今週のバキ191話〜200話

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2003年11月20日(51号)
第2部 第191話 郭 海皇 (571+4回)

 格闘技の歴史は、弱者が強者に勝つための歴史だ。
 と、言うことはだ。
 敗北しまくっているムエタイは弱者であり、弱者が勝つことこそ格闘技の本懐だ。
 つまりムエタイこそが格闘技の中の格闘技であり、サムワン海王こそが弱者の救世主なのだ!たぶん。
 意味あるセリフを一つも言えず敗北していったムエタイ戦士の怨念が見守っているぞ!縁起悪そうだが。

『サムワン海王二十五歳ッ』
『脂の乗った年齢です』


 若さに裏打ちされた体力と、経験によって積み重ねる技術が融合する年齢だ。
 格の上では海皇のほうが上でも、若さ爆発のムエタイ魂がサムワンにはある。
 はやり、スピードでかき回して制すのがベストの戦術か?
 アナウンサーはさらにサムワン海王に秘められた驚愕のエピソードを披露する。

『師・蘇 柳勝(そ りゅうしょう)がタイへと渡ったのが18年前と聞き及びます』
『ムエタイとの賞金マッチで日銭を稼ぐ日々』

『コブラと戯れるサムワン少年を目撃したことが』
『中国拳法とムエタイ 歴史的な邂逅の瞬間となったのです』


 毒蛇コブラにローキックを打ち込むサムワン7歳。
 異国で賞金稼ぎと化していた蘇老師もこれにはビックリだ。
「馬鹿だ、この少年はッ!」って表情だが、その怖いもの知らずな面に惚れたのだろうか。

 命がけでコブラと戯れているだけに、サムワン少年の表情は険しい。
 ある意味では真剣な立ち合いなのだろう。
 成長した今ならアナコンダとも闘えそうだ。
 なんにせよ、昔から噛まれる素質はあったらしい。

 サムワンを見出した蘇老師はマンツーマンの指導をし、香港へ。
 そこで洋王クラスと思われる強豪を擂台で倒しまくって、海王襲名ッ!
 ………師匠は中国拳法家でも、流派は「ムエタイ」なのか?

 正確には師弟二人で作り上げたサムワン流とも言えるオリジナルだろう。
 そして、サムワンは師が届かなかった海王の座に着いた。
 自分を鍛えてくれた師匠のためにも、勝つしかないッ!

(”気” ”呼吸力” ”発勁”)
(全てまやかしだッッ)
(武術と言えども所詮は運動能力を競うもの)
(いかに合理的に肉体を使うかの世界)
(そこに魔法は存在しない!)


 しゃべったァ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ!
 しゃべったよムエタイが、ついにしゃべったよッ!
 内面の声ではあるが確かに意思を発した。
 これはもう、勝ったも同然。ムエタイの歴史における快挙だ。

 そして、思考内容は科学的だ。
 師・蘇柳勝の影響もあるのだろう。伝統にとらわれずに実戦で使える技を学ぶ姿勢がうかがえる。
 コブラ百人組み手などを通過して、古くさい伝統に縛られた洋王連中を喰う、毒蛇のムエタイと化したのだろう。

(より疾(はや)くッッ)
(より疾(はや)くッッ)
(より疾(はや)くッッ)

(そしてより短時間(スピーディー)に―――――だ)


 全身から湯気を出し、サムワンは最速の一撃を狙う。
 まるで7リットルの砂糖水(刃牙より少ない)を飲み干したような闘気をまとい海皇を見おろす。
 もしかすると、神心会道場を汗まみれにした烈の「もわァ〜〜〜」も砂糖水パワーかもしれない。
 恐るべし砂糖水。ぜったい変な物が混じってる。

 それはさておき、「より疾く」と「より短時間(スピーディー)に」は意味が同じだ。格闘理論以外は冷静でクール、ではないようだ。
 幼少時にコブラの毒を受けて障害がのこったのだろうか。

「ゴホッ」
「ゴホッ」


 ふきだすサムワンの汗が効いたのか、郭海皇が急にむせる。
 サムワンの目が光る。
 疾く、短時間(スピーディー)にッ蹴りを出せ!
 って、サムワンよ、それはたぶんだッ!
 ボケたふりの老人は、パっと出のムエタイ選手の生命と同じぐらい危険だ。

 そんな事は考えず、サムワンは最大速度でハイキックを放つ。
 後先考えずにコブラに蹴りを出す男の真骨頂だ。

 ボッ

 郭海皇の首が飛んだ!?
 そう見えた一撃だったが、郭海皇の体は消え、サムワンの足にはサングラスが絡みついているだけであった。
 ムエタイの蹴りを受けてもヒビすら入らないバケモノのような眼鏡だ。

 消えた郭海皇はどこへ?
 そう思った瞬間、サムワンのトランクスにの手が迫っていた。
 引きおろす。一気に足首まで。

「え?」(プルン)

 着衣の少ないムエタイならではの悲劇、一剥きで全裸であった。
 引きしまったサムワンの尻の間から「ブラン」と毛の生えた袋が見える。
 146年の重みがこもった郭海皇のデコピンが疾く短時間(スピーディー)に打ちこまれる。

 ピシッ

 ダメージの深刻さとは逆に軽そうな音だった。
 あまりの事態に観客たちは声も出ないし、汗も出ない。「まぁ」って感じに頬に手を当てている女性客もいるが、しんと静まり返っている
 静寂の中、サムワンは白目をむいて舌をはみ出させて悶絶していた。
 両手はもちろん股間の定位置である。

『けけけけけ決着ゥ〜〜〜〜〜!!!?』

 デコピン一発で勝利。
 これが郭海皇のいう「人の人たる本当の強さ」なのだろうか。
 たしかに、パンツ脱がしは、もとから裸の動物には使えない。
 全裸を恥ずかしいと感じる人間にしか通用しない。
 中には全裸でも平気な人もいるだろうが。

 違いを楽しむ脚本家の三谷幸喜はスポーツジムのロッカールームでボブ・サップと遭遇したそうだ。
『とりあえず、一刻も早くパンツは履いてほしかった』と感想を書いている。
 まあ、そういう人もいると言うことで。

 トランクスを脱がしたのは羞恥プレイ以外にも理由がありそうだ。
 まず、足首の位置にあるトランクスは、足の動きを封じる効果がある。
 また、相手の弱点を直に見ることができる。右によっているとか、左によっているとか、コッカケているとかが、マルっとお見通しだ。
 トランクスを脱がしたのは、相手の最大の弱点を最小の力で、もっとも的確に打ちぬくために必要だったのかもしれない。

 勇次郎への対抗意識もあるだろう。
 劉海王の上の皮をはいで中身をコンニチワさせた勇次郎に対抗して、下の中身をコンニチワさせたのかもしれない。

 なんにしてもサムワンは予想をはるかに超える惨めな姿で敗北した。
 伝統ある大擂台賽で己のコブラをさらして敗北だ。
 ムエタイ初セリフの快挙を達成したが、ムエタイ2週敗北の記録には届かなかった。
 ホンのちょっとだけ夢をありがとう。
 もう、出てこないんでしょうね。
 さよならサムワン。さよならムエタイ。
 次にRPGゲームをやるとき、主人公の名前を「サムワン」にします。
 世界の平和を守れないかもしれないけれど。

 ところで、郭海皇のサングラスの下はどうなっていたのだろう。
 すごい目をしていそうだが、次回のお楽しみか?
by とら


2003年11月27日(52号)
第2部 第192話 "武"とはッッ!? (572+4回)

 サムワンよ安らかに眠れ
 フリチン痛打で、玉砕するまもなく玉砕けたサムワン海王だった。

 勝利した郭海皇は、十名ほどの記者団にかこまれていた。
 やっと生粋の海王(皇)が勝利したので、喜びのインタビューなのだろう。
 今までどこに潜んでいたのだろう?

 刃牙の取材もちゃんとしておけば14キロの砂糖水を飲みほす姿をスクープできたのに惜しいことです。
 もっとも、こちらの郭海皇は人類最長寿といわれる122歳を通過済みの146歳なので話題性では負けていない。

 サムワンを屠(ほふ)った魔性のデコピンを記者に当ててみせ、威力は普通のデコピンと同じだと説明している。
 ちなみに、試合後手は洗ったのでしょうか?
 ですからね、ナマ。直ですよ、ヌメっていそうだ。

 それはそうと、記者どももワカっとらん。
 すごいのはデコピンではなく、その前の部分なのだ。
 相手のスキをムリヤリつくる、セクシーコマンドー的な高等戦術なのだ!(たぶん)

 なんせよ、雑誌や新聞で郭海皇の放った一撃が写真つきで紹介されるに違いない
 サムワンも下だけかもしれないが、いっしょに紹介されるはずだ。
 かなり痛かっただろうけど、これで有名になれます。

「力はいらぬ」

 長時間立っている体力がないのか、そういった郭海皇は車椅子に腰をおろす。
 高齢だけに長時間の戦闘はつらいのだろう。
 でも、これは弱っているフリかもしれない。
 このジイさんを甘く見てはいけない。油断すると脱がされる。

「女ッ子供ッ年寄り…などの体力に恵まれぬ者」
「その者達にこそ術が必要なんじゃ」
「弱者に使えぬ武術など」
「いったいなんの意味があるというのかね」


 郭海皇がサングラスをとり語る。
 シワにかこまれた小さな黒目がちな瞳だ。
 ゆでて目が縮んだ宇宙人(リトルグレイ)って感じがする。

「必要なとき」
「必要な術を」
「必要な速度で発揮する」
「己の感情を制御し」
「そのタイミングを知る」


 勇次郎を説教しただけあって、闘志ムキ出しで野獣のように闘うことには否定的だ。
 己の感情をコントロールすることは日常生活でも必要だ。
 闘いの場という特殊な空間だけではなく、人生をよりよく生きるための術なのだろう。
 もっとも勇次郎は、ガマンなどせずに好きにふるまう事が最高の人生だと思っていそうだ。

「完全なタイミングを手中にしているなら……」
「もはやそこには速度さえもいらぬ…………………」


 こんどは最速をめざした男・サムワン海王を完全否定している。
 せっかく海王最速(で敗北した)かもしれないサムワンなのだが、ちと手厳しい。

 闘いにおいて速度は重要だ。だが、速いだけではダメなのだ。
 予備動作で打つのがバレバレだと、カウンターの餌食になりやすい。
 だから郭海皇は必要なときにだけ、打てと言いたいのではないだろうか。
 そして、必要な箇所を打て、か?


