餓狼伝(VOL.131〜140)
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2003年10月21日(21号)
餓狼伝 Vol.131
ボクシング。漢字で書けば『撲針愚』。
人類が何百年もかけて、芸術にまで昇華させた偉大なスポーツである。
ゴメン、『撲針愚』はウソだ。
北辰会空手・瀬津は「開始(はじ)めいッ」と同時に異変を感じとる。
敵との距離は約5メートル。すでに間合いである。射程距離だ。
瀬津はあわてて飛びのいた。
未体験ではあっても本能が危険を嗅ぎとったのだろう。
(届く‥ッッッ)
(ここでも届く‥‥!!?)
『これは!?』
『どーゆー間合いだッッッ』
両者の物を投げないと届かないような距離にアナウンサーもとまどいを隠せない。
通常の格闘技ではありえない距離だ。
しかし、肉食獣を前にした草食動物がとるような用心深い間合いでも、瀬津はガチガチにガードをかためる。
早くも冷や汗を流し、ボクシング・ヘビーランカーであるルイスのプレッシャーを全身に受けているようだ。
これだけの間合いがあるなら、飛び蹴りで奇襲をかけてもよさそうだが、飛び込むこともできない。
開始と同時に絶体絶命か? 早ッ。
「一般常識による地上最強の認識は」
「プロボクシング世界ヘヴィ級チャンピオンに代表されるッッッ」
ヒゲ眼鏡のジャーナリスト・引木がまたもや語りだす。
上手い格闘家がいると辛口の解説者が欲しくなる。
若き(解説の)解説王・梶原と引木氏が並んだとき、どのような舌戦がくりひろげられるか非常に興味がある。
「大相撲‥‥」
「プロレス‥‥」
「キックボクシング‥‥」
「バーリトゥード‥‥」
「彼らの地上最強説は一部のマニアによる主張に過ぎず」
「一般常識とは言えん」
知名度、歴史、プロ競技、オリンピック、競技人口。すべてを備えた競技はボクシングしかないだろう。
ただし、競技人口は決して多いとはいえないし、グローブをつけた拳のみというルールが最強にはマイナスイメージだ。
それでも、格闘技のなかでひときわ目立つのがボクシングだろう。
普通の新聞で結果がのるのもボクシングぐらいだ。(日本だと柔道や相撲も結果はのるが)
私はマニア側にいるので、客観的とはいえないが、そんな感じだと思う。
でもさ、俺より板垣先生はマニアだよ、絶対。
そのマニアの主張だから、ちょっとズレている可能性はありうる。
「その一般常識こそがイチバン欲しいものだったりもする」
その結果、さまざまなプロ格闘競技はボクサーを自分の所のリングに上げたがる。
格闘漫画もしかり。グラップラー刃牙における2人目の敵はボクサー高山だった。
すごい噛まれっぷりでしたが。
その指摘どおり、前回での瀬津はボクシングを踏み台にしようと企んでいた。
しかし、現実では離れたところで亀のように縮こまっている。
間合いを取りすぎた、珍しい距離での膠着である。
だが、引木氏はその間合いを正しいという。
「ボクシングには格闘技界最速の技がある」
「どんな専門家(プロ)でも防御(ふせ)ぎきれぬ‥‥」
「どんな技術者(テクニシャン)でも必ず受けてしまう」
ッッ! 知っているぞ、この台詞ッ!
上で書いた、ボクサー高山のセリフと同しだ―――――――ッ!
縁起悪ッッ!
しかし、ルイスが一歩ふみ出すたびに瀬津は大きくさがっている。
この状態を見るかぎり、瀬津が波乱を起こすとはとても思えない。
そして、観客は容赦ない罵声を瀬津にあびせる。う〜ん、お気の毒だ。
5メートルも離れているのにガードを下げようとしない消極的な瀬津にじれたのか、ルイスのほうが構えを崩し大きなステップをとりはじめる。
現在連載中のバキに登場するボクサー系格闘者・モハメドJrのスタイルのようだ。
そんなルイスにつられて瀬津はガードを下げてしまう。
雰囲気に弱いタイプなのだろうか。
「あ〜〜〜〜〜〜〜バカ」
松尾象山にはわかっていた。
この間合いであってもガードをとくことが、どれだけ危険なのかを。
着地と同時にルイスの足指がマットをつかんでいた。
ダッシュ。ルイスの口元に笑いがうかぶ。あわててガードを上げようとするが間に合わない。
ルイスの左拳がムチのようにしなった。
左だけではない、体全体がしなり、全身が一撃のために伸びる。
ヂャクッ
エグい音がした。
瀬津の顔が天をあおぐ。
そのままヒザから崩れる。
ルイスはすでに背を向け、ふりかえりもしない。
「左ジャブッッ」
「リードブロウ一発の決着だァ〜〜〜〜〜〜ッッ」
普通にそのままジャブで勝っちまいやがった!
ここまでストレートにボクシングで攻めるとは思わなかった。
奇策ではなく正攻法で勝利できたのは地力が高いからだろう。
ボクシングの強みである多彩な拳の攻撃をみせることなく、必殺の基本技で一撃勝利だ。
まさに、左を制するものは世界を制す。
これで次戦は伝統派・神山徹とチャック・ルイスの対戦が決定した。
連打のボクシングと、一撃の空手という今までの図式とは違う戦いになりそうだ。
一撃のボクシング vs 寸止めカウンターの伝統派空手だ。
このカードはどちらが勝つのか予想しにくい。
護身術の特性有利と、年の功で神山の勝ちだろうか。
次戦は、仁科行男(サンボ) vs 八木正美(北辰会館)。
ロシアのお家芸・サンボ。
呪われしロシア人とセットゆえに不遇の格闘技サンボだ。
すでにアレクセイ・コッホで敗北済みだ。
しかし、日本人の使い手を得て、復讐をとげるか!?
今回グラップラー刃牙2巻を読みかえしたのだが、気になるセリフがあった。
「あんたデビュー戦のファイトマネーは先生の入れ歯代だぜ!!」
そうか、総入れ歯の本部さんといい、昔の刃牙は折れた歯は治らない世界だったんだ。
いや、今でも治らないかもしれないけど。
2003年11月4日(22号)
餓狼伝 Vol.132
チャック・ルイス、ジャブ一発での勝利ッ!
ボクシングが長年夢見てきた完全勝利だった。
突きの技術を極めた拳闘の最重量級による最速の拳だ。
霜ふり松阪牛のサーロイン、あるいはフィレのような究極の一品である。
次試合ではもう一つの最高品質である至高の右ストレートが出されるのであろうか。
芸術的一撃に観客は総立ちとなり、二人の記者も度胆を抜かれる。
ここで如才なくヒゲ眼鏡の引木が解説を入れる。
Bブロックに入ってから引木氏の解説がさえまくっている。
梶原とはAブロック・Bブロックで解説の住み分けを行っているのだろうか。
決勝戦は解説の勝負も決めるのか?
「一九七八年 当時のヘヴィ級統一王者だったラリー・ホームズが二度目のオジー・オカシオを左ジャブでKOした例がある」
「また近代ボクシングの最多KO記(129度)を持つライト・ヘヴィ級の名王者アーチー・ムーアはこう述べている」
「『ヘヴィ級(やつら)の左ジャブは俺達の右ストレートに匹敵するんだ』‥‥‥‥と」
ボクシングでは階級が一つ変わると打撃力がまるで違うといわれている。
昔チャンピオンで連載されていた『魔界学園』でも同じようなセリフがあった。
これがヘヴィ級最強伝説の根拠なのだろう。
ちなみにこちらのサイトによるとラリー・ホームズは7RKO勝ちだったそうです。
さすがにオープニングヒットで決着ではなかったようだ。
ボクシングの強みはジャブの速さだけではなく、コンビネーションによる攻防にあると思う。
これほど頭部を殴り合ってきた格闘技はないだろう。
当然、攻撃の技術も防御の技術も高い。
ある意味では完成された伝統派武術ともいえる。
今回は基本技だけで勝利したチャック・ルイスだが、次の相手は伝統派空手の神山徹だ。
神速のルイス vs. 先読みの神山の闘いだ。
古流と近代の闘いでもある。
常に顔を殴ってきたボクシングと、寸止め空手だ。
次は連打を開放するであろうルイスに、カウンター狙いの神山だろうか。
勝敗がわからないので、2回戦Bブロックでは一番楽しみかもしれない。
ところで、ヒゲ眼鏡の引木記者が誰かに似ていると前から気になっていた。
今週のアップを見て思った。原作者の夢枕獏先生を若くスリムにしたら、似ているのではないだろうか? ちょっとムリヤリ過ぎか?
もし、モデルだとしたら、漫画版最大の被害者である梶原の出番(解説)を奪っている役回りで、皮肉な運命だ。
一回戦第十五試合
仁科行男(サンボ 180cm・95kg)
八木正美(北辰会館 179cm・83kg)
今まで苦渋をなめ続けてきた格闘技・サンボが再び登場する。
すでに敗退しているアレクセイ・コッホの仇を討てるか!?
打たれているッ!
