今週のバキ181話〜190話
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2003年8月28日(39号)
第2部 第181話 劉 海王 (561+4回)
犠牲者は日本人だッ、と息まいていたが、結末は無残だった。
劉海王は生きたまま顔面の皮をはぎとられた。
ひょっとしたら勇次郎も、皮がとれるとは思っていなかったのかもしれない。
うわっ、キモっ。なんか取れた。捨て、捨てッ。と、あわてて投げすてたのが真相だったりして。
「 「勝負あり」 ってところだろう………………」
「とりあえずは」
内心どう思っているか、わからない。
金属的に黒光りする皮膚を笑いの形にかえて、片手ハンドポケットのまま勇次郎が勝利宣言をする。
顔を地面におとしたままピクリとも動かない劉海王には顔も向けない。
勝者であり、強者である男の傲慢だろうか。
それとも、勇次郎だって生の顔はあまり見たくないのだろうか。
刀についた血をはらうように、手にベットリついた血を手首をふってはらい、勇次郎は「退場するぜ」と行儀よくかえろうとする。
「範馬勇次郎ォッッッッ」
かえろうとする勇次郎をとめる声が会場にひびく。
フルネームで勇次郎を呼ぶ、ご丁寧な関係者はひとりしかいない。
師の危機、それも100年に1度ぐらいの大危機に、蛮勇なる男はだまっていられない。
砂煙をまきあげながら烈海王の登場だ。
「どうした…………」
「お呼びじゃねェぜ」
勇次郎の反応はものすごく冷たかった。
今すぐ帰れと言わんばかりの態度だ。それでいて、言っていることが正論なのでタチが悪い。
試合前には、刃牙にも「さっさと退場しな規則違反だぜ」と言っていた。
都合のいいルールだけは他人に押しつける、こまった人だ。
しかし、この場合は烈を挑発しているのだろう。
最大トーナメントでからかった時から、そそられていたに違いない。
そして、挑発は大成功だった。
「わたしと闘えッッ」
「今すぐこの場でッッ」
あっさり、勇次郎の欲しかった言葉を烈はいってしまった。
堪忍袋の尾が切れっぱなしとか、全身くまなく逆鱗とか言われているだけあって、怒りの沸点はドライアイス並(沸点 -78.5℃)に低い。沸騰しっぱなしだ。
ギンッ
勇次郎の目が白黒反転して光った。
鞘から日本刀をぬくように、ズ… ズル…とポケットから手をぬきだす。
「これは これは…………………」
「願ってもない……………」
はやくも闘気で背景をゆがませ、勇次郎が戦闘体勢にはいる。
それを受けて烈も腰をおとし迎撃体勢をとる。
まさに一触即発、勝負ありと同時に試合開始かッ。
「願ってもない」ということは、やはり烈を挑発していたようだ。
勇次郎は、本気で海王12人喰いとかを企んでいそうだ。
もちろん、珍味として海皇も、ついでにアライさんと刃牙も喰うつもりだろう。
早いはなし、大擂台賽をひとりで喰いつくすつもりかもしれない。
拳神・劉海王のかたきを魔拳・烈海王がとる。
犠牲者は日本人だッ、と観客は盛りあがるが、歓声が途中でピタッと止まった。
信じられない光景だった。
烈の止め、歓声を止めたのは劉海王だった。
顔をタオルで押さえている。そのタオルは血がしみこんで赤く染まりつつある。
その状態で劉海王は立ちあがり手をひろげ、烈を止めたのだ。
目をタオルでおおっているので、前は見えていないはずだが、劉は烈に近づき、その肩をにぎった。
「…………老師……」
ギュウウゥゥ…
重傷者とは思えない強い力で劉は烈の肩をにぎる。
「ゐT=ι(こ…‥|£ι"…ξ‥ηヽ……‥‥ι-〜..」
意味の取れない不明瞭な発音で劉がなにかをいった。
顔の皮膚をひきはがされたという異常事態に加え、意識のない患者が立ちあがるような奇蹟がおきている。
烈は「………え…?」と、初めてエスペラント語をきいた人のような、ほうけた驚き顔をしてしまう。
「わたしを…………」
「侮辱する気かァッッ」
人体模型の人形のように筋肉の筋がみえる状態でありながら、劉がほえた。
中国拳法界最強ともいわれた男は、顔面の皮を1枚や2枚はがれただけでは倒れないのだ。
この状況でありながら、海王の闘志は消えてない。
中国四千年はダテじゃない。
ほえると同時に、劉は血まみれのタオルを勇次郎に投げつける。
勇次郎はそれを右手で受け止めた。
ものを投げつけられたとき、人は反射的に利き腕で体をかばう。勇次郎も利き腕でかばったのだろう。
これで、利き腕は一瞬だが封じられた。
動きを最少にするためか、劉はふりかえらず背後にふみこみ鋭い後蹴りを放った。
だが、かわされている。
勇次郎の服を破りながらも、体は無傷。
「へッ」
「ズッルい爺ィだぜ」
最後の力をふりしぼった攻撃も勇次郎には通用しなかった。
血まみれの布を投げつける攻撃パターンは、怒李庵海王と同じだ。これは白林寺の伝統なのだろうか。
勇次郎はタオルを投げすて、ハイキックを劉の顔面に叩きこむ。
ゴッ
骨に当たった重い音がひびく。
廊下だって断ち切る勇次郎の蹴りが、眉間のあたりにメリ込んでいた。
真正面から蹴りを入れられ、拳神・劉海王が崩れていく。
中国四千年を体現するひとりである劉海王が、あおむけに倒れた。
大国が仕掛けてくる近代兵器による武力に対し、拳法家が素手のみを武器に戦い敗れたのだ。
偶然なのか勇次郎の投げたタオルは、肉がムキ出しになっているはずの劉の顔面におちた。
生々しい状態になっていただろう劉の生顔は最後まで未公開だった。
倒れたときの横顔も影になっていてよくわからない。
それでも、鼻はなくなっていたようだ。
「勝負ありッッッ」
大擂台賽・第1試合、劉海王 敗北す…。
最後に意地をみせた劉海王であった。
相手が勇次郎でなければ、もっと活躍していただろうに…、残念だ。
そして、師匠のカタキは弟子がとるのか。
あれだけ猛っている烈がおとなしく引っ込むとは思えない。
このまま試合場に残り、2回戦は自分の試合にしてくれと猛烈アピールを始めそうだ。
そうなると「白林寺の人間は礼儀をしらん…。伝統ある大会をなんだと思っている」と紳士的に節拳道の孫海王が登場して、そのまま闘いになれば面白い。
前試合の因縁をそのまま引きずり、次の試合になだれこむ。そんな熱い展開を希望する。
今回、劉は勇次郎の服を破るにとどまり、鬼の形相(めん)は発動しなかった。
次の試合では服の背中が破れて、久しぶりの公開となるだろうか。
そうなると、準決勝ではズボンを破かれ、決勝戦は全裸の親子対決に?
2003年9月4日(40号)
第2部 第182話 祈り (562+4回)
つぎなるは、魔法滅土Jr 対 除海王! って、誰ッ!?
漢和辞典で中国読みにひいてみれば「Mofamietu-Jr」。おおっ、なんかそれっぽい!
範馬Jr = 刃牙ですね。(違います)
よく考えれば、中国の文字は漢字なので当て字になるのはあたりまえ。
古くは范曄(はんよう)の「後漢書」にも『大秦の王・安敦は遣使し…[後漢書・卷八十八 西域伝 第七十八] 』とローマ皇帝マルクス=アウレリウス=アントニヌスを当て字にしている。
邪馬台国の卑弥呼も当て字だ。
怒李庵なんて自然すぎて漢字であることを忘れてしまいそうだ。
それはともかく、マホメド・アライJrがいきなり出陣となった。
偉大なる(グレーテスト)アライJrの戦いが見られるぞッ。
犠牲者は巨人だッ!
ムエタイと双璧をなす安全パイをあてがわれ、磐石の態勢で出陣だ。
アライさんは勇次郎とは闘わないと予想しましたが、ハズレました。
もう、勝ったも同然のJrはガウンを着てウォームアップに余念がない。
足が何本にもみえる魔法のようなステップに空気を切り裂くようなジャブをまじえる。
地から浮いているような、なめらかな足運びは「魔法滅土」の名にふさわしい(かも)。
「憶えていますか」
「東京で逢った……………」
そんなJrの前に恐怖のスネ蹴り女があらわれる。あらわれてしまった。
誰でしたっけ?
という表情のJrだが、天才拳闘士の動体視力は梢江の手ににぎられている人形を発見する。
何度か握り締められつぶれかかっているとはいえ、自分のお守りであった人形だ。忘れるはずもない。
そこから連想し、Jrは目の前で危険なオーラを出している人物を思い出す。
危ないところであった。反応がコンマ1秒おくれていたら、「しつれいじゃん」と叫びながら、その人形を投げつけていたところだ。
2人は奇縁におどろきつつ、運命の皮肉を感じる。
Jrは勝ちぬいた先にいるのは勇次郎と知りながら、優勝を狙っている。
試合の直前だというのに梢江と刃牙の心配をする余裕だってある。
むしろ余裕がないのは梢江のほうだった。
話題が刃牙の体調になったとたんに、アゴからしたたるほどに涙をながす。
見栄も外聞もない、本気の涙だ。うち3割りぐらいは鼻水だ。
見た目はともかく、刃牙を思う梢江の気持ちが誌面の外までにじみ出るようだ。
Jrと梢江のファースト・コンタクトも涙だった。
このときの泣き顔がインパクト強すぎて普段の顔をおぼえていなかったのだろう。
泣き顔梢江に初回で引かなかったJrだけに、この程度では微塵もゆるがない。
Jrは梢江を引きよせ抱きしめる。
「ミスター刃牙ノ無事ヲ私ト祈ロウ」
「イイカイ」
「祈リトハ」
「出来ソウモ ナイコトヲ願ウ ムシノイイ心根デハナイ」
「必ズ実現サセルト誓ウ決意」
Jrの表情がかわった。
梢江の不安をきいてあげた優しき笑顔も、闘いの場での戦士の顔でもない。
それは決意そのものを具現化した表情だった。
自然体でもなく、熱狂でもない。Jrはなにを実現させようと、誓いを立てているのだろうか。
それは打倒・範馬勇次郎だろうか。
板垣恵介の格闘士烈伝に「ボクシングというものは、リング場で決着をつける競技だと思われているようだが、そうじゃない。前線の遥か後方にある作戦会議場から始まっていて、そこの時点から一切、手をぬくことはできない」というモハメド・アリの言葉がある。
勇次郎との先の1戦で決着をさけたのは、あの場は勇次郎の実力を確認する偵察だったのかもしれない。
後で猪狩アライ状態をあっさりとやぶっている。使わなかっただけで、打開策はあったのだ。
全ては勇次郎との1戦、最初で最後のチャンスに勝つために。なのか。
「彼ガ私ト当タルマデ…………」
「ソシテ私ト当タッタナラ………」
「必ズ無事ニ終ワラセマス」
まあ、勇次郎に勝とうという男が刃牙につまづくワケにもいくまい。
克巳をたおすつもりなら、加藤・末堂に苦戦をしてはいけないのと同じ理由だ。
で、噂の当人である刃牙はナニをやっているのだろう。
勇次郎に文句をいいにいき、梢江を放置中なのか。
『ほんとうにデカいッッ』
『天を撞(つ)く巨人ッッ』
『除 海王ッッ』
『拳闘(ボクシング)流拳法』
『マホメド・アライJr.』
試合は容赦なくはじまる。
炸裂できるか江蘇省・龍王拳ッ!
