餓狼伝 (VOL.191〜VOL.200)

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2007年5月22日(12号)
餓狼伝 Vol.191

 畑幸吉が邪悪に嗤(わら)う。
 姫川の手をにぎったのだ。
 初めてのデートで女の子の手をにぎったときよりも、喜んでいるにちがいない。
 というか、喜びのベクトルが正反対だ。悪の喜びだ。

 左手をオトリにして作り出したチャンスである。
 畑が趣味でギターをやっていれば、二度と使い物にならないような負傷だ。
 間違いなくそんな趣味は持って無いだろうけど、とにかくダメージはデカい。
 障害の残るようなダメージを受ける覚悟が、畑にはある。実際に障害の残りそうなダメージを受けた。
 そして、その覚悟があるから、相手の人生もメチャメチャにできるのだ!
 迷惑な理論を盾に、畑が襲いかかる!

 今まで、相手の打撃はすべてよけてきた。相手につかまっても、スリ抜ける。
 そんな絶対防御の男・姫川勉を掴んだッ!
 畑の快挙に師匠も、泉さんも、丹波も驚愕する。
 やはり今の丹波はオドロクぐらいしか活躍の場がないようだ。

 畑は姫川の手首をひねりつつ、高速で背面に回りこむ。
 合気道の四方投げに近い構えだ。(参考:12
 左手を犠牲にして得た機会を、ふつうに投げるために使ってしまうのか?
 畑の狙いはいったい……?

(やる気か……ッッ)
(あれを……ッッ)
(業(ごう)深きあの投げ技)


 畑の師匠が戦慄する。
 戦中、軍部にいた武道経験者は捕虜を相手に自分の技を試した。
 試す技の中で、もっとも効果を発揮したのが拳心流の投技"切り落とし"である。
 相手のカカトめがけて投げ落とす。切り落とす。
 ほぼ垂直な急角度で落とされるので、後頭部を地面に強打する。

 首に自分の全体重がかかる落ちかただ。
 大変キケンな状態で、ちびっ子じゃなくてもマネをしてはいけない。
 首と背骨つまり頚椎・延髄・脊髄のラインはあらゆる生物共通の弱点だ。
 折れたら死んだり半身不随になったりする。

 モルモットは、首ふきんを押さえて尻尾を引っぱると頚椎のあたりが外れて即死する。
 解剖などで使用するときには、こうやって殺すと死体に損傷がないので便利らしい。
 元東京都監察医務院長・医学博士の上野正彦「死体は語る」か「死体は生きている」に書いてある。
 ごくわずかに外れただけで死ぬので、検死で見つけるのも難しい。
 もし人間に尻尾があって、これをやられたら、死因のワカらない殺人が増えて困っただろうという話だ。

 つまり、首のあたりはちょっと外れただけで死ぬ、超絶キケン部位なのだ。
 畑は命を奪うような危険な技をかける。
 片手はつかんでいるので、両手での受身は不能だ。
 もう片方の手だけでは受身がしにくい。
 だいたい、落ちる角度が急なので上手く手が届かないだろう。
 まさに防御不能技だ。

 畑は殺す気で落す。
 投げる寸前に姫川に「受身の準備を」と言っているが、フェイクと思われる。
 受身不能の技だ。
 相手の気をそらすことで、より確実に技を決めるつもりだろう。
 畑が、姫川を切りッッッ 落とすッッッ

「ぬう……ッッ」


 丹波がうなる。
 いかにも餓狼伝っぽいセリフなので妙にカッコイイ。
 驚き役になっていても、キッチリ仕事をしている。
 責任ある行動は、主人公の鑑といってよかろう。

 ドカ

 ライバルの見守る中で、姫川が後頭部から落とされた!

 姫川のことだから、自分から飛んで勢いをつけ、足から着地するぐらいはヤるとおもっていた。
 しかし、かわせない。現実は非情である。
 ムダな受身をしながら、姫川は後頭部から地面に落ちた。

 だが、ハンサムの姫川は突如反撃のアイデアがひらめいていた。
 投げられながら、畑の後頭部を蹴る。
 伊良子清玄(シグルイ 8巻 四十景)と互角といわれる柔軟性が炸裂だ。

 姫川は畑の頭を蹴ることでブレーキをかけたのだろう。
 地面に落ちたときはかなり減速しているはずだ。つまりダメージはほとんどない。
 本来、姫川が受けるはずのダメージを畑が喰らった。
 しかも、頭と首のつなぎ目あたりという危険な部位を蹴っている。
 今度は畑の命を心配しなくてはならない。

 自分がやられてもイイと言っていた畑だけに後悔はしないのだろう。だが、悲惨な結末だ。
 次回、何事もなかったように立ち上がるかもしれないけど。
 やはり、最大の優勝候補・姫川勉である。
 一回戦、二回戦、準決勝(四回戦)を一撃秒殺で終わらせた。
 三回戦なんて、無撃の勝利だもんな。

 はたして長田はこの怪物相手に勝つことができるのだろうか?
 そして、藤巻は落ちついて試合を見ることができるのだろうか?
 次回へつづく。


 必殺技の投げ技をカウンターで破られた。
 なんかゲームの展開っぽい。
 最後のカケのつもりで相手を投げようとつかんだら、つかみ返し技を喰らったような感じだ。

 魔道の武術家も姫川には勝てなかった。
 最後の砦、プロレスラー長田弘は姫川に勝てるのだろうか?
 藤巻が姫川に「長田は竹宮流を使う」と念押ししちゃったので、かなり不利な状況だ。(餓狼伝20巻 181話
 ゴラ〜〜〜、試合でラブコメ禁止じゃあ〜〜〜〜!
 恋する乙女は彼氏自慢が止まらない状態の藤巻さんは、なんなんですか。
 今でも、物陰からこっそりと長田を見ているのだろう。


 今回出てきた、中国人捕虜への試し打ちは、塩田剛三先生の話が元ネタだろう。
 板垣先生は、晩年の塩田先生と交流があり、周辺の人から話を聞いていたようだ。(文章を見たかぎり、直接聞いたわけではないらしい)
 「板垣恵介の格闘士烈伝」には、次のような話がのっている。
 若いころ中国に渡っている塩田剛三も、晩年、酔っ払うと中国時代の話が口をついて出てきたそうだ。
「拳法も空手も、全然人を倒すことができない。その点、俺はなぁ……」
 って始めてしまう。
「俺は、地面を武器にできたよ」
 地面にブチ当てて人体を破壊するのは、本当にやっていたようだ。
 いつ、どこで、やったのは謎だけど。
 畑の師匠や拳心流の先人たちも、似たような事をして、切り落しがダメージ最大の技だと確認したようだ。

 そして、畑も切り落としの話を聞いて「やってみたい」と思ったのだろう。
 暗黒面に堕ちている畑なら思いそうだ。
 むしろ、切り落としで倒れた姫川の口に手を突っこんで、「根止め」でトドメを刺す気だったのかも。


 餓狼伝世界の人はダメージを受けるたびに、後遺症などが心配になる。
 地上7階からコンクリートの地面に落下した以上のダメージを受けたハズなのに、ケガどころか かえって元気になる刃牙と比べると、まるで紙の装甲だ。
 刃牙なら根止めをしても、肛門で呼吸するなどの進化をとげて死なないんだろうな。

 打たれどころが悪いと死ぬ。
 当たり前の世界に住む餓狼たちの戦いは、まだつづく。
 次は、ついに決勝戦だッ!
by とら


2007年6月12日(13号)
餓狼伝 Vol.192

 姫川勉と畑幸吉が同時に倒れた。
 だが、姫川は攻撃を畑の後頭部を蹴ることで落下スピードを弱めている。
 ダメージは少ない。
 一方、蹴られた畑は完全に意識を失っていた。
 当然、姫川の一本勝ちだ。

 勝ったとはいえ、サーカスの曲芸じみた綱渡りだった。
 姫川は安堵したのか、ホ‥ッと息をはく。
 圧勝のように見えたが、実は危うい試合だったようだ。
 実際、危なかった。
 勢いを殺しても、落ち方を失敗すれば、大きなダメージを受けただろう。

 姫川とて、完全無欠の完璧超人ではないのだ。
 つけいるスキはある。
 たぶん、あると思う。
 あったら、いいなぁ。


 まるで、ドラマのような奇跡の逆転勝利だった。会場は沸きかえっている。
 厳密にいえば、逆転につぐ逆転だ。
 畑が目突き攻撃をする ―逆転→ 姫川が畑の手を裂く ―逆転→ 畑が姫川をつかむ。(190話
 必殺の切り落としッ! ―逆転→ 姫川が蹴りで返す。(191話
 短い攻防の中で三回も逆転が発生している。
 目まぐるしい展開についてくる観客もある意味プロだ。

 担架にのせられ退場しようとする畑が覚醒した。
 キケンな部位に、キケンな勢いで蹴りを入れられたのに、すごく元気だ。
 てっきり格闘家として再起不能なダメージを負っているかと思いましたよ。

 あまりに姫川の打撃が鮮やかに決まったため、畑には敗北の記憶が無い。
 ゆえに、畑は試合の続きという感覚で姫川に襲いかかる。
 試合が終わったつもりでいる姫川は、気持ちの準備ができていないだろう。
 今おそわれたら、かなりヤバい。

 姫川がピンチだ。
 ピンチのハズだが、姫川は微笑で畑をむかえるのだった。
 ものすごい余裕だ。
 姫川には油断がないのかもしれない。
 じゃあ、切り落としを喰らいかけたのは純粋に実力だったのだろうか?
 手を犠牲にした畑のフェイントは、かなり有効だったらしい。

 リーチの長い姫川が先に仕掛けた。
 モーションの少ない上段前蹴り ――――昇龍脚だッ!
 夢枕ワールドで美形にのみ許される華麗な蹴り技である。
 キマイラ シリーズでいえば龍王院弘のように。

 その、昇龍脚がよけられた。
 突っこんで行った畑だが、スウェーバックでよけたのだ。
 前に重心が乗った状態から、のけぞる。
 並みの反射神経ではできないし、強靭な足腰も必要だ。
 やはり畑も天才なのだろう。
 性格に問題あるけど。

 あまりに高く勢いのあるハイキックだった。
 ゆえに、外してしまうとスキだらけだ。
 畑の表情が歓喜にゆがむ。
 きっと放送できないような残虐非道の技をかけようと考えているのだろう。
 股間が目の前にあるし、そっち方面の裏技を狙っていそうだ。

 畑の表情が一変した。
 まるで猛獣の口の中に飛び込むような危機感がある。
 よけたハズのハイキックが、頭上から迫ってきた。
 伸び上がった足が上空から落ちてくる。
 軌道の変化をするカカト落し ――――降龍脚だッ!

