今週の餓狼伝 BOY(VOL.11 〜)

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2004年4月21日(21号)
Vol.11「トリック」

 餓狼伝BOYがマガジンに愛の嵐をもたらす。ただし少年同士のッ!
 キレイごとでは済まない、もう一つのファイトが始まろうとしている。のか!?

 東大に首席で入って日本を牛耳ろうと考える木戸はいつも勉学にいそしんでいた。
 学内テストでも500点満点中498点をマークするなど秀才っぷりだ。
 そんな自分に誇りをもち、友すら必要としなかった。
 必要なのはDEATH NOTEぐらいだった、はず……

(今‥‥‥‥)
(タンバくんが足りない)


  お嬢さん、恋をしましたね。

 国技館すらうめつくすような、濃厚な背徳の芳香(かおり)に脳が酸欠おこして失禁しそう。
 他の作家人が一生懸命に美少女キャラを描いていても、この一撃でだいなしだ。
 ヘビー級の拳はジャブすら必殺パンチですよ。
 ええ、丹波と木戸は、超重量級の関係だ。

 多少は輝いて見えた伊波嬢も、木戸にとっては路上で拾ったエロ本ていどだったのか。
 彼女も他の人間同様、木戸の心の本棚に入ることはなかった。
 しかし今、「タンバ様 御予約」と書かれた指定席が完成している。

 ひとり夜空を見上げながら、木戸はもっと もっと もっと深く、と思いを馳せるのだった。
 きっと、伊波の名前も顔も、存在すら忘れているんだろうな。


 一方、丹波は荒れていた。
 割れた鏡に映る自分の姿は、ところどころ欠けている。
 まるで中身が無い自分が投影されているようだった。

(知識だけをつめこみ‥‥)
(口先と演出だけで‥‥ 乗り切ってきた‥‥)


 丹波が2話で見せたビン斬り、自然石割り、それらは巧妙に仕組んだ演出だった。
 ペットボトルをリフティングしたのと同じ動きでビール瓶をリフティングする。
 これも練習を重ねて身につけた技のようだ。

 ビン同士がぶつかるように手刀を打ち込み、ハデに割る。
 試し割りのトリックも同じだ。
 やわらかい手の肉で叩くのではなく、ビン同士や金属など固い物に叩きつける。
 ハンマーを振り下ろすのではなく、ハンマーにブチ当てるのだ。

 人の先入観を利用したトリックだ。
 自然に地肌から生えていると主張する不自然な髪の毛にも、トリックはあるのだ。

 丹波文七は格闘家というより、奇術師だった。
 意味はないといいながら、ビン斬りの練習をしていた。
 将来、飲み屋でビン斬りを見せて自慢したりもするのだ。

(今日まで誰にもバレなかった俺の弱さを見破られた!!!)

 しかし、実際に手合わせした相手にはバレてしまった。
 今までハッタリで生き延びていたのに、これからの試練は実力で乗りこえなければならない。

 今まで周囲には真剣だと言っていた伝家の宝刀は、実は竹光でした。そんな状況で、ヘンタイ力士・切雨静を斬らねばならぬ。
 丹波文七に秘策はあるのか!?

 たぶん、無い。
 前回、木戸が切雨を葬るといったとき、本気で安心していたっぽい。
 丹波が逃亡をどれくらい本気で考えているか、ちょっとだけ心配だ。


 木戸の前に切雨が再登場する。
 いつの間にか白スーツを着て、普通の人を演出している。
 だが、そのズボンの下に隠されるのは間違いなく「まわし」であろう。
 幽玄で耽美で魑魅魍魎なジャパニーズ・ホラーが西洋服の下に潜んでいるのだッ!

「おまえ‥‥」
「あのタンバとかいうボウヤに守ってもらうつもりかい」


 切雨としては、木戸に残されたわずかな希望をシコ踏みしておきたいのだろう。
 この力士は人の嫌がる事をおもいつく悪魔的頭脳を持っているらしい。
 ちなみに、伊波には「本当はオマエに興味ない。むしろ木戸萌え」と言って、すてたのだろう。
 男子に萌え負けた屈辱は彼女を鬼女に変えるはずだ。

 そして、切雨はタンバくんの恥ずかしい秘密をバラしに来た。
 期待が大きければ、失望も大きい。
 絶望という名の土俵下に落ちろッ!

「それは‥‥」
「ムリでしょう‥‥」
「本当は彼‥‥」
「喧嘩が弱いですから」


 木戸はすでに知っていた………。
 つまり、君は相手の嫌な部分すらも受け入れるレベルのですか。
 中学生でそこまでの境地にたどりつくとは恐ろしい。むしろ、キケンだ。


 やはり秀才・木戸はいつまでもダマされ続けたりしないのか。
 まあ、丹波はものすごく動揺していたし、思わず実力をうたがってしまったのだろう。

 それとも、前回木戸が持ち上げていた器具が、すごく軽かったとか。
 やべ、見かけだおしだ、コレ。持ち上がらないフリしなきゃ。そんな感じだったのかもしれない。
 それに、よく見るとどの器具も新品のようにキレイだ。
「ボクの道徳の教科書なみに、使いこんでいない」とか思っていそうだ。

 この万策つきた状態を、木戸は打開できるのか。
 もしや、丹波のため自らの尻を犠牲にする気かッ。


 相手が小物とワカっても容赦なく寄り切ってくるところが、切雨の恐ろしさだ。
 格下に容赦しないのが相撲界のオキテなんだろう。

 彼が出版業界に身を置いていれば、マガジン最終ページの〈おわびとお願い〉に次の一文がのるだろう。

『小倉優子の等身大BIKINI(ビキニ)ポスターは作者急病により、切雨先生の等身大MAWASHI(マワシ)バスタオルに、変更させていただきます。ご了承ください』

 もちろん、暴動が起きて 講談社は爆破される。
 あと地には立派な土俵が作られるのだった。
by とら


2004年4月28日(22+23号)
Vol.12「急襲」

 丹波がハッタリ男だというのはバレていた。
 さすが秀才だけあって、恐るべき洞察力と推理力だ。

 丹波くん、知らないって事は、シアワセだなァ…。
 今ごろ「シンイチったら俺のこと頼りにしちゃって、てへっ」とか言ってんだろうな。
 あわれな……。

「タンバくんは戦っていたのではなく」
「逃げ延びていた」


 今回は暴力学園Gの解決編だ。
 古式推理術とか爆発する推理などを駆使して勝負する。相撲取りが他人に見せた事のない表情を出したら勝ちだ。
 負けたら、マガジンスペシャルに電撃移籍してもらう。

「一見あざやかにカッコよく戦っているように見えても実は――――」
「ドラム演奏と同じ」
「敵を叩くための攻撃ではない 助けがくるまでのスタンドプレイ」


 速いけど軽い。軽いから速い攻撃だったのか。
 それじゃあ、殴られている切雨先生にはスグばれるというものだ。

 丹波は、切雨にトリックを見破られたと悩んでいた。
 しかし、こういうトリックではバレないほうがどうかしている。
 丹波くんは少し勉強もしたほうがいいと思います。

「じゃあ――――――
 タンバがやたらと出していた大声は」

「助けを呼ぶための」
「悲鳴」


 少年探偵・木戸が驚愕の推理力で8話の真実を次々とあきらかにしていく。
 当時の木戸はちゃんとおどろいていた。
 だが恐るべき記憶力を持つ少年は、事件の細かな矛盾点を探り出したのだろう。
 それこそ、意地悪な姑が嫁の掃除の手抜かりを探し出すような執念で。
 丹波も、ここまで分析されてしまっては素直に敗北を認めるしかない。

 木戸の推理を聞いた上で9話をふり返ると、丹波が警備員がやってくるのを待っていたことがわかる。
 そして、ノーダメージの切雨をみて木戸が丹波のカラクリに気がついた事もわかる。
 ここで丹波は致命的な物的証拠を現場に残してしまったのだ。

「おまえってさァ」
「ホンッ‥‥とに」
「油断できないよなァ〜〜〜〜」


 切雨はそういいながら親指で木戸の鼻を押しこむ。
 メヂ…
と顔の中心にねじりこむ。
 これがアンパンマンなら中身が出てくるほどの圧力だ。
 ついに相撲教師・切雨静の暴力が炸裂した。

 頭蓋骨の中にまでメリこみそうな鈍い痛みに、涙を流し鼻血も出てくる。
 手で受けても、手の平からこぼれ落ちる大量の出血だ。
 机に向かう毎日だった木戸の人生で、これほど出血したことはないだろう。

 しかし、木戸は悲鳴はあげなかった。
 初体験の痛みと出血にも耐える。
 地上最強の権力を手中に収めようと考えるだけあって、この胆力はかなりのものだ。

「転校しろ」
「だァ〜〜れも助けちゃくれねェぞ」


 切雨はダメ押しをする。
 丹波が弱いと告げて、木戸の希望を断つ作戦は失敗した。
 しかし、木戸と丹波が置かれている状況は改善されていない。
 この大相撲教師の押しの強さに、ふたりは早くも土俵際だ。

「あなたは‥‥‥‥」
「タンバくんに倒されます」
「近い将来にきっとッッ」


 この状況であっても、丹波が弱いと知っても、木戸は丹波を信頼していた。
 悪の大魔王にとらわれても勇者を信じるお姫さま並の信頼感だ。
 丹波の偽装を見破った木戸だ。
 この発言も、愛は盲目のたぐいではなく、なにか確信があってのものだろう。

 しかし、それにしても、なんという姫っぷりだ。
 木戸新一。このような漢(おとこ)が女として板垣作品に存在していたなら。
 あるいはバキSAGAも山賊に身を落とすことも――――――
 いや言うまい。

