今週のバキ151話〜160話

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2002年12月26日(4+5号)
第2部 第151話 見えざる恐怖 (531+4回)

 もはや格闘漫画を超えて妖術漫画の域に達している。
 もしくは山田風太郎の忍法帖シリーズだな。
 闘技場の砂を利用して背景に溶け込む神秘の技をガイアが使用する。
 人の目は立体で捕らえるので、背景と同じ色でも見えなくなる事は無いと、言いたいのだが、見えないのだから仕方あるまい
 もう、これは見えないんだってば。

「バ〜〜〜〜〜カ」
「ギソウだよ」


 ガイアの姿を見失い無防備なシコルスキーを奇襲する好機であったが、ガイアは悪口を言っただけで攻撃しない。
 圧倒的優位からくる余裕なのか、単に性格が悪いだけなのか
 どうもガイアは、昔に比べて性格がずいぶん柔らかくなった気がする。
 敗北を2度も知ったショックで性格が変わったのでしょうか。それとも、やっぱりショックでガイアに似ている別の人格になったとか?

 声をかけられた事で、敵がそこにいる事がわかった。
 シコルスキーはそこをめがけて突っ込む。「砂埃を身体(カラダ)にまぶして偽装し」たガイアが完全に背景に溶けこまないうちに攻撃をする気だ。
 だが、それよりも早く砂を飛ばしガイアが消えたッ!
 まるで海底の忍者タコのような恐るべき偽装術だ。

 シコルスキーの狙いは悪くない。
 打撃系で攻撃すれば距離が開きやすく、また見失う可能性がある。だが相手を捕まえてしまえば、姿は見えずとも攻略する事が可能だろう。
 だが、現実は無常である。
 シコルスキーがガイアに逃げられた。
 掴みそこなった両腕をそのままガードに変え防御を固める。そうしながら、周囲を見回すのだが、ガイアの姿は見えない。まるで透明人間だ。

 いきなり、シコルスキーの鼻が摘まれた。

「ガァッ」


 悲鳴にも似た奇声を上げ
、シコルスキーが腕を振る。
 手応えはまったく無い。砂埃が舞うだけだ。
 周囲を再び見回す。だが、砂埃しか見えない。
 闇の中で、自分だけが一方的に攻撃を受けるのと同質の恐怖だ。
 鼻を摘まむという事は、その気になれば目をエグる事もできたという事だ。

「偽装と砂埃の煙幕でまったく見えない?」
「あんなに隠れるものか!?」


 すごい物好きのお客さんもこんな闘いは見た事が無い。
 言っているセリフが微妙に変な日本語だ。かなり動揺しているようだ。

「なぜ隠れるッッ」
「なぜ男らしく戦おうとしないッッ」


 見えざる恐怖にシコルスキーの表情(かお)が歪む。
 ものすごいダメ顔だ。今にも泣き出しそうだ。あ、そう言えば絶頂を迎えたときのバキの表情(かお)に似ているかもいや、ゴメン……今の忘れて。

 シコルスキーの必死の訴えに答えたのは、股間への軽い蹴りだった。
 軽くノックするように「トン」と当てただけの金的攻撃にシコルスキーは声にならない悲鳴を上げて、両手で股間を押さえ両膝を合わせ鉄壁の股間防御体制を取る。
 バキに金的を蹴り上げられて鮮血の1番絞りを出すハメになった苦い記憶が蘇ったのだろうか?
 情けない姿だ。情けなさすぎる。

 個人的にシコルスキーの声は島田敏に決定です。
 それも「Zガンダム」のシロッコを演じた島田敏ではなく、「無限のリヴァイアス」でパンツ脱がされそうになって「そこはダメぇっ!」と絶叫していたルクスン・北条を演じた島田敏だッ!
 もう、君の役割は道化役しかない。パンツを押さえながら「そこはダメぇっ!」と言って読者を笑わせてください。

 玄武の柵の前に砂煙が上がり、それが人の形を取った。
 ガイアである。
 柵によっかかり、足を交差させてリラックスしたポーズを見せている。余裕しゃくしゃくだ。
 金玉を押さえて必死になっているシコルスキーとは対照的だ。

「男らしく戦え……………?」
「よく言うぜこいつ………」
「我々2人は今ここで何をしているんだ?」
「ロシアの人よ」


 ちなみにセリフは横書きなのでロシア語か英語と思われます。
 さすが世界を股にかけて殺しまくるカリスマ傭兵です。外国語だってお手の物だ。
 元傭兵の柘植久慶氏の著書には、現地通訳は敵の内通者である可能性があるので、なるべく現地語を覚えた方が良いと書かれていましたが、傭兵の中の傭兵であるガイアは言語にも堪能そうです。
 ガイアほどの男であれば「くたばりやがれ、このチ●ポコ野郎ッ!」と言うセリフを5つの国の言葉で言えるに違いない。

「戦いには違いない」
「しかし…」
「格闘ではない」
「生き残り」
「ミスターシコルとガイア」
「全存在を総動員した生き残り」


 この男、伊達にミスター戦争(ウォーズ)と呼ばれていない。
 ここでの戦いも格闘ではなく、戦争と呼ぶのにふさわしい、生き残りをかけた壮絶なバトルとみなしている

 ちなみに、シコルスキーをシコルと呼んでいるのは御老公が呼んでいたのを真似ているのか、ちょっと馬鹿にした感じで呼んでいるのか、どちらでしょう。
 個人的には、からかっているような気がする。だって、今のシコルスキーはそう言う役回りだし。

 いつまでたっても消えないらしい不思議な砂埃を利用して、ガイアはまたもや姿をくらます。
 背後から聞こえたガイアの声にシコルスキーは振り返るが、ガイアの姿は見えない。
 360度全ての方向に敵影は見えず。そして、360度全ての方向から敵襲がある
 シコルスキー、絶体絶命、失禁必死の大ピンチである。

「シコル………」
「君に暴力の――――――――
 真の恐怖をプレゼントしよう……………………」

 次回、シコルスキー 残ったサオで失禁す
 …しないか、もはや失禁してもどうなる物でもなさそうだし。


 場面は冬の公園に変わる。
 人のいない夜の公園に1人たたずむのは猛毒・柳であった。
 バキにコケにされ、名刀を失い(?)すっかり凶相になっている。
 猛々しい凶相ではない。誇りを無くし、ヤケクソになっているような凶相だ。
 苦痛に耐えながら毒手を作り上げた強靭な精神は錆びついたのだろうか。体には害しかないはずの煙草を吸っている。
 足元に散らばる煙草の吸い殻が、柳の精神状態を表している。
 やさぐれたな柳。魅力がなくなった。敗北(まけ)たのだな…、それもごく最近…。

「古臭いまねを…………」
「あの用心深い男のまさかの決着の申し出」


 そう言いながらサツマイモ色をした手で果たし状を握りつぶす。

 以前の柳は、果たし状に反応したのだろうか?
 柳は常に自分から攻撃をしかけていた。自分で闘う時と場所を選んでいた。それは、不確定な要素が生じる野試合で勝利を得るには重要な事だ
 だが、今の柳は素直に果たし状に誘われている。
 罠があるのかもしれない。例えば、指定の場所には警察官が大勢潜んでいるのかもしれない。
 それでも柳は来たのだ。
 やはり、柳の中で何かが壊れ、ヤケクソになっているのだろうか?


 そして、果たしの状の主はカラン コロンと下駄を鳴らし寒空を行く。
 言わずと知れた達人・渋川剛気である。
 コートを着ているが、下が道着に袴だとすぐにバレる。そう言ったお茶目さを演出したファッションセンスが実戦で爆発している。
 しかし、いくらコートを着たところで裸足に下駄では、ものすごく寒いのではないだろうか。絶対に寒い。足袋ぐらいはいたらどうかと思うのだが…
 これはあえて肉体を追いつめることで、集中しようと考えているのだろうか?
 達人のファッションは難しすぎる。

武友 柳 龍光殿 ――――――」
「貴殿との永きに渡る因縁に決着を付けたく立ち合いを申し……」

「………ッと……」
「これは…!?」


 達人の行く道をはばむがごとく門が出現するッ!
 護身完成した渋川剛気が危険に出会うのを止めるために出現する門だ。

「何故(なぜ)ッッッッ」
「こんな時に………ッッッ」


 いや、こっちが聞きたい。
 渋川剛気はバキ世界でも屈指の曲者だ。お湯をかけられた恨みをいつまでも忘れていない。さらに、バキをけしかけて柳の技を我が目で確認した疑いもある。

 その渋川剛気が闘いを挑むのだから、確かな勝算があるはずだ。だが、行く先に危険が潜むと完成した護身センサー(?)が告げている。
 今の柳はさして強いとは思えない。と、なると柳以外の危険が潜んでいるのかもしれない。
 オリバの線は無いだろう。達人はオリバとは良い関係をもっていそうだ。
 と、なると危険となるのは範馬勇次郎だろうか。

 息子が成長したお祝いをするつもりかもしれない。
 そもそも柳は息子バキの喰い残しにあたる。利用価値のなくなったグラップラーは1山いくらで勇次郎に喰われるのが宿命だろう。
 柳を一撃で屠り去った後で「この程度の男にトドメも刺せぬとは……。バキめ、まだまだ甘いわッ」などと捨てセリフを吐いて退場しそうだ。

 それ以外では、海中に消えたはずのドイルがリングの貞子のような怨念と共に(なぜか黒髪のロン毛になって)復活して、無差別に襲いかかるとか。
 その時は、是非とも海藻とかフジツボとかを体中に巻きつけていて欲しいものです。

 しかし、達人はどうやって柳に果たし状を送ったんでしょうか?
 神心会郵便だろうか?
 自分で持っていって「じゃあ後日また」って感じだとかなり、のんびりした風景になりますが。


 毎度ワンパターンのオチで申し訳ありませんが、最悪の可能性として、
「バキくん、ステキ――――――――ッ!」
「応ッ」

 などと、どこぞのバカップルが路上で「新卍・改」なる体位に挑戦してたり…
 ええ、そんなモン写真でも見た事ありませんし、見たくもありません。ハハ…
by とら


2003年1月8日(6号)
第2部 第152話 見えざる恐怖(2) (532+4回)

 年が明けてもシコルスキーは大ピンチ。むしろ状況が悪くなっている。
 もうカンベンしてっ、ってぐらいガイアの姿が見えていません。

「教えよう」
「暴力の本当の恐怖」


 姿の見えないガイアがそう宣告する。
 今までのアレは、まだ「本当の恐怖」じゃなかったんですね。これからが本番ですか…。
 シコルスキーも不憫よのぅ。敗北を知りたいと思って脱獄しなきゃ、こんなホラーな目に逢わなくて済んだのに。渋川先生並の護身能力を持って入れば全方向にに扉が出現していますよ
 でも、もうすぐ望みがかないそうなので、結果的には幸せなのかも。

「見えるハズだ………………ッッ」
「必ず………ッッ」

「必ず…ッッ」
「必ず…ッッ」
「必ず…ッッ」


 絶望の闇の中でもシコルスキーは希望を捨てていなかった。シコルスキーには夢があるッ!(敗北を知りたいと言う)

 見えるはずだと言っているが、まったくの無策で、ひたすら凝視するだけだ。前々回から何も進歩していない。
 最後の最後に勝負を決めるのは人間の力だ、と己を励ましシコルスキーは目を凝らす。
 でも、なんかブツブツ言っていると追いつめられているみたいで、あまり上手く行きそうに無い。1つの事にとらわれて全体が見えていなさそうだ。

 シュッ ガコ

 殴られました。ダメです。見えません。

「見えない!!!」

 あきらめ早ッッ!