 さらに下からも蹴りがやってきた。
 殺気をはらんだ風圧が畑の汗を巻き上げる。
 頭を上下同時に蹴りこむ驚愕の必殺技だッ!
 蹴りの一撃、いやニ撃で畑の意識が抜けでていく。

『なんとなんとの一試合で二度勝利ッッ』
『これが姫川 勉ですッッ』


 一球で二つストライクをとるようなムチャをやりやがった。
 まさに変態だ。
 一試合で二勝という謎の記録が正式に採用されるのだろうか。
 北辰会館だけに採用されそうな気がする。
 とにかく姫川勉の激勝だ。

 一勝目は運の要素もあっただろうが、二勝目は実力の勝利だった。
 本当は姫川も、これがやりたかったのだろう。
 ところが畑の奇襲のせいで、出す機会を失った。
 姫川が気持ちを再び戦闘モードに切りかえることができたのは、この無念さが残っていたためかもしれない。

 なお、この技は餓狼伝PS2ゲームには、すでに登場している"小説版・虎王"だ。
 原作『餓狼伝VI』での丹波による解説は以下のとおり。
『自分の両脚を使って、相手の頭部を挟むかたちで打撃技が入れば、それは皆、竹宮流では虎王と呼ばれる技の中に入るのだ』
 いくつかあるバリエーションの一つが、姫川版の"虎王"なのだ。
 それにしても、丹波は原作でも解説役だな……。

 前述したキマイラシリーズの龍王院弘は、同じ技を"双龍脚"と呼んでいる。
 龍王院の師である宇奈月典善も虎王を使えるので、竹宮流をどこかで学んでいたのだろう。
 名前がちがうのは、きっと龍王院の趣味だ。
 姫川も放っておくと、勝手に名前をつける可能性がある。
 夢枕世界の美形は油断ならない。


 ついに二強が決まった!
 長田弘 vs. 姫川勉だ。
 獣臭ただよう筋肉男と、コロンの芳香がしそうな美形男の対決である。
 まさに対照的な二人だ。

 今までの試合内容からすると、姫川が圧倒的に優勢と思われる。
 回避能力は高く、今まで一度も打撃を受けていない。
 攻撃も強烈だ。つねに一撃で決めている。
 破壊力自体は、たいしたこと無いのかもしれない。
 それでも速度と命中力が常人離れしている。
 姫川はピンポイントで急所を狙い撃ちしてくるのだ。

 長田は、まず急所の防御をしっかりと行う必要がある。
 とくに頭のガードは重要だ。
 打撃戦では姫川のほうがはるかに上だから、つかみに行きたい。
 姫川の打撃を耐えて、勝利をたぐりよせるのだ。

 そして「虎王ッ」「応…」だ!(餓狼伝13巻 104話
 藤巻と長田は松尾象山むけに作戦をねっていた。
 しかし、そのまえに大きな壁が立ちふさがっている。
 すでに長田が竹宮流を使うことはバレだ。よりによって、藤巻がバラした。(餓狼伝20巻 181話)

 とりあえず、長田・藤巻コンビは竹宮流の秘策を用意している。
 余裕が無いし、決勝で使うこともあるだろう。
 秘策は、やはり"虎王"だろうか?

 しかし、姫川もまた"虎王"使いなのだ。
 対策も知っている可能性が高い。
 すでに手の内がバレている長田陣営に、さらなる打開策はあるのか?
 そして、解説すらもできない主人公に光は当たるのか!?
 次回から、よいよ決勝戦だ。
 たぶん長めの前フリがあって、すぐには始まらないと思うけど。

・参考
餓狼伝〈6〉
餓狼伝VI
  キマイラ〈1〉幻獣少年・朧変
キマイラ〈1〉
幻獣少年・朧変
by とら


2007年6月26日(14号)
餓狼伝 Vol.193

 姫川勉、無傷で決勝進出だッ!
 試合後に、束ねた髪を「ファサ‥‥」とほどいて美的アピールも欠かさない。
 勝ったあとも油断せずに、点数をかせぐ。
 姫川には、スキがない。

 一方、敗れた畑幸吉はヨダレをたらし、白目になっている。
 スキのない完璧な敗北状態だ。
 頭部にばっかり攻撃を喰らったので、脳障害が心配です。
 まあ、畑の場合は覚悟のうえで戦っていたんだし、障害があっても後悔しないのだろう。
 むしろ、よけいヤッカイな性格になって姫川をつけ狙ったりしないか、心配だ。

 そして、客席の泉宗一郎たちは顔面蒼白だった。
 竹宮流の彼らにとって困った事態が発生している。

(虎王……)

 丹波はモチロン、畑の師匠も技の正体を知っていた。
 竹宮流とライバル関係にある拳心流だ。
 ちゃんと相手の技を研究しているのだ。

「両脚を虎の腭([月咢] あぎと)になぞらえ」
「頭部を挟み打つ」
「そこから始まるなら その技は全て虎王と呼ばれる」


 ギニャァ〜〜〜ッッ!
 丹波が解説すべきセリフを言われちゃった。
 戦わない主人公として、今の丹波にできる事は解説ぐらいなんだぞ。
 なんてコトをッッ。病人から布団をはぎとるような行為ですぞ。
 丹波に残された最後の希望が奪いとられた。
 これじゃぁ、残った活躍ってオドロキ役しかないぞ。
 ……さすがに、噛ませ犬役はやらないよね?

 竹宮流の虎王は秘伝の必殺技だ。
 松尾象山も実際に体験したのは餓狼伝4巻 22話がはじめてらしい。
 未知の技と言うものは、とても有効だ。
 総合格闘技の初期にブラジリアン柔術が強かったのは、未知のシステムに相手が対応できなかった部分が大きい。

 だから、必殺技と言うものは人前に出さない。
 出したら、相手は殺す。目撃者も殺すぐらいの勢いだ。
 そうは言っても、法治国家で目撃者を消してまわるワケにも行かない。
 オマケに、情報の伝達はどんどん早くなる。
 現代社会において、秘伝を隠しつづけるのは不可能に近い。

 だから、虎王にかかっていた秘密のベールはハガれかかっていたのだろう。
 ならばいっそ、TV放送でハデに使えば、宣伝にもなって門下生がジャンジャン集まるんじゃねェの?
 泉先生がそう考えたとしても、おかしくない。

 ところが、どっこい「そこから始まるなら その技は全て虎王と呼ばれる」なのだ。
 丹波が全世界に向けて発信しちゃった虎王はバリエーションの一つにすぎない。
 どこで蹴るかの選択にしても、ヒザ・カカト・中足・スネなどイロイロあるだろう。
 さらに、そこから関節技に入ったり、絞めたりと多様に変化する。
 多少ネタバレしてもやっていけるフトコロの深さが虎王にはあるのだ。

 畑が心配だといい、師匠は去る。
 ライバル竹宮流の技に愛弟子が敗れ、心中穏やかではないのだろう。
 一見、おだやかに話しているような二人だが、水面下で激しく戦っていたのかもしれない。
 トーナメントが終了したら暗黒武術編で、竹宮流と拳心流が全面対決したりして。
 いや、北辰会館とFAWの5対5マッチをやる予定だっけ。


 決勝がはじまる前に松尾象山が長田と姫川を試合場にあげる。
 優勝者へのプレゼントは松尾象山だ。正確には松尾象山への挑戦権である。
 だが、ここで松尾象山が問題点を指摘した。
 長田たちが四試合も戦ったのに、自分(松尾象山)は戦っていない。

「このハンデを埋めておきたい」

「どなたか わたしの相手をしてもらえまいか」

 松尾象山、まさかのスペシャルマッチだッ!
 相手は会場から選ぶらしい。
 ヤバいッ! 丹波が危険(デンジャラス)だ。
 ドリアンの前に立ったデンジャラス・ライオン加藤よりも、数段デンジャラスッ!
 なんか、立ち位置と心配のしかたがアイアン・マイケルと同じなんだけど。
 いくら出番がないからって、松尾象山と戦ってはイカン。

 絶対に目を合わせるな。
 相手に背を向けて丸くなる護身開眼のポーズで乗りきるんだッ!
 とりあえず素の状態で藤巻よりも目立たない君だから、たぶん大丈夫だぞ。
 自分の地味さに自信を持てッッッ!

「君はどうかね??」
「おそらくはアジア大陸 最大の漢(おとこ)
「チェ・ホマンくんッッ」


 ゲゲェッ、巨人だッ!
 間違いなくK-1で活躍中のチェ・ホンマン(218cm 160kg)がモデルだろう。
 身長・体重の差が大きいと、多少の技術は通用しない。その具体的な存在だ。

 デカいだけに目立つ存在であった。
 たぶん、藤巻の次ぐらいに目立っている。
 松尾象山が、チェ・ホマンの存在に気がついたとき、試し割り企画を思いついたにちがいない。
 名試合が続いたので、自分も戦いたくてしかたがないのだろう。

 松尾象山の力と技は、体格差の壁を打ち破れるのか?
 まあ、破ると思います。
 松尾象山ですから。

 だが、勝つにしても、けっこう苦戦するかもしれない。
 餓狼伝世界では、刃牙世界ほど、巨人が冷遇されていない。
 195cmの巨人・椎野(椎名)も けっこう勝ちのこっていた。
 主人公の丹波だって、体格は恵まれている部類に入る。
 あれ? やっぱり体格が良いと不遇なのか?

「君ぐらいがちょうどいいのだが……」

 松尾象山は超余裕だッ!
 試し割りに使う、圧縮バットを選んでいるような発言である。
 彼の場合、ハッタリではない。本気だ。
 そして実行する。
 一話で、きっちり巨人狩りをやり終えるのだろうか?
 でも、次回は休載です。


 本当にまさかの松尾象山出陣だ。
 困ったときの松尾象山である。
 困ってなくても出てくる松尾象山だ。
 松尾象山が出すぎると困ってしまう。

 久しぶりに松尾象山が人間をたたく姿を見ることができる。
 現役復帰したものの、まだ人間相手の試し割りを公開していないのだ。
 そうなると、説明不要で強そうな相手が欲しい。
 だからこそのチェ・ホマンなのだろう。

 けっきょく、チェ・ホマンは瓦やバットなどの試し割りの素材にすぎない。
 松尾象山としては、いかに破壊するかだけを考えているだろう。
 あやうく丹波がやられる所だった役割を引き受けてくれたのだ。
 丹波にとっては救世主である。

 松尾象山だけに、ジャブだけで倒すような状況になるかもしれない。
 そうなったら、今度こそ丹波を指名するのだろうか?
 ホマンが作ってくれた猶予時間をのがさず、早く逃げたほうが良いかも。
by とら


2007年7月10日(15号)
餓狼伝はお休みです

 餓狼伝は休載なので、トーナメント準決勝を まとめる(参考:一回戦まとめ二回戦まとめ三回戦まとめ

 壮絶な戦いを勝ち抜いた、四人の猛者たちがぶつかる。
 勝敗の予想がまったくつかない試合と、勝敗が確定している気がしてならない試合が、二つの準決勝だった。

長田 弘(プロレスリング183cm・123kg) VS. 鞍馬彦一(プロレスリング 185cm・105kg)
 183話  「手負いこそが最強」グレート巽が鞍馬に闘魂注入だ。
 184話 「よく言った長田、期待しているぜ」グレート巽が長田を激励する。
 185話 「マジですかァ〜〜〜ッ」鞍馬の骨折箇所を長田は容赦なく攻めた。    
 186話 骨折のせいで圧倒的に不利な鞍馬は禁断の手段を用いる。
 187話 凶器攻撃+審判攻撃など、鞍馬はやりたい放題だ。
 188話 暴れる鞍馬を沈めたのは、グレート巽であった。

 リアルタイムで読んでいるうちは良くワカらなかったが、この試合を支配しているのはグレート巽だ
 グレートにはじまり、グレートに終わる。
 長田も鞍馬もしょせん巽の手の上で踊っているにすぎない。
 梶原は、手の上にも乗っていませんが。

 鞍馬が負傷していたため、試合自体は不完全燃焼気味だ。
 FAWとしては、決勝でレスラーが敗れた場合、もうひとりが決勝に上がっていれば勝てたと言い訳がしたかったのだろう。
 つまり、鞍馬の反則負けはFAWにとって次善の策だったのだ。
 なにしろ世間の評価は鞍馬のほうが高い。
 長田があれだけ姫川と戦えたんだから、鞍馬が出れば勝てた。そう言い訳する余地がある。

 長田が姫川に勝てば勝ったで、長田 VS. 鞍馬を改めてFAWで開催して「真の決勝戦!」と銘打つ。
 じつにプロレスらしい計画だ。どう転んでもフォローできるのも良い。
 長田が姫川にさわることなく秒殺されない限り、なんとでもなる。
 さすが知性派社長グレート巽だ。
 そこのシビれて憧れたら、火傷するぜ。もしくは、睾丸破裂だな。

 しかし、鞍馬にどの程度の自由意思があったのかが、謎として残った。
 鞍馬個人が勝手にやった行動にしては無茶苦茶だし、巽のフォローがグレートすぎる。
 簡単に勝てないと思ったら、コイツを使って反則負けしろと巽に凶器を渡されたのかもしれない。
 あっさり負けを選択するなんて、意外と鞍馬は素直だ。
 久我さんにボコられた時に、負け犬根性が染みついたのだろうか?

