餓狼伝(VOL.101〜110)
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2002年7月16日(15号)
餓狼伝 Vol.101
どこまで本気なのか「北辰館 VS. FAW」!
「しかも大将戦がグレート巽 VS. 松尾象山」
涼二でなくとも、興奮せずにいられません。
だが丹波はベットに寝そべったままだ。
「ハッタリだ」
「負けたほうは全てを失う」
「あれほど でかくなった看板…どっちも賭けることはできねェ」
前回のラストでは、なんとなく期待している様子を見せていた丹波ですが、今回は妙に冷めています。
ちなみに丹波も涼二も新聞を持っていますが、売っていたスポーツ新聞を全種類買ったと思われます。
本命は丹波が闘った試合に対する記事なのでしょう。この新聞は記念に保存しておきそうです。阪神ファンが、優勝したら記念に全種類のスポーツ新聞を買って保存する様に……
そんな丹波の部屋に、グレート巽がやって来る。
アポ無しの来襲に、丹波&涼二は大慌てする。二人の馬鹿慌てっぷりが、なんか微笑ましい。本人の居ない所では丹波も強がっていたが、本物のグレート巽相手ではまだ分が悪いみたいです。
ビシッとスーツを着こなした巽は、リング上で見せるパンツ一丁の戦闘スタイルとはまた違い、紳士のエレガントさと貫禄を合わせて見せています。
華!
なんてェ華だ……
(高そうだなスーツ)
(ただ座っているだけで)
(これがカリスマ)
巽のかもし出す天然の華々しさに思わず丹波も唸る。
ベッドに腰掛けるだけで、バックにはファンシー粉が漂い、潰れた耳もまたセクシーに見せる。
この色気は華と言うべきか、カリスマと言うべきか。
とにかく丹波は圧倒される。
ところで、餓狼伝恒例の思考が同時錯綜なシーンが、某ヤングチャンピオンの短期集中連載作品のお陰でなにやら不吉なイメージが沸いてしまいます。
二人が裸で向き合っているような錯覚を感じると言うか…
「まァ 掛けろよ」
「落ちついて話そう」
「なんのハナシだい……」
この様子だと、北辰館に先駆けて社長自らが丹波をスカウトしに来まようです。
こうして、両陣営でモテモテだと、ちゃんと丹波が主人公らしく見えますね。
油断して誰かの回想シーンに入られちゃうと、毎回表紙に出てくる人って誰だっけ?状態になるのでピンチですからね。
「アンタに」
「惚れたよ……」
「惚れ…た…?」
「うちでやってみないか」
ハヒぃ―――、ホモ発見! 嫌ァ―――――ッッ!
つうか、毎度の事ですが、板垣ッ、アンタ狙ってんだろ!
ベッドに腰掛けたままでこんなセリフ吐かせないで下さい。ただでさえ、キッついお色気を約1ヶ月ほど過剰に摂取し続けていたんですから。
「俺はプロレスラーになる気はないぜ」
「アンタにプロレスができるとは」
「ハナから思っちゃいないさ」
「アンタは……」
「丹波文七のままでいい」
さすが巽です、丹波の使い方を良くワカっています。
口説くセリフも良いですね。「アンタは丹波文七のままでいい」なんて、実に心に響く言葉です。
「堤城平とやったあんな試合を」
「世界中の格闘家(プロ)とやらせてやる」
「誰とだってヤレる」
「八百長(つくり)抜きでだ」
「ウソじゃねェな」
「誰とでも闘える……」
「君が望むなら……」
「社をあげて協力したい」
丹波が喜びそうな話です。その辺の少年漫画なら、即OKしそうな条件です。
だが、餓狼伝はそんなに簡単な世界ではない。
このパターンはすでに巽のアメリカ時代の回想シーンでやっていますし、それを上回るインパクトを生み出さないと、物語の勢いは加速しないわけです。
そんな訳で危険な野良犬・丹波文七の答えは尋常な物ではなかった。
「アンタとだ」
「グレート巽とだ」
「冗談に……」
「聞こえないね」
「そいつはよかった」
「本気だからな」
この人は本当に恐いもの知らずですね。
さっきまで「華」に圧倒されていたくせに、次にはこんな挑戦的なことを言っちゃうんだから。
巽もこの挑発に、いきなり目が据わってしまいます。
まあ、彼の場合はある程度ガマンのできる大人だし、いきなりここでバトルになるとは思いませんが、ちょっと撫でられたりして丹波のケガの回復が遅れちゃうのではないかと心配です。
まあ、北辰館のトーナメントが終わるまでは丹波の出番は無いはずなので平気と言えば平気なのですが…、それって何ヶ月後なんだろう…
今週の巻末作者コメントですが、
『描いてみて改めて実感した。間違いなく闘いとSEXは表裏一体だ。(板垣)』
うーん、やっぱり板垣先生は本気度100%中の100%だったんですね。
2002年8月6日(16号)
餓狼伝 Vol.102
出るか、原作クラッシュッ!!
期待と不安が渦巻く中で、丹波と巽が対峙する。
唇もザクザクに切れていてすでにボロボロな丹波だが、それでも餓狼伝の主人公(カゲ薄いけど)だ。闘いに餓えた狼が牙をむく。
「この状態……」
「あんたのが有利だな……」
すでに立っている丹波に対し、まだベッドに腰掛けたままの巽がそう声をかける。
座ったままでは行動がワンテンポ遅れて不利になる。更に丹波の位置からだと、蹴りもパンチも巽の顔面を捕らえやすい。
だが、巽は自分でそれを指摘することで、油断はしていないと丹波に伝えて精神的優位に立とうと謀っているのだろう。
まさに夢枕獏らしい台詞回しだ。
目に見えぬ所ですでに闘い始めている二人の迫力が涼二をジリ…と後退させる。
「退(さ)がるなよ坊や……」
「まるで開始の合図じゃねェか」
丹波と睨みあっていても、周囲の状態を把握している。
目の前の闘いだけにとらわれない冷静さとそれを支える肝の太さは、質も量も段違いの修羅場を経験して来た証だろうか。
そもそも丹波や涼二が冷や汗をかいているのに巽は汗を1滴も流していない。
巽のやんわりとした警告に涼二は「ア……」「イヤ…」とあいまいな返事を返すのが精一杯だった。
返事をする涼二に一瞬だけ気をとられたのが丹波の失策だった。
ページをめくると、巽が胴タックル!
「これで対等(ごぶ)………」
「イヤ…… チョットだけ俺が有利か」
チョット所ではありません。基本ベースが空手である丹波が胴に組みつかれたと言う事はかなり不利です。
拳と関節技の攻防は、関節技系の選手のタックルをいかにさばくかが攻防のポイントになります。
そのタックルをまともに受けた丹波は地味ながら大ピンチです。
自分の状況がかなり危険なことを悟った丹波は、すぐさまヒジを振り落とす。
吹っ飛んだのは丹波の方だった!
おそらくタックルで踏みこんだ時に曲げたままだった膝のバネだけで吹っ飛ばしたのだろう。
下半身の力だけで100kgを超える丹波を天井付近まで浮かせるのだから、やはりこの男はバケモノだ。
だが、この超常のパワーを見せられたぐらいで怖気づく丹波ではありません。
着地と同時に突っかかっていく。
「FAW vs. 北辰館」
「松尾象山の真意はともかく」
「俺は本気だ」
またもや巽はタイミング良く声をかける。声を出すと言う行為にも戦術があり、闘いを支配しています。
作中の人物でこう言うセンスを持っているのは、巽を除くと松尾象山ぐらいでしょうか。やはり、この2人はズバ抜けています。
「5対5マッチ…………」
「ぜひFAW(うち)に」
これ以上いると戦闘再開になりかねないと判断したのか、巽は背を向けて帰るそぶりを見せる。
もちろん、巽があっさりと帰る訳も無く、とんでもない爆弾を投下していくのだった。
「空手家がプロレス側にいてもいい……」
「現に……」
「友人の空手家が我がチームからの出場を表明している」
「君も名前ぐらいは知っているだろう」
「久我重明だよ」
凶
「久我重明が……!?」
危 じゃない、驚ッ!
なんと、あの暗器の久我重明が参加すると言うのかッ!