選手のデーターが出てこないのはちょっとさびしいぞ。
Jrは素手だ。
グローブをはめていない状態で人を殴って平気なのか。
硬い頭部を殴ったりすると、ちょっと危険かもしれない。
ゴアアアァァンンンン…
『闘いを告げる銅鑼(ドラ)が…ッッ』
『今日初めて鳴らされたアァァッッ』
そういえば第1試合は暴発気味にはじまった。
アナウンサーがこういう事をいったのは、勇次郎の暴挙に対する反感がありそうだ。
次こそ、犠牲者は米国人だッ、とか思ってるんだろうな…
ペッとツバをはき、Jrは巨人をあおぎ見る。
デカいッ!
身長差は、何センチだ? リーチ差は? 打撃の間合いは?
デカい除海王が、デカい足をふりあげた。
来るッ。もっとも遠い間合いからの攻撃・蹴りがッ。
Jrの口が咆哮の形をとる。
ゴバッ
ジャック・ハンマーを彷彿とさせる表情で除海王が蹴りこむ。
自分しか攻撃できないはずの間合い。
だが、Jrはその距離を一気につめていた。潜りこんで右のアッパーカット!
水風船がつぶれるような音をたて、拳が股間にめり込んだッ!
横蹴りのため除海王は大股を開いていた。
パチンコ台のチューリップが開いた瞬間にも似た、開放台出血大サービスのチャンスだった。
玉への道をはばむ釘(サオ)をさけるように、下から打ち込む。
背中に鬼が浮かびそうな勢いで、拳を痛める心配もない部分へ最大攻撃だッ!
拳は痛めなくても、手は洗ったほうがいいと思う。気分的に。
『打倒ォ〜〜ッッ』
『打倒ォ〜〜ッッ』
『早くも決着ゥゥッッ』
致命的な一撃を喰らい除海王は激震する。
山が崩れた。
睾丸のあるべき場所を両手で押さえ、丸まりながら海王がしずんだ。
け、決着なのか!?
バカなあっけなさすぎる。
いや、劉海王のケースがある。
それにコッカケは2000年前に通過していそうだ。闘いは、これからか?
しかし、このまま次にいくケースも十分に予想される。
Jrが「ずいぶん使ったんだ、とっかえてやんな」と除海王の体の1部(※2コ)を観客席に投げつける可能性だってある。
まだ、油断することはできない。
ちなみに昔は睾丸移植なんて医療もあったらしいので、除海王の分離体もどこかで役に立つかもしれない。
それにしても、除海王がジャックに似ていたのが気になる。
2人とも巨人という共通項もある。
さすがに「除」は「ジャック」とは読めないのだが、中身がジャックで変装をといて復活するなんて展開が…………それは、ないか。
それにしても、この容赦のない攻撃っぷりをみると「(刃牙とたたかっても)必ズ無事ニ終ワラセマス」というセリフもあまり信用できない。
スキをみせたら容赦なく金的を打つにきまっている。
この闘いに勝利して、Jrは勇次郎と闘うことになる。
1度は逃げたのだが、今度は逃げることはないだろう。
親子2代にわたる悲願、必ず実現させると誓った決意、地上最強の生物を倒しアライ流を完全なものにする。
勇次郎に対する因縁という意味では、刃牙と同じぐらい深いようだ。
そうなると次からの4試合には郭海皇、範海王、李海王のうち誰かが出てくると思う。
この3人でないと、準決勝で勇次郎の相手はつとまらない。
若さ爆発で、範が最有力だとおもう。
除海王は沈黙のまま、沈んでしまった。
結局、どんな人だったのか、わからない。
なにか、人柄を感じさせるエピソードが欲しかった。
トロッコを引っ張るとか、クレータのような穴を掘るとか、素手で壁をよじ登るとか、それだけでも印象がずいぶん変わるはずだ。
やられ役の歴史では、ロシア人にかなわないのか?
2003年9月11日(41号)
第2部 第183話 蝶の舞い (563+4回)
バキ世界では金的打ちなどジャブにも等しい基本技だ。
相手も普通に打つし、こっちも普通に防御しなくてはならない。
しかし、ジャブ1発で倒されてしまうのもバキ世界なのだ。
股間を両手でおさえ、除海王は唾液をまきちらして悶絶する。
だが、ただ転がっていたわけではない。流れる唾液はそのままに、ハネ起き同時に拳をふるう。
だが、除海王の起死回生をねらった攻撃は、あっさりとJrにかわされた。
スキの大きい攻撃をされれば、容赦く睾丸を狙う。倒したあとも相手を観察して反撃を防ぐ。
不意討ちをよく受ける刃牙とは大違いの冷静さだ。
『立ちあがったぞ除 海王』
『海王は続ける気だッッ』
大事なところを打たれた後だというのに、除海王は雄々しく勃ちあがる。
冷や汗はでているし、呼吸もあらい。そして、ちょっとだけ内股になっている。
彼もまた海王の名を継ぐ者である。このままやられる訳にはいかない。
出血はしていない、陰嚢(いんのう)は破れちゃいない。
玉はつぶれても、心は折れぬ。
除海王は復活した。
闘技場への通路から試合をみている2人の海王がいた。
1人は、福建省・三合拳(さんごうけん)の陳海王であり、もう1人は河北省・受柔拳(じゅじゅうけん)の毛海王だ。
「そりゃあ そうだろうよ」
「母国の護身とか言われてチヤホヤされている海王の名が」
「ゲストを相手に2度も立て続けに不覚を取ったンじゃあな……」
陳海王は初登場時よりもタレ目が強調されている気がする。
そして、性格悪ッ。
もう、予想どおり、むしろ期待どおりの性格の悪さだ。
克巳のように改心することなく、最期までたたかってもらいたい。
こういう性格が悪くて不遜な態度をとる人間ほど強かったりするのが刃牙世界だ。
かれも大口をたたくだけの実力をそなえているのだろう。
そのうち、除海王など、われわれ海王のなかでは番犬のような存在なんて暴言をはいたりして。
「ン〜〜〜〜 あれちょっとキツイね」
「完全に回復するにはまだ時間が必要……」
見た目がぽっちゃり・ぽややんな毛海王はしゃべり方も大らかでマイペースだ。
陳海王のようにきびしい意見もいわず、冷静に事態を判断している。
受柔拳の名のとおり、防御や回復にかんする知識は豊富らしい。
毛海王の判断どおりなら、ここは体内に反撃の態勢が整うまで時間かせぎをするべきだ。
しかし、除海王は前進した。
ふたたびジャック・ハンマーに似た表情になってJrにおそいかかる。
「ア〜〜 だめだ」
やはり性格が悪いか陳海王。
同胞にたいする思いやりが感じられない。
海王12人中、怒李庵海王についで暗黒街が似合う。
陳海王にダメ出しされたとおり、まだダメージのある除海王の攻撃は当たらない。
円形の舞台を存分につかい、魔法滅土Jrが舞う。
流れるように左右の拳足で打撃をくりだす除の攻撃を、あらゆる技術に対応すべく磨きぬいたステップバックとスウェーバックを有効につかい、除海王をキリキリ舞わせる。
だが、よけるばかりでJrは反撃をしない。
そのようすを陳・毛とは別の通路から観察している男がいた。
範海王―――、愚地克巳と見分けがつかないとしょうされた男である。今回はちゃんと克巳とは別人とわかる。
作者がなれてきたのか、読者がなれてきたのか、どっちだろう。
「海王も嘗められたものだ」
範も性格があまりよろしくないようだ。弟おもいでもなさそうだし。
範のとなりには、弟の李海王がいない。
仲のいい兄弟なら一緒に観戦しているだろう。
やはり、兄弟仲は微妙なのか。
「あの子回復するまで待つ気よ」
なぜかオネエ言葉で解説する毛海王だった。
海王をバカにされたと感じたのか、陳の表情もけわしくなる。元がタレ目なので、目がつりあがると水平位置になるらしい。
それにしてもなんで毛は女言葉なのだ。
中国人らしいカタコト感をだすためだろうか。
このセリフは横書きなので中国語でしゃべっているはずだ。
ちょっとした、クセか。
そのうち闘いにおびえるサムワンをみつけて「どうしたの、サムワンくん? おびえているの?」と抱きよせて膝枕しそうだ。
もちろん、サムワンは指しゃぶりをして幼児化する。
なんて、刃牙はイヤだ。否、イヤすぎるッ。
そんな雑談に花開いているうちに除海王のダメージは回復していた。
動きにキレがもどっている。上段への蹴りをひかえている。やはり、金的はこわいらしい。
大きく踏みこみ、大気をつきやぶって、渾身の左拳を放つッ!
だが、その攻撃もスウェーバックでかわされた。
かわした瞬間、Jrの右はすでに次の動作にはいっていた。
パンチの下をかいくぐり、除のアゴ先をかすめる右ストレートがきまる。
スローモーションで動く相手を殴ったような余裕のあるカウンターだ。
「除の勢いが増してきた」
「イケるぞッッ」
あまりに速すぎた攻撃で、観客は勝負が終わっていることに気がつかなかった。
むしろ、赤面ものの楽観的カン違い感想をいっている。
さすがに陳海王は状況を理解していた。あきれたようにタメ息をはく。
ドンッ
地響きをたてて、除海王は大の字に倒れ、失神す。
金的を打たれても折れなかった除海王だが、意識を刈りとられては闘うことはできない。
除海王がふたたび立ちあがったとき、Jrは次は意識を断とうと考えたのだろう。
「待っていたのは回復ではなく」
「一撃でキメられるスピーディーな出バナというワケだ」
陳海王が解説をする。
ダメージを与えつづけて体力を消耗するより、確実に倒せる一撃を狙っていたらしい。
トーナメントを勝ちぬくには、いかにダメージを受けないか、も重要だ。
Jrは本気で優勝を狙っている。
ゴワアアァァァンン
「勝負ありッッ」
決着を告げる銅鑼(ドラ)が、今日初めて鳴らされたッ!