 まあ、巽の命令なら「了解する」と「喜んで了解する」の二つしか選択肢がないからな。
 ある意味、鞍馬ヒコイチはグレート巽による最大の被害者だったのかもしれない。

「前回優勝者をプロレス技で倒せ」
「キックボクサーを力でねじ伏せろ」
「空手家にプロレスをさせろ」

「負けろ」

 ↓
「マ……ッッ、マジですかァ〜〜〜〜〜ッッ!?」


姫川勉(北辰会館 186cm・87kg) VS. 畑幸吉 (古武道・拳心流 175cm・71kg)
 189話  畑幸吉は、危険な業師だった。
 190話 何をされてもかまわない。だから相手に何をしてもいい。狂気の畑理論だ。 
 191話 畑は殺人技"切り落とし"を仕掛けるが、姫川に返される。
 192話 姫川勉が虎王・双龍脚バージョンを放つッ! 完全決着だ。
 193話 優勝商品・松尾象山が自分も戦うと、韓国の大巨人を指名する。

 姫川の試合は、FAWとちがって松尾象山の影が見えない。
 それだけ素材に自信があると言うことなのか?

 姫川の試合は、対戦相手の視線で語られることが多い。
 強すぎるがゆえに、姫川の内面は謎だらけなのだ。
 今までの試合が、見た目どおり楽勝だったのか、楽勝に見えているが接戦だったのかワカらない。
 深読みすれば、それなりに薄氷の勝利だったのかもしれないけど。

 畑は出だしが地味だったけど、中身がドロっドロの格闘狂人だったと判明する。
 松尾象山よりも現代日本で生きづらい男かもしれない。
 こういう試合に出ないでストレスためつづけていたら、道場で殺人をしていた可能性すらある。
 いいタイミングでストレス発散できたと、前向きに考えたほうがよさそうだ。

 そして、姫川の双龍脚式"虎王"が炸裂するッ!
 姫川も"虎王"使いだったのだ。
 この時の藤巻がどんな反応していたのかが、気になります。
 すごい勢いで怒っていそうなんだけど。

 なお、掲示板とメールで『コータローまかりとおる!』に『竜之顎(りゅうのあぎと)』という似た技が出てくると情報をいただきました。
 柔道編の前の話ですね。古くて忘れていました。情報ありがとうございます。
 なお、コータローは主人公らしく技をコピーして、放屁をまぜる『竜のゲップ』に進化させている。

 似た技と言うと、『修羅の門』に出てきた、左右の回し蹴りを同時に叩き込む『双竜脚』がある。
 さらに、両足で相手を挟みこむように攻撃する…と見せかけて交差する両脚から生じるカマイタチで攻撃するのが『龍破(りゅうは)』だ。
 カマイタチ……。真空波……。
 かめはめ波を出さないバトル漫画で、いくらなんでもソレは……。と読者は思ったことだ。
 作者も 後でいくらなんでも コレは……と思ったのか、二度と使っていません。

 双龍脚は夢枕獏のキマイラ・シリーズに登場する。
 復刻された『キマイラ〈1〉幻獣少年・朧変』によれば最初の「幻獣キマイラ」は1982年発行された。
 ただし、龍王院弘が双龍脚を使うのは、もうちょっと後だ。
 修羅の門 1巻が発売された、1987年ごろには、『独覚変』あたりまで話が進んでいるらしい。
 巫炎が来日したころには、龍王院弘は夢枕作品の名物である"グダグダになって放浪"をしているハズだから、その前に使っていると思う。

 とりあえず、双龍脚のインスパイヤ元は、キマイラ・シリーズのようだ。
 まあ、シンクロニシティーという可能性もありますが。
 なお、"虎王"がどんな技か世に知れたのは『餓狼伝VI』である。
 前半で丹波が使って、後半で姫川が使っているのだ。

 そう、「丹波 vs. 堤」と北辰会館トーナメント準決勝までは同じ巻に収録されているッ!
 コミックスの丹波 vs. 堤は10巻からだ。5月に20巻がでた。準決勝が終わるのは21巻だろうか。
 板垣先生、超スローライフだッッッ!

 なお、虎王誕生秘話は『餓狼伝 格闘士真剣伝説』に収録されている。
 丹波の虎王は板垣先生と夢枕先生の合作だ。
 それが悔しいから、夢枕先生は自分のオリジナルである"双龍脚"も虎王シリーズに加えて、自分の物にしたのかもしれない。
 俺色の技に染まれという感じだ。

 二人は、スゲェ仲よさそうだけど、互いを強烈にライバル視している気がしてならない。
 というか、絶対にライバル視している。
 今ごろ夢枕先生は「俺の書く長田のほうが魅力的だッ!」と、鬼気迫る勢いで鉛筆を走らせているだろう。
by とら


2007年7月24日(16号)
餓狼伝 Vol.194

 空手界の巨魁・松尾象山が巨人チェ・ホマンを自分の相手に指名したッ!
 伝説の男が戦う姿をリアルタイムで見ることができる。
 しかも、相手は現役の巨人だ。
 会場はチェ・ホマン コールでわきかえったッ!

 ちなみに、応援しているわけではない。
 闘牛場の牛に声援を送っているのと同じ状況だ。
 みんな、チェ・ホマンが破壊される姿を期待している。
 知らぬは本人ばかりなり。

『引くに引けない大巨人ッッ』

 当然というか、アナウンサーも敵だった。
 勝手に退路を断ってしまう。別に引いてもいい状況だろう。
 すでに敵に飲みこまれて胃袋に入っているような状況である。
 もはや消化されて栄養になるのを待つばかりだ。

 228cmの巨体をゆらし、チェはマットのすぐそばまで やってきた。
 マットは地面より高くなっている。そのマット上に立つ、松尾象山よりも高い位置に頭があるのだ。
 まさに大巨人と呼ぶにふさわしい。
 そして、噛ませ犬としても最適だ。
 壊すなら、やっぱり小さいものより、大きいものでしょ。

「ダメダメダメダメッ」
「記事になるぞッッ」
「局になんて説明する気だッッ」


 ここで、チェを制止するものがあらわれた。
 どうもチェのマネージャーのようだ。
 チェがラフな格好をしているが、マネージャーは背広を着ている。
 たぶん、仕事中なのだろう。選手がプライベートでムチャをしないか監視するのも仕事のうちだ。
 この間のヤング島耕作でも、島耕作が接待でイロイロまわっていたし。

 チェはK-1のような団体ではなく、局とじかに契約しているのだろうか?
 それとも、局の番組に出演する約束があるのかもしれない。
 PRIDEがフジテレビの資金援助を断られて、苦境に立ったのは記憶に新しいところだ。
 選手の不祥事がもとで団体に迷惑がかかる場合があるし、軽はずみな行動はしないほうがいい。
 しかし、すでに会場はコロシアムでライオンに噛み殺される戦士を期待するような空気になっている。
 やらないと言って通るのだろうか?

「局が存在する以上 応じられまいと高を括(くく)っている」
「それが許せんのだ」


 チェは松尾象山が安全なところから挑発していると思いこんでいた。
 そのチキンな性根が許せない。
 見事なまでにカンちがいしていらっしゃる。
 松尾象山は、局の都合なんて気にしちゃいないだろう。むしろ忘れていそうだ。

 相手のキケン度を低く見積もる能力は噛ませ犬に欠かせない。
 根拠は無くとも「自分のほうが強い」という自信が必要だ。
 ただ弱いだけでは、ヘタレと変わらぬ。
 至高の噛ませ犬には、オレ最強を夢見る幸せな脳ミソが必要だ。

 そういう意味ではデカい人って便利だよな。
 私のほうが ○cm高いし、●kgも重いッ! なのにッッッ、と言っていれば絵になる。
 これに偉大なる祖国などと言い出せば、完成だ。
 なんか、この間のオリバや売り上げが伸び悩んでいるPS3を思い出して、少しへこんだ。
 スペックでは勝っているのに……


「これは試合じゃない」
「プロとバカでかい素人が」
「たまたま喧嘩になっただけなんだよ」


 松尾象山は、チェはでかいだけの素人だと断じる。
 デカい素人を空手が倒すことで、空手の重要さがわかると言う。
 何度かリングに上がって、プロの自負もあるチェはさっそく血管ピキピキで怒った。
 もう、まった無しだ。引き返せない。

 モデルの、 チェ・ホンマンは韓国相撲シルムの横綱に相当する。
 つまり、素人ではない。
 板垣世界だと日本の大相撲は『特に理由はないッ 横綱が強いのは当たりまえ!!』だ(グラップラー刃牙20巻 185話)。
 むしろ、説明が必要なのではないかというぐらい、強いものだときまっている。

 なにしろ『餓狼伝BOY』のラスボスが元力士だったぐらいだ。
 曙が負けたのは、プロになると言い出したとき千代の富士に制裁をうけてヒザを痛めたから。
 そんな妄想が生まれそうになるぐらい、大相撲は強いのだ。
 という感じで「相撲=強い」が、餓狼伝世界の定説です。

 大相撲の説明不要にたいして、韓国相撲シルムはちょっと扱いが悪い。
 もっとも、松尾象山が挑発のために、素人と言ったのだろう。
 本当は実力があると知っているからこそ、喧嘩がしたいのだ。