「闇の空手家と言われる重明が」
「表舞台へ出るのか………ッッ」
丹波文七も久我重明の名を知っているようだ。
やはり、空手家・久我重明の名はルール無用の戦いをする上では避けて通れないようだ…。
なんか初期の本部に対するコメントみたいで不吉ですが…
とにかく、恐るべき人の参戦が決定し、原作クラッシュほぼ確定です。
う〜〜ん、久我さんの参戦は楽しみなんだけど、あの人の闘いはちゃんと放送できるんでしょうか…
そして、巽は去る。
帰り際に堤が丹波に会いたがっていると伝え、ドアノブを超握力で捻り切っていく。
勇次郎と紅葉が握力合戦をしても壊れなかったドアノブに比べると、このホテルのは弱いですね。
しかし、丹波の部屋はこれで鍵が掛からなりました。貧乏すぎて取られる物も無さそうなので平気なんでしょうけど、やっぱり無用心です。
それはともかく、やりたい事をやりたいだけやって部屋を出た巽は、丹波の肘でこっそり鼻血を出しながら、改心の笑み(属性:悪)を浮かべるのだった。
「丹波文七……」
「ぜひ欲しい……ッッ」
「ぜひ欲しい!!!」
2度も言うなッ!
最後まで、ソッチ方面の誤解を招きそうな発言連発でしたが、とりあえず次回に続く。
次回は丹波と堤の試合後の対談が交わされるのでしょうが、北辰館トーナメントは今後どうなっていくんでしょうね。
丹波と堤が会話をしていたら背景のTVで大会が終わってた、なんて事が起きるのではないかと不安です。
とりあえず、トーナメントには長田(セコンドに藤巻)や鞍馬といった連中も出場するんですから、無かった事にはされないでしょうが…。
トーナメントを中止して、5 vs 5マッチを開催しちゃうとか?
どちらにしても、梶原がもう1度輝けるチャンスは、今回でキッチリと刈り取られて封をされたようです。
2002年8月20日(17号)
餓狼伝 Vol.103
蹴ったサッカーボールがヤクザに当たったら、私は逃げます。
だが、丹波文七の足元にサッカーボールを転がしてしまった少年は逃げるタイミングを逃した。
立っているのは、サッカーボールに負けないぐらい腫れ上がったボコボコの顔に無精ヒゲの筋肉男(マッチョマン)、どう見てもカタギには見えない。
丹波は無言で少年にボールを手渡す。ビビりながらも少年は礼を言う。
1年後、このささやかな事件は『事故でボコボコに顔を腫らして死んだ元サッカー選手が公園に化けて出てボールを奪う』と言う学校の怪談に発展するだろう。
少なくとも、あの少年は今夜の夢でうなされ失禁すると思う。
そんな街角のちょっとイイ話を振り撒きつつ、警察に職務質問を受けそうな顔をした丹波文七は堤に会いに行く。
「いいのかよ」
「勝者が敗者を」
「勝った俺が敗れた堤を訪ねるなんて……」
自問自答しながらも丹波は真っ直ぐに堤の病室へ向かう。
ずいぶん昔の話ですが、「グラップラー刃牙 幼年編」でグラップラーアイドル刃牙13歳が、素手喧嘩(ステゴロ)アイドル花山15歳を見舞ったときも、これに似たセリフが出てきました。勝者の微妙な心理は格闘家に共通する物なのだろうか。
病室では、堤がパンツ一丁の包帯ぐるぐる巻きで窓の外を眺めていた。
やってきた丹波に気がつき、無言で向かい合う。
左足と右腕がギブスで固められている。胸には包帯が厚く巻かれており、丹波に比べると肉体のダメージは堤の方がデカそうだ。
敗れたのは堤なのだから、当然と言えば、当然だろう。
だが、それだけでは無い。2人の体格差は大きい。普通なら試合が成立しない体格差なのだ。
この体格差で、これだけのダメージを受け、それでも最後の最後まで丹波と闘いきった。
堤はやはり偉大な男だった。
なお、左肩には何もつけていないので、虎王による関節のダメージは無いようだ。
窓から入った風が、無言の2人の間を通る。
それがきっかけになったのか堤が声をかける。
「ひどい顔だ……」
「あんたもな……」
どこか照れたようなはにかんだ表情で堤は喋り、丹波がそれに答える。
互いに合いたがっていたのだから、言いたい事は色々とあるのだろう。だが、再び2人は口を閉ざす。
しばしの沈黙の後、他人事のように堤は窓の外を見ながら口を開く。
「空手を…」
「またやれるらしい……」
「ああ…」「そう聞いてる」
漫画版では触れていないが、原作だと丹波は堤のケガを心配していた。
もしかすると、堤本人よりも丹波の方がその知らせを聞いて喜んだのかもしれない。
「どうして……」
「オレに会いたかったんだい……?」
「用件はもうすんだ」
「あんたの」「顔を見ておきたかった…………」
「試合の記憶がほとんどないんだ」
「丹波文七の顔をどれだけブッ叩いたのかを」「確認しておきたかった」
互いに殴り殴られ、意識も記憶も頭の外に飛ばしているのだ。
これも漫画版には描いていませんが、丹波も試合終盤の記憶がありません。
堤のそんな発言に共感を持ったのか、丹波は少年のような笑顔を浮かべ、いびつに変形した自分の顔をなでながら言うのだった。
「イヤァ…」
「ごらんのとおり……」
「ひでェやられようだ」
それを聞いて、堤は愉快そうに笑った。
「いい気味だ」
「ヘェ〜〜〜…」
「あんたも笑うのか」
「バカヤロウ」
歯がかなり欠けているので、ちょっと不気味な笑顔です。
目を細めて笑っているのも、違和感があって不気味なのかもしれない…。
とにかく、笑顔が似合わない漢ランキングに堤城平と言う新星が登場しました。
上位には、烈海王、アレキサンダー・ガーレンなどの強豪がいますが、今後の活躍を期待しています。
なお、期待の持てる人物に柳龍光がいます。猛毒柳が満面の笑みなんて、想像もつかない。
だが丹波文七は、笑顔を見せる堤を見て素直に感心する。
あ、ちなみに丹波との試合中に堤は壮絶な笑顔を見せていましたが、丹波にはその記憶が残っていないようです。
自覚していないだけに、脳へのダメージは丹波の方がデカかったようです。
「堤……」
「試合……」
「楽しかったな」
「うん」
「それだけは覚えている」
今度はちゃんと良い笑顔で答える堤であった。
記憶を無くすほどの死闘を潜り抜ける事で、十数年の付き合いよりも深い絆が2人の間に生まれたのだ。
今回はしっとりとした味わいで終了です。
前回は怒涛の原作ブレイクな展開でしたが、今回は正統派の話でした。
やっぱり餓狼伝は、要所でしんみりした話が入るのが似合うと思います。FAW大会編のラストと言えそうな話でした。
そして、次回からは北辰館のトーナメント ………はちゃんと開催するのでしょうか?
久我重明の名前が出たせいで、トーナメントの関心がやや薄れてた気がします。
この状況でストーリーを盛り上げるための爆弾が用意されているような気がしてなりません。
そんな訳で次回もレールの無い危険な展開が待っているのではないかと思います。
そう言えば、梶原の見舞いに行かなくていいのか?
いや、梶原も今はそっとして置いて欲しいんだろうな…。
2002年9月3日(18号)
餓狼伝 Vol.104
今週号を読む前に是非ともバキ・セックス編を読み返していただきたい。
そうすれば、今週の話が格段に味わい深くなります。
いつもの通り表紙をめくると、濡れ場であった。
私はページを閉じ少し考えた。
このままコンビニで読んでいいのだろうか、と。家でこっそりと読んだ方がいいのではないのだろうか、と。
だが、私は続きを読みたい欲求に勝てず(周りに人がいない事を確認してから)本を開いた。
ある意味 罰ゲームだった。
藤巻十三が泉冴子を座位で責める。冴子の光るように白い尻の頬肉を藤巻はこねるようにつかみ…… (以下略 夢枕獏先生の本を読みましょう)
「冴…子…ッッ」
恋焦がれる女の名前を呼んだ瞬間に藤巻は目覚めた。
潜伏先であろうボロい部屋だった。
家具は1つも無い。
あるのは敷き布団が1枚に掛け布団代わりのタオルが1枚だけだ。枕も無く、雑誌数冊を重ねてタオルを巻いた物で代用している。
もちろんパジャマなどのハイカラな物を身に着ける訳もなく、パンツ一丁で寝ていた。
その唯一身をつつむパンツが濡れていた。
生活はすさみ、多少歳は食っていても、藤巻十三は漢(おとこ)でござる。
健康な男子の証として、高らかに朝の自己主張をしている。それだけではなく、泉冴子の夢で暴発してしまったようです。
汗をかきまくり驚愕の表情で藤巻十三は己の股間を見つめた。
自分の体は闘争よりも色を求めているのかと、問いかけているのだろうか。
藤巻はパンツを洗った。腰にはタオルを巻き、上半身は素っ裸のままで洗う。
真剣な眼差しでパンツを見つめる。妥協も手抜きも一切無い、手洗いもみ洗い。
替えのパンツはけ。上の服着ろ。台所でパンツ洗うな。
いや、でもこの家は風呂無しトイレ共用っぽい感じだ…。洗面所も無さそうだし、パンツを洗う場所は台所しか無いのかもしれない。
よかろう、好きなだけ台所でパンツを洗え。
良く見たらガスコンロも付いていない。そうなると、料理もしていないのだろう。
で、あればパンツを洗っても一向に構わんッ!