「くッ」
「あのジジィ…ッッ」


 ヘビ殺しは生きていたッ!
 ヘビ殺しのヘビも生きていたッ!
 小坊主に支えてもらいながらサムワン海王が奇蹟の復活だ。
 こぼれ落ちるのが心配なのか、フクロを下から持ち上げるように押さえてサムワンは苦痛をこらえている。

 郭海皇さま、この痛がりかたは普通のデコピンのダメージではありません。
 あなたは、取材用と試合用でデコピンを使い分けましたね?
 本気のデコピンなら、レンガ割れそうだ。サムワンも割れただろう。

「まさかあんなことを…」

 そういってサムワンはパンツずり下げ事件を思いだす。
 肉体的な苦痛だけでなく、精神的にも苦しめられているようだ。
 へんな意味で百年に一度のストレス大開放である。
 今夜は屈辱で眠れまい。翌日は新聞にのる自分の勇姿をみてしまい、やっぱり屈辱で眠れないだろう。

 それにしても、サムワンのせがれを会場の皆さんに見ていただいたのは、郭海皇にとって「必要な術」だったのだろうか?
 おそらく、必要だったのだろう。
 それは伏線だ。

 次の対戦者は刃牙である。服装がサムワンと似ている。
 実にずり下げやすそうな格好だ

 当然、刃牙はパンツを意識してしまう。
 背後をとられた時、ガードよりパンツを優先しても、刃牙を責めることはできまい。
 当然、頭部のガードはがら空きになる。
 郭海皇は、ここまで読んでサムワンに屈辱的な攻撃を仕掛けたに違いない。
 次の試合で刃牙は経験したことのない、パンツの恐怖と戦うことになるだろう。

 刃牙以外の海王たちもこの攻撃はイヤだろう。
 おそらく一族のものは残らず見学に来ているだろう。
 その一族郎党の前でさらす。
 これで「おやおや烈さん、おたくの小龍くんは拳法はともかく、あちらはまだまだ功が成っていませんな」とか言われたら、一族そろって別の大陸に移住したくなるだろう。

「明日から……」
「どの面さげて香港を歩いたらいいんだ…」
「……てところか」


 傷心・傷玉のサムワンを追撃するように範馬勇次郎があらわれた。
 悲運拳ムエタイッ!
 生き恥をさらした上に、死に恥までさらすのか!?
 つうか、なにしに来た勇次郎ッ! あんたムエタイをいじりすぎ。

 負けるなサムワン、言い返せ!
 隠すから恥ずかしいんだ。ぶらさげて香港を歩いたらいいんだ!

「日本人ならその場でハラキリだぜ」
「おなじ敗(ま)けるにしても敗(ま)けかたってものがよォ…」


 さりげなく息子の刃牙も窮地に追い込む問題発言をして、勇次郎はサムワンを挑発する。
 範馬以外に敗れるような息子なら、腹を切れというつもりだろうか。

 勇次郎の真意はともかく勇次郎の挑発にサムワンはのってしまう。
 血管を浮かせ間合いに入る。

「サムワンよせェェッッ」

 師・蘇柳勝の制止もふりきり、最速のハイキックが勇次郎を襲うッ!
 蹴りが勇次郎に触れるか触れないかの瞬間、勇次郎はつっこんでいた。
 サムワンの顔面をつかみ投げた。合気道の投げのようにキレイな入りで、そのままサムワンの後頭部を地に打ちつける。
 まるでサムワン自身が墓標となったように垂直につき立てられた。

 サムワン海王、本日2度目の敗北であった。
 サムワンの場合は速度より、感情のコントロールが重要だった

「未熟ではある……」
「しかし」
「貴様はまちがってはいない」


 敗者をふり返ることなく勇次郎は去る。
 間違っていないなら、アライ(父)さんの時のように足から着地させてあげれば良かったのに。
 まあ、勇次郎主義では弱いものは無価値なんだろう。

 なお、次回は休載です。
 少年マガジンで新連載する「餓狼伝BOY」の準備だろうか。
 餓狼伝の主人公・丹波文七の少年時代の話らしい。原作でもあまり語られていない部分なので、外伝的な扱いだろう。
 火水木と3連続は体力的につらいんですけど。うーん……


 話をもどす。
 勇次郎・サムワン主義(バランス悪い)と郭海皇主義の違いは、闘いにたいする姿勢の違いかもしれない。
 自分の攻撃したいときに攻撃して、相手の対応を上回る攻撃で叩きのめすのが勇次郎・サムワン主義だ。
 郭海皇主義だと、攻撃はむやみにしてはならず、相手の出方をみて対応する。
 ふたつの主義は攻撃と防御の思想で、刃牙世界では武道と暴力の関係に近い。

 刃牙もどちらかといえば積極攻撃主義なので、郭海皇の術中にはまる可能性が高い。
 でも、刃牙の股間は梢江との対手によって弱点を強化していそうだから、脱がした郭海皇がビビるかもしれない。

 なんにせよ、サムワンは最弱の海王という予想を超えて不幸だった。
 元気なく小さい「わ」で、「サムヮン」と発音したい気分だ。

 たぶん、医務室でオリバに最後の一噛みをされるだろうなぁ。
by とら


2003年12月4日(1号)
バキはお休み

 サムワンのことは置いといて、今後のことを考える。
 勇次郎・劉海王・Jr・刃牙・李海王・郭海皇と、大晦日の3大格闘番組なみの超豪華メンバーを繰り出してきた。
 たぶんこの調子でいきなり強烈なカードが発表されるのだろう。

 多くのの読者が気にかけている海王は、烈海王と怒李庵海王だと思う。
 この2人はおなじみのキャラクターだ。烈は人気と実力と蛮勇をあわせ持つキャラクターだ。おまけに最近は弱体化の予感を感じさせて試合に緊迫感が出てきそうだ。

 よみがえった死刑囚・ドリアンは健康面での問題を抱えていて、試合ができるのかと心配されている。
 さらにドリアンには付き人(?)としてオリバがついている。この縁の下の力持ちがいるからこそ、心配だ。
 なんかオリバさんが怪しげな知識で、すごい事になってしまうツボをドリュっと突いて決着をつけてしまうかもしれない。
 闘争によって病んでしまったドリアンの精神が裏返り、反動で大地の神(自称)がどうのと言いだす可能性だって捨てきれない。
 勝利はステーキとキャンディーで祝う、毛髪ピンチ・チームだった。

 話を烈にもどす。
 最近イイ人になってしまった感じの烈には不安感がいっぱいだ。
 範海王あたりにとっては格好の噛み相手になるかもしれない。
 それどころかお姉言葉でしゃべる毛海王あたりに噛まれたら、サムワンを笑えない。

 トーナメント前半は勇次郎と刃牙が準決勝で闘うと思われる。
 そのカードに匹敵するもう一つの準決勝は、範海王がつとめるのだろうか。
 その対戦相手は誰になるのだろう。
 実力なら烈海王だと思うが、不安感は消えていない。

 他の候補者は、怒李庵海王と寂海王だろうか。
 最大トーナメントでは、準決勝まで残ることができたのは主役と新キャラ3人だった。
 今回も新キャラに光を当てる展開があるかもしれない。
 そういう意味で、寂海王には期待が持てる。
 ところで孫海王と楊海王のことを覚えていますか?
 出番はいつになるんでしょう。

 次の試合は今までの豪華対戦から考えると、出しおしみをしないで烈・怒李庵・範の誰かが出てきそうだ。
 除海王やサムワン海王の件を考えると、勝てる要素を探すだけでネタになってしまうような負け犬臭ただよう対戦相手が登場しそうだ。
 そうなると孫海王・楊海王の2人が危ない。
 今まで出番がなかっただけに、出番のないまま終わる可能性も高い。
 もちろん、陳・毛コンビが「口だけコンビ」となって消える可能性も捨てきれない。

 勝ち目の薄そうな陳海王・毛海王・孫海王・楊海王の4人が勝ちあがることが、除海王とサムワン海王の金玉に対する最大の供養になるだろう。
by とら


2003年12月11日(2+3号)
第2部 第193話 復活ッッ!! (573+4回)

 魔法の白い粉を溶かした水を飲みほし、範馬刃牙は人間スチームと化した
 なんか大量に蒸気を出していますが、それって魂とか漏れていませんか?
 周囲の人はその蒸気を吸ってもだいじょうぶか? 気化した尿が混じってそうだけど。

「なんかさ」
「湿っぽくない? ここ」


 そう言いながら通りかかった小坊主ふたりは、湿っぽくなった原因(発生源)を見つけて引きつった顔で立ち止まる。
 なぜなら、梢江に膝枕されている刃牙がいたからだ。それも廊下で堂々と。
 そういうことは個室でやってください
 ひょっとしたら部屋に蒸気が充満しちゃったから、廊下に脱出したのかもしれない。どちらにしても迷惑だ。
 被害者はこのふたりの小坊主で終わるとは限らない。

 今にも雛の生まれてこようとしている卵を見守るように、烈と梢江が刃牙を見つめる。
 刃牙の手からも足からも蒸気が出ている。
 股間からも、ひときわ白くて太いのが出ている。
 サムワンの衝撃冷めやらぬ現状だけに、チ●ポおっ立てているのかと積極的に誤解してみよう。

 範馬の肉体は、打たれるほどに強くなる。
 それが打撃だろうがドーピングだろうが。
 死の淵の、はじっこギリギリを歩ききった刃牙の肉体は、反動で大復活をすると烈老師も予想する。
 本部の予想とちがってこれは心強い。
 それはそうと、自分も試合があるのに刃牙につきっきりで、だいじょうぶなんでしょうか?
 まあ、初戦で勇次郎と当たることはないと、わかっているので余裕なんでしょうけど。

 そして、蒸気が出きった。
 蒸気にかくれ今まで見えなかった刃牙の体があらわになる。
 頬はこけていない。体も元通り。刃牙が復元したッ!

「よォ…」

 何事もなかったかのように、刃牙は梢江にあいさつする。
 梢江も特に騒ぐでもなく、静かに激情をこらえている。
 多くの言葉を交わす必要のない二人なのだろう。
 言葉を発しないまま梢江が一滴だけ涙を落とす

 刃牙がハネ起き、涙をパクリととらえて飲み込むッ!
 相変わらずの異食性異常性欲だ。早い話ヘンタイだ。
 そういう飲んだり飲ませたりすることに喜びをおぼえる人だから、砂糖水がここまで劇的に効いたのだろう。
 飲むの得意っす。毎日飲んでます、って感じで。

 復活した己の肉体を刃牙は見おろす。
 ワセリンぬったボディービルダーのように筋肉が張り、テカり、輝いている。
 元気そのものの健康体だ。
 これなら背中に、鬼が戻っているだろう。
 むしろ、鬼を超えて放送できないような すごい物が乗りうつっているかもしれない。

「復ッ」「活ッ」
「範馬刃牙 復活ッッ」


 烈が吼える。変な顔で吼える。
 最大トーナメント時代の烈からは想像もできない。
 中国に帰ってから、表情が変に豊かになっちゃって、別人のようだ。

「範馬刃牙 復活ッッ」
「範馬刃牙 復活ッッ」
「範馬刃牙 復活ッッ」
「範馬刃牙 復活ッッ」

「範馬刃牙 復活ッッ」


 なぜかひたすら刃牙の復活を連呼する。
 刃牙が蒸気を出しすぎて、周囲の酸素が足りなくなっているのかもしれない。
 もう、カンベンしてくれッ オレが悪かったァッと言いたくなるほど復活を強調する。
 それを聞いている刃牙も妙にうれしそうだ。
 烈の復活コールを聞きながら危険な笑いを浮かべている。

「してェ…」

 ヤバいッ、激ヤバだッ!
 梢江を隠せッ! 今すぐにだッ。
 ヤングチャンピオンに連絡を入れろ、ヤツが再び行くッ!
 少年誌でアレをやってはマズい。
 エイケンすらPTA推奨の健全な漫画と化すような、アレをッ!