強烈ローキックの受けができていない。打撃を受けて体軸がぶれて倒れそうだ。
しかし、仁科は蹴られながらも八木の足をつかむ。
だが、足をつかむために顔面のガードがガラ空きになっていた。
片足浮かせたままで八木が強引に連打を叩き込む。
激しい打撃でせっかく掴んだ道衣から手が外れる。
引く力こそサンボの力だ、ハラショー!
捕まえないと仁科にチャンスはない。
茶髪の下の顔を鼻血で赤く染める仁科にあせりの色がみえる。
長田の次の対戦相手である講道館柔道の井野康生はズボンの裾をつかんで一気に投げていたが、仁科にはできなかった。
この打たれ方といい、不器用なタイプなのだろうか。
続くローキックに見せかけて前蹴りに変化する八木の蹴りも、まともに喰らってしまう。
だが、不器用な男には不屈の闘志があった。
よろけた状態から地を蹴り、突っ込む。
『仁科が前へ出た』
『特攻タックルだ〜〜〜〜ッッ』
頭から突っ込む危険な攻撃だ。
そして、Vol.126でコッホが散った時もタックルだった。
まるで不幸の予知夢かのように、コッホのタックルと同じく仁科のタックルは八木に受け止められ、膝蹴り一閃!!
ゴッ
一閃したのは仁科のフックだった。
すこし変形かもしれないがロシアンフックだ。
ロシアの格闘技であるサンボ、そして97話で朽ちたロシア人・ボブが得意としたのがロシアンフックだ。
今まで踏みつけにされてきたロシアの怨念がこめられた、重い一撃だった。
八木の眼がおよぐ。膝がわらう。髪型が乱れる。一撃で、なんか別人のようになった。
仁科はここで油断しなかった。
わずかでも敗北の可能性がある限り、奇跡が起きるのがロシアの呪いなのだ。
手首・ヒジ・肩。一気に極める。
グチッ
肩とヒジの関節を同時に破壊するダメ押しだった。
『仁科行男サンビストトとしての矜持(きょうじ)を見せた〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ』
勝利をもぎとったのはサンビストの矜持(プライド)だけではない。
それは噛まれつづけてきた民族の怨念である。
草葉の陰で、黒川・タクタロフ・ガーレン・シコルスキー・ボブ・コッホたちが見守ってくれている。
仁科は一人で闘っているわけではないのだ。
でも、日本人がロシアの復讐をするのは変だな。
サンボが空手を破り、一回戦はあと一つ。
参加者32名のなか北辰館選手は15名(パンフレットが正しければ16名?)だ。
そして、一回戦を勝ち残った北辰館選手は、ここまでわずか4名のみ。
7割以上が脱落というとんでもない大失態である。
「この大会‥‥‥‥」
「空手が優勝できるのか!!?」
この事態に引木も動揺している。
生き残った非空手系の人間は9名いる。
プロレス×2、柔道、キック、古武道、日本拳法、レスリング、ボクシング、サンボとどれも一筋縄ではいかない連中ばかりだ。
先ほど賞賛したばかりだが、こうして並べるとサンボが穴に見えてしまい、ちと不憫かも。
だが、北辰館にはまだ秘密兵器が残されてる。
姫川勉――――――、松尾象山の懐刀といわれる男である。
懐刀というよりは安全装置だろうか。松尾象山が直接暴れたら被害が大きそうだし、先に姫川にトラブルを解決してもらうって感じで。
そんなわけで次回はやっと姫川の登場となる。
姫川は大会が始まってからまったく姿を見せていない。
なにをやっているのだろう?
余裕ぶっこきまくりなのは間違いないところだろう。
姫川の対戦相手はキックの早川満と判明している。
勝ち上がった非空手系の流派をあらためて見れば、流派がほとんど重なっていないことがわかる。
そして、キックの枠はすでにふさがっているのだった。
もう、幸せに秒殺されてくださいとしか言いようがない。
今回の仁科が行った関節破壊術はレントゲン写真風に描写されていた。
いつか、あれで鞍馬も破壊してくれないかな。
レントゲン写真風にヤツの携帯を折ってくれ。
2003年11月18日(23号)
餓狼伝 Vol.133
北辰館には微笑の秘密兵器が存在する。
松尾象山を太陽とすれば、月。天に輝くNo.2。
今大会の大トリにして、北辰館最後の砦。松尾象山の抱き枕。じゃなくて、懐刀!
ものすご〜〜〜〜〜〜〜〜く久しぶりに、姫川勉の登場である。
最強と信じられているものが、本当に強いと検証されたことがあるのか?
ダイアモンドをハンマーで叩けば砕けないのか?
フグの白子は魚のなかでもっとも美味いと海原雄山がいっていたが、本当なのか?
ムエタイはなんの説明もなく強いことにされているが、説得力が落ちていないか?
女性キャラの魅力を重視していそうなアッパーズの連載陣のなかで、連載が始まってから名前のある女性の登場が泉冴子の2回だけという餓狼伝は、大丈夫なのか?
最強とよばれながら、実力が試されるものは数少ない。
しかし今、最強とよばれる姫川勉の強さが試される。
もちろん、松尾象山を抜かして最強ということでしょう。
105話にて、姫川がアッチの強さにおいて立派に変人だと見せつけている。
腰の強さはともかく、姫川は本格的な闘いをまだ見せていない。
3話から登場しているのに、まともに戦って決着をつけたことがない。
それから、130話分がたち、やっと、初めて姫川の闘いがはじまるのだ。
あとがきで「次巻で姫川の闘いがはじまる」と言われ続け3巻ぐらいが過ぎた感じだ。
格闘ファンの間では「姫川は強い」という噂が流れている。
原作の説明によれば、北辰館で姫川と組み手をした者が噂の発信源だ。
お客さんの期待も高まり、パンフレットや携帯電話、カバンをイスに置いたまま、少しでも前で見ようと立ち上がる。
貴重品を手もとから離すのはよくない。鞍馬がこれを見ていれば、携帯電話だけ盗んでいくだろう。
注目をあびながら、姫川が一陣のそよ風のごとくブルーのマットに降り立つ。
今日は長髪を後ろに束ね、表情には気負いがないどころか微笑まで浮かべている。
そして、白帯ッ!
他流からの出場者ならともかく、北辰館の選手の中で唯一の白帯だ。
有段者になるとケンカをした場合に過剰防衛をとられるからとっていないのか、段位に興味がないのか。
どちらにしろ、白帯であることが逆に不気味に見える。
『百獣の王ライオンを弱いと思う者はいません』
『しかしです!!!』
『果たしてライオンは虎より強いのか!?』
『果たして白サイよりも強いのか!?』
『まてよ!?』
『訓練された土佐犬より本当に強いのか!?』
『まだ誰もその目で確認していないのですッッッ』
『姫川勉は本当に強いのか!!?』
そう、姫川がどう強いのかは不明のままだ。
松尾象山に腕を折られるまでは、完璧になろうとしていた人生と思っていたので、挫折を知らないタイプだろう。
餓狼伝の登場人物では珍しいタイプだ。
丹波や堤、藤巻、長田は不器用だ。
汗を流し血をにじませて闘う姿が似合う。
姫川には汗は似合わない。
涼しげな顔のまま相手を倒すだろう。
しかし、相手が虎王の使い手ならどうだろう。
そのうえ、白サイのようなパワーをもつプロレスラーなら。
さらに、彼には半分去勢された土佐犬のような解説役もついている。
獅子包囲網は完璧だッ!
一回戦 最終試合
姫川勉(北辰会館 186cm・87kg)
早川満(キック 184cm・97kg)
ついに最終試合まできた。
曲者ぞろいの今大会では姫川も軽量の部類に入る。
体重の判明している26人中18番目の重さだ。ただし、身長は6番目の高さであり、スラリとした体型であることがわかる。
『端正な顔立ちです』
『いかにも女性ファンに支持されそうなッッ』
アナウンサーも絶賛する美形だ。
泉冴子が自分から近づいたという噂もあるほどの美貌ですよ。
モテまくり人生のせいか、Hの最中に丹波のことを考えたりする微妙な性癖になってしまったという噂もある。
…………この人、実戦サボってナニをやってたんでしょう。
対するのは『日本キック界重量級の至宝』早川満だ。
坊主頭で厳しい表情をしている。
彼も努力型だろうか。
いきなり女性に大人気の姫川をみて、早川のアゴにシワがよる。
このハッタリ野郎が、実戦派の戦いを見せてやる。
そんな早川の思いがにじんでいる。
『ぶっちゃけ強いのはどっちだー!!』
開始と同時に、早川が渾身の右ストレートを放つ!
この拳が当たるか当たらないかは次回のお楽しみだが、まあ当たらないだろう。
一発も喰らうことなく、一発で沈めるのが姫川流だ。
姫川を最大の標的として見定めている長田の前で、いかなる闘いを見せるのか?
思いきって右にあわせて『虎王』を仕掛けるとか?
同じ『虎王』でも、梶原がマネをしたらジャンプが足りなくて、無防備にさらした股間で拳を受け止めちゃうんだろうな。
などといいながら『最強のはずのダイヤモンドが砕けたァッ!』なんてセリフがあったら、ちょっと面白い。
2003年12月2日(24号)
餓狼伝 Vol.134
キック界の至宝・早川満の右パンチがスカる。
まちがいなく当たっていたはずの軌道とタイミングだった。
いきなり姫川の体が気体になってしまったような感じだ。
攻撃は当たらず、いきおい止まらず早川の体が半回転した。姫川はおなじ場所で微笑みつづけている。
ヤバい背後がスキだらけッ!