と言う訳で、限りなく全裸に近い洗濯をする藤巻十三であった。あ、服は着ろよ。
ノックもせずに長田が入って来た。
台所は玄関のすぐ横だ。藤巻は思わずマヌケな表情(ちょっと花田似)で振り向いてしまう。
「……」
気まずい。だろう、多分、絶対。
「迷惑だったかな」
「少し早いとは思ったが…… 目が覚めちまって」
「イヤ ぜんぜん」
「すぐに始めよう」
すましていますが、汗が出ています。
色黒なのでわかり難いのですが、ちょっと赤くなっているように見えます。
泣く子も黙る藤巻十三もパンツ洗う姿では格好がつかないと見える。しかも、バスタオル一丁と言う開放的な姿なのだ。
冷静を装って失敗しているが、服を着なかったことを激しく後悔している事だろう。
ところで長田はあまり動揺していないようです。これはパンツを洗う理由に気が付いていないのかもしれません。
おそらく、寝起きで洗い物している所に入っちゃったぐらいに思っているのでしょう。
どちらにしても、人の家に入る時はノックをするのが社会の最低限のルールだと思うのですが…。
やっぱり、この人からプロレスを取ったらなにも残らなさそうです。
そして、バスタオル一丁で物を洗う姿にも動揺していないと言う事は、FAWでは全裸で行動する程度の事は日常的に行われているのかもしれません。
プロレスラーだけに裸を見せる事に抵抗を感じていないどころか、喜びすら見出していそうです。
とにかく、2人は神社へ移動する。
朝日も昇りかけの早朝から道着を着た二人が向かい合う。
長田は白い空手着に白帯を締め、オープンフィンガーグローブをつけている。
対する藤巻は黒い柔道着に黒帯を締め、素手で構える。
長田は北辰館で行われる試合の服装をしていると思われる。藤巻は竹宮流の練習着だろうか。
なお、空手着と柔道着の違いは、上着の裾に「×」状に縫い目があると柔道着であり、縫い目が無いのが空手着になります。
あと、柔道着の方が全体に厚手だった気がします。やっぱり「掴む」からでしょうか。
「いつも通りだ」
「気を抜いた時点でヘシ折る」
とても今朝、夢精しちゃった男とは思えない壮絶なセリフと表情で二人のトレーニングが始まる。
極め、打ち、捕らえ、固める。
関節だけではなく、打撃も交え技を競い合う二人であった。
やがて、トレーニングは終了する。
長田は手をつき息を乱し、藤巻も汗にまみれている。
つい先日までプロレスラーとして血の小便を流し尽くしていた長田が疲労している。藤巻の技と体力には驚嘆するしかない。伊達に……、あ、いや、もう止めておきます。
練習の後はリラックス。
藤巻は自宅に長田を連れこみ、指圧とストレッチを施す。
ちなみに、ちゃんと服は着ているのでご安心の程を…。
竹宮流の使い手として人体の理(ことわり)を知っているらしく、藤巻は的確にツボを突き、関節を伸ばしていく。
このストレッチに長田は痛気持ち良さそうなうめきを上げる。
「何度も言ったことだが…」
「ここ数週間 オマエに叩き込んだものは」
「飽くまで竹宮流だ」
「オマエはプロレスラーだ」
「竹宮流に縛られることなく―――――」
「プロレス流にアレンジしろ」
竹宮流の極意を教えながら、それを押しつける訳でもなく、自分の流儀で行けと言う。
少し意外な感じですが、藤巻は指導者としても優れているのかもしれません。
藤巻は不幸な事件から殺人を犯し、現在は逃亡中の犯罪者です。
しかし、少しタイミングが違えば、道場に通う少年部の子供たちに恐れられつつも慕われる立派な指導員に…。
いや、竹宮流に少年部は無いか。
やはり、ごつい猛者たちに恐れられつつ慕われると言うのが妥当な所でしょうか。
う〜〜ん、やっぱり、なごむような世界とは無縁なんでしょうか…
「もし決勝を突破し……」
「松尾象山まで辿りついたら……」
「虎王ッ」
「応…」
「虎王だ」
姫川や鞍馬などの強敵もいますが、はぐれ餓狼コンビの狙いは松尾象山の首のようです。
すでに藤巻が「虎王」を松尾象山にしかけて失敗し、敗れているのですが、その事を踏まえた上で改良版の「虎王 プロレスバージョン」を用意しているのでしょうか。
一応、原作は読んでいるのでその後の展開を知っていますが、板垣版は何が起こるかわからないので油断できません。
と、言うわけで緊張しつつ次回を楽しみに…
あ、いや、まだ今週の話は終わっていません。
汗まみれの松本梢江、じゃなくて泉冴子が蠱惑(こわく)的な眼差しを向ける。
そんな冴子を姫川が座位で激しく責めたてる。
怒ったような表情で、姫川は責める。とても、この交合を楽しんでいるようには見えない。
その胸に宿るのは逃げられた鞍馬に対する怒りなのか、激闘を勝ち抜いた丹波に対する闘争心なのか、それとも長田に対する緊張なのか、真実は闇のまま次回へ続く。
座位で始まり座位で終わった今週の餓狼伝でした。
どうでも良い事ですが「蠱惑(こわく)」がうまく変換できませんでした。どうしても「恐く」と出てしまう。そんなに私のパソコンは「恐く」的なと書かせたいのだろうか。
藤巻ってちゃんと冴子に惚れていたんですね。それも、夢に見るほどに。
姫川達に戦いを挑む藤巻の動機は、闘い自体が最大の目的で、冴子の事は2番目だと思っていました。
何しろ冴子の居場所は知らなくても松尾象山や姫川の居場所は把握しているし、血まみれの姫川の顔を思い出しながらなら、刑務所に入れられてもいいと言っていた人ですから。
今週の藤巻は、今まで見せなかった純情な1面を見せてくれました。同時にこれ以上無いほど滑稽な部分も見せちゃいましたが。
どちらにしても、あれだけ恋焦がれていても、無視されていると言うのは切ない話です。
そんな藤巻十三にはストレス発散のため、ぜひ鞍馬彦一をボコボコにして頂きたい。
2002年9月17日(19号)
餓狼伝 Vol.105
今回は前回の続きから、つまり濡れ場から始まります。
目を逸らしてはいけない。これも餓狼伝なのだ。
ところで、原作の餓狼伝は他の夢枕作品に比べると濡れ場が少ない作品だと思います。ある意味、板垣先生のベストチョイス?
2人の男女が絡み合う様にベッドに横になっている。
男の肌の色は女の肌のような白さを持ち、その男に足を絡ませ抱き付いている女の肌はそれよりも白かった。
姫川勉と泉冴子である。
これが姫川の師である松尾象山と冴子の父である泉宗一郎でなくて良かったと思う。
肉の重量(おもさ)と肌の黒さを比べ合うような2人でなくて、本当に良かったと思う。
冗談はさて置き、ラウンド間の小休止を楽しんでいる2人に話を戻す。
冴子は息を激しく乱しているが、姫川は汗もかかずに涼しい顔をしている。
体力の差と言うだけでは無く、2人の心の温度の差があるのではないだろうか。
熱く求めているのは冴子の方で、姫川はそよ風のような冷たい雰囲気がある。
「完璧‥‥」
「美しくて‥‥」
「強くて」
「決して‥‥」
「思い通りにならない‥」
冴子はそう言いながら姫川に馬乗りになり、ヘソの上の皮膚をつねる。
やはり、熱を上げていたのは冴子1人だったようだ。
今回の姫川は乳首もちゃんと描いてもらっていてセクシー大爆発だ。そりゃぁ、冴子もメロメロになると言うもの、だろうか?
しかし、冴子の発言からすると、藤巻は好みの正反対に位置していそうでなんか可哀想だ。
「完璧よ」
「わたしがですか‥‥‥‥?」
姫川の完璧な肉体を痛めつける事で再びたぎったのか、冴子の瞳が妖しく光る。
瞬間、姫川の腰が爆(は)ぜたッ!