 思い切りのいい、ダメ宣言も凄いが、たった一撃を喰らっただけでも、ボタボタ鼻血を落とすのも凄い。さすが新リアクション大王のシコルスキーである
 ガイアに対して、かなり体重差がありそうだが、見事に吹っ飛ばされている。これもリアクションサービスだろうか。実は余裕あるのかも。
 と、思う間もなくスネを蹴られる。

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

 蹴られたスネを両手で抱えて身悶える。
 このッ、リアクションの天才めッ!
 確かにスネは弁慶の泣き所と言われ、蹴られると痛い所だ。
 だが、見えない敵がどこかに潜んでいる中で、スキ丸出しで全身を使って痛がる反応は尋常では無い。
 シコルスキーは、夜叉猿Jrを見て「人間じゃねェ……」と言う迷ゼリフを吐いた栗木くんを超えたかもしれない。
 この後、シコルスキーはどんなリアクションを見せるのか。この試合、ますます目が離せなくなって来たッ!(勝敗はいいのか?)

 続けて、「さわ…」と耳をつままれる。
 慌ててシコルスキーは後方にバックハンドブローを放つ。
 まるで竹とんぼのような勢いで腕をブン廻したのだが、空振りだった。
 宙に浮きそうな勢いで腕を振り回したから、また砂埃が舞いあがっている。さり気なく、墓穴を掘ってしまった

(なぜだ……!?)
(なぜ攻撃をしない!!?)


 目を見開き、とびっきりのヤラれ顔でシコルスキーは脂汗を流す。
 黙っていれば男前だったはずなんだけどなぁ、シコルスキーは。もう、すっかりオモシロイ顔が定着しちゃっている。
 そんだけ汗をかいているんだったら、お前も砂かぶって、前代未聞の選手が見えない試合に挑戦してみるのはどうか?
 もちろん、ガイアだったら偽装を見破って、シコルスキーは圧倒さるれるんだろうけど。
 そう思っていたら、シコルスキーのノド仏に、手刀の小指だけが「とん…」と当たる。

「ダオッ」

 天を突くような物凄いアッパーで迎撃を試みるシコルスキーであったが当然当たりません。
 上半身をのけ反らして、尻から魂が漏れそうなほど必死になって撃ったアッパーなんですけど、気持ちばかりが先走ってフォームもガタガタでスキだらけです。

「グニ…」

 ガイアの次なる攻撃は股間へだった。
 下から持ち上げるように触れられただけだった。だが、そのソフトなタッチが逆にスローモーションな恐怖を生み出す。
 そう、そこはシコルスキーにとって最大最悪の被害地なのだ。
 恐怖のポテンシャルを最大限に引き上げシコルスキーはむやみに蹴りを放った。
 そこはダメぇっ〜〜って感じの蹴りは当然空を切る。

「メッセージだ……………ッッ」
「これはいつでもオマエを殺せるというメッセージだ!!!」


 いきなり「メッセージだ」と言い出した時は、恐怖のあまり宇宙からのメッセージを受信したんじゃないかと心配したのですが、正しく自分の状況を理解しているようです。理解しても、この状況が改善される訳でも無いのが悲しい所ですが。
 年をまたがり追いつめられっぱなしのシコルスキーは、この危機にどんなリアクションを返す事ができるのだろうか?
 今度のリアクション命懸けだッ!


 一方、行く手をはばむ巨大な扉に悩まされている達人・渋川は過去を回想していた。
 それは、師である御輿芝喜平(みこしば きへい)との武道問答であった。

「闘って勝つなどと言うことは」
「武の段階で言うなら未熟も未熟……」
「今のお前さんならダイジョーブ」
「勝てぬ敵には近寄れぬ……」
「行こうにもそ奴の力量がおぬしの上ならば」
「辿り着くことができんのじゃよ」


「グラップラー刃牙 330話」では「八合目までを踏めるかどうか」と言われているのに対し、ここでは師に太鼓判を押されている。この相違点から見て、これは回想と言うより、現在胸中の師と対話している状態ではないでしょうか。
 とにかく、渋川さんがこの先進もうとしている所には自分よりも力量が上の相手がいると言うのは間違い無いようです。

(ならば――――――)
(この幻影は……!?)


 そう思いつつも引き返せないのが武道家のつらい所だった。
 渋川さんはそのまま幻影の扉を通り抜ける。
 すると、今度は渦を巻く荒海が出現した
 この勢いなら、渋川先生は護身だけではなく、リアルシャドーも完成させてしまいそうだ。

(この先どれほどの――――――)
(危険が待つと言うのだ!!?)


 正直言って、こっちが聞きたい。
 今の柳にそれだけの危険性があると言うのだろうか。
 お姫様抱っこ状態で走る男女の姿を見せたら、絶対に泣き出しますよ、あの人。
 そうなると、考えられるのは、やはり危険な乱入者の出現だろう。

 公園で1人待つ柳の前に、危険な乱入者が出現した。

「それがし…………」
「本部以蔵と申す者です」


 オノレが危険じゃァ〜、本部ッッ!
 出てきたのはいいけど、喧嘩売っちゃダメだって。
 本部さん、あなたの全盛期は2巻で神心会の人を倒した時なんだってばッ。最大限、譲歩しても4巻で刃牙に稽古をつけていたときまでが、アンタの賞味期限だッッ!
 これ以上はイカンッッ! 危険すぎるッッ!!(もちろん、アンタが)

「本部流柔術か…………」
「その元締めがいったい……」


 驚ッ 柳がちゃんと本部流を知っている
 さすが独歩が「武を志す者なら一度や二度は耳にする名だ」と評しただけのことはある。
 ……ん? って事は武を志す者でも、一度や二度しか耳にしない名前なのか?

 柳が喋りかけたのは、注意を逸らすためであろう。本部の返事もまたずに、柳は動いた。火のついたままのタバコを弾き飛ばしたのだ。
 板垣版・餓狼伝の92話で姫川が鞍馬に対して仕掛けたのと同じ攻撃だ。
 鞍馬は投げつけられたタバコをヒジで挟んでバックドロップをかますと言う大技を見せましたが、本部はこれをどう受けるのか?

 タバコを受けたのは、日本刀だった。
 いつ、抜き放ったのか右手一本で刀を持ち、タバコを切り裂いている。

「ワルいね…………」
「遊んでもらうよ」


 日本刀片手に本部が宣戦布告だ。
 解説勝負ならともかく、闘争では武器を使用しても本部が柳に勝てるとは思えない。
 なにか秘密兵器でも隠し持っているのだろうか。

 最近名刀を痛めて大ショックだった柳に、日本刀を突きつけるのは心理的な動揺を呼べるかもしれない。
 これは偶然だろうが、本部にツキが来ている証拠かもしれない。
 この幸運を逃さず闘えば、大金星が待っているかもしれない。
 可能性はかなり低そうだけど。シコルスキーがガイアに逆転するのと同じぐらいの可能性かな。つまり、ほぼゼロだけど。

 ただ、これで1つわかったことがある。
 渋川さんを待つ危険とは、惨殺された本部の姿を見て、当分肉が喰えなくなると言う危険だろう。
by とら


2003年1月16日(7号)
第2部 第153話 本当の攻撃 (533+4回)

 闘う前から読者にダメ出しされるか心配される稀代の解説家・本部以蔵が真剣引っさげ電撃参戦だ。
 その剣で自分の体を斬らないように祈っています。

「夜の公園で武術家2人……………」
「勝負でしょう」


 これが本部の第一声であった。
 夜の公園で武術家が2人っきりだと勝負なのか?
 このおっさんの常識はどうなっているんだ?
 勇次郎や金竜山に頭を打ちつけられてから、大事な部分が狂っているのかもしれない。
 これでは武術家は夜に出歩けない。近道しようと公園に入った所で、思わず独歩なんかに遭遇したら、勝負でしょう
 夜の個室でバキと梢江2人なら……SEXでしょう
 ロクな事が無い。

 どちらにしろ、もう開始(はじ)まっている
 本部は日本刀を大上段に構えて垂直に斬り込む気配を見せる。間合いはまだ遠いと見たのか、柳は構えを取らず静かに立つ。

「そもそも柔術とは剣術から進化したもの」
「ならば剣に精通するのも必然というワケだ………………」


 柳は「大日本武術空道」を学んでいるだけあって、柔術に詳しいようだ。
 柔術は流派によって剣も使うし、手裏剣も使う。
 餓狼伝でお馴染みの竹宮流では、修行に薬草学まで含まれている。
 柔術とは戦場及び日常で生き延びるための総合サバイバル技術でもあるのだ。

「当たっている………………」
「半分はね……」


 解説なら俺の方が上だと言いたいのか、本部は知識の差を見せ付ける。
 解説と言う名のジャブをフェイントにして、夜叉猿と勇次郎の間にできた子のような必死の表情で本部は一気に踏み込む。
 刀の切っ先が自分の尻に触れそうなぐらいに振りかぶって、大きく振り下ろす。

 この攻撃は、ちょっと大きく振りかぶりすぎではないだろうか。
 孫の手を使って自分の背中をかく時のように手を後ろにやっているが、そこまで手を後ろに伸ばすと、逆にスピードが落ちそうだ。
 やはり、この人は「理論を知っているだけではハエも殺せない」を実践しているのだろうか。

 と、思っていたら日本刀が飛んだ
 柳はとっさに体を動かす。
 動いたため、胴のあった場所に右太腿がきた。
 その右太腿に日本刀が刺さった。完全に貫通し、刃の半ばまで突き刺さっている。
 間髪いれず本部は鎖を投げ、柳の左足を絡め取る。
 右足は傷つき、左足は鎖で引かれ、バランスを崩し柳は倒れた。

 どう言う事だ、柳を本部が圧倒しているッ!!