トランクスを足首まで引き落とされたような無防備だ。
早川はあわててバックブローで背後をなぎはらう。
不恰好な攻撃だが、この場合は速さに重点をおいた攻撃が正解だろう。
攻撃をするか逃げるかで、相手に攻撃させないのが肝心だ。
しかし、その攻撃もスカる。
姫川は動いていないように見えるのに、拳はなぜか当たらない。
(確実にくるハズの"当たる"感触)
(それが―――"ない")
忍法帖シリーズの忍者と出会ってしまったような不気味な感覚に早川はつつまれる。
相対している早川もワケがわからないが、観客もなんで当たっていないのか分からないらしい。
宮本武蔵は刀の切っ先を見切り、一寸(約3cm)の差でかわす事ができたといわれている。姫川も相手の攻撃を最小の動きでかわしているのだろう。
髪をしばっているのは、髪が広がると誤差で相手に捕まるかもしれないからだろうか。
観客も早川も、摩訶不思議の姫川空間に引きずりこまれている。
早川はあせりを押さえて、じっくり対処することにしたようだ。
細かくステップをきざみアップライトに構える。
距離を取り、近づき、様子をうかがう。
(ジャブなら‥‥‥ッッ)
長年親しんできたキックボクシングのテクニックを思いだす。
困ったときは基本に帰るべし、だ。
表情をまったく動かさない姫川に向かって早川のジャブが走る。
格闘技界最速の技といわれるボクシングのジャブに匹敵する、キックボクシングのジャブだ。
さすがの姫川も動いてよけている。
(躱(かわ)したッッ)
(ここから継(つな)ぐ)
やっと人間らしい反応を示した姫川に気をよくしたのか、早川がのってきた。
キックの世界で鍛えてきた必殺のコンビネーションを決めるときがきた。
(右ローッッ)
(顔面パンチに不慣れな空手家が―――――――――)
(最も嫌う)
(※対角線の攻撃!!!)
※ 左顔面パンチ(右顔面パンチ)から右ローキック(左ローキック)
上下に打ち分けることで意識を散らせ、対処を遅らせる連続技だ。
古流剣術の北辰一刀流にも、左上から右下への連続技があったらしい(うろ覚え)。
顔面パンチのない空手や、蹴りの無いボクシングにはない、キックならではの必殺技だ。
幕末の闇を斬り裂く志士の剣のようなローキックがッ、スカ……
スカったッッ!!
ヤバい士道不覚だ。姫川を見失った。どこだ!?
早川はあせる。長田は驚愕している。あの解説好きの梶原が声も出ない。
松尾象山はあくびをしている。この人は姫川のこういう姿を見慣れているのかもしれない。
勝敗が見えていて楽しめないのだろうか。
あんまり退屈させると、自分から乗込んできそうなので気をつけましょう。
(右にいるッ)
(逃がすかッッ)
混乱していながらも早川は姫川の位置を感じている。
敵の位置を感じる嗅覚は、一流の証だろう。
これが梶原なら睾丸をつぶされるその時まで気づかないのかも。
グレート巽にケンカうっちゃう人だけに。
急いでふり返れば姫川が目の前にいた。
互いの舌先が、触れ合うほどの至近距離だ。
(肘ッッ)
突如あらわれたビジュアル系におどろきながら、接近戦の武器を叩きこもうとする。
この辺の反応も考えて行動するというよりは、しみついた経験による行動という感じだ。
だが、その瞬間に早川は背後からの風を感じた。
(え‥!?)
(後ろから‥‥?)
(誰が!?)
(不意打ち?)
背後から蹴りがきた。
目の前に姫川がいるのになぜ背後から? たぶん早川はそう考えながら意識をなくしたのだろう。
横から回りこむように、垂直に放たれた蹴りだった。
柔軟な体と絶妙のバランス感覚がないとできない攻撃だ。
『伝説が真実(リアル)を粉砕した〜〜〜〜〜〜ッッ』
勝負あり。顔面から無残に落ちる早川だった。
噂が先行していた姫川だが、しっかりと実力を見せつけた。
一撃も喰らわず、一撃で勝利した恐るべき男だ。
次回からは二回戦だ。しかし餓狼伝は少年マガジンに出張するので、再開は04年3月予定だ。
04年1月14日から少年マガジンで新連載「餓狼伝BOY」として、丹波文七の少年時代を描くらしい。
少年時代なので、濡れ場は無いだろう。これなら安心して読めるというものだ。
当サイトとしては「今週の餓狼伝BOY」として新ページをつくる予定です。
長期のお休みをする前らしく、最後のページは主要キャラがそろっている。
ギリギリで最後に登場した丹波文七と長田&梶原、松尾象山、ドリアン…じゃなくて藤巻も登場している。
鞍馬が出てこないのはちょっと寂しい。
たぶん彼は電話で忙しいのだろう。もちろんTV中継している(?)といって彼女にTVを見せて、美形の悪魔・姫川に取られるのだ。
そして、試合に負けたら巽社長のお仕置きが待っている!
がんばれ鞍馬、お前に日の昇る明日は無い。
2004年8月3日(16号)
餓狼伝 復活前夜
餓狼伝、復ッ活ッ!
餓狼伝、復ッ活ッ!
餓狼伝、復ッ活ッ!
次号から餓狼伝が復活する。
十二月二日から長い間餓狼伝BOYとなっていたが、ついに復活だ。
半年以上の空白があるので、今回は前夜祭をかねて選手紹介です。
地上最強を自負する北辰会館道空手ッ!
その根拠が、他流の参加を認めるオープントーナメントだ。
さらに今回はルール変更で行われる。
オープンフィンガーグローブによる、頭部への打撃を認める。
そして、第一試合の開始直前に更なる解禁、掴みも投げも無制限ッ!
北辰館の選手こそが他流の立場となった北辰館トーナメント。
その参加選手三十二名。
全選手入場――――――――――――ッ!
破門覚悟でここへ来た!
血の小便流して得た技を使うためにここへ来た!
アイ・アム・プロレスラー、俺は絶対に倒れない!
183cm 123kg プロレスリング、長田 弘が登場だッ!
空手に手を染めし十四年。空手を信じて歩んできた。
顔面アリの無道会トーナメントを制した男がやってきた。
177cm 78kg 空手・無道会、加山明だァ!
・第一試合、プロレス vs 空手!(vol.112、vol.113、vol.114)
負けることが許されない格闘技が日本にはある。
その厳しき世界の頂点を極めた男がまさかの出場だ。
ご存知オリンピック柔道 金メダリストッ!
183cm 100kg 講道館柔道、井野康生ッ!
この男は金メダリストとの試合を「オイシイ」と言い切った。
思いっきりのよさが身上。北辰会館の急先鋒。
172cm 89kg 空手北辰会館、加納武志だ。
・第二試合は、柔道 vs 空手!(vol.115、vol.116)
沈着冷静、静かなる空手家の登場だ。
その宝刀は抜かば一撃必殺!
空手北辰会館、君川京一だ――――――!
コイツの蹴りは、パンチよりも多く出る!
マシンガンキック炸裂!
テコンドー、川田治だァ!
・第三試合は、空手 vs テコンドー!(vol.116)
立ち技最強伝説を引っさげて、ムエタイ戦士が乱入だ!
タイ人以外に敗北したことなし!
マッハ!!!!!!!!な蹴りは目にもとまらない。
173cm 75kg ムエタイッ! ラクチャート・ソーアジソンだァ〜〜〜〜ッ!!
床がきしむぞ、国内最重量!
これは熊に空手を教えたようなものだ。武器無しで人が勝てるのか!?
優勝候補の一角!
193cm 120kg 空手北辰会館、工藤健介ッ!
・第四試合は、ムエタイ vs 空手!(vol.117)
人間凶器集団・志誠館から緊急参戦。
北辰会館を上回るといわれる荒行を越え、無限の痛みに耐えるといわれる男。
182cm 95kg 空手・志誠館、片岡輝夫が推参だ!
北辰会館屈指の理論家が登場する。
緻密に組み立てられた術理で完全なる勝利を目指す。
173cm 92kg 空手北辰会館、会田勝だッ!
・第五試合は、空手他流派対決!(vol.118)
こういう異常事態こそ経験がものをいう。
ベテランの底力を見せてやる!
北辰会館の古豪!
門田賢次だァ!
推理小説では地味な男ほど真犯人。
この目立たなさが恐い。
同じく北辰会館!
西脇実だ〜〜〜〜〜ッ!
・第六試合は、空手同門対決だ!(vol.119)
今大会 最軽量だが、コイツは曲者だ。
本場でもまれた実力者。
ただ勝つのではない、魅せて勝つのがプロなんだ!
176cm 71kg キック、安原健次だ!
ウオォ! デカっ! まるで小山だ!
国内大会に海外から急遽エントリー!
モンゴル相撲の経験で、打撃・掴みも死角無し。
183cm 131kg 北辰会館ウランバートル支部、ドルゴスだッ!
・第七試合は、キック vs 空手+モンゴル相撲!(vol.120、vol.121)
前回優勝者ッ! 北辰会館の国内エースが姿を見せた!