「試合がしてェ〜〜〜〜〜…」

 あ、なんだそっちか。
 って、ヤバいッ。サムワンを隠せッ!
 また噛まれるぞ。サムワン、股間をおさえて逃亡しろ!

 言いがかりをつけて敗者を襲うのは範馬の伝統芸だ。
 すでに負けている相手なら、やっちゃってもいいか、と言ってサムワンを襲いかねない。
 あるいは除海王を狙うのか。
 なんにせよ、控え室は試合場よりも危険かもしれない

 試合がしたいと刃牙は言っている。
 しかし、今までの四試合で約四ヶ月かかっている。
 このペースなら、刃牙の次の試合は約五ヶ月後だろう。

 その間刃牙が我慢しているとも思えない。
 やはりサムワンが危険だ。

 そのころ擂台に次なる海王が登っていた。
 怒李庵海王 登場!

 15キロの砂糖水に対抗するかのようにキャンディーを頬張りながら、視点の定まらない状態で出場だ。
 もちろん背後にはオリバが控えている。
 戦場では背後からも銃弾が飛んでくるんだぜ。気をつけろよ。

 クリスマス直前だけに、クリスマスプレゼントという感じだ。
 靴下の中にサンタさん入っていましたって感じで。
 子供がまわりにいないようだし、伝説のサンタ拳(by 今週の「元祖! 浦安鉄筋家族」)が炸裂するのか!?

 サンタはともかく、人生丸ごと敗北してしまい、リセットしてセーブポイント(5歳児ぐらい?)まで戻ってしまったドリさんだ。
 昔はもっていた素手でトンネルを掘りぬく強さを復元させてほしい。

 烈老師は最近刃牙ばかり見ている。
 怒李庵は、烈が保護する大きなお子さんなのだから、応援してあげないとかわいそうだ。
 不良になって、名前をムリヤリ難しい漢字で書いたり、の変な二つ名を名乗ったりするかもしれない。
 そうならないように、ちゃんと応援してあげて、怒李庵が勝ったら15キロの砂糖水で祝杯をあげよう。
 安い祝いだけど。(果糖:1Kg = \280-

 来週はチャンピオンが休みなので、怒李庵海王の相手は再来週判明する。
 怒李庵の勝利を願うなら、陳毛コンビあたりが相手になるのかもしれない。
 見た目がつりあいそうなのは、山東省・金剛拳の楊海王だと思うが、どうか。


 今週、烈は「烈老師」と呼ばれて「老師=先生の意。」と注が入っている。
 中国では年を取ることは経験を重ねることなので、尊敬の対象となる。
 晋の学者・虞喜の書『志林』にも、皇帝が各地を視察するときは百歳を越える老人がいれば会いに行き敬意を表すべきだとある。

 老いは敬意の対象であり、先生は若くても老師と呼ぶ。
 極端な話、自分より若い人でも、教えを受けるなら「老師」だ。
 だから、郭海皇に対する敬意はおして知るべし、なのだろう。
 ちなみに皇帝の別称は「万歳爺(ワンスエイエ)」で、百歳の老人より百倍尊敬しなくてはいけないらしい。
 尊敬すべき百歳の劉海王のところには、だれか見舞いに行っているのでしょうか?

 閑話休題(それはさておき)、外国産の連中はこれで全部出しちゃったわけだ。
 このトーナメント表を考えた人は、メシを食うときキライな物から先に食べる人だろう
 で、けっきょく「サムワン」ってどんな漢字で書かれていたのだろう。
by とら


2003年12月25日(4+5号)
第2部 第194話 キャンディー (574+4回)

 肉体を病んでいた刃牙は、みごと復活した。
 次は精神を病んでいるドリアンが擂台に上がる。
 ……上げていいのか?

 至福の表情でドリアンはキャンディーをほおばっている。
 大人の表情ではない。子供の喜びかただ。顔に刻まれたシワが老人の物だけに、不気味だ。

「あのドリアンて…なんか」
「ヒョッとして…」
「ふつうじゃないッ… つ〜〜か」


 バレバレだッ!
 前回から合わせて2ページと3分の2(9コマ)しか持たなかったッ!
 いや、そりゃ普通はバレますよ。
 でもそこには超知識を誇るスーパーバイザーのオリバが控えているんだから、うまく誤魔化せばよかったのに。
 黄色い救急車とか呼ばれて、窓に鉄格子がある病院に連れて行かれたら、試合どころではない。

 もっとも、オリバは知識はあっても発想力は無いのかもしれない。
 この人の行動は、行き当たりバッタリだ。
 FBI局長 バート・アレンがオリバの協力を渋ったのもわかる気がする。
 ステイツの威信があるので秘密だが、迷惑なだけであまり役に立たないのだ。

 ドリアンの精神状態が疑われている。しかしオリバは歯をむき出して満面の笑みを浮かべている。
 その笑顔の裏でなにを考えているのだろう。なにも考えていないかもしれない。

 それでも二人あわせて300キロはあろうという筋肉の塊だ。
 肉は嘘をつかない。戦えば強い、はずだ。
 この筋肉ダルマを相手にするは、山東省 金剛拳の楊海王だ。
 腹がぽっこりと出ている。これで肉が400キロを超えただろう。
 超・重量級・肉対決だッ!

 楊海王は不敵な面構えで、不機嫌そうにドリアンをにらんでいる。
 にらまれているドリアンのほうは気がついていない。
 よって、サポーターのオリバがドリアンの背中を押して送りだす。
 こんな状態で闘わせて だいじょうぶなのだろうか。

「斗ッ」

 そのまま試合開始だ。
 棒のようにつっ立ったままの怒李庵海王に楊海王が襲いかかる。
 ドリアンに比べれば小兵といえる身長差があるが、それを物ともせずにハイキックを打ち込む。

 今までの試合では、うかつにハイキックを出すと金的を打たれたり、パンツ脱がされたりした。
 そういう血塗られた前例があるのに、おそれを知らぬ果敢な攻めだ。
 楊海王、彼はチャレンジャーである。

 その"妥協なき闘士"楊海王が攻める。
 常人なら中身がハミ出るようなボディーを連発で叩き込み、アゴを掌底でかち上げる。
 身長差を逆にいかし、懐深くもぐりこんで連打、連打。
 尻にまで衝撃が抜けるような金的攻撃もさりげなく放っている。

 ガッ
 シュド
 ドッ ドッ
 ビチッ


 最後の「ビチッ」という音が金的か?
 序盤で張りきりすぎると負けるジンクスがある世界だけに、読者が不安がるほどの連打だ。
 そして、ドリアンにダメージは無いようだ。
 肉体の痛みよりも、ノドを蹴られたときに口からこぼれたキャンディーの行方を心配している。
 落ちているものを口に入れてはいけないと、烈老師に教わらなかったのだろうか。
 それとも「3秒以内に口に入れろ」と教わったのだろうか。

 楊海王が、あれほど打ち込んだのに、ドリアンにとっては地面に落ちたキャンディーのほうが痛いらしい。
 自分の攻撃が効果ないと知り、楊海王が血管浮かせて怒り心頭だ。
 さらなる追撃を実行する。ドリアンは手も足も出ない。いや、出さないのか?

 一方的に殴られているドリアンをオリバが見守っている。
 サングラスのせいで表情はわからず、その心情もわからない。
 やっぱり、なにも考えていないのか?

 ドリアンはいつまでも殴られているお子様ではなかった。
 キャンデーの怨みは、金的を打たれた怒りよりも強い。
 巨大な拳を握りしめ、ドリアン怒りの鉄拳だッ!

 ゆるゥ〜〜…

 遅っ!
 ハエが止まるような、ゆるゆるパンチだ。
 これには違う意味で楊海王もビックリだ。思わず冷や汗をかいてしまう。

 気を取りなおして、再び楊海王が連打を開始する。
 眉間・アゴ・金的と急所をようしゃなく責めたてる。
 もしかしたら、金的マニアなのかもしれない。

 足払いでドリアンを豪快に転ばせる。
 転んだドリアンの頭部が、地面に接触する瞬間を狙って、頭部を踏み抜く。
 スペックが花山戦でみせた「試し割りの応用」を楊海王が使用した。
 石床が割れるほどに、強く叩きつけられる。
 ドリアンの眼がうつろになっている。試合前から、うつろだったけど。

「勝負ありッ」

 勝負ありだとォ!
 終わったのか? これで終わりなのか?