海王2連敗ッ!
観客席のジイさんも「なんという擂台賽だ……」とつぶやく失態であった。
陳や範の口ぶりを考えると、除は海王のなかでは弱いほうだったのだろう。
魔法滅土Jrなんて弱そうじゃん、除で十分でしょ。って感じで対戦が決められていたのなら、読みが甘すぎた。
巨人・除海王「ただ体がデカいだけの男は噛ませ犬」とのジンクスを破れず初戦敗退だった。
ちなみに、まともなセリフは1つもなかった。
ひかえ室で2度目の敗北を味あわないように祈ろう。
出来そうもないことを願う、ムシのいい心根だが。
範馬刃牙 vs 李海王ッ!
次の試合は、主人公の登場だッ!
序盤からクライマックス連続の組み合わせだ。
ここで刃牙登場ということは、準決勝で勇次郎と当たることになる。
後先考えぬ暴挙といえるほどの贅沢な組みあわせだ。
板垣先生は、なにも考えずに描きたい試合から描いているのか?
「李が日本の格闘チャンピオンとだとッッ」
この組み合わせに観客も盛りあがる。
おそらく、日本の権威ある格闘場のチャンピオンが範馬刃牙であると観客に紹介されているのだろう。
観客が日本の事情を知らないことを見越して、情報操作をおこなったのだ。
勇次郎やJrに比べて、烈に勝利した戦歴があるので、前評判は高いとおもう。
そのころ刃牙は吐血していた。
これで何度目だろうか。
コンディションはよくない。最悪だ。
だが、目の前に目指す敵、父・勇次郎がいる。
血を吐こうとも、恋人が止めようとも、範馬刃牙は闘いをやめない。
ちなみに、隠さず人前でする吐血だと死亡フラグがたたない、と思うので安心だ。
そこへ烈がやってくる。
瀕死の師・劉海王のそばをはなれ、刃牙のもとにきたのだ。
とても重要な話があるのだろう。
「君に伝えておくことがある」
「対戦者である李 海王……」
「彼は全中国ナンバーワンの毒手の使い手だ」
刃牙をここまで追いこんだ毒手は、中国にも存在していたッ!
何年か前に通過されている。
RPG的にいえば、刃牙は逃げだした。しかし、まわりこまわれしまった。
刃牙の毒が、薬硬拳と闘って中和されるという展開はあたりまえすぎて無い、とおもっていたがその通りだった。
毒をもって毒を制す展開になるのだろうか?
どうも、悪球打ちばかりやっているうちに、ド真ん中の打ちかたを忘れてしまったらしい。
これで、烈が刃牙を擂台にあげた理由もわかる。
毒手をうけた者が擂台にあがり完治した前例があるのだろう。たぶん。
1回戦で刃牙の毒は回復するのか?
範・李兄弟の出生にかかわる謎は今回明らかになるのだろうか。
まだ、ネタバレにははやい気がする。
過去にあった事件のさわりだけ、出てきておしまいになりそうだ。
その辺もふくめて、次回からが大擂台賽の最初の山場かもしれない。
ところで、海王達が試合を見ていることをルール違反と思っている人が多い。
179話で、『公平を期すため』といったのは『敢えて一回戦ずつの発表』のことだ。
試合の見学は禁止されていない。
勇次郎は「さっさと退場しな」「規則違反だぜ」といっているが、これは勇次郎の"俺ルール"なのだろう。
まあ規則はともかく、試合がはじまるのに 試合場から出ていかないのはマナー違反だ。
今後のトーナメント予想は、大きな修正が必要だ。
なにより、準決勝の「勇次郎 vs 刃牙」が問題だ。
この勝者は刃牙だろう。
実力的には勇次郎の勝ちだろうが、刃牙の成長をみとた勇次郎が勝手に退場して刃牙が反則勝ちになると予想する。
このパターンは「勇次郎 vs Jr」に対しても有効なので、Jrと刃牙が準決勝で闘うというのもアリだ。
そうなると、刃牙と決勝で争そえるのは範海王しかいない。
決勝が兄弟対決では、最大トーナメントと同じ展開なので、やや確率は低いと思う。
範の強さを見せるために噛まれそうな候補は、郭海皇・烈海王あたりではないだろうか。
刃牙の2回戦の相手候補は怒李庵海王、寂海王だと予想する。
死刑囚の中で唯一刃牙とたたかわなかった怒李庵と、実力者の呼び声高い寂海王ならいい闘いになりそうだ。
この2人の相手候補は陳海王と毛海王だ。
今週出てきたから、つぎの登場もはやいだろうと予想しております。
孫海王、楊海王の2人には、残念ながら期待が持てなくなってきた。
どちらかが、郭海皇のエサになるしかないという感じだ。
巨漢がなにごともなく順当に噛ませ犬にされた現在(いま)、サムワン海王に期待することはただ1つだ。
おもしろい当て字で、登場してください。
2003年9月18日(42号)
第2部 第184話 勇気 (564+4回)
かつて柳の株は本部によって大暴落した。
しかし、柳は毒手によって主人公・刃牙を追いつめた実績がある。
地球人でありながら範馬の血族を追いつめたのは偉業といえる。
柳の毒手はダテじゃない。日本一の毒手使いだ。
「対戦者 李 海王」
「毒手においては」
「全中国でも最高の使い手だ」
遠い異国から柳の敗北記録に追記された。
素手でダメ、武器もダメ、毒手もダメ。
アンタ、低酸素の毒しか武器がのこってないよ。
今さら毒手ごときにはおどろかないのか(本部にやられた使い手もいるし)、不敵な表情を崩さず刃牙はシャドーを再開する。
刃牙がまったくおどろないので、なんとなく烈の表情が、ショボ〜〜ンとなる。
内心では(ハズしたッッ! 恥。恥だ。恥ずかしい! 海王の名を継ぐ者がこんな姿をッッッ)とはげしく動揺しているのかもしれない。
だが、そこは中国拳法の最高峰である。
動揺はかくし、すこし憂いの表情でセリフを続ける。
「どこかで当たってくれればと思ってはいたが」
「本当に運がいい」
「どこを………」
「どう見るとそういう結論になるのかね」
「海王の称号だけでも」
「十分過ぎる脅威だというのに…」
烈は、よりインパクトのある事をいってみた。
でも、やっぱり反応はよくない。
刃牙はウォーミングアップのシャドーをしながら返事をする。
しかし、普段とはちょっと口調が違うので、すこしは効果があったようだ。
それはそうと、刃牙は本当に「海王の称号だけでも十分過ぎる脅威」と思っているのだろうか。
劉海王は相手が悪かったとしても、除海王はかなり弱かった気がする。
サムワン海王がかすんでしまうほどのインパクトだった。
でも、うかつに「海王にも弱いのいるンすね。ぷぷっ」などと言おうものなら、烈がものすごく怒りそうだから、言わないのが正解だろう。
「範馬刃牙の目覚めに賭ける」
それが刃牙の対戦相手に毒手使いを望む理由だった。
巨凶なる範馬の血を目覚めさせるには、強敵が必要だ。
かつて烈自身が刃牙の贄(ニエ)となり、範馬を覚醒させた。
今回も限界まで刃牙を追いこむことで、生きる力を目覚めさせようというのだろうか。
毒に対しての復活なので、必要なのはより強い毒なのかもしれない。
このとき、梢江が動いた。
テレビから出てきたリングの貞子のように、部屋のスミで顔に髪をかぶせてたたずんでいたのだが、ついに前進した。
松本梢江の目覚めに負ける。
「す…η‥ζ..…」
「ζзι〜‥乙|‖てんτ″ゅйξッよ」
烈の背後にせまり、マツモトコズエが人外の言語をつかう。
あまりに強力な電波を喰らって烈は「え?」と聞きかえす。しかたがない、人語じゃないもの。
あまりにショックだったのか、アイフルにかけこんで借金して、お持ち帰りで購入したくなる表情に烈はなっている。
どうするアイフル?
どうした烈よ?
「ちょうしこいてんじゃねェよッッッ」
超真性・梢江・大爆発!
さっき言おうとしていたのは、これだったのかッ!?
貞子もあわててテレビに引っ込む迫力で、梢江が咆える。
咆えるたびに恐さの世界新記録を更新していそうだ。
この女、刃牙よりはやく勇次郎に達するかもしれない。
「させるかそんなことッッッ」
「おまえらの好きになんか」
「させるかッ」
1部刃牙ファンで懸念されていた梢江ラッシュが烈に炸裂する。
この場合、烈が裂かれるから「裂烈」か?
鼻・みぞおちなど的確に急所をねらって梢江がしかける。
その迫力に烈はピクリとも動けない。
危なッ、スネをガードだ!
その梢江の腕を刃牙が止めた。金的を攻撃する前でよかった。
ちなみに、止められた瞬間に梢江がとっていた型は、除海王と同じであった。
いくら除海王の技とはいえ、たった1度見ただけでマスターするとは。
なんという格闘センス! なんという闘争心ッ!
そりゃ、烈も漏らすワケだ。(漏らしていません)
「もういい」
「もう……」
「じゅうぶんだ」
刃牙は鼻水までたらして泣き狂う梢江を抱きしめた。
目が真っ赤になっている王蟲(オーム)を、身をていして止めたナウシカのような勇気ある制止だった。
「勇気を……」
「もらった!!!」
ニューカレドニア諸島では通過儀礼(成人の儀式)で勇気をしめすため、バンジージャンプをするそうだ。
そう、刃牙は悪夢と向き合って受け止めるような儀式をクリアしたのだ。
そして少年はある意味、勇者になった。
「負けるかよ……………」
ええ、もう恐いモノはこの世にはないだろう。
一応、愛もあるし。
それはそうと、恋人の前で臆することなく鼻水を流せる梢江は強いと思う。
並の関係なら嫌われるのが恐くて、そんなことはできない。
なんか、このカップルは覚悟の質と量が常人をはるかに超えた次元にあるようだ。
最後に勝負を決めるのは、このずぬけた異次元の「愛」かッ!?
勇気をもらった刃牙が擂台に立つ。
むかえる李海王は白チャイナに白いクツと白づくしだ。
黒い服を好む兄とは趣味もちがうようだ。
そして、白一色のなかで変色した2つの拳が不気味な色彩をみせる。
柳の毒手は右手のみだったが、李海王の毒手は両手のようだ。
これでは生活が不便だろう。
顔とか洗えるのか?