ルール変更も問題なし、完全なる空手をお見せしよう。
192cm 118kg 空手北辰会館、立脇如水の登場だァ〜〜〜〜〜ッ!
この男が、グレート巽の後継者!?
先日FAWのリングに乱入デビューした男が、今大会にも乱入だ!
会場での携帯は電源をお切りくださいッ。
185cm 105kg プロレスリング、鞍馬彦一ィ!
・第八試合は、空手 vs プロレス!(vol.123、vol.124、vol.125、vol.126)
総合ルールの対応はすでに完成している。
磐石の状態で出陣だ!
190cm 92kg 空手北辰会館、遠野春行だ。
ロシアから恐るべき男がやってきた!
この勝利を祖国へささぐ。ウラー(バンザイ)ロシア共和国!
179cm 118kg サンボ、アレクセイ・コッホだァ――――――!!
・第九試合は、空手 vs サンボ!(vol.126)
投げ・極めが許されるなら、空手に遅れはとらぬ!
隠されし古流の技術をお見せしましょう。
175cm 71kg 古武道・拳心流、畑幸吉だァ!
怒濤のラッシュは相手が倒れるまで終わらない。
空手だからこそ、打撃で勝つ!
182cm 98kg 空手北辰会館、宮戸裕希!
・第十試合は、古武道 vs 空手!(vol.126)
総合格闘技はすでに我々が完成させている!!
そこは五十年前に通過した場所だ。
195cm 123kg 日本拳法、椎野一重だ〜〜〜〜!
空手は初めて二年だが、ボクシングとブラジリアン柔術をたしなんでいる。
打って良し、組んで良しのブラジル人!
184cm 106kg 北辰会館ブラジル支部、カルロス・バジーレ!
・第十一試合は、日本拳法 vs 空手!(vol.127)
古代オリンピックから研究されてきた人体工学がレスリングなのだ。
自分の体重はもちろん、相手の体重さえ武器にする!
181cm 105kg レスリング、畑中 恒三だ!
グローブをはめての空手こそが我らの基本だ。
顔面を拳で殴打される恐怖をお教えしましょう。
179cm 84kg グローブ空手、竹 俊介だッッ!
・第十二試合は、古武道 vs 空手!(vol.128)
ダンス空手と揶揄された寸止め空手。
その伝統派がフルコンタクト派に復讐を開始する。
年ふるも、強きは枯れぬ。伝統派の第一人者ッ!
175cm 74kg 伝統派空手、神山徹先生だァ〜〜〜〜〜!
多彩でありながら、一撃必殺の蹴りを持つ男。
当たれば即、勝負アリだ!
180cm 86kg 空手北辰会館、志門剛俊!
・第十三試合は、伝統派 vs 実戦派!(vol.129)
現役第一線のボクシングを見るがいい。
もっとも速く、もっとも重い拳を受けるがいい。
ヘビー級ボクサーこそが地上最強の代名詞なのだ!
198cm 95kg ボクシング、チャック・ルイスだ!
俺が空手をボクシングの地位まで引き上げる!
野心の大きさは北辰館随一か!?
178cm 93kg 空手北辰会館、瀬津浩二だ!!!
・第十四試合は、ボクシング vs 空手!(vol.130、vol.131)
つかまえたら、躊躇なく折る!
サンボの意地と技術を見せてやる。
180cm 95kg サンボ、仁科行男だッ!!
持っている足技の数がケタ違い。
蹴りの軌道を変えられる男、
179cm 83kg 空手北辰会館、八木正美だ――――――!
・第十五試合は、サンボ vs 空手!(vol.132)
北辰会館の内部にひそむ未確認 格闘能力者ッ!
耀くもの全てが金とはかぎらぬ。今、その真贋が問われる!
四段相当といわれる白帯空手家の実力はいかに?
186cm 87kg、姫川勉が公の場に登場するッ!
試合を戦い抜いて培った実力が俺にはある。
実力・実績申し分なし!
日本キック界重量級の至宝、
184cm・97kg キック、早川満だ!!!
・一回戦最終試合は、空手 vs キック!(vol.133、vol.134)
以上、一回戦十六試合はすでに終了している。
そして、次回から第二回戦が開始されるッ!
しかし、見返すと本当に噛ませ犬に容赦の無い展開だな。ブラジルとか、ムエタイとか、ロシアの人とか。
2004年8月17日(17号)
餓狼伝 Vol.135
連載再開はプロレス vs. 柔道!
空手の大会とは思えない異色対決だ。
もっとも勝ち残った空手家が少ないので、空手対決が行われるのは二試合のみだったりする。
お客さんは喜んでいるかもしれないけど、北辰館としてはつらい立場だろう。
まあ、いつものように松尾象山さえ負けなければいい、と言い切りそうだが。
「柔道ってホラ‥‥」
「カラテの引き立て役じゃないですか」
柔道金メダリストの井野康生がそういう。
戦後二十年ぐらいは空手が悪役だったが、劇画作家の梶原一騎がそれを逆手に取る。
「数多くの作品の中『カラテは柔道の敗け役だった』と主張し続け」
「フィクションの中で一方的に復讐を遂げ続けた――――――――
そう20年以上も」
妙に娯楽作品の歴史に詳しい井野康生であった。実はマニアか?
漫画などで、空手家に負ける柔道家を見るたびに悔しい思いをしていたのだろう。
プロレスでも柔道家は食いものにされている。餓狼伝にだって、鞍馬に噛まれた船村弓彦がいる。
現実の格闘技界では吉田や小川の活躍で柔道家の評価が上がっている。やっぱり、金メダリストは強い。
大山など、他の柔道系の選手も活躍してくるようになると、柔道ベースで総合格闘を行う漫画も出てくるかもしれない。
柔道家にとって、ここ数十年のフィクション世界は暗黒の時代だったのだろうか。
ちなみに、最近では板垣恵介と言う異能の漫画家が、けっこう柔道をひどい目にあわせていると思います。
なにしろ、試合で勝った柔道家は、井野が初めてだ。
梶原一騎の系譜を受け継いでいるワケですな。
「フィクションの中で一方的に」と言う井野の口調には、現実は違うという思いがみえる。
そこで、餓狼伝BOYの木戸に似ている記者が、井野による柔道のリベンジが始まるのかと期待する。
「真相を明らかにしたいんです」
「本当はどうなのかという真相を」
負けるつもり、まったく無し。
気負うことも無く必勝を信じるのは、世界の舞台で頂点に立った経験があるからだろう。
ルール改正により、掴みも投げも許された。
相手が"衣"を着ていれば、柔道家は総合ルールでも遅れは取らないと言われる。
世界の波にもまれた、柔道の真の強さが炸裂するか。現在もオリンピックで日本柔道が大活躍中だ!
あ、でも、相手は裸だった。
その相手、プロレスラー・長田弘は静かに集中していた。
井野が記者に囲まれていたのと対照的に、そばには盟友の梶原が一人いるだけだ。
体を動かして温めることも無く、長田は中腰で立っている。
「幸運だぜ」
柔道世界一との試合を幸運と言い切る。
そういえば、一回戦で井野と戦った加納も「オイシイ」と発言していた。
なんか不吉だ……
「梶原よォ」
「井野をウチのリングに上げたらいくらかかると思うよ」
長田がなんかグレート巽みたいなことを言っている。
金銭に執着しないプロレス馬鹿だと思っていた。しかし、師匠の変な方面の思想も受け継いじゃったらしい。
でも、相手に飲まれて不安になるより、こういう前向きな思考の方がいいだろう。
FAWではちょっと冷遇され気味の長田だけど、本人はグレート巽を怨んでいないらしい。いい人だなぁ。
「才能は‥‥‥」
「オマエの10倍だぜ」
「そりゃ柔道のハナシだろが」
相手との戦力差を心配する梶原に、さくっと長田が返す。
セコンドが選手を不安にしてどうする。長田とは逆に梶原は心配性になっているようだ。
梶原には巽の闘魂注入は無かったのだろうか。
まあ、金玉一つ潰されたから、巽のことを多少怨んでいるかも。普通は怨むよ。
そして、試合が始まる。
プロレスラーらしくショートタイツの長田と、純白の柔道着の井野が対峙する。
・長田 弘 FAW(プロレスリング)(183センチ 123キロ)
・井野康生 講道館柔道(183センチ 100キロ)
空手大会の舞台で行われる柔道 vs. プロレスだ。
思わぬ豪華な試合に観客もアナウンサーも熱狂している。
睨みつける長田に対し、井野には余裕が見える。油断をしているのは井野のほうか?
(教えてやるぜ柔道の坊ちゃん)
(プロレスってのは)
(プロのレスリングじゃねェ)
(教えてやるぜ柔道の坊ちゃん)
(プロレスって奴の――――――)
(底の深さを!!!)
プロレスに人生を注いできた男がみせる、本気のプロレス!
プロレスってのは、プロのレスリングじゃなかったのか!?
なんかマイクパフォーマンスにだまされている気もするが、思わず期待してしまう。
長田と井野の指先が触れた瞬間に、一気に腕を巻き込んで井野が一本背負いを仕掛けた。
底の深さを教えるといいながら、いきなり投げ飛ばされている。 大丈夫なのか!?
やっぱり、試合前の大言は不吉の前兆か?