 そんなバカなッッ!
 これでは何のために、オリバと抱き合わせでドリアンを密輸したのだ。

 まさか、次回オリバ乱入なのか?
 ヤツは乱入するために、あえてダメ状態のドリアンをつれてきたのだろうか。
 それとも、ドリアンは頭のすぐ横に落ちている飴玉を口にして裏返るのだろうか。
 すごく知的な感じに生まれ変わる、とか。

 今までの大擂台賽では「勝負あり」といわれた試合はすべて決着となっている。
 ドリアンも敗北が確定なのだろうか。
 彼の歴史は審判の一言で終わってしまうのだろうか。


 ドリアンを負けキャラにするんだったら、相手はムエタイにしてくれればよかったのに。
 なぜ、ムエタイを楊海王と闘わせて敗北を与えたのだろう。  どうせ負けるなら、郭海皇vs怒李庵海王でもよかったのに。
 ドリの吐きだしたキャンディーをデコピンで砕いて泣かせて「勝負ありッ」でもよかったじゃん。
 アメだろうが金だろうが、砕ける玉に違いはあるまい。

 話は変わって、昔はドリアンの背中に鬼が見えたと、ドリアン=範馬説があった。
 飴玉で裏返ったりすれば、範馬の血族は砂糖でパワーアップする体質と言えるかもしれない。
 ガムシロップを愛飲するクライベイビー・サクラ(餓狼伝)も、ひょっとしたら範馬の親戚だろうか。

 次のチャンピオンはバキが休載なので、次回は1月15日らしい。新連載の餓狼伝BOYの翌日だ。
 あっちは、しょせんBOYですが、こっちの幼爺や筋肉紳士の動向は非常に気になるところです。
 もしかすると、オリバだと思っていた黒人はオリバじゃなくて、サングラスを外すとドリアンだと判明したりして。
 いや、それで別になにかいい事があるわけでもないのだが。


・おわびと訂正
 前回「外国産の連中はこれで全部出しちゃった」と書きました。
 喰鬼さんに掲示板で指摘されたのですが、まだ外国産は寂海王が残っていました。
 日本人だったので、感覚的に外国人と思わなかったようです。
 ちなみに例の親子は、私の中では「範馬星人」というイメージです。
by とら


2004年1月8日(6号)
バキはお休み

 バキ 外伝【範馬勇次郎誕生】
 1月27(火)にとんでもない増刊が発売される。最近休みがちだったのは、餓狼伝BOYの連載準備だけではなかったのだ。
 週刊連載2本に、描きおろし40ページッ!
 板垣先生、スケジュールがおかしいです。さすが不自然主義の男だ
 そんなわけでチャンピオン増刊【バトリズム BATTLE-ism】は今から楽しみだ。

 予告に『今だから明かそう!! 範馬勇次郎出生の秘密!!!』と書かれている。
 勇次郎の過去は、最後まで判明しないと思っていた。
 16歳でベトナム戦争に参加するような変人が普通の義務教育を受けていたとは思えない。
 きっと間違いなく、恐ろしく偉そうな小学生だったんだろう。

「どうした、教師よ。間合いだぜ」
「――――ッ」
「キサマら、もの知らぬ浅はかな者供は、あれこれと世話を焼きたがる。
 毒にも薬にもならぬ駄菓子のごとき助言、いらぬ世話をッッッ!
 一切聞く耳を持たんッ!
 義務教育の果てにたどりつく境地など、高が知れたものッッ!」
「――――ッッ!(じょばぁぁあぁぁ……)」

 やだよ、こんな小学生は。
 教師が牛だとしたら、4つある胃のすべてがストレス性でやられるに違いない。

 教室に入った瞬間、あたりに立ち込める獣臭。
 小学校の只中(ただなか)にいながら、わたしは本当に生徒達が猛獣に襲われたことを懸念した。
 当初はアトラクションと思っていたこの授業が、実は一切の手加減のない真剣勝負(リアルファイト)と気がつき、わたしも本気(リアル)に泣いた。
 勇次郎の担任教師は後にそうのべることだろう。
 クラスメイトたちは全員、一日一回膀胱が空になるまで失禁したと供述するかもしれない。

「じゃあ、範馬くん。九九の七の段をいってみて」
 ズンッ
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!」

 学級崩壊というより、学校崩壊だ。
 比喩とかじゃなくて、物理的に。現実にサラ地となる。

 しかし、40ページ(だいたい連載2回分)で勇次郎の過去をどこまで掘りさげることができるのか。
 はずみで回想ベトナム編は、9回だったので約170ページだ。
 それにくらべれば、少ない。
 まあ、若き日の1エピソードなのだろう。


 本編の話もしてみる。
 ドリアンは、大晦日の曙に匹敵する堂々たる倒れっぷりをみせた。
 倒れはしたが、ダメージはあるのだろうか。
 鼻血は出しているが、まだまだ戦うと予想する。
 楊海王が退場しようとするときに、うっかりアメ玉をふみつぶしちゃって、怒りの超(スーパー)ドリアンに覚醒するとか。
 オリバが15キロのアメ玉を投げつけ、ノドに詰まって大変な目にあうとか。


 まだ登場していない連中を確認してみる。
1 烈海王(黒龍江省 白林寺)
2 孫海王(吉林省 節拳道)
3 陳海王(福建省 三合拳)
4 毛海王(河北省 受柔拳)
5 範海王(広東省 拳王道)
6 寂海王(日本 空拳道)

 ほぼ間違いなく勝つと思われるのは範海王と寂海王だろう。
 烈海王はちょっと微妙だ。
 解説で毒舌をふるった陳毛コンビも微妙だ。
 そうなると、孫海王は負けるしかなさそうだ。

 このなかで、盛り上がりそうな試合は、範海王 vs 烈海王だろう。
 範海王が巨凶なる攻撃力を見せつけるのなら、烈は最適といえる。
 変な意味で面白そうなのが、陳毛対決だ。
 仲がよさそうだし、親友同士が非情の対決となって、盛り上がるかもしれない。

 なんにしても、楊海王が勝ちあがってきても面白みにかけるので、ぜひともドリアン復活を願う。
 きっと烈も「ドリアン 復活ッ」と六連呼して喜んでくれるだろう。
by とら


2004年1月15日(7号)
第2部 第195話 これも武術 (575+4回)

 ドリアンの敗北が確定した。

 にゃんですとォ〜〜〜〜ッ!
 アンタ、わざわざ中国まで来てナニさらしてんですか。
 いや、恥さらしてんですけど。

 まあ、悪い人さらいにだまされて連れてこられたというのが正解なんだが。
 烈のほうは育児にもう飽きちゃったのだろうか。

『本来ならばこのドリアン海王』
『とてもこの大擂台へ上がるコンディションには思えません』
『しかし』
『これが大擂台ッッ』
『これが武術です』


 たとえ赤子でも平等にブチのめす。それが擂台なのだろうか。どこが弱者の技術だよ。
 しかし、そのきびしさこそが武術なのだろう。
 どんなコンディションでも戦えてこその武術だ。
 体調不良だからといって敗北は許されない。
 弱者だからこそ、勝て。
 きびしき、武の世界でドリアン海王は敗北した。

 あまりにあっけない最期に観客もアナウンサーも動揺している。
 対戦相手の楊海王も納得できないといった表情だ。
 しかし、一人満足そうなのが、オリバだった。
 殺人現場を検分する警察官のように、少し離れた位置からピクリとも動かないドリアンを確認している。
 死体に触れようとしないところが、実にプロ的だ。

 そして、今度は犯人の遺留品を探すように周囲を見渡す。
 なにか、落ちている。薬莢か?
 いや、キャンディーだッ!


 ドリアンが吐きだしたキャンディー転がったままだった。
 すっかり砂まみれになってしまったキャンディーを、オリバは二本の指で慎重につまむ。
 砂+ドリアンの唾液つきだ。
 ヘビー級のフィニッシュ・ブローなみの強烈なスパイスが効いているキャンディーを、オリバは己の口中にほうりこむ。
 雄々ッ! これぞ関節的接吻だッ!

 口の中でキャンディーを転がし、オリバは存分に甘味を堪能している。

「Peッ」

 キャンディーを急に吐き出す。
 オリバの唾液で洗われたので、キャンディーは艶やかな表面を取りもどした。
 その綺麗になったキャンディーを今度はドリアンの口にねじりこむ。
 これは、愛の飴玉交換かッ!?

 むしろ、母が子に口移しで食物を与えるような姿でもある。
 オリバは達人的な母性愛を会得していたようだ。
 さすが、愛の達人である。
 オリバの筋肉は愛でできているのだ。

 オリバの愛が注入されて、ドリアンが動いた。
 新しい電池をいれたオモチャのように、急に元気になって立ちあがる。
 試合内容はともかく、奇術のように復活したドリアンに観客はおしみない拍手を送る。
 ダウンしたのは、ダメージのせいではなく、キャンディーが切れただけかもしれない。
 しかし、負けは負け。
 素直にドリアンは会場を去る。
 しかし、途中で対戦者の楊海王が待ち構えていた。

「納得できん」
「この白人には海王を名乗る資格はないッッ」
「もう一度 立ち合え」


 見た目も性格も頑固者だ。
 しかも、負けたから文句を言うのではなく、勝って文句を言う。
 問題にしたのは、ドリアンが弱いから。
 中国拳法の最高峰である「海王」の称号を持つのだから、強くなくてはならない。
「海王」の称号を得るために、どれだけの修行をしてきたことか。

 そして、「海皇」となるために、どれだけの犠牲を払うつもりなのか。
 あるものは金的を強打され、あるものは大勢に陰部をさらされた。
 ツラはがされた人もいれば、彼女のすごいツラをさらした人もいた。
 みんな人生かけて出てきているのだ。

 そういう意味だと、ドリアンは人生終わってるもんな。
 掛金ゼロですよ。コイン入れてください、って感じだ。

「わたしが相手じゃ だめかね 楊くん」

 犯人を追いこむ最後の決め台詞のように、オリバが言った。
 海王入場から、ずっと予想され、期待されてきた危険な言葉だ。
 水戸黄門でいえば、印籠を出したに等しい。「ニセモノだろ?」とか言われちゃったら、カッコつかない。
 海王を名乗る資格のない白人が、海王の資格を持たない黒人になっただけと言われたら、ピンチだ。

「君が推理したとおり」
「ドリアンは病気なんだよ」


 推理もクソもなく、見た目そのままに病気だとわかる。
 しかし、このセリフはオリバの作戦なのだ。
 相手の要求するA案にたいし、自分の望むB案を提示する。相手は当然イヤがる。
 そこで、A案の欠陥を示す。
 しかたないから、B案ですまそうかという気分になってしまう。
 しかし、A案とB案は全然違う物なのだ。

 楊海王はドリアンの実力に納得がいかないだけで、闘いたい訳ではない。
 すっかりダマされている。
 自分の要求を確実に通す。恐るべき話術だ。

「フンッ バカ力が自慢か」

「そう…」
「バカ力だけが自慢だ」


 いうなりオリバは楊海王の手首をつかむ。
 握った瞬間に骨が「ミシィ……」と悲鳴をあげる。
 想像を絶する超筋力だ。
 この男なら花山の専売特許・握撃だってできるかもしれない。

(折…………ッ)

 危険をかんじた楊海王が、オリバの頭に蹴りをたたき込む。
 オリバの手がはずれた。いや、はずしたのか?
 蹴りをまともに喰らっても、オリバは微動だにせず、笑っている。

「どうかね」
「眼鏡にかなったかな」

「すぐに擂台へ戻れッッ」

「Certainly sir (かしこまりました)
「謝謝(シェイシェイ) 楊 海王」


 うまくペテンにかけたという喜びが、英語となったのだろうか。
 そのあと中国語を使っているのは、己の知性を見せつけているのだろう。
 バカ力だけが自慢じゃないんだぜ、と。