 木戸の心が難攻不落と知った切雨は目標をかえる。
 目指すは丹波文七だ。
 実は、打たれ弱そうだし。

 丹波が2年間トリックを見せつづけて支配した中学校だった。
 一般生徒から不良生徒まで、まんべんなく信頼され恐れられている。
 さすが名優丹波だ。
 メガネをかけているときはマジメぶっているで、日本アカデミー・相撲男優賞をとったというウワサの切雨先生が認めた男である。

「ちょいと研修会があってな」
「来ちまったよ」


 そして、容赦なく切雨はやってくる。
 丹波の城は、切雨の押し相撲で崩れ去るのか?
 ハッタリでごまかしていた砂の城だけに、ゆらされると弱そうだ。

 舞台の上でいつ割れるともしれない「ガラスのまわし」をしめている丹波は大ピンチだ。
 ガラスだけに中身マル見えで、切雨に正体を読まれているのが痛い。


 丹波が2年かけて築いた地位は崩れ、孤独な餓狼になるのだろうか。
 ぶらり一人旅(失踪ともいう)が趣味になる丹波の人格は、中学時代に人間関係で挫折したことに始まるのかもしれない。

 しかし、木戸は将来の丹波が勝利すると信じている。
 木戸の読みは信用できる。
 ならばこそ、丹波は絶望的な敗北から立ち上がり、成長するのだろうか。
 成長できなければ、マガジンスペシャルに養子に出されるぞ。
by とら


2004年5月12日(24号)
餓狼伝BOYは休場です

 餓狼伝BOY感想は、毎回大相撲ネタを考えるのに苦労する。
 別にこだわる必要はないのだが。
 とりあえず形から入るべきか。餓狼伝BOY感想は、マゲとまわしを装備すべし。

 丹波文七は、実は隠れヘタレであることが判明した。
 この状況では隠れ大相撲の切雨に勝てるとは思えない。
 なぜか、木戸は丹波が勝つと確信しているようだが、アレはなんかカン違いしているっぽい。
 愛は盲目というヤツか。

 そもそも、丹波は身元が判明していなかったので、木戸を助けに行かなければ切雨の土俵に上がることはなかったはずだ。
 切雨が木戸に対して要求したのは「転校しろ」だ。
 元から違う学校の丹波は、そのまま関わらなければ見逃してもらえた可能性が高い。
 それでも駆けつけちゃったのは、木戸への愛ゆえか。

 転校すればゆるすといっているあたり、切雨先生も実は甘い人かもしれない。
 もちろん、だましている可能性はある。
 しかし、切雨先生の大雑把な対応を見るかぎり、座右の銘は「適当にごまかす」だろう。
 丹波のところに来たのも、「木戸が転校してくれなくてさぁ。たのむからオマエからも言ってくれよ」と泣きつきに来たのかもしれない。
 え……と、こういうのを業界用語で「注射」(八百長のこと)と言うんでしたっけ。

 普通に考えれば、丹波は学校のみんなの前で、全国ネットでフルチン級の屈辱を受けるのだろう。
 そして、復讐だ。
 きっと木戸が秀才を発揮してすごいドリンクとか作ってくれるだろう。

「ッ――――――。これって、だいじょうぶなのか。ヤバクない?」
「まかせてよ。材料は合法的に入手したし、漫画にも効くって書いてあったよ」
「漫画って、それマズイよ。漫画で得た知識はあやういって。民明書房は実在しないんだぞ、知っているのか」
「フッ、元ネタこれだから、完璧だよ」
「視神経は首にはありませんと十年近くツッコまれそうな危険度ッ!
 というか、デカっ。14キロ、でかッッ!」


 と言う感じで蒸気を出して丹波文七が十年分ぐらい成長するでしょう。
 で、その時に蒸気が吹き出した痕が左こめかみに残ったと。
 丹波の左こめかみの傷痕に関するエピソードは餓狼伝BOYで語られると思う。
 ただ、キャラクター造形にかかわる話なので、登場する時期はもう少しあとかもしれない。

 なんにしても早く丹波くんに目覚めてもらうしかない。
 でないと切雨が木戸に対するインシツな攻撃がはじまりそうだ。
 たとえば、木戸家のTVアンテナをのっとり大相撲中継しか流れないようにするとか、力士と一緒に電話ボックスの中に閉じ込めるとか。

 寝ている間に髪型をまげにされていたら、かなりショックですよ。
 あと、冷蔵庫にケーキとか仕込んで、母親を重量級のアンコ型に改造する陰謀もつらい。



・日記にも板垣ネタを書くことがあるので、物足りない人はそっちで補充してください。
by とら


2004年5月19日(25号)
Vol.13「崩壊」

 抱いてくる相撲教師No.1といわれる切雨静が、丹波学園に土俵入り。
 常夏の丹波王国は秋を通りすぎて、いきなり冬になったようだ。
 丹波文七が、漏らさんばかりに震えている。

「こんなちっぽけなガッコウ‥‥‥‥」
「シメてんだ(はぁと)」


 切雨は言葉責めから攻撃に入る。
 ハッタリばかりで中身のない丹波をバカにしている。
 オマケにそこまで必死こいて築いた丹波王国を「ちっぽけ」という。

 学校をシメる者として、バカにされたまま黙っているわけにはいかない。
 でも、丹波は弱いんだ。まともな喧嘩だってしたことがない。
 震えて声は出ないし、視線も合わせられない。目は左右バラバラにゆれている。

「なにをしにきたッッッッッ」

 顔をふせたまま丹波が吼えた。
 これは、戦うための雄叫びではなく、助けを呼ぶための悲鳴だろうか。
 これで周囲の注目を集めて、他の教師も集めようと考えていそうだ。
 誘拐されそうになったら、大声を出して助けを呼ぶのが基本だ。
 たぶん、他校の生徒とケンカしそうになると大声出して警察を呼ぶのが、丹波の戦術なのだろう。

「さっき言ったばっかりじゃん」
「研修会で来た‥‥って」


 そういいながら、切雨はさりげなく丹波の肩に手を置く。
 研修会というのは建前で、本当の目的は何だ。
 丹波はそう問うたのだろうが、みごとに口先でごまかされた。
 正確には、力で押し切ったというべきだろう。さらに必殺の切雨スマイルだ。
 ヤクザも逃げだす、切さまスマイルに丹波もおもわず土俵を割る。。

 ポン

 丹波の肩を叩く音は軽い。しかし、丹波は吹っ飛び、壁に激突する。
 崩れそうな体を立てなおし、丹波が構える。
 だが、切雨はすでに背を見せていた。
 そのまま帰る気だ。

「おまえの計算通りだ」
「ここでは絶対に手は出せねェ」


 教師が中学生に手を出すのはヤバい。
 人目のある学校内では、切雨は手は出せない。そう丹波は計算していたようだ。

 切雨も読んでいた。
 だから、拳で殴ったりせず、スキンシップだとごまかせる範囲で攻撃したのだろう。
 名づけて「メガネ・ナイスバディの新任教師はお色気スキンシップがお好き 夜の体育倉庫ドキドキ個人レッスンその後のアフターケア」攻撃だ!

 テキトウなようで、ちゃんと知的な行動をしている。さすが、教師だ。
 毎晩あちこち駆けずまわって大変だろう。
 やっていることは、小さいんだけど。丹波と同レベルという気がする。

「明日また来るぜ」
「なにせ俺ァ‥‥」
「ここいら一帯の生活指導本部長だからよ」

(えらいことになった!!!)


 小さいとかいったけど、間違っていた。
 昨日の今日で、そんな地位に登りつめていたとは。
 審議委員会の人をノーパン・ちゃんこ屋に連れ込んで、ムリヤリ生活指導本部長の就任を承諾させたのだろう。

 丹波ひとりを追いつめるために、ずいぶん大げさな役職を用意したものだ。
 ちょっとマヌケな感じもする。
 カップラーメンを美味く喰うために、富士の湧き水をくんできて備長炭で沸かして漆塗りの箸を用意するようなものだ。
 無駄が多すぎ。


 超大国の大空爆を受けた気分の丹波は、しょんぼりと特訓部屋へ帰っていく。
 悩んではいるけど、汗をかいていないし顔も崩れていないので、まだ余裕がありそうだ。

 特訓部屋のカギが開いている。
 そして、演出(インチキ)用の小道具が全部なくなっていた。
 丹波、大ショック!
 あぁ、表情が崩れている。汗もかいている。かなりダメだ。余裕なし。


 翌日、それでも丹波は登校する。
 本音では学校休みたいところだろう。
 それでも、虚勢を張るのが丹波流だ。

 校門で待ち構えていたのは、山田だった。
 不良とは思えないごく一般的な容貌の男だ。
 初登場なので、それぐらいしかワカらない。

 まともに話したこともない相手らしいが、丹波はちゃんと名前を覚えている。
 優秀な記憶力だ。この頭脳をハッタリとは違う方向に発揮すれば、木戸といいライバルになれたかもしれない。
 もっとも、出会った翌日には名前でよんでいた木戸と山田では親密度の格がちがう。

 山田が丹波を殴った。
 顔面を拳で殴打する。
 シロウト丸出しの構えで、左右の連打を叩きこむ。

 丹波、思わず鼻血する。うゎ、ダサっ。
 意表をつかれポカスカ丹波は殴られる。
 どうした丹波、防御がなっていないぞ。

「てンめェッ」

 ガッ


 丹波が思わず反撃する。
 ビン斬り・石砕きの鉄拳が、山田の顔面にメリ込む。
 早朝の撲殺劇に全校生徒が息をのむ。


 ……
 ………
 ……………あれ?
 山田、ノーダメージ。

「効かねェだろ こいつのパンチ」

 ダメ押しで切雨先生が登場だ。
 普通の生徒も倒せず、丹波株は大暴落だ。
 砂上に築かれた丹波王国が、崩壊する。
 次回、山田に鼻血も出させられなかった丹波は、泣いて逃げ出すのだろうか?