しかし、耐久力の高さがプロレスの恐ろしさだ。だから一投必殺はないと思う。
だが、柔道家は寝技も得意なのだ。関節をとられたりするとヤバい。
その脱出方法に、プロレスの深淵が垣間見えるかもしれない。
ところで、長田の体重が原作の108kgより重い。
原作では体をしぼって試合に臨んだのだが、漫画版では攻撃力を増やして試合に出たらしい。
この体重だと、北辰館の巨漢・工藤健介(120kg)よりも重くなる。
現時点での最重量者だ。巨漢というキーワードもなにか不安を感じさせます。
ああ、なんか長田の不安要素が多い。特にセコンドについている梶原に負け犬臭が染付いているのが良くない。
長期休載だったため、今回は選手紹介がついている。
それによれば、伝統派空手・神山さん人気急上昇らしい。
寸止めでの決着で人気爆発したのだろうか。
久しぶりに登場したら老いていたけど、老練な印象が加わって結果的にはよかったのかもしれない。
梶原も思い切って雰囲気を変えてみれば人気と実力を取りもどせるかもしれない。
とりあえず、ヒゲは剃ったほうがいい。無精ヒゲの主人公なんて、めでたい連載再開一回目で表紙にしか出ていない。
ヒゲを生やすと、出番も減るぞ。
2004年9月7日(18号)
餓狼伝 Vol.136
金メダリストの一本背負いが炸裂する。
アテネオリンピックは終了したが、柔道選手の存在感はバツグンだ。
つまり、柔道噛むなら今が旬!
だが、相手を柔道の坊ちゃんとなめすぎたか。
あっさり投げられてしまった。
試合前にセコンドの梶原が不安感を植えつけてくれたのに、油断していたのか。
プロレスのすごさを教える前に、柔道のすごさを教えられたようだ。
長田はまともに顔面から落ちる。あきらかに、受身失敗だ。
加速のついた123キロの自重を顔面で受け止めた形だ。普通なら首が折れる。
投げた井野は寝技の追い討ちもかけることなく、立ち上がった。
柔道なら間違いなく一本だ。そして、試合であっても一投必殺の自信があるのだろう。
立ち上がった井野が見たものは、自分より先に立っていた長田の姿だった。
危険な角度で落ちたはずの長田が、自分より先に立っている。
眼もしっかりしている。意識は飛んでいないようだ。
この男にダメージは無いのか?
「ヘェ‥‥」
無傷らしい長田を見て、井野は少しだけ感心したようだ。
その場でステップをして、リズムを取る。
対する長田はゆっくり歩を進める。
金メダリストとして、井野は素質も経験も超一流だろう。
ただし、それは柔道家としてのものだ。
投げても勝負がつかない状況は初めてだろう。だから、内面は動揺していると思う。
リズムを取っているのは落ち着くための時間を稼いでいるのかもしれない。
動揺していても表情に見せない精神面の強さを井野は持っている。もっていなくては世界を相手に闘えない。
とりあえず見かけは落ち着いているように見えるが、内面はけっこう動揺してそうだ。
井野がどの程度動揺していて、どの程度回復したのか、わからない。
しかし、不退転のプロレスラー長田弘は近づいてくる。
ならば、投げるしかない。
一触即投、長田の左手をつかんだと同時に一本背負いを仕掛ける。
さっきは右の一本背負いだが、今度は左だ。微妙に作戦を変えているのは弱気の証拠か。
そして、今度の投げは自分も一緒に飛んで体重をのせている。
合計223キロの重さで、ふたたび顔面から落ちた。
今度こそ必殺を確信したのか、井野の口元に邪悪な笑いが浮かんでいる。
そして、二人は同時に立ち上がった。
長田と井野がまたもや対峙する。
苦痛の表情を浮かべることなく、長田がごく普通に立っている。
しかし、この人はちっともしゃべりません。実は歯を喰いしばって痛みに耐えているのかもしれない。
プロレスラーだって痛いときは痛いんだろうし。
余裕がなくなったのか、井野がいきなり突っかけた。
それに対し「投げられるかい?」と言わんばかりに、長田が左手を出す。
思わずその手をつかんで、井野が三度目の一本背負いだ。
また、まともに落ちる。
だがまた、やっぱり普通に立ち上がるッ!
『これはッ』
『投げられているのではない‥ッッ』
『投げさせているウウッッ』
「マジかよ‥」
井野はついに汗を流してしまった。敗者の予兆である冷や汗を。
自分の技が通用しないので、井野は自信を無くしはじめている。
一回戦で長田と闘った加山も同じような状況に陥っていた。
プロレスラー長田弘は、相手の心も折って倒すのだ。
プロレスラーらしい長田の闘い方をみて、梶原がニヤリと笑う。
当の梶原はなんか打たれ弱い印象がある。梶原を倒せない打撃はこの世にあるのだろうか。
梶原のことは置いといて、長田 完勝の予感をさせつつ次回へ続く。
柔道では一本を取るために投げるのであって、ダメージを与えることが目的ではない。
そのため、投げられなれているプロレスラーを沈めることのできる威力に達していないのだろう。
投げにこだわりたいのはわかるが、二回通用しない時点で方針を変えた方が良かったかもしれない。
柔道家なんだから関節技や締め技も持っているだろうし。
ただ、長田は裸なのでかける事のできる柔道技が少ない。
それが井野にとって一番の悩みかもしれない。
今回の長田はプロレスの頑強さをみせた。次はプロレスの攻撃力を見せるのだろうか。
柔道の投げに対抗してプロレスの投げを。二試合続けてバックドロップで決着を狙うか。
同じ投げでも、柔道とプロレスでは違いがある。
前回プロのレスリングではない、プロレスをみせると言っていた。
言ったからにはちゃんと見せてくれるのだろう。
相手に実力を発揮させず倒す鞍馬とは違って、試合を盛り上げるのがプロレスラー長田だ。
派手な必殺技が炸裂するだろう。
ところで、長田が手を差し出したときに、寂海王を思い出してしまった。
井野さん、握れるかね?って感じで。
最終的に、私と組まんか!とFAWに連れて行かれるかもしれない。金メダリストなら客呼べるだろうし。
あ、井野を拉致するのは長田じゃなくて、グレート巽です。
2004年9月21日(19号)
餓狼伝 Vol.137
投げる柔道に、受けるプロレス!
投げられたら負けなのが柔道で、投げられてナンボなのがプロレスだ。
落下にたいする覚悟がちがう。青年誌におけるバキSAGAの使用と用法なみに大違いだ。
投げられるのがプロレスとはいえ、長田は投げられすぎ。角度も悪い。顔から落ちて、なんで無事なんだッ!
それが、プロレスですか!?
井野がしかける次の技は大外刈りだった。
ハダカだから投げにくい。だが、無理やりつかんで投げ落とす。
長田の胸に手をあてて、自分の体重をかけて激突させる。これなら破壊力は倍か。
長田はまともに後頭部から落ちる。
こいつはマックシェイク並みにドロドロになっていそうだ。
………普通にたった!
受け身なしの受け身なのか。どういうタフネスだ。
井野も負けじと挑みかかる。こんどはハネ腰ッ!
落ちる間もなく、長田立つ。
そこへ体落とし!
元気イッパイで立ちやがる。
金メダルの投げ三連発でダメージ無いのかッ!
まるで柔道の投げ稽古だ。
立つ長田もすごいが、投げる井野もすごい。
前回みせた左右の一本背負いに続いて、多彩な技を繰りだす。
手技・腰技・足技となんでもこなす。
自分より大きい選手に有効な一本背負いから、自分より小さい相手に有効な大外刈りまで使うとは。
この対応範囲のひろい技術が世界を制したのだろうか。
しかし、井野は技をだしすぎだ。
技が効かないので、次は別の技をだしたのだろう。心中はあせっている。
そして、なんど投げても立ち上がる長田を前にして、ついに井野の動きが止まった。
『プロレスラーは立ち上がるッ』
『立ち上がるのがプロレスラー』
『プロレスラー 長田 弘』
『比類のないタフネスを見せつけているゥゥ』
この異常事態に観客は大コウフンだ。丹波も背景でおどろいているぞ!
主人公だって、ちゃんと働いているんだぞ。
丹波だって読者に忘れられないように「おどろき役」として闘っているのだ。
目立つ変装をしながら客席にひそんでいる藤巻は、己の腕をつかんでなにかに耐えている。
自分の弟子ともいえる長田の死闘を見ながら、心の中でともに闘っているのだろうか。
相手の攻撃をひたすら受ける戦法は、なじみがないだろう。
藤巻はかなり心配していそうだ。
「『受け身』のエリート長田‥‥」
「まァ アマチュアの柔道界にゃ あり得ねェタイプだわなァ」
と、松尾先生がおっしゃいました。
でも、柔道はケガをしないために、まず受身をしっかり練習するはずでは。
それと、受け身のエリートは顔から落ちたりしません。
あ、いいえ、なんでもありません。押忍。
餓狼伝世界では松尾象山は絶対なのだ。松尾象山が「太陽は右からのぼるよなぁ」といったら右なんだ!
そこ、考えるな。感じるんだ!