 これらは、すべてオリバが計算した展開だろうか。
 役たたずと知りながらドリアンをつれて来たのも、自分が代理に出場するためだったのだろう。

 194話感想でオリバのことを「迷惑なだけであまり役に立たない」と書いたが、それは間違いだった。
 この人は、自分がやりたい事しか実行しないのだ。

 黒帯(ブラックベルト)をとるためなら、死刑囚を捕まえる仕事も、知ったこっちゃない。おバカな外人のフリだってしてしまう。
 そして、擂台賽に参加したいと思ったら、手段は選ばない。

 次回は、超ヤる気になったオリバの筋肉が炸裂するだろう。
 もちろん全裸で。
 サムワンとは違って自主的に、誇らしげに、惜しみなく。

「オ、オリバ選手、下ははいてください。それはマズイっす」
「ホワ〜イ? サムワン選手は出してマシたが?」
「あれは不可抗力で事故だから、って、ああ、なんか位置が上がってるッ、上がってるゥッ」
「わたしガンバリまァす。一生懸命やりまァす」
「そこでガンバらないでください。止めてくれ、写真は取っちゃダメだ」

 てな事になりかねない。
 とりあえず、脱ぐのは上だけにしてください。

 とりあえず、これでトーナメント後半が盛りあがる。
 オリバvs烈とか見てみたい。
 そういう意味では、烈の活躍を期待してもいいだろう。
 とりあえず一回戦までは。

 で、ドリアンは廊下に放置なのか?
 大きいお子様が迷子になりますよ。
 ジェット・コースターから落ちた末堂と同じく、すでに消えているかもしれない。
by とら


2004年1月22日(8号)
第2部 第196話 ダイアモンド (576+4回)

 勇次郎もおっ立つ、「オリバ vs 楊海王」が決定した。

 試合を武術省に認めさせるのに時間がかかったのか、爆竹鳴らして龍の演舞( )で間を持たせている。
 さすが、百年に一度のストレス開放だ。試合の合間もあきさせない。
 きっと烈が「範馬刃牙 復活ッッ」と狂ったように連呼していた時も、マギー司郎(予算が足りなければマギー審司)が、トークとマジックで間を持たせていたのだろう。

『先ほど敗れたドリアン選手の付き人』
『ビスケット・オリバ氏が試合結果を不服として』
『楊海王選手との対戦を熱望しておりますッッ』


 なぜか、オリバが不服を申し立てたことになっている。
 もとは楊海王が言い出したことだが、話をねじ曲げたのはオリバなので、さほど間違ってはいない。
 まあ、始まりはともかく、結果は対決だ。

 勇次郎・刃牙・烈も控え室でこの事実を耳にする。
 ドリアンは廊下に放置のままだった。
 上半身裸のまま、ひざ抱えてブツブツなんか言っている。
 烈はなにをしているのだ。ちゃんと保護してやろうよ。

 そもそも烈は、ドリアンの面倒をいつまで見ていたのだろう。
 刃牙を拉致する前に、警察に預けたのだろうか。
 ドリアンは脳があんな感じなので、黒いオリバを烈と間違えて、なついてしまったのかもしれない。
 あとは赤子の手をひねるように、ドリアンをだまし、オリバは自分の目的を達成したのだろう。
 そして、ポイ捨て。
 ひどい扱いだ。

『金剛拳 楊海王 対 怪力無双!? ビスケット・オリバ』

 張洋王にも出場資格がないのに、ただの付き人が出場していいのだろうか。
 でも出ちゃったものは、しかたがない。
 擂台で太い男二人が睨みあう。
 先に口を開いたのは楊海王だった。

「先に叩いてくれんか」

自称 腕力世界一との触れ込みだが」
「正直に言わせてもらおう」
「わたしと君とでは」
「戦力に差がありすぎる」


 あ―――〜〜ッッ、巨漢+ムエタイ級の危険な発言だッ!
 ただでさえ勝てる見込みがほとんどないのに、さらに寿命を縮めなくても。
 賞味期限の切れた牛乳を、こうなったらどうせ同じだと冷蔵庫に入れず、さらに1日放置してから飲むようなものだ。
 同じ下痢でも、より深刻な下痢になるゾ。

 そういうことを言うなら、なぜオリバに試し割をさせない。
 参加資格すら怪しいのだ。カワラぐらいは割らせてみよう。
 たぶん、とぼけられるけど。

「我が金剛拳」
「その実態は五体の金剛(ダイアモンド)化を旨(むね)とするッ」


 楊海王は服を破り裂き、輝くボディーを見せつける。
 オリバが対抗して脱がないが心配だ。特に下を脱がないか、が。
 さいわい男の裸を見るだけで満足したのか、オリバは脱がなかった。

 楊海王の流派は金剛拳ッ!
 木剣・鎖と受打訓練をかさね、車に腹を引かせてみたり、旧式のカノン砲で撃たれてみたり、ビックリ人間中国拳法な修行で驚愕のタフネスを身につけているのだ。
 ふくよかに膨らんでいた腹は衝撃吸収の意味もあったようだ。

「そして最終訓練は」
「台風来襲の夜半に行われる」
「落差30mの滝壺にて」
「夜明けまでの滝浴びをもって 終了とす!!!」


 ここまでくると、感動してしまう。
 落差30mの水圧に加え、落ちてくる流木・流石に耐える修行だ。
 でもそれは、打撃とはすこし違うのではないかと心配してしまう。
 締め・関節技には明らかに無力だし。

 初登場の178話から、打たれ強そうだと予想していたが、予想を色々な意味で超えた耐久力だ。
 試し割られるには最適の人間なのだ。
 つまり、そういう役なのだ。

 楊海王としては、一回戦で己の超・耐久力を見せたかったのだろう。
 しかしドリアンの攻撃は、当たったら恥ずかしいようなゆるい攻撃だった。
 そして、一発も受けることなく勝利してしまった。
 見せ場ないじゃん。納得できん、もう一度 立ち合え。そう考えたのかもしれない。
 ヘンに目立とうと思ったのがアダとなった。
 前回つかまれただけで腕が折れそうになったことは忘れたのだろうか。

 自信満々で、楊海王は受けの体制に入る。
 闘争とは敵をたおす行為なのだから、攻撃しないことにははじまらない。
 常に主導権をとって一方的に攻撃するのが望ましい。
 サムワンの「より疾(はや)くッ、そしてより短時間(スピーディー)に」の思想はそういう意味では間違っていない。
 この状態で相手が郭海皇なら、楊海王のパンツを下ろして一発だ。
 そこは金剛(ダイヤモンド)ではなく金玉だ。砕けます。

 とはいっても、前回 楊海王の攻撃はオリバに効いていなかった。
 だから作戦を変えて、あえて攻撃を受け、オリバの自信を喪失させて、動揺したところを倒すつもりなのかもしれない。

「バカだぜアンタ…」

 ベッシアァァ

 オリバ容赦なし。片手で楊海王を畳んで潰す。みごとにジャガった!
 30mの瀧が生み出す水圧に耐えた背骨もポッキリ折れた。
 サムワンがムエタイのムエタイたる伝説を塗りかえれば、こんなところでムエカッチャーの伝説を継承する男があらわれるとはッ!

「笑いが止まらねェ」
「金剛(ダイアモンド)が――――― ヘシ曲がってやがる」


 伝説になったほうではなく、伝説を作ったほうの男・勇次郎はご満悦だ。
 勇次郎はこういう潰しかたが純粋にすきなのだろうか。
 ベトナムじゃあ、日に3人はつぶしていたかもしれない。

 餓狼伝VOL.133で、ダイアモンドをハンマーで叩けば砕けないのか?という言い回しが出てきた。
 それを受けて、ネット上に「ダイアは引っかきに強いだけで、衝撃で砕けます」という情報が流れた。当サイトの掲示板でも参戦屋さんが情報を提供してくれた。
 そう、ダイアモンドは砕けるのだッ!
 餓狼伝での仇をバキで取ったわけだ。

 ダイアは最強の分子間力をもつゆえに変形できず、もろい。
 楊海王も瞬間的な圧力には弱かったようだ。
 前回 腕が折れかけたというのは、置いといて。

 次回のバキはお休みで、火曜日に増刊でバキ外伝【範馬勇次郎誕生】が掲載される。
 内容は「人類史上 最も矯激(きょうげき)なる一日」と広告されている。
 勇次郎の背に鬼が宿った日の話だろうか。
 たしかに、その日が「鬼(オーガ)」の誕生日と言える。
 ついでに浦安鉄筋家族・外伝は【花園ガキ誕生】らしい。こっちも楽しみだ。

 そんなワケで来週は火曜日も更新します。
 板垣先生の不自然主義に付き合わされるのも、ちょっと大変だ。
by とら


2004年1月29日(9号)
バキはお休み

 海王が次々と消えていく。
 劉海王・除海王・李海王・サムワン海王・怒李庵海王・楊海王と擂台にのぼった6名の海王が敗れた。
 ………………全員じゃねェかッ!

 海王ダメ。全然ダメです。マズイっスよ、武術省。
 中国の大会じゃ なくなりつつある。
 なにか取って置きのリザーバーとか隠しているのだろうか。でないと、ちょっと厳しい展開だ。

 それでも中国武術の象徴たる郭海皇が勝っているのが、せめての救いだろう。
 歴史に残る劇的勝利だった。
 それを陰で支えたサムワン海王もすごいのだ。

 ちなみに、海王googleランキングは以下のとおり('04 1/29 23:00現在)。

  烈海王1590 、 劉海王 303 、 サムワン海王 231 、 郭海皇144 、
  除海王 114 、 範海王111 、 李海王 108 、 楊海王 100 、
  怒李庵海王 96 、 陳海王61 、 毛海王54 、  寂海王49 、 孫海王39 、

 前回調べた時にくらべると、サムワン海王と郭海皇が伸びている。
 また、砕けたダイアモンド・楊海王も世間に注目されている。
 勝者だけではなく、敗者も輝くのがバキという作品だ。
 そういう輝きかたをして、うれしいかどうかは別にして。

 残りの海王は、烈海王・範海王・陳海王・毛海王・寂海王・孫海王の6人だ。
 次の試合の勝者はオリバと戦うことになる。
 オリバの筋力に対抗できそうなのは烈ぐらいしか思い浮かばない。
 もっとも残りの5人のことはよく知らないので、すごい力の持ち主が隠れているかもしれない。

 それでも、烈 vs オリバが実現すれば面白くなりそうだ。そういう期待感から、烈には一回戦を無事に突破してほしい。
 今のところ、刃牙バカップルの面倒を見ているだけの男になっている。
 闘っても強いところを、ちゃんと見せてほしい。
 なんか、刃牙に強さを吸われちゃったような感じがして不安だ。
 刃牙のほうは砂糖でテカって元気イッパイになっている。
 コイツに応援されても、あまり嬉しくないかも。