「審判もいらねェ 道着も着てねェ」
「どっから どう見てもケンカだぜェ」

 危険だッ!
 空手という制約のない松尾象山は、かえって危険である。

 ハンドポケットをしているのも、ヤバい感じだ。
 拳という武器を、相手の目から隠している。

 顔面パンチなしの空手ルールのほうが顔を殴られない分、安全だろう。
 だって、顔面を松尾象山に殴られたらマジでヤバいですよ。

 そうとは知らないチェが動いた。
 左手で松尾象山の肩をつかみ、右手を振りあげる。
 このケンカは、どうなる?
 次回へつづく。


 ケンカで松尾象山に勝てるわけがない。
 敵を知らなかったのが、チェの不幸だった。
 そうは言っても、対格差はバカにできない。
 松尾象山の攻撃がチェに届くのか?
 現実には身長差のあるマイティー・モー(185cm)が顔へのフックで、チェ・ホンマン(218cm)をKOしたことがある。
 パンチで倒すことも、可能といえば、可能なのだ。

 ただ、松尾象山は空手の技術で巨人を倒したいはずだ。
 巨人を屠る空手技とは、どんなものか?
 期待が高まる。


 ところで、畑の無事も確認された。
 病院にも行かずに普通に座っている。
 アレだけ頭を打ったんだから、CTスキャンで脳チェック・コースに直行だと思っていたのだが。
 やはり、畑も天才だけに、とっさに急所だけはハズしたのだろうか。
 急所ハズせば助かるってもんでも無いんだけどな。

・ 少年漫画の法則
 急所に当たらなければ、ダメージはほとんどない。
 急所から1mm以上ズレていれば、刺されても死なない。
 人気が少ないキャラだと、たまに死ぬ。


 畑は師匠に試合をほめてもらい、涙を流す。
 殺人技に関して意見のちがいがあったけど、畑の努力自体は認めているようだ。
 師匠は基本的にほめて育てる人らしい。
 もっとも、勝つために手段を選ばない畑の方針は、多少のことでは変わらないのだろう。
 まあ、立派な師匠がいるから、心の鍛錬も進むと思いますが。

 しかし、畑たちがしんみりしている裏で、古代ローマ人たちが熱狂したような残虐ショーがはじまろうとしている。
 なんとも皮肉な話だ。
 畑には見せないほうが良いんだろうな。
 また、殺人技を使いたくなってしまうだろう。


 ただ、チェも相手が松尾象山でよかった部分がある。
 相手は喧嘩馬鹿一代だ。
 気持ちのいい喧嘩ができるかもしれない。
 相手がグレート巽だったら、最悪だろう。

 チェ・ホマンの巨人っぷりを見て、東洋の大巨人ジャイアント馬場を連想した人も多いだろう。
 そして、馬場さんをモデルにしたプロレスラー・カイザー武藤が原作「新・餓狼伝」に登場している。
 カイザー武藤がいたから巽はトップになれなかったという、因縁があるのだ。

「あの折、社長(力王山)の御前にて恥をかかされた恨み、忘れようとて忘れられぬわ」
 巨体を目撃し蘇った記憶は鮮明であったが、目の前のチェ・ホマンがカイザー武藤とは別人であることは明確だろうか?
 巽が相手だったら、別人への恨みをぶつけられて、チェは再起不能になるだろう。
 松尾象山が相手で良かったとポジティブに考えたほうがよさそうだ。
by とら


2007年8月28日(18号)
餓狼伝 Vol.195

 今回の表紙は松尾象山だ。
 ちょっと不満顔なのは、喧嘩がなかなか始まらないからだろうか。
 ………イブニングでもっとも影の薄い主人公である丹波文七が、唯一存在感をアピールできた場所が表紙だった。
 その表紙すら、人に奪われてしまったのだ。
 餓狼伝にまで格差社会や、負のスパイラルがやってきたらしい。
 気がついたらタイトルが『餓象伝』になっているかもしれないな。

 表紙をのっとった松尾象山だったが、会場ではアジアの巨人チェ・ホマンに肩をつかまれ、殴られるところだった。
 松尾象山はハンドポケットだし、地味にピンチな状況である。
 しかし、松尾象山はあわてたりしない。
 軽く足を動かし、体をひねる。
 これだけの動作で、殴ろうとしたチェ・ホマンのほうがバランスを崩してヒザをついてしまった。

『ポケットに手を入れたまま―――――』
『巨人を転がす武の真髄ッ』


 松尾象山が見せた意外な技に、アナウンサーも興奮している。
 ほう、柔(やわら)を使いおるか……
 空手家でありながら、松尾象山が関節技も使用(つか)うコトは知っていた。
 だが、ここまで高度な技までできるとは意外である。

 かつて、藤巻も掴みかかってきた梶原を崩して、地面にはわせた。(餓狼伝13巻 109話
 韓国相撲出身(?)のチェが梶原と同等であると仮定すれば、松尾象山の柔術は藤巻と互角なのかもしれない。
 まあ、チェと梶原を比較するのは失礼かもしれませんけど……(どっちに?)

 シロウトといわれていても、チェだって選手だ。自分が倒れた意味を理解した。
 チェは、大量の冷や汗を流している。
 相手の強さを感じとったようだ。
 なかなか、鋭い。直感に関しては梶原と互角か。
 しかし、リアクションがうすい。
 やられ役として、梶原のレベルには遠く及ばないようだ。

 遊びに来たつもりだったのに、暴力という名の底なし沼にヒザまでハマった状態だ。
 正直、今すぐ韓国に帰りたい気分だろう。
 帰国許可が出ない場合は、薄暗い部屋でボーッとしてテレビを見ているぐらいしかできない。

 今大会では関節も投げも、なんでもアリだ。
 松尾象山は内外に、自分が柔もイケる口だとアピールしてプレッシャーをかけているのだろう。
 チェ・ホマンは本当に試し割りの材料あつかいだ。


「見ただろうおまえら」
「こいつはたしかに手を出した」
「喧嘩売ったんだよ おいらに」


 ギニャ――――――――――!
 なに言ってるの、松尾象山ッッ!

 相手を追いつめて、手を出すようにしむけておいて、こんなコト言うか?
 超外道。マジ外道。
 ヒドい、あんまりだ……。

 でも、思わず支持しちゃうのが松尾象山なんですね。
 お客さんも大喜びだろう。

 松尾象山の場合、相手をハメてもあまり陰湿ではない。
 動機と目的が「ちょっとコイツと戦ってみたい」という格闘家らしいものだからだ。
 相手が拒否するから、こうやって逃げ道をふさぐようなことをしているだけで、悪意はあまりない。
 もっとも、普通は喧嘩を拒否するだろうけど。
 前から松尾象山と戦いたかったのならともかく、試合観戦にするだけのつもりだったんだし。
 あと、悪意がなければ全て許されるワケでもないんだけどな。

 もはや、誰も松尾象山を止められない。
 誰よりも自分が無力だと知っているのは、主審であった。
 いつもヒドい目に合わされているから、なれているのだ。

「もうムリ…………」
「ああなっちまった館長は――――― 誰にも止められないんだ……」


 おっさん、実感こもりすぎッッッ!
 このセリフ、人生で何度目ですか?
 手馴れている。なじんでいやがる。ハマりすぎだ!

 長田も姫川もさっさと背を向けてマットからおりている。
 チェのマネージャーは主審に引きずられて退場して行く。
 誰もが、松尾象山の前では無力だった。
 丹波も表紙から降ろされているし。
 表紙にすら出てこなかったら、本当に「この人、だれ?」状態ですよ。

 チェは追いつめられている。
 とりあえず、組みついたらヤバい。そう思っているのだろう。
 だが、松尾象山の場合は打ちあったほうがもっとヤバい。
 精神的に追いつめられているチェには、そこがワカっていないのだ。

 たしかに、巨体をいかして戦えば、打撃戦で有利だろう。
 少なくとも梶原程度なら楽勝だ。
 だが、相手は世界の松尾象山である。
 対格差がどれだけ通用するのやら。

(武道家を相手に不用意に襟を摑み――――――)
(不用意に拳を打ち込む……)
(それがどれほど無謀で――――――)
(どれほど危険な行為かを――――――――――――
 君は知らない……ッッ)


 チェの打ち込んだ左拳にあわせて、顔面へのカウンターパンチが決まった。
 一撃で顔が陥没している。
 倒れこむチェを受け止めるかのように、全力のボディーブローを打ちこむ。
 一発!? いや、数発か!?
 とにかく強力な攻撃で、まさに、必殺だ。
 血ヘドを吐いて、チェ・ホマンは倒れるのだった。

 これが松尾象山だッ!
 強い。圧倒的に強すぎる。
 お客さんをタダでは帰さない過剰なサービス精神だ。
 対戦相手も無事には帰さない。

 次回は、決勝戦が始まるんでしたっけ?
 前座で見事に会場の空気を持っていきやがった。
 決勝戦は、いきなりクライマックスからはじまるぜ!


 チェのような巨人が相手だと、パンチの間合に入るのが大変だ。
 攻略法として、自分から奇襲気味に飛びこむという作戦がある。
 だが、巨人に待たれるとカウンターの餌食だ。
 巨人が冷静だとなかなか成功しない。

 ならば、巨人が攻撃するときに生まれるスキを狙ってカウンターという方法がある。
 ただ、巨人のほうがリーチ長いので、よけて飛びこむのは難易度が高い。
 巨人だって安全圏から打っている意識があるので、冷静にジャブが打てる。
 そうなると、スキも生まれにくい。これも簡単には成功しない作戦だ。

 松尾象山は、先にプレッシャーを与えておくことで、チェに手を出させたのだろう。
 そして、武道家らしい必殺のカウンターを決める。
 直前までハンドポケットで偽装し、牙を隠していた。
 殺気を隠しながら、一撃必殺のタイミングをはかっていたのだろう。
 拳を出す前から、喧嘩は始まっていたのだ。

 ところで、チェの出血量が尋常じゃないんですけど、ちゃんと生きているのだろうか?
 なにしろ松尾象山は素手で畳を破る人だからな。(餓狼伝16巻 140話
 牛股師範の大爆発に匹敵する事件になりかねない。(シグルイ9巻 46景
 チェの腹が、石田凡太郎みたいなことになっていないか心配だ。

 でも、松尾象山ならなにをやっても許されるんだろうな。
 丹波だって、表紙を取られたことに文句を言えない。
by とら


2007年9月11日(19号)
餓狼伝 Vol.196

 気絶したチェ・ホマンの巨体は十人がかりで運ばれる。
 実に絵になる構図だ。
 ダウンする曙と互角ッ、いやそれ以上か?