「長田さん」
「もう‥‥」
動きの止まった井野がなにか言いたげだ。
こういう不死身の相手と闘うのは精神的にもこたえる。
相手はまるでゾンビだ。アッパーズ作品だけに「巨乳ドラゴン」だ! もはや意味不明だッ。
護身開眼した寂海王なら、攻撃がやんだ時点で勝利宣言をしていそうだ。
しかし、長田の場合はちがう。
勝利宣言をしないかわり、殴る。
闘いの最中に油断しすぎだといわんばかりに、井野の顔面ド真ン中に拳をねじこむ。
初戦で井野は空手家・加納の蹴りをよけていた。
打撃対策はそれなりにしていたはずだが、柔道技が通用しないことで生じた動揺をつかれてしまったか。
一発で井野の腰がおちた。これは深刻なダメージだ。
『長田ダメ押しの右拳ィィッッ』
勝機!
憤怒の表情で長田が一気に襲いかかる。
長田は才能で井野に負けていると自覚している。だからこそ、この勝機をつかみにいきたい。
ここで倒しきらねばならぬ。
「それでもなお」
「井野はエリート」
不気味に松尾象山が予言する。
そう、残り一秒から逆転してみせるのがオリンピックメダリストだ。
トドメを狙って大振りになった長田のスキを、井野は見逃さなかった。
ガキッ
井野の両足が長田の首にがっちり巻きついた。
三角締めだッ!
長田の頚動脈がしめあげられる。脳への酸素供給が止まる。
この試合、長田がはじめて汗をだす。それも大量の汗だ。
失神まであと何秒か。
ニィ……
だが、その状況で長田がわらった。
この窮地において逆転の秘策があるのか?
あった。だが、策ではない。
「あありゃアアァアッッッ」
策ではない。技でもない。バカ力で持ち上げたのだ。
長田のおたけびが武道館にひびく。
左手は上から持ち上げ、右手は下から支え、井野を頭上より高くに持ち上げる。
その高さは三メートル以上だろう。
この高さから落とされて、投げのエキスパートは耐えられるのか?
(高‥‥ッけェ〜〜〜‥)
(ダメだァ こりゃあ‥‥‥‥‥‥‥‥)
落ちる前から、あきらめ入っています。
ダメと思うからダメなんだ。
柔道は、現実世界でも引き立て役になってしまうのか。
次号へつづく。
井野の敗北は、ほぼ確定だろう。
裸の相手と闘いながら、よくがんばったといえる。
ソデをつかめない状態で、あれだけ投げる。そして、逆転を狙った三角締め。
ちゃんと総合の練習もしていたのかもしれない。
しかし、相手が長田だったのが運のつきだ。
長田には、情報通の梶原がついている。きっとすごい秘密情報をしいれてきて対策をしていたのだろう。
無傷にみえる長田だが、こっそりダメージを受けているのかもしれない。
あえて敵の技を受けきって動揺させる高度な心理作戦か。
でも顔面から落ちるのはやりすぎだ。
藤巻だって心配するだろう。
今回の決め技、三角締めをパワーボムでかえすというのは、PRIDE GPのジャクソン vs アローナ戦で実現している。
この試合では93キロが90キロを持ち上げた。123キロの長田が、100キロの井野を持ちあげるの無理じゃなさそうだ。
腕に巻きついてくる相手を、地面に落とす。この技術は後に重大な意味を持ってくる。
後といっても、かなり先の話なので、忘れても問題は無い。
もっとも、漫画版には予想をくつがえす要素がいくつかあるので、思い出す必要がないかもしれない。
フィクション世界にくわしく、意外と劇画好きだとおもわれる井野だった。
そして、今回最後のセリフ「ダメだァ こりゃあ」からドリフ好きとも思われる。
次回なにごともなく井野が立ち上がれば「次いってみよー」と言うだろう。
もしかしたら、ドリフギャグで鍛えられた体は落下や、金ダライに強いかもしれない。
まだ、逆転の可能性がちょっぴりあるぞ!
2004年10月5日(20号)
餓狼伝 Vol.138
父が子を頭上に持ちあげるように、プロレスラーが柔道家を頭上に持ちあげている。
これは高い。横から見ると、さらに高い。
持ちあげた長田がいきおいあまって、右足の親指だけで立っている状態になっている。
バレリーナもビックリだ。これは芸術面での評価も高い。
あまりの高さに衝撃を受けたのか、持ちあげられた井野は童心にかえったような表情をみせる。
(受け身!?)
(通用するのか!?)
振り落とされる瞬間に井野がおのれを取りもどしていた。
一度は「ダメだァこりゃあ‥」と思っても、すぐに気持ちを切り替えたらしい。
さすが柔道金メダリストだ。
高さや威力は、もちろん問題だが角度がマズイ。
受け身をとる時は、自分のヘソを見る感じでアゴを引く。後頭部を打たないためだ。
だが、この投げられかただと、どこを見ていようが頭から落ちる。
柔道の受け身では通用しない。
もっとも、腕を組んで後頭部をカバーしても衝撃に耐えられるとも思えない。
持ちあげられちゃった時点で、勝負アリになりかねない。
地上へ落下するわずかな時間に、井野は両手を額の前で交差させる。
後頭部の護りは捨てている。柔道式の受け身で己を護るッ!
いや、でも、本陣である後頭部がガラ空きなんですけど。
今川義元をごらんなさい。本陣に攻め込まれて負けた武将は、超一流のアホ扱いをされますよ。
一人称は「まろ」で、語尾が「〜おじゃる」だと誤解されたりします。萌えません、最悪です。
本当は名将らしいけど、誰も信じてくれません。
フィクション世界で引きたて役にされていたのが、柔道だ。
そして、織田信長の引きたて役にされているのが、今川義元だ。
両者の間に微妙な共感(シンパシー)を通じさせつつ、井野が落下する。
本陣ガラ空きで、背水の陣じゃッ!
食料も武器も、三日分を残してみな捨ていッ!
賭けってのはな、キケンなところにデカく賭けなきゃ、大当たりはしねぇンだよ。
柔道を信じ、井野が受け身を………
ダン
あっ、床を叩く手より先に後頭部が激突したか?
井野の頭が床に叩きつけられ、ボールのように跳ねあがる。
全財産を大穴に賭けて見事ハズしてしまったかのように、会場は静まりかえった。
当然、井野は失神していた。
『たった一パツでの逆転劇ッッッ』
『長田 弘 プロレスラーの矜持をッッ』
『満場に見せつけてくれましたッッ』
会場をゆるがす一投に長田ファンが試合場脇に駆けつけて歓迎する。
先鋒はセコンドにもついている盟友の梶原だった。
「いい受けだったぜ」
やはり解説屋は目のつけ所がちがう。
勝負を決めた長田の投げよりも、井野の投げを受けきったことを賞讃している。
サッカーでいえば、点を入れた選手よりも、アシストをした選手を認める。
セクシーコマンドなら、相手を倒した打撃よりも、前フリの変態技を激賛だ。
VOL.88で鞍馬のジャイアントスイングを受け、あっさり失神した人のいう言葉だけに重い。
プロレスラーであれば受けられるというものではない。
長田だからこそ、受け切れたのだ。
プロレスラーとして、相手の攻撃から一歩も引かず受けてたった。
ファンやマスコミの歓声を受けながら長田が控え室へもどっていく。
だが、長田のようすが少しおかしい。
音が消えて、地に足がついていないような感じだ。
そして、視界がかたむく。
倒れる長田をささえたのは梶原だった。
さすが縁の下の力持ちだ。
日陰で活躍させれば餓狼伝随一かもしれない。とりあえず、日陰のポジションに人はいないし。
やはり長田にはダメージがあったようだ。周囲に人がいなくなるまでガマンしたのだろう。
そして、長田を信じ梶原も限界まで助けに入らなかったと見た。
前回自分の腕をつかんでいた藤巻も、長田のヤセ我慢を見抜いていたのだろう。
ガマン比べの熱い友情だ。
長田を抱える梶原の前に井野が立っていた。
こちらは一人で立っている。ハデに叩きつけられたが、もう回復したようだ。
ダメージは長田の方が上だったのだろうか。
「あと一投げされていたら」
「試合場でこうなってたろうぜ」
長田の状態を見られてしまったが、梶原はあわてない。
長田もダウン寸前だったと内部事情を話す。
そうなると、井野に殴りかかったのは、スキを見つけたからというより、限界に近かったためだろう。
ただ、梶原の読みどおりに倒れていたとは思えない。
観客の前でのプロレスラーは強い。試合場での長田は意識を失っても倒れることは無いだろう。
梶原だって控え室で襲われなければ、倒れなかったかもしれない。もしかしたら。
その後、観客の前に引きずり出されて、わざわざ踏まれたりしているが、そういうのは抜きにして。
「全力で投げられて」
「俺よりも早く立ち上がる長田さんを」
「試合中だというのに」
「憧れてしまいました」
「憧れを叩きつけることはできません」
試合中に井野が攻めの手を止めたのは、長田に憧れてしまったからだった。
長田が殴らなければ、自分の負けを認めていたかもしれない。
投げられても立ち上がるのは、柔道家とプロレスラーとの違いだろう。
身近な世界には無い魅力に感銘をうけたようだ。
長田は、井野のことを「柔道の坊ちゃん」とよんでいた。
たしかに、いい人ではあるが、ちょっと甘い面があるかもしれない。
この後、グレート巽がスカウトされたりして。
なんにしても長田の勝負魂に、井野はみずから負けを認めたようだ。
長田は二回戦を辛勝ながらも激勝した。
でも、毎回この調子でダメージを受けていては体がもたない。トーナメントで勝ち抜くには、ダメージを受けないことも重要なのだ。
次の試合までに長田の体力は回復するのか?