 と、いうか丹波はパンチ力無さすぎ。
 山田よりも弱そうだ。
 それとも、この山田は切雨がスカウトする逸材なのか?
 餓狼伝BOY最大の敵として、丹波の前に立ちふさがるかもしれない。

 たぶん、山田のガクランは実は拘束具なのだろう。
 あの下には100kgをこえる本格的な力士の肉が詰まっている。
 つまり、力士養成ギブスなのだッ!
 あるいは、シークレット力士スーツだッ!
 迫りくる外国人力士に対抗すべく、学生型決戦力士を生むべく防衛庁が極秘開発したに違いない。


 話をもどす。
 丹波の演出(ウソツキ)用具を奪ったのは切雨だろうか。
 だとすると、丹波の隠れ家もバレてしまった。逃げ道はない。
 で、切雨が道具をあの場で出して、トリックを暴きだしそうだ。

 だが、ひょっとして、道具を奪ったのは木戸かもしれない。
 木戸は丹波の可能性を信じている。
 頼りにしている道具を隠すことで、丹波の奮起に賭けたのかも。

「タンバくん、もっと本格的に格闘技を勉強しよう。
 まずは、立ち技最強といわれる、ムエタイだ!」

 いや、ムエタイはやめておけ。
 板垣漫画でムエタイに勝ち無し。恥辱の極みが待っているぞッ!
by とら


2004年5月26日(26号)
Vol.14「期待」

 知られざる強敵・山田の登場により、餓狼伝BOYの格付けに大異変がおきた。
 というか、いくらなんでも丹波が弱すぎる。
 それなりに鍛えているはずなんだから、殴ればそれなりに効くはずだ。
 しかし、ほとんど効いていないらしい。

 丹波って、本気で試し割りの練習しかしていなかったのか?
 それはもう、試し割りに特化した 究極の試し割り中学生なのかもしれない。
 いっそうのこと手品師に職をかえたほうが大成するかもしれない。
 地上最強の夢敗れたものは、それぞれの分野での最強を目指すというし。
 最終的に奈良の大仏を試し割るぐらいの大物になって欲しい。

 さて、丹波文七は考える。
 どうやって切り抜けるべきか。どうゴマかすべきか。
 もう一度、全校生徒に「丹波は強い」と思わせるのが目的だ。

 とりあえず、切雨がジャマだ。
 この力士がいる時点でかなり終わっている。
 将棋でいえば、すでに飛車・角取られている状態だ。

 …………丹波くん、あきらめようよ。
 今もがいても、傷口を大きくするだけだぞ。
 アッパーズに帰ろう。

 でも、すでにテンパっちゃっている丹波は、それでもゴマかそうとする。
 そでの中に仕込んでいたハトを落とした手品師が、必死に手品を続けているようなみじめな状態だ。

「うん」「よし」「わかった‥‥」
「わかったよ」


 動揺しているのか、口数が多い。
 やたらと「うん」「よし」言って、いろいろ考えているようだ。
 丹波肉体が試し割りに特化しているなら、丹波頭脳はハッタリに特化している。

「もーいっかいやろうぜ山田」

 失敗したところからやり直すと決めたようだ。
 飛車・角は取られたけど、歩は取りかえすぞ。そんな感じ。
 すっかり、丹波は混乱しているようだ。

 しかも、敵は不動の山田だった。
 つかむ丹波の手を、つかみ返す。
 なんか、丹波は握力負けしているっぽい。
 丹波、ダメダメだ。

「いいですよ殴り合わなくたって」
「もうワカりましたから インチキだってことは」


 冷静に諭される。
 あんたの拳はまったく効きませんと暗に言われている。
 その言葉に追いつめられた丹波が反応した。
 いきなり山田を殴る。さらに殴る。
 ガードの上からもかまわず、必死になって殴りつける。

「そのへんにしておけタンバ」

 背後から切雨が声をかける。
 その瞬間にスキが生まれた。
 そして、山田が動く。

 バチッ

「やってやるッッ」
「もうダマされないぞ」


 山田の一撃が決まった。
「はじめの一歩」と対照的な超軽打、互いに倒すことのできない壮絶な殴りあいだ。
 ちなみに、地味っぽい山田が一歩に相当し、策士の丹波は武だ。
 もともと打撃戦が苦手なのか、丹波は連打で息を切らしている。
 打撃力も持久力も、この人は弱い!!

「山田と五分五分かよ」

 観客(学生)たちも、山田と真剣に打ち合う真なる丹波に大興奮だ。
 これは、ダメがダメと競い合う、ダメダメの頂上決戦なのだと気がつき始めているようだ。

 いや、本当に山田と互角かよ。
 丹波がここまで弱いのは、この山田が切雨の刺客ではないかと疑いたくなる。
 知り合いの映画関係者をよんできて、特殊メイキャップで作り上げたニセ山田かもしれない。

「調子に乗りすぎだぜ山田くん」

 その山田を切雨は張り手で飛ばす。
 ハデに飛んで、山田が転がる。
 丹波が試し割でみなの心をつかんだように、切雨は山田で試し割りなのか。
 丹波がいくら殴っても倒せなかった山田を、たった一撃でッ! そして伝説になる?

「ところでタンバ」
「友達(ダチ)がきてるぜ」

「シンイチッ」


 自分の情けない姿を、世界で一番見て欲しくない人に、見られた。
 ちょっと、これは、すごく可哀想だ。
 学校での地位を失っても木戸の前だけでは虚勢を張っていたかったんだろう。
 もちろん、すでにバレているなんて丹波は気がついていない。
 そいう意味で、二重のショックをこれから受けるはずだ。

「よーし 持ってこいッッ」

 さらに追打ちをかけるように、丹波のインチキ道具を持ってこさせる。
 舎弟だったはずの連中が、秘密の丹波グッズで自然石割り・板割り・ビン斬りを成功させていく。
 すべてが崩壊する予感に、ガチガチと丹波が歯を鳴らしている。

 板は、一度割って接着してあり、ビンには焼いてヒビを入れている。
 試し割りトリックの中でも最も外道な手段だ。
 丹波は、ここまで堕落していたのか。

「マジかよ‥‥」
「インチキかよ」
「ハッタリ ヤロウか」


 とたんに、評判が悪くなる。
 丹波王国の崩壊だ。
 この調子だと、丹波にわざわざ殴らせて「コイツ本当に弱ェッッ」と全校生徒に言われそうだ。
 ある意味、全校生徒から殴られるよりつらい。

「シンイチ」
「オマエたしかに言ったよなァ」
「あのタンバが俺を倒す」
「期待にこたえろタンバァッッ」


 ムリと知っていて、難問を丹波に押しつける切雨であった。
 来て欲しくないときにヒロイン登場で、丹波は困った立場に追い込まれた。
 思い切って配役をかえて、丹波がヒロインになって木戸にお姫さま抱っこしてもらって逃げるのはどうか。

 いまの丹波を見ていると、まっとうな戦力はひょっとすると木戸の方が上かもしれないと思ったりして。
 ひょっとすると、3話で木戸に殴られたときの丹波も、ダウン寸前、脱糞寸前の状態だったのかもしれない。
 あの時、丹波が木戸の腕をいつまでもつかんでいたのは、自分が倒れないためだったとか。
 見栄はるのも大変だなァ。

 原作(小説)の丹波は、負けるたびに放浪の旅に出る傾向がある。
 それを考えると、丹波は逃げ出しそうだな。
 丹波の逃げ癖は、この事件がきっかけなのかもしれない。

 そして、丹波が美少年の涼二を連れ歩くのも、この事件がきっかけだったりして。
by とら


2004年6月2日(27号)
Vol.15「勝負」

 熱いハッタリありがとうございました!
 丹波文七の次回策にご期待ください!

 というわけで、ハッタリ最強伝説は第一部・完で打ち切られ、今週からヘタレ最弱伝説がはじまる。
 西条先生、これを機にチャンピオンに帰ってきてください。

 丹波のトリックはまるっとお見通された。
 不可能殺人のトリックも、完璧だったアリバイも、不明だった動機も、全部暴かれた殺人犯のようなものだ。
 半径30メートル以内に手ごろな崖があれば、猛ダッシュで飛び込んでいるだろう。

 全生徒に白い目で見られている。
 文字通り、全員黒目がない。
 まるで名前もなく顔も見えない集団に糾弾されているようだ。

 これは、とてつもない恐怖だろう。
 気がついたら学校の生徒全員がゾンビと化して襲いかかってくるような感じだ。
 逃げ道は無し。助けも無し。喰われるだけ。まさに悪夢だ。

(やられるッッ
 袋叩き(フクロ)に!!!)


 白目の学生ゾンビ集団に一口ずつかじられそうな予感に、丹波が大量発汗中だ。
 確かに無言の圧力はあるかもしれない。
 しかし、普通はいきなりフクロにされるとは考えない。
 丹波は、相当ひどい事をしてきたのだろう。

 と、背後から蹴りを入れられる。
 思わず丹波は倒れてしまう。
 足腰が弱い。相撲なら負けだ! もちろん相撲に蹴りはないのだが。

「どーゆーことか説明しろよ」

 弱味をみせた草食動物は、獣の群れに狙われる。
 丹波はその辺の機微を知り尽くしているはずだ。
 ここは虚勢で乗り切るしかない。
 立ち上がり服をはたくことで間を取り、心を落ち着ける。

「その前によ」
「誰が蹴った?」


 早くも持ち直し、すごんでいる!
 汗も引いているッ!
 スゲェ、名優だな丹波ッ!

「その前にじゃねーよ」
「説明しろッ つッてんだよ」
「蹴ったのは俺だよ」
「文句あんのかよ」


 だが、丹波の名演技も通用しない。
 蹴ったのはC組の髪脱色男―――――― 名前は思い出せないらしい。
 丹波にとっては山田以下か?