 まるで悪い夢を見ているようだ。

「柔術とは戦場格闘技……………」
「剣だけではない………」
「武器全般に長(たけ)る」


 柳の足を絡めとった分銅付き鎖を引き寄せ、軽く振り回す。
 そして、投げつける。
 柳の左頬がはじけ飛んだ。頬の肉に混じり歯も数本飛び散る

 ………そんな馬鹿な本部が強いなんて。
 別人!?
 3人めの柔術家!?
 しかし、ちゃんとヒゲが生えてるし、ダサダサな服を着ている…ッッ。
 それでも、この本部は貴様は古流柔術を嘗めたッッッと言わんばかりの凄みを見せている。

 ウソ臭ェ……。なんで本部が強いんだ。

 そのころ、シコルスキーは半泣きだった。
 カメをひっくり返して、夏の日の炎天下で焼き殺すような、緩慢で確実な攻撃を受け続けている。

「来た……!!!」
「とうとう来た…ッッ」
「本当の攻撃が!!!」


 今度の攻撃は前回のように軽いものではなかった。スネを蹴られれば、皮膚が破れ肉がむき出しになる。
 しかし、本当の攻撃と言うにはまだ弱い。ガイアが本気なら骨折しているはずだ。
 徐々に攻撃を強くして行き、じわじわと恐怖感を高めるつもりだろうか。

 いきなり目に来たッ!
 サク…っと目に指が入り、シコルスキーは血と涙を流して悶える

 学習能力が無いぞ、このロシア人。
 目への攻撃は前フリに過ぎない。以前からガイアが執拗に狙っている個所があるではないか、そこを防御するのだ。
 そう、金玉・股間・金的・睾丸
 呼び方に差はあれど、場所と痛みは同じだ。急げ緊急防御だッ!

 バシッ

 蹴られました。サッカーボールを蹴るように、思いっきり。
 ガイアさんは実に嬉しそうな表情で蹴っています

 でも、音からしてかなり手加減して蹴っているようです。
 もちろん、潰す楽しみは後に取ってあるのかもしれませんが。

「…………ッッッ」

 大口を開け背景に稲妻を飛ばし涙を流してシコルスキーは痛がる。もちろん、両手を股間に添えてうずくまると言うスキだらけのいつものスタイルだ。

 ちょっと痛がりすぎではないだろうか。
 そりゃ、確かにそこが大事なのはわかる。痛いのも良くわかる。でも、油断したら更に酷い攻撃を受ける状況でスキだらけのリアクションを取るのはマズイだろう

 もしかして、この醜態はシコルの擬態だったりして…
 うつむいていてシコルスキーの表情は見えない。見えないだけで、口元は笑っているのかもしれない。

「気付いていたかなロシアの人よ」
「わたしの攻撃は10秒に1度……」
「君は暗闇の中で10秒間わたしの攻撃を待つ」
「その意味がワカるかな………?」


 アンタはクライベイビー・サクラかッ!? と日本中のバキ&餓狼伝ファンに突っ込まれそうなガイアのセリフで今回は終了となる。
 そして、そのガイアを見上げるシコルスキーの表情は、やっぱり情けないままであった。
 擬態じゃなくて真剣にダメみたいですね。


 逆に予想に反してダメじゃなかったのが本部さんです。
 いったいこの人に何が起きたのでしょうか。ちょっと見ない間に宇宙人に改造されていたとか?

 ひょっとして、もしかしたら、本部は強かったのかもしれません。
 武器を使えば、と言う条件付きだと。

 本部は独歩に対し「今の貴様なら1分以内に殺せる」と暴言を吐いたことがあました。
 それも本部ヘッポコ伝説1つですが、あの時は武器を所持していて武器を使用(つか)えば1分以内に独歩を殺せる自信があったのかもしれません。
 武器さえ持てば強いのに、素手で勇次郎を倒すことにこだわって負ける。武器の使用が禁じられている地下闘技場に出場して1回戦負け。
 武器さえ使えばもっと活躍できた、のかも。
 地下戦士の中で1番黒格闘家に近いのは、実は本部だったのかもしれない。武器を使わないとヘッポコな所も似ている

 本部が見せた日本刀投げですが、これには柔術家・本部以蔵の冷徹な計算が働いていた気がします。
 投げたのは間合いが遠かったからだろう。剣の届かない間合いで、大きく振りかぶる本部を見て柳は内心「こいつ、こんなに振りかぶっているけど、そこからじゃ剣は届かないんだよアホ。まったく、お前は部屋の隅で解説でもしてろ」などと思って油断したのかもしれません。
 届かないつもりでいたのに、剣が飛んで来たので避けきることができなかったのでしょう。
 さすが、実戦柔術の雄です。武器の使用に熟練しています。
 手を滑らせて、たまたま剣が飛んだだけならアホですが…

 もうひとつ気になったのは、飛んだ剣の軌道です。
 柳が避けなかったら剣は胴に刺さっていました。
 本部さん、童貞を捨てる気満々ですよむしろ、すでに捨てているのかも。
 なんか、このまま柳を倒しちゃいそうな予感が…。
 武器を持った本部に渋川レーダーが反応して、あれだけの幻想を見せていた可能性も無きにしもあらず、かもしれない。

 相手が本部だけに、どうも予想の歯切れが悪い。

 最悪の場合、これが夢オチじゃないかと疑ってしまいます。本部の、ではなく私が夢の中で本部が大活躍しているチャンピオンを読んでいるというオチです。
 または、あなたが本部が大活躍しているチャンピオンを読んだ後で、この「今週のバキ」を見ている夢だったオチかもしれません。
 目を覚ませば、きっとバキ特別編がまだ連載中です。

 シコルスキーですが、彼にはまだ逆転のチャンスがあります。
 餓狼伝のグレート巽も同じような状況で、逆転不能…と言うより選手生の心配をするほどのピンチから逆転しました。
 そんな訳でシコルスキーにも、逆転のチャンスがある訳です。
 巽は破壊された自分の腕を逆に利用して勝利をもぎ取りました。ならば、シコルスキーは破壊された睾丸を、利用して………
 ごめん、逆転ムリ。

 最後に、ちょっとだけ不安なことがあります。
 武器を振り回して大威張りしている本部さんですが、あまり張り切ると良くない事が起きそうです。
 大人気ない中国人が「貴様は中国武術を嘗めたッッッ!」と言って背後に立ったら、そこでアウトです。
by とら


2003年1月23日(8号)
第2部 第154話 カウント・ダウン (534+4回)

 前回からずっと股間を押さえっぱなしのシコルスキーであった。
 闘いに、と言うよりも人として敗北しているような惨めな姿だが、ガイアは容赦なく責めたてる。
 それも直接攻撃するのではなく、精神的な部分からねちっこく責めるのだ。

「10…」「9…」「8…」「7…」「6…」

(攻撃されるッッ………………… あと5秒でッッ)

「4秒……」「3秒……」

(来るッッ)
(来るッッ)

 微妙に間違えるとエロ小説に出てきそうなセリフだが、笑ってはいけない。
 姿を見せずに時間をかけてじっくりと攻撃を加える。カレーと恐怖は熟成するのがうまさの秘訣なのだろうか。
 まるで、恋人がやって来るのを待ちわびるようにシコルスキーは充血した目を見開いている。血管が浮き上がり、脂汗が流れた。

 ………ゼロ。
 鼻先に蹴りが来ッたァ〜〜〜ッッ!
 盛大に鼻血を噴き出してシコルスキーが吹っ飛ぶ。
 鼻先という、顔面の中でも特に痛い部分を狙って痛打している。
 さすが戦場の大神ガイアである。この人は、同じ要領で捕虜を拷問にかけて口を割らせたりしていそうだ。

「10…」「9…」「8」

 ガイアは蹴りを入れても満足していない。すかざず次のカウントダウンに入る。
 攻撃の手を緩める気は無いようだ。
 ガイアの「8」の声を聞いた瞬間にシコルスキーはビクッと体を震わせる。それまで無反応だったのは、蹴りで意識を失っていたからかもしれない。

 シコルスキーは急いで跳ね起きるが、相手の姿は見えない。
 前回喰らった目潰しがまだ効いているのか、シコルスキーの背景には闇が広がっている。

 充血した目は、もう敵の姿を探すことを放棄していた。
 呆然と正面を見つめて、慌てて頭部をガードする。
 そのガードの隙間からガイアのつま先が突っ込んで来る。
 シコルスキーの頭がサッカーボールのように蹴り上げられた
 棒のように倒れこみ、無防備のままギュッと目をつぶりシコルスキーは痛みと恐怖に耐えている。
 もはや、ガードすることにも無力感を感じているのだろうか。

「10…」「9…」

 ガイアは無常に次のカウントダウンを始める。
 まるで、時報のお姉さんのように淡々と時を告げる。

「8」「7」「6」

 やべッ、来る。と思ったのかシコルスキーは慌てて防御体勢を取る。
 四つんばいになり頭を抱えて丸まる。
 柔道で言えば寝技を耐えるための亀のポーズだ。
 だが、ダメだ、ロシアの人よ。なんでもありのこの試合では、そのガードは下策である。
 総合格闘技でも、4点ポジションからの膝蹴りは有効な攻撃だ。
 夢枕獏先生の作品なら、ここで肛門に革靴のつま先で蹴りこむ攻撃について解説が入るに違いない
 元東京監察医務院長である上野正彦の著書「死体は語る」でも、尻を蹴られただけでも人は死ぬと書かれている。
 ちょっと無防備だぞ、ロシアの人よ。

「シコルが…………」
「恐怖しとる……………」


 みっともないシコルスキーの姿を見て御老公がつぶやいた。
 眉をひそめているのは、驚いていると言うより呆れているからだろうか。
 シコルスキーが凶器攻撃をするのを期待していたのに、闘わせてみたらただのヘタレだったので、失望しているのだろうか。
 拉致してムリヤリ連れて来たのは忘れているようだ。

「1」

 ガイアのラスト・ワン・セコンドをシコルスキーはガチガチと歯を鳴らしながら聞いた。
 その瞬間、攻撃は天から降ってきた。
 後頭部への垂直落下キックだ。
 顔の半分が口になってしまうほど大口を開け、シコルスキーは声無き悲鳴を上げる。
 この哀れな姿にすごいモン好きのお客さんたちも、やや引き気味だ
 まあ、当然でしょう。この人たちは闘いが見たいのであって、拷問を見たい訳じゃないんですから。
 これ以上は残虐ショーだ。

 今度は膝の間に頭を入れるように丸まってガードする。
 なんか外気に触れる皮膚の面積を最少にする努力をしているようにも見えます。

 次の攻撃はわき腹だった。
 悲鳴を上げてシコルスキーはそのまま横に倒れた。
 この攻撃はボブ・サップですら悶絶した右のわき腹、つまり肝臓(レバー)周辺を狙った攻撃と思われる。

 よっぽど効いたのか、横になったまま起きあがろうとしない。
 そのまま、丸くなってガードする。なんか寒い日の朝に布団から抜け出さないで親を困らせる子供のようだ。

 また鼻面に蹴りが入る。
 横になっていたのがまずかった。ワキは守れても正面がガラ空だ。
 もう鼻を蹴られたくないのか、今度は下を向いて丸まる。
 ワキが甘い。今度は左わき腹を攻撃される。
 同じ過ちを繰り返している。ニワトリ以上に物忘れが激しい
 かなりいっぱいいっぱいです。

(来るッ)
(来るッ)
(来るッ)
(来る!!!)