そして、次の試合は二回戦でもっとも地味かもしれない君川京一 vs 工藤健介だ。
遠野春行 vs 畑幸吉 並に気にされていなさそうだ。
しかし、君川と工藤のどちらかが井野より強そうに見えないと、話が盛りあがらない。
そして、テコンドー殺しと ムエタイ潰しの戦いでもある。
そう、これはテコンドーとムエタイの代理戦争なのだッ!
ヘンな意味で注目の試合だ。
アッパーズの次号予告が「6年半のご愛読ありがとうございました!」となっている。
やっぱり、どうしようもなく、アッパーズは休刊なんですね。
説明が足りないので、情報未入手の人はワケワカランと思いますが。
連載漫画もまとめに入っているっぽい作品が多いし、なんか物悲しい。
餓狼伝はスコラ社倒産によりアッパーズに移籍し、再び旅立つ。
まさに、漫画界の鈍秀才だ。(鈍秀才:不幸を呼ぶ秀才の意。食事に招待したりすると家が火事になる。「警世通言」)
次回、『餓狼伝』新たな旅立ちへ!! らしい。
たぶん、次の 犠牲 掲載誌が発表されるのだろう。
実は長田のダメージが深刻で代役登場という展開はカンベンねがいたい。
例えば、梶原が長田の変装をしたとする。
体がひとまわり小さい。首から下の体が黒い。あきらかに別人だ。
でも、松尾象山がOK出しちゃう。試合開始だ。
「こいッ 長田の意地は受け取った。今度は俺が受ける番だッ」
「こいッ〜〜〜〜〜〜〜〜‥‥‥」「‥‥‥‥‥」暗転。
『勝負アリ!』
梶原では、ダメだろうな。やっぱり。
そういえば、「プロレスってのは」「プロのレスリングじゃねェ」の解答はどうした!?
うわっ、長田よ頼むから目覚めてくれッ!
梶原だけじゃマズいって。
2004年10月19日(21号)
餓狼伝 Vol.139
殿、城はすでに炎上しております。
漫画は盛り上がっているのに、雑誌は休刊だ。復刊する雰囲気まるでなし。事実上の廃刊だ。
家臣そろって大切腹って感じで、ものすごく落ち込む。
ここで試合をはじめちゃうと、切れ目が悪くなるのだろう。
場をもたすために、松尾象山が生き残った選手に参加理由を聞いてまわる。
なんか野球が雨天中止になって、特別番組をながしているみたいだ。
ちなみに、主人公は今回もいない。
お家の一大事に不在なのが、実に丹波らしい。
そういえば、前の掲載誌が終わったときも丹波は不在だった。やっぱり、君が必要らしい。
オリバと互角のようにみえる超肉体をスーツにつつんで、松尾象山が選手にインタビューする。
次の対戦者を組にしてインタビューしているのがポイントだ。
まずは、次に闘う北辰館の君川京一と工藤健介だ。
この二人は二回戦唯一の同門対決となる。
「修行のためです 押忍」
「自分‥‥」
「‥‥‥」
「北辰館ッスから‥‥」
テコンドーの多彩な蹴りを鋭いローキック一発で撃退した君川は、返答も鋭い。
実にシンプルだ。迷いが無い。性格が戦闘スタイルにもあらわれている。
対する工藤は茫洋としたおおらかさがある。
とりあえず考えてみましたが、答えになっていませんって感じだ。
無心で闘うのみ!
今年は台風の当たり年だが、熊の当たり年でもある。
北辰館の熊・工藤から目が離せないぞ!
ちなみに今回 初セリフだ。
次は人間凶器集団・志誠館の片岡輝夫と、北辰館の門田賢次だ。
二回戦唯一の他流空手対決だ。
流派の看板も背負って闘うので敗北の重みがちがう。
「現在(いま)‥‥」
「自分の居る場所を知りたく――――」
「北辰館が最強―――――― それを証明したいだけです」
片岡は硬い物を叩いてばかりで、試合はあまりやっていないのだろう。
ただ、漫然と叩いているわけでもなく、実戦を意識して叩いていると思われる。
そういう鍛錬を続けてきているから、本物の実戦を知りたくなる。
自分の空手はどこまで完成されているのか?
片岡の戦いは自分との戦いでもある。
それを迎えうつのが門田だ。
こちらは北辰館を代表する覚悟でいる。自分と組織の誇りをかけて闘う。
現代の武士が決闘する状況だ。
お次は今大会屈指のナンパ者対決だ。
彼女同伴、キックの安原と、暗器(隠し武器)が携帯電話だと言われる鞍馬彦一だ。
「この大会はステイタスじゃないッスかァ」
「ギャラが上がるじゃないッスかァ」
「モチロン自分を売り出すため――――」
「もう一つは」
「アンタらがデカい面(ツラ)してるから‥‥ ってのはダメ?」
二人とも互いのキャラを理解している。ナメた発言は計算のうちだろう。
内面はけっこう熱い二人と見た。
なんか鞍馬がよそ見をしながら答えている。
視線の先にはグレート巽が書いたカンニングペーパーがあるのだろう。
松尾象山にケンカ売りまくり。あとで思う存分殴られそうな予感がする。
次は四人まとめて紹介する。
北辰館の遠野春行、古武道の畑 幸吉、日本拳法の椎名一重、レスリングの畑中恒三だ。
新顔ばかりのグループだけに、勝敗の予想がつきにくい。
とくに遠野 vs.畑には猿が乱入してくる可能性だってある(無い。漫画がちがう)。
「自分は選手ですから」
「古武道は決して形式だけのものではない」
「それを理解(わか)ってほしくて」
「このルールなら‥‥‥‥」
「敗(ま)けるハズがありません‥」
「なんでもありなら―――――」
「レスリングが弱いハズがない」
自己証明のために戦う遠野と畑に、総合での強さに自信をみせる椎名と畑中だ。
椎名の打撃力は一回戦で披露された。そして、組み技の達人である畑中相手に総合格闘技としての歴史を見せるのだろうか。
地味かもしれないが、この試合は楽しみだ。
あと、名前が椎名なのか椎野なのか、早めに統一してください。
WEB上では、次の試合が一番人気だ。
伝統派空手の神山徹と、現役ヘビー級ボクサーのチャック・ルイスだ。
「やっぱり北辰館(あなた)たちへの嫉妬もあったんでしょうかねぇ」
「ボクシングノ ヘヴィウェイトガ ドウイウモノカ 思イ出サセテヤルノサ」
自分の世界にいれば十分に評価される者たちが、他人の土俵へ上がってきた。
どちらも超一流の実力者だ。
ボクシングという顔面を殴りあう近代スポーツの頂点から来た男と、型稽古による寸止め伝統技術の象徴たる男の対決だ。
当たるか、当たらざるか!?