 山田という小さな山を越えることができなかった。
 そんな丹波の前に、さらに小さな山が立ちふさがる。
 ハッタリ破れて丹波はふたたび汗を流す。

 思わぬ子犬に噛みつかれて、しかもそれが大ピンチだ。
 丹波はもう一度ゴマかそうとするが、平手打ちを喰らってしゃべらせてもらえなかった。
 言葉を封じられると、今の丹波はとても弱い。
 またまた汗がふきだし敗北寸前だ。

 一方、木戸は、殴られたり倒れたりする丹波を見るたびに、背景に電撃飛ばしてショックを受けていた。
 愛する者の大ピンチを、木戸はどう打開する?
 もう、どっちが守ってやる側なんだか。

「ごくり」

 丹波は唾を飲みこむ。
 そう、ここが正念場だ。うまくゴマかせば、フクロは避けられる。
 でも、ムリっぽいです。
 今まで醜態をさらしすぎ。

「おめェらは どう思うんだ?」

 復ッ活ッ!
 丹波復活ッ!

 汗も引いている。すごいぞ丹波ッ!
 名女優は、真夏の撮影で強烈なライトを浴びても顔に汗をかかないといわれる。
 丹波の制汗能力は、名女優と互角か。

 でも、納得してくれないC組の未確認学生たち。
 もう、言葉だけじゃ足りない。
 なにか行動で証明しないと。でも、さすがに打開策は思い浮かばないようだ。
 丹波はただ突っ立って虚勢を張ることしかできない。

 未確認学生が襟をつかんで丹波に殴りかかろうとする。
 丹波は平然とした表情をしているが、その心中はどうなのだろう。
 ちょっぴり尿を漏らしているかもしれない。

「ごめんなさいッッ」

 叫んだのは木戸だった。
 さっきからメガネを光らせるのが精一杯だったが、ここにきて秀才ぶりを発揮する。

「タンバくんのように板や石を割りたくって」
「それで‥‥」
「タンバくんが留守の際に板や石やビンに仕掛けを‥‥」
「ごめんなさいッッ」
「それをタンバくんの前で割ったら驚いてくれるかと‥」


 おお、みごとな助け舟だ。
 思わず切雨も怒りを覚えるほどのフォローであったが、肝心の丹波がダメだった。
 丹波、いきなり殴られて倒れる。

「山田と五分ったこと――」
「どう説明するンだよォッ」


 あぁ、そこには触れて欲しくなかった。
 というか、鉄の山田がいたから説得力がないんだよな。

 ちくしょう、お前なんて名前もないくせに山田をバカにしやがって。
 山田といえば、一歩間違えればドカベンか漫☆画太郎の珍遊記だぞ。
 お前にドカベンと漫☆画太郎の二択をする勇気があるのか!?

 殴られ蹴られる丹波を見て、他の生徒たちに邪悪な感情が感染する。
 集団リンチだった。
 やっぱり人望が無いのか、丹波が集団にタコ殴られる。
 伝説の頭 翔もニセモノとばれたらタコ殴りか?

「もう少しで‥‥」
「親友(ダチ)を救えたのにな‥‥」


 木戸の作戦は計算外だったが、切雨の予定通り丹波は潰されていく。
 というか、まわりくどい潰しかただ。
 もっとスマートにできないのか?
 そもそも、そこまでしてハッタリ大魔王を潰す必要があったのか?

 丹波の弱さを知りながら、それでも木戸は助けてくれようとした。
 その期待にこたえるべく、丹波はまたも立ち上がる。
 殴られながらも、丹波は何かをつかんだのか?

「ほんとにブッ壊してみせりゃいいンだろ」

 首を飛ばされたビール瓶の前に立つ。
 ガラスの断面が危険に光っている。
 丹波、ヤケクソか?

 ビール瓶切りにはコツがあるらしい。
 手刀で切るのではなく、衝撃で折るのだ。

 ビンでイチバン折れやすいのは、細い首の根元だ。
 ここが急に細くなっているほうが、構造的に折れやすい。
 だから一升瓶より丹波が使っている形のビンの方が折れやすい。

 殴るのは弱い部分ではなく、ビンの一番上の部分だ。
 てこの原理を利用して、折れやすい部分に衝撃を集中させる。
 もちろんビンの中身は入れておいて動かないようにしておく。

 と、いうのがコツらしいのだが、このビンにはすでに首がない。
 ビンの胴をそぎ落すのは、至難の業だ。
 丹波にできるとは思えない。

「やめろタンバァッッッ」

 木戸が必死に止めようと、思わず呼び捨てになった。
 だが、その制止を振り切り丹波は拳を振りおとす。
 振りおとしたのだ。縦に。
 ギザギザにとがったガラスの断面に、思いっきり拳をぶつけた。


 血を飛び散らせながらも、ビンは粉々に砕けていく。
 拳を犠牲にビンを粉砕した。

「切雨ッッ」
「オレと勝負しろッッッ」


 自らの返り血を顔に浴びながら丹波が吼えた。
 己の拳を省みずビンを砕いたように、身体を棄てても切雨を倒すつもりか!?

 と、覚悟を決めているようだが、トリックの前科があるのでちょっと信用できない。
 ビン切りが難しいのは、ビンが固定されていないからだ。
 うまくやらないと、ビンが飛ぶことで衝撃が逃げる。

 でも、ビンを縦に殴れば、衝撃は逃げない。
 すでに割れたビンだし、もろくなっているかもしれない。
 あとは拳を犠牲にする覚悟があるかだ。

 そして、切雨は学校内で手を出せないと13話で言っていた。
 今回も、切雨は勝負を受けることができないと計算しての発言かもしれない。
 つまり、丹波お得意のハッタリか。


 ただ、切雨も色々と策を用意していそうだ。
 校内相撲トーナメントを開催して、授業の一環として丹波を潰すと考えているかも。
 なんか、回りくどい作戦が好きなようだし。
 そうなれば、ライバル山田がふたたび丹波の前に立ちふさがるだろう。

 最近の風潮だと、教師が生徒を殴ると問題になる。
 だから、切雨はまわしを常備(?)しているのだろう。
 まわしさえ締めていれば、相撲(授業)の一環と言い切れる。
 よほどの変態でない限り、まわしを締めて夜の街へ行きはしない。

 常識に縛られた大人には、まわしに隠された陰謀を読み取るのはむずかしい。
 正常な人間に、変態の気持ちがわかりにくいのと同じように。

 とりあえず、切雨がそこまで中学教師という職にこだわるのかわかりません。
by とら


2004年6月9日(28号)
餓狼伝BOYはお休みです

 丹波がハッタリ巧者という事実を踏まえて殴られ屋・ハルヤ事件を検証してみる。
 早い話、作品の矛盾を ゴマかす 説明する展開を思いつきました。


 そもそも、なんで丹波は"殴られ屋"を殴りにいったのだろうか?
 動機は不明だが、簡単に推論できる。名声が欲しかったからだろう。
 "殴られ屋"は有名なので、丹波の学校でもウワサは聞こえているはずだ。

「タンバさんなら、"殴られ屋"を殴ることができますよね?」
 そんな事をC組の―――― 名前は思い出せないけど金髪のヘボいヤツ―――― が言い出す。
 バ、バカ野郎ッ、プロだって通用しないって言うのに、俺が殴れるかよ。丹波は、心の中で半泣きだった。
 しかし、そこは名優だ。マジメな顔をして「俺は遊びじゃ人を殴らないんだよ…」とカッコ良く決める。

 でも、いつか引っ込みがつかなくなった時のために、ちょっと偵察に行く。
 たぶん丹波は、こういう下準備を欠かさないタイプだ。
 ひょっとしたら料理とかが得意かもしれない。


 実際に"殴られ屋"と対峙した丹波は、超一流の名優のみに出しうるすごい殺気を放出する。
 人を殴ったことのない木戸ですら手を出してしまうほどの殺気だ。(3話
 殴られ屋・ハルヤも思わず手を出してしまう。

「ハルヤもそうだった」
「前に立ったら―――――」
「いきなり殴りかかってきやがった」


 のちに丹波はこう証言している。
 今見ると、ちょっと不満そうな口調だ。
 覚悟はしていたけど、やっぱり殴られるのはイヤだったのか?

 丹波の顔はさりげなくボロボロだ。
 実はハルヤさんの打撃で、ノックダウンしたのかもしれない。
 なにしろ山田と互角なんだし。

 この件に関して"殴られ屋"は次のように言っている。(1話
「負けたっつーか倒されたワケじゃないんだけど‥‥」
「マジで殴りかえしちゃって‥‥」


 やっぱり丹波の打撃は効いていなさそうだ。
 倒れていないんだし。
 どちらかと言うと、殴ってしまった事を重大にとらえているようだ。

「「殴られ屋」が殴り返したんだ‥‥‥」
「もうこの商売を続けちゃダメだ」


 引退の理由は「殴られた」ではなく、「殴ってしまった」だ。
 "殴られ屋"は喧嘩に負けたのではなく、己に負けた。

 丹波の話では、正面に立ったらいきなり殴りかかってきたとなっている。
 "殴られ屋"の話とは少し差異がある。
 殴ってしまった事による動揺で、"殴られ屋"の記憶に混乱があるのかもしれない。

 "殴られ屋"の顔はボコボコになっていた。
 アレは、丹波がやったのだろうか。
 山田もビックリ・不殺の赤ちゃんパンチで、あのダメージを与えられるのか。

 ここで思い出す。殴られ屋は大繁盛だった。
 客は丹波だけではない。
 あのケガは丹波以外の誰かにつけられたモノではなかろうか。

 "殴られ屋"は中学生の丹波を殴ってしまった。もしかしたらノックダウンさせた。
 記憶に混乱をきたすほど動揺している。
 その状態で"殴られ屋"を続けたら、まったく集中できていないだろう。

 ハルヤさんは律儀そうなので、本日分のお客さんはこなしていそうだ。
 しかし、丹波の後は動揺していて、よけることができなかったのではないか。
 つまり、"殴られ屋"の顔をボコボコにしたのは、丹波の後の客たちという可能性がある。


 その後、なんで丹波は"殴られ屋"の家にきたのだろう?