 チェ・ホマンの体は一つの担架にのっていた。
 足がすこしハミ出ているとはいえ、あの巨体をのせている。特注の担架だろうか?
 なんで、そんなものが用意されていた?
 あまりに準備が良すぎる。

 もしかすると、チェ・ホマンにチケットをわたして招待していたのかもしれない。
 そして自分は戦っていないという宣言をして、チェを指名する。
 事後処理も考えて特大担架も用意した。
 すべて仕組まれていたと、考えることもできる。真相はいったい……。

 チェは、鼻が折れ、前歯も二本しか残っていない。
 悲惨なダメージを負ったままチェが退場していく。
 残虐ショーが大好きな観客たちも、思わず静まり返ってしまった。
 アナウンサーですら、フォローの言葉がなかなか出ない。
 なんか公開リンチみたいな状況だったし、100%正当化はムリだろう。

「素人ではありませんよ」
「ホマン氏は」


 姫川が突っこんだ!
 さすが反逆の腰力クール・ビューティー懐刀である。
 普通の人なら怖くて松尾象山には逆らえない。
 ツッコミを入れるにも、姫川ぐらいの戦闘力が必要になる。
 松尾象山も、自分に反対できる人間として姫川を評価していそうだ。
 しかし、視線を合わせずに突っ込むのが、姫川の限界だろう。

 長田は体が震えているのを実感しているが、おもねったりしない。
 姫川の意見に賛成する。
 やはり、チェ・ホマンは韓国相撲の横綱だったのだろう。
 松尾象山は、それを素人だといい、実際に素人扱いした。
 やはり、松尾象山は規格外だ。

 長田も決勝に残るほどの男だ。ゆえに松尾象山の言葉に逆らうこともできる。
 主審が同じことを聞かれていたら「ホマンはド素人です」と答えていただろう。立場も力も弱い。
 松尾象山に「あの白い鳥はカラスだよな?」と聞かれたら、答えは「Yes!」だ。
 返事は「Yes!」「押忍!」の二択しかない。

 チェ・ホマンのマネージャーが松尾象山に抗議をする。
 法的に訴えるつもりだろうか。
 さすがの松尾象山も法律を破壊するコトはできない。
 もっとも、法律を使う人間ならなんとでもできるんだろうけど。

 K-1(?)関係に喧嘩を売ったのも、松尾象山の計画だろうか。
 上手く話を進めれば、因縁戦としてK-1 vs. 北辰館の試合が組める。
 まあ、その前にFAWとの団体戦をどうするか決めなきゃいけないんですけど。
 そもそも、FAWと北辰館の団体戦はちゃんとやるのだろうか?

「四面楚歌かよ……」

 部下、プロレスラー、マネージャーと三人がかりでツッコまれて松尾象山はグチをこぼす。
 だが、その口元には邪悪な笑みが浮かんでいた。
 口しか見えないが、十分すぎるほど邪悪だ。
 この状況を楽しんでいやがる。
 やはり、計画どおりなのか?


「長田よ」
「大きな仕事をした」


 長田の控え室にグレート巽がやってきた。
 決勝前に最後の激励だ。
 鞍馬の存在はなかったコトになっているらしい。
 最初から長田に期待していたよ的な空気に染めあげているあたりが、グレートだ。

 骨折数箇所をかかえる鞍馬はどこで、ナニをしているのだろうか?
 普通に考えたら病院へ直行なのだが、巽がそれを許すとは思えない。
 筋肉バスターの形でイスにしばりつけられて、控え室のスミに転がっていそうだ。
 とりあえず、携帯電話はとうぶん使用禁止だな。

 今回、イエスマンと化している梶原はグレート巽がほめると追従するように長田をほめる。
 FAWで唯一長田についてきた友情あつき男なんだけど、最後の最後で印象が悪くなった。
 オイシイところは全部、自分が持っていく。それがグレート巽流なのだ。
 藤巻に倒され、鞍馬に馬鹿にされ、それでも長田に尽くしてきた梶原がかわいそう。

「腕一本になっても 姫川を叩きつけろ」
「髪の毛 一本になっても 象山を絞め落とせ」


 相変わらず、グレート巽はムチャな要求をするのだった。
 たしかに、アナタは腕一本犠牲にしてサクラを倒したことがある。
 でも、そういうムチャは誰もができることでは無いんだ。

 あ、でも自主的にはできなくても、お仕置きの恐怖があればできるのかもしれない。
 戦死する恐怖より、背後にいる上官への恐怖が勝ると、兵士は死に物狂いで戦うとも言われている。
 巽は、長田の尻に火をつけて、ダイナマイトを背負わせることで、限界を超えさせるつもりだろうか。
 たとえが、即爆死みたいな感じになったけど。

 原作を読んでいる人間ならワカるのだが、このセリフは微妙に伏線になっている可能性がある。
 今後、重要になってくるセリフかもしれない。

「重傷でも負ってこい」
「ダメージは全て新聞に発表させる」

 とんでもない注文がきやがったッ!
 勝って、なおかつ重傷を負えと申すか!?
 普通に勝つより難しい。
 さらに、新聞発表をする段取りまで整えていそうだ。
 逃げ道は、背後と左右には無い。
 勝って進むしかないのだ!

 うっかり無傷で帰ってきたら、巽がダメージを追加してくれるんだろうな。
 卍固めなどで、まんべんなく重傷を負わせてくれるだろう。
 なぜか梶原もつきあいで重傷を負いそうだ。
 友のためにも、防御は甘目にガンバレ!

 なぜか自分も巻き込まれるとカンが告げたのか、梶原は巽に抗議してみようとする。
 だが、一言しゃべる前に巽の圧力に屈するのだった。
 やはり、驚愕・解説役と選手の間には超えられない壁があるらしい。

「ここまではプロレスラーなら誰だってできるんだよ」


 またまた巽はムチャを言う。
 少なくとも、目の前にいる梶原にはできない相談だ。
 って、コトは梶原ってすでにプロレスラーじゃないのか?

 とにかく、姫川と松尾象山の首を取ってこいと長田を激励するのであった。
 これで、本当にモチベーション上がるんだろうか?

 モチベーションは上がらないかもしれない。しかし、巽の激励には理由があるかもしれない。
 巽が圧力をかけたことで、松尾象山の圧倒的な強さの印象がすこし薄まった。
 壁を汚してしまったら、それを上まわる汚れをつければ目立たなくなるの理論だ。
 疵面でいうなら痛すぎて痛くない作戦であり、シグルイなら敗北を臓物でおおい隠す作戦である。
 とりあえず長田の肉体から、松尾象山への恐怖は消えただろう。
 巽への恐怖が生まれたかもしれないけど。

 そして、ついに決勝戦がはじまる。
 天才タイプの姫川と、努力タイプの長田だ。
 美形の姫川と、華のない長田でもある。
 対照的な二人がついに激突するのだ。

 当然、俺は長田を全力で応援するぜッ!
 狙うは顔だ。
 姫川の顔をチェ・ホマンみたいな状況にしてやれ!

 次回につづくのだが、次号はお休みなので戦いは十月からとなる。
 最近、休載が多いですね。
 板垣先生は、ピクル以外にもなんか企画を立てているんでしょうか。
by とら


2007年10月9日(21号)
餓狼伝 Vol.197

 ついに決勝戦だ!

 長い。長かった。
 試合開始に先立って長田が道着を脱いだのが110話、2002年12月3日のことである。
 約五年が経過しているのだ。
 その間に、餓狼伝はBOYだったり、雑誌が休刊になったり、イブニングにひろわれたり、ゲームが出たりした。

 この間、丹波文七はほとんど放置だ。
 今までの197話で、87話以上も表紙だけの人になっている。
 以前のことを考えると、出番なんて50%以下だろう。ものすごくヤバい状況だ。
 なお、丹波と聞いて、誰のことかワカらない人は、気にしなくても大丈夫です。

 そして、決勝戦が開始(はじ)まる。
 戦うのは、長田 弘(プロレスリング183cm・123kg)と姫川 勉(北辰会館 186cm・87kg)だ!


 まず、アナウンサーは空手の歴史を語りだす。
 嵩山少林寺の健康法・易筋行(えっきんぎょう)が空手の源流となる。
 琉球(沖縄)にて、巻ワラを使用した鍛錬で、手足を武器化し、呼吸法で五体を鎧化する。「手(てい)」の完成だ。
 大正十一年(1922年)船越義珍が「手」を日本で演武し、日本の空手がはじまる。

 一般的な空手の歴史である。
 達磨についての言及が無かったのは、ちょっと残念だ。
 まあ、達磨は実在と伝説が混ざっている人なので、説明しなかったのだろう。

 なんにしても、拳を使って戦う武術である空手が誕生した。
 そして、第二次大戦後に歴史を変える偉大な空手家が現れる!

『戦後 天才空手家 松尾象山の登場』

 松尾象山により、空手は実際に殴りあう武術へ変わった。
 実戦化でもあるのだが、同時に試合をするためスポーツ化した面もある。
 どちらにしろリアルの舞台に空手を呼びこんだ存在が松尾象山なのだ。(餓狼伝の世界では)

 その偉大なる松尾象山が直前でルール変更したのが、この大会だ。
 オープンフィンガーグローブを使用して、顔面への打撃も関節技・投げ技も解禁した。
 直前に変更するなんて、空手の選手たちには良い迷惑なんだろうな。
 自分に厳しく、人に厳しく、弟子に厳しく、審判にはひときわ厳しい、松尾象山であった。

 勝ち上がったのは、長田と姫川だ。
 プロレスラーの長田は、総合格闘技ルールに近いこの戦いに慣れている。
 空手の大会を勝ち抜くことができたのは、ルールのおかげと言う面もあった。
 しかし、倒してきた相手はグローブ空手、金メダリスト柔道家、超重量級の空手家、 天災 天才プロレスラーと多彩な顔ぶれだ。
 ルールだけではなく、長田に実力があったからこそ勝ち残れた。

 対する姫川は、試合に出たことのない異端の空手家だ。
 ルール無き路上での戦いを多く経験する、本物の実戦空手を使う。
 関節や投げに対する対策もバッチリだ。
 ほぼ無傷で決勝までやってきた実力者である。

「2人とも」
「本当によくここまで登ってきた」
「君らよりはるかに未熟なわたしだが精いっぱい務めさせてもらう」


 ここにきて主審が感謝した!
 今まで松尾象山に脅され、鞍馬に切られたり殴られたり、酷い目にあってきた人だ。
 そんな主審だって空手家である。
 選手たちの強さと、強さを支える才能・努力に敬意を抱いているのだろう。

 主審なんて脅されたり負傷したりする損な役目だ。(普通はそんなことないけど)
 しかし、この主審は選手たちの戦いをイチバン近いところで見ることができると感謝しているのだろう。
 酷い目にあっても、主審は空手家としての志を忘れていない人だ。
 今までネタにしてイジってきたけど、今回は主審に感動した。
 でも、感動とネタは別腹なので、今後もイジると思います。

 しかし、名前も出てこないのに、こんなイイ人になっちゃって……
 ……死亡フラグじゃないよね?
 決勝戦は、巻きこまれた主審が死亡した時点で無効試合になるというオチかもしれない。
 それなら松尾象山の試合も無かったことになるし。
 松尾象山が出てくるには、まだ早いでしょ。

 そう考えると、本気で主審が心配になってくる。
 天才を相手にする長田や、秘策で狙われている姫川よりも危うい。
 活躍率50%以下の丹波よりもヤバそうだ。
 松尾象山が動いたとき、主審がどう対応するかで、エンディングが変わるだろう。


 そして、主審の声で試合がはじまる。
 これが主審、最後の仕事だったりして。
 決着を告げる「一本」は、ついに主審の口から発せられることはありませんでした……

 長田は極端に腕を上げて構えている。
 頭部をガードし、胴体への攻撃は耐える姿勢だ。
 打たれ強いプロレスラーならではのファイティングポーズである。
 腰を落とし、投げや組つきを狙っているようだ。

 対する姫川は、構えない。
 ちょっと気取った感じで立っている。
 足はそろえられており、動きにくそうだ。
 次の動作へうつりにくい。という事は、相手も動きを読みにくいのだろう。
 最小限の動きで、一撃必殺を狙うのが姫川の狙いか?