神山さんは他人事みたいな話しかたをする。
なんで参加したのか、自分でもワカらないというポーズをとっているのだろうか。
そして、北辰館と書いて「あなた」と読む。
そう、松尾象山は北辰館そのものなのだ。そのことを良くわかっていらっしゃる。
敵を前なので、手の内を隠しているのだろうか。
伝統派とフルコンタクト派の戦いは会場外でも続いている。
次はサンボの仁科行男と、北辰館の切り札・姫川勉だ。
ロシア人サンボ使いが敗れたので、仁科は二人分がんばらなくてはならない。
「組み技の強さってワカリづらいンスよね」
「この大会で勝ってれば‥‥ ワカってもらえると‥‥‥」
「無論‥」
「あなたに勝つためです」
サンボの強さを証明したい仁科に対し、姫川の標的は松尾象山だった。
今大会の優勝商品は「松尾象山」だ。
正確には挑戦権なのだが、松尾象山に猛者どもが群がっているに違いはない。
きっと神山さんも狙っているだろう。
この大会は優勝が決まったあとも見逃せない。
最後の最後は、さきほどパワーボムで一本勝ちをおさめたばかりの長田弘だった。
彼も、強さを証明するために参加した。
「ルール上の敗(ま)けでも」
「強さを証明できるのがプロレスですから」
原作の夢枕獏が「闘人烈伝 格闘小説・漫画アンソロジー」のあとがきで、プロレスラーの大仁田厚を同じように評している。
『いくらリングで大仁田厚に勝っても、大仁田はそういう勝負の外にいる』
試合に勝つだけではなく、プロレスのすごさをみせつける闘いだ。
たしかに長田の体は頑丈かもしれないが、それ以上に心が頑丈なのだ。
長田を倒すには心を折らなくてはならない。
試合で負けてもプロレスの強さを見せつけたら、長田の勝ちだ。
鞍馬とは立っている場所がちがう。
「今日だけは‥‥‥」
「勝ちに徹しますッッ」
勝ちに徹するといいながら、さっきの闘いはキケンな賭けだった。
勝ちに徹するつもりでも、やっぱりプロレス馬鹿一代だ。
この大会は、全ての試合がKOによる決着という荒れた大会だ。
ダメージの蓄積を考えると、長田の今後がすこし心配だ。
主人公が長田に交代したような雰囲気で二回戦は続行する。
続きは、未定――――――。
せがわ先生の新作「Y十M 柳生忍法帖」(04年12月)、「RED」(05年2月7日)、「R-16」(来春)、「SUGER 〜シュガー〜」(05年)、「ほぐし屋 捷」(来年)などが、全部ヤングマガジンに大量移民となる。
「強行」は05年に他紙で続編予定らしい。他紙とは、他の出版社のことか。
餓狼伝は移籍雑誌名も時期も書いていない。まだ内部調整ができていないのだろうか。
アッパーズ公式サイトでも情報を流すというので、講談社系の雑誌であることに変更はないようだ。
なんにしても、早目の連載再会を祈っております。
・追記 (04/10/26)
#さんに、神山さんの例があるので「全ての試合がKOによる決着」というのは違うと指摘を受けました。
確かに、これは私のミスです。「全ての試合が一本勝ちで決着」に訂正ですね。
神山さんの決まり手が「上段突き・寸止め(一本勝ち)」になっていて、微妙に笑えます。
また、人間凶器の片岡について「一回戦の残身を意識しているあたりからも日常的に多対一形式での組手を行っていると考えたほうが妥当なのでは」と指摘を受けました。
片岡は、荒行については語られていますが、試合での実績にふれられていません。
またモデルと思われる拳道会はどちらかというと伝統派の空手であり、フルコンタクト派の北辰館とは立場が違います。
そして、試合中に背後の警戒までしちゃうのは試合形式に不慣れな感じがします。
通常の修行で多数と組み手をしているなら、その数以上に一対一の組み手をこなしているはずです。
練習生全員が片岡のために組み手をするというのはヘンですし、片岡ほどの実力者であれば後輩の指導も行っているでしょう。
以上の点から、片岡は複数名の敵と戦う想定で一人で型稽古したり、砂袋を叩いたりしていたと考えました。
ところで、徒手の格闘技で複数名が同時にぶつかり合う組み手は実在するのだろうか。
人がぶつかり合ってキケンだからあまり行わないのかもしれない。
複数名におそわれたときの護身法は約束組み手で行うことはある。
合気道で練習生が指導員に順番にかかっていって、片っぱしから投げられる稽古もある。
古流の剣術(たしか北辰一刀流)では三対三で乱捕りを行う練習があるらしい。
だから、「多対一形式での組手」というのも無きにしもあらずというところだろうか。
アッパーズ休刊から一週間たった。餓狼伝のゆくすえはいまだ不明だ。
公式サイトには「アッパーズHPは2004年内あります。」と、一月になったとたん消滅しそうなコメントを出して不安にさせる。
ずいぶん前から板垣先生はアシスタントを募集している。
かなり人手に困っているようだ。
餓狼伝再開への障害は人手不足なのか!?
漫画の展開だけではなく、漫画化の展開まで予測不能だ。
2005年1月25日(4号)
はじめての餓狼伝
2月8日火曜日発売のイブニング5号より餓狼伝が再開する。
新しい雑誌で話の途中からはじまるので、新規読者には厳しい一手であろう。
というわけで、初心者にも優しいはじめての餓狼伝ガイドッ!
・そもそも「餓狼伝」とは?
作家である夢枕獏が、現代の宮本武蔵をイメージして書き上げた長編小説です。
どれぐらい長編かというと、始まってからずいぶんたつのに完結しておらず、しかもなにやら新要素を追加中で、話がどこに行くのかまるで見えない。
最近の夢枕先生は、自分が死ぬまでに話が完結しないとあきらめ始めているようで、大変こまります。
・イブニングで連載される「餓狼伝」とは?
漫画界の鬼才・板垣恵介が小説を漫画化したものです。
漫画化にあたり、さまざまなオリジナル要素が加わっており、単純な漫画化というよりリメイクに近いものがあります。
こういう漫画を俗に「原作クラッシャー」と言います。
・途中から読んでも大丈夫ですか?
たぶん問題ありません。その場、その場のシーンを楽しみましょう。
初めての人は主人公が誰かわからない可能性がありますし、過去にそういう人を見たこともあります。
しかし、ストーリーに絡んでこないと思われますので、気にする必要はありません。
・主人公とは?
大会が終わるまでの間は背景のようなものなので気にする必要はありません。
たぶん、二年ぐらいは知らなくても大丈夫です。
毎回表紙で知らない兄さんがポーズをとっていると思いますが、一応それが主人公です。
・いきなり大会が行われているのですが?
直接打撃(フルコンタクト)系の空手団体である北辰会館のトーナメントが行われているところです。
北辰会館は「地上最強」をうたい文句にしているので、他流派のトーナメント参加もみとめています。
今大会は特に他流派が多く、空手だけではなく、プロレス、キックボクシング、レスリング、ボクシングなど異種格闘技戦となっています。
選手紹介はこちらにまとめた事があるので、参考にしてください。
・ルールは?
オープンフィンガーグローブをつけて、顔面打撃・投げ・関節技・締め技など、なんでもアリです。
北辰会館の館長・松尾象山が第一試合開始直前にルール変更をしてしまったので、北辰会館門下生はすごく困っていると思います。
・松尾象山とは?
間違いなく「餓狼伝」最強の男だ。
どんな相手だろうと拳で殴りたおす、大のケンカ好き。
その拳はどこに当たっても一撃必殺。常識の通用しない男だ。
松尾象山を倒さないかぎり「北辰会館」を倒したとは言えないと主張し、実際この人は負けないので地上最強の看板はおろさずにすんでいる。
作中で大きな勢力を持つプロレス団体FAWのボス・グレート巽ですら一目も二目も置いているらしい。
・グレート巽とは?
プロレス団体FAWの戦う社長で、最強レスラー。
ケンカ好きと言うよりは、興行的な目的で門下のレスラーを大会に送り込む。
ざわついている会場の真ん中に出て行って、観客の心をつかませたら天下一品だ。
過去に闇プロレスで戦った経験があり、素手で人を殺したこともある。
・注目すべきポイントは?
古流柔術の竹宮流がキーポイント。
独特の技を持つ流派であり、トーナメントにも数名使い手が潜んでいる。
また、殺人を犯し逃亡中の竹宮流・藤巻十三が観客席にめだつ変装で潜んでおり、その動向も注目すべき点だ。
FAWプロレスラーの長田弘は、その藤巻から秘技を伝授されている。
いつ、それを解禁するのか?
・長田弘とは?
この大会はプロレスラー長田弘と空手家・姫川勉を中心として話が進んでいく。
と、思う。なにしろ原作クラッシャーなので、今後どうなることやら……
長田はプロレスラーの強さを証明するために。姫川は松尾象山への挑戦権を得るために。
それぞれ不退転の覚悟で試合に臨む。
なお、長田のセコンドについているのは同じくプロレスラーの梶原年男だ。
褐色の肌をもつ彼は、驚愕・解説の達人として試合場の外でも大活躍することだろう。
原作では主人公のライバルとしてそれなりに活躍するのだが、漫画版では腕折られたり、金玉つぶされたり、といい所が無い。
今大会の間ぐらいは負傷しないで欲しいものだ。
・姫川勉とは?
夢枕作品には欠かせない上品な物腰の美形。
優雅な技で汗もかかずに敵をたおす。
かつて松尾象山に腕を折られたことがあり、リベンジを誓っている。
また、藤巻十三から恨みをかっている。
・最後に
餓狼伝は掲載紙であったコミックバーズが出版社倒産のため、ヤングマガジン アッパーズへ移籍し、アッパーズ休刊のため、イブニングへ移植される。
このへんで、恒久的に定着してください。
ついでに、このトーナメントの通な見所について。
この大会は、突き詰めてしまうと「松尾象山のワガママ」で成立している。
つまり、松尾象山がどう動き、みながどう振り回されるかがポイントだ。
たぶん、最大の被害者は審判なので、彼の動揺っぷりにも注目だ!
これからは、第二・第四火曜日は餓狼伝の日だッ!
2005年2月8日(5号)
餓狼伝 Vol.140
餓狼伝、イブニングにて復活ッ!
もはや説明不要ッッ!!
って、え〜〜〜〜! 本当に説明のページがひとつも無ェッ!
恐るべき感性マンガだ。考える前に読め! なのか。
餓狼伝初体験の人向けに説明を書きましたので、参考にしてください。
連載再開の先陣をきるのは、餓狼伝最強の男・松尾象山だ。
前回までスーツ姿だったのに、いつの間にか空手着に着替えいる。
そして、観客を前に模範演武をみせるのだった。
二回戦の第一試合が終了したところで演武をするというのも変な話だ。
熱い試合を見て、体を動かしたくなったのだろうか。
マット中央に立てられた畳に手をかけ、松尾象山が静かにたたずむ。
畳を相手に試し割りだろうか?
カワラなどの硬いものなら割れやすいし、インパクトもあってわかりやすい。
畳だと殴っても割れないし、試し割りには向いてない。
メリィ‥‥ッ
いきなり松尾象山が畳をつかんだ。
新聞紙をわしづかみにするように、ショベルカーが地面を掘りかえすように、畳に指をメリ込ませてつかんでいