグには困りません。
 バンダイにおけるガンダムみたいなものだ。マンネリといわれそうだけど。

 地味な役割だが、それでも主人公だ、たぶん勝つだろう。
 最大トーナメントでは烈ファンが泣いてたのんでも、烈を叩きのめした主人公だ。ストレイツォなんか足元にも及ばないほど容赦しない。
 そうなると日米軍が二連勝だ。また郭海皇が激怒するだろう。
 とばっちりを受けるのは中堅の烈海王だな
 中堅でまた異変が起きるかもしれない。

 すでに大擂台賽の試合形式をひっくり返しているのだから、もう一度やってもおかしくない。
 銃の引金は、一度撃つと軽くなるっていうだろ。
 もちろん、郭海皇が最初にヤっちまったのは、一世紀以上も昔の話なんだろうけど。

 そもそも、今団体戦をやっているのだが、これって何なの?
 先に三勝したほうが勝ちなのか?
 どうすれば「海皇」になれるんだ?
 なんか肝心のルールはあやふやにしたまま、ノリだけで団体戦にしちゃった気がするんですけど
 たとえ日米軍が五連勝してもルールが違うからと言って、「海皇」にはなれないのだろう。
 もっとも、「海皇」になりたい人は寂海王ぐらいなのではないか。

 それはともかく、この団体戦にはそれぞれ意味がある。

・先鋒:アンチェイン 対決
・次鋒:偉大な父を持つ二世(表)対決
・中堅:正統派・海王 対決
・副将:偉大な父を持つ二世(裏)対決
・大将:最強の怪物 対決


 なんとなく、似たもの同士の戦いだ。
 副将が「裏」なのは、秘密のアライ流拳法と秘密の父(推測)を持つものの対決だからだ。
 今回の次鋒戦は、最終決戦である大将戦のリハーサルともいえる。
 背後に控える二人の親バカもさまざまな応援トークを繰り広げることだろう。


 今週のチャンピオンを読んでいて、今ごろ気がついた。「ドカベン スーパースターズ編」って、まだ開幕戦をやっていたんだ。
 現実を見ればパリーグのチームが二つ増えるどころか一つ減る事態になっていて、二リーグ態勢すらどうなるのかわからない。
 野球漫画界の郭海皇こと水島新司は、この危機をいかに乗り越えるのか?
 西武が思うように優勝しないから(憶測)、ルール変更して俺様チームを二つも作ったのに現実に見離されてはたまったものではない。
 ドカベン世界は激動の2004年で時が止まるのだろうか?

 そして、その苦悩は大擂台賽の郭海皇にも通じるだろう。
 息子の郭春成が敗北した瞬間、会場ごと日米軍を爆破するかもしれない。
 まあ、それでむ勇次郎ならアフロになるぐらいで無事に出てくるのだろう。
by とら


2004年7月1日(31号)
第2部 第212話 ベストコンディション (592+4回)

 輝かしき二世対決がはじまる。狂獣・郭春成 vs 淫獣・範馬刃牙ッ!
 ともに イカレた 偉大な父親を持つ闘争のサラブレッドだ。
 これは、郭海皇と範馬勇次郎の前哨戦なのだ。

 開始(はじ)めいッの合図と同時に郭春成が飛び出した。
 中国大陸横断レースに出場して、人の身でありながら馬に競り勝ちそうな勢いだ。
 前屈姿勢の走行姿勢は、獣のごとく。野性味あふれる疾走で一気に間合いに入った。

 突進する勢いをそのままに春成が崩拳(中段突き)を放つ。
 だが、その攻撃はサラリとかわされた。
 まるでモハメドJrのように、静止した時にいるような見きりだ。
 かわしつつ、軽くジャンプして右拳を打ち込む。
 脳震盪を起こしやすいナナメ上からの角度でカウンターが決まった。

 除海王なら、この一撃で金的三回分のダメージになる。
 脳が激しく「頭骨内での振動激突」して、もう勝負ありだ。
 しつこいが、除海王であれば睾丸三つ分だ。レフリーストップものです。

[既に意識を分断された春成の下顎へ]
[ダメ押しの左アッパー]


 範馬刃牙は容赦しない。泣こうがわめこうが、女だろうが金玉潰す。
 ダメ押しもなにも、もう残高ゼロ状態ですよ。まだ金取りますか?
 この状況は、潰してもなお殴られるサムワン状態だ。

 股間の紳士を屠(ほふ)られ、サムワンは精神的にどん底に落とされていた。そこへ勇次郎がダメ押しして、肉体もどん底にしてくれた。
 その勇次郎の血を継ぐ子だ。必要以上のダメ押しが大好きなんだろう。
 スライムにも、ダメ押しのギガデインだ。

 右手を切り落とされた柳にダメ押しするがごとく、刃牙は春成にダメ押しをした。
 もう、許してあげよう。
 郭春成には何も残っていない。
 あとは地面に寝かせてやろう。土にかえしてやろう。
 ああ、地面が遠いなぁ……

[崩れ落ちる態勢を利用した―――]
[左背足(ひだりはいそく)による廻し蹴りは
 春成を更なる遠い世界へと連れ去り――――――――――――]
[全てを終わらせた!!!]


 こ、この男は、まだダメ押したりないのか!?
 さすが、初Hでティッシュペーパー箱6つ分のダメ押しをした男だ。
 先週の駄話『ストレイツォなんか足元にも及ばないほど容赦しない』と書いたが、そんな認識がハチミツに思えるような、鬼っぷりだ。

 もう、これ以上無いぐらいに中身が遊離していそうな春成を、「更なる遠い世界」に飛ばすなんて。
 それは、三途の川の向こうですか? ちゃんと、帰ってくるんですか?
 きっと、数十人の兄が待っている世界に送り届けて、全てを終わらせるんだろう。

 94話で明確な殺意を持ってシコルを窓の外に吹っ飛ばしたあたりから、刃牙の精神は闇に染まっていたのかもしれない。
 脳が頭蓋骨に当たると、血管が破れる可能性がある。
 そうなったら後遺症が残ったり、下手したらその場で遠い世界に行くことだってある。
 ダメ押し、しすぎ。
 オメェはやり過ぎなんだよッ!

無残

 あまりの衝撃にチャンピオンが爆ぜる
 大きかった期待と、少なすぎた出番だった。郭春成の噛まれっぷりは他の追従を許さない。
 ネタになら無い分、サムワンより悲惨かもしれない。
 ガーレンと劉海王の乗算という感じだ。
 コイツら、全員範馬に喰われている。まさに巨凶の血筋だ。

[これが もうじき18歳を迎えようとする 少年 範馬刃牙]
[ベストコンディションの姿である]


 範馬勇次郎を倒すつもりであれば、烈や独歩も簡単に倒せなくてはならない。
 これでオリバあたりも倒せるようになれば、最終決戦だろう。
 今度こそ勇次郎の背中が見えてきたかもしれない。

 敗者を助けおこすことも無く、さっさと背を向けて刃牙は去る。
 憎いまでの楽勝雰囲気だ。
 近所のコンビニで買い物するていどの達成感なのか。

 どうしようもないほど、勇次郎的だ。これで無礼な捨て台詞を吐けば完璧になる。
「見ろよ、狂獣今日中に負けちまったぜ」とか、そんな感じで。
 イヤ、それは勇次郎と違うな。

 あまりに早い決着だったためか、出迎えは一人だけだった。
 父・勇次郎だけが立っている。
 相変わらず白目だが、すっごく嬉しそうだ。
 さすが霊長類ヒト科の至宝といわれる親バカだ。

 最高に恐い笑顔のまま勇次郎が手を上げる。
 刃牙がこたえて、ハイタッチ。
 さわやか青春グラフティーな二人が、不気味だ。
 勇次郎の恐い笑顔に対抗するように、刃牙は憎い笑顔で主役の貫禄を見せる。

 きっと範馬の家訓は『自分以外の生物は全て踏み台と思え』なんだろう。
 あと『ダメ押しを忘れるな』とか『避妊はするな』とか。
 やっぱり、最悪な一族だ。

 息子よ、みごとな噛みっぷりだ。勇次郎の顔に書いてある。
 この親子は、性格だけではなく、イヤミな笑顔も似てきた。
 ニーチェは次のように言っている。怪物と闘う者は、その過程で自分自身も怪物になることがないよう、気をつけねばならない。
 刃牙は父を乗り越えようと、鬼になりつつあるのだろう。

 しかし、考えを少し変えると光明が見える。
 ムエタイと闘う者はムエタイになるのだ。
 範馬にムエタイをぶつけ続ければ、弱体化するかもしれない。
 ムエタイの平和利用だ。

 衝撃の次鋒戦は終了した。次は中堅戦、烈海王vs寂海王だ。
 本格的な拳法対決が予想される試合であり、くりだされる秘技が楽しみだ。

 それにしても、ベスト状態の刃牙がここまで強いとは。
 砂糖水だけではなく、梢江蜜とかも摂取していたのかもしれない。
 それで、死にぎわっぱなしの集中力を持続しているのかも。

 中国拳法がみじめに連敗してしまった。
 刃牙を復活させるんじゃなかったと、烈が後悔しているかもしれない。
by とら


2004年7月8日(32号)
バキはお休みです

 そして、餓狼伝 BOYは連載終了でした。
 いいほうに考えれば、これでバキの休載が減ると思われるので、まあ良しかと。

前回のおさらい。
 郭春成が二秒で撃沈だッ!