この毒手は中国四千年、お箸の国だからこそ完成したのだろう。
フランス人は16世紀にイタリアから嫁いだカトリーヌ・ド・メディチがフォークを持ちこむまで、手づかみで食事をしていた。イギリスも似たようなものだ。
毒手なんてやったら、その日に食中毒で自爆する。
毒手が危険なのは刃牙の体が知っている。
自分の体を破壊した毒手を前にすれば、恐怖がよみがえり、なかなか前に出られないだろう。
しかし、勇気をもらっている今の刃牙はちがう。
試合開始のドラがたたかれた。
両者にただよう緊張感ゆえか、音がきこえない。観客も音なき歓声を上げている。
その静寂のなか、刃牙が突っ込んだ。
いきなりのハイキックッ!
睾丸を打たれて悶絶した除海王を思わせる、捨て身の攻撃だ。
ガッ
『クリーンヒット〜〜〜〜〜〜』『〜〜〜〜ッッ』
ガードの上から叩きこんだ。
わきあがる歓声を背景に李海王は倒れる。
だが、弟の倒れる姿をみいる範海王には、微塵の不安もないようだ。
「フン…」
「命中…………」
弟を応援しているのなら「フン…」は余計だ。
素直に応援できないひねくれ者なのか。
それとも、弟の行動がセコイと思っているのだろうか。
そして、倒れた李海王の表情にも動揺はなかった。
冷たい目で刃牙を観察している。
動揺しているのは刃牙だった。
(はやくもッッ)
(毒手!!!)
刃牙のハイキックをガードしたとき、刃牙の足の甲に毒手がふれていたのだ。
皮膚が変色し、中に鶏卵が入ったかのように膨れあがっている。
柳の毒手は効果がでるまでに時間がかかった。
しかし、李海王の毒手は即効性だ。
薬硬拳は柳の毒手とは格がちがう。今更いうことでもないが。
これだけの毒手をつくるのに、李海王はどれだけの苦痛を乗り越えたのだろう。しかも、両手だ。
毒手は卑怯ともいえる攻撃手段だ。
敵を殺すのに手段を選ばない理由があるのだろう。
それは、やはり復讐なのか。
あらゆる苦痛に耐えて、明日をすて、薬物に手をだしたジャック・ハンマーと動機が似ているのかもしれない。
李海王が刃牙と闘う姿を、兄の範海王がみているのは、血縁的に複雑な構図だ。
ところで、烈の負けは不可避に思えてきた。
最近、すごくイイ人だから。
克巳とかドイルのように、変にイイ人になると弱体化する例は多い。
烈も、かなり危ない。
ここからは、妄想。
「勝負あり!」
敗北して倒れた烈を刃牙はかかえおこす。
「烈さん、あなたほどの人がどうしてッ」
そのとき烈の体をまさぐっていた刃牙は異変に気がつく。
「フッ、そうだ刃牙よ。控え室で梢江に殴られたとき、アレで私の体はボロボロになっていた」
「――――――ッッ!?」
ちょっと、気まずい刃牙であった。
「しかし、それでこそ俺の女ッ。惚れ直したぞ、ストライダム!」
やっぱり、巨凶な血をひく生物ですから、友情より闘争。
いつか刃牙は梢江とファイトしたくなるはず。
ところで、人は死の直前だと、見るもの全てが美しく見えるらしい。
今の刃牙は、毒により瀕死状態だ。
梢江の電波語に「え?」といったときの烈も、めっちゃ男ッ前に見えているに違いない。
エイケンなんて読んだら、一晩で全身の毛が抜け落ちるほど萌えてしまいます。
もちろん、鼻水流す梢江も最上級の美少女として見えている。
そうなると、毒が治ったあと、梢江を見たら……
2003年9月25日(43号)
第2部 第185話 短期決戦ッッ!? (565+4回)
ファミコン用ソフトの初代「ファイナルファンタジー」は、毒消しを使うときに「どくなんてかっこわるい」とメッセージがでる(うろ覚え)。
つまり今の刃牙はかっこわるい毒状態だ。
さらに毒の追加があって、すごく深刻な状態だ。
刃牙をカッコ悪くした李海王は余裕をみせてゆっくりと立ちあがる。
打撃をうけた口元をぬぐって笑みさえうかべている。
毒手でそんなことをして大丈夫なのか。
あらかじめ解毒剤を飲んでいるのだろうか。
もしそうなら、その薬を刃牙にあげてください。
(見届ける…ッッ)
(しか……ない…………!!?)
梢江は見守ることしかできない現実にいきどおっている。
噴火直前の火山のような危険な女だ。
このままでは、場の空気を読まずに末堂のごとく乱入してエラい事になるかもしれない。
もちろん、涙と鼻水全開で乱入してくる。
刃牙は毒によりハレ上がった足の甲を噛みやぶり、毒を吸いだす。
ちゃんと吐きだすのだが、口をゆすがないと毒が残るし、口内の粘膜からも吸収されてしまうだろう。
と言うのは冗談で、刃牙は梢江との特別戦で口をつかって毒を吸いだす技術を獲得していたのだ。
今の刃牙なら適当に調理したフグを喰っても問題ない。
スーパードクター紅葉だって「今生きていることが奇蹟のようなことなんだ」と、刃牙の毒耐性を認めている。
「なんだい…………」
「待っててくれたのかい」
「やさしいんだな」
最大トーナメント編の克巳ような台詞を刃牙がいって試合は再開する。
この台詞は、克巳が大ダメージを受けて負けを意識した時にいわれた。
刃牙も負けを意識しているのだろうか。
とりあえず、雰囲気は負けムードだ。
しかし、李海王は親切心で攻撃を控えていたのだろうか。
刃牙が動揺せずに毒を対処したのをみて、毒に「すでに侵されている」と判断している。
親切で攻撃を控えたのではなく、冷静に観察していただけかもしれない。
その場合、李海王はどう判断したのだろう。
刃牙は毒に耐性をもっている可能性がある。なら毒手による追加効果は薄いだろう。
しかし毒による身体能力の低下があるはずだ。
この場合、必勝の策は正面からの打ち合いか。
ちなみに、張洋王は正面から打ち合ってボロ負けしました。
そんなことを考えていたのかは知らないが、李海王は刃牙に向けて手をさし出す。
握手……ではないようだ。
ひらいた手を肩の高さまで上げる。
その動作をみて刃牙は、李海王がなにを狙うのかさっしたようだ。
刃牙も手を上げる。2人の手の甲が触れ合うほどに近づく。
「対手(ついしゅ)だ………!」
「伝説の試合法………」
「対手……」
「短期決戦か……………」
客はざわめき、烈は汗を流す。
私は知らないのだが、中国拳法独特の決闘方法だろうか。
簡単に調べたところ、「対手」には「(対戦)あいて」や「ライバル」という意味があった。
打撃同士がこのように拳をあわせると、はじめから打撃の間合いに入っていることになる。
最大トーナメントの渋川剛気vs愚地独歩の最終局面のような超接近戦だ。
居合や、早撃ちのガンマンの決闘のようでもある。
李海王がしかける。
さしだしていた左手をひっくりかえし、刃牙の手首をつかむ。最少かつ予想外の動きだ。
手首をかえした動きを体に伝え、体をひねりながら下段へ後蹴り。
刃牙は足をあげてかわす。
この下段蹴りは刃牙を崩す布石だったのだろう。
李海王はそこから上段蹴りにつなぐ。
つかんで間合いから逃がさないようにして、崩し、本命の攻撃と流れるような連続技だ。
だが、刃牙は李海王の手首をつかみ返して、投げをうつ。
刃牙が今までみせたことのない合気の技だ。
渋川とタッグを組んで柳と闘ったときにコツを盗んだのだろうか。
範馬一族は、克巳なんか問題にならないぐらい他流からパクリまくる一族だ。
きっと、来年の今ごろは普通に毒手を使っています。
「柔(やわら)ッッ!!?」
ひっくり返されながら李海王は、技がなにかを理解していた。
おそるべき冷静さだ。
刃牙だっていつまでも汗をかいているわけにはいかない。
李海王が宙を舞っているこのチャンスに、息を吸いこみ、渾身の右拳を打ちこむ。
泣きだしそうな表情なので、すごい必死で打っているのだろう。
思いっきり振りぬいた一撃を喰らい、李海王は頭を下にした状態で吹っ飛んでいく。
だが、手で地面をはじき体をふって、普通に両足で着地する。
しかも、刃牙の攻撃は手のひらで防いでいた。
猛スピードから急ブレーキをかけたタイヤのように、手から煙がでている。
この一撃が決まらなかったのが惜しまれる。
それ以上に李海王は体術も優れている。毒手なんていらないような気もする。
「勉強になった………」
「日本の伝統武術 柔………………」
「一度 体験しておきたかった」
あくまでも余裕の態度をみせる李海王だった。
烈海王みたいに、やたらと四千年を強調しない。除海王のようにあっさり金的を打たれたりもしない。
この海王は強い。ひさしぶりに強い。
李海王が優勢なので兄の拳王道・範海王はのんびりと見学している。
その横に「ぬ…」と範馬勇次郎があらわれる。
息子の刃牙がピンチのようだが、なんかうれしそうな表情にみえるのは気のせいだろうか。
勇次郎は範馬の血が目覚める予感を感じているのか?
「こいつぁ 早くキマるぜ………………」
勇次郎からお墨つきがでてしまった。
独歩の勝利を予想し、それより先に勇次郎に喧嘩をうった本部の予想とは重みが違う。
ムリヤリ試合に介入して予想を実現させそうで恐い。
勇次郎の発言の意図はなんだろうか。
刃牙が巨凶に目覚めれば、即決着になるというのだろうか。
確かに刃牙vs烈海王では、刃牙が目覚めたらすぐに決着がついた。
あの惨劇がふたたび起きるというのか。
それより、範馬勇次郎と範海王があたりまえのように会話している。
これは気になる。互いに面識があるのか、因縁があるのか。
喧嘩腰にならないので、刃牙と勇次郎よりは仲が良さそうだ。
「続きだ」
李海王がふたたび対手を挑む。
必殺の合気が不発に終わったためか、刃牙は追いつめられた表情をしている。
追いつめられると人間は動かずにはいられないらしい。
刃牙は手を合わせる前に、そのまま殴りにいってしまう。
李海王の体が沈み、凄まじい連打が刃牙の体に突きささる。
攻撃を、ちゃんとガードできていない。目もつぶっている。
うっかりすると対ガイア戦のシコルスキーだ。
刃牙、大ピンチで次回へ続く。
やはり闘いには、解説が欲しい。
対手(ついしゅ)がどういうものなのか、くわしい説明が欲しかった。
また、陳毛コンビにエラそうな事をいってもらいたい。
ついでに「対手とは、またずいぶん古臭いことを…」と、やたらエラそうな感じでサムワン海王にも出てもらいたい。
そして、試合では一撃で負ける。
さて、このピンチを刃牙はどうやって逆転するのだろう。
「こんなことやったって強くなんかなれねェだろうけどよォ」と勇次郎と梢江が応援の正拳突きをすることで、刃牙が理不尽にパワーアップするとか。
現在の刃牙でもっともキケン度の高い2人の応援されては、刃牙も覚醒せずにはおられまい。
とりあえず、エンドルフィンを出し忘れている。
すみやかに、左の耳をひねりましょう。
まちがえて右の耳をひねると、ナニが出るんだろう?