 予想外に陳毛コンビあたりがダークホースとなって騒ぎを起こすかもしれないが、それもまた良し。
 あるいは、乱入者がまた出て、二回戦に上がれる海王が一人もいない事態になったりしても笑って許そう。
 せっかく、デカくなったジャック範馬がいるのだから、乱入の可能性はある。
 ただ、ジャックが出てくると、範海王の立場がない。
 もちろん、読者のカン違いという可能性もある。
 柳の低酸素の毒だって、アレっきり何処か行っちゃったし、細かい設定にこだわると不意打ちを喰らうかもしれない。
 つまり、本部再びッ、かも。
by とら


2004年2月5日(10号)
第2部 第197話 三合拳 (577+4回)

 オリバ勝利のポージング。
 歓喜を筋肉で表現している。
 当然のように服を筋肉の膨張で破って、自慢の筋肉を見せつける。

 ッッッ、やっぱり脱ぎやがった、コイツ!
 下を破かなかったのは、せめての良識か。それでも、わざわざ潰れた楊の前でアピールするあたり、意地が悪い。

 試合前にデモンストレーションしなかったのは、楊海王を油断させるためだったのだろうか。
 もし、そうなら大成功だ。

『これ見よがしの逆三角形ッッ』
『強さとは力だッッ』
『強さとは筋肉だと言わんばかりの』
『中国武術の技術へ対しての』
『明確なアンチテーゼだ!!!』


 体力に恵まれない者のためにある術が、中国拳法でございます
 192話で郭海皇もいっていた。
 その対極にあるのが、体力にものいわせて術を破ったビスケット・オリバだ。

 アナウンサーも、こんな筋肉野郎は海皇さまに玉ピンされて失禁しちゃえと思っているのだろう。
 でもオリバの場合、フクロにも筋肉が巻きついていて効果がうすそうだ。

 ポージングしたまま退場していくオリバとは対照的に、楊海王は潰れたまま放置されている。
 オマケに破れたオリバの服が周囲に散らばっていて、一緒に燃えるゴミとして捨てられるのではないか心配だ。
 大擂台賽にも天内みたいな、気の効く人が必要だ。

 オリバの帰り道には、勇次郎が待ち構えていた。
 なにか一悶着あるかと思ったら、視線もあわせずすれ違う。
 二人の間に密約でもあるかのような、不自然な態度だ。
 二人とも、なんか ワルいこと考えていそうな表情(かお)だなぁ。


 五回戦まで終了して、闘って生き残った海王は絶無だった。
 唯一がんばっているのが、郭海皇だった。でも、彼は海王を卒業しているので、別格だ。
 この大会、勝てる海王は存在するのか?
 残りはすべて海王とはいえ、まだ飛び入りが入る余地があるので油断はできない。


 第六回戦――――――――
 寂 海王(日本 空拳道)
 陳 海王(福建省 三合拳)


 ついに、最後の外人海王・寂を投入してきた。
 対するはタレ目の陳海王だ。
 しかし、今回の陳海王は気合の入った目つきで、イイ男率が49%ぐらい上がっている。
 不吉だ。
 バキ世界において美形であることは、不幸のサインでもある。
 陳海王のキケン度は急上昇している。

 黒ズボンの陳海王に対し、空手のズボンのような寂海王だ。陳の靴に対し、寂は裸足。
 中国の拳法と日本の拳法という対比がでてくる闘いになりそうだ。

 陳海王は、大きく前後に足幅をとって両手を地に向ける。
 安定はあるかもしれないが、動きにくそうだ。オマケに顔面がガラ空きだ。
 顔を打ってくれといわんばかりの状態は、相手の攻撃を誘っているのだろうか。
 ウホッ! いい海王… 打たないか?状態と命名しよう。

 スキだらけの顔面に弱い寂海王が、ホイホイ誘われて裏拳を放ってしまう。
 ドッ
 だが、先に当たったのは陳海王の攻撃だった。
 広いスタンスから、さらに踏み込んで打ったらしい。
 常識を超える一撃だ。
 しかし、こういう無理な体勢からの攻撃では威力が落ちるのではないだろうか。

 そう思っていると、転がる転がる、ノン毛(ハゲ)の寂海王がゴロゴロ転がる。
 変則的な一撃だったが、威力も十分にあるようだ。
 寂海王は立ち上がったものの、冷たい汗を流していた。

「気と」「拳(けん)…」
「この2つの融合が」
「中国武術を特別なものにした」
「拳に気を加えることにより他国の格技がとうてい達し得ぬレベルに到達した」


 陳海王が自ら解説をはじめる。
 やはり本部の不在が惜しまれる。
 こういう場面でこそ、というか こういう場面でしか活躍できない彼が今、必要なのだ。

「バキ」という作品には「気」という概念は存在していなかった。
「合気」はあるが、「気」というより体の崩しに近い描写だった。
 ここに来て「気」という概念を持ってくるのは、けっこう冒険だ。

 異質な概念だけに、今後「気」の話がメインになるとは思えない。
 そういう意味で、陳海王の未来は暗そうだ。

「しかし…」
「それでは不十分」
「足りぬからこそ突出した筋肉などに不覚を取る」


 ここで陳海王は先ほどの悲劇を持ち出す。
 楊海王は肉体を「気」によってさらに強化していたのだろう。
 しかし、規格外の筋肉に負けてしまった。
 まあ、本当の敗因は楊海王の思い上がった(カン違いした)心なのだが、それは置いておく。

 陳海王が、除海王の戦いを酷評したのもうなずける。
 あの人、でかいだけで「気」とか持っていなさそうだし。
 突出もできていない中途半端な体格で不覚を取ったのでは、ダメだしされても仕方がないのかもしれない。
 そういえば、サムワンも191話で「気」を否定していた。
 除とサムワンあたりが、海王の最下層なのだろうか。
 救いがなさすぎて、ちょっと泣ける。

「さらに加えることもう一つ」
「地」

「気」「拳」「地」
「以上3つの融合を以って三合拳」


 陳海王が説く。「気」だけではなく、大地の力も利用するのだと。
 筋力だけではなく「気」と「大地の力」を利用するから、力の入っていないような攻撃でも威力があったようだ。
 そうなると、地に手をかざしていたのは大地の力を充電していたのだろう。

「バカに強力な順突きだと思ったが」
「地の理を加えたと言うワケだ」
「つまり」
「このコンクリートの理を…」


 一見大ピンチだが、寂海王は不適な表情で陳海王の技を解説してみる。
 まだ余裕があるようだ。

 順突きは前に出している足と同じ側の手で突くことだ。
 腰のひねりが無いので、早く打てる分、威力は弱いといわれている。
 ただ、「最強格闘技の科学(著:吉福康郎)」によると、実際に測定してみると、順突きも逆突きも威力はほぼ同じらしい。

 寂海王が「地の利」ではなく「地の理」と言っているところが奥深い。
 相手を殴ったときに生じる反発を上手く大地で支えているのだろうか。
 硬いコンクリートの床ならより強く。
 力を100%相手にぶつける理(ことわり)がそこにはあるのかもしれない。

「海王の名を海外に持ち出すだけのことはある」
「理解が早いッッ」


 海王になるためには、強いだけではなく、解説の上手さも必要かもしれない。
 サムワン、ドリアンと粗悪な海外製品を見た後だけに、ちょっと誉めてみたくなっただけかもしれない。
 理由はともあれ、陳海王は寂海王を賞賛する。

 しかし、それと試合は別物だ。
 ほめながら陳海王が追撃する。
 足・胴・腕が大地から相手に向かって一直線に伸びる。
 この攻撃方法が、大地の力を最大に引き出しているのか。
 気・拳・地の三合攻撃に寂海王はなすすべなく打たれていく。


 その頃、勇次郎とバキが親子の対面をしていた。
 勇次郎の試合前にバキがなにか言いかけたが無視をされ、ここでやっと捕まったようだ。
 今更なにを言うのだろうという感じだし、なにを言っても通じなさそうな相手だ。
 勇次郎はヘソの緒を切る前から傍若無人なのだ。
 バキがなにを言おうと、一言で切って捨てられそうだ。


 次回はお休みなので、二人の問答は再来週になる。
 来週は餓狼伝 BOYもお休みなのでちょっと寂しい。
 休載するときは、せめて時期をずらして欲しかった。

 やっぱり、週刊連載2本というのは不自然すぎたのか?
 我が子に授乳を強要される母親なみに不自然かもしれない。
by とら


2004年2月12日(11号)
バキはお休み

 前回の引きは二つ。
 寂海王と陳海王のうち、勝つのはどちらか?
 勇次郎を呼び出したバキの真意とは?


 試合の主導権は陳海王が握っている。しかし、微妙な優勢だ。
 一気に倒しきれない、ような感じがする。
 本格的なジャブを打つレスラーの活躍を見守る不安に近い。
 ああっ、ガーレン、ジャブ打っちゃダメ、って感じだ。

 この手の闘いはジャンケンのようなもので、技を先に出すと不利だ
 まあ、中には除海王のように技を元から持っていなくて、後出しで負ける人もいる事はいる。
 けっこういる。しょっちゅういる。

 勇次郎のようにほとんど反則のような存在の人もいる。
 陳海王は範馬ではないし、寂海王も巨人・ムエタイではないので、後出しの寂海王が有利だろう。
 もしかすると、陳海王が範馬という可能性も在るかもしれない。
 範馬の一族は外見が似ていない。似ている部分を探すと、眉毛に行き着く。
 そして、陳海王の眉毛はちょっと似ている。少なくとも範海王より似ていると思う。

 さらに髪のサラサラ感がバキに似ている。
 勇次郎の髪質とは全然違うが、祖父母の遺伝が隔世遺伝しているのかもしれない。
 ジャックも髪を伸ばせば、金のサラサラヘヤーかも。想像するとちょっと不気味だ。
 そんな訳で予想を覆す陳海王・範馬説はどうか?