 それでもシコルスキーに打開策は無かった。同じように頭を抱えて丸くなる。
 もう、反撃する事も、敵を探す事も、逃げ出す事も、ちゃんと防御する事も、何もできない。
 2時間サスペンスドラマなら犯人が過去を告白する崖っぷちのシーンに相当する。
 残った選択肢は1つしか無い。

「決着じゃ…………」

 ため息と共に御老公がつぶやいた。
 シコルくん、君には失望させられた。そう言いたげな表情だ。
 試合前はあれほど楽しそうにしていたと言うのに、今では寂しげに見える。
 気持ちはわからんでもない。
 だって、ガイア戦のシコルスキーはいい所がどこにも無かった
 あえて挙げれば、表情かな。やられ顔が面白かった

「オレの負けだッ〜〜〜」
「許してくれェェッ〜〜〜〜」


 刃牙に許しを請うズールを彷彿とさせる敗北ポーズでシコルスキーが負けを認めた。

 認めたのか、本当に?
 死刑囚さんの言うことは信用できません。

「確実にくる幸福……」
「その待つ時間の中にこそ時間の中にこそ幸福があるように………」
「確実にくる恐怖………」
「人はその待つ時間にこそ恐怖する」


 ガイアは勝者の余裕を見せる。
 なんか悪をこらしめたお侍さんみたいだ
 達者でなシコルスキー。それと、さっき国元から知らせがあった、元気な男の子だそうだ。(この辺で感動的なBGMが流れ、シコルは号泣し、勢い余って失禁する)お前にそっくりな金髪をしているらしいぞ。
 なんて展開になると大抵次回で改心した悪人は死んじゃうんですよね。シコルスキーは改心しないだろうから平気だと思いますが。

 遠足は前日の準備が1番楽しいと言いますが、拷問は針が刺さる直前が1番怖いのでしょうか。
 テストも「はじめ」の合図がかかるまでが、逃げ出したくなるぐらいに怖かった気がする。

「勝負有りッッ」


 高らかに宣言された声を聞きながら、カッ、とカカトを鳴らしガイアは背を向ける。
 なんだかよく分からんが完全決着ゥ!

 次回からは、シコルスキーも傭兵戦隊・自衛レンジャーの新メンバーさ。
 なんて展開にならず「許されると思ってんのかよそんなんで」と言いながら新手のお仕置きファイターが登場するかも。
 でも、これ以上シコルスキーをいじるのは、かなり難しいと思われます。
 しばらくシコルスキーは放置しておいて、本部 vs 柳戦が話の中心になりそうです。

 でも、不用意に背を向けてしまったガイアに、シコルスキーの意地の一撃が炸裂するかもしれません。
 次週を迎えてみれば、最後に立っていた男はシコルスキーだったと言う事だってあり得るのです。
 本部だって活躍しちゃうんだから、シコルスキーが活躍しても違和感ありません
 まあ、シコルスキーが活躍できるまでに10年ぐらいの年月が必要かもしれませんが…。
 なんかセミ並の下積み期間ですね。
by とら


2003年1月30日(9号)
第2部 第155話 壮 絶 (535+4回)

 とりあえず前回のシコルスキーの事は忘れましょう。今回、まったく出てこないので、忘れたままで問題無しッ!
 沈むべき船が沈んだ所で、登ろうとする夕日の話に戻る。そう、稀代の解説家・本部以蔵の話だ。
 もしくは沈みそうな朝日・柳龍光の話だろうか。

 ほほの肉が爆ぜ飛んでいるにもかかわらず、足元に血の水たまりができているのにもかかわらず、柳は笑った
 壮絶な笑みだった。
 闘争を日常とし、すり減った奥歯を持つ男が見せる、鬼の笑いだ。

 ぶらん…と柳が大鎌を取り出す。
 バキと最初に闘った時に使用した2連の風神鎌だ。
 ももに刺さったままの日本刀は抜かない。おそらく、抜くと出血がひどくなるので、そのままにしているのだろう。
 通常であれば立っていられないほどの痛みと恐怖があるはずだ。
 足に刀が刺さったままなのだ。この状況で闘う人間は、まずいない
 だが、柳は闘いを選択した。
 本部の手にある鎖を目で確認しつつ、柳は鎌をブンまわす。
 超高速で動く鎌は、バキも「先端に繋いであるハズのデカい鎌がまるで視えない」と言ったほどの危険な凶器である。
 その風神鎌を前に本部はいきなり背を見せる。
 攻撃される間合いではないと確認した上で背を向けたのか、平然と移動する。

「あ……」
「………………」
「キサ…マ……」


 柳が動揺した。動揺のあまり、鎌を落としてしまう
 動揺しすぎだ
 せっかく今まで誉めてきたのに。「あ……」はないだろう。それは、ギャグキャラのリアクションだ。
 …………よく見ると「あ……」と言っている時の顔が、克巳と加藤の中間みたいなスッキリした顔になっている。もう、柳と言うキャラクターのポジションもその辺なのだろうか。もう、「名刀が…」ぐらいしか言えないのだろうか。ギャグ担当に振り分けられているのだろうか。あれっ、克巳もギャグ担当だっけ?

 柳をここまで追いつめた本部の秘策とは、ジャングルジムの前に立つ、であった。
 縦横に張り巡らされた鉄骨に鎌が突っ込んでしまえば、絡まって使用不能におちいる。
 武器を前にしてもまったくひるまず、即座に相手の武器の特性を殺す戦術を実行する。今の本部はなにか違う。
 技量が上がったと言うより、冷静さと判断力が上がったようだ。

 本部はジャングルジムの前に立つ事で柳の鎌を封じている。だが、それは同時に本部自身の動きも封じている。本部だって、手に持つ鎖を振り廻せない
 柳は自分の武器が封じられた事だけに眼が行き、状況を冷静に把握できていない。
 鎌を使う事にこだわらなければいいのだ。本部は1歩も後ろに下がることができないポジションであり、立場的には柳の方が有利と言ってもいいだろう。
 その事に気が付かず、武器を落としてしまうのは、柳が冷静さを欠いている証拠であろう。

「草刈りはもうやめたのかい」

 本部が挑発する。
 表情をことさら変える事も無く、笑うでも無く、凄んで見せるでも無く、ごく普通に言う。
 その冷静さが逆に気にさわったのか、柳は鎌を再び使おうとする。
 それを制するように本部が仕掛けた。
 鎖を投げつけたのだ
 振りまわして飛ばしたのではない。
 これなら、背後に障害物があっても投げつけられるし、モーションも小さくてすむ。
 避けられたら武器を失う。それを恐れない、思いっきりのいい攻撃だった。

 そんな攻撃だったからか鎖は柳の顔面に命中する。
 その機を外さず、本部が駆けた。
 サツマイモ色の右手を掴む。正確には手首を掴んでいる。
 手首を引き、ヒジ関節を極める。片手で片腕を極めている。
 柳がヒジを折られ無いように動こうとすると、それは本部の投げの動きにつながっていた。
 目標はジャングルジムだ。
 吹っ飛び全身を鉄骨に打ち付ける。
 ジャングルジム全体が鳴動するほどの衝撃であった。
 武器を投げつけ(打撃)、掴み、投げと全てを一貫させていく、実に高度な連続攻撃だ。

「柳さん」
「技量ではわたしの遥か上を行くあなたが」
「何故(なにゆえ)これほどの遅れを取るのか…………」

 技量で劣っているって、自覚があったのかこのオッサンっ!

 それでも闘いをするなんて、負ける喧嘩に挑む特攻隊みたいだ

「磨いた五体以外の何ものかに頼みを置く」
「そんな性根が技を曇らせる」


 そう言って本部は柳の鎌を拾う。
 武器を使うと技が曇ると言っているが、自分が武器を使うのは一向に構わないらしい
 もう、曇りを取るのをあきらめているのか?

 本部ごときにそこまで言われて、猛毒・柳も黙っていない。
 キサマごときは素手で十分と言わんばかりに構えを取る。
 その右手はサツマイモ色をした毒手である。
 ドイルの目に当てただけで視界を奪った恐るべき猛毒が宿っている。フライドポテトを食べるときは、右手は使わないと噂されるほどの危険な手だ。

「お忘れか…………」
「あなたはその……」
「卑劣に仕込んだ右手に頼っている」
「最早(もはや)救い難い………」


 ひたすら苦痛を耐え、その苦痛の薄皮を重ねるようにして完成させた毒手を、本部は卑劣に仕込んだと言い切った。
 まさに詐術、まさに欺瞞、早く言えばペテン師
 武器を使い不覚をとった柳を更に動揺させるため、武器に頼ることが技量を曇らせたと言い、相手の武器を封じる。
 さらに毒手を使おうとすれば、それも卑劣だと言う。
 動揺しまくっている柳は、この一言で毒手を使う事にためらいが生じているはずだ。

 柳は動かなかった。脂汗を流し、本部を迎え撃つ。
 本部は鎌を持ち飛びこむ。またもや勇次郎のようなの表情で突っ込んでいく。

 ズンッ

 両者が交錯した。
 柳は同じ構えを取りつづけている。
 本部は鎌を振り降ろしている。

 ―――――――斬った
 柳の右手が手首から切り落とされた
 呆然と立つ柳の手首から血の噴水が飛び出す。

 果たして達人・渋川が辿り着くまで、柳は生きている事ができるのであろうか?
 それは次回以後の課題だ。


 やはり、本部は童貞を捨て去る覚悟、もしくは捨て去った後のようだ。
 ここまで強いと言う事はなにかあったのだろう。

 闘いは力や技量だけではなく、戦術と精神力も大きく関わる事を本部は見せているようだ。
 ある意味、死刑囚よりも死刑囚らしい闘いだ。

 今回の闘いは、板垣先生の著書「激闘 達人烈伝」で紹介されている中国憲法の達人・蘇 東成老師の影響が大きい気がする。
「武器というよりももう計略、策略のレベル」
「格闘でも暴力でもない、言わば戦争。そこには肉体と知力だけではなく、政治的要素も強く問われる世界が広がっている。」
 刃物・拳銃が当たり前の世界で用心棒をしていた蘇老師は打撃から関節、投げと続けて行く闘い方をするそうだか、ジャングルジム前での本部の動きはそれに近い物があると思う。
 元傭兵の柘植久慶氏は著書で、実戦では相手は何を持っているのかわからないので組み付くのは危険だと書いている。
 蘇老師は構えた相手を1発、2発殴った所で倒れない。刃物や銃を持った10人を相手にしたとき、それでは間に合わないと言っている。
 上の2人の意見を合わせると、次のような感じになりそうだ。
 打撃で動きを止め、関節を極めるなどして投げ飛ばし、相手との接触を避けつつ、常に間合いを取れるようにする。

 本部の闘いは次のようになる。
 近づかずに物を投げて相手の動きを止め、毒手を押さえて関節を極め、投げにつなげる。
 実に理想に近い攻撃と言えそうだ。

 本部が強いと言うのにはイマイチ馴れないのだが、こういう凄みを見せられるとちょっと嬉しくなる。
 グラップラー刃牙1巻の強い本部が帰ってきたようださすがに、独歩を1分以内に殺せはしないでしょうけど。

 ところで、本部が強くなった理由だが、ときおり見せる鬼の表情からすると、範馬の血を輸血したのではないだろうか
 これで、本部も範馬の血族だ。

 もしかしたら、間違って夜叉猿の血を輸血したのかもしれないけど。
by とら


2003年2月6日(10号)
第2部 第156話 危機の源 (536+4回)

 本部に負けるようになったら格闘士として終わりだ。
 本当に、ここで終わってしまうのか、柳よッ!?