2003年10月2日(44号)
バキはお休み
チャンピオンの最後、目次に小さく「『バキ』は作者都合により休載させていただきます。」とある。
刃牙が大ピンチだけではない。作者も大ピンチのようだ。
作者も主人公を救う方法が思いつかなくて、すごく苦しんでいるのかもしれない。
そんなモン予想できるわけないだろ、って感じの破天荒なオチを期待している。
ただし、漫$画太郎風は勘弁してください。
週刊少年『』のインタビューで、板垣先生は原稿を落としたのは今までで2回ぐらいだといった。
これで、3回目?
死ぬ寸前なんだけど、世間にあまり心配されていない主人公は復活できるのだろうか。
まあ、主役だし範馬だし梢江の恋人だし、毒ぐらいでは死なんでしょう。
むしろ、闘いを見守っている父・勇次郎のほうが気になる。
李海王が「刃牙くんはもう闘える状態にありません、私の勝利を認めてください!」といいだしたら、危険だ。
範海王が、まだいうには早い身の上話をはじめようとしてもヤバい。
究極的には勇次郎の機嫌しだいなので、そこにいるだけで危険だ。
今のトーナメント表では、勇次郎が準決勝で刃牙と闘うようになっている。
その展開は作品的にこまるだろう。
刃牙が勇次郎に勝ったら作品的に話が終わりそうだし、刃牙が負けたら主役不在のトーナメント決勝戦となってしまう。
餓狼伝の主役・丹波文七も現在開催中のトーナメントには出てませんが。
そんなわけで、どこかで勇次郎をめぐるトラブルがおきて勇次郎が退場する可能性は高い。
その火種になるのはサムワン海王だろうか?
サムワン海王をふくめ、海王入場以来、姿をみせていない他の海王たちの動向も気になる。
陳海王と毛海王は加藤・末堂コンビに匹敵する愉快な解説(ただし辛口)をみせてくれた。
Jrと除海王の闘いはみていたのに、刃牙と李海王の闘いはみていないようだ。
それは除海王が弱いと評判があったので、本当にへっぽこなのか確認したかったのかもしれない。
で、刃牙には興味がないし、毒手対策はバッチリなので、二人の試合はみる必要がないとおもっているのかも。
まあ、知らない人からみれば刃牙は怖い彼女を連れた重病人だろう。
できることなら、かかわりたくない。
かかわった烈海王はしこたま殴られていた。
さて、控え室にひっこんだまま出てこない他の海王はなにをしているのでしょうか。
ちなみに残りは、孫海王・楊海王・サムワン海王・怒李庵海王・寂海王・郭海皇の6人だ。
サムワン海王はだれかに潰されているだろう。
怒李庵海王はアメ玉をもらって喜んでいるだろう。喜びすぎて迷子になっている。
迷子の子猫ちゃんを発見(ハント)するため、アンチェインと呼ばれる男が出動するに違いない。
郭海皇は歳も歳なので、寝ています。もしくは徘徊(はいかい)している。
消えてしまった中国拳法の象徴を探すため、自称アンチェイン・オリバに依頼がくる。
しかし、オリバは死刑囚を捕らえるという約束よりも目の前の黒帯を優先する男だ。
だれも彼の行動をしばりつけることはできないのだ。
果たしてオリバは無事に仕事をするのだろうか?
そんなオリバ番外編がはずみで20週ぐらい続くかもしれない。
そして、残りの孫海王・楊海王・寂海王たちだ。
ところで、孫海王と楊海王を覚えているだろうか。
孫海王は紳士っぽい人(主観)、楊海王はかたそうな人(主観・金剛拳)だ。
この2人は、データーがないからネタにしにくい。
寂海王は活躍しそうな予感がある。
というか、この人ぐらいは活躍してくれないとさびしい。
日本在住でありながら徳川のじっちゃんにもみつからなかった、厚すぎる秘密のベールに包まれた秘技がついにあきらかになるのか。
それにしても刃牙がないと1週間が盛り上がらないなぁ。
2003年10月9日(45号)
第2部 第186話 もう…ッッ (566+4回)
李海王の連打が刃牙を襲うッ! しかも追加属性は猛毒だ。
顔面のガードも忘れ敵に背を向けスキだらけになってしまう刃牙だった。
だが、なぜか股間だけはきっちり両手でガードしているようだ。
どうしても、そこだけは守りたかったのか。
過去、なんど打撃を受けても壊れななかった頑強な弱点だが、毒には負けるようだ。
本人はよくても、彼女がダメなのかもしれないが。
ここだけは勘弁してくれッ、そんな悲痛な叫びが聞こえてきそうだ(幻聴です)。
毒だけではなく、打撃テクニックでも刃牙を圧倒したのだが、李海王は構えをとかない。
この男はとことん冷静に獲物をしとめるつもりらしい。
その李海王の拳から煙がでている。
「毒手が細ってるッッ」
観客の言葉どおり、煙のでている拳はかつての丸い拳ではない。
エイケン産の躍乳(ヤクニュウ)が、つつましげな無敵看板娘サイズになって地球にも優しくなったような感じだ。
しかし、毒は煙になって消えたわけではない。
水が気体になると体積は1000倍以上になる。煙になって消える量ではない。
つまり、毒は刃牙の体内にほとんど入ったことになる。
柳の攻撃で、ちょっと押せば漏れんばかりに毒を注入されているところに、さらに大盛り追加だ。
恐るべしは薬硬拳、柳の毒手とは量が違いすぎる。
…とそれはいいのだが、李海王の毒はこれで打ち止めか。
たぶん控え室にはツボが用意されていて、次の試合に向けて仕込みに入るのだろう。
しかし、一試合分の毒は使いきったようだ。
刃牙にとってはピンチだが、同時にチャンスでもある。
このチャンスを生かせるか?
刃牙はこらえて倒れない。
ファイティングポーズは崩していない。
打たれた箇所が熱をもったか煙がでるが、後ろには下がらない。
(もう…ッッ)
この毒にもかかわらず、刃牙は前にでる。
だが、刃牙自身がわかっていたのだろう。
「もう……」
そういって、李海王が構えをといた。
まったく油断をしなかった男が構えをといたのだ。
もう……、刃牙の目はうつろだった。
李海王の目前でつんのめり血を吐き、まき散らしながら転がった。
あおむけに倒れた刃牙に、自分の吐いた血が雨となってふりそそぐ。
刃牙の倒れた場所は梢江のすぐ前だった。
最期に愛する人の前にたどり着きたかったのか、ただの偶然なのか。
刃牙は、目は開いているが、見てはいないようだ。
そんな刃牙の顔を、梢江はのぞきこむ。
「バキ……」
「変わっちゃったね」
「あんなに」「太かった」「腕も………」
「あんなに」「逞(たくま)しかった」「脚も………」
「鋼鉄(はがね)の身体(からだ)も……………」
「ぜんぶ……」
「変わっちゃったね……………」
変わったのは今にはじまった事ではないが、この戦いでさらにやせてしまったらしい。
うしろで烈も「ッッッッッ」とか「オイ……」とか「これは……」とか、おどろきっぱなしだ。
絶対の確信をもってバキを擂台に上げた烈だが、ちょっと動揺しすぎだ。
手術中、医者にこんな台詞いわれたらヘコむ。
しかし、梢江は動揺していない。
おなじみの鼻水もでてこない。
さりげなくこっちを見ている勇次郎や範海王、観客の見守るなかで梢江はしずかに涙をながす。
「でも……」
「ちっとも変わってない」
「あなたは」
「なにひとつ変わっていない」
謎台詞だ。
肉体は衰弱したが強さは不変といいたいのだろうか。
とりあえず、精神的に変わっていないと言うごまかしではなさそうだ。
刃牙の内面にひそむ力は、今も変わらずそこにあるのだろうか。
梢江の涙が刃牙にしたたる。
衰弱した刃牙の姿に泣いたり、助からないと言われて泣いたり、がんばれと言って泣いたり、今までさんざん泣いてきたけど、こんなしずかな涙ははじめてだ。
松本梢江の覚悟は蛮勇を超えた強さをもちはじめている。
ちょっと前なら「治ってないじゃん。前より悪くなってるじゃん」と烈のスネを蹴っていただろう。
「あんのヤロウ……………」
「い〜〜〜〜い女モノにしやがった」
愛するものの死を前にしても動じない、しずかな強さをもった梢江をみて勇次郎は会心の笑顔をみせる。
やはり、勇次郎の好みのタイプはこういう強い女なのだろう。
これなら孫も喰いがいがありそうだ思っていそうで、ちと怖いが。
それ以上に、この父は息子の身をまったく心配していないようだ。
回復することを信じてうたがっていないのか。
むしろ、呼吸をするよりも自然に回復すると思っているのか。
おそるべき信頼感というか、親馬鹿ッ!
ドクン
父と恋人の愛に答えるかのように刃牙の体が鳴動する。
今週おどろきっぱなしの烈が、さらにおどろく。
「毒が…」
「裏返るッッ」
刃牙の目に生気がもどった。
毒が裏返る、とはいったいどういうことか。
待ちのぞんでいた範馬刃牙の目覚めがはじまったのか。
とはいっても、あれは烈が勝手に言ってることだからなァ…。
説明不能の異常事態に、初めて李海王がおどろきの表情をみせふり返り、汗を流した。
やっぱり、毒切れでちょっとピンチなのか。
確信していたはずの勝利が、裏返るのかッ!?
ちなみに、今週の作者コメントはコレ↓
『一本休んでゴメン。本当に急用だったのです。オトしたんじゃないぞ!!』
作者が裏返って、大変なことになっていたのだろうか?
わざわざコメントを書くということは抗議が多かったのだろう。
抗議があるということは、それだけ「バキ」は必要とされているのだろう。少なくとも私は必要としている。
だから、悪いスタンド使い(職業・神父)に裏返されないように気をつけてください。
細った毒手について。
毒が全部しみこむとは思えない。皮膚へ薬物を浸透させるには補助剤がないとうまくいかないのだ。
だから、毒が染みだしているとしても、刃牙の皮膚に吸われるよりは、地面にこぼれるほうが多い。
李海王はすごい連打で打ちまくったから、毒も出まくり、漏れまくり。
さりげなく、地面はエライことになっているはずだ。
次の試合は、地面にこぼれた毒で両者ノックダウンだろう。
毒手があまり効いていなかったとすると、今回ダウンしたのはなぜだろう。
前回吸い出した毒をうっかり飲んでいたとか、やっぱり粘膜から吸収しちゃったとか。
なんにしても、口で毒を吸いだすのは、あまりよろしくない。
ついでに、ちょっとマジメに「毒が裏返る」ことを考える。
毒というのは体にたいする負荷になる。
生物は負荷にたいして反発し、乗り越えようとする。
乗り越えられないとポシャって死ぬんだけど、乗り越えられればより強くなる。
バーベルトレーニングなども筋肉に負荷をあたえ強化するものだ。
限界ギリギリまで毒という負荷をあたえて、肉体の反発力をよみがえらせる計画だったのかもしれない。
毒のダメージの分だけ、より強くなって範馬刃牙は復活する、のか。
普通なら、ただ消耗するだけだと思うが、そこは地力がちがうということで。
そうなると、重ねてきた毒攻撃、トドメの一発は梢江の涙か?
おそるべき猛毒・梢江。そりゃあ、勇次郎もお墨つきを出すわけだ。
2003年10月16日(46号)
第2部 第187話 転じる! (567+4回)
梢江の激涙が、ただごとではない水量で刃牙の顔面をたちまち濡らす。
愛という名の集中豪雨(えんごしゃげき)だ。
「どんなに変わっても」
「あなたは決して変わらない…ッッッ」
できそうもないことを願うムシのいい心根ではなく、必ず実現させると誓う決意に満ちた液体を降りそそぎ、梢江は刃牙の復活を祈る。
肉体がどんなにおとろえても、変わらず強い刃牙でいてほしい。そう願っているのだろうか。
放っておけば刃牙の毒を口で吸いだしかねない勢いでせまる梢江の顔面に呼応するように、刃牙が起きあがる。
本日はじめて目覚めたようなボケっとした表情の刃牙は、顔に流れる梢江の涙を舌でなめとり飲みくだす。
かつて梢江が刃牙の放出した戦いの聖水を飲みほしたように、今度は刃牙が梢江の排出した祈りの聖水を飲みほしたのだ。
さすが、現存するなかで地上最凶のカップルといわれる二人だ。行為もただごとではない。
そういえば、刃牙の母である江珠も勇次郎の汗をあびてうっとりしていた。
あびたり飲んだりが好きな家系なのだろうか。
家系なんだろうなぁ。
起きあがった刃牙は笑顔で梢江に微笑みかける。しかし、スキだらけだ。
このチャンスを逃さず、李海王が蹴りこむ。
バオッ
跳躍してよける。
おそるべき高さ、それもアクロバティックに回転している。
まるで体重が消滅したような軽やかさ。余裕たっぷりだ。
あきらかに動きが変わった刃牙に、勇次郎もご満悦なのか?
地上最強の生物だけあって表情も難解だ。
勇次郎の表情を分類すると鬼 怒 愛 楽って感じで、人間とは少しちがう。
「裏返ったァッッ」
烈が吼える。
前回、あれほど驚愕しっぱなしだった烈が大喜びしている。
珍しいこともあるものです。
「コズエさん」
「バキは蘇(よみがえ)るぞッッッ」
「よくやったッッ」
「よくやったぞコズエさんッッ」
どうやら、梢江のお手柄のようだ。
梢江の執念が奇跡を呼んだのか?
当の梢江はよくわかっていないようだが。
なにも知らず、なにも考えずに刃牙を復活させてしまう、おそるべき天然系・烈女だ。
そりゃ、烈海王も「さん」づけで呼びますわな。
そのうち、パシリもやらされそうだ。
「おまえの弟が……」
「治しちまった」
うれしそうに勇次郎が宣言する。
意外な展開に、範海王は眉間にシワをよせて呆然としている。
勇次郎は、動揺する精神に効果的な追い討ちをかけている。
さり気なく、姓が違うのに李海王を範海王の弟と見抜いている。
今は、みごとな観察眼だ、としておこう。
琉球王家の秘伝すら知る男・範馬勇次郎が今週もトリビア(ムダな知識)をほとばしらせる。
この男は、本気になれば本部よりも詳しいといわれる雑学王でもあるのだ。へー。
「1540年(天文九年)明(中国)から日本へ伝来せし邪拳 毒手」
「全七巻に渡るその内容は徹頭徹尾 劇薬の製法及び毒手の鍛錬法」
「時の武将 今川義元の命により忍(しのび)に限り修得を認可する」
「当時 皆伝を得た忍の毒手により対抗勢力であった北条氏康側の犠牲者は実に九十名以上に上ると言われる」
「以来 近代に至るまでの四世紀 歴史の裏舞台で連綿と伝え受け継がれる毒手」
「へー」というより、むしろ「えーッ!?」。米国なら「E(え)ー!?」
「花の慶次」の原作者である隆慶一郎の歴史小説のようなおそるべき秘話があかされてしまった。
1540年、鉄砲伝来が1543年といわれているので、それより早い。えー!?
ちなみに明と日本は国交があまりない。
日本の海賊・倭寇が明の海岸を荒らしていたし、明の建国時に奸臣・胡惟庸(こいよう)が日本と手を組んだとされ(誤解です)、国交断絶を言いわたされている。
中国四千年から見れば、つい最近である約五百年前の1540年(明では嘉靖十九年)、毒手が海を越えて輸入されたというのだ。
そして、なぜ今川義元の忍が受け継ぐのだ? えー!?
今川義元といえば桶狭間で織田信長に討たれたばっかりに貴族趣味のダメ大名といわれたり、語尾は「おじゃる」と決めつけられている不幸な人だ。
本当は有能な人だったらしいんですけど。
そして北条と闘っていたとなると、今川の忍者と箱根の風魔忍軍との争いになるのが、隆慶一郎作品の定石だ。
だが、風魔忍軍がついていながらこれだけの犠牲者が出るのはおかしい。
これは、風魔が最初は今川に仕えていたが、あとで北条に乗りかえたと考えればいい。
風魔忍軍を失った今川は、情報力が落ちて桶狭間で不覚を取る。
ちなみに隆慶一郎作品では風魔は朝鮮からやってきた集団とされている。それなら、渡来者・風魔が毒手の知識を伝えたと考えるのが自然だ。
そして、マスター国松は忍者の技術として毒手を現代に伝えているのだろう。
板垣作品と隆慶一郎作品のみごとな融合である。(えー…
だが、毒手・七巻というものは全てではなかったのだ。
勇次郎さんから追加トリビアがあった。
「その実 あと五巻が存在していた!」
「先の七巻を陰手ッ」
「後の五巻を陽手ッ」
「陰陽相まって全十二巻を以って完全とする!!!」
なるほど、柳の毒手は陰手だから最初から細っていて、李海王の毒手は陽手だから丸かったのだろう。
あと、陰手は作るときに痛いが、陽手は痛くない、とか。それで勢いあまって両手を毒手にしちゃったのか。
勇次郎に負けていられないと、烈海王も解説をはじめる。
ちゃんと梢江ちゃんに説明しておかないと、スネを蹴られるし。
「陽手もつまるところ毒手には違いないが」
「ごく限られた条件でのみ―――」
「解毒に転じる!」
ッ! 説明しているようで、説明になってない。
だから、その条件ってなにさ?
多分、陰陽の比率が同じになると中和されるのだろうか。
でも、もう、理屈はいらん。そのままで面白いから。
「なんだか…」
「軽いやァ」
刃牙、完全復活?
軽いのは強制ダイエットしたからでしょう。
今の刃牙は軽量級のスピードに軽量級のパワーを有していそうだ。
「刃牙驚天動地の反撃が開始(はじま)る!!!」
開始(はじま)ると、アオられたッ!
「勝ったのは俺だ」並みの強烈な予言である。
驚天動地というぐらいだから、勇次郎が乱入したくなるほどの攻撃力を見せるのだろう。
劉海王や除海王のように陰惨な破壊劇が出なければいいのだが。
以前、目覚めたときは烈の首をバキバキにしちゃっただけにちょっと心配だ。
今までやや悪ぶっている感じのあった範海王が動揺をみせている。
やっぱり、弟のことが心配らしい。
これで刃牙が李海王に勝てば、弟の敵討ちという因縁が生まれ、刃牙vs範海王が盛り上がりそうだ。
そうすることで、もう1つの因縁を隠すこともできる。
次回の展開は、本当に驚天動地なのだろうか。
体術でも優れたところをみせていた李海王だが、身が軽くなった刃牙が相手ではピンチだろう。
毒手もしぼんじゃったし。
刃牙は身が軽くなっているので、分身するほどの高速攻撃を仕掛けそうだ。
とにかく、海王の開幕3連敗はほぼ決定だろう。
なんて擂台賽だ……と泣く人がまた出ますね。その涙で裏返せ!
狙いはドリアン。裏返して、元に戻してあげてください。
2003年10月23日(47号)
第2部 第188話 復活ッッ!! (568+4回)
「ああ…………………軽ゥ…」
「あそこまで……」
「一気に跳びあがれそうな…………」
天井です。
あがれないって。気持ちのほうが舞い上がっている。
劇画村塾で小池一夫先生にほめられたときの板垣先生のような状態だ。
本当に空を飛べるんじゃなかと思ったらしいですよ。
板垣先生は、そのとき漫画家として覚醒したらしいが、刃牙はこれで格闘家としてさらなる進化をしたようだ。
職業人として飛躍するのはいいが、人として地に落ちないように気をつけよう。
「ごめん」
「すっかり待たせちゃって」
うっかり飛べそう感にひたってしまい、試合を忘れていたようだ。
実際に試したり、いかに自分が飛べそうだったかを解説しなかくてよかった。
目も前にいながら、気持ちはどこかへ飛んでいった刃牙を、帰ってくるまでちゃんと待っていた李海王は立派だ。
たぶん、すごく困った兄(範海王)がいたから、こういう事態には慣れているのだろう。
パンッ
両者は、手を打ち鳴らし戦闘体勢にはいる。
李海王がしかけた。
つまずいて倒れるような動きで間合いをつめる。
前進する動きにもフェイントをかけているのだろうか。
さらに、微妙に視線をそらした感じで左手刀をうってくる。
細かい技術で予想しにくく加工した攻撃だが、ヒジを伸ばす前に刃牙の手に押さえられる。
ならば、広げた右手を振りかぶるが、刃牙の伸ばした手に出端を止められる。
あきらめずに蹴りこもうとするが、これも腿を足で防がれる。
「攻撃が形になる前に止めてる……」
相手の攻撃を根っこから防ぐ刃牙の絶技に、お客さんたちがざわめく。
出せる攻撃を出し切り、防ぎきり、片足のみで二人は立っている。
共に抜群の技術とバランス感覚をもっている。
しかし、刃牙の見切りの能力はそれ以上にすごい。
この変化は体が軽くなったというだけではなさそうだ。
「李が……読まれている」
心配そうに範海王がいう。
弟なのになぜ姓で呼ぶ。
ピンチをむかえた弟を見て動揺したのか?