(長田よ)
(使用(つか)えッッ)


 カーテンのカゲから藤巻十三が見てた。
 呼吸も荒く、大量の汗をかいている。
 さすが熱帯性ストーカーの呼び声高い藤巻だ。
 ものすごい温度と湿度を出している。
 悲しく滑稽なほどの熱帯性だ。
 しかし、アンタまだ息を乱していたのか。

 追われる身なので、大っぴら応援できない身の上である。
 しかし、もうちょっとスタイルを考えてはどうか。
 藤巻は隠れたり変装したりすると、かえって目立つような気がしてならない。

 あれだけ汗をかいていると、カーテンが濡れて色が変わりそうだ。
 変色していくカーテンに気がつかれたら、また警察と追いかけっこになってしまう。
 ニオイも気になる。
 もともと獣臭の持ち主だし、スルメに似た酸っぱいニオイを発していそうだ。
 女性読者受けを狙ってオサレに言い直せば、スルメのスメルである。
 藤巻の敗因は変色か? それとも、異臭か?

(好きなだけ打ってこい姫川ッッ)
(ただし最後に極めるのは俺だッッ)
(奥技 虎王をッッ)


 長田は虎王による逆転を狙っている。
 "極める"と言うからには、関節を極めることが狙いだ。
 まさに打撃と関節の戦いとなっている。
 果たして、虎王は極まるのか!?
 次回へつづく。


 長田は頭以外を撃たせて捕まえる作戦だろう。
 しかし、姫川はよけいな攻撃をしない男だ。
 おそらく長田のスキをついて、頭部へ攻撃することを狙っている。
 両者とも、スキを狙いあう動きの少ない展開になりそうだ。
 そうなると、観客に魅せる試合をするプロレスラーの本能がジャマになるかもしれない。
 長田は追い込まれていきそうだ。

 そして、長田のピンチは藤巻のピンチでもある。
 餓狼伝18巻162話を思い出していただきたい。
 長田のピンチを見た藤巻は、変装を脱ぎ捨ててしまった。
 今度はカーテンを破り捨てそうだ。

 布の破れる音がして、背後を振りかえる。
 すると汗だくマッチョが、プルプル震えながら怒っているのだ。
 少年部のガキだって、この人間が不審者だと理解(わか)るだろう。
 藤巻の命運は、ここで尽きる。

 長田は自分とFAWだけではなく、藤巻の運命も背負っているのだ。
 とにかく、ガンバレ。
 それと、主審もガンバって生き残れ。


追記 (07/10/10)
 上で、主審の名前が出ていないと書きましたが、これに関して掲示板で冷奴さんとキャベジさんから指摘を受けました。
 餓狼伝15巻 130話にて、主審の名前は『藤村』であると判明しています。
 情報ありがとうございました。
 これで、主審・藤村も心置きなく退場できますね(E〜〜

 今の状況で、「俺、トーナメントが終わったら結婚するんだ」とか言いだしたら、本当に死にそうで怖い。
 または「俺、トーナメントが終わったらムエタイ勉強するんだ」と言いだせば、別の意味で死亡しそうだ。
 無難な発言をして、生き残るんだ!
 でも、選手に近い位置にいるため、巻き込まれたら終わりである。
 誰よりも運が必要な状況だ。
by とら


2007年10月23日(22号)
餓狼伝 一回休み

 最近の餓狼伝は休載が多い。
 ただでさえ月二回の連載だけに、休まれるとさびしさも倍増だ。
 そんなワケで、雑談でヒマをまぎらわす。

 板垣先生は範馬刃牙が新展開になっているので、忙しいのかもしれない。
 そう考えていた時期が俺にもありましたが、餓狼伝そのものの展開に悩んでいるの可能性もある。

 長田 V.S. 姫川の決勝戦は『餓狼伝VII』に収録されている。
 作中の試合時間に対し、描写される文章の量は意外と少ない。
 例によって夢枕節とも言える心理描写は多いが、試合はあまりハデに動かないのだ。
 はたしてムチャする漫画家・板垣恵介がこの展開で良しとするだろうか?

 過去の餓狼伝では丹波文七 V.S. 堤城平が非常に盛りあがった。
 密度の濃い格闘描写に加え、夢枕節な心理描写も存在し、幕切れの『虎王』も決まっている。
 だが、過去の作品をいつまでも愛でている板垣恵介ではあるまい。
 次の作品こそ最高傑作だといったオーソン・ウェルズのように、次の戦いこそ至高にするつもりだろう。(参考「達人烈伝」)

 なにしろ夢枕先生は新・餓狼伝で、長田の試合をやる予定だ。
 板垣先生も負けられない。
 俺の長田のほうがもっとスゴイんだ対決を大人気なくやるだろう。

 少なくとも夢枕先生は、そうとう意識している。
 漫画版で堤が活躍したら、長い間放置していた堤を復活させた。
 長田が活躍したら、出番の少ない長田を前面に出す。(次巻が見せ場)
 力王山の死に様を先に描かれたら、もっとスゴイ死に様を書く。
 勢いあまって、その場で死ななかった。

 さらに、原作では丹波のライバルであり続けていた梶原の影も薄くなる。
 そこは対抗しなくても良かったのでは……
 まあ、とにかく、作者たちは互いに意識しあっているようだ。


 さて、なぜ原作の『長田 V.S. 姫川』が動きの少ない展開になったのか?
 イチバンの原因は姫川だ。
 姫川は天才設定なので、たいていの相手を一撃で倒す。
 またほとんどの攻撃をよける。
 だから、試合展開が同じになってしまう。

 長田は攻撃してもよけられるし、ガードをかためないと一撃で倒される。
 ひたすらガードしつつ前進するしかないのだ。
 心理描写で苦闘を表現できる小説なら、それでも問題ないかもしれない。
 だが、漫画にすると たぶん三話ぐらいで終了してしまう。

 板垣イズムとしては、互いに殴り合って出血する展開が望ましい。
 刃牙の0.5秒攻撃 → オリバのパックマン → 剛体術 → 捕食 → 鼻攻撃
 上記のように、交互に攻撃するのが基本パターンだ。
 ひたすらガードしていてはストーリーにならない。

 これでは、内藤大助 V.S. 亀田大毅のような状態になってしまう。
 もしかして反則行為が姫川対策なのか?
 そんな長田は見たくない。

 長田の狙いは『虎王』だが、姫川が蹴りキャラと言う点も問題である。
『虎王』を出すには、パンチキャッチが必要なのだ。
 しかし、姫川は蹴りしか出さない。
 これでは永遠に『虎王』は不発のままだ。
 チャンスが少ないから、なかなか長田が積極的に動けない。

 いっそうのこと、変形『虎王』で、キックキャッチ技に進化してみたらどうか?
 蹴りをつかんで、アゴに該当する場所(股間)にヒザを打ちこみアキレス腱固めに移行する技なんてどうだろうか?
 たぶん、反則とられますが勝ちは勝ちだ。


 なんにしても、繊細な味わいの懐石料理をどうアレンジして、濃厚な料理に変えるのかが見ものだ。
 いきなり姫川と長田が打撃戦をはじまるかもしれない。
 それとも高度な関節技の応酬になるだろうか?
 打撃だと、姫川が一撃必殺をやりかねないが、関節なら長田がかなり有利だ。

 なんにしても、長く続いたトーナメントの決勝戦なのだ。
 今までの試合の総決算である。
 素晴らしい試合を見せて欲しい。
 その間、二秒だったりしたら、マジ泣きする。
by とら


2007年11月13日(23号)
餓狼伝 Vol.198

 Fist or Twist ! 拳か関節技かッ!
 至高の空手家・姫川勉と究極のプロレスラー長田弘が激突する。
 いや、なかなか激突しないッッッ!
 前号は休載で、次号も休載だッ!

 開始と同時に長田はガードをかためる。
 頭部のみを守る変則のガードだ。
 ちょっとボクシング亀田流のスタイルににている。不吉な……

『ガラ空きです』
『なんとガラ空きなのでしょう』
『鳩尾(みぞおち)ッ 肋(あばら)ッ 脾臓 心臓そして脚(あし)ッ』
『多数の急所が点在する胴体が顔の正面に晒(さら)されているのですッッ』


 両腕は頭部を守り、前かがみになった。
 ボディーを相手から遠ざけることで防御になっている。
 頭も体も守ることができるスタイルだ。
 ただし、蹴りのある空手では穴のあるスタイルである。
 腕は届かない。しかし、蹴りならボディーに届く。

 アナウンサーの言うとおり、ボディーと脚が無防備だ。
 こんな前かがみでは、足を上げてローキックをカットすることも難しかろう。
 細かく蹴られると確実にダメージが増えていく。
 守りを捨てた守りだ。
 だが、それがいい。

『すなわち――――ッッ』
『苦痛(いた)みでは倒れないッッ』
『苦痛(いた)みなら耐えてみせるッッ』


 意識を体外に飛ばされる頭部への打撃は絶対に防御する。
 そのかわり、脳震盪を起こさない首から下への攻撃には耐える。
 不器用な戦術だ。
 犠牲を覚悟で頭部だけは守ろうとしている。
 足を蹴りつづけられたら、起き上がれなくなりそうなんだけど。大丈夫か?

 戦っていないのに、長田は汗をかいて息を乱す。
 来るべき打撃と痛みを予測して緊張しているのだろう。
 まるで、藤巻十三がのりうつったかのようだ。
 姫川と相性の悪いスタンドだな〜。応用は効きそうだけど。

 長田は腕を前に構えていない。
 頭の横で構えている。
 フックや廻し蹴りなど、横から来る打撃に対応しているのだろう。
 横からの攻撃はKO率が高い。
 威力自体はストレートのほうが大きいのだが、脳をゆらす角度なのだ。(参考:吉福康郎「最強格闘技の科学

 長田の構えは横からの攻撃に対する意味もあるのだろう。
 だが、相手に与えるプレッシャーも考えていそうだ。
『ボクシングでも』『グラブを前に出せば相手は下がり、手前に引けば近づいてくる』激闘達人烈伝
 長田は姫川をフトコロに引きこみ接近戦を挑むつもりだ。

『命に付く名を「心」と呼ぶッ』
『ならば決意に付く名は「この構え」だッッ』


 長田の決意を読み取ったのか、アナウンサーも大興奮している。
 本来なら敵対組織の人間だから悪く言ってもおかしくないのだが、過剰なぐらいほめているな。
 もしかして、姫川って北辰会館の中で浮いた存在なのか?
 まあ、好かれているとは考えにくいけど。

 一方の長田は根性で戦う姿にファン(男性限定)急増中なのだろうか。
 対戦相手と いつのまにか仲良くなるのが主人公というものだ。
 グラップラー刃牙・最終巻369話のように皆に祝福されてこそ主人公だ、
 最近の刃牙は、祝福されているのだろうか……


『動きませんッッ』
『うかつには動きません両雄ッッ』


 長い対峙がつづく。
 しかし、二人は動かぬ。
 長田は自分の体をオトリにしている。攻撃してくる姫川をキャッチする気だ。
 もちろん、姫川もワカっているのだろう。
 仕掛けたほうが不利になるので、試合は膠着している。

 一見、互角の状態だ。
 しかし、長田は追い込まれている。
 涼しい顔をしている姫川とちがい、長田は汗を流しているのだ。
 向き合っているだけで、体力を消耗している。
 たぶん運勢も消費していると思う。パチンコの玉がどんどん無くなっているような状況だ。

(怖いのだな姫川)
(この俺をッッ)


 しかも、なんか変な自身もっちゃっているッ!?
 長田だからまだマシだけど、梶原あたりが同じこと言ったらアウトだ。
 ページをめくったら惨劇が待っていると約束できる。
 だが、長田なら。長田ならば、あるいはッッッ!

 長田は勝ちに対する執念を見せようと一歩踏みだす。
 なにか追いつめられた者の思考かもしれない。
 夢枕世界では、膠着した状況から先に動いたほうが不利になる。
 やはり、長田は精神的に追いつめられているのだろうか?

 踏みだした長田の足が宙に浮いている瞬間を狙い、姫川も動いた。
 鋭く深く、踏みこむ。あまりの速さに上半身が見えない。
 そして、右拳が長田のアゴを撃ちぬいていた。
 両腕の間にできた隙間を狙われたのだ。

 糸が切れた操り人形のように、長田の上半身が落ちる。
 長田弘、何もできずにノックダウンするのか!?
 次回へつづく。


 長田、まさかの不覚だ。
 藤巻とか梶原など、熱くて暑すぎる男たちの力をわけてもらいすぎたのだろうか。
 なんか熱がカラ回りしている感じだ。
 このままじゃ、姫川を捕まえても、自分の汗ですべりかねない。

 姫川の上半身は激しく動いているが、下半身はあまり動いていない。
 通常は地面に接している部分がイチバン動く。車だと車輪がイチバン動いているように、だ。
 姫川の場合、後ろ足を固定して上半身が倒れるように動いたのだろう。
 自分の体が沈む動きを横方向に変えたのだ。

 筋肉は特に使っていないので、予備動作が少なく動きを読みにくい。
 武術研究家の甲野善紀氏の理論にもよく出てくる技術だ。
 銃夢LOAA)によると、中国拳法では沈墜勁というらしい。

 理屈はともかく、中国拳法が出典なら勝ったも同然だ。
 昔から『料理と格闘では、近代科学より中国四千年』といいます。今考えましたが、たぶん昔からの法則だ。
 難しい漢字が出てきた時点で、民明書房を持ち出すまでもなく説得力満点である。

 長田が動き出す瞬間を読み、それにあわせて読みにくい動きで攻撃したのだろう。
 ここまで高度なカウンターを出されちゃ、打撃のニガテな長田にはキビしい。
 オマケに横からの攻撃を警戒している長田に対して、ストレートで攻撃した。
 二重三重に相手の読みを外した攻撃である。
 これは本当にキビしい。

 パンチ待ちの状態だったら、姫川のストレートに虎王をあわせて、倒していたかもしれないのに。
 虎王を警戒しているから姫川にストレートのパンチは無い。そう油断していたのだろうか。
 もしかすると長田のダウンは偽装で、倒れる動作をしながら足にタックルを仕掛けている可能性もある。
 あればいいな……

 そして、次号はお休みだ。
 前号で板垣先生が餓狼伝の展開をどうするのか悩んでいるのではないかと書いたが、本当かもしれない。
 いきなり原作クラッシャーな展開なんですけど。
 次回、長田の敗北にブチ切れた藤巻が先祖帰りを起こして、藤巻ピクルとなり冴子と交尾してもおかしくない状況だ。
 いや、それはおかしい。

 なんにしても、長田はこんなところで倒れる男ではないはずだ。
 アレは長田に変装した梶原だという理由づけでもしないかぎり、納得できない。
by とら


2007年11月27日(24号)
餓狼伝はお休みです

 198話感想の追記です。

 アナウンサーが長田の構えにコメントした。
『命に付く名を「心」と呼ぶッ』
『ならば決意に付く名は「この構え」だッッ』

 は、中島みゆき命の別名』(AA)の歌詞からきているそうです。
 メールで吉川さんから、掲示板で無名さんから、教えていただきました。
 情報ありがとうございます。

 板垣先生と中島みゆきとの間には今日も冷たい雨が降るような関連性の無い感じがある。
 だが、板垣先生の『好きなBGMは中島みゆきなど』だ。(グラップラー刃牙14巻 巻末より)
 暗い歌のおおい中島みゆきだが、長田の未来も暗いのだろうか。
 ……キレイにまとまりませんでした。


 姫川の上段突きについてKAZ.さんにメールで情報をいただきました。
姫川がやったのは以前JKFanで特集されていた高速上段突きかも知れませんね、姫川は元々伝統派出身らしいし。
http://higaki.info/page014.html
ひょっとして刃牙の0.5秒以内のパンチも…?
 落下する動きを横方向にかえるというのは、いくつかの武術にある動きのようですね。
 技術流出を防ぐため、昔は難しい言い回しをしたと思われます。
 将来的には『気』なんかの概念もわかりやすい説明になるかもしれません。

 技術流出と言うと、竹宮流の『虎王』がマジやばい。
 丹波が全国ネット(?)で公開しちゃった上に、長田もやらかしそうだ。
 もう、試合でも喧嘩でも使えませんよ。
 きっと餓狼伝世界のYouTubeやニコニコ動画に『虎王』がUPされまくっている。


 長田はこのまま倒れてしまうのだろうか。
 今のままだと、姫川に組みついても逆にバックドロップで返されそうな気がする。
 姫川は相手の得意技を自分が使って倒すのが好きな、天才的サディストだ。
 きっと、藤巻を倒すときはストーキングで倒す。

 その姫川が打撃で長田を倒すとは考えにくい。
 意識が朦朧としている長田を抱えて、キン肉バスターをかけるぐらいの暴挙はする。
 きっと、その油断が命取りになるだろう。
 なって欲しい。

 次回、ダウンした長田が自分に都合のいい妄想を見ていたら、アウトだ。
 みんなから祝福されて、社長のグレート巽に「お前は俺を超えたよ」と言われたりする妄想は、梶原がかわりに見ておけ。
by とら


2007年12月10日(1号)
餓狼伝 Vol.199

 餓狼伝の世界で、アゴを打たれてはいけない。
 コメカミもダメだが、アゴがイチバン危険だ。
 とりあえず顔面を打たれてはいけないと憶えておこう。
 まあ、当たり前のことなんですけど。

 ところが、長田はアゴを打たれてしまう。
 巨人やムエタイだったら即死になる攻撃だ。
 梶原クラスの撃たれ慣れしている人間もヤバい。
 瞬時に長田の意識は飛んでしまう。
 目から瞳孔が消え、眉毛の色がぬけている。


 長田の意識は現在から過去にうつった。
 まだ若い長田の姿が見える。
 髪を染めて ヒョウ柄シャツという、チンピラ系ファッションで自分らしさを演出だ。
 学ランを着たツレと飯を喰っている。
 悪びれることもなくビールのおかわりをたのむ。
 かなりの問題児らしい。

 長田の後ろに座っていたのが、たまたまプロレスラーだった。
 若き日の川辺だ。
 イブニングからの読者には誰かワカらないだろう。
 アッパーズからの読者も覚えているかどうか危うい。

 引退した名プロレスラーであり、現在はFAWの鬼トレーナーをしている男だ。
 ブラジルに居たグレート巽をプロレスの世界に引き入れたのも川辺である。(原作・餓狼伝XII
 ナイフで刺されても、けろりとしていた男だ。
 屈強な肉体を持ったプロレスラーである。
 この時間では現役選手のようだ。

 長田は背後にレスラーがいると知りながら「八百長だろ」と言う。
 腕にそうとうの自信がありそうだ。
 怖いもの知らずと言えるかもしれない。

 プロレスラーは舐められるワケにいかない。
 川辺と長田は店の外で対峙する。
 座っているとワカらなかったが、川辺の体はスゴい筋肉だった。
 Tシャツが筋肉ではちきれんばかりだ。
 まさにプロレスラーの肉体である。

「謝る気はねェよなァ」
「……ンじゃ」
「おっぱじめようや」


 プロボクサーにも勝ったことがあると豪語する長田だが、今度の相手がタダ者ではないと感じている。
 だが、長田は前に進んだ。
 このシチュエーションは、丹波文七16歳が餓狼に目覚め前に進んだときと同じである。餓狼伝11巻 85話)
 恐怖を感じつつも前進して喰らいつくのが餓狼の道だ。
 って、コトは虎王完成フラグなのか?
 ならば勝てる。勝てるよ、長田ッ!

 現在の長田はひとまず置く。
 過去の長田はパンチを入れても状況が改善しない。
 冒頭で顔面を殴れば勝ちと書いた。
 しかし、殴ってはいけない場所もある。

 たとえば、額は硬いので殴ると手を傷める。
 そして、鼻だ。
 もちろん殴ればダメージになる。
 しかし、鼻血がでないと不発あつかいだ。
 鼻血は汗と同じぐらい重要なアイテムである。

 長田のパンチは、川辺の鼻に当たったが、血が出ない。
 これは不発だ。
 せめて汗ぐらい流してもらわねば、殴った意味すらない。
 むしろ殴った長田の手がビリビリしている。
 やわらかい鼻を殴ったのに、このザマとは……

「ほう…」
「強ええな」


 川辺には長田の打撃をほめる余裕すらある。
 さすが打たれ強いプロレスラーだ。
 きっと殴られても鼻血を出さない特訓をしているのだろう。
 もちろん試合中は出してもOKだけど。

 ゴシャ

 長田の鼻に頭突きをかましたッ!
 額のキズはダテじゃない。
 今までイロイロなものに打ちつけて鍛えた額である。
 シロウト学生の鼻が耐えられるわけもない。
 盛大に鼻血をふいた。
 コイツは、鼻血 一本ッ!だ。

 一撃で長田のヒザは崩れ、白目をむいている。
 この一撃で勝負はついた。鼻血も出ているし、これ以上ナニを出せというのか。
 だが、川辺はダウンを許さない。
 長田の頭をつかんで、さらに頭突きをくりかえす。

 拳とはちがい、丈夫な頭部で打撃をおこなう。
 明日の巡業にも影響が出ない攻撃だ。
 えげつない。

「やめ……ッて」
「死んどるからッ」
「もう死んどるって」


 川辺の攻撃が、いつまでも止まない。
 長田のツレが泣きついて止めようとする。
 見すてて逃げだしたりしないあたり、長田との友情度が高そうだ。
 BOYだったころの、丹波君なら舎弟が全員逃げ出していたんだろうな。

 ただ、勝手に長田を殺すのはどうなんでしょうか。
 死んだことにして逃げるつもりかもしれないけど。

 死んではいないが、長田はまんべんなく顔を打たれている。
 ほとんど原型が残っていない。
 途中から梶原と入れ替わっていたとしても、判別できないだろう。

「これだけやっときゃ……」
「プロレスと喧嘩して勝ったと言っても―――」
「誰も信用せんわなァ…」


 プロレスラーはリングの外で負けるわけにはいかないッ!
 と言うわけで、徹底的に長田を痛めつけたのだ。
 でないと、川辺が社長に痛めつけられる。
 力王山&グレート巽と、二代つづけて厄介な社長に仕えたものだ。
 この辺は夢枕獏テイストの展開である。

 ただ、さすがにシロウトをボコりすぎると訴えられる。
 だから川辺は最初に自分を殴らせた。
 夢枕作品だと、契約書を書かせて、ジワジワと関節技を極めるのが王道です。
 漫画版ではより打撃が重視されているのだろう。


 プロレスに敗北した長田は、翌日プロレスに入門する。
 頭を丸刈りなった。
 床が汗で水たまりになるほど、スクワットを繰り返す。
 すべては強くなるために。

(強くなるための―――)
(二度と泪(なみだ)しないための―――――――)
(道ッッ)


 こうしてプロレス馬鹿・長田弘が誕生する。
 腹には たるみが残り、手足も細い。
 鍛えていない少年の身体は鍛錬を重ね、プロレスラーの肉体に変わる!