 だが、達人・渋川はもっとピンチであった。闘う以前に闘いの場に辿り着けるのか微妙なのだ。
 そんな心配を余所に、轟々と渦巻く幻影の大河をハンドポケットのまま渡りきる。
 幻影とはいえ、これだけの障害物にも動じないところがただ者ではない。

 これがバキなら、溺れて渦に巻き込まれて、洗濯機に入れられた猫みたいにグテングテンになって、幻影のはずなのに水びたしになって(もちろん尿で)、電柱の影で死にかけています
 マゾなので回避できる苦痛も受け止めます。
 それがバキにとっての幸せなんだ。

 バキとは違い、まっとうな神経をしている達人は汗ひとつ流さずに河を渡りきる。
 もっとも、こんな幻影を見る人はまともじゃ無いのでしょうけど。

「柳龍光がいかに危険な相手とはいえ――――――――――」
「いかなる仕掛けを弄して待っているとはいえ―――――――」
「これほどまでに危険な敵(あいて)か!!?」


 次なる幻影は底も見えない断崖絶壁であった。
 これを渡るには………空中歩行しかないッ!
 次回のタイトルは「渋川剛気、空を飛ぶ」で決まりだろう。
 究極の合気は空気をも制するのかッッ!?

 それはともかく、達人も闘う前から柳は弱いと思っているようだ。
 2度負けたことは、忘れているのだろう。
 確かに今の柳にふさわしい幻影は、酔っ払いのゲロの河がちょっと流れる程度だと思います。
 しかも、柳の出血量に反比例してゲロの量は減っていくでしょう。
 ここで、その吐瀉物寸前の男に視点が切り替わります。
 柳の足に刺さったままの日本刀を本部は抜き取る。
 蹴り飛ばしながら抜き取る派手なアクションを見せるなど、今夜の本部は一味違ったままです
 斬り落とされた手が、本部の手だったなんて困ったオチは無い。ちゃんと柳の手は斬られている。
 ここから逆転するには「覚悟のススメ」のように「残った左がやけに熱いぜ」と言ってみるのもひとつの手だろう。とりあえず言うだけならタダだし。
 他にできる事も無さそうだし。

「認めるよな柳さん……」
「勝負ありだ」


 切っ先を突き付け、ついに本部が勝利宣言をした。
 敗北者のあきらめを感じさせる呆然とした表情で柳は刀を眺めている。
 だが、口から漏れたのは敗北を認める言葉ではなかった。柳が笑った。
 目の光が消え、今まで見せた事のない死人のような脱力した顔で柳が笑った。

「フフ…」
「本部さん」
「後……………」



 後ろに勇次郎が立っていた
 笑っているのか、怒っているのか、判別のつかない勇次郎的な表情で範馬立ちをしている。
 もう、鉄の皮膚や髪の1本までもが勇次郎を主張している。

 本部は驚愕し目を見開いた。
 当然だろう。この人を前にして落ち着いていられる人はほとんどいない。
 しかも、毎回いきなり背後に立っていることが多い人だ。驚かない方がどうかしている。
 思わずヘタレな表情を見せた本部を見て満足したのか、勇次郎が笑った。鬼笑いだ。
 本部は、慌てて日本刀を正眼に構える。

「勇次郎オオォォッッ」

 1歩踏み出せば間合いに入る一足一刀の間合いでありながら、本部の腰は引けている。
 精一杯声を出しているが、台詞の「オ」がバラバラに並んでいるので声が裏返っているのだろう。

「アホウが」

 いきなり切っ先をつかまれた。
 あー、もう。武器もっているんだから、ためらわず斬りかからなきゃ。
 この間合いで威嚇してどうします
 動けなかった代償は大きかった。丹波文七流の真剣白刃取りのように左手の握力のみで日本刀を押さえつけてしまう。
 更に親指でギゥウウゥゥと押し付ける。

 折れました。

 折れず曲がらずと言われているが、作中では折れたり欠けたりしている日本刀が指の力だけで折れた。
 これには本部も呆然とするしかなかった。
 カステラじゃないんだから、なんで日本刀が折れるかね、って気分だろう。
 つられて名刀ファンの柳も呆然とする。

 勇次郎は更に日本刀をもう1折りする。
 すっかり日本刀が短くなってしまった。
 目を真っ暗にして本部は刀を落としたものすごいショックだったのだろう。

 日本刀は一般的に思われているよりも短い。
「無双直伝英信流 居合道(著:加茂治作)」によると刀の適寸は身長より3尺短い長さだそうだ。本部の身長を175cmとすると85cmになる。
 勇次郎は2回で30cmぐらいを折った感じなので、残りは55cmだろう。元の長さの65%にすぎない。

 本部以蔵、刀と一緒に心も折れました。

「柳よ…」

 敗北した本部に興味は無いのだろう。本部は無視して、勇次郎は柳に声をかける。
 勇次郎は百獣の王ライオンであると同時に、敗北した格闘家の残飯処理をするハイエナでもある。
 やばい、柳喰われる寸前かッ!?
 本部と闘っていた時とはピンチの度合いがまるで違う

 勇次郎の威圧感に押されたのか、柳の手首からあり得ない量の出血が生じている。
 そして、柳の顔が完璧なやられ顔に変化している。
 柳は、もう立ちあがることもできないのか膝をついている。合わせるように、勇次郎は身を屈めて顔を近づける。

「おめェの敗(ま)けだ」

 勇次郎のお墨付きを貰いました。
 公園に寂しい風が吹いた。
 もう、勇次郎がこう言っちゃったら敗北です。最強死刑囚ついに全滅か?


 今回の話で、渋川さんの護身レーダーがちゃんと機能していた事がわかりました。相手が勇次郎だったから極大反応をしていたようです。
 渋川さんも、そろそろ真の敵は柳では無いと気が付く頃ではないでしょうか。

 勇次郎と柳はこれが連載後始めての顔合わせになるのですが、知り合いのような感じです。
 やっぱり、武を志す者にとって範馬勇次郎の名は絶対なのでしょうか。

 次回以後の予想ですが、渋川さんがたどりついても相手がいなくては話になりません。
 オリバが再登場してもいいのだが、せっかく勇次郎がいるので新・お墨付きのキャラクターが登場するのではないだろうか。
 植毛した天内が復活! …でも良いんですけど。

 これで全ての死刑囚が敗北を知ったとすると、そろそろ話の核心に迫りそうな気がする。
 今回の騒動の裏に隠されていた陰謀を勇次郎が語りそうな気がする。

 板垣先生は取材旅行でラスベガスに行っている。また北朝鮮にも行こうとしている。
 つまり、今後は舞台が海外に移ると言う予兆ではないだろうか。
「あしたのジョー」「巨人の星」などの原作者である梶原一騎氏は晩年調子を崩した時、話を自分の得意分野に持って行く事が多々あったそうだ。
 そのためヤクザが出てきて舞台が海外に移ると言うワンパターンが生じたそうだ。
 板垣先生も1度は舞台を海外に飛ばしてみたいのかもしれない。

 違う方向にはもう十分過ぎるぐらいに飛んでいると思うが…
by とら


2003年2月13日(11号)
作者急病のためお休み

 1月30日(9号 第155話)の作者コメント「作者急病の為、特にお伝えすることはありません。」が伏線だったらしい。

 今年はインフルエンザが猛威を振るっているらしいので少し心配です。
 色々と間に合わなかったようで、アンケートに「バキ」があるのに、穴埋め読切りの「えすけいぱあ」が載っていません
「グラップラー刃牙」の連載が始まってから約11年がたちますが、病気でお休みするのは今回が初めてです。
 ここはキャオラッッと休んで次回から元気を取り戻してください。


 今更ですが、待つ事の恐怖で気がついた事があります。
 少し前のシコルスキーと、漫画版・餓狼伝に出てきた泣き虫(クライベイビー)サクラのエピソードは、板垣先生の体験が少し入っているのではないでしょうか。
TV番組「WINNERS」に板垣先生が出演したときに、11ヶ月の入院生活の時、ヒマだったので絵を書いていたと言っていました。
 私は入院をした事が無いのですが、経験者の話では、長期の入院は本当にヒマだそうです。板垣先生は著書「格闘士烈伝」でも、「何しろ長期の入院、不安なことこの上ない。」と書いています。
 いつ退院できるのかわからない不安と、ひたすら待ちつづける苦痛があったのでしょう。
 そんな中で板垣先生はいつ来るとも知れぬ来客を待って、病室の扉を見続けていたのかもしれない
 その不安な状態が、あのストーリーを生み出したのではないだろうか。


 それはともかく、次回以後のバキですが、そろそろFBIごときにゃ100年かかってもワカりゃしねェ理由を教えてもらいたい。
 ジャックの母であるジェーン(ダイアン・ニール)が「グラップラー刃牙」のラストで登場した理由も知りたい所です。
 ジェーンと言えば、傭兵(ニセモノですが)であり、ジャックの母です。
 今地下闘技場にはジャックと傭兵のスペシャリスト・ガイアがそろっています。
 もしかしたら、ジェーンもいるかもしれません。
 そう、よく考えると勇次郎・ジャック・ジェーンの3者面談まであと1歩です。

 そこに辿り着く前に、ドカンとでかい回想シーンがやって来るかもしれません。
 何しろ死刑囚達の過去はほとんど明らかにされていない訳ですから。

 勇次郎は今の所シコルスキーと柳に会っていますが、それほど親しげな感じは無い。彼らの関係がどうなっているのか、そろそろ明らかになるのかも。

 前回も書きましたが、そろそろバキの舞台が海外に移るのではないかと思っているのですが、それが死刑囚編・最凶海外放浪回想編(長い…)だったりするのでしょうか。

 なんにせよ、次週こそはお休みで無い事を祈ります。
 とりあえず、来週火曜日18日の餓狼伝も休載だったらピンチです。


 おまけの駄ネタ 次回予想(使いまわし)

 柳の敗北を宣言した勇次郎であったが、彼の暴挙がこの程度ですむはずがなかった。

「伝える事がある。
 キサマが凶器(ぶき)と戯れる日々に、もの知らぬ浅はかな者供があれこれと世話を焼きたがるだろう。
 毒にも薬にもならぬ駄菓子のごとき助言、いらぬ世話をッッッ!
 一切聞く耳を持つなッ!
 非武装闘争の果てにたどりつく境地など、高が知れたものッッ!
 強くなりたくば武装せい!!!」(注:見開き)

 さっきまで違う事を言っていた本部さんの立場無し。
 理論より迫力で説得してしまう勇次郎に柳もうなずくしかなかった。

「朝も昼も夜もなく毒砂を突けッッッ!
 食前食後にその毒を喰らえッッ!
 飽くまで喰らえッッ!
 飽き果てるまで喰らえッッ!
 喰らって喰らって喰らい尽くせッッ!」