「毒が裏返った………」
李海王が断言した。
だてに毒手の第一人者ではない。
刃牙の身になにが起きたのか理解している。
陰陽の毒素に「闘志によって脳から分泌された脳内麻薬」「恋人が流した涙によってもたらされた多幸感」を加えて「化学反応を起こしスパーク」する。
なんか錬金術のような無茶な製法で、脳内が爆(は)ぜたらしい。
冒頭の、空も飛べる感は爆ぜてしまった悪影響だろう。
無自覚に失禁とかしていそうだ。
刃牙のエンドルフィンと梢江の聖水を混ぜるととんでもない化学物質ができてしまうらしい。
高校鉄拳伝じゃなくなった『TOUGH[タフ] 』でも体力絶倫の証とされていた48時間の耐久性交をクリアした秘密は、これだったのか!?。
「永(なが)くこの道を歩んでいるが……………」
「わたしにとっても初めての現象だ」
裏返る可能性がありながら、なぜ不用意に李海王が刃牙を毒手で打っていたかが判明した。
中国拳法界最高の使い手であっても未体験の現象だったのだ。
そうなると、烈老師が提案した毒手治療は、必ず儲かるといって競輪・競馬・競艇・パチンコに向かうおっさんのような、すごく勝率の低い賭けだったようだ。
前回あれほど大喜びしていたのは万馬券を当てた心境だったのだろうか。
烈さん、そうとうなチャレンジャー。
勇次郎の招待も反対しなかった。
神心会の特別師範になったのも、なにかの賭けだったのかもしれない。
結果は、まあ、偶然とはいえ神心会大爆発だった。
なんか、烈老師は物騒な人生歩んでいる。
本人の知らないところで『賭博破戒録カイジ』なみの素晴らしき博打人生を歩みかけていた刃牙だが、勝ってしまえばこっちのモンだ。
やたらと自信に満ちた態度に体も呼応し、全身の筋肉が引き締まり血管が浮き出てくる。
「身体がね……」
「あんたをヤッちゃえって………」
刃牙、不遜な態度も完全復活だ。
そんなところは戻らなくてもよかったのに。
そして、遺伝的にも環境的にも刃牙の性格を悪くした張本人・勇次郎は大喜びしている。
横で範海王が汗を流していてもお構いなし。
むしろ、それが喜びなんだろう。
「言ったろう」
「決着は早ええって」
確かに言ってたッ!
言ってたけど、そう意味だったのか?
なんかクイズの正解を聞いてから「そうだと思ってた」と言いだす人みたいだ。
まあ、言ったモン勝ち人生だから、それでOKなんだろう。
刃牙の暴言に、クールだった李海王も激怒する。
腰をかがめた状態から踏み込み、貫き手ッ!
空手の祖であるだけに手首から先の使いかたが多彩だ。
だが、当たらない。
髪を切り、皮膚をかすめるが、体には直撃しない。
冷静(さめ)た表情で紙一重以上のきわみで刃牙が攻撃をかわしている。
この見切り能力はJrよりも上か?
ここまで見えていると反撃も簡単だ。
狙いすまし、李海王の貫き手を平拳で粉砕ッ!
一撃でボキボキにされた己の右手に、李海王が一瞬だけ意識をとられた。
もちろん刃牙はそのスキを逃さない。
懐深くもぐりこみ、神舟5号のごとく天に昇るアッパーカット。
刃牙驚天動地の攻撃が炸裂した。
これは深刻なダメージか!?
次回は作者驚天動地の取材休載だ。続きは再来週ッ!
そんなわけで、勢いで押し切る裏返り。
梢江の涙はムダではなかったのだ。
刃牙はああいうプレイに幸せを感じるらしい。
バキ特別編 SAGA[性]もムダではなかったのだ。
いまさらムダでしたと言われたら、そっちのほうが問題だ。
刃牙完全復活には、あとは太るだけ。
勝利後はメチャ喰いして、逆マックシングを起こすしかない。
と、刃牙の勝利を前提に考えたが、このまま勝てるのだろうか。
李海王の毒手(陽手)はしぼんでしまった。
しかし、体に蓄えられた毒がなくなったということは、重りが取れたのに等しいのではないだろうか。
李海王が、表返って強くなる。というのは無いな。
やっぱり、このまま負けそうだ。
しかし、郭海皇ぐらいになると試合中に「若返る!」なんてことがあるのだろうか。
サムワン海王の場合ははじめから裏返っていそうだが。
とか、思っていたら同じ肌同士で、烈とサムワンは兄弟だったりしたら、笑えない。
2003年10月30日(48号)
作者取材により、バキはお休みです
復活した刃牙の次なる相手は誰だ?
あ、李海王の敗北は決定事項ということで。ショー☆バンの四球押し出しより、もっと確実に。
はやい話、次の対戦がどうなるかだ。
空も飛べると思いこんでいる範馬刃牙を相手にするのは並みの海王ではムリだろう。
あ、除海王の活躍により、海王にもランクがあることが判明しました。
なにしろ張洋王が海王候補なんだし、海王にもいろいろいるわけだ。
たといえば「松・竹・梅」のような、カッコよさげにいえば「龍・虎・狗(いぬ)」という感じだ。
弱い人は極端に弱い。
張洋王がもうちょっとがんばっていれば海王の名を襲名して、Jrかバキのかわりに出場して除海王に倒されたりしたのだろう。
たとえば、サムワン海王ではどうか?
美味しんぼの海原雄山をカップラーメンでもてなすような暴挙だ。
まあ、カップラーメンで絶賛されたらインパクトは最大級なので、かえってアリかも知れない。
読者の印象にのこる海王は誰だろうと、googleで海王たちの名を検索してみた。
検索数の多い順に並べると、以下のとおりだ。
烈海王1720 、
劉海王 352 、
除海王 123 、
範海王115 、
李海王106 、
サムワン52 、
怒李庵海王52 、
陳海王51 、
郭海皇43 、
毛海王41 、
寂海王32 、
孫海王31 、
楊海王31
死亡確認の海王には線をひいた。
妥当な順番だ。出番とインパクトのある人物ほど上位になっている。
サムワン海王と怒李庵海王にたいする読者の期待の高さがわかる。検索数がシンクロニシティーしているのが興味深い。
同数最下位の孫海王と楊海王はすでに忘れられていそうで かなしい。
検索時に海王の名を有する漢方薬をみつけた。
海王金樽がそうだ。
薬効は「中高年の免疫機能を高め、老化防止。」だそうだ。うむぅ、百年生きられそうな感じがする。
そして、「健忘症、性機能減退など。」とある。なんかオチがむこうから飛んできたような感じだ。
ぜひ、怒李庵に投薬してあげてください。
いや、性機能ではなく健忘症対策として。
最近、三田村泰助「宦官(かんがん) 側近政治の構造」という本を読んでいる。
宦官とは各王朝の皇帝につかえる去勢された男のことをいう。
そこに宦官が多く造られた地域として福建の名前があがっている。
理由は色々とあるらしいのだが、文中に『福建の男色は奇習としてもっと広く風俗化していた。ここでは貴賎、老若をとえあず男色に熱中していたのである。』と書かれていた。
え〜〜っと、福建の人っていたなぁ…。
『福建省 三合拳ッッッ』
『陳 海王ッッッ』
こいつか、タレ目ッ!
183話でやたら辛口に除海王を批判していた人だが、変な意味でタダ者ではなかったのかッ。
陳海王と仲良さげにしていた毛海王が、おねえ言葉を使用していたのは、そういうわけだったのか。
こいつら、間違いなくシューター(※シュートマッチ=真剣勝負を仕掛けるレスラーのこと 出典:じーらぼ)だ。
板垣先生の周到な演出である。
今の刃牙は梢江と結合したまま、次の試合に登場しかねないほど高揚していそうだ。
ならば、陳海王も対抗して合体状態で登場するのだろう。
もう、これは色々な意味で大変だ。
板垣先生も未知の領域を描写するために取材にいそしんでいるはずだ。
まあ、これだけのことをやっても、勇次郎なら「あんのヤロウ……、「い〜〜い女(男?)モノにしてやがる」といって終わりだ。
本当に実現したら「なんという擂台賽だ……」となげく人が増えるな。
2003年11月6日(49号)
第2部 第189話 喰らうッッ!! (569+4回)
覚醒した刃牙の一撃が決まる。
色とりどりの脳内麻薬が出て鬼化しているせいか、表紙の刃牙が勇次郎っぽく見える。
見まちがえたのは私だけだろうか。
なんにしても、体を横回転させて強烈なスピン・アッパーを李海王にうちこむ。
李海王の足が浮く。お客さんが呆然とする。刃牙が改心の一撃の感触にひたっている。
あ〜〜、俺って最高ッとか思っているのだろうか。
アゴへの一撃で、すでに李海王の眼はうつろになっていた。
李さん、早すぎます。短期決戦すぎます。
最高のパンチを決めたはずが李海王は倒れない。その姿に刃牙は怒ったか、さらなる追撃のフックを放とうとする。
やっぱり、裏返ったときに範馬の暗黒面が表に出たのか。
息をのみ目をそむける観客たち。
絶体絶命の弟に範海王は汗を流す。勇次郎は無表情だ。
そして、打撃は寸止めされていた。
(李 海王さん)
(理由はなんであれ)
(動機はどうであれ)
(俺が今こうして立っているのは)
(あなたのお陰です)
「グラップラー刃牙」時代は定番だった、刃牙と対戦相手との決着後の心の交流が久しぶりにあったようだ。
よく考えると、今までは逃げたり・逃げられたりで、まともにぶつかった事がなかったので、交流以前に決着がなかった。
実際は交流ではなく、気絶している人へ一方的に感謝しているようにも見えるが、感謝には違いない。
内容もやたらと前置が多くて本当は怨んでいそうにも見えるが、感謝しているのだ。
ちゃんと感謝しているので、立ったまま気絶している李海王のためにドクターを呼んであげる。
ちなみに呼んで満足したのか、振りかえらずにそのまま刃牙はたち去る。
勝利をつげる銅鑼がなり、観客は歓声をもって刃牙を祝福する。
すごいぞ刃牙、いつの間にか大人気だ。
死の淵からよみがえり、魔性の人間力を手に入れたのか。
とにかく、今大会ではじめて勝者がたたえられた。
文句を言われないのは勇次郎のように悪逆ではなく、Jrのように見た目でわかる異人種ではないからだろうか。
そうなると、サムワン海王と怒李庵海王は人気が出なさそうだ。
でも、ここまでゲスト・異流が活躍するとなると、彼ら外国人海王だって勝つかもしれない。
と、思っておこう。
さて、勝利のあとは宴会だッ!