 海王の中でも、技を出すことなく終わった劉海王と除海王は、さぞ無念であろう。
 とくに劉海王。
 グラップラー刃牙時代から顔は見せていて、長い前フリだったけど、散るときは一瞬だった。
 まあ、顔を爆破された独歩だって割と元通りになって帰ってきたので、劉海王も何事もなかったように帰ってくるはずだ。
 一方の除海王は、大擂台賽の終了時に「遅えぞ 海皇!」と出迎えるのが精一杯だろう。
 でも、この擂台賽はなごやかに終了できるのだろうか?
 勇次郎がいるかぎり難しそうだ。
 パパさんは、けっこう残飯喰うの好きだし、誰も出迎えに来れないのでは。


 そして、範馬親子の対面だ。
 バキの話とはなんだろう。
 梢江がらみの話とか、アンタはこの大会にふさわしくないとか、そういう話はありがちだ。
 そこで、あえてズラした予想を考える。

(1)経験者に聞いてみる
「実はオレ、入国手続きとかしていないんだけど、密入国になったりするのかな?」
「アホぅがッ、そんなものは力で通せッ!」
「ッッ――――――(聞く相手を間違えたッ)」

(2)質問
「親父の誕生編は正直ヤリ過ぎたんじゃないのか?」
「馬鹿か、キサマッッ! 過ぎたことをグダグダとッ」
「ッッ――――――(いきおいで誤魔化したッ)」

(3)見せつける
「砂糖水のせいか、体がテカってます」
「バキよ―――――― 艶を知る歳か」

 どれもピンときません。
 まあ、異星人の考えることは想像してもムダだろう。


 このままトーナメントが進むと二人は準決勝でぶつかるので、その辺を回避する良からぬ相談を持ちかけるのかもしれない。
 バキは試合がしたいと猛っていたので、この場で勝負を挑む可能性も少しだけある。
 どう考えてもバキが勝てるとは思えないので、返り討ちになりそうだけど。

「親父、最近のチャンピオンはパンツ漫画が妙に増えてるから、梢江ちゃんにたのんで対抗しようと思うんだけど」
「ッッ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
 そりゃ、勇次郎でも困るだろう。
by とら


2004年2月18日(12号)
第2部 第198話 ヘッドハンティング!! (578+4回)

 刃牙の話とは、一騎打ちの所望だった。
 ――――――――――――えっ?


 一騎打ちが希望(のぞみ)だそうだ。
 ―――――― ウソ?

 毒で脳が回復不能になっていたのか、空より高いものは自分だったと妄想しているらしい。
 それとも自称ダイアモンド氏が砕けたのを見て、イケるッ!と思ったのか。
 なんにせよ刃牙は、火中に飛び込む。いや、すでに飛び込んでしまった。

 地上最強の生物・範馬勇次郎が考えこむ。
 さすがの勇次郎も刃牙の申し出が意外だったようだ。
 一コマ経過……。二コマ経過……。三コマ経過……。

「毒も裏返り」
「元気も出ちまったところでケンカ相手でも欲しく

「ゴマ化しているのかな」


 勇次郎のセリフに刃牙が割りこむ。
 相変わらず仲が悪いというか、かみあわない親子だ。狂牛病と牛丼なみに相性が悪い。
 別の意味で、狂犬のように噛みあっているが。

「仮にあなたがこの世で一番弱い生き物であるなら」
「オレは二番目に弱い生き物でいい」
「ほんの少しだけ…」
「あなたよりほんの少しだけ強ければそれでいい」


 今夜の刃牙はちょっと大胆に虎の尾をふんで―――この場合は鬼のパンツを引っ張って―――みる。
 仮にとはいえ、勇次郎を弱者あつかいすると怒られる。
 これがその辺の海王だったら、ジャガッタ→伸ばす→またジャガッタ→また伸ばす→(くり返し)というアコーディオン責めを5セットは受けているところだ。
 
 刃牙の母・江珠が勇次郎に殺されたあの日から4年と十月
 再び刃牙が父に挑む。
 vs斗羽戦直後とジャックvsシルバ戦直後に勇次郎に一撃で倒されたのは、わすれているようだ。

「能書きが長ェな 親父」
「怖気(おじけ)づいてるのかい」


 刃牙は服を脱いで戦闘態勢に入る。
 この余裕はどこから来るのだろう。
 梢江ちゃんと合体して強くなったつもりなのか。毒が裏返って更に強くなったつもりなのか。
 毒手に一度は屈した刃牙が、生後半日でココイヤドクガエル亜種を駆逐した勇次郎に勝てるとは思えない。

 刃牙はどこまで本気で戦うつもりなのか。
 そして、勇次郎はこの戦いを受けるのか。
 というか、両者の対戦相手、アライJrと郭海皇はこの戦いを許すのか?
 たまたま通りかかったサムワンが巻き込まれたりしないのか。
 すべての解答は次週以降にあきらかになる。


 一方試合は三合拳・陳海王が圧倒していた。
 いいように打たれ、寂海王は息を乱して劣勢状態だ。
 だが、寂海王は立ち上がる。

「陳くん…」
「わたしと日本へ渡らんか」
「日本にいるわたしの弟子が2万4千人」
「共に育ててみんか」


 ダメージはどこへ行ったのか、すごくイイ顔になっている。
 サヨナラホームランを打ったドカベンも かすむようなステキ笑顔で、さわやかに話を切り出した。

『ヘッドハンティング!!』
『大会終了前にして異例の青田刈りだァッッッ』


 試合中に手術(オペ)開始に匹敵する、試合中に勧誘開始だッ。
 ウホッ! いい海王… やらないか(一緒に道場を)・状態ふたたびッ!

 異次元のキケン生物が笑顔でやってくる。
 ハゲでヒゲでフンドシだッ!(フンドシ違ッ
 荒遊戯好きの男色家に迫られるような強烈なプレッシャーが陳海王の脊髄から尻にかけて届いているだろう。

 バ、バカ、これ以上近づくなという感じで、陳海王が身構える。
 大地のエネルギーをチャージする。
 己の体を守るため、かなり必死っぽい。

 だが、寂海王は舌でチョコレートを溶かすようなとろける笑顔のまま、止まることはない。
 笑顔に後光までさして、強力な勧誘効果を演出している?

「強くなるだけではつまらんぞ」

 陳海王の頭をなでるかのように、寂海王が手をのばす。
 思わず、その手をつかんでしまう。

 ! 回転。
 この技は渋川流か? 合気? 柔?
 考える間もなく地面に叩きつけられ、気がつくと右腕が極められていた

 前の試合がジャガッタふたたびなら、今度はマイク・クインふたたびだ
 この状況で、陳海王にできることは「ギバ〜〜〜〜ッ」と叫ぶことと、腕を折られることぐらいだ。
 どっちも嫌な二択である。

「大会終了まで待っていてくれたまえ」
「優勝を手土産に君らを迎えたい」

 ボクッ

『肩を外したか〜〜〜!!』

 勝負ありッ!
 恐るべし寂海王。
 さりげなく「君を迎えたい」複数形でいうアナタが心底怖い。
 有望で好みのタイプの海王を丸ごと刈り取るつもりかッ!?

 こうなると、三合拳を喰らっていたのも陳海王の実力を体で知るためだったのだろう。
 肌を合わせなくてはわからない実力というものがある。一夜を共にして初めてわかることもある。そんな感じで。

 しかし、勧誘しておいて容赦なく肩を外すとは容赦がない。
 もっとも変に手加減されたらそっちの方が悔しいだろうし、コレはコレでいいのかも。
 陳海王が日本行きを拒否したら手足の関節外してお持ち帰りするという脅しにもなりそうだし。

 その前の「強くなるだけではつまらんぞ」というセリフには味がある。
 修行して自分だけ強くなっても、それは個人にとどまる。
 人を指導して強くすれば、自分の生み出した技術が広がるし、後の世に残る。もしかしたら、歴史に刻まれるかもしれない。
 虎は死して皮を残し、人は死して名を残す。もっと大きな夢を持て。そんな感じだろうか。
 オレ様最高の勇次郎イズムとは対極の思想だ。

 陳海王は打撃のみなら、かなり強かったと思う。
 だた、大地の力を得るため踏ん張りが必要でフットワークがきかず、待ちになりがちだった嫌いがある。
 だから不意をつかれて接近されて、投げ・関節に入られると脆かったのだろう。
 その辺は相手と自分の特性差を考えた寂海王の作戦勝ちという気がする。
 怪しげな笑顔に騙されかけるが、実は頭脳派らしい。

 これで、オリバ vs 寂海王が決定した。
 二人とも独特の雰囲気というか、なんかソレ方面の怪しげな芳香を持っていそうな誤解しをしているので、変な意味で楽しみな試合となった。

 どちらも食わせ者らしさがあるし、 不気味 ステキな笑顔を持っている。
 ヒゲ vs ヒゲ。筋肉 vs 技術。
 こりゃ、抱きたい抱かれたい笑顔なアイツ祭だな。
by とら


2004年2月25日(13号)
第2部 第199話 失せろッッ (579+4回)

 ついに最終決戦である範馬刃牙 vs 範馬勇次郎がはじまる。
 ………かもしれない。

「バキよ」
「無理するな」
「足が震えてるぜ」


 口では、元気イッパイだぜ、な刃牙だった。しかし、本人も知らぬうち体は恐怖を感じているらしい。
 勇次郎が刃牙の暴言を聞き流していたのは、絶対的優位に立っている余裕からか。
 と言うのはたぶん間違いで、ただの親バカだと思う。
 勇次郎はどんなに自分が優位に立っていようと、さからう者を許したりしない。
 場合によっては、逆らわない人も許さない。

 ガッ

 勇次郎は刃牙のアゴをつかみ、壁に押しつける。
 刃牙の背後で壁がヒビ割れた。
 両足は地につかず、むなしくもがく。

 一瞬で絶体絶命だ。
 足がついていない状態では有効な打撃や関節ができない。
 オマケに勇次郎の左腕は空いており、変に動くと即打ち込まれそうだ。
 やはり、前回の刃牙のセリフは慢心だったのか。

「挑発するにせよ言葉を選べ」
「かりそめにも この俺が怖じ気づくなどと…………」


 うわっ、マジ怒っている。
 息子に対し、真剣激怒だ。
 普段から弱者を挑発して無謀な戦闘を挑ませている男は、逆に挑発されるのがお嫌いなようです。
 自分が嫌いなことを、日常的に他人に強いる。それも勇次郎イズムか。

「うせろッ」

 壁に押しつけた状態から、更に押しこむ。
 接触したままの寸勁のような一撃で、刃牙背後の壁をぶち破り、建物の外へ突き飛ばす。
 あアあ、中国の国家遺産というか、公共設備に風穴がッ!

 運良く1階だった。最上階だったらアウトだ。むしろ試合終了だ。
 地面で弾んで刃牙はゴロゴロ転がる。
 ジャックvsシウバ戦後に乱入して勇次郎の平手で横回転して吹っ飛んだころと何も変わらない。
 むしろ正面からの攻撃だった分、実力差が開いたのかもしれない。

「あのキミ……」
「ダイジョウブかね…」


 壁から飛び出た刃牙に、通行人が質問する。
 擂台賽の期間内はこういう事件は普通にあるのか、あまり慌てていない。
 まあ、ろくでもない状態になったケガ人が多数運び出されているのだろうし、この程度は鳩のフンが頭に落ちた程度の事件に過ぎないのだろう。
 もちろん人生でそう何度も出会うことではないんだが。

(本当に強い…………)
(誇りたくなるほど……)


 久しぶりに感じた強さランクNo.1(生物・地上限定)の凄みだった。
 少年時代はその強さにあこがれていた。
 母を殺され、その強さは間違っていると思った。
 でも、それでも、刃牙は勇次郎の強さに惹かれているのだろう。

 だが、それを認めることは勇次郎を倒すと誓った四年と十月を否定することになる。
 今までの刃牙には、それはできないだろう。

("上には")
("上がある"という言葉が――――――)
(あなたの前ではまるで空しい!)