 考えられるのは口封じだ。
 丹波は"殴られ屋"を殴ったもののダメージを与えられなかった。

「よし…。うん、よし。わかった…、わかったよ。
 パンチが効かなかった、それでいい。
 どーってことなかった、それもいい。うん。
 だからさ……、もーいっかいやろうぜ、"殴られ屋"」


 丹波、情けないけど再チャレンジだ! ある意味では、不屈の闘志だ。
 もしくは、土下座。
「パンチ力が全然無いことは誰にも言わんといてくださいッッ」
 ハルヤさんは良い人っぽいので、泣きつくのは有効っぽい。

 あの時、丹波は蹴りでコンクリート製らしき壁を破壊していた。
 山田を破壊できない丹波にそんな芸当ができるのか?
 それとも蹴りだけは強いのか?
 その謎について、掲示板で空師さんが、
「ハンマーとかでひびを入れてから蹴ったんです」と解答しておりました。

 これは気がつかなかった。
 確かに、丹波は準備に力を入れる人だ。
 壁にこっそりヒビを入れる程度のトリックはしていそうだ。

 なんでそんな事をしたのか。
 俺が本気を出せば、すごいんだぞ!
 そう、アピールしたいのか。
 やっぱり、自分の強さを演出するのに一生懸命なのか。

 丹波は、"殴られ屋"の家の前で待ち続ける。
 人が出て来た瞬間にガッと壁を蹴って、強さを見せつける。
 そうやってビビらせてから、交渉する。

「口先と演出だけで‥‥ 乗り切ってきた‥‥」
11話
 これが丹波流の交渉術だ。

 でも、出てきたのは知らない中学生(木戸)だった。
(うわっ、ヤベッ。人違いだ)
 これは恥ずかしい。
 その後の行動は、けっこうメチャクチャだ。かなり動揺していたのだろう。(2話

 その後、家には子供がいると聞いて立ち去る。
 ひょっとしたら、丹波は帰る口実が欲しかったのかもしれない。
 "殴られ屋"に自分の強さを思い知らせるのは、かなり厄介だ。
 余計な他人(木戸)や子供もいることだし、出直そう。

 ここで、ハルヤさんの家にお邪魔しておけば、変態スモウ教師に出会うことも無かったのに。
 そして、不運の連鎖は現在も続いている。
 というか、漫画版・餓狼伝自体にまで不幸が忍び寄っていたりして……



・日記にも板垣ネタを書くことがあるので、物足りない人はそっちで補充してください。
by とら


2004年6月16日(29号)
Vol.16「力技」

 拳が駄目になるかもしれない。
 それほどの危険をおかして、丹波はビンに拳を振り落とした。
 ビンの破片が砕け散る。血が拳から吹き出し散っていく。異質な二種の物質が混ざって飛び散った。
 丹波文七、渾身のビン切りだ。

「切雨ッ」
「俺と勝負しろッッッ」


 ビン切りで周囲に衝撃を与え、すかさず切雨に勝負を挑む。
 さすが丹波だ、観客の呼吸をみごとにとらえている。
 そして相変わらず木戸は背景に電撃を飛ばす。
 みごとな驚きぶりだ。それでこそ丹波の相棒といえよう。

 この場で一番心を痛めているのは、木戸だろう。
 丹波の実力を知り、行為のキケン度を知り、現在の状況を知っているのは、丹波本人と切雨そして木戸だけだ。
 木戸が電撃飛ばしているのはダテじゃない。
 丹波は力士でいえば雷電級の危機をむかえているのだ。

「わかった」
「受けよう」


 切雨が立ち去ろうとしながら、そう言った。
 この男はまたなにか企んでいるのだろうか。
 とっさに背を向けたのは、それなりに策を考え心の準備を整える必要があったのだろう。
 しかし、行動がちょっと後ろ向きだ。
 がむしゃらに ぶつかって行く強さが無い。このへんが切雨の弱点となるのかもしれない。

「インチキ呼ばわりして悪かった」
「すまん」


 一度ふり返って、切雨が頭を下げた。
 今までの恫喝的な態度が一変している。こうなるとかえって不気味だ。
 木戸も思わず電撃を飛ばす。この男は人間発電機か?

「放課後5時」
「場所は野川橋」


 みなに聞こえるように切雨が言った。
 丹波を追い込むことはできるが、自分も追い込まれる。
 これで二人とも逃げることはできない。
 これは作戦として正しいのか?

(乗りきりやがった)

 ふたたび背を向けた切雨の顔が、変化していく。
 唇はめくれ上がり、アゴは怒り皺でウメボシ状になっている。
 今までに見せたことの無い、憤怒の表情だ。
 追いつめたと思った丹波が復活したのが、そんなに悔しいのか


 それほど怒っているのなら、なぜここで今すぐ戦わないのか。
 切雨のことだから、なにか考えているとは思う。
 今までの傾向から、たぶん せこくて小さい事を考えているのだろう。
 すぐに怒りを爆発させない分、あとでド外道なことをやらかしそうだ。
 キケンなのは伊波さん………ではなく、木戸だな。

 切雨という超弩級の教師は去った。
 そうなると、ココからは丹波の世界だ。

 ビチァッ

 血塗られた左手で顔面をビンタッ!
 肉体的ダメージよりも、精神的ダメージを狙ったものだろう。
 顔面血まみれという壮絶な初体験をした中学生たちは、たちまち戦意喪失する。
 丹波の機をつかむ才はかなりのものだ。
 役者だけではなく、戦闘においても勝機を逃さない才能を持っているだろう。

「俺を疑(うた)ぐるなァッッ」
「俺を2度と疑(うた)ぐるんじゃねェッッ」
「ワカったかァッッ」


 丹波文七、魂の咆哮だ。
 ちょっと必死になりすぎて、セリフが悲壮な感じになっている。
 こんな決め台詞言われたら、かえって疑いたくなるのが人情だと思う。
 怒り皺を眉間に刻んで黒目を縦横に震わせ唾を飛ばしているが、なんか心の中では半泣きしていそうだ。

(スゴい‥‥ッッ)
(なんて力技‥‥‥ッッ)


 それでも木戸は感心している。
 けっして、あきれているわけではない。たぶん。

 木戸のいう通り、かなりムリした力技だ。
 拳の損傷と、直後にやってくる切雨との対決など、まだまだ問題は残っている。
 それでも、この場をムリヤリまとめちゃった丹波はすごい。

 ところで、山田はどうした。
 ビン切りのトリックよりも、山田と五分という点が丹波を窮地に追い込んだ。
 その山田の姿が見えない。

 丹波の攻撃を平然と受け止めた山田のタフネスが、丹波の実力を不明にさせている。
 いくら方程式を立てても山田という要素が計算不能にさせている。
 切雨と同時(?)に姿を消した山田太郎(仮)。ヤツこそが、この事件の黒幕なのか?

 じつは校舎裏で、山田と切雨が反省会をしているのかも。
「いいか静、張り手ってのはこう打つンだよ」
「ハヒィィィ〜〜〜。すいません、山田さま」

 てな感じに。切雨が勝負を放課後に持ちこしたのは、山田の指示をあおぐためだろう。
 最強伝説・山田の開幕だ。

 そして、放課後がやってくる。
 木戸は丹波ハウスを訪れていた。中には、ちゃんと丹波がいた。
 もしかしたら、丹波が逃げ出すんじゃないかと思っていたのかもしれない。木戸は少し驚いている。

「よォ」
「待ってたんだ」


 木戸をむかえたのは、意外なほど明るい笑顔だった。
 絶望的な決戦を前に、なんでこんな表情でいられるのだ。
 丹波は、なにをするつもりなのだろう。

 自分が弱いと知っても、それでもなお自分の勝利を信じてくれる友の存在が、丹波に力を与えたのか。
 それとも、思い切って駆け落ちか。

 なんにしても、これで逃げ場無しの最終決戦が始まりそうだ。
 丹波は、生まれて初めて本気で戦わなくてはならない。
 本格バトルまでの道のりはかなり長かった。ええ、長かったですとも。
 もしかすると、これからが長いのかもしれません。
by とら


2004年6月23日(30号)
Vol.17「真実に‥」

「タンバくんは本気だ」
 動きやすそうな服装に着替えて戦闘準備。
 弾丸を拳銃に装填するように、靴紐もかたく結ばれる。
 きっと下着はふんどしだ。それが丹波の勝負パンツだ。
 タンバくんは本気なんだッ!