もてなすは当然・烈海王である。
試合の準備はどーしたッ、料理の炎 いまだに消えずッ!!
煮るも焼くも思いのままだッ!
19品に飲み物ビン3本という超豪華な食事である。
テーブルの上ではなく、地面に直に皿を並べてあるのが、ちょっとテキトーだ。
この料理群をみて、烈の顔をみて、刃牙はぽつりと言う。
「アンタさ」
「ほんっ…と優しいのな」
カァ‥‥
烈海王、激テレ。あるいは烈テレ。
ドイルのときは赤面しなかったのになぜ今テレる。
どうも烈は、ドイルを助けてから蛮勇を忘れてしまったようだ。
せいぜい刃牙を殴って拉致したぐらいだ。
武が錆びついているとしたら、今後の試合がピンチだ。
間違いなく烈の手料理と思われるご馳走を刃牙は次々と喰っていく。
ビン3本も飲みほし、喰い尽す。
あの中身はなんだろう。薬酒とか健康酢だろうか。
まさか、気をきかせて炭酸抜きのコーラーか!?
だとすれば、おそるべき接待の達人である。
劉海王に鍛えさせられたんだろうな…。
ついでに言うと食中に発せられた「メロ…」という音はなにごとだろう。
いつぞや発せられた「シャリ…」という音に匹敵する怪音だ。
「片付いたようだな」
「デザートだ」
烈がいたずら小僧のような笑顔をみせる。
ッ!
ま、まさか、烈老師、デザートは女体盛り(on 梢江)でしょうか!?
これ以上、奇跡を起こさないでくださいッッ。
「喰うぜなんでも」
刃牙も応じる。
なんでもは、止めておけ。どさくさにまぎれてサソリのおどり喰いとか出されるぞ。
むしろ、サソリでよかったと思えるような盛り合わせが出される恐れすらある。
だが、出されたものはバケツ大の器に入った謎物質だった。
中には水平になった液体もしくは固体が入っている。
バケツ・プリンか?
プリンだと思って喰ったら茶碗蒸しで、マジギレするというオチか?
一方、通路では危険な遭遇が発生していた。
前大擂台賽覇者 郭 海皇。
「弱いのう…………」
「君は」
言い放った相手は、範馬勇次郎である。
劉海王を問題にしなかった男を「弱い」と断じる郭海皇の真意はいったい?
タクタロフを小僧っ子と評したガーレンの心境だろうか。
次回、郭海皇の実力があきらかになるらしい。
それは廊下で勇次郎とやりあうということなのだろうか。それとも試合でのことなのだろうか。
次の試合がまだ発表されていないので、まだ郭海皇の試合とは決定していない。
もし、試合決定なら刃牙の次回対戦相手になる。
最大トーナメントの刃牙は、リーガン・ズールと序盤の相手に恵まれていた。
だが、今回は最初からピンチの山盛りで、漫画の主人公みたいだ。
で、郭海皇は勇次郎のどこが弱いと思ったのだろう。
力に頼った勇次郎の戦闘スタイルでは、現役百年以上はムリはということか?
そういうトリックではなく、純粋な実力で弱いと判断したのかも。
それとも、完全にボケちゃっているのか。
実は勇次郎の横にいるサムワン海王にいった台詞だった、とか?
2003年11月13日(50号)
第2部 第190話 超回復ッッ!! (570+4回)
「喰うぜなんでも」
そう言った刃牙の根性を試すかのように、烈は本日のデザートを出す。
中華の達人がえらんだ極めつけの一品とは……
「水だ」
デザートはバケツ一杯の水だった。
どこが、デザートじゃッッ!
食事の最後をかざり、リラックスするためのデザートが水ですと?
そもそも、甘くないし。
「10リットルある」
「今の君に最低限必要な水分だ」
えー、牛乳パック10本ぶんですか。しかも、最低限必要ときた。
烈としては、36リットルぐらい飲ませたかったのだろう。それを値切りに値切って10リットルにしたのだろうが、飲まされるほうはたまらない。
しかも、食後です。胃が破れます。
「そのままでは無理だろう」
「こいつを混入(まぜ)る」
烈が取りだしたのはツボに入った約4キロの果糖だった。
烈老師、余計ムリです。倍近くに増えていますッ。
合計14キロ。
総務省 統計局のデーターによると、2歳児(女)の体重が平均14.3キロだそうです。
それは、人が飲める量なんでしょうか。
しかし、これで格段に甘くなった。
甘くすればデザートになるッ! デザートと言い切れるッ!
思いこみの力だッッ!!
果糖は、その名のとおり果物に多くふくまれる糖類だ。
体に吸収されやすく、血糖値が上がりにくく、脂肪にもなりにくい。
リンゴダイエットは果糖を多くふくむリンゴの性質を利用したものだ。
「恢復(かいふく)したとは言え君はまだまだ」
「まるで完全じゃない」
「本来はタンパク質やデンプンが望ましいが」
「時間がない」
タンパク質はアミノ酸に、デンプンはブドウ糖に、それぞれ分解されてから体に吸収される。
大急ぎで吸収するためには、のんびりした事は言っていられない。
電気を起こすため発電機とガソリンを持ってくるのではなく、使い捨ての電池を大量に用意するのと同じ思想だろう。
それが、砂糖水14キロだ。
ここで烈海王が秘伝の海王クッキングをはじめる。
材料は水10リットルと、果糖4キロぐらい。重さを細かく測る必要はありません。
バケツに入れた10リットルの水に、果糖をてきとう入れます。
素手で、まぜます。
「おいおい……汚ェよ」
バキにつっこまれます。聞こえなかった事にしましょう。
「『喰うぜなんでも』って言ったじゃないか!」とブチ切れるとケンカになるのでやめましょう。
まぜているとバケツから水がこぼれますが、見なかったことにします。
せっかくなので、驚愕の足技でまぜたいのですが、さすがに飲んでもらえなさそうなのでやめましょう。
甘 露 完 成
先方に鯨飲の準備あり!
売れない芸人なら一度はお世話になり、命をつなぐ糧にしたといわれる最高級の栄養剤だ。
しかし、さすがの刃牙も14キロの砂糖水を前に覚悟が完了しきらないようだ。
「奇蹟が起こる」
烈が断言した。
むしろ、飲みほせたらそれが奇蹟という気もする。
しかし、刃牙は友を信じ、復活を賭け、14キロ飲みに挑むッ!
前回腹いっぱい食べたはずの食事も、すでに胃の中にないという超消化力の持ち主は、一息に砂糖水を飲みほす。
猛毒に屈した肉体が、次こそ独力で打ち勝たんと、復讐の復活をはじめる。
神の創造(つく)りたもうた肉体の、神の誓いし復讐に、誤りなどはあり得ない!
10リットルの水分にふさわしい湯気をわきたたせ、範馬刃牙 空前の超回復!
ちなみに、低酸素に弱いという設計ミスは、忘れろ。
それにしても蒸気出すぎ。
烈さん、果糖といっしょに妙な秘薬を入れたのでは?
なにしろ怪しげなツボに保存していたのだ。怪しげな精製をしたに違いない。
なお、果糖のもうひとつの効能が便秘解消だ。
4キロも摂取すれば、さぞかしお腹がゆるくなると思われる。
刃牙よ、ボディーに攻撃を喰らわんでくれ。
息子がたぎっているころ、父は146歳の老人を睨みつけていた。
老人は前大擂台賽覇者の郭海皇だ。
「飢え……渇き……焦がれ……」
「足りないものに満ちあふれている」
「弱い」
「ハネあがる衝動を抑える力を持たぬ」
「コントロールが効かぬ」
ブレーキとハンドルのついていない車は、役に立たないということだろう。
確かに勇次郎の強さは、人の人たる強さではない。
勇次郎の強さは、鬼の鬼たる強さだ。
人間の強さとは異質である。
「君に見せてしんぜよう」
「人の人たる本当の強さ!!!」
第四試合ッ、郭海皇 対 サムワン海王ッ!
『※国手(こくしゅ)ッ 郭 海皇が我々の目の前に立っていますッッ』
(※国を代表する名手の意。)
『出場自体がすでに奇蹟ッッ』
『立っていることがもう奇蹟ッッ』
『闘うなんてあり得ない!!』
え〜〜……、奇蹟とはサムワン海王のことじゃないですよね。
試合で遅れをとるのは当たり前として、会場にもたどり着けないと心配されていた男だ。いや、ムエタイだ。
板垣ワールドにおいてムエタイほど不遇の格闘技はないだろう。
と、いまさら言うまでもない。
しかし、もし、ここでムエタイが大番狂わせで郭海皇を倒してしまったら、今までの失態は全て帳消しになる。
本部が柳を圧倒したどころの話ではない。
板垣先生も巻末コメントに「ムエタイが強くてなにが悪い」と書くほどの衝撃が走るに違いない。
実現すれば、だが。
それにしても、外国人を全部先に出してしまえと言わんばかりの順番だ。
そうなると次は怒李庵海王の登場か?
サムワン海王は拳法とムエタイの融合した技を使用するのだろうか?
今のところ、拳法らしさはまったく見せていない。
どのような技を駆使するのか、まずそこに注目したい。
まあ、何もできずに負ける可能性は非常に高いのだが。
それより、人の人たる強さとはなにか?
勇次郎のように、圧倒的攻撃力で敵を潰すわけではないだろう。
人が他の動物と違うところは、道具を使い、言葉を話し、未来を考えることができる頭脳を有しているところだ。
そう考えると、先読みで全ての攻撃を無効にし、相手を精神的に屈服させるのかもしれない。
あるいは、全ての攻撃を「それは百年前に体験済みだ」とかわすのかも知れない。
もしかすると、ヨボヨボっとしたところを見せて「弱そう…」と思わせたスキをついてバックドロップを決めるとか。
「オマエの漢字名は『邪異庵』だッ!」
「『ン』しか合ってねェッッ!」
と言葉で動揺させた上で攻撃とかの、せこい頭脳戦だったりして。
最初に予想したスター・ウォーズのマスター・ヨーダのような華麗な動きという大穴予想も捨ててはいません。
でも、あれは人外の人外たる動きだよな。怖いかもしれんが。
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