ベットに横になった状態から腰のバネだけでマウントポジションを一気に跳ね飛ばしたようだ。
天井近くまで飛ばされた冴子を、姫川は軽々と空中でキャッチする。
落下する人を、わきの下に差し込んだ2本の腕だけ捕まえる。さり気なくやっているが、この腕力も並では無い。
人体を宙に飛ばす腰のバネに、落下する人体を捕まえる腕力。姫川はスピードと技だけの男では無い。純粋な力も一級品だ。
放り投げて、キャッチする。打撃以外に使用する筋肉だろうか。
打撃だけでは無く関節に関しても姫川はかなりの実力を秘めていそうだ。
「完璧ではない」
「たった一度だって‥‥」
「敗北を喫した者は‥‥」
「もう その言葉を口にする権利はない」
強さと美しさを兼ね備えた肉体を持ちながら、姫川は自分を完璧では無いと言い放つ。
常に微笑を漂わせている姫川であるが、この時の表情には少し怒りがこもっているようにも見える。
姫川の心にも餓えた狼が棲んでいる。
その美しき野獣に欲情したのか冴子がかぶりつく。
「して‥‥‥‥」
「してッッ 姫川ァッ」
もう、この人こればっか。
そして、月が昇る頃にやっと姫川は帰るのであった。
先週の冒頭は朝だったので、日中ずっと励んでいたのでしょうか。いや、先週の冒頭時点で前日の夜からと考えられるので、ほぼ24時間耐久ではないかと…
どこぞの高校生バカップルのような激しいファイトを終えて、姫川は帰路につく。
薄い雲がかかった朧月を見上げ姫川は回想する。
―――――5年前
「いい汗かいたァ‥‥」
「なァ おい」
5年前から変らず太い男、松尾象山であった。
門下生が驚愕の表情でいる中で1人楽しげに笑っている。
「え〜〜〜〜〜‥っと」
「姫川だっけ?」
「他流派にしちゃあよくガンバったじゃねェか」
5年前の姫川勉であった。
右腕が折れていた。
肘を折られて、ひねられて、あらぬ方向に曲がっており、折れた個所がどす黒く変色している。
内部の血管が切れて内出血を起こしているのかもしれない。
姫川が大量に汗を流している。当然だろう、腕を折られたのだから。
普通なら腕を折られた時点で勝負ありだ。敗北している。
「いったん中止だ」
「おめェさんギブアップもしていなけりゃ悲鳴も聞いちゃいねェ」
「勝負の途中‥‥」
「この続きはまた今度ってことでよォ」
激痛に身を震わし転がる事しかできない姫川に松尾象山はそう言った。
目を見開き歯を食いしばっていても、姫川は悲鳴どころかうめき声すら上げていない。
自分が敗北を認めるまで負けでは無いと言う思想はバキの死刑囚たちだけの物ではない。姫川もそうだったのだ(原作では若き日の巽も)。
腕を折られても諦めず、松尾象山を倒す事を夢見る姫川も凄まじいのですが、そんな姫川を平気で側に置いておく松尾象山の度量もデカすぎます。
いずれにしても姫川は5年前限りなく敗北に近づいた。
「振り出しに―――――」
「完璧になろうとしていた私の人生が」
「振り出しに戻された―――――」
「そして5年―――――」
次の大会優勝者には、松尾象山と闘う権利が与えられる。
まだ、負けていない。
今度は勝つ。
姫川はそう思っているのだろうか。
その時、姫川の背後から陽炎にも似た闘気が迫ってきた。
闇を煮詰めたような負の闘気を漂わせ、竹宮流柔術・藤巻十三、再び登場す。
「見たぜェ‥‥」
「てめェがどこから出てきたかをな」
闘気が台無し…
うぅ、どこか寂しい恨みゼリフだ…
顔中に汗を浮かべて、ハァハァ息を乱して、何をやっていたんだか。
まあここは頑張って、彼女のいない男たちの代表として、負の情念を叩きつけろッ!
彼女はゲットできないだろうが、姫川を倒してみせろッ!
と、言うわけで恨み節全開で次回に続く。
しかし、藤巻さん、これでは恋に破れたストーカー男ですよ。
ストーキングは犯罪なんで止めましょう。素直に男の方を狙いましょう。
セリフもなんかみじめなんで、せめて「俺は冴子で××したぜ…」ぐらいの強がりを…
いや、ダメだ。よりみじめだ…
それにしても、藤巻にはそれなりに同情できるのに、モテモテな姫川の事が余りうらやましく思えないのが不思議だ。
2002年10月1日(20号)
餓狼伝 Vol.106
なんで、そんなに汗をかいてるの、藤巻さん?
涼しい顔の姫川とは対称的に藤巻十三は息を乱し汗をかきまくる。競馬にたとえるなら、相当に入れ込んでいる状態と言えよう。
「見たぜェ」
「見た‥‥?」
何を見た?
あの部屋、確か2階だったぞ。
登ったのか。よじ登って覗いたのか?
だから、そんなにハァハァしてるのか?(※ロッククライミングもどきをしたから)
それとも別の事でハァハァしたのか?(※恥ずかしいことをしたから)
なんにしても哀しいぞ…。
「貴様がどこから出てきたのかをだッッ」
藤巻の闘気が届いたのか、姫川の髪がなびく。
だが、それでも姫川の表情からは微笑が消えない。
まるでこの状況を楽しんでいるかのようだ。
さらに姫川は藤巻を挑発するような台詞で返答する。
「‥‥で」
「どうしようと言うのですか」
「どうするかだとォ‥?」
2人の闘気がぶつかり合い、空間が歪む。
空気の歪む音が聞こえてきそうな圧力に姫川も藤巻も半歩だけ足を引く。攻撃、防御いずれにも動ける構えに移ったのであろう。
姫川は相変わらず涼しい顔をしている。だが、その表情が冴子と交わっていたときよりも楽しそうに見えるのは気のせいだろうか。
藤巻の汗は引いていない。怒りをこらえているのか、顔中にシワが走っている。
「ペッ」
「やらねェよ」
「二日後の大会‥‥」
「竹宮流に倒される貴様を見られなくなる」
闇討ちではなく、世間の目のあるところでの公開処刑を望んだのでしょうか。
ツバと共に藤巻は台詞を吐き捨て、剥きかけた牙を収める。
やらねェよ、とは言っているが、背景は歪んだままで、藤巻の押さえ切れない闘気が感じられる。
「あなたが出場してくれるなら あるいは」
「そうなるかもしれませんが‥‥」
「にわか仕込みの長田さんでは」
「はたして‥‥」
「ほう」
「早耳じゃねェか」
「当たりましたか」
「当てずっぽうでした」
素直過ぎた藤巻はクセモノ姫川のブラフにあっさり引っかかってしまう。
見事に藤巻をだませて、姫川はちょっと嬉しそうだ。
とにかくこれで、せっかく長田に叩きこんだ竹宮流の存在がバレてしまいました。なにも最も倒したい人間に極秘情報を漏らさなくてもいいのに…
これで、秘密兵器の虎王・プロレスバージョンも姫川に予想されてしまいそうです。
「いずれにしろ もうじきだ」
「姫川勉がどれほどのものかを見られるのも」
「言いたいことはそれだけだ」
う〜〜ん、言いたいことを言ったのは良いんですけど、言わなくて良いことまで言ってしまった気がします。
極秘情報以外では、恨み言を言っただけの気がしますし、結局何が今回の会見の主題なのか分かりません。
普通に考えれば、
「もうじき、姫川勉がどれほどのものかを見られる」
と言うことを言いたかったんでしょうけど。
まさか、
「貴様がどこから出てきたのかをだッッ」
を言うためにやって来たわけじゃないですよね。
姫川にはあきれたような変な表情をして、ちょっとバカにしたようなそぶりを見せる。
まあ、どう言い訳しても今の藤巻はダメダメでしたからね…
闘い以外の事は本当に不器用な人ですから…。パンツ1枚洗うだけでも事件を引き起こします。
背を向けて去る藤巻。
しかし、うつむいた表情には怒りジワが消えずに残っている。闘気も消えていない。
本当に、このまま帰れるのか。いや、帰れるわけがない。
いきなり飛び蹴りを放った。
振り向く瞬間も見せずに姫川の顔面を狙う。
十分に警戒していたのか、姫川は体を沈め攻撃をかわす。
不発に終わった蹴りは、足に数本の髪の毛を巻き取っただけであった。
着地した藤巻は、今度こそ振り返らずに去っていった。
当たらなかったとはいえ、姫川に攻撃をしたことで心が落ち着いたのだろうか。
姫川も藤巻との闘いに未練を感じているような様子を見せながら、やはり背を向け去っていく。
おぼろに霞む月だけが見ていた、2人の闘いは始まらずに終わった。
舞台はFAWのプレハブ道場に移ります。
そう言えば巽は高層ビルでくつろいでいるシーンなどがありましたが、そう言う高価そうな事務所(?)を借りるお金があるのなら、プレハブの道場をなんとかしては、と思ったり…。
それはともかく、そこで1人トレーニングしているのは鞍馬彦一であった。
キャスター付きのイスの背もたれを手だけで掴み逆立ちをする。
説明しにくいんですけど、地についているのは2つのイスの2つのキャスターのみで、いつ転がってもおかしくない不安定な状態での逆立ちです。
自分の体重を腕だけで支える筋力もさる事ながら、その絶妙なバランス感覚はただものではありません。
巽が後継者とし、久我重明が実力を認めたと言うのも、伊達じゃない。
そして、鞍馬のいる所に携帯あり。
相変わらずパンツの中に入れっぱなしの携帯電話が鳴り出す。
酸素よりも携帯を優先する男・鞍馬は思わずバランスを崩し片方のイスを転がしてしまう。
だが、恐るべき身体能力で、残った1つのイスに捕まり再度バランスを取る。
今度は傾いた1つのイスの上に腕だけで体を支えて乗っかる状態だ。さらに、しっかり携帯電話は取っていて応答までしている。
「ア(はぁと)」
「レイちゃ〜〜〜〜ん」
またもや違う名前でカタカナの女性が相手のようです。
まあ、それはもう慣れていますが、1人でもちゃんと練習をやっている所を見て少しだけ鞍馬のことを見直しました。
あとは頑張って姫川にボコボコにされて下さい。(長田相手でも可)
と、言うわけで次回に続く。
原作を読んでいる人は知っていると思いますが、餓狼伝は闘いの不発が多いんですよ。
今回も藤巻と姫川の闘いは不発に終わったのですが、トーナメントに入ればイヤでも決着が付くようになってフラストレーションが溜まる事も無くなるでしょう。
よいよ、次回からは主役不在の最大トーナメント開始かッ!?