「オレは」
「ウソをついていた」


 そして、丹波は木戸にうちあける。
 自分がトリック・インチキ・ペテン師のハッタリ野郎だったと告白する。
 淡々と言う丹波よりも、それを聞く木戸のほうがつらそうだ。

 冷静な表情で隠しているが、丹波だってこういう話はつらいのだろう。
 自分が何年も隠し続けてきた恥をさらすのだ。
 相手が、自分の最悪の部分を見てもなお、自分を信じてくれた友だけに。
 そんな木戸だから、丹波が隠している苦しみも見抜いて、自分の痛みのように感じているのだろう。
 つうか、そんなところで萌えキャラにならんでも。
 最萌えキャラが男子中学生と言う時点で、マガジンから追放されかねないですよ。
 だからと言って、もちろん、新美少女を投入でもしようものなら、弁護士無しの超略式裁判で死刑執行だろうが。

「ケリをつける」
「偽りに塗り固められた俺の人生を」
「真実に――――――
 塗り変える!!!」


 丹波文七が蝶へ生まれ変わると宣言する。
 相手は最悪の相撲教師・切雨静だ。

 二人の対決は野川橋下の河原でおこなわれる。
 勝負と言うより、果し合いだ。
 中学生と教師の戦いというよりも、二人の武士(あるいは二匹の獣)の戦いに似る。

 その戦いの場へ、宇宙を満たしている絶対の真理のごとく当然として浴衣を着て勝負にいどむのが切雨静である。
 その下は、当然まわし一丁だろう。

 これがパンツ一丁だったら速攻でお巡りさんを呼んで勝負アリだ。現行犯なので言い訳も通用しない。
 だが、まわしであれば法の番犬であっても判断に困るだろう。
 西洋下着と東洋下着では、立ちのぼるワイセツ感に格段の開きがある。
 おそるべき、用意周到さだ。そこまで計算しているのか。
 おそるべきは、国技・大相撲だ。
 瞬間とはいえ、大晦日の紅白歌合戦に初めて土をつけたのも元横綱だ。半端な相手ではない。

 ちなみに、切雨に体の露出を控えると言う選択肢はない。
 まったく無い。

 この戦いを見るために、全校生徒どころか町内の人間が集まっているような感じだ。
 中国人らしき人物が混じっていて、国際色豊かだ。
 この観客は丹波の逃げ道をふさぐための切雨の罠だろう。

「オマエらにはまだ――――――」
「オレの喧嘩見せたことなかったンだよなァ」
「みんなオレにビビっちまって‥‥‥‥」
「ケンカにならなかったワケだ」
「今日はいい機会だ」
「最後まで楽しんでくれ」


 いきなり炸裂だ、丹波トークッ!
 説明しよう。
 丹波トークとは、『なんとなくカッコよさそうな言葉を並べて、その場の雰囲気をつかみ尊敬を集める』魔の話術である。
 ひとたび語れば、山田の存在も地平のかなたへ吹っ飛ばす破壊力。
 政治家とか詐欺師になれば大成しそうな能力だ。

 とにかく丹波は、会場(?)の雰囲気をバッチリつかんだ。
 とは言いながら、目の前にいる巨大な肉塊の圧力に、ちょっと汗が出ている。
 切雨静は帯をといて、まわし姿をご開帳する。

 予想通りのまわし姿だッ!
 やはり、この男はここ一番ではまわしなのだ。
 結婚式でのお色直しも、まわしッ! 冠婚葬祭、全てまわし でこなす。
 陸海空もまわしで制覇。
 スキューバダイビングも、スカイダイビングするも、まわしッ!
 宇宙にだってまわしで行くだろう。

 丹波トークの効果も薄れる肉体美。
 ワセリン塗ったかのようにテカって光る。
 肉という現実(リアル)が、丹波の虚言を侵食する。
 されど今日の丹波は不退転。虚言を真実にするため、バックギアを自ら壊し、ブレーキをはずしている。

[路上でハンドルを握ったことのない
 ペーパードライバーが――――]
[生まれて初めて高速道路(ハイウェイ)に走り出す
 緊張感にも似て―――]


 丹波、一直線ッ!
 顔はそむけず、目をそらさず、全体重と今までの全人生と全存在をすべてこめて、殴ったッ!
 ビンを縦に破壊し、傷ついた左手で。
 切雨の鼻にメリ込ませる。

(もう―――――――)
(戻れない)
「オオオオオッッ」


 いきなり崖っぷちから飛び込んで、飢えた獣のように吼えた。
 丹波、餓狼の伝説がついに始まるのか!?

 そして、丹波の攻撃で、切雨は鼻血をふいて前かがみになっている。
 ひょっとして、効いているのか?
 なんかコイツ山田よりもモロいぞッ!

 やはり、鉄の山田が以上に硬かったということなのか。

 ただ、前回見せた切雨の怒りを考えると、どうしてもイヤな想像をしてしまう。
 最初は糠喜びさせて、あとで地獄に叩き落すとか。
 一回持ち上げておいてから、叩きつけるとか。
 ズボンを下ろして、フルチンさらした上で金玉にデコピンで決着つけるとか。
 とにかく、切雨には油断ならない。

 切雨が敗れたら力士らしく断髪して廃業してもらいたい。
 すでに髪は切っているので、この場合はまわしを切る。
 まわしもつけずに敗れた切雨は夜の街をさまようことになるだろう。
 そして、今度こそ警察当局の出番だ。

 というか、ここまでやっておいて、丹波が警察に「全裸の人間がケンカしている」と通報していたら、ぶち壊しだろう。
 そこまでしたら、さすがに木戸だって見捨てるだろう。
(今‥‥‥‥、タンバくんが要らない)とか言われる。
 とりあえず今、この作品に美少女は要らない。
by とら


2004年6月30日(31号)
Vol.18「代償」

 偽狼伝(GI-ROU-DEN)とは言わせないッ!
 俺は餓狼になるんだ、と丹波文七が渾身の左拳を放つ。

 燃え尽きる前のロウソクが激しく燃焼するように。
 打ち切りられる寸前の黒岩よしひろが最終回なのに新キャラ&新設定を投入したりするように。
 塩を入れすぎたら砂糖を入れて相殺するんだッというように。
 全財産総賭けで万馬券 狙ったるッ!

[過去一度も]
[放ったことのない]
[渾身の右拳!]


 左拳で鼻を潰され前かがみになった切雨を、右のアッパーでカチ上げる。
 命がけ、一撃必殺だ。まさに、一撃粉砕だ。
 打ち上げちゃった花火にやり直しはきかないんだッ!

[両の拳はたった一撃ずつで]
[砕け‥‥‥‥]


 丹波の命が散った。
 ボクサーの命である両拳が粉々だ。
 しかし、運のいいことに丹波はボクサーではない。まあ、たぶん何とかなるかもしれない、と期待する。

 右手も左手も、骨がジグソーパズルのようにぐちゃぐちゃだ。
 人間の拳は壊れやすい。だから、ハードパンチャーは拳を痛めやすいのだ。
 それにしても、砕けすぎ。これ、再起不能レベルなんですけど。
 刃牙世界でもゴムチューブ巻いて固定しないと持ちませんよ(注:巻いたら持ちます)。

 丹波はトリックだけではなく筋肉トレーニングや型稽古も熱心にやっていたのだろう。
 ただ、拳を鍛えていなかったので、強力な攻撃力に拳が悲鳴をあげたのだ。
 軽自動車にF1のエンジンを載せてみたら、タイヤやボディーがついて行けずに大破したような感じだ。

 折れた拳で殴るのは、殴られるより痛いらしい。
 この場合殴っているのは自分なんだから、いつでも止められる。
 自分で自分にムチ打つ行為は、自分との戦いだ。
 戦う相手は己の心だ。丹波は、砕けた拳で殴り続ける。

(これくらいの痛さでいい)
(偽り続けた代償が)
(これくらいなくてどうする!!!)


 さらに左足も破壊しながら、丹波は攻撃を止めない。
 お肌ピチピチと思われる中学生に似つかわしくない苦痛ジワで顔をゆがめてながら、丹波は止まらない。
 文字通り捨て身の猛攻だ。攻撃の嵐に押されてか、相撲教師・切雨は手も足も出ない。
 防御もせずに一方的に殴られている。

 これはおかしい。
 真にダメージを受けているのなら、体が攻撃を嫌がって、頭を抱えるとか、うずくまるとか、防御の体制をとるだろう。
 両手を遊ばせて殴られるに任せている切雨は、損害軽微か。
 役者としての実力は切雨の方が上なのか。

(タンバくんが‥‥‥‥‥‥)
(ホントに強い‥ッッ)


 木戸も驚愕している。
 そのセリフ、丹波を信頼していないのか、しているのか? 君はどっちなんだ?
 成長性は買っているが、現状の戦力には期待していなかったのだろう。
 山田と五分ったのが丹波の実力だと思っていたのかもしれない。
 なんにしても、メガネ光りっぱなし。

「いい試合だ」
「ご招待いただき アリガトウ」


 木戸の肩を叩きつつ、殴られ屋・ハルヤ登場!
 現役引退したためか、ちょっと太った感じで無精ヒゲを生やしている。
 もう少し変化すれば「バキ」における解説の神・本部に似てくるぞ。

 丹波との因縁深きハルヤ氏を呼ぶとは、木戸の細かい気配りだ。
 一歩間違えると嫌がらせになってしまいそうだけど。
 アンタを引退に追い込んだ相手は、実は弱いんですと見せつける行為だし。
 ただ今回は、一歩間違えなくても丹波の引退試合になりかねない。
 やはり呼ぶのが正解だろう。骨は拾ってやるって感じで。

 両手片足がイカれている丹波が頭突きだ。切雨の口元に思いっきりブチかます。
 そんなところにぶつけたら、歯に当たって額が切れますよ、って切れている。大出血だ。
 しかし、丹波の表情に恐れも怯えも無い。

 ちょっと震えているが、ヤル気十分だ。
 砕けた手足から痛みが電撃のように走っている。
 しかし、倒れない。
 一方的に攻撃しているのに、自分もダメージを受けている。
 しかし、逃げない。

「スゴいわやっぱ」
「あの子は」
「一流の素人だ‥‥‥‥‥」


 ハルヤさんも大絶賛する。
 はじめての喧嘩だが、実力は一流だ。がんばれ、丹波ッ!
 ところで、ハルヤはちゃんと丹波が素人だと見抜いていたようだ。
 引退したのは、理由はともあれ素人に手を上げた自分が許せなかったからだろうか。


 ページをめくる。

 ページ見開きで、顔面に張り手ッ!
 軽量の悲しさか、丹波が一発で吹っ飛んだ!
 観客が騒然とするなか、ハルヤだけが落ち着いている。
 彼はなにかを見抜いているのか?


 そして、次号、最終話―――――!

 なんですとォ―――――――ッ!

 本編の『餓狼伝』を休載にしてはじめた連載だったので、『餓狼伝BOY』は短期集中だろうと思っていた。
 ある意味予想通りだが、ちょっと唐突だ。
 しかし、打ち切りにしては掲載位置が前のほうなので、やっぱり予定通りなのだろう。
 丹波は勝って終わるのか、負けて終わるのか。
 なんにしても次回が最終回だ。最後の戦いを見守るしかないッ!