 これにはさすがの柳も「バカな…」つつぶやくしかなかった。
 さすがに、喰ったらダメだろう。

「本部とやら…。
 自己を高めろ。
 解説者として、飽き果てるまで解説しつつも――――――――
 解説し足りぬ雄であれ!!!
 喰らい尽くせぬ驚き役であれ」

 本当は知り合いなのに、えらく他人行儀な言い方をされる。しかも、解説者・驚き役と決めつけられた。
 もちろん、反論できない本部であった。

「祝福するぜ、二人とも」

 誤解を招きそうな事を言って、暴言を吐き尽くした勇次郎は去った。
 後に残されたのは、雄2人のみであった。

 数日後……
 柳は律儀に勇次郎の言葉を実行していた。
 毒砂を喰らって喰らって喰らい尽くす。
 はじめて3日目で柳は倒れ、毒の副作用により身体能力は激減した。

「柳め、俺の予想を覆しやがった」

 去っていく勇次郎は、なぜだかちょっぴり嬉しそうだった。
by とら


2003年2月20日(12号)
第2部 第157話 勝負とは (537+4回)

 こいつが出てくると全てがブチ壊される。それが、範馬勇次郎だッ!
 あ、でもバキと梢江の合体をブチ壊して延期させたのは、ノーベル平和賞並の功績かもしれない。
 確実にくる恐怖をじっくり待たされただけ、という気もするが…

 勇次郎ににらまれ冷や汗は流しているが、柳の心は折れていなかった。
 右手を落とされ重症でありながら勇次郎に正対し、堂々と渡りあう。
 ちなみに、本部さんは勇次郎の後ろでビビっています

「お逢いするのは初めてだが」
「君の噂は何度も耳にしている」


 意外と言うべきか、この2人は初対面のようだ。
 強い相手を求めて、北極熊から飛騨の猿まで喰いに行くのが勇次郎です。なんか例が動物に片寄りましたが、とにかく強きものを求めている訳です。
 しかし、勇次郎レーダーに柳は引っかかっていません。なぜでしょう?
 実は、柳は勇次郎から逃げまわっていたのかもしれない。柳には、勝てる相手としか闘わないような部分がありそうだ。
 まあ、普通に考えれば勇次郎が強者になっていた時にはすでに柳は捕らえられていたのでしょう。

「日本刀をヘシ折るその握力……」
「数々の逸話も信じられようというもの」
「さすが地上最強の生物――――――」

「どうだっていいンだよ そんなこたァ」


 話の途中だったが、勇次郎にさえぎられてしまう。
 地上最強の生物であり、地上もっともマイペースな男でもある。
 ワガママな人の相手は疲れます。

 勇次郎の逸話とは、ベトナム戦争を素手で闘い抜いた男とか、弓矢より早く動ける男とか、核シェルターを拳で破壊したとか、そんな感じでしょう。
 普通なら、信じられません
 でも、素手で日本刀をヘシ折ったのを見て、信じたようです
 名刀マニアだけに、日本刀は強さの第1基準なのでしょう。匕首を叩き折った稲城文之信も高く評価するに違いない

「俺が言ってるのは この勝負はおめェの負けで」
「それを認めるのか認めねェのかってこと」


 ムチャなことを言う表情が妙に嬉しそうです。人に圧力をかけるのが好きなのでしょう。
 妙なところで遊び好きなのが、範馬の血統なのだ

 本部は情けない表情で見守っている。危険な表情を見せている勇次郎が柳を襲うのでは無いかと心配しているのでしょう。
 もう、前回までの迫力は無い。

「自他 共に認める最強の称号を持つアンタだが」
「この勝負の勝ち負けを決めるのは」
「アンタではない」


 勇次郎をアンタ呼ばわりだ。かなりヤケクソになっている。
 柳だって自分がピンチなのはわかっているだろう。
 だが、死刑囚はあきらめが非常に悪い。敗北を知りたいと言いながら、意地でも敗北を認めたがらない。
 こめかみに血管を浮かべ、汗も流しながら、柳は意地を貫き通す。

(言うな)
(殺される………ッッ)


 自分の身が大事な本部は、口に出すことができない忠告を心の中で叫んでいた。
 それに対し、柳は殺される覚悟で自分の思いをぶちまけた。
 武術で柳は本部に負けたかもしれないが、気力で柳は本部に勝っている。
 ただ、この勝利の代償は高そうだ。

 勇次郎が上体を伸ばした。
 視覚できるほどの闘気が立ちのぼる。

「聞いたか本部………」
「俺に決める権利はねェ…と」
「大正解だぜ」

 えぇっ、ウソっっ、って感じで本部が打ちのめされた
 さすが勇次郎である。
 柳が突っ張ったら、第2目標の本部を攻撃できるように罠を張っていた。
 将棋で言えば「王手 飛車取り」状態です。もっともこの場合は桂馬香車って感じですが…

 やられた本人が負けを認めず、やった本人が勝ちを認めぬなら、どんな状態であろうと決着ではない。

 切り落とされた柳の右手をわざわざ踏みつけながら勇次郎は熱弁をふるった。
 柳の言葉を正解だとしているが、反論されたのが微妙に悔しかったのだろう。
 復讐できるところで、きっちり復讐するのが勇次郎の恐るべき所だ。
 なんか、マメで几帳面なティラノサウルスって感じでタチが悪い。

 前回の本部は勝利宣言をしたも同然だったのだが、勇次郎の言い方のせいで勝ちを認めていなかったような扱いにされてしまった。
 ものすごく不憫です。
 本部だって命がおしい。「俺は勝ちを認めていたんだよ」と勇次郎に反論できるわけがない

「難儀するワケだ」
「こんな化物がおったのではな……」


 混乱する局面をさらにかき回すように達人・渋川が登場する。
 すでにフルマラソンをしてきたかのように疲れています。
 おそらく、シコルスキー並のロッククライミング能力を発揮して(幻想の)谷を底まで下りて、そこから登ってきたのでしょう。
 バキのリアルシャドーに匹敵する妄想力です。

「遅かったなジジイ……」

 まるで渋川さんがやって来ることを知っていたような台詞だ
 オレはなんでも知っているぜ、と思わせぶりな事を言わずにはいられないのだろうか
 この調子だと、TVでニュースを見ているときも、「日本の警察ごときにゃ150年かかってもワカりゃしねェ」などと言い出しそうです。
 ………したのか?

「しゃべりすぎた………」
「帰るぜ………」
「ねみ……」


 言いたいことを全部言ってスッキリしたのか、勇次郎は伸びをして、今度は帰る宣言をする。
 本当にマイペースです、この人は。

 ッッ、泣いているッッ!?
 あくびをしたらしき勇次郎の目に、確かにがッッ!?

 この人ってちゃんと泣けたんですね。なんか、もう人体構造上の問題で涙が出ない人かと思っていました。
 やっぱり「初めて」の時とかは号泣したのだろうか。
 うまく想像できませんが。
 あ、初めてってのは、生まれた時のことです。

 バカッ


 油断していた。
 勇次郎がいきなりふりかえり、裏拳を柳に叩きこむ
 全身を鞭打にしたように、体を最大限にしならせての攻撃だった。
 首ごと飛んだのではないかと錯覚するような一撃で、柳の顔は下半分が崩れた
 誰も声を発する事ができないまま柳は顔から倒れこみ、ジワァ……っと血だまりが広がる。

「屈服しねェ以上は俺との勝負に立ったってこと…………………」
「勝手に決着つけさせてもらったぜ」


 やっぱり、反論された事に腹が立っていたようです。
 あくまで自分の意を貫き通し、今度こそ勇次郎は去っていく。
 次回を見るまで正確なことは言えませんが…。


 本人が敗北を認めないうちは負けでは無い。
 同じような話は夢枕獏先生の小説「餓狼伝」「キマイラ シリーズ」にも出てきます。これはルールの再確認と言う感じでしょうか。
 ここでルールを再確認したと言う事は、シコルスキーが本当に敗北を認めているのかが気になります。
 シコルスキーが真に敗北を認めていないかぎり、闘いは続く。
 死刑囚編の最終局面は、いつやって来るのだろう?

 そして、勇次郎はなんでこの場の闘いを知っていて、なんでそのまま帰っていくんでしょうか?
 鬼父(パパ)のやる事は難しすぎます
 ひょっとしたら最近都市伝説になった「妖怪・お姫さま抱っこ」でも探しているのかもしれません。


 勇次郎が去った後に残された瀕死の柳と、夜の公園で柔術家2人、勝負でしょうか?
 とりあえず柳を 楽にして 治療してあげましょう。

 こんな柳を見せられて、長年宿敵であった渋川さんも複雑な心境でしょう。

「柳…ぬしゃ好敵手(ライバル)……。
 しからば―――――― ダメ押しィイイイッッ

「えぇッッ!? 渋川老、アンタ、それはちょっと…」
「スマンの。卑怯も武のうちじゃ
「勝負ありッ」

 次回は「渋川さん、積年の恨みを晴らす」の1本です。お楽しみに!
by とら


2003年2月27日(13号)
第2部 第158話 再会 (538+4回)

 とりあえず、柳とシコルのことは忘れましょう
 むしろ、最近出てないキャラクターのことを思いだそう。
 たとえば、スペックとか。いや、それは戻りすぎだ。

 ドイルは海辺の洞窟にひそんでいた。
 海の底に沈んでいるのではないかと心配されたり、泳いで中東に行ったのではないかと期待されたりしていたが、まだ日本に潜伏していたのだ。
 ドイルは死刑囚だ。下手に動き回れない。
 中東へ逃亡予定だったし、不況の続く日本で生活するのは大変だったのだろう。電車も無銭乗車していたし、かなり貧乏だったはずだ。
 ただし、女装のための資金は別口かもしれない。
 中東に行く事もできず、克巳たち友人に会うこともせず、すっかり洞窟にひきこもっている。

「見えない」

 視力は戻っていない。
 己の手を見ようとしても闇に包まれたままだ。
 ドイルは、柳ばかりを責めているが、責任の半分は烈にあることを忘れてはいけない。
 烈も柳も、ドイルに言いがかりをつけて凶器攻撃をしたのは共通なのだが、印象が違うのは人徳の差だろうか。
 もちろん、烈の方が迫力があるので、人徳もありそうだと言う理屈である。

 視力を失ったドイルは音で異変を感じ取る。
 洞窟の入り口に男が立っていた。ドイルには見えていなかったが、異様に膨れ上がった筋肉をもち、髪の毛が後退しつつある男だ。
 アンチェインことビスケット・オリバである。

「今晩は(グドッイブニング)」「Mr.ドイル」

「グドッ」?
「グッド」がなまっている
のだろうか。なお、「good」の発音はここで聞ける。

 遊び好きなオリバのことなので、ドイルをからかっているのだろう。
 こんなオリバだから、偉そうなことを言ってアメリカから出てきても、仕事をせずに遊んでいるのだろう。
 とりあえず、あちこちの人にもらったばかりの黒帯(ブラックベルト)を見せびらかしていたのは間違い無いはずだ。
 ひょっとしたら、前日まで手首が外れたままで治療に専念していたのかもしれない。