ところで、藤巻と姫川が今回交わした言葉は北辰館トーナメントに大きな影響を及ぼすことでしょう。
何しろ藤巻は姫川に長田のフィニッシュホールドを教えちゃったようなものですから。
しかし、それすらも藤巻の作戦だとすると、次の展開が考えられます。
長田のきぐるみを着て藤巻が大会に出る。
今回の情報があるので、長田(中身は藤巻)が竹宮流を使ってもおかしいと思われない。
そして、油断している姫川を公衆の面前で仕留めるッ!
これで、冴子もメロメロだッ!(いや、ムリだッ!)
2002年10月15日(21号)
餓狼伝 Vol.107
餓狼伝は今週も汗だらけの男で始まる。
廃工場となっているらしい「吉田モーターズ(株)」が今回の舞台のようだ。
大の男が夜な夜なサンドバックを蹴りまくる。
蹴るのは長田弘である。
FAWを破門される覚悟で北辰館のトーナメントに参加する長田は道場でトレーニングすることができない。
だからこう言う人気の無い場所を探して、こっそりトレーニングしている。
そう考えると道場でトレーニングしている鞍馬は優遇されている。やはり、巽の秘蔵っ子だからだろうか。
床に汗の水たまりを作る激しいトレーニングである。だが、長田は体を休めない。
それは強さへの渇望だけではなかった。
(もう――――――――)
(もう何時間―――― こうしているのか――――)
(蹴っても――――)
(いくら蹴っても――――――――)
(不安がなくならない!!!)
FAWという群れから離れた孤独な餓狼・長田を駆り立てていたのは不安だった。
出場するのは空手の大会だ。
そこで自分のプロレスラがどれだけ通用するのか?
初めて経験するルールに、初めて経験する打撃の打ち合い。
食べた事のない物に箸をのばすのにも微妙な勇気がいると言うのに、やった事のないルールでやった事のない闘いをしなくてはならないのだ。
しかも、周囲に味方はいない。敵ばかりだ。
審判ですら敵になるかもしれない。
そんな中で闘うのだ。不安にならないのは、クソ度胸のあるヤツか、ただのバカだろう。
そんな不安を紛らわせるのは、トレーニングしかなかった。
肉体が全ての長田らしい不安解消方法だ。
「もういいだろ‥‥」
「大会は明日だぜ」
そこに現われたのは梶原だった。
鞍馬に投げ捨てられた後も、ちゃんと生きていたんですね…。
リングに上がる前に高ぶっていた丹波を静めたのも梶原でしたが、ここでも強敵(とも)の不安を解消しに来てくれたようです。
ここしばらく、闘ってもロクな事がなかった梶原でしたが、思いきって格闘家専用のカウンセラーにでもなって見たらどうでしょうか。
今後、闘いでの活躍はなさそう(※板垣版では)ですし、片方失って雄度が下がっている(※板垣版では)し、ドラゴンボールで言ったらヤムチャ(※昔は強敵)みたいなポジションにいるよりは、思いきって引退しちゃった方がいいのかも。
「どうだい」
言葉と共に梶原が差し出したのは一升瓶だった。
眉間にシワが入ったままだった長田に笑みが戻った。
1番つらい時に、1番の助けをしてくれる。
闘いでは負けっぱなしだが、梶原はいい役回りの男となっている。
コンクリートの上に直にあぐらをかき、マグカップとグラスで日本酒を飲みあう。
もともと飲み食いする用意はしていなかったのだろう。つまみも無しに、不ぞろいなコップに酒を差し合い2人は呑む。
2人は一息でコップ1杯飲み干し、同時に息を吐いた。
「うまいな」
心底美味そうに長田が言う。
この2人は、まさに肝胆相照らす仲と言えるのではないだろうか。
同じ道場で汗を流し合い、技を競い合った友人だ。
原作では長田は梶原に腕を折られている。
逆に、そう言う仲だからこそ深く通じ合っている強敵(とも)と言えるのかもしれない。
ところで、サッカー元日本代表でもある都並敏史を中心にしたノンフィクション「狂気の左サイドバック」(一志治夫・著)では試合の前日にビールを飲むと筋肉が硬くなると言ってシーズン中禁酒する都並選手の姿がえがかれていましたが、日本酒は平気なんでしょうか。
まあ、緊張して硬くなっているよりも、酒飲んでリラックスできた方がずっと良い事は確かでしょうけど。
杯を重ねるごとに1.8リットルの酒が減っていく。
同時に、長田の不安も消えていったようだ。
「なんか‥‥」
「安心した‥‥」
「そうか‥」
上を見上げ長田は息を吐く。
うつむかず上を見る。長田はなにかを吹っ切り、前だけを見られるようになったのだろう。
長田は素直に「安心した」と不安が有ったこと、その不安が解消されたことを打ち明けている。
そして、それを梶原は自然に受け止める。
この2人の間には余計な言葉はいらないらしい。
なんか、1歩間違えるとギャルゲーの萌えゼリフになってしまうところが怖い。
最近の餓狼伝、こんなんばっか。
いや、俺がひねくれた見かたをしているだけなんだろうが…
「忘れていた」
「空手をやろうが柔道をやろうが」
「俺はプロレスラーでしかない」
「そんなカンタンなことを忘れていた」
ここにきて、長田は自分が何者であるかを再確認したようだ。
何のために闘うのか。
自分にはプロレスしかない。
プロレスにすがって生きてきた。
だから、最後もプロレスラーとして闘い死すのだろう。
ところで、「柔道」と言っていますが、竹宮流を習ったことは梶原にも秘密なんでしょうか。
それとも、竹宮流を柔道とカン違いしているとか。
どっちにしても、柔道王・船村と闘う事もできなかった梶原の前で不用意に柔道と言うのはいかがなものでしょうか。
「見せてやれ」
「勝っても負けても」
「おまえがプロレスラー長田 弘だと見せてやれッッ」
「長田 弘がどういう男なのかを刻みつけてやれ」
「オウよ」
梶原もプロレスラーだから、プロレスラー長田弘の凄さがわかる。
お互いにプロレスラーだから、プロレスの凄さを世間に知らしめたいと思っている。
プロレスに対する誇りはどちらも一緒だ。
ただの友情だけではなく、プロレス一門としての誇りを共有しているようです。
ずいぶん長い間、プロレスラー梶原年男としての姿を見せられなかった人の発言だけに重みがあります。
ひょっとしたら梶原も大会に出たかったのかもしれません。なにしろ、本格的に空手も学んだ人なんですから。
もっとも、今の梶原は出れば確実に負けそうなオーラをまとっている気がするので、出ないほうが無難でしょうね。
個人的には、もうちょっと活躍して欲しいキャラクターなんですけど。なんか、ここ数年、出てくるたびにブっ倒されて白目剥くイメージがあって非常に気の毒です。
原作では長田よりも活躍しているのに…
と、言うか原作にあった北辰館トーナメント前の梶原vs長田戦はカットされちゃうのでしょうか。好きなシーンだけにちょっと残念です。
現在は大会前のじらしモードに入っているようですが、主要キャラクターの状況報告はだいたい終わったので、次回からはやっと大会が始まってくれるのでは無いかと期待しております。
ただ、一応主人公の丹波文七さんの様子が描かれていないので、そっちに話が移るかもしれません。
なにしろ、今度の闘いもキーワードは「虎王」なんですから、丹波と泉さんが、わかりやすく虎王破りの可能性を話してくれるかもしれません。
などと予想しても、松尾象山が全面に出てきて、誰が主人公? と言う状態のまま大会に突入するという可能性も大きいんですけど。
2002年11月5日(22号)
餓狼伝 Vol.108
長田さんの練習場は珍客万来! 今日も愉快な仲間がやってくる。
「なんだキサマ」
「なにしにきたァッッ」
いきなり梶原が吼えた。
どうやら招かざる客がやって来たようだ。
だが、その客は梶原に怒鳴られても気にせずに、ゆうゆうと中に入ってくる。
バカか豪胆なのか分からない、その客の名は――――― 鞍馬彦一だッ!