 少年・丹波に残された武器は、無事な右足のみ
 この状態で出せる技は、映画ベストキッドの鶴立ちキックしかあるまい!(圧倒的偏見をもって断言)
 そして、じーらぼ! の「世界のベストキッドたち」に入れてもらって世界的に恥をさらすんだッ!
 あの手の角度なら、成層圏まで飛べそうだぞ!


 これがジャンプ系十週打ち切り漫画なら、切雨は相撲教師四天王の一人に過ぎないと新キャラが三人(美形・筋肉・女)出てきて、丹波の戦いはこれからだッ! BOY編・完! になるのだろう。
 丹波の戦いはこれからだッ! もナニも、原作の小説では「丹波の戦いはどこまで続く?」だし、漫画・板垣版では「丹波の戦いは当分ありません」だ。
 最終回の影すら見えてこない。たぶん、作者にも見えていない。

 それにしても、板垣版の餓狼伝は主人公の闘いがお休みのときに掲載紙をめぐって路頭に迷うジンクスがあるようだ。
 板垣版の餓狼伝が連載していたヤングマガジン・アッパーズは今年の十月で休刊予定です。
 デビュー作メイキャッパーの掲載誌ヤングシュートは消えた。餓狼伝の最初の掲載誌コミックバーズは会社ごと倒れた。そしてアッパーズ……。
 作家的に最悪なシンクロニシティー?
 シロアリ漫画家といわれる前に、厄払いをしたほうがいいのかも。

 これで、次週のマガジンに「次回からは、成長した丹波の物語「餓狼伝」が連載開始です! お楽しみに!」とあったら、射精しながら失禁するかもしれない。
 人体構造の不可能を 可能にするほどの衝撃なんだ。
by とら


2004年7月7日(32号)
最終話「最強」

 ご愛読ありがとうございました!
 夢枕 獏先生・板垣 恵介先生の次回作にご期待ください!!


 ちくしょうッッッ!
 餓狼伝ぬきのマガジンなんて引き裂いてやるッ!(やめろって


 打った瞬間にホームランとわかる打球がある。
 丹波の吹っ飛びっぷりは、まさにそれだった。
 この角度と速度は場外だッ!
 そのまま受身も取れず、地面に落ちる。しかし、一度弾んで足から着地した。
 これはラッキーだ。ツキはまだ丹波にある。
 そして、執念だ。丹波の執念が倒れる運命をハネのけた。

 立ったものの、危機の真っ只中だ。
 逆転の秘策はあるのか。
 あらかじめ警察に連絡していたとか? でも、それだと今までのハッタリ丹波と同じだな。

(あ‥‥あの貌(かお)ッッ)

 丹波が殺意の貌をみせた。すでに切雨に通用しなかったハッタリの表情だ。
 ここに来て、それに頼るのか。頭部への攻撃で判断力を失ったのだろうか。
 ハルヤさんも「ア〜〜〜‥‥」と呆れたような声を出している。

 しかし、切雨もビックリしていた。
 力士が豆鉄砲を喰らったような顔をしているぞ、コイツ。
 おまけに、けっこう顔面のダメージがでかい。顔中腫れている。
 丹波の攻撃は余裕で受けていたのではなく、防御できなかっただけだったのか。

 好機ッ!
 丹波、やれ! 今の切雨はボブ・サップなみに落ち目だ。
 次回の切雨にご期待させてやれ!

 歯が砕けそうなほど噛み締め、丹波が一歩踏み出す。
 両手は砕けている。足も折れている。足さばきなんて不可能だ。オマケに体が吹っ飛ぶ攻撃を受けた。
 それでも、前進は止まらない。

「喧嘩やりにきたんだ」
「殺しあう度胸はねェ」


 切雨が背を向けた。
 あまりに唐突な行動に観客は反応できない。
 秀才・木戸ですら判断に迷っている。
 こんなときは、経験豊富なアンタの出番だ!

「勝負ありだ」

 判定でました。主審ハルヤが、丹波の勝利を告げる。

 逆転勝利だッ!
 観客総立ちで(元から立っていたけど)、タンバコールが湧き上がる。
 ヤロウ、ついに最強を演じきりやがったか。

「ホンモノの相撲取りに勝っちまったよ」
「さすがタンバさん」


 喜びのところ申し訳ないが、切雨はホンモのではない。
 観客に本物と思わせていた切雨もまた、稀代の名優だ。
 この勝負はけっきょく、二人の名優がいかに最強を演じきれるか競っていたのかもしれない。

 敗者・切雨は去っていく。
 しりぎわ木戸に声をかけ、嘘を真実に変えたタンバを賞賛する。  ついでに横にいたハルヤをちらりと眺めた。

「オマエの友達(ダチ)‥‥」
「強えヤツばっかりだな」


 一発で元・殴られ屋ハルヤがタダ者でないと見抜いた。
 眼力はさすがだ。そりゃ、丹波の実力もバレるわけだ。
 喧嘩の実力よりも相手の力量を見抜く才能のほうが、不良であり続けるためには必要なときもあるらしい。
 切雨は現在まで不良であり続けていたのかも。

 切雨は浴衣を持ったまま、まわし姿で去っていく。
 顔をボコボコに腫らしたまわし男だ。
 帰路警察官に遭遇しない事を祈ろう。
 アメリカだったら問答無用で撃たれる。威嚇射撃抜きで、マグナムか散弾銃だ。
 最後に切雨はふりむいた。

「明日 転出願いだすよ」

 妙にすがすがしい顔だった。
 伊波さんになんかしてもらった後でも、こういう顔はしていない。
 丹波との戦いは、切雨の心に変化を与えたのだろうか。


 勝利した丹波は失神していた。
 日が暮て、丹波と木戸だけが残っている。
 そのとき、やっと丹波の意識が戻ってきたのだ。
 自分が勝利したと聞かされても、丹波は静かにそれを受け入れるだけだった。
 なんか、まだ脳が揺れているようです。
 脳のダメージは深刻だ。ダメ押しとか、ダメ押しのダメ押しとかすると危険なんだよ、バキくん

 で、やっと霊魂がもどってきた丹波に木戸は質問をぶつける。

(永い間暖め続けた)
(最強を目指すボクの)
(最強の質問)

「仮に将来ボクが総理大臣になったとして」
「その時もし――――――君とボクがケンカをして」
「この指で君に向けて」
「核ミサイルのスイッチを」

 バシッ
 木戸の指は止められた。

「一撃でKOだぜ」

(最強の友がくれた)
(最強の回答(こたえ)‥‥‥‥‥)

 餓狼伝BOY・完!


 戦いに武器を使用していいのか。その問いかけの究極が、核の使用を認めるか、だ。
 丹波の答え。使えよ。でも、その前に一撃でKOだぜ。
 今の丹波は一国の軍隊に匹敵する腕力を目指しているようだ。
 やめとけ、それ人間の目指せる道じゃない。

 核問答はバキ112話にも出てきている。
 この時も結論は同じなのだ。
 ただ、丹波のほうがさわやかに感じるのは、彼が素手にこだわっているからだろう。
 己への自信をつけた丹波は、肉体のみを武器にして本格的な餓狼の世界に踏み込んでいく。

 ところで、木戸は核の保有を辞さない覚悟らしい。
 よし…。うん、よし。わかった…、わかったよ。
 核を保有する、それでいい。非核三原則を良く知らなかった、それでもいい。うん。
 だけどさ……、友達とのケンカに核使うなよ。

 木戸にとっては、友達とのケンカで数万人巻き込むのも、アリか?
 逆に言えば、丹波のためにスイッチを簡単に押しそうだ。
 スイッチ押せるなら、迷わず切雨に向けて発射していただろう。
 そこまでの覚悟か、木戸ッ。

 コイツ、全人類の命と丹波の命を選べといわれたら0コンマ一秒で丹波を選ぶだろう。
 一流同士の闘争(たたか)いはその0コンマの奪い合いだぞ。
 木戸新一、あなどれぬ男よ。


 切雨はあっさり敗北を認めた。
 彼は眼力の高い男だ。丹波が決死の覚悟をしていると気がついたのだろう。
 自分が引かねば、この戦いは生き死にの戦いになる。
 殺人犯になる気は無い。それが後退の理由か。

 小説版・餓狼伝XIIの巽 真(たつみ まこと)も、勝つまで引かぬ。死ぬまで引かぬ。そんな男だった。
『相手が、そういう人間に対してできるのは、もはやその人間を殺すことくらいである。』
 タチが悪いといえば、悪い。根性があるとも言えるけど。
 思えば、このときの巽真も中学生だ。彼は、のちにグレート巽と名乗る。
 餓狼伝の中では、西の横綱ってところだ。

 切雨は眼力がある。
 自分が相撲界で芽が出ないと感じていたのかもしれない。
 だから、逃げ出した。
 それでも、まわしを締めるところが未練だろうか。

 同時にまわしは衣装でもある。
 名優には衣装と舞台が必要なのだ。
 その舞台に上がってきた敵役が、丹波文七だ。
 しかし、自分と同じ役者だと思っていた丹波は舞台を現実のものにする。
 本気の殺し合いは望んでいない。だから切雨は舞台から降りたのだろう。

 背を向けた切雨が悔しそうでないのは、少しうらやましかったかもしれない。
 自分が降りてしまった現実の世界に、丹波はしがみついている。
 弱いくせに必死になってがんばっている。
 退場者として、丹波を見守りたくなったのかもしれない。
 でも、転出することはないと思うのだが。

 なんだか知らないが、切雨は地域性にこだわる男だった。
 地元商店街では人気者かもしれない。
 きっと地元ではまわし一丁で歩いていても通報されたりしない人気者だ。

 嘘に逃げることなく現実に戦いを挑んでいた若き日を、切雨は思い出したかもしれない。
 今後は熱血相撲まわし教師としてまっとうに生きるのではないか。
 でも、生徒にまわしを強要したりしないでください。