「君らを狩るため………」
「イキまいて東京へ来た――――――
 まではよかったが………………」
「その後が良くねェ…」


 仕事をしていないことを、ちゃんと自覚していたようだ。
 確信犯とは、これまたタチが悪い。
 久しぶりの仕事だと言うのに、オリバは悠然と葉巻を吸いはじめ、無駄に余裕を貫禄を見せている。
 やっぱり、仕事をやる気はあんまり無いらしい。

 それでも、ドイルを狙ってきたのは頬に消えない傷をつけられた恨みだろうか。
 渋川先生も黒帯(ブラックベルト)をあげていなかったら、狙われていたかもしれない。

「……で」
「ワタシをタイホしにきたワケだ……………」
「捕まえてみろよ」
「やれるものならな……」


 ドイルは視力を失ったが、闘志は失っていなかった。
 目は見えていなくても、臆すことなく立ち上がり、構えを取る。
 ふてぶてしい不敵な笑みはまだ失われていない。

「初めてお目にかかる………………」
「捕まえられようとする逃亡者…………」
「視力がないようだな…」


 オリバは冷静にドイルの状態を観察していたようだ。
 長話をしていたのも、ドイルの状態を見極めるための時間稼ぎだったのだろう。
 さらに、葉巻に火をつけたのも、ドイルの瞳孔の反応を見るためだったのかもしれない。
 鍛え抜かれた肉体だけではなく、鋭い洞察力と考察力を持つ頭脳もオリバの武器なのだ。

「捕まえられようとする逃亡者」と言われてしまったドイルには絶望感があっただろう。
 視力を失ったのは、戦闘力を失ったと言い換える事ができる。
 ファイティングポーズを取りながらも、ドイルの心には捕まって治療を受けたいという弱い気持ちがあったのだろう。

 ドイルは敗北を知ってしまったため、心が弱くなったのだろうか。
 ギリギリまで意地を張り通す生きかただったから、1度折れてしまうと元には戻らないのかもしれない。
 今まで通して来た意地はもう無い。今のドイルには拠るべきプライドが無い。

 それでもドイルはおとなしく敗北を受け入れるような男ではなかった。
 真っ直ぐにオリバの口元に正拳を撃ち込む。
 だが、オリバは微動もしなかった
 そのままドイルの顔をつかみ、目の状態を検分する。

「毒によるものだな…………」
「しかも猛毒………………」


 言うと同時にベアハッグを極める!
 単純な腕力をもっとも有効に使う、力のみを必要とする技である。
 愛をもって肉体を強くした男による博愛固めでドイルは失神する
 ビスケット・オリバ、ようやく1人目の死刑囚を捕縛する
 もう、逃がすなよ。

 ドイルがオリバの口元を攻撃したのには理由がありそうだ。
 オリバは葉巻をふかしていたので、そのニオイで位置がわかったのだろう。
 だから葉巻をくわえる口を狙い、葉巻を粉砕したのだ。オリバにダメージは無かったが…

 だが、柳戦でドイルはタバコのトリックによってダマされている。
 今回はそれを警戒していたはずだ。
 ドイルの攻撃はオリバが話した直後である。声の出た所に攻撃をしたのだろう。
 だから、口を狙い、葉巻を粉砕したのだ。オリバにダメージは無かったが…

 どっちにしても、ドイルは1日100回の正拳突きをこなしていなかったようだ
 克巳との友情はどうした



 一方、舞台は阿鼻叫喚の巷と化している淫虐の殿堂「落書き刃牙ハウス」に移る。
 犯罪者は現場に戻ってくると言いますが、彼らも戻ってきたようです。ちゃんと掃除はしたのでしょうか。
 落書きの中にある、「エロ魔王」と言う落書きが心に響きます。
 これを書いた人は、現場を見たのでしょうか?
 アレを見たのだとしたら、「魔王」と書きたくなる気持ちもわかります

 現代の魔窟で1人の美少女(設定)が料理をしている。
 たくましすぎる後姿だけで私はお腹いっぱいになりました。
 なにやら不吉そうな具が入っているスープらしき物を完成させ、愛しのダーリンに食わせる気だ。

「バキくん」
「おまちどう」

「ああ………」


 バキ、激ヤセッ!
 頬がこけまくっているッッ!


 効いていないようでも毒手のダメージは深刻だったようだ。
 梢江ちゃんの前だから見栄を張っていたのだろうが、もうごまかし切れるレベルでは無い。病院へ行けッ!
 狙いは泌尿器科だ! いや、違うッ!

 今思えば、あのお姫さまだっこ逃亡は毒が回り始めたバキが最後の力を振り絞って、愛する人を安全な場所へ逃がした行為だったのでしょう。

 その辺をちゃんと説明して逃げていれば、読者にブーイングを受ける事もなかったろうに…。
 バキくんは、やっぱり不器用なタイプです。
 パンツも満足に脱ぐ事ができません。

 正直な話、猛毒を喰らったんだから、紅葉に頼んで治療を受けるべきだろう。
 37%ぐらいの確率で、人体実験をされるかもしれませんが。

 強さのバランスを根底からくつがえしたバキのSEXパワーアップも、毒によるパワーダウンで無かったことになりそうです。
 この調子なら、もう1度強くなって行くバキを見る事ができるかもしれません。
 予想を覆し、ますますヘタレになって行くバキを見させられる可能性も十分ありますが。

 ところで、バキにはどんな症状があるのでしょうか。
 消化に良さそうなスープを出されている所を見ると、消化器系をやられているようです。
 下からマックシングして、ジャックにも負けないようなダイエットを成功させちゃったのでしょう。
 梢江ちゃんとは、その程度の汚れ系でビビるような付き合い方をしていなくて良かったですね。
by とら


2003年3月6日(14号)
第2部 第159話 異様 (539+4回)

 バキの激ヤセ姿は全国のバキファンに衝撃を与えた。
 だが、バキを心配した読者は何人いたのだろうか?
 バキが痩せた理由を「梢江ちゃんとHばかりして、やつれた」と思っていた人は結構いたみたいですが…。

「ごめん」「なんか喰えなくて……………」

 あのバキが料理を喰えない。
 タッパいっぱいに詰まったおじやをガブ喰いし、炭酸抜きコーラーを飲み干し、バナナをむさぼり、梅干のタネを廊下に撒き散らした男が、喰えないと言っている。
 これは、よっぽど料理がマズいと言うことなのでしょうか。
 小さな皿に入ったスープも半分ほどしか手をつけていない。
 残ったスープは、なにがなんでも喰わないつもりのようだ。

「病院行こうよ」

「喰って寝てりゃへーきだって」

「喰ってないじゃん」
「喰ってないじゃんッッ」
「喰ってないじゃん」


 料理を喰えないのは、調理の技量が悪いのではなく食べる側の体調が悪いと主張する梢江ちゃんと、病院に行くとついでに産婦人科に同行させられそうで激しく嫌なバキとが、言葉の暗闘をしている。のではないかと、思った。

 料理がウマイかマズイかは別にしてやつれてしまったバキを心配して、泣きながら梢江は訴えるのだった。
 泣き落としを仕掛けても「うい奴じゃ。ささ、ちこうよれ」と言う展開にならないのが梢江ちゃんの長所であり、少年漫画の良心であった。
 ヤるなら、青年誌(ヤンチャン)でヤりましょう。


 同時刻、オリバは警視庁総合文化病院で柳の毒を分析していた。
 ガンコそうな老医師が顕微鏡映像をモニターにうつして説明している。

「科学的ではありませんが」
「人体へのマイナス効果という点では」
「十分過ぎるものですね」


 科学的に合成されたモノではないが、毒性は高いという事だろうか。
 柳の使用した毒砂は、自然界にある毒を混ぜ合わせて作った毒なので、正しく分析されているようだ。
 手を切り落とすほどの苦痛に耐えて、作り上げた毒手は無駄ではなかったのだ。
 結果的に切り落とされて、無駄になりましたが…。

「成分表ヲ見セテミナ」

「見るのはかまいませんが……………」

 アンタら素人さんは知らんでもいいことですがなとでも言いたげに老医師は成分表を見せる。
 おそらく禁煙であるだろう病院でも葉巻をふかすアンチェインなオリバは、さらっと目を通しただけで内容を理解したようだ。

「ペプチド アコニチン アチシン スコポラミン
 ナルホド…神経毒 塩基性 有機化合物ダナ」
「触レタダケデ視力障害起コスワケダ」


 出てきた単語を簡単に調べてみました。
ペプチド[peptide]は二個以上のアミノ酸が結合した化合物の総称。
アコニチン[aconitine]はトリカブト属植物の根に含まれ、猛毒。激しい神経麻痺(まひ)作用をもつ。昔は矢毒に用いられた。
アチシンはトリカブトの成分の1つで、低毒性。
スコポラミン[scopolamine]は副交感神経抑制薬。中枢抑制作用もみられ、時に幻覚作用も起こす。

 どうやら、塩基性の有機化合物のアルカロイドが主成分のようだ。
 植物系の毒ばかりと言うのも少し妙な気もするが、松本梢江という一級品と交わったばかりのバキを殴った事で、動物性の毒は相殺されて消えたのだろう

「コンナモノガ血中ニ混入シタラ」
「大問題(シリアスプロブレム)ダゼ」


 医者も「くわしいっスね」と驚くほどの、博識っぷりを見せてオリバは部屋を出た。

 バキは鞭打で皮膚を破かれ出血した所に毒手を受けている。これは大問題である。
 世間的に、あまり心配されていないようだが、ピンチなはずだ。

 さすがのオリバもバキのことは知らないはずだ。
 オリバが心配しているのは、柳を捕らえるさいに毒手を喰らわないかという事だろう。
 頭に喰らって、さらに生え際が後退したら取り返しがつかない

 ただ、適切な解毒剤を準備して柳の前に出ても、毒手はすでにありませんと言われガッカリするのだろう。
 それより前に、柳は死にましたと聞かされて落ちこむかもしれない。

 場面は再びバカップルに戻る。
 いきなり梢江はバキをがしてみる

 〜〜〜〜ッ! この女、ヤる気かッッ!?