本気で闘う気があるのか分からないのに、闘ってみると理不尽に強い範馬バキのような男である。
人気があるのか無いのかよく分かりませんが、ボコボコに殴られる姿を見たいと思っている人は確実に大勢いる、玄人受けするキャラクターです。
そして、鞍馬の特技は闘う事だけでは無い。人の神経を逆なでするのも恐ろしく上手い。この男、時には読者の神経も逆なでする。
今回も騒ぎを起こしに来たのかッ!?
「しっかしまァ〜〜〜〜‥‥」
「サンドバックとバーベルだけッスか」
そう言う鞍馬はパイプイスが2脚と携帯電話さえあれば、他の器具はいらないと思われます。
でも、携帯はやめとけ。
一応、フォローしておくと器具は無くても藤巻という超一流のトレーナー兼スパーリングパートナーがいるので環境は決して悪くないはずです。
「ごあいさつ遅れました梶原センパイ 長田センパイ」
さんざんバカにしたような目で周囲を見回しておいて、やっぱりバカにしたような笑顔で挨拶をする。どう考えても挑発しています。
まあ、ちゃんと名前を言っただけ、マシな方ですね。こいつは油断すると長田の名前を忘れますから。
「なにしにきた」
「納得させねば‥‥‥」
「無事には帰れねェぞ」
鞍馬に対して因縁のある梶原は眉間にシワをよせて、今にも突っかけそうな状態だ。それに対して、長田は落ち付いた対応をしている。
でも、落ち付いていても「無事には帰れねェぞ」と言ってしまう辺りが、餓狼の世界です。この調子だと、怒り狂っている時は、問答無用で攻撃しますね、きっと。
どっちにしても、納得させないと殴られるんでしょうけど。
「実は明日―――――― 自分も大会に出るンスよ」
「自分に勝ちを譲ってもらえない‥‥‥‥‥‥」
「かなと」
鞍馬らしく、物凄くいい笑顔でとんでもない事を言いだす。
どうも、この人は裏で何かを企むのが好きなようだ。梶原の控え室に乗り込んだり、人の練習場にやって来たり。
あまり裏でこそこそするクセがあると大成しない気がしますが、グレート巽はその辺の教育をやっていないんでしょうか?
この暴言を聞いて梶原はブチ切れた。だが掴み掛かろうとした梶原を止めたのは長田であった。
この状態だと当事者である長田より横にいる梶原の方が冷静でいなくてはいけない。闘っているボクサーよりセコンドの方が熱くなっているようなものだ。
長田は横でいきり立っている人がいるので、仕方が無く自分で話を進めるのだった。
今回の梶原を見て、弱い犬ほど良く吠えると思ったりして。
「理由は」
「長田センパイ優勝できないじゃないスか」
暴言を超える暴言に、梶原は怒ることも忘れて、アホみたいに口を開けっぱなしにする。
長田は鞍馬のセリフにも動じていない。やっぱり、相方が頼りにならないので冷静になるしかないのであった。
鞍馬のほうは梶原にアホ面をさせたのが嬉しかったのか「ニィ……」と嫌な笑いを見せて言う。
「そこはホラ俺達はプロレスラーなんだし」
「ねェッ」
「事前に打ち合わせさえしておけば」
おまけに「そこはテキトーに」と小さく付け加える。
長田と梶原がどう言うプロレスをやりたいのか、知らない訳ではないのだろう。
2人は、決めごとのない真剣なプロレスをやりたいのだ。いつも鍛えている技を本気でかけたいのだ。
それに対して八百長を持ちかけている。
2人のプロレスに対する思いを侮辱する発言だ。
この言葉を聞いた瞬間に梶原は動いていた。
それを長田が体で止めた。
だが、梶原の突進は止まり切らず長田の体が引きずられる。
「殺すぞキサマァッッ」
「アンタがかよ‥‥」
そんな姿を見ても鞍馬は毛ほどの動揺も見せない。この男はやはり怖いもの知らずと言えよう。さらに梶原に対して、この追い討ちの発言だ。
正直に言って、うわっ、言われたッッ! って感じだ。
揺るぎ無い事実として梶原は鞍馬に負けています。ついでに踏まれました。だから、このセリフは的を得ちゃっているんですよね。悲しいことに。
個人的には、ちゃんと本気を出した梶原が余裕ブッこいている鞍馬をブチのめすと言う展開を期待したいのですが、板垣版餓狼伝の中で最も転落していると思われる梶原が再び輝くとも思えないので、長田に止めてもらえたのはラッキーだったのかもしれません。
「梶原ァッッ」
長田が咆えた。
今まで感情を押し殺していた獣が咆えた。
横で負けそうなくせに激昂している人がいたせいで、感情を爆発させる余裕が無かっただけかもしれないが、やっと長田が咆えた。
落ち付いた態度を取っていたものの、内心は怒りが煮えたぎっていたのだろう。
「俺がやる」
「明日――――」
「俺がこいつを黙らせるッッ」
長田、怒りの挑戦状であった。
初めて怒りを見せた長田の姿にやっと梶原も落ち着きを取り戻す。
つうか、遅すぎです。前回は良い役どころだったんですけど、今回はなんか負け犬の遠吠え状態だったような…。
それでも、再び日が登ることを期待しています。とりあえず、予想は裏切る漫画なのでまだ可能性はあると思うんですけど。
「返事はせんでもいいだろ」
「帰んな」
「決裂ッスか‥‥」
「ワルいハナシじゃないンスけどねェ‥‥」
長田の妙に古風な言い回しに対し、鞍馬は軽く受け流して立ち去る。
とりあえず鞍馬の方も勝つ気まんまんでいるが、長田に睨まれて少しビビっていたので、ちゃんと長田の実力は評価しているようです。
「瞬殺でいきますから」
「そのつもりで」
「おう」
「楽しみにしてるぜ」
鞍馬は最後の捨てゼリフとして長田を挑発する。
それに対する長田はすでに落ち着きを取り戻している。挑発を正面から受け止めて、鞍馬を叩き潰す気迫を見せる。
この2人がトーナメントで闘うことになるのか分からないが、闘えば見ごたえのある闘いになりそうだ。
この2人が闘った場合、せっかく習った空手技に頼ろうとする鞍馬と、あくまでプロレスにこだわる長田の生き方の差が出てきて、最終的によりプロレスを愛した長田がプロレスで勝つと言う気がします。
軽く手を振り立ち去ろうとする鞍馬の前に、対極の生き方をするもう1人の餓狼が現われる。
藤巻十三、ストーキングの旅から無事に帰還してまいりました。
鞍馬のことなど眼中に無い様子で藤巻はただ真っ直ぐ歩む。その迫力に思わず鞍馬は道を譲ってしまう。
道を譲ると言うことは、自分が格下であると認めた事になる。
さすがの鞍馬も童貞を捨てた(人を殺した)男にはビビってしまったのだろうか。
「こわ‥」
そう言いポケットに手を突っ込んだまま鞍馬は退場していく。
心なしか鞍馬の背中が小さく見えた。
一方、鞍馬を迫力だけで圧倒した藤巻は梶原を見やる。
さり気なく、この2人は初対面だったと思う。
「梶原年男だな」
「ああ‥」
以上、そんだけで会話終了です。
藤巻さん、そっけなさ過ぎ。噛ませ犬には興味は無いのか?
無視された鞍馬よりは扱いがいいのですが、やっぱりその他大勢的な挨拶ですね。
板垣センセッ、もう1度梶原に機会(ジーフィー)をッッ!