 跳ね起き、自分が飛び出した穴から、闘技場にもどる。
 廊下に勇次郎の姿はなかった。
 今の自分には戦う価値もないというのか。
 だが、刃牙の表情に敗北の悔しさはなかった。

「ホッとしているのか 俺はッッ」

 大口を叩いていたのは、それなりの勝算があったのだろう。
 そして、それはカン違いだとあっさりわかった。
 実力差は歴然だった。
 それに、気がついてしまった。勇次郎には勝てない。
 刃牙の心が、折れた。

 二人の実力差は、これでスタートに戻った。ように見えるが、同じではない。
 刃牙はグラップラー刃牙・17歳 時代のように、勇次郎を完全に否定しているわけではない。
 梢江とのファイトで愛の許容量が増えたのか、。勇次郎に対し敬意を持っているような感じがする。

 もし、刃牙が勇次郎の行為も許すことができるようになったら、違う意味で勇次郎に勝てるかもしれない。
 そもそも、普通に戦って勇次郎に勝つのは、ムエタイで近代兵器と戦うぐらいにムチャなのだ。
 普通とは違う戦いに持ち込まなくてはならない。
 戦闘能力の差は開いているかもしれないが、勝機は少し見えたかもしれない。

 まあ、とりあえず人にコケにされたあげく逃げられるという屈辱を噛みしめよう。
 それは、バキが柳とシコルにした仕打ちなのだ。
 間違いなく、因果応報だ。
 勇次郎に梢江ちゃんをお姫さま抱っこでお持ち帰りされなかっただけでもマシと思え。
 人の痛みも理解しましょう。
 読者だって大変なんだ。


 そのころ、烈は汗まみれだった。
 汗の水たまりの上で、騎馬立ちをしつつ両手を前に突き出し気合を入れる。

 そこに、命に別状はないと、ケガ人の様態が伝えられる。
 名前は出なかったが、顔の皮をはがれた劉海王のことだろう。
 サムワンと楊海王は、命に別状がありそうだし。作中人物はすでに忘れていることだろう。

「站椿(たんとう)……」
「いったい何時間そうして…………」


 ケガ人情報を教えてくれた男が烈の鍛錬に驚嘆する。
 ちなみにドリアン戦の直前である193話まで刃牙につきっきりだったので、試合3試合分で30分ぐらいか。
 汗の量に騙されているが、あんまり鍛錬していない。
 この発汗量は、烈もこっそり砂糖水を飲んでいたのだろうか。

「25年前――――」
「入門したその日劉老師から最初に習ったことがこれだった」


 750CCぶちかまされてもイケそうな感じで過去を思い返す。
 劉海王のそばにはいなかったが、烈は劉海王への感謝を忘れていなかったようだ。
 それにしても、最初に教わったのが、ホモ用テクニックでなくて良かったと思います。

「そのわたしが今……」
「白林寺を背負う!」


 ちょっと気負い気味で魔拳・烈海王が出陣する。
 プレッシャーがあるのか、なにか危うい感じがする。
 白林寺からは烈以外に、劉海王、怒李庵海王と、三人も擂台賽に参加している。
 だが、出場済みの二人は無残に敗れた。

 流派の威信をかけて、破れるわけにはいかないのだ。
 などと、いい背中を見せてくれるが、それが返って不安だ。
 相手にもよるが、意外に苦戦をしそうな予感がする。

 とりあえず勇次郎があけた穴に引っかかって「救命阿(ジュウミンヤ)ッ!」と叫ばないことを祈ります。
by とら


2004年3月4日(14号)
第2部 第200話 激突ッッ (580+4回)

 200回記念、表紙&巻頭カラーだッ。
 そして、肉肉しい。チャンピオンの表紙とポスターと漫画の表紙で、通常の三倍増しの肉だッッ!
 ひな祭の翌日にふさわしすぎる絵である。
 ぜひ小さなお子さんに買いあたえてマジ泣きさせてください。

 吉林省・孫海王、紳士的な風貌をもつ海王だ。
 彼の相手は、蛮勇が服を着て歩いているような ――――ほとんど半裸ですが―――― 烈海王である。
 紳士 vs 蛮勇、二人の拳士が白黒つけるべく擂台にあがる。

『そして名門 白林寺からは お待たせしました』
『今や中国武術界実力No.1の呼び声も高い』
『そうッ』
『烈 海王その人です』


 大擂台賽に参加する海王十二人のうち、三人が白林寺所属だ。
 門下を多数かかえる名門だから海王の数も多いのだろう。
 外国人留学生のドリアンくんもいるし、国際色豊かな寺のようだ。
 もっとも、トンネル掘って逃げ出すぐらいだから、環境は劣悪なんだろうけど。

 そして、魔拳とまで称され、今や中国武術界実力No.1の呼び声も高いのが、烈海王だ。
 ちなみに中国拳法界の実力No.1といわれていた人はコケたので、次席の烈がNo.1になったようだ。

「指輪が気になるか」
「武器として使用されるのではないかと」


 そういう孫海王は十本の指すべてに指輪をはめている。
 かざりっけのない、鉄を鍛えて輪にしただけのような指輪だ。
 装飾品ではなさそうだ。なんらかの意味があるのだろう。

「かまわん」

 武器の使用は一向にかまわん烈だけに受けて立つつもりだ。
 もちろん烈だって股間から棒を出して打ちのめしたりするのだろう。
 烈相手に武器勝負は避けよう。

 孫海王は無言で両手をあげる。
 ニギ…
 ヘンな音を立てて拳が握られた。
 超握力で固められた圧力で、頑丈そうな指輪がミチミチと裂けていく。
 腕なら力瘤だが、指だと指ぢから瘤とでもいうのだろうか。
 握力のみで十の指輪は破壊された。

「海王の認可を得て7年―――」
「初めて封印を解く」
「この指で拳を固め」
「存分に打ち込むッッ」


 攻撃力=体重×スピード×握力 世界の住民らしく、固い拳が自慢のようだ。
 しかし、七年間も封印していたので、伝家の宝刀も錆ていたりして。
 普段から拳を使った闘法を身につけていないと本番で役に立たない気がする。
 力を抜くと「シェー」の形になる大リーガー養成ギブスをつけていても、魔球は投げられません。
 気合を入れているところ申し訳ないが、かなりハズしているっぽい。

「破ッ」

 ダン


 烈が両足を踏み鳴らす。
 思わず孫海王は「ビクッ」となる。

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ! この反応は負け犬のものだッ。
 尿を漏らすほど雄弁に負けを物語っている。
 孫海王をビビらすことに成功して、烈は改心の笑みを浮かべる。なぜか白目で。

 パシッ


 烈が、孫の手と組んだ。
 真正面から握力対決を挑む。
 すでに試合は始まっている、あわてて係りの人がドラをならす。

 さすが蛮勇・海王、礼儀作法などお構いなしだ。
 きっと半裸で生活して、素手で砂糖水をかき混ぜるに違いない。

 そして、手を掴み合いながら日本のギャング・花山薫の握技に比べれば、お前なんて役立たずのブタだとののしる(後半ウソ)。
 烈が他人を誉める(?)のは珍しい。
 花山は、克己の認めるライバルだ。
 で、烈は克己の世話になっていた。だから、主人の意向を尊重して花山も持ち上げているのだろうか。
 まあ、花山が大擂台賽に出場したら、除海王・サムワン海王・ドリアン海王・楊海王・陳海王・孫海王あたりには楽に勝てそうだ。
 花山なら一回戦突破は楽そうだ。

 右手で握る烈海王、左手で返す孫海王。
 なんか利き腕のことを考えると、ずっこい気もするが烈は握力で孫海王と圧倒する。
 二人の握力差は、餓狼伝でいえばグレート巽と梶原に相当するだろう。
 孫よ、金玉はガードしろッ!

「どうした」
「これはキサマの領域だろう」


 指だけジャガりそうな感じに押し込められ、孫は悲鳴をあげて崩れる。
 おそらくこの時点で孫海王の心は折れていただろう。

「孫よ」
「海王の名を返上し」
「今一度 站椿(たんとう)からやりなおせ」


 一部分だけを鍛えずに全身を鍛えろということか。
 むしろ、白林寺の修行方法こそがベスト、白林寺サイコー!とアピールしている気がする。
 ほら、白林寺の象徴たる劉海王がひどい目にあっちゃったから、いい所をアピールしておかないとマズイんですよ。

(海王のレベルも)
(堕ちたものだ……)


 烈海王、余裕の勝利で二回戦に進出だ。
 少し気負いすぎていると不安がられていたが、烈は無傷で勝利した。
 しかし、控え室に戻るまでが大擂台賽だ。
 砕けたダイアモンド・楊海王の例もある。人に話しかけられても、ついて行かないように。

 陳海王によって、海王にも格があるとわかった。
 そして、烈によって海王のレベルが下がっていると判明した。
 巨人・除海王とかは万人が認めそうなヘッポコだが、それ以外の海王も微妙に質が落ちているようだ。

 そうなると、百年前の生き残り・郭海皇はやはり別格ということなんだろうか。
 控え室で「海王の睾丸も堕ちたものだ」と嘆いているかもしれない。
 むしろ、アンタのせいで落ちたんだけどね。

 そして、最後は範海王と毛海王だ。
 おねぇ言葉の毛海王がいかなる戦いを見せるのか気になる。
 絡みつくような凄い関節技とかをもっていそうだ。
 とりあえず、陳海王の仇を討つようにガンバって欲しい。
 陳海王は、すでに梱包されて日本に送られているかもしれないが。


 二百回を記念して、本誌では初の人気帳票が行われている。
 41人しかエントリーされていないのが、ちょっと寂しいが面白そうな企画だ。
 ちなみにサムワン海王は#10です。
 一般的には人気ないんだろうなぁ………。イロモノだし。
 フルチンでデコピンを受けたダメっぷりに感動しました、なんて書いても悲しいだけだし。

 天内や斗羽、三崎健吾などそこそこ人気のある人間が入っていないのも寂しい。
 そういえば、この人たちって「バキ」になってからは登場していない。
 天内には復活の可能性があるので、ひそかに期待している。

 投票するなら、思い切って#30松本梢江に一票入れてみるのはどうか?
 梢江の母・絹代さんがいないのは、なぜか?
 匕首(ドス)もって駆けつける姿は、ステキだったなぁ……

 梢江を好きな理由は、一言「バキSAGA」と書けば大丈夫だ。
 これなら、編集部に確実なダメージを与えることができる。反撃が怖いけど。
by とら


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