 と思ったら、バキの体を確認しただけだった。
 筋肉のデコボコだけは残っているのだが、マックシング後と言うべき不健康そうなやせ方をしている。なんか、肉では無く、骨が縮んだような感じだ。

「病院だよゥッッ」

 愛する人の変わり果てた姿に梢江は咆えた
 後姿しか見せていないが、逆立った髪の毛や咆え方が、江珠や勇次郎と言うとびっきりの怪物を連想させる
 梢江も己を高め成長しているのだ。
 バキはこの手の烈女が好きそうなので、こんなモノを至近距離で見せられたら惚れなおすに決まっている。
 思わず失禁しそうになる迫力ッッ、この女こそ、俺が捜し求めてきた雌(おんな)だッ、って感じで。
 毒にやられていなければ、第2次バキ SAGA[性]大戦の勃発は確実だったはずだ。
 しかし、今のバキにそんな体力がある訳も無く、素直に入院となるのだった。

克巳「入院…?」
烈「バキが?」
花山「ワカッた」
渋川「よっしゃ ワカッた」
独歩「病院は?」


 今回の闘いに関わる白格闘家たちへ連絡が走る。
 ………あれ、本部は?
 やっぱり、落ちつくべきポジションに落ちついて、いなくなったのだろうか。
 もしかすると、実は毒手に触れていて、やっぱり激ヤセだったりして。ついでに柳とシコルスキーも放置されている。

 みんなに心配してもらっているバキは早くもベッドで寝ていた。
 担当するのはドクター紅葉である

 今回は多くのキャラクターが再登場してにぎやかだ。
 烈ファンや鎬ファンはお祭です!
 弟の昂昇も入院しているせいか、紅葉は哀しみを内包した表情で静かに梢江にバキの容態を話す。
 梢江の表情がショックに固まる。

「受け止めなければいけないことなんだ」

「助からないんですか…?」

「率直に言おう…」
「今生きていることが奇蹟のようなことなんだ」


 刃牙のアンチファンはお祭です!(そうか?)
 まあ、昔から「死亡確認」は当てにならないのですが、はっきりダメ出しを受けたバキの今後はどうなるのでしょうか。

 梢江はショックのまま走っていた。
 病院の外まで走り、ベンチに座りこむ。
 少し前まで恋人と地獄の釜の底にたまる蜜のように甘くただれた生活を送っていたのに、一気に最悪の状況におちいっている。
 17歳の少女には厳しい現実であろう。
 その傷心の梢江に声をかける男があらわれた。

「あの…」
「お尋ねしたいのですが………………」


 なんだか良く分からないが、むやみやたらとサワヤカな笑顔だ。
 何者だろう。歳は20歳前後という感じだ。
 あまりのサワヤカさに梢江も思わず涙が止まる。
 この瞬間、二人の恋は始まったりして…

 バキも変態だが、この男もサワヤカすぎる笑顔に変態の芳香(かおり)を感じる

 今までの新キャラは顔に強さがにじみ出るタイプが多かったが、この男の顔にはあまり強さを感じ無い。もちろん個人的意見だが。
 やはり、変人なのだろうか。


 次回は、謎の新キャラとバキを見舞いにくる白格闘家を中心に話が進みそうだ。
 ところで、白格闘家のみなさんは異常に張りきっているが、あれは「今がバキをボコる最後のチャンス」とでも思っているのだろうか。
 バキが死ぬ前に殴っておきたいと思っている人は、少なく見ても20人はいるだろう。
 この際、ジャックの分も殴られてやってください

 新キャラは、まだ足と顔のアップしか出ていない。
 それは特徴的な体型をしているからではないだろうか。
 そう、中にオリバが入っているのだ。
 首から下はモコモコの状態に違いない。
 次回はマスクをベリっとはがすところから始まるのだろう。

 もしくは、紅葉がダメもとでバキを改造したらあんなんになったとか。
 でも、首から下は相変わらず痩せています。
by とら


2003年3月13日(15号)
第2部 第160話 危機 (540+4回)

 謎の新キャラを気にかける人は多いが、バキの生死を気にする人は少ない。
 この2人では積み重ねてきた歴史の重みがまるで違う。
 バキの歴史はここ2、3年ですっかり エロ 黒歴史と言う感じだから、その影響だろう。

 その新キャラは、すらりと背の高い黒人だった。
 さわやかな微笑を浮かべたまま、左手にスポーツバックを持って立っている。
 彼は梢江が涙を流しているのに気がつく。そして、視線を上げ、ここが病院のすぐ前であることを確認する。
 これだけの情報で彼は梢江の身の上に起きた事がだいたい理解できたようだ。
 この男ただのさわやかさんではなく、鋭い洞察力も持っている。
 戦闘ではチェスのプレイヤーのようにクールに計算高く闘っていくタイプだろうか。
 これが勇次郎だったら、問答無用で裏拳叩きこんでいます。
 もちろん理由は後でこじつけて。

「失礼しました」
「たいへんなときに声を掛けてしまいました」
「あなたにとってとても大切な人が………」
「あの中にいるのですね…………」


 謎の青年はクールな判断力だけではなく、思いやりの心も持っているようだ。
 公害的なまでに泣き崩れた顔の梢江に引く事もなく、親切な態度を崩さずに接する。
 内面ではどう思っているのか、わからないが…。

 相変わらず梢江は、人前で泣くのはどうかと思う強烈な泣きっぷりを見せている。
 ある意味、顔面最凶死刑囚といったところだろうか。

「あなたのその……」
「美しい願い」
「きっと大切な人に届きます」


 顔はともかく、梢江の純粋で美しい願いはバキに届くのだろうか。届いてくれないと話が終わってしまう。
 まあ、この辺で主人公を交代させるのも面白いかもしれないのだが。
 とりあえず、必要なのは願いではなく、解毒剤だ。

「これは……」
「わたしが信じる神様」
「大切な人を守ります」


 目が左右を向いている変な黒人ボクサー(?)の人形を手渡す。
 見た目は変な人形だが(髪型がモヒカンだし)、彼には色々な思い入れのある人形なのだろう。
 それを初対面の人に渡すとは並の器では無い。物事に執着しないタイプの人間のようだ。
 実は、バックの中にはその人形がぎっしりと詰まっていたりして。

「ダイジョーブ わたしは今困ってない」

 そう言って青年は名前も言わずに去ろうとする。
 まるで「達者で暮せよ」と言って去って行くお侍さんのようなさわやかさだ
 町娘(梢江)が名前を聞いても渋い笑顔を返すだけで答えないだろう。

「あの………」
「尋(き)きたいことって……」


 実はこの人迷子でした。
 今めちゃめちゃ困っています。
 神様と言っているけど、人形のご利益もたいした事ないかもしれません。
 迷子も防げないのに、死から人を救おうなんて、とてもとても……。


 その謎の青年が行こうとしていたのはとあるジムだった。
 約束の時間から1時間以上たっている。
 だが彼を待つ男・デイブは断言する。

「ミスターに相手をしてもらえるなんて」
「一生に何度あると思ってるんだ」
「これは試合より大事なことなんだ」


 競技は不明だが、名実共にチャンピオンであるデイブがここまで言うミスター=謎の青年とは何者だろう。
 周囲の者はその選手の名前を聞いた事がないため、そこまでこだわる必要があるのか疑問視している。
 聞いたこともない選手と言われデイブがこう答える。

「選手じゃねェ」
「例え選手じゃなくてもミスターは特別…………………」
「別格の戦士なんだ」


 選手ではなく、戦士です。
 スポーツマンではなく、武術家というような比較だ。
 おそらくヨーイドンを掛けることなく闘えるタイプだ。
 久しぶりに本格派の戦士を見る事ができるのだろうか。

 そこに例の青年があらわれる。
 間髪をいれず、かかとを打ち鳴らしデイブは直立する。まるで、ガーレンを前にしたロジャー・ハーロンのようだ。
 さらにデイブは片膝をついてかしこまる。

「あなたに会える日を夢見ていました」

「活躍しているようじゃないかデイブ」

「あなたがリングへ上がらないからです」


 最上級のへりくだり方だ。
 デイブが会える日を夢見ていましたと言っている事から、2人は初対面とわかる。
 だが、ミスターはそれを感じさせない親しげな態度をみせる。
 初対面の梢江にも見せた、不思議な余裕と器の大きさを感じさせる態度だ。

 でも、ここまでさわやかだと逆に怖い。
 この人がキレたらとんでもない事になりそうだ。
 とりあえず白目になって血管が浮きまくるとみた。で、相手をノックダウンした後で「アレ、もう終わりなの?」と素に戻る気がする。

(あ……あのデイブが自ら跪(ひざまず)き……)
(完全に脱帽している)


 デイブのこの態度にトレーナーも驚く。
 ただ、この人はスーツを着ているのでトレーナーと言うよりはマネージャーだろう。
 どちらにしても、親しい人がこれだけ驚くと言う事は、普段のデイブはかなり扱いにくい眼つきの恐い人なのだろう。
 普段は怖い人も謙虚になってしまうほど、ミスターの力は偉大なのだ。

 さっそくミスターは着替えて準備をする。
 着替えると言っても上半身裸になって裸足になっただけで、下はズボンのままだ。
 長ズボンは動きにくいので運動するには不向きだ。
 このズボン姿と言うのはミスターの自信のあらわれだろう。

 そして、さらに目立つのが巨大なグローブだった。
 プロボクシングのウェルター級〜ヘビー級では10オンスのグローブを使うそうだが、ミスターのグローブは18オンス。約490グラムである。
 スパーリングは始まっていないのにデイブの表情は険しく汗が流れる。

「それでも俺の素手の100倍は危険だがね」

 その言葉を証明するかのようにデイブは素手である。
 通常の約2倍のクッションをつけられていても、ミスターの拳は危険な武器なのだ。

 デイブはやや前かがみのスタイルだ。
 この立ち方や先ほどの発言から、この人は総合系の選手で打撃メインのスタイルなのだろう。
 それに対するミスターは動き難そうな長ズボンなので、蹴りや寝技を出す可能性は低そうだ。
 立ったまま、2つの拳で相手を圧倒するつもりなのだろう。

「失礼のないよう………」
「殺すつもりでいきます」


 次回、想像を超えたスパーリングが開始される。
 しかし、殺すつもりでいくと言うのは失礼ではないのか?
「全力でいきます」で良いんじゃないかと思ったり…


 場面は変わり、ふたたび病院へ。
 やって来た皆に紅葉がバキの状態を説明している。

「致死量をはるかに上回る毒素が――――――――」
「打撃を通して幾度も打ち込まれている」
「彼の体験した格闘の中で……………」
「恐らくは最強の敵…………」
「今は祈るのみです」

「死ぬの!?」
「バキくんが死ぬの!!!?」


 非情な現実を報告する紅葉に、梢江は戦慄する。
 最強の敵と言っているが、毒>勇次郎ということなのだろうか。
 まあ「毒」には情けも容赦もないから、勇次郎よりもたちが悪いかもしれない。
 でも理解できる存在であるから、毒の方がマシと言う気もする。

 あの人形に毒消しが入っていたりは、しないんだろうなぁ…
 結局、今週もバキ回復の秘策は出てきませんでした。

 前回ミスターはあまり強そうに見えないと書きましたが、力量を見誤っていました。
 なんか拳だけで敵を圧倒できる強さを持っていそうです。
 ただ、この作品ではボクサーはなかなか最強のレベルにまで辿り着けないんですよね。
 ルール無用だと色々と弱点がある格闘技術だし。

 バキ最強の敵は毒と判明したが、その前に体力を消耗しすぎていたから、毒に負けたのではないかとも思える。
 つまり、バキ最強の敵は松本梢江であった。
 少なくとも、読者的には最凶の敵だろう。
by とら


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