「長田」
「貴様にハナシがある!!!」
藤巻の話とは一体なにか、と言う所で次回に続く。
いつも不機嫌そうな藤巻さんですが、今回はズバぬけて怒っているようです。
何しろ、嫌な現場をストーキングした帰りだもんな。
さて、藤巻さんの話とはなんでしょうか。
以下、予想ですが…
(1)「ゴメン、姫川に君と組んでいる事ばらしちゃった」
予想もなにも対策を立てて置かないとマズイです。下手すると『虎王』不発と言う事態も考えられます。つうか、それぐらいは考えとけ。
餓狼だからってなにも考えず行動するから…
(2)「もう1つの『虎王』を教える」
ゴメンで済んだら警察いらないって事で、ちゃんと新作を教えるてあげる。この辺の対策は常識の範囲内と言うか、最低限やっとけって感じです。
(3)「今すぐ、コイツ(梶原)を殺せ」
それはもう久我さん並のスパルタ教育です。
竹宮流の機密保持も兼ねて梶原の口を封じる。んでもって長田には真剣勝負への度胸をつけさせる。ついでに人を壊す感覚にも慣れておく。
実に得る所の多い助言になります。
梶原にとってはひたすら不幸ですが…
(4)「今すぐ、コイツ(梶原)を犯せ」
それはもう久我さん並のスパルタ教育(以下略)
久我さんも出てくる夢枕獏先生の『獅子の門 青龍編』を読みましょう。六章 外道塾です。
(5)「スマンが流しを貸してくれ」
冴子さんの部屋を覗いている時に失敗しました。ぎゃふん。
2002年11月19日(23号)
餓狼伝 Vol.109
いつも恐い顔をしている藤巻さんですが、本日は念入りに恐い顔をしています。
まあ、姫川が脅威の腹筋力で冴子を宙に飛ばすのを見ていたわけですから(そこまでは見てないか)八つ当たりもしたくなると言うものです。
「長田 弘に」
「失望した」
いきなりの爆弾発言だった。
このところ餓狼伝のリアクション大王となりつつある梶原ですが、この場面でもビックリしながらも情けない表情をして期待以上の働きをみせます。
彼のリアクションには、(驚き役の)全盛期の加藤に匹敵するものがありそうです。今後の梶原の驚きっぷりから目が離せません。
「おまえには才がない」
「天下の北辰館に喧嘩を売るプロレスラー‥‥」
「その心意気にほだされ協力してはみたが‥‥」
「まさかこれほどのボンクラとは‥‥‥‥」
ツバを吐き捨てながら、藤巻は厳しい言葉を浴びせる。
もともと藤巻は長田を利用して北辰館を潰そうと企んでいただけで、ここまで恩着せがましい事を言う資格は無いんですよね。
別に、心意気に感じ入っていた訳でもないし。
どちらかと言うと、自分から押しかけて技を教えたって感じです。
「プロレスなるもの一応格闘技だと思ってたんだが‥‥」
「馴れ合いはしょせん馴れ合い‥‥」
「茶番に期待してバカを見た」
プロレスラーに言ってはならないことを言いながら、藤巻はうつむいた。
うつむく表情は、気のせいか哀しげで泣き出しそうだ。
もしかすると、長田と梶原の2人の仲がうらやましかったのかもしれない。
犯罪者として、孤独に生き続けてきた毎日であった。そこで長田と出会い技を教えるうちに、長田に対して友情を感じていたのかもしれない。
しかし、長田は表の人間であり、ちゃんとした友人もいる。
所詮、自分とは住む世界が違うのだ。そう思って藤巻は心の中で泣いているのだろうか。
長田はプロレスラーだ。表舞台に立つ男だ。裏世界の藤巻が側にいるとなにかと不都合が起きる。
だから、あえて暴言を吐き、手を切ろうとしているのだろうか?
だとすれば、藤巻十三と言う男は女に対してだけではなく、男に対しても不器用だ。
「わかった」
「明日―――――」
「セコンドができないということだな」
相変わらず、梶原は激昂しかけている。仕方がないので長田は、自分で質問をする。
梶原はいい友達ではあるんですけど、役に立つ友達じゃないようです。
まあ、梶原は癒し系なので、不安を取り除くのが役割です。実務での働きは期待されていないのかもしれません。
話を戻すと、藤巻は追われている身なので元々セコンドはできません。
藤巻はその事を伝えていなかったようです。
最後まで面倒をみたいと言う気持ちがあって、セコンドができないと言いにくかったのでしょうか。
言うに言えぬ切ない漢心ってやつですね。
「そこに仲良しのお友達がいるじゃねぇか」
「セコンドにふさわしい よ〜〜〜〜く馴れ合ったおともだちが」
自分はセコンドできないから、お前を良く知る梶原をセコンドにしろと本当は言いたかったのかもしれません。
しかし、藤巻は不器用なので素直な言葉が出てこない。挑発的な言葉で返してしまう。
好意的に解釈すると、自分1人が汚れ役を引き受け、長田たちに不安を残さないように配慮しているようにも見える。
変な解釈をすると、長田と梶原のラブラブな関係に嫉妬しているだけにも見えるが…。
この挑発的な言葉に新・リアクション大王がブチ切れた。
いきなり藤巻の襟を掴む。
そして、その場で停止する。
勢いで掴んだものの、殴るべきか投げるべきか考えていなかったようです。
この人は、中途半端な攻撃しかできないのかもしれません。
ここで殴れるかどうかが、驚き役と格闘士の境界線と言う気がします。グレート巽なら次のセリフが入るより早く折ってます。
凄んでいるはずなのに藤巻の表情は眉毛が八の字になっていて、微妙に面白い顔です。
いかにも殴ってください的なオーラが出ているんですけど、大丈夫でしょうか。今週を無事に乗り切れるんでしょうか。読みながら、マジで心配しましたよ、私は。
このままでは、ボンクラーズ2号と呼ばれてしまいそうです。
「武術家の襟を捕る‥‥‥‥」
「その意味もワカらぬから」
「馴れ合いと言うのだ」
襟をとって絶対有利なはずの梶原が冷や汗を流した。
まあ、ドイルのように藤巻が襟にカミソリを仕込んでいたのならともかく、襟をとったままボーっとしているようではダメダメだ。
藤巻は、一瞬で梶原の手首を極める。関節を捻られ梶原は体勢を崩した。
そのまま地面に激突し、アゴを惨めに打ちつけてしまう。
極めて崩し投げる。柔術のお手本のような攻撃であった。
文字通り、赤子の手をひねる様なものだ。
藤巻は梶原を押さえこんだまま話を続ける。
「今日からまた他人」
「おまえが明日出場しようがしまいが」
「この梶原がセコンドに就こうが就くまいが」
「そして勝とうが負けようが」
「俺の知ったことではない」
それだけを言うと梶原を開放し、藤巻は去っていく。
自分の手首を見ながら冷や汗を流している梶原は、やっぱりリアクション大王としての才能があると思う。そんな才能あっても不幸かもしれないが。
「もう会うこともない」
背を向けたまま、藤巻は最後に一言だけ言った。
後姿がいやに寂しげだ。
本当に、もう会わないつもりなのだろうか。
後ろを向いていて見えないのだが、どんな表情でこの悲しいセリフを言ったのだろう。
「藤巻」
小さく呼びかけた長田の声は藤巻に届いたのだろうか。
藤巻はうなだれたまま、立ち止まらずに去っていった。
会っていたのはわずかな期間だが、藤巻と長田の間には絆が生まれていたと思う。だが、藤巻は友を捨て、孤独な餓狼の道を選んだ。
藤巻十三はこれからも孤独に闘い続けるのだろう。
梶原は藤巻が去った後も腕を押さえつづけていた。彼はこれからも驚き、噛まれ続ける損な役回りをするのだろう。
梶原は餓狼になれなかった男だ。
そして、トーナメントの日がやって来た。
前回優勝者である立脇如水の選手宣誓で大会は幕を開ける。
ついに出て来たのが知られざる強豪・立脇如水(たてわき にょすい)である。
ちなみに私は今日この日まで如水を「じょすい」と読んでいた。かなり恥ずかしい。だって、戦国武将で黒田如水(くろだじょすい)って人いるし…。
それはともかく、立脇は坊主頭なので、なんか少林寺の三崎健吾や、小林流の知念さんや、地下闘技場の小坊主みたいな感じがして先行きが少し不安です。
オリジナルの展開で、鞍馬の引き立て役として終わったら、かなり嫌です。
ところで前回大会の優勝者は立脇となっています。
原作では、姫川は非常用の男なので大会には出場せず、ファンの間のみで語られる影の実力者となっています。
そんな内部事情を知っているファンはいったい何者なのか気になります。
まあ、門下生は多そうですし、門下生から情報が漏れているのかもしれません。