 意識が残っていなくても、肉体は鍛錬を憶えている。
 プロレスにささげてきた人生だ。
 意識はなくとも、身体が動くッ!
 倒れながら、長田の右手が姫川の手首をつかんだ。

 姫川の打撃が筋肉の動きが少ないノーモーション攻撃ならば、長田の動きは無意識のノーモーション攻撃だ。
 さすがの姫川もコイツは読めまい。
 倒れれば一本負けという最大のピンチの中でつかんだ、最大のチャンスだ。
 長田弘が己の身体に刻んだプロレスを、今度は姫川の身体に刻み込め!
 逆転なるか!? 次回へつづく。


 長田のプロレス秘話が語られた。
 これも原作に先んじた展開である。
 短いながらもインパクトのあるエピソードだ。
 対抗して夢枕獏が、もっと濃い話を考えそうだな。

 だが、相手は天才・姫川勉だ。
 組みついたと言っても油断できない。
 引っ張り込もうとする長田に、関節技を仕掛けるぐらいはする。
 無意識の攻撃は速い。
 だが、相手の狙いを見抜いて技に入るのを中止するようなことはできないのだ。
 無意識の攻撃にも落とし穴がある。

 オリバも愛読している『ユーザーイリュージョン』によると、「撃とう」と意識する0.5秒前から肉体は「撃つ」動作を始める。
 だから、意識して撃つよりも無意識に撃つほうがスムーズに動けるのだ。
 肉体が動いてから、意識が芽生える。
 しかし、動こうとする肉体を意識で止めることはできるのだ。
 意識は肉体が動きはじめたあとに発生するが、完全に肉体が動く前に止めることができる。
 モーゼの十戒の戒めである「○○してはいけない」のように、人間の論理は禁止が多いらしい。
 たぶん、フェイントに引っかかるのは無意識の行動だけど、フェイントを見破るのは意識の制止なのだろう。

 長田が無意識で攻撃するのはいい。
 だが、いまの彼はブレーキが壊れている。
 すこし押してやれば、簡単にコースアウトする状態なのだ。
 ピンチはまだ続いている。

 そして、次回も休載だ。
 板垣先生は12/9に本気でボクシングの試合をするらしい。
 詳細は不明だが、長田だけではなく作者もピンチだ。

 今回も藤巻は出てきていません。
 ラストで長田が姫川を捕まえた瞬間、喜びのあまりカーテンを引きちぎっていないか心配だ。
 藤巻のツンデレ系ストーキングも、ブレーキが壊れている。
by とら


2008年1月8日(3号)
餓狼伝 Vol.200

 長田が姫川の腕をつかんだ!
 序盤からいきなりアゴを打たれて、失神のピンチをむかえていた長田である。
 しかし、逆転のチャンスはまだあるのだ!
 決勝戦は最初からクライマックスだぜ。

 大量の汗を流しながら、藤巻もカーテンの陰で応援している。
 空手家など、捕まえてしまえばこっちのものだ。
 だが、長田の眼は白いままである。
 まだ意識が戻っていないらしい。
 この状態から技をかけることができるのか!?

 無意識に姫川の腕をつかんでいるのだから、無意識に投げることもできるかもしれない。
 そもそも、人間の体は無意識で動いているらしいし。

(肉体(からだ)が――― 強靭(プロレス)ッッ)
(精神(こころ)が――― 強靭(プロレス)ッッ)
(あるいはそれら全てが――――――)
(強靭(プロレス)ッッ)


 意識が無くとも戦いをやめない長田に、さすがの姫川も驚愕した。
 でも、汗を流していないのはさすがだ。
 『強靭』と書いて『プロレス』と読むなんて、余裕がある or テンパっている の、どちらだろうか?
 姫川は、こっそり『松尾象山』と書いて『モンスター』と呼んだりしていそうだ。
 丹波文七と書いてデバンナシとか。

 倒れない長田に脅威を感じたのか、姫川はダメ押しのローキックを放つ。
 相手は意識が無いんだから、逆に腕をとって極めても良い。だが、打撃だ。
 やはりプロレス相手に組みつきたくないのだろう。

 長田は意識を失っても動きつづける。
 心を折るのではなく、体を破壊する作戦にきりかえたのだろう。
 失神して筋肉が弛緩していればボディーへのダメージも致命的なはずだ。
 だが、手をつかまれているので、体への攻撃がやりにくいのかもしれない。

 長田にとって幸運な状況だ。運も味方につけたか。
 まちがってズボンを掴んでいたら、姫川の下半身を露出させるのが精一杯だったろうし。
 空手大会だと決まり手『もろだし』は無いしな。
 (注:相撲でまわしがとれると負けになりますが、決まり手は『もろだし』ではありません。参考
 まあ、もろだしになれば、グレート巽の一人勝ちなんだろうな。

 ローキックで相手を倒せば一本になるかもしれない。
 技ありや有効でもポイントがつけば、いったん開始線にもどって、つかまれた状態から解放される。
 そういう意味でも相手を崩しやすいローキックは、正解だった。
 筋肉づくしの中ですっごく爽やかだ。

 姫川の蹴りで、長田が目覚めた。
 ちゃんと黒目が戻ってきている。
 虎眼先生でも、この状態なら会話が成立する状態だ。
 成立しているようで、なかなか成立しないのだが、一方的に怒られたりできる状態である。

 とにかく、長田は目覚めた。
 さっそく 藤巻が熱く激しく応援する。
 隠れなくてはならない立場なのになんという熱い応援か。
 塩漬けになった原始人だって目覚めてしまいそうな迫力だ。
 冬眠できずに狂いまくっている熊が醸しだす野性の獣臭にも似たデレ臭を周囲にまきちらしている。
 10分以内に警察にバレるぞ、これは。
 長田はチャンスだが、藤巻がピンチだ。自業自得だけど。

 姫川が空いている腕でパンチを打つ。その瞬間に長田はつかんだ腕を引いた。
 打撃のため重心が前に移動した瞬間に引っぱられてはたまらない。
 体勢が崩れ、姫川の身体がおよぐ。
 崩れたバランスを保つため、姫川の体は攻撃も防御もできない状態だろう。
 今、この瞬間は完全防御の姫川もよけることができない!

「今ッッ」

 藤巻さん、声出しちゃダメッッ!
 だが、長田の見せ場で藤巻が自分をおさえられるワケもない。
 隠れなきゃ。でも、声が出ちゃう! という状態だ。
 藤巻がこの状況下で新手の萌えを開発して行く。

 なんども練習を重ねた竹宮流である。
 雨の日も、風の日も、夢精した日も欠かさず鍛錬した。(餓狼伝13巻 104話
 鍛錬の成果が、コレだッ!

 右足で姫川の頭部をロックし、左ヒザで下から蹴りあげる。
 両脚で相手の頭部をはさむ。まるで虎の顎が噛み付くようにッッッ。

『その名も―――』
『虎王!!!』

 虎 王 完 成ッ!
 ヒザの後に、肩を極めつつ顔面から落す。
 複合的な要素が組み合わさった、一撃必殺の技だ。

(やったッッ)
(確かに……)
(折ったッッ)


 折ったというか、肩を外した!
 虎王が完全に決まったのだ。
 これは、長田の勝利か!?

 技をとき、立ちあがった長田の全身を大歓声が打つ。
 今までは気絶していたり、技の途中だったりで、周囲の音が届いてなかったのだろう。
 水中から浮かび上がったように、世界の音が鳴りはじめる感覚だ。
 長田は戦闘モードから通常モードに切り替わった。

(見たか……ッッ)
(藤巻ッッ)
(梶原……)

 藤巻の姿をさがすように、長田は観客席を見る。
 観客席には藤巻がいない。だが、長田は知らないのだ。
 だが、どこかで藤巻が見ていると確信しているのだろう。
 竹宮流が姫川を倒した瞬間を、藤巻に見せることができた。

 そして、梶原だ。
 梶原は二番目です。
 藤巻の次だ。
 二人の優先順位には、こえられない壁がある。

 梶原はセコンドにいるので簡単に見つかった。
 なんか見苦しい顔をしている。
 リアクション芸人が熱々おでんを口にいれた表情みたいだ。
 なにをやっているんだ、お前は。

「立つな馬鹿ァッッ」

 ぞく…
 梶原の言葉を理解した瞬間、長田の汗が上に流れた。

 まるで姫川に虎王を喰らう瞬間の畑のような反応だ。(餓狼伝21巻 192話
 ふりかえると、姫川が立っていた。
 鼻から大量に出血しながらも、口元にはいつもの笑みが浮かんでいる!

 試合はまだ終わっていない!?
 ホラー映画のようなヒキで次回につづくのだった。
 そして、次号も餓狼伝はお休みだ。
 本当に月イチ連載になってるな。


 油断大敵の長田であった。
 姫川があっさりと虎王を喰らったのは、強引な攻めが原因だ。
 めずらしく荒い攻撃をしかけて、穴を見せた。
 喰らったダメージから考えると、わざと喰らったワケではないだろう。
 立てただけでも奇跡だ。

 長田の見せた虎王は飛びかかり式のものだ。
 丹波が使用した虎王はカウンター式なので、技の入りかたがちがう。
 藤巻が松尾象山に使用して不発に終わった虎王は、自ら飛び込んでいたので、長田に近い。(餓狼伝4巻 22話)
 長田は藤巻から教わったので、同じタイプなのかもしれない。

 藤巻の虎王は松尾象山が知っている。
 とうぜん姫川も知っているのだろう。
 何らかの攻略法を考えていた可能性は高い。
 一見、決まっているように見えた虎王だが、わずかに外され浅かったのかもしれない。
 それゆえ姫川は立ち上がれたのだ。

 必殺の虎王を喰らい、理由もなく立ちあがれない。
 姫川が無事だった秘密は次回あきらかになると思われる。
 無痛症だから効きませんでしたとかの理由は却下したい。

 長田は完全に油断している。
 次回は一撃で逆転される可能性が高い。
 屈辱の虎王返しとかが待っていそうだ。

 そうなったら、もう藤巻が黙っちゃいないだろう。
 すでに黙っていないが、ますます黙れない。
 たまたま目前に出てきた梶原を蹴散らしながら乱入するだろう。
 姫川は一撃で長田と藤巻と梶原を倒すことになるのだ。
 まさに姫川の一人勝ちである。

 どうやっても、丹波文七が活躍する場面が思い浮かばない。
 すべて姫川にもっていかれるというのか。
 『丹波文七』と書いて『    』と読む。
 読みたくても、見えない。
by とら


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