次回の予想。
 だが、春成は新生バキにたいする最初の刺客にすぎなかった(推測)。
「春成などは、我々の中では、しょせん番犬のような存在」
 郭海皇が百歳をこえた後に生まれた兄弟・超百歳成四子が登場する。
 郭夏成、郭秋成、郭冬成。登場時に問答無用でサムワンを瞬殺する(三回)。

 またルールが変更されて、バキは超百歳成四子の四人抜きを強いられる。
 一方的に不利なルールを押しつけられるなんて、主人公みたいだ。
 郭夏成は三秒で倒される。郭秋成は四秒で敗北する。

「へっ、なんだいヤツら。あれで刃牙の相手をしようってのか」
 加藤がいきがる。
「加藤よ、おぬしワカっとらんのぉ」
 本部が解説する。
「おいおい。これって、まさか」
「ほう、末堂は気がついたか」
「あいつら、出てくるたびに試合時間が増えているじゃねえか!」
「そう、このことに刃牙が気がついていないと、大郎・冬成との試合、危ういやも」
 郭冬成は五秒で勝負あり。

 刃牙、勝利の雄叫びを上げる。梢江を抱えて外へ飛び出す。
「駅弁ていうんだろ、コレ?」
「シィィット!」
 治安警備の軍は壊滅する。
 刃牙たちは走る。どこまでも。明日に向かって撃てとか俺たちに明日は無いとかそんな感じだ。
 ちなみに、どちらもラストでしこたま銃弾ブチこまれる。

「あんのヤロウ……………
 い〜〜〜〜い女モノにしやがった」
 勇次郎は大満足で日本へ帰る。
 大擂台賽篇………完!


 中量級のK-1 MAXでムエタイのブアカーオ・ポー.プラムックが優勝した。
 これで板垣先生が自信をつけて、またムエタイに試練を与えそうです。

 板垣先生は横綱・朝青龍の実力を買っている。
 朝青龍が連勝記録に挑んでいたときに、大記録をうちたててくれと作者コメントで激励した数日前に朝青龍が負けたりするシンクロニシティーまでやってくれた。
 ところが、餓狼伝に登場した朝青龍がモデルの選手はあっさり負けた。

 板垣先生は、強い人間を認めると砕きたくなる人なのかもしれない。
 つまり、今後のムエタイは要注意だ。
 ものすごい方法で砕かれる。


 前回の刃牙を見ていて、サムワン最初の敗北を思い出す。

 サムワンのトランクスを脱がしざまに当てたデコピンは――――――

 正確にサムワンの袋内の睾丸を捕え――――――
 二つの睾丸を陰嚢(いんのう)内部で激突させ――――――
 あたかもビリヤードゲームのごとく陰嚢内での振動激突を繰り返し生じさせ――――――
 典型的な陰嚢震盪の症状をつくり出し――――――

 既に萎縮し分断されたサムワンの陰茎へ ダメ押しのデコピン
 崩れ落ちる態勢を利用した―――――
 左中指によるデコピンは サムワンの玉を更なる遠い世界へと連れ去り――――――――

 全てを終わらせた!!!

 その数 実に2個!!!


 つまり、アレは神速で三回打たれていたのだろう。
 場所が場所とはいえ、デコピン一発で意識不明はおかしい。
 右・サオ・左という連打だったというのが、真相だろう。


 なんにしても、次回は郭海皇が大噴火しそうだ。
 今度こそ残り三回儂がやると言い出しそうだ。
 なぜか、烈が責任をとらされる。
 烈のパンツが破かれる。救命阿(ジュウミンヤ)ッ!
 烈の代わりに、新キャラが登場する。負ける。
 郭海皇、また怒る。

 とりあえず、次回予告に『対戦カードは一体誰だ!?』と書いてあるので、本気で烈が粛清されるかもしれない。
 烈が刃牙の面倒を見てきたことは知られているだろう。
 だから、刃牙のかわりに殴られる。


 今の戦いは、団体戦なのか、個人戦を続けているだけなのか、不明のままだ。
 勝ったオリバと刃牙が、この後なにをするのかも不明だ。
 次の二試合で、烈海王と範海王が勝つと、勝利者どうしで戦うのだろうか。
 すなわち、オリバ vs 烈海王、刃牙 vs 範海王だ。
 郭海皇と勇次郎は、もったいぶって最後まで闘わない。

 どっちにしても、海皇襲名の方法がウヤムヤになっている。
 それは、郭海皇の作戦勝ちか。
 勇次郎が真に中国拳法をコケにしたいのであれば、サムワン海皇を誕生させるべきだ!


・日記にも板垣ネタを書くことがあるので、物足りない人はそっちで補充してください。
by とら


2004年7月15日(33号)
第2部 第213話 焦燥 (593+4回)

 主人公ですから。範馬ですから。二秒で楽勝っスよ。
 以上、勝者のコメントでした。

 あまりに早い決着だったので、勇次郎以外の人間は祝福が間に合わなかったようだ。
 そのかわり、控え室にて拍手でお出迎えだ。
 この距離の差が、親バカ勇次郎との差だ。一般人には越えられない。
 勇次郎は刃牙を熱く見守っている。今も刃牙の背後に隠れているはずだ。

 オリバは親父より強いと、大げさに褒め称える。
 いくらなんでも、それは誉めすぎだろう。あれか、誉め殺しか?
 勇次郎に、祝いの拳をうちこまれたのをうらんでいるかもしれない。
 刃牙の背後に潜伏している勇次郎が、これを聞いていたら大変な事になるぞ。
 誉め殺したつもりが、誉め殺されるとは、オリバもついて無い。

 控え室の三人組の中でひときわ熱い男がいた。寂海王である。
 刃牙の手を両手でつかんで激讃する。

「スバラシイな君は」
「ほんとうにスバラシイ」

「君なら日本の若者を導けるッッ」


 あれ?
 いきなり話が飛躍している。なんだ? 刃牙を選挙に立候補させる気か?
 この唐突な話の流れに、刃牙も動揺している。
 なんか郭春成と闘ったときよりもダメージがデカそうだ。

「組まないか わたしと」

 でたッ! 男色海王ッ!
 寂海王に手を握られたら、組むというまで離さないぞ。
 さすが青田刈りの寂海王だ。彼にとって対戦相手は勧誘対象であり、味方もまた標的だ。
 敵にまわすと恐いが、味方になるともっと恐い。
 これからの刃牙は一日三十時間の勧誘地獄におちいるだろう。

 さっそく刃牙を捕まえて、自分のセコンドにしてしまう。
 汗を拭くためのタオルを刃牙に持たせている。さしずめ食後のデザートだろう。
 上着を脱いで、寂海王はヤル気十分、気迫に満ちている。

「強くなるだけではつまらん」
「君のその強さ」
「他人(ひと)のために使ってみんか」


 時には熱く、時には真剣に刃牙をくどく。
 この熱愛交渉術に刃牙もメロメロだろう。
 そのうちに「眼鏡の奥の優しい目がステキ」とか言い出して、梢江と別れる。

「スゴいな寂さんは」
「あの男と拳を交えようという こんなときも」
「日本を―――― 若者を―――― 導くことを考えている」
「だから強い」

「わかるのかね」
「君の年齢(とし)でそういうことが」


 刃牙が強くなったのも、愛ゆえにだ。
 いっぱいHして、とても強くなりましたから。
 まあ、その話は忘れよう。

 自分のためだけに強くなり戦う勇次郎とは違う。誰かのために強くなり戦うのだ。
 寂海王は人格的にも完成している。立派な指導者であり、教育者だ。
 ちょっとホモっぽいけど。

 バキが急激に強くなり、勇次郎との戦いが見えてきた。
 そこで、戦いに対する考えの違いを強調しているようだ。
 でも、最近の刃牙は友情に対しては冷淡な気がする。命の恩人をコケにしたいというのは、どうか?

 刃牙復活のカギだった梢江は観客席で悩んでいた。
 次の試合、烈と寂のどちらを応援すればいいのかと。
 恋人を見習って、なんの疑問もなく寂を応援しよう。
 刃牙に比べると、かなり良識を残しているようだ。

 刃牙が復活してから、梢江の姿が見えなかった。こっそり日本へ帰ったのかと心配していたが、ちゃんといたんですね。
 肝心な刃牙の試合に姿が出てこなかったのは、ちと残念だ。
 そうか、梢江が見ているから刃牙は張り切っていたのか。そりゃ、ダメ押しにつぐ駄目押しだ。

「敗けません」
「時代が私の勝利を必要としているのだから」


 刃牙に眼鏡を渡しながら、寂海王は必勝を誓う。
 時代とは大きく来たもんだ。
 これから訪れる少子化の時代には寂海王が必要なのか?
 というか、ここでの勝利が必要なのか。
 なんかダマされている気がする。むしろ、ダマされたい?

 一方、中国側の通路では――――――
 暗かった。深刻な状況を象徴するかのように、光が足りない。
 そりゃ、負けっぱなしですから。でも、照明まで減らすこと無いでしょう。

「おまえが敗れたとき我が軍の敗北が決定する」

「わたしは自分の未熟を恥じます」
「そんな局面に立ってしまった自分に」
「幸運を感じているのだから」


 郭海皇が烈を脅す。
 しかし、烈は逆境に闘志を燃やす男だったので、問題なし。むしろ、良しッ!
 こういう性格は人と勝を争う競技で強さを発揮する。
 精神面での強さも、烈の得難い資質なのだろう。

 それはともかく、やっぱり三勝したら勝ちになる団体戦だったのか?
 でも烈は全勝すると言っていた最後の一人まで叩き潰すつもりだったのだろう。
 こういう容赦ない蛮勇性が、烈の強さの秘密なのかなぁ〜

『剛柔一体 純日本式拳技 空拳道 寂 海王』
『名門白林寺をして不世出の称号を欲しいままにする 烈 海王』


 純日本式拳技、だとォッ!
 中国拳法じゃ無いじゃん。サムワンだってベースは中国拳法でしたよ。ムエタイが弱いんじゃないんだよ(注:詭弁)。
 寂海王は、純日本式拳技でどうやって海王の称号を得たのだろう。
 なんかスゴい教育的指導でもしたのか?

 やはり、強いだけの男ではない。
 強力な政治力も兼ね備えていそうだ。
 日本を導くという言葉は、ハッタリではなく事実なのかもしれない。

 そして、「名門白林寺をして不世出」な烈海王だ。
「不世出」は、めったに世に出ない優れた人物のこと。
 そう、劉海王の記憶はすでに闇の葬られているのだ
 ああ、範馬と戦ったばっかりに………。
 巨凶の通り名はダテではない。範馬と戦ったものは、因果のかなたに消えてしまうのだ。

 ついに二人の拳士の闘いが始まる。
 心技体、全てにおいて完成されている二人だ。
 大擂台賽が始まって、最初で最後の絶技繚乱となるであろう。

 睨みつける烈海王に、微笑でかえす寂海王だ。
 寂は、早くも値踏み開始かッ!?
 今度の敵は、別の意味で恐いぞ。
 すでに、開始の合図はかかっているッ!
 もう、立ち止まっているヒマは無い。


 団体戦の法則であれば勝つのは烈だろう。
 でも、なんか日米軍が五連勝しそうな気もする。
 とことんコケにしたがっているみたいだし。

 そして、寂は不気味だ。
 烈の技をわざと喰らって力量を肌で感じそうだ。
 そして、組みつくとみせて、烈をまさぐる。
「私のところに来ないか?」
 ゆるゆる烈を攻めながら勧誘する。

 技はどんどん激しく、勧誘も熱くなる。
「早く降参しないと、どんどん待遇が悪くなるぞ……。私の奴隷になれ!」
 なんの試合なんだか。
 でも、中国拳法をコケにしているから、良し?


 この団体戦は、白黒の順番が法則になっているのかもしれない。
 最初は黒いオリバが勝って、次は白い刃牙が勝った。
 この順番で行くと、黒い烈が勝って、白い範海王が勝って、服の黒い勇次郎が勝つ。
 黒のサムワンを残しておかなかった郭海皇の作戦ミスだ。
 そして、範馬の試合は全て秒殺で決着となる。のは、カンベンしてください。


 最後に郭春成の話を。
 無事に目を覚ましたものの、郭海皇に「ほんとにワシの血引いとる?」とか「武から身を引けい」とか言われる。
 本当に救いが無い。つうか、郭海皇は冷たすぎ。勇次郎の親バカっぷりを見習え。

 でも、郭海皇が勇次郎に敗れたら、春成がやってくるのだろう。
 それでも、二人は親子なのだ。
「父ちゃん、おまえこそ武から身を引けッ!」ドリュッ!
 狂える獣は復讐の機会を狙っていたのだ。春成、執念の一撃であった。
 もちろん、返り討ちにあってペニスをドリュッ!と ひねられる。
by とら


2004年7月22日(34号)
第2部 第214話 組もう (594+4回)

 強いだけではない。寂海王には強さをこえたナニかがある。
 はたして烈海王は勝てるのか。強いだけでは、勝てないかもしれないぞ。

 構えを取る烈に対し、寂は構えを取らない。
 いつものように微笑しながら烈に近づいてくる。
 烈の眉間にシワをよせた険しい表情を前にしても、穏やかな表情のままだ。

「なにはともあれ」
「まずは」
「握手を」


 寂は何を考えているのか。この握手は罠か?
 そんなに、烈と触れ合いたいのか?
 なにが「なにはともあれ」なんだ。もう始まっているんだぞ。

 烈はしばし悩む。
 果たして、コイツにふれていいものか。
 蛮勇大王なのだが、烈海王は基本的に礼儀正しい。
 122話でドイルを助けたときも、礼儀正しかった。バイクを壊す時だって紳士的だ。ややトンズラ気味だが、それは天然ボケだろう。
 礼に対しては、礼で応えねばならない。蛮勇紳士な烈は構えをといて、手を出す。

 観客の見守る中、二人の手がかたく結ばれる。
 この試合はなかなか動かない。
 互いの心理を探り合う静の戦いになるのかもしれない。

「バカな」

 ウヤムヤのうちにセコンドにされた刃牙がつぶやく。
 なにが「バカな」なのだろう。
 刃牙の真意はわからない。
 寂が手にガムをつけていたとか、烈に手じゃないものを握らせていたとか、そういうことでは無いと思う。
 すでに試合が始まっているのに、なに握手しているんだ。そういう意味か?
 謎すぎるので、判断は保留しておく。

「あなたの武名はかねがね――――」

 セリフの途中で寂が体をひねって、裏拳を打つ。
 やはり、寂は笑顔の裏に危険なものを隠していた。
 男色的な理由から手を出していたワケではないのだ。
 でも、刃牙と両手握手をしているし、基本的に握手好きなのだろう。

 しかし、裏拳は届かなかった。
 握った手を起点にして、烈が寂に対し関節を極めていたのだ。
 一瞬で寂の動きは封じられた。さらに下半身のバランスを崩し、投げる。
 転蓮華を使っていたものの、打撃を主体に戦っていた烈がこれほど華麗な投げを見せるとはッ!
 さすが四千年の体現者だ。関節技も投げ技も、すべて通過済みか。

 吹っ飛ばされた寂は背中から落ちる。
 が、すばやく態勢を立て直す。
 奇襲は失敗し、逆襲された。しかし、つけこむスキは見せない。やはり、寂はしたたかだ。

 寂の不意打ちに怒った観客が罵声を浴びせる。
 そんな罵声は聞き流し、寂は烈の実力に驚嘆していた。
 ウホッ! いい海王…。イイ海王に弱い寂は、相手が誰だろうとすぐに惚れてしまうのだった。
 ところで、陳海王へのアフターケアはちゃんと行っているのだろうか。
 刃牙とか烈に比べると弱そうだし、すでに忘れられているかもしれない。

「烈さん」
「組もう」
「わたしとッッ」


 ジーザス。寂の勧誘が出やがったッ!
 敵だろうが味方だろうが平気で喰っちゃう寂海王が本気になった。
 危険なハゲが迫ってくる。
 髪を生やすだけではつまらんぞ。ヒゲ男の逆襲だ。
 ふたたび握手を狙って寂が手を差し出す。
 なんで そんなに組みつきたいのだ。
 戦うより抱き合いたい。スカウトとか、イケメンとかマジに夢中になれる年頃なのか。

 せっかく故国へ帰ってきたのに、また日本へ強制送還されてしまいそうだ。
 神心会と契約を結んであると言っても聞いてもらえないだろう。
 マジメに大ピンチだぞ。

「どっちも………」

 また刃牙がよくわからない発言をする
 物事を具体的に言わず、後で「最初からわかっていました」みたいな顔をする範馬流話術だ。
 もしかしたら、寂も烈も遊び好きだと言いたいのかもしれない。
 それとも、裏返って間もないので、説明力が回復していないのか。
 よく考えてみれば、これは刃牙の独り言なんだから、他人が聞いてもなんのことかわからなくて当然だ
 たとえば「スネ毛が気になる」と、私が言っても周囲の人はなんのことか分からないだろう。
 独り言なんだし、深く考えていない言葉が出ただけかもしれない。

 ふたたび寂は手を差し出し、烈は握る。
 こいつら、どっちも………男色家か。

「信じていた」
「必ず握ってくれると」


 別に変なものを握らせたわけではない。
 たぶん中国には寿司は無いし。
 というか、あやしげな信頼にも応えちゃう烈は、詐欺に気をつけないとマズイと思う。

 烈の握手を寂は四方投げ気味に腕をひねって投げに行こうとする。
 組み技・投げ技が寂の特技なのだろう。必殺の気迫で寂の表情が鬼と化す。

 ガッ

 だが、投げは止められた。
 そして、烈が踏ん張って、逆に投げ返すッ!
 寂海王、なすすべ無しか?
 次回へ続く。


 教育者といっているが、寂は卑怯な行為が多い。
 武術家であれば、油断したりダマされたほうが悪いといえる。しかし、教育者がそれをやっていいのか?
 ただ、寂は刃牙をスカウトするぐらいだから、清濁併せ呑む大人物なのだろう。
 普通の価値基準で測定するものではなさそうだ。
 愚地独歩のともがらであろうか。

 先に攻撃するが、後の先をとられて反撃されるのは、オリバvs龍書文と同じ展開だ。
 寂が逆転するには、持ち味をイカべきだろうか。
 寂の持ち味は男色、……じゃなくて ハゲか?

 ハゲとヒゲは烈海王の師・劉海王と同じスタイルだ。
 そのスタイルで烈に迫れば師匠を思い出して、精神的に追いつめることができるかもしれない。
 とにかく寂の持ち味がなんなのか、はっきりと分からないため逆転の秘策も思いつかない。

 逆に烈(というか中国連合軍)には明るいニュースがある。
 発見された遺跡により実在が確認されていた中国文明は、紀元前十六世紀ごろの殷までだった。3600年前だと、厳密には四千年に足りない。
 ところが、殷より古い夏王朝と思われる遺跡が発見された。
 これで中国文明の実在が四千年分証明される事になる。
 世界の中心で四千年と叫ぶことができるのだ。世界の中心で「噴(フン)ッ 破(ハ)ッ!」と叫んでも一向に構わんッッ!
 作家の陳舜臣氏などは数年前から中国五千年と言っているし、烈はアレで奥ゆかしい人だったかもしれない。

 というワケで、烈には真四千年攻撃という必殺技がある。
 寂もそれに対抗しうる秘策を出さなくては勝てない。

 たとえば、性格が正反対になって卑怯で最悪の人になる。
 衆道の嫉妬は男女間のそれを上回るという。愛に応えてもらえない寂が逆切れを起こす可能性はある。
 そうなると、危険だ。だまし討ちもしまくる。うかつに握手をしてはならない。
 現状とあまり変わらない気もするが、これは恐そうだ。

 あと、スネ毛が気になる。
 スネに毛を持つ人物はひさしぶりだ。昔は花山にも生えていたが、大人になってツルツルになってしまった。
 その辺には大人の事情があるかもしれない。花山には花山の生活があるんだし。

 そういうわけで、あえてスネ毛を残した寂海王に秘策があるかもしれない。
 あのスネ毛に氣を通すと鋼鉄の針と化して、スネ毛針飛ばしができるとか。
 秘術・毛髪大移動でスネ毛が頭に移動するかもしれない。
 まあ、そんな事ができるなら、ヒゲでとっくにやっていそうな気もする。
by とら


2004年7月29日(35号)
第2部 第215話 信じていた (595+4回)

 烈くん、わたしのモノを握ってくれッ!
 寂海王の熱意に烈は思わず握ってしまうのだった。手をね。

 握った手から投げに入ろうとする寂だったが、烈が投げ返す。
 寂が頭から垂直に落下する。この角度は危険だッ!
 寂はつかまれていない方の腕でとっさに頭をかばう。
 激突ッ!
 直撃は回避できた。だが火花が飛び散るようなダメージを受けている。

 腕をクッションにしたので、頭蓋骨骨折などはしていない。
 しかし、落下の衝撃が首にかかっている。常人なら首が変な方向に曲がっているところだ。
 寂海王の首は、それに耐えられるぐらい鍛えられているようだ。
 首を鍛えるということは、寂の得意分野は組み技系だろうか。
 恐怖の寝業師なのだろう。

 一度地面に叩きつけられただけでは、止まらない。
 そこからもう一度弾んで、ふたたび寂は地面に落ちる。
 人がボールのように弾むとは、すさまじいまでの激突だ。
 寂海王は無事なのか。

『なんという卑怯さでしょう』
『握手という友好の儀式を不意打ちの道具として使う』
『許されざる行為ですッ』


 言われてしまった。
 若者を導きたいと言っている人間が、卑怯でいいんですか
 なんか、若者を食いものにしそうな印象ができてしまう。

 でも、この場合だと、握ったのは両者合意の上なので見逃してあげてください。
 いい海王に誘われたからって、ホイホイ握っちゃう烈にも問題がある。
 そして、今のところダメージ受けているのは寂海王ばかりだし。

 やや難儀そうに立ち上がるが、寂には余裕が見られる。
 ダメージは無いのか?
 あらゆる責めを受け止めてきた絶倫な肉体の持ち主なのか。

 にぃ‥…

 寂海王が不気味に微笑んだ。
 そして、手を差し出す。二度ならず、三度目の握手要求だッ!
 相手が花山だったら、握らせる手が無い状態だぞ。
 そこまでして握らせたいかッ!?
 そんなに烈に触れたのか、男色海王よ。

「烈さん」
「握れるかね」
「握る勇気はあるかね」


 ナニをだッ!
 なにを握らせる気だッ!

 烈が挑発されるとのってしまう性格と知ってやっているだろ、この人は。知能犯だ。ペテン師だ。
 寂海王の魔性の握手に観客・アナウンサーは大ブーイングを行う。
 日米軍は完全に悪役(ヒール)状態だ。
 最短で決着をつけて帰ってきた刃牙は、実は正しい選択をしたのかもしれない。
 試合が長引くと、罵声を浴びせられたり物投げられたりしそうだし。

 余談だが「魔」は、「麻」の部分が音を表している。元は梵語のmara(魔羅)の音訳だ。
 修道のさまたげをする悪い鬼の意だが、チンポの意味もある。

 閑話休題(それはさておき)、寂海王はまさに魔性の笑みを浮かべている。
 アナウンサーも烈が魔道へ堕ちるのを止めようと、必死の説得開始だ。
 でも、ダマされる人は「だまされるな」と忠告しても、たいていダマされる。

『オオオオオ〜〜〜ッと』
『握ってしまったぞ烈海王』
『応じてしまったぞ烈海王』


 とことん楽しませてやるつもりなのか、烈が握る。
 血管を浮かせて強く握る。
 寂大喜び。烈もなんか嬉しそう。なんなんだ、コイツら〜〜〜〜〜………

 ドン


 あれ?
 寂が浮いている?
 烈の空いている方の腕が、消えている??

「!」

 ドガッ ドガッ ドガッ ドガッ

 烈の連打だ。
 克己を一撃で吹っ飛ばした魔拳・烈海王の攻撃だ。普通なら体が飛ぶ。
 しかし、寂と烈は手をつないでいるので、引っ張られて寂が浮き上がる。
 烈が打ち込むたびに寂が浮く。
 15メートルまでなら水上歩行ができると、烈は言っていた。
 15秒間ぐらいであれば、人を宙に浮かせることも可能らしい。

 さすがに寂も血を吐くダメージを受けて悶絶する。
 だが、手は離していなかった。
 汗はかいているが、口元が笑っている。

「し……」
「信じていた………」
「必ず握ってくれると」


 瞬間、寂の体が烈の腕に巻きついた。
 一気にヒジ関節を極めつつ、地面に投げつける。
 烈は顔面から、落下した。
 魔性の寂海王が反撃を開始するのかッ!?


 寂海王は陳海王と戦ったときも相手の攻撃を喰らっていた。
 勧誘大好きな寂海王は、己の体を実験台にして相手の実力を確認しているのだろう。
 で、寂の卑怯な作戦に臆せず正面から挑んで打ち破っていく烈は、合格か。
 強さ・人格共に文句なし。
 信じていたぞ、烈くんって感じで、もうお持ち帰り気分だ。
 改めて誘いにいくと言っていた陳海王のことは欠片も憶えていないんだろうな。

 寂は打撃より、組み技のほうが得意な感じがする。
 投げて倒してしまえば、そこは寂海王の世界だ。
 烈の体をまさぐり放題――― いや、関節技のかけ放題だ。
 次週は烈が地獄を見そうだ。あるいは天国か。

 ただ、烈だって投げ技が上手かった。
 寝技に誘ってみても、烈のほうが上手という可能性がある。
 それでも寂なら「スバラシイぞ、烈くん!」と大絶賛するんだろう。
 なんか、不気味な相手だ。

 あと、寝技になれば寂のスネ毛とヒゲがからみついて烈の動きを封じるというのはどうか。
 帯はしめているのに、上半身裸という格好の秘密が明らかになるかもしれない。
 どちらにしても、毛が無いだけにつかみ所が無い人だ。
by とら


2004年8月5日(36+37号)
第2部 第216話 起きたまえ (596+4回)

 烈が顔面から落ちたッ!
 首も危険な角度に曲がっていて、かなりヤバイ。そして、ちょっとカッコ悪い。
 しかも、この試合は投げて終りじゃない。すぐに寝技の攻防にうつる。
 投げられたことは置いといて、次の展開にむけて良いポジションを取らなくてはならない。

 だが、烈の体は「ぐら‥‥」と、ゆれてそのまま倒れた。
 白目だし、口が半開きだし、もしかして気絶しているのか?
 そんな烈に対ても、寂は容赦しなかった。
 すばやく烈の右腕を股にはさみこむ。ああっ、無抵抗な烈になんて事をッ!
 そのまま体重を後ろにかけ、腕十字を完璧に極める。

 ビキッ

「折った!」


 観客は騒然となる。烈は背景に電撃を飛ばす。
 寂は押し黙る。いつのまにか笑顔が消えていた。
 これで笑っていたら、性格が勇次郎だ。寂はちゃんとした普通の人だったようだ。

 右腕が折れた状態は、通常なら勝負ありだ。
 しかし、寂は倒れたままの烈を見下ろして声をかける。

「起きて闘いたまえ」

 今まで見せていた胡散臭い笑顔ではない。
 優位に立った人間とは思えないきびしい表情をしている。
 陳海王の時は腕を折って勝利とした。しかし、烈海王が相手だと態度が違うようだ。
 真の戦士ならば、最後まで闘って死ね とでも言うのだろうか。
 男色っぽい雰囲気にダマされていたが、寂海王の素顔はきびしい教育者なのかもしれない。

「ふざけるなァッッッ」
「このインチキ野郎ォがッッ」


 しかし、観客は怒り爆発だ。見開きページで罵声を浴びせ、さらに試合会場に乱入してくる
 寂海王を血祭りにあげるつもりらしいが、返り討ちにあうのが関の山だろう。
 でも観客を36人を倒したあたりで寂が力尽きるかもしれない。
 なだれ込んでくる観客を見ていると、今週土曜日のサッカー・アジア杯決勝「日本−中国戦」が心配になってくる。

「出てゆきなさいッッ」

 暴徒を一喝し止めたのは烈であった。
 すでに立ち上がっている。
 右腕は動いていないようだが、全身から覇気がみなぎっている。

「ここは武を修めた―――」
「拳士のみが立つ場だ」
「出てゆかぬ者は遠慮なく私が叩きふせるぞッッ」


 おおっ、勇ましい。
 やはり烈は吼えていなくてはならない。
 理論ではなく蛮勇を説得力にして、猛る。この生活利便性を捨て去ったような力強さが烈海王だ。
 早く席に戻らないと、本当に叩きふせられるだろう。
 その辺の空気を感じ取ったのか、乱入者たちは席に戻っていく。

「右手が使えぬ」
「ちょうどいいハンデだ」


 そういって観客をなだめる烈なのだが、今度は表情に精彩が無い。
 なんかアライJr.が混じってしまったような笑顔だ。
 やっぱり、右手が痛いのか?
 なんとなく負け犬の神がスリ寄ってきそうな不安げな表情だ。
 そういえば、184話で梢江に呪いの言葉を吐きかけられたときもこんな表情だった。

「その通りだ」
「君とわたしでは」
「片腕のハンデくらいでやっとフェア」
「こうすることが最初からの狙いだった」
「度重なる非礼を」
「ここに詫びたい」


 寂にアノ笑顔がかえってきた。とたんにペテン師っぽくみえる。
 会話の内容も、謙虚なのか、自分を正当化したいだけなのか、判断しにくい。
 やはり、インチキの香りがする。
 自分が優位に立ったから互角の勝負をするというのは、なんか違う気がする。
 口で謝るだけならいくらでもできる。寂はどこまで本気なんだろう。

「かまわん」
「知りながらやっていたことだ」


 烈も言い返してみる。
 罠と知りながらあえて手を出したと言うことだろう。
 やっぱり烈は負けず嫌いのようだ
 握れるかい?と挑発されれば、握ってしまう男なのだ。
 でも右手は使えなくなったので、もう握らさせる心配は無くなった。ここからは純粋に闘えるぞ!

 片腕となった烈は、靴を脱ぐ。
 範馬刃牙と闘ったとき以来の「驚愕の足技」を解禁する気だ。
 対する寂海王は拳を固めるついに真っ向勝負に出る気か。

「心から誓える」
「君を日本へつれて帰る」


 寂海王の恐るべき執念だ。なんで、そこまで熱心に烈を連れてかえりたいのだ?
 やはり、これは……!?
 足技を解禁したものの、やっぱりピンチ状態の烈であった。

 この戦いの決着は、寂が試合に負けて勝負に勝つ、と思う。
 つまり、試合には負けるけど、勧誘は成功する。
 勇次郎にお仕置きされる前に、烈を連れて南の島に逃亡する。
 新婚旅行なので、行き先は日本ではありません。


 実際の試合では腕を折られたら、ほぼ負けだ。
 しかし、刃牙世界の闘士であれば逆転することも可能だ!
 そう思って、腕(ヒジ・指・拳も含む)が使えなくなった後も闘った人たちの戦歴をまとめてみる。
 折られた直後に決着だったり、折られて戦意を失ったケースは除外した。(例:刃牙に手首を折られたガイア)

No.負傷者対戦相手負傷部位結果
1末堂範馬刃牙肩脱臼(回復)・拳骨折敗北
2範馬刃牙鎬昂昇腕紐切り勝利
3鎬昂昇範馬刃牙腕骨折敗北
4辰己洋一範馬勇次郎腕骨折敗北
5愚地独歩範馬勇次郎小指・他多数骨折敗北
6範馬刃牙鎬紅葉肋骨骨折勝利
7ユリー・チャコフスキー花山薫腕に握撃敗北
8範馬刃牙花山薫腕に握撃勝利
9花山薫範馬刃牙指・拳破壊敗北
10朱沢江珠範馬勇次郎手首骨折敗北
11愚地克巳イスタス脱臼(回復)勝利
12柴千春畑中公平腕骨折勝利
13金竜山猪狩完至腕骨折敗北
14アイアン・マイケル柴千春拳破壊敗北
15三崎健吾ジャック・ハンマー手首に噛みつき敗北
16鎬昂昇渋川剛気眼底砕きによる手骨折敗北
17ガーレンジャック・ハンマー指に噛みつき敗北
18ジャック範馬範馬刃牙腕骨折敗北
19範馬刃牙ジャック範馬腕骨折勝利
20愚地独歩ドリアン手首切断勝負無し
21スペック花山薫腕に握撃敗北
22ドリアン愚地独歩指骨折敗北?
23柳龍光本部以蔵手首切断敗北?
24龍書文オリバ指骨折敗北


 勝利6件(2,6,8,11,12,19)、敗北17件(1,3,4,5,7,9,10,13,14,15,16,17,18,21,22,23,24)、勝負無し1件(20)だ。
 腕が使用不能になると71%の確率で負ける。う〜〜ん、烈ちょっとピンチだ。
 では、腕が使用不能になっても勝利できたのはどういう場合であるかを検証してみる。

勝因
 範馬刃牙だから
:4件(2,6,8,19)
 脱臼が治った:1件(11)
 度胸と根性:1件(12)

 つまり、腕が使用不能になると、治すか根性を出さないと勝てないようだ(注:範馬刃牙以は除く)。
 どんなに頑張っても、厳しい現実が闘士を打ちのめす。
 24例から範馬刃牙が関わる8件を除くと、16件中2勝となる。勝率13%だ。
 烈は、ものすごくピンチだ。

 ちょっと悲観的な結果が出てしまった。
 ここはもう、度胸と根性を出すしかないッ!
 多少まさぐられても、我慢するんだッ!!
by とら


2004年8月19日(38号)
第2部 第217話 スバラシイッッ (597+4回)

 試合中に腕が使えなくなると、敗北率71%だ!
 烈海王、大ピンチ!
 烈海王、大ピンチ!
 烈海王、大ピンチ!
(以下略)

 恐怖の「烈お持ち帰り」宣言をしながら寂海王が不気味に迫る。
 寂海王の行動のベクトルは全て勧誘に向けられている!?

 しかし、烈海王だってダテに海王ではないのだ。
 ダテで海王やっている人は多いが、コイツは違う。
 手より、足技が恐い男なのだ。刃牙戦では自ら手を封印し、刃牙を追いつめた。
 ここからが、真の"魔拳"烈海王なのだ!
 ちなみに『詩経』の注『毛伝』に「拳は力のことである」とある。
 人間離れした魔の拳法であり、魔の力を持っているのだろう。

 折れた右手を固定もせずに、烈から仕掛けた。
 左の横蹴りを上中下段に三連発だ。
 激しい動きをすれば折れた腕に響くだろう。だが、そんなことを微塵も感じさせない動きだ。
 エンドルフィンが出っ放しなのか?
 この三段蹴りを、寂は手足で防御した。だが、左手の薬指と小指をつかまれる。烈の足指でだ!

 手の握力を凌駕する、足指の握力ッ! これぞ魔拳かッ!?
 恐るべき握力に寂は驚愕するばかりで、振りほどくこともできない。
 なんか足指で握撃ができそうな迫力がある。
 そして、素足で靴をはく烈の足は強烈に臭いそうだ。まさに魔拳か。

 寂海王が呆然としているスキをついて、烈が引っこ抜く。
 つかんだ足で投げとばす。信じられない荒業だ。
 烈は片足だけで踏ん張って、投げているのだ。しかも、相手を崩すことなく、だ。
 腕力だけで相手を投げるオリバもすごい。だが、脚力だけで投げてしまう烈は、異常だ。すごすぎて変態だ。

 投げられながらも、烈の絶技繚乱に寂は感動していた。
 あらぶる勧誘魂が燃え上がっているようだ。
 そういう事情は烈には関係ない。容赦なく寂の背後から追撃の蹴りを入れる。
 とっさに転がり、寂が脱出した。
 拳を突きつけ、烈が構える。転がった寂も中腰で構えを取る。一瞬のスキが命取りの熾烈な攻防だ。

 今週の作者コメントは『「マッハ!」を観るとトニー・ジャーのキメポーズをしたくなる。マチガイナイ。』だ。
 拳を突きつける烈のポーズは、ちょっとトニー・ジャーのキメポーズを意識しているのかもしれない。
 マッハ!!!!!!!!の公開がもう少し早ければ、救われたサムワンもいたかもしれない。
 まあ、最終的に噛まれるとは思いますが。

「スバラシイッッ」
「なんと感動的で」
「豊潤な技の持ち主なんだ!!!」


 烈の技術に寂が感動している。
 感動しすぎたのか、料理漫画のような感想をもらしている。いや、ほうじゅん違いだ。
 今度は、寂がまっすぐ拳を烈に打ち込んでいく。
 すばやい左右の連打を烈は左手一本でさばき、全てかわす。
 そして、魔脚で蹴り上げる。
 が、寂はすばやくしゃがみ、蹴りをかわしていた。そして、烈の軸足を握る。

 グリッ
(三陰光圧痛(さんいんこうあっつう)
 ※ すねの内側、足首から約10cmにあるとされる急所。


 あまりの激痛に、烈の体が崩れた。
 骨折をものともしないエンドルフィン分泌(?)を凌駕するほどの激痛なのか!?
「あるとされる急所」なんて幽霊みたいな急所だから、異次元の痛みかもしれない。

(欲しい)
(なんとしても欲しいッッ)
(この天才を)
(日本へッッ)


 また、そんな誤解をまねくような事をッ! この男色海王めッ!
 今週の少年サンデー連載「D-LIVE!!」でも「君が欲しい」という台詞が飛び出していた。シンクロニシティーだ。
 同じようなセリフを男が男に言っているのに、なんか雰囲気が違う。それこそ ヤオイとホモなみに違う。
 とにかく、寂は力ずくでも烈をモノにしたいようだ。

 激痛で体勢の崩れた烈の頭に右のまわし蹴りが入った。
 たまらずヒザを突こうとする烈に、ダメ押しの左拳を打ち込もうと…
 魔脚が寂のヒゲをつかんだ。右か!? 左か!? あの体勢からどうやってッ!?
 バオッ
 左足でいいのか!? とにかく投げられた。
 情報が錯乱している。パニック寸前だ。常識では考えられない技術、これが魔拳なのか?
 頭から落下し、寂のアゴヒゲが抜けて散る。

(絶対に敗(ま)けられん!!!)

 ヒゲは抜けても、心は折れぬ!
 寂海王の不屈の勧誘魂はまだ死んでいない。

 でも、試合に勝っても烈を勧誘できるとは限らないのが、痛いところだ。
 その辺をどうするつもりなのだろう。


 賭けをしているわけではないので、試合に勝っても烈はついてこない。
 卑怯な手段で勝ったらなおさらだ。汚い手段をする人間には、ついて行きたくないだろう。
 かといって、寂海王の卑怯攻撃は直接勝利に結びついていない

 一回目、握手から殴って投げられる。
 二回目、握手から投げを狙って投げ返される。
 三回目、握手して先に殴られる。その後投げかえす。
 ワンパターンで失敗が多い。ジャンケンの後出しをして負けているようなものだ。

 陳海王との闘いをみると、寂の特技は「後の先」「投げ」「間接技」のようだ。
 烈戦でも、先に殴られてから、はじめて「投げ」「間接技」とつながった。
 まず相手の攻撃を受け、攻撃によって生じたスキを狙って反撃する
 これが本来の寂海王の闘いかただろう。

 ところが、烈との攻防では相手の不意をついての先制攻撃をしている。
 つまり、不得意な闘いかたをしている。
 待ちに徹したほうが安全確実な自分の闘いかただろう。
 もともと烈は積極的に攻撃を仕掛ける男だし、待てばすぐに攻撃をしてくるはずだ。

 さらに、せっかく腕を折ったのに止めを刺さず、相手に時間を与えて闘いの続行を促している。
 自分の得意な(?)寝技になったのだ。一気に攻めるのが上策だ。
 それを、わざわざ立ってやり直しにしている。

 以上から、寂海王は単に勝ちを狙っているわけではなさそうだ。
 あえて、烈を挑発し、その実力を引き出そうとしている。
 これも、すべて勧誘のためか

 そうなると、烈に仕掛けた不意打ちは「後の先」や「守主攻従」の良さを教えるためだったのかもしれない。
 先手をうって攻撃しようと、心がはやれば失敗する。
 静かな心で、守りに徹した方がいい。
 たとえ殴られても、人を信じる心を無くしてはいけない(なんか違うか?)と。

 自分のスタイルを理解させた、ついでに腕折って戦闘力を互角にしたところで、本格勝負だ。
 今度は卑怯な事をしないで、全力でぶつかり理解を深める。
「闘いこそが至上のコミュニケーション」「SEX以上のね」
 範馬勇次郎の言葉だ。
 寂が狙っているのは烈とのSEX……じゃなくて、コミュニケーションであり、そこから生まれる共感だろう。

 試合が終わった頃には、長年の友のようになっているかもしれない。
「烈くん、ヒゲのことは水に流そう、ハハハ」
(めちゃめちゃ、怒ってる〜〜〜!!!)

 貸しをつくって勧誘成功か。
「むむ、卑怯な手段で折られた右腕が今ごろ痛み出してきた」
 烈、逆転する。借りの方が大きそうだ。

 でも、最終的に烈海王は日本へ行くだろう。
 もちろん、神心会の講師として。
 そうなると、寂海王は大激怒する。
「神心会の人間を片っ端から勧誘するッッ!」
 この日から、日本を分断する勧誘合戦が始まる。バキ第二部「日本群雄割拠・勧誘編」にご期待ください!
by とら


2004年8月26日(39号)
第2部 第218話 たかが拳法 (598+4回)

 ヒゲよさらば。寂のヒゲはむしられたッ!
 危険だ。このまま全部むしられたら、ますます独歩との見分けがつかなくなる。
 ヒゲの無い寂なんて、ポケットから手を出している龍書文みたいなもんだ。魅力が半減ですよ。

 今まで烈海王の攻撃に耐えてきた寂海王だが、今度のダメージは大きかったようだ。
 投げられた姿勢からしばらく動かない。
 肉体のダメージより、心のキズのほうが大きいのかもしれない。
 だが、それでも寂は立ち上がる。
 アゴのところだけはげた面白い形のヒゲになっているが、俺たち闘いは始まったばかりだ!

「烈さん」
「負傷したヒジを治したいのだが」

 寂が血迷ったか。
 治療できるかどうかはともかく、試合中に相手のケガを治してどうする。
 勝つ気が無いのか? それともヒゲ数が激減したことで判断力も落ちているのか。

「私の武術は傷つけることを目的としない」
「故に君の肘関節…… 実は折れてない」
「外れてはいるがな」


 216話で、烈のヒジはビキッと音を立てていた。
 外れた音には聞こえない気がする。信じていいものだろうか。
 ただ、この局面で嘘をつくとも思えない。
 つかまれるヒゲもずいぶん減ったし、今後は少し有利だ。
 卑怯な手段に頼るほどのピンチとも思えない。

 さて、烈は握るか、握らざるか。
 挑発されると受けて立っちゃうのが、烈海王だ。
 たとえ罠だろうと、烈は握る。
 というより、握られた。負傷した右腕をまさぐられる。
 ヒジのあたりを指で押さえられ、ちょっと痛そうだ。

「片腕が相手では意味がない」
「普及の目的が」
「わたしの悲願―――」
「完全なる自己防衛なら」
「たかが一拳法家の技ごとき防ぎきれず なんの技術か」


 寂が、烈を投げ飛ばした。
 おいおい、なにすんだよ、この半分ヒゲ。
 アンタそれでも教育者のつもりか。目的のためには手段を選ばないのは、教育上よくないぞ。頭と同じようにヒゲも禿げちまえ。
 そう思っていたら、烈が足から着地した。その衝撃(?)で関節がハマった!
 治療完了だ。

 烈の右腕が復活した。
 腕が回復すれば、勝率も上がる。烈にも勝機が見えてきた。
 しかし、なんで普通に治せないですか。普通に治療すれば観客の罵声もなかったのに。
 基本的に、寂は人を驚かすのが好きなのだろう。

「たまんねェな2人とも」

 選手の中で唯一試合を見守っていたバキが あきれたようにつぶやく。
 中国連合軍にとって崖っぷちの重要な一戦だが、選手の注目度は低い。
 烈が負けたら郭海皇が爆発するだろうから、範海王は夜逃げの準備中だろうか。

 試合中だろうが変なプレイに走る寂海王と、それにとことん付きあう烈海王だ。
 遊び好きな刃牙も、こういう試合が好きなんだろう。だったら春成に付き合ってあげればよかったのに。
 弱みを見せた相手のパンツを容赦せず引きおろすような容赦のなさ。
 刃牙も郭海皇も、範馬勇次郎も勝利を追及する危険な武術家なのだろう。
 彼らにすれば、遊んでばっかりのヌルい試合に見えるのかもしれない。

「仕切りなおしだ」

 寂海王がはりきって構える。真の護身を知らしめる気なのだろうか。
 でも、今までの寂はなんか防御下手という印象がある。不必要に相手の攻撃を受けていた。
 ここからが本気の「完全なる自己防衛」なのか。

「「たかが一拳法家」という言葉が気になっている」

「いかに烈 海王と言えども たかが拳法」


 烈の異議申し立てに、寂は真っ向からぶつかる。
 海王十二拳士・最強を自負するであろう烈海王を、「たかが一拳法家」とその他大勢扱いしている。
 海王なら、サムワンとか除海王だって怒りますよ。しかも烈だ。
 ヒゲだけではなく、全身の毛をむしらんばかりに怒っているはずだ。
たかが選手」発言も騒動を呼んだし、寂のこの発言はうかつだったか。

 しかも、「たかが拳法」でダメ押しをする。
 烈が生涯をかけて学んできた技術を、四千年の長きにわたって守り育ててきた技術を「たかが」と言われては、ムッとするだろう。
 黄河は水たまりを叱りはしないというが、烈の考えは違うのだ。

 もっとも寂海王だって拳法家なんだし、拳法を軽んじているわけではないだろう。
 強くなるだけではつまらんぞ発言などから、自分だけが強くなって満足する拳法ではなく、視野を広く持てという意味がありそうだ。
 視点を人生や世界に向ければ、拳法にできることは少なくなる。
 無双の強さを誇る烈には、ただの拳法家として終わって欲しくない。そう思っていそうだ。
 最終的に自分の愛人に、と考えているかもしれないけど。

 怒れる中国拳法馬鹿一代から黒目が消えた。
 本気の白目で烈が攻撃を仕掛ける。
 数多の腕が数多の形をとり、残像含めて腕が十三本ッ! 凶数怒濤の打撃が寂にブチ込まれる。

「全身――――――」
「全霊にて!」
「叩き潰す!!!」

(こッ)
(怯(こ)え〜〜〜)


 そりゃ相手は十三本の怪物だ。おびえて当然だ。
 亀のように縮こまってガードする寂に烈の猛攻が浴びせられる。
 寂は、この状態を逆転できるのか?
 たぶん、ヒジを治してやった事を後悔しているんだろうな。


 せっかく潰した腕を元に戻す。寂はナニをやりたかったのだろう。
 腕を治すとき、こっそり性感を刺激するツボを突いていたのかもしれない。
 今は普通に闘っているが、すぐに烈の体がうずき戦闘不能になる。
「君を治せるのは私しかいない。烈さん、あなたの尻を貸してくれ」
 そういう狙いがあるのかもしれない。
 烈も挑発されると、あっさり尻を出しそうだし、危険度の高い展開だ。

 なんとなく作中の雰囲気は寂海王勝利に流れている。
 ただ、寂の目的は烈の一本釣りだから、試合に勝つとは限らない。
 試合に勝つことのみを目的にしていれば、腕を折ったときに止めを刺していただろう。
 勝ちを求めるだけでは、人間完成に結びつかないと言うことだろうか。
 でも、やっていることが卑怯なのでイマイチ信用できない。

 これだけ勧誘熱心な寂海王だが、なんでオリバは誘わなかったのだろう。
 オリバは特殊な筋肉の持ち主ということで、教師には向かないと考えたのかもしれない。
 それとも、お互いホモっぽいイメージがあるので、キャラがかぶると敬遠したのか。

 最終的に寂海王は、勇次郎もスカウトするのだろうか。
 強さに関しては、最高級にスバラシイ人ではあるんだけど、教師には向かない。
 親バカだから、刃牙には熱心に教えていたみたいだけど。
by とら


2004年9月2日(40号)
第2部 第219話 護身 (599+4回)

 仏像などでおなじみの、軍荼利明王とか阿修羅は手や顔が多数ついている。
 大昔に中国拳法家が戦う姿を見た人が「人外」とカン違いし、モデルにしたのだろう。
 (こ)え〜。あいつ、絶対ヒトじゃない。水上だって走りそうだよ。って、走っているし!
 そんな驚愕が伝説を生み、数千年後の現在に人外がふたたび現れるのだった。

 烈の手足が多数に見える。寂を倒すと轟き叫ぶ。
 爆裂・海王ラッシュの前に寂は防戦一方だ。踏ん張っていても、足がすべり後退していく。

(余裕綽々で屠り去る)
(そんなふうに――――)
(やれるものなら
 俺だってそうしたかったさ)


 ガードの上から打たれ、ガードの隙間を蹴りこまれ、ついに寂海王は壁まで吹っ飛ぶ。
 この状況で思うことは、己の武術性についてだろうか?
 護身の技術なんだから、やたらと殴ってはいけないと考えているのかもしれない。
 話し合って解決できる道理のわかるものに対し、力を振るう筋合いはない。そんな感じで。
 ただし、烈は話し合いで解決する人では無い。

 だが、寂は相手が天才・烈海王だから純粋にかなわない、と考えていた。
 可能であれば烈を牛馬のように「屠り去」りたかったのか。
 屠ったら、勧誘できないぞ。
 それより、護身はどうしたッ!?

 エラそうなことを言っていたが、寂の正体はペテン師だったのか。
 そうなると、烈のヒジを治療した事を本気で後悔していそうだ。

 対する烈は、復活した右腕をあまり使用していない。
 基本的に蹴る。蹴って蹴って蹴りまくる。
 治療された右腕を使わなくとも、キサマに遅れは取らんとばかりに、飛びヒザ蹴りだ。
 さすがの寂も腰が落ちる。

(かなわぬなら)
(護る!!!)


 メッタ打ちになりながら、寂は護身の決意をする。
 無道な暴力に対し身を護る技術が"武術"であるなら、パーフェクト烈海王の攻撃から自己を護りきらねばならぬ。
 ちなみに烈の足は飾りじゃありません。お偉いさんはワカってないんですよ。

 容赦ない烈の攻撃に、試合は一方的なリンチへと変化していく。
 そして、寂海王が亀のポーズを取る。
 相手に背を向けしゃがみこみ、己の首筋を両手で固めている。
 その防御体勢はガイアにタコ殴りにされたシコルスキーと同じものだ。
 必死になって身を護ると、こういう形に落ち着くのだろう。
 シコルスキーとは違い金的防御力も高そうだ。さすが護身の男である。

 シコルスキーの最終防御はガイアによって破られた。
 いかにガードを固めようと、止まっていては殴られるだけだ。
 しかし、試合放棄にも見える捨て身の防御(?)は、烈の脳を一時停止にする破壊力を秘めていた。
 アライJr相手に寝っ転がって挑発したら、普通にドアから逃げられた状態に似る。

「オヤ…?」
「攻撃がこねェな」


 殴られないと急に元気になる寂海王だった。
 つうか、なんでそんなにエラそうなの?
 そして寂海王は更なる暴言を吐くのだった。

「試合放棄かな?」

「やったァァァァァ」
「勝ったぞォッ」


 アテネオリンピック・女子マラソンで一番にゴールした野口みずきのように、寂は両手をあげて勝利の雄叫びを上げる。
 そして、水泳平泳ぎ二冠の北島康介のように「超気持ちいい」って感じでガッツポーズをする。
 一人オリンピック、感動をアリガトウって感じで国民栄誉賞級に盛り上がっている。
 打たれすぎて脳がやられたか?

 えぇっと、勝負アリ?
 早く寂を病院へ。措置入院ってヤツが必要だ。

 観客は「はァ?!」となっている。「!(おどろく)」より「?(疑問)」が先だ。
 当然、読者も置いてきぼり。
 クシャミが止まらず爆発するなんて…………本当に爆発した! 樹海少年ZOO1・完! なみの ポカーンだ。

 こんなんで勝利宣言されてはたまらない(読者としても)。
 烈海王がこの愚挙を止めるべく、目を血走らせて突っ走る。
 寂はそれを、しっかり認識していた。
 ふり返りもせずに、後頭部で頭突き。
 カウンターの形で烈の鼻面にブチ込んだ!

 あくまで卑怯で狡猾な闘いを貫くのか。
 寂海王に比べれば、シコルスキーなんてひよこだ。
 いや、それ以前に無精卵だ。あたためても生まれないぞ。
 遅れてるなロシアの喧嘩はよ。

 この試合を日本に中継したら、寂の弟子・二万四千人が八千人に激減しそうだ。
 辞める人が二万人ぐらいで、面白い試合に感動して若手芸人が四千人ぐらい入門する。
「やったァァァァァ 勝ったぞォッ」がオンエアーされる日も近い。

「やったァァァァァ 勝ったぞォッ」は、インターネット殺人事件さん徐々に詭弁なアオリを思い出す。
 詭弁「13. 勝利宣言をする 」だ。

 寂海王は詭弁法を片っ端から使っていそうだ。
 ひょっとすると「二万四千人の弟子」は「5. 資料を示さず自論が支持されていると思わせる」か?
 本当に弟子は存在するのか?


 猪狩戦の刃牙も、一人で勝利を確信して盛り上がった過去がある。
 代価は股間への蹴りであり、舌を出して悶絶していた。
 烈老師は寂の金玉を思いっきり蹴り上げるべきだったのです。
 股間にもハゲ頭があると勘違いされるほどにフクロを腫れさせろ。


 今回の所業で、会場内における寂海王の立場は一段と悪くなった。
 また観客が乱入してくるかもしれない。
 もう、烈がとめても聞かないだろう。まきぞえで烈も殴られかねない。

 刃牙による春成 瞬殺に続き、こんな迷試合をしてしまう。
 会場の空気がどんどん悪くなる。
 次の試合を控えているJrは頭を抱えて困っているだろう。

 でも、刃牙と寂は「会場を盛り上げてやったぜ。ガンバってきな!」と送り出すんだろう。
 あえて味方を逆境に追いこむ。これぞ真・友情パワーだ。
 もうカンベンしてくれッと泣いても容赦しない厳しき友情なのだ。


 この試合、寂が積極的に寝技を使わないのには理由がありそうだ。
 オリンピックのレスリングで、汗をかいてくるとすべって捕まえにくいという解説があった。
 そう、汗だ。

 烈海王といえば、「ムワァ〜」な人だ。
 換気の悪い個室に閉じ込めて一晩寝かせば、冬だろうと翌日にはカビが生えていそうな蒸気量を誇る。
 今の烈海王はヌルヌルしているのだ。これではつかめない。
 さすが中国4000年―――――― 拳技の集大成!!!
by とら


2004年9月9日(41号)
第2部 第220話 開眼!!! (600+4回)

 グラップラー刃牙・外伝・バキと続いた本誌連載がついに600回だ!
 始まったのが1991年だから約十三年間続いている。
 そして十三年の間、ラスボスがかわっていない。範馬勇次郎はますます最強で、今後も最強だろう。
 バキ最終章は十年後ぐらいかなぁ。

 烈海王の鼻面に寂海王のハゲ頭が突き刺さった状態から、記念すべき600回目は始まる。
 グッシャりしっかりメリ込んでいる。これはちょっと痛そうだ。否、痛すぎる。
 そりゃ、烈だって泣きます。

 って、烈が泣いているッッ!?
 いくら総受けの烈でも、あんなもんをムリヤリ入れられたら泣いちゃいますよ。
 思わず下を向いて鼻を押さえる。ちょっとスキだらけだ。烈海王、大ピンチだぞ。

 苦しんでいる烈を見て、寂はなんかうれしそう。
 そりゃまあ一矢報いたのだから うれしいだろう。
 でも、そこで追撃をしないのが甘い。相手がスキを見せたら徹底的に攻めるのが武術だ。
 どうも寂海王は詰めが甘い。

「烈さん」
「強いだけではつまらん」
「くだらんぞ」


 単に強さを競うだけでは、このように痛い思いをする。つまらん、くだらんぞ。とでも言いたいのだろうか。
 そして、この状況でも勧誘します。まったく空気を読まない人だ。
 しかし、不撓不屈の勧誘魂をもつ寂は、勝利よりも勧誘を優先してしまうのだろう。
 ひょっとしたら水や空気よりも優先するかもしれない。

 されど、相手は蛮勇魔人の烈海王だ。
 強くなるために生きてきた男だ。今までの人生を否定されて黙ってはいない。
 オマケに今までダマされ続けたので、ものすごく怒っている。顔中シワだらけにして怒っている。
 やっべ、すげー怒ってる。寂の表情はそんな感じだ。

 ザッ

 草むらから獲物めがけて飛び出す肉食獣のように、烈が行ったッ!
 草食獣・寂はすかさず護身の構えをとる。
 背を向け、頭を抱え込み丸まる。亀の構えだ。

 ドカッ

 烈が上空から両ヒザでふってきた。
 盗まれた仏像を取りもどすために戦うムエタイ戦士のような ヒザ重爆だ。
 床が抜けそうな衝撃だが、寂は耐える。さらに連打を受けるが、それでも耐える。
 耐えて耐えて耐えまくる。

(なるほど)
(見た目はどうあれ)
(これは良き構え)


 見た目だけではなく、状況もかなり悪い。
 反撃もせず動きもしないで殴られ放題だと、鉄壁の防御でもいつかは崩れる。
 外部からの支援がない籠城は成功しないものだ。

(背中の耐久力(タフさ)は正面の約7倍)
(ダメージは蓄積されるが)
(正面ならとうに倒されていた)
(護身開眼!!!)


 なんか、開眼しちゃったッ!
 ひょっとして、キン肉マンでいうところの「肉のカーテン」か。
 最大攻撃形態の範馬は、背中に鬼が浮き出る。
 同様に最大防御形態の寂は、額に「肉」の字が浮き出るかも。
 屁のツッパリはいらんですよ。物質は重い方が速く落ちるんだ。七倍の根拠は聞くな。
 だから大丈夫だ。問題なし。覚悟を決めたプロレスラー以上に難攻不落だ。

「ひぃいいッッ」

 なんか開眼した人が悲鳴をあげている。
 本当に開眼したんでしょうか。なにかカン違いしたのでは。
 恐怖のあまりなにか漏れていませんか?

 烈の猛攻が止まった。
 ひょっとして打ち疲れか。
 攻撃は体力を必要とする。寂の狙いは烈の体力を奪い取ることだったのか!?

 烈は手のひらを寂の背中に当てた。
 堅い守りにてこずったので、方針を変えるようだ。スタミナ切れではないので一安心だ。
 触れた場所は背骨のラインで、肩よりやや下の位置だ。
 寂は気に入っているが、この防御は脊髄・延髄を守っていない。
 生命活動に関わる重要な部分をさらすのは、ちとマズイだろ。
 オマケに触られてもじっとしているもマズい。ナマケモノじゃないんだから動こうよ。

「許せ」

 烈がボソ‥‥と言うなり、人差し指一本拳を打ち込んだ。
 手を当てて探り出した脊髄の一点めがけ、鋭い攻撃が打ち込まれる。
 声にならない悲鳴を上げて、寂海王が直立していた。

(いつのまに……………立って…?)

 まるで脚気の検査だ。
 背中のツボを突かれてぴょこんと立ってしまった。
 恐るべきは中国四千年だ。こういう防御の破り方は3500年前に通過していそうだ。

 寂の真正面に烈は立っていた。
 眉間のシワが一段と深い。
 相変わらず怒っているようだ。

「ヤバッ」

 のんきな事をいっているヒマは無い。
 完全無防備状態だ。
 寂が反応するより早く、両手の間に烈の拳が突っ込んできた。
 視界いっぱいに烈の拳がうつる。

(しまっ……)
(……た)
(………………………)


 視界は古いビデオのようにノイズだらけになり、暗転した。
 餓狼伝では加山立脇の敗北が同じようなブラックアウトだった。
 寂もこのまま沈んでしまうのだろうか。

 そして、烈の勧誘は成功するのだろうか。
 色々あっても烈はほめられると弱そうだから、日本に行きそうな気がする。


 手段を選ばない寂の行動は、賛否両論だ。
 どちらかと言うと、悪のカリスマに魅せられて寂を応援している人の方が多い気がする。
 教育者として、卑怯な振る舞いは悪しき姿だ。今までそう思っていたが、ちょっと違うことに気がついた。
 寂の人格は、教育者と武術家が融合しているのではない。教育者と武術家が分離しているのだ。

 前にも書いたが、武術家ならば、寂の卑怯な振る舞いは問題ない。
 卑怯であっても、己の身を守り勝利することが武術だ。
 試験であればテスト問題を盗み、カンニングをして、ライバルを闇討ちしてでも勝利を目指す。
 烈をだましてヒジを外し、勝利宣言で意表をつき反撃するのも、また"武"だ。
 喧嘩の美学なんてクソ喰らえだ。

 だが、寂には教育者としての面がある。
「君なら日本の若者を導けるッッ」と言うからには、色々考えているのだろう。
 自分の幸せだけではなく、国や社会に貢献できる人間を育てる。そんな感じで。
 教育者であれば、試験での不正は止めるだろう。他人を陥れる行為もよくない。

 相反する二つの思想を持つため、寂海王は変な人になっている。
 危険を冒しながら握手を求め、三度目の正直で腕を外しながら追い討ちをかけない。
 武術家であれば、もっとコキコキに折るべきだ。
 技を外して、立ち上がれと うながすのは、おかしい。
 オレオレ詐欺であれば、他人を装うことに成功したあとで「実は本人ではありません」と告白するようなものだ。

 その上、烈の腕を治してしまう。
 自分を追いこむ行為は武術家として失格だ。
 盗んだ金を返す泥棒みたいなものだ。

 ただ、教育者としては信義を踏みにじり、相手をだまして攻撃をしている。
 有効だった攻撃は握手からの反撃投げ+関節技と、意表をついた頭突きだけだ。
 どちらも、ペテンから始まっている。
 寂が教師をした場合、クラスの集金を使い込んで罪を生徒になすりつけそうだ。
 もちろん、給料が入ってから金をこっそり戻し、生徒の無罪は証明してやる。
 感動学園ドラマになるかもしれないが、それで良いのか? という感じの教師になるだろう。

 武術家と教育者の人格が反発しあって、どちらも中途半端な行動になっている。


 バキ世界には教育者がいなかった。
 愛をといていたガイアも天内も、他人への愛というより自己愛が強かった。
 独歩や渋川先生は、基本的に武人だ。
 そういう意味で、寂海王はバキ世界初の教育者だった。
 ただ、試作型だったために武人臭が残り、違和感になったと思う。

 武術家として手段を選ばず勝利を目指す。教育者として、相手も自分も高めようと切磋琢磨する。
 分裂した二つの思想を持つ寂海王は、非常に人間的なキャラクターだ。
 人は矛盾した考えと感情を持ちやすい。だから迷う。

 武に全てをささげて来たであろう魔拳・烈海王には迷いが少ない。
 だから、根本的な部分で烈に勝つのはむずかしいのだろう。
 ただ烈も武に徹するわけではなく、挑発に乗ったり怒りっぽかったりと人間らしい一面を見せている。
 護身なんだけど攻めの寂海王と、魔拳なんだけど受けの寂海王が闘うことで、バキ史上に残りそうな名(迷?)試合が完成した。
 寂海王の相手が刃牙だったら、握手を無視した三連撃で決着だ。

 今回も「強いだけではつまらん」と、寂はいう。
 目的もなく強いだけではつまらんと言うのだろうか。
 護身をするだけの無抵抗な相手を殴っても、つまらんと言いたいのだろうか。
 護身に徹したのは、強くなくてもいいと考える教育者の寂だろう。
 相手を倒したいと思う武術家の寂は眠っている。

 烈のヒジを治療した教育者の寂には、誠意や信頼がある。
 だから、トドメをさす烈も「許せ」と礼儀をみせたのか。
 無抵抗の者であっても、必要があれば倒すのが武だ、許せ。


 烈をスカウトできなくても、寂は一つ開眼した。
 近い未来、空拳道の道場に亀ポーズで固まる二万八千人が出現するだろう。
 不気味な新名所になりそうだ。
by とら


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