いずれにしても、無名の選手でありながら姫川はファンの注目を集めています。
試合の組み合わせは、次回以降に発表されるようです。
注目すべきポイントはやはり異端者である鞍馬が誰と当たるかにあります。
誰と当たるかで、今後の展開が決まると言っても過言ではありません。
長田と当たった方が展開が読めなくて面白くなりそうな気がしますが、どうなるでしょう。
参加選手の中に色付きの道着の人が数名いますが、この中に凄玉が隠れている可能性もあります。
その辺も含めて、組み合わせ発表が気になります。
あと、主人公はちゃんと出てくるのかも、気にしてあげないと可哀想だ。
今回、藤巻が長田と決別した。
藤巻はわざと厳しい事を言って強引に長田と別れたようにみえた。
やっぱり、うつむいた時の表情が悲しみをこらえているように見えるからだ。
最後の背を向けたままのセリフなどは男女の別れのセリフにすら見える。
でも、つい思ってしまう。
藤巻は、パンツ洗っている所を見られたのが恥ずかしかったから、もう会いたくないと思ったのではないかと。
2002年12月3日(24号)
餓狼伝 Vol.110
ここに集まったのは素手で人を倒す技術を磨いている男たちだ。
控え室の右を見ても左を見ても、闘いに餓えた狼のような男たちばかりだ。
トーナメント参加者32名中他流派が16名いる。頭部へのパンチと投げ技・寝技を認めたため様々なジャンルから参戦している。
長田をマッサージしながら、梶原がそれを解説した。
驚き役だけではなく、解説もこなせてしまう。梶原は盛り上げ役として立派に成長している。
以下は梶原による参加選手の解説です。
「椎野一重―――――日本拳法」
「奴は上がってくるぞ」
「日拳の直突きの有用性はプロのリングでも証明されている」
プロが認めるような、強さ保証済みの格闘技は引きたて役にされる傾向があります。プロのリングで強さが証明されているのが心配です。物凄く心配です。
予想と言うより、確信なのですが、プロレスラーの耐久力に直突きは通用しないのでしょう。
鞍馬だと金髪対決になるので、絵的に長田が相手になりそうです。
「ムエタイのラクチャートだ」
「ウェルター級ながら世界中のミドル級が総ナメにされている」
ムエタイ!! わたし達格闘技ファンはこの格闘技に飽くなき憧憬を禁じ得ませんッ。しかし、そのムエタイが板垣世界で勝つ姿を見た者がいるのでしょうか。
ええ、いませんとも。
主人公がムエタイ使いの「蹴人」でも引き分けのような描写でした。
そんな訳で、体重が軽そうな者同士、姫川と闘って負けるのではないかと思われます。
「テコンドー川田 治」
「蹴りの多彩さでは今大会随一だろう」
テコンドーも不遇の格闘技ですね。梶原の説明が少ないのも危険な香りをはなっています。鞍馬か姫川にあっさりと潰されそうな予感が…。
蹴りの多彩さを見せ付ける前に鞍馬に蹴り負ける可能性が高いかなぁ。
「伝統派 神山 徹」
「寸止め空手と揶揄(やゆ)される伝統派だがあの男は別格らしい」
今までの傾向ですが、流派が明記されていない空手はあまり活躍していません。
でも、伝統派空手の奥深さには期待が持てますし、意外な活躍を見せるかもしれません。あくまで、かもですが。
久我さん直伝の暗黒空手技で鞍馬が相手をしそう。
「キックの安原健次だ」
「タイでのランキング入り――――――
スピードは軽量級パワーは重量級の逸材だ」
坊主頭になかなか鋭い眼光を見せています。
説明がムエタイのラクチャートと似ているのは同じタイプの選手だからでしょう。誰とでも闘いそうな感じがしますが、逆に誰と闘わせても変り映えしない気もします。
そんな訳で、他流派の人と潰し合いになりそう。
「志誠館 片岡輝夫」
「北辰館を凌ぐと言われる志誠館の猛稽古――――――――
一t(トン)の土管を粉砕するってよ」
どうやら拳道会がモデルのようです。グラップラーバキで描かれた土管を砕く愚地独歩の姿も、拳道会の演武がモデルだとか。
こういうパワーファイターは長田と真っ向からぶつかるか、姫川が技でかわすと描写が冴えそうです。今の話は長田が主人公みたいなものだし、長田とやり合っていただきたい。
以上の登場人物は、餓狼伝10巻のVOL.73にもさり気なく登場しています。
次からは、今回初登場の人たちです。
「講道館柔道 井野康生」
「いわずと知れた金メダリストだ」
柔道代表として船村弓彦の仇をとるのかッ!?
という訳で鞍馬との因縁が発生しそうですが、個人的には長田と戦って欲しいところです。
柔道の投げとプロレスの投げ、どちらが凄いのか。真面目な闘いを希望します。
しかし、ルールに投げと寝技が認められているからと言って、空手の大会で柔道家が大活躍できるのは少しおかしい気がします。
このトーナメントでの活躍がどうなるかは、フタを開けてみないとわかりませんけど。
「姫川 勉」
「強いという噂は確かにあるが――――――
作戦は見てからだ」
特にコメントは無い。姫川が強いのは当たりまえ。朝までなにをしていたのかは、ないしょだ。
「前年度 優勝者 立脇如水」
「このルールになって一番喜んでいるのが奴らしい
連覇を公言している」
影は薄いのですが実力的には堤と互角以上の力を持っているはずの立脇です。
無駄に巨漢なので、その場の勢いで引きたて役にされないか心配です。特にこのトーナメントにはオリジナル要素があるので、最悪の場合は鞍馬が優勝します。
以上で、梶原による解説は終わる。なんでも知ってとるとわァ〜この人ォ…と感心してしまう見事な解説であった。
いつの間にこれだけの情報を調べたのでしょうか。恐るべき情報力です。
「アリガトよ梶原」
「もう十分だ」
「ハナっから作戦なんてないんだ」
「できることはたった一つ」
「てめェの肉体(カラダ)を信じるだけだ」
言うなり長田は立ち上がり、素早いシャドーを見せる。
プロレスラーらしからぬ素早くコンパクトなブローだった。
その表情に迷いは無い。
本人の言葉通り、肉体のみを信じ限界まで闘う心積もりができているのだろう。
不安だらけでサンドバックを蹴っていたが前日の姿はもう無い。
梶原の癒しパワーのお陰か?
「思いっきりぶつけてこいッ」
「骨は俺が拾ってやる」
「拾わせるかバカ」
冗談を言い合えるほどリラックスしているようだ。この辺は共に汗を流した仲間ゆえの気安さがあるのだろう。
藤巻には前回「馴れ合ったおともだち」などと言われましたが、梶原がセコンドに付いたのは良い影響が出ているようだ。
ひょっとすると藤巻が最後に長田にしてやれた事が「セコンドに梶原が付くように仕向ける」事だったのかもしれない。
梶原は他人の試合前になると非常に役に立つ。堤戦の前の丹波も助けられていた。
ただ、今回せっかく仕入れて来た選手情報は役に立たなかったようですけど…。
そう言うヘッポコ具合も板垣版・梶原らしくていいのかもしれません。
そして、トーナメント表の発表も無いまま第1試合が始まる。
最初の試合は…、長田 弘 vs. 加山 明ッ!
いきなり、長田の試合だ。
そして、長田はいきなり道着を脱ぐ。
ビキニパンツに手袋だけと言うマニアックなスタイルが好みなのかッ!?(絶対違う)
投げが認められているこの試合では裸の方が有利だと思うが、そう言う打算では無いだろう。やはり、プロレスラーとして裸にこだわって闘うのだろうか。
次回、プロレスラー長田弘の闘いが始まるッ!
やっとトーナメントが始まりました。
始まってみれば、トーナメントの組み合わせも発表せずに試合が始まってしまうし、相変わらず先が読めません。
紹介された選手の数が少ないので、刃牙の最大トーナメントのように全試合を描いたりはしなさそうですが、それでも密度の濃い闘いが期待できそうです。
名前の出ているキャラクターは11人ですから、1回戦のうち最低でも5試合は名前の無い者同士の闘いになりそうです。
そのなかに、こっそりと藤巻が混じっていたら笑えますが…
そして、こっそりでも良いので丹波も出して欲しいと、少し思った。
話が壊れるので無理だろうが、こっそりと久我さんが参加していたら、喜びのあまり失禁してしまうかもしれない。
ところで、今回初めて「餓狼伝」を読んだ人は、絶対に主人公を長田だと思うだろう。丹波は表紙にすら、居ないのだから。
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