 嘘で固めた少年期は終わった。そして、餓狼を目指す青年期が始まる。それが漫画・板垣版の餓狼伝だ。
 やがて、青春から大人へ。原作の小説では悩める中年(の入り口か?)だ。


 餓狼伝BOYは今週で終わった。
 さいわいにも(?)短期連載だったので、次週から今までのまとめをしたいと思います。
 水曜日だと翌日つらいので、火曜日深夜予定で。
 そしてェ! 餓狼伝の再開はいつ?
by とら


2004年7月13日
餓狼伝BOY まとめ

 けっきょく『餓狼伝BOY』とはなんだったのか!?
 個人的には、「まわしネタ」しか書かなかったような気がする。たぶん、どこかでナニかを間違えた。
 休載も含めて、二十四週の軌跡をふり返ってみる。

タイトル内容
Vol.1「出会い」最強を目指す木戸は、殴られ屋を引退に追い込んだ丹波と出会う。
Vol.2「再現」丹波は試し割りを披露し、殴られ屋に仕掛けた秘策を見せる。
Vol.3「夢」丹波の秘策は本気の殺意だった。丹波は最強への夢を語る。
Vol.4「凶漢(きょうかん)」木戸も最強への夢を語る。ゲロ男・切雨がヤクザをつれて登場。
Vol.5「正体」切雨が本物の暴力を見せつける。そして彼の正体は教師だった。
Vol.6「脅迫」切雨は演技で暴力性を隠していた。正体を知る木戸を脅迫する。
休載---
Vol.7「怪物」切雨は木戸に転校を迫る。ピンチで丹波が登場する。
Vol.8「咆哮」丹波の攻撃は切雨に通用せず。謎発言「名優だなタンバ」
Vol.9「死闘」本気の殺意顔を見せたが、通じない。邪魔が入り戦いは中止。
休載---
休載---
Vol.10「告白」丹波の秘密部屋に木戸を案内する。丹波、実は弱いと判明する。
Vol.11「トリック」丹波の強さは演出とトリックだった。木戸もそれに気がついた。
Vol.12「急襲」それでも木戸は丹波を信頼している。切雨が丹波の学校に来る。
休載---
Vol.13「崩壊」切雨の刺客・山田により、丹波の打撃力が否定される。
Vol.14「期待」丹波のトリックが皆にバレる。木戸の期待に応えられるのか。
Vol.15「勝負」木戸が丹波をかばう。丹波は捨て身のビン割りを決める。
休載---
Vol.16「力技」丹波は力技で皆に実力を納得させる。そして切雨に勝負を挑む。
Vol.17「真実に‥」丹波は今までの嘘を捨て、真実の強さを手に入れようと決意する。
Vol.18「代償」捨て身の攻撃を丹波は放つ。これを殴られ屋が絶賛する。
最終話「最強」丹波、本気の殺意顔で気迫勝ち。核兵器が相手でも、負けない!

 ふり返ってみると、木戸と出会ってすぐに試し割りをして、その後殺意の表情を見せている。
 この話は、のちの伏線だ。
 板垣先生は何も考えず描いていたワケではないのだ。
 たぶん………。いや、きっとだッ!

 ストーリーを、さらにまとめると次のようになる。
・丹波と木戸の出会い(1〜3話)
・相撲教師・切雨との闘い(4〜9話)
・丹波のハッタリ伝説(10〜15話)
・丹波の最終決戦(16〜19話)

 実はきっちり起承転結をしている。
 最強を目指す少年二人が出会い、敵が登場し、意外と丹波が弱くて、決着。
 丹波と木戸の友情を縦糸に、丹波の成長を横糸にして、話が織り込まれている。

 登場人物に、現役の戦士はいない。
 殴られ屋は、殴らない。切雨は引退した力士だ。
 餓狼伝BOYはバトル中心の作品ではなかったのだ。

 餓狼伝BOYは、餓狼伝につながる話だ。未来は餓狼伝に通じている。
 だから、丹波はあまり強くなれなかったのだろう。
 主人公が強くない。だから強さを比べるのではなく、他の主題で話を進めたのだろう。


・ 丹波と木戸の友情について

 常に強さを見せつけていたい丹波くんは、初対面の木戸に対しても営業を忘れない。
 試し割りを見せて強いとほめられたら、いつもなら終りだっただろう。
 ただ、木戸も最強を目指す男だった。

 今思えば、丹波は木戸の目指す最強も理解していたのだろう。
 最強を目指すといいながらハッタリでごまかしていた自分に対し、木戸は真剣に戦っている。
 相手の存在に衝撃を受けたのは、木戸ではなく丹波かもしれない。

 そこに共通の敵である切雨があらわれる。
 丹波は初めてハッタリでごまかせない現実と向き合うことになる。
 今までの丹波なら逃げていたかもしれない。
 逃げなかったのは木戸の影響だろうか。
 最強を目指して立ち止まらない 同年代の男がいるのだ。自分は背を向けられるのか?

 丹波が弱いと知っても、木戸は丹波を見捨てない。
 木戸も、丹波の目指す最強への道が困難だと知っているのだろう。
 目前の障害である切雨に立ち向かうことで、二人の友情は深まる。
 丹波は、木戸の期待に応えるべく、安穏なハッタリ人生を捨てる決意をする。

 勝利の後で、互いの最強論を戦わせてみる。丹波の勝ち。チクショー。
 最強を目指す二人とはいえ、向かう方向が違う。
 それをムリヤリ競わせてみたら、まあ腕力がもの言いますわな。という話か。
 木戸があまり悔しくなさそうなのは、これが言葉遊びだからだろう。

 丹波が本格的に餓狼の道に進むのはいい。木戸はどうなったのだろうか?
 年齢的にはそろそろ政界に出てくるころだろうか。
 いつか、本編に再登場するのだろう。それより、本編の再登場はいつだ?


・ 丹波の成長について

 トリックと演出と演技力で、丹波文七は最強を演じていた。
 今夜も殴られ屋ハルヤを引退に追い込む大活躍をする。
 そのあと、なにをしにハルヤ家に乗り込んだのかは不明だ。

 そこで木戸と出会って、いつものように(?)だます。
 ところが、そこに本物の暴力をもつ切雨があらわれる。
 恐かったのか、丹波は無反応だ。嘘で生きていた丹波が現実の暴力に弱いのか。

 木戸のピンチに、思わず丹波は飛び出す。
 しかし、現実は無情である。丹波は張り手で吹っ飛ばされる。
 丹波は張り手で吹っ飛ばされてばかりだ
 張ったり好きな性格が災いしているのかもしれない。

 切雨には殺意の表情も通用しない。
 この表情は、ハルヤさんには通用していたようだ。
 切雨の方がより修羅場をくぐっているだろう。だから、殺意が演技かどうかわかったのだろう。

 そして、トリックがばれる。
 山田と五分る。とんだ恥さらしだ。
 でも、木戸の期待に応え、真に最強を目指すため丹波は捨て身になる。
 丹波文七が一皮むけた瞬間だ。

 そして切雨と勝負して気迫勝ち。
 今までの殺意の表情は、演技で出していたものだろう。
 しかし、今度は不退転の覚悟が作った表情だ。
 意識を失った状態だからこそ出せたのだろう。

 今の俺は核兵器にも勝てる。相手が核だろうと、ボタンを押すのは人間だッ!
 ハッタリ性格は、すぐには直らないらしい。


 色々と不明な部分はあるが餓狼伝BOYは完結した話になっている。
 謎は多少残っているが、全部説明するのは読者に想像する余地を残さないヤボというものだろう。
 バキも最近その傾向があるが、いい意味でツッコミの余地を残した作品作りといえる。

 正岡子規だって著書「水滸伝と八犬伝」で『趣向の上に就て見ても水滸伝は無邪気で八犬伝は理屈っぽい。文句の上に就て見ても八張同様である。此点に於て八犬伝は著く水滸伝に劣つて居る。』と書いている。
 あまり理屈っぽくなっても、堅苦しいのだ。
 もっとも板垣作品は、理屈っぽくなるとは思えない。
 ツッコミの余地ありまくりの愛すべき作品だ。


・ 作品の終わり方について

 餓狼伝BOYは板垣作品の中で初めて完結した作品となった。
 メイキャッパーも完結しているが、あれは一話完結的な作品だ。
 ストーリー物としては餓狼伝BOYが最初の完結作品になる。

 餓狼伝BOYの終わり方は、いさぎよい。
 最後に新設定が出てきたりしない。話の続きに未練を見せず、普通に終わっている。
「次回から新章、木戸の前にムエタイ教師がやってくる」こんな予告が入っていても違和感が無い。
 板垣作品の終わり方は、こんな感じだろう。

 バキの最終回はいつやって来るのかワカらない。
 ただ、餓狼伝BOYの最終回から、その予想ができる。
 最強の敵であり実父である範馬勇次郎をバキは倒す。
 仲間となんか気のきいた会話をして、何事も無く、完!

 相手を力任せにブン投げるかのような華麗な投げっぷり。
 有無を言わせぬ完結感だ。次回、勇次郎の兄・勇太郎が出てきてもおかしくない終わりかただ。


・ そして、餓狼伝へ

 来年のことはわからない。しかし、餓狼伝が復活する日は近い。と願う。
 餓狼伝が休載してから、餓狼伝BOYが始まるまで約一ヶ月かかった。
 それを考えると夏休み前後に餓狼伝の復活があるのだろう。

 餓狼伝は人気があるとは思う。話も盛り上がっているところだ。
 でも、出版社倒産や掲載誌休刊を引き起こす作品に救いの手はあるのだろうか。
 板垣恵介は、まさに劇薬だ。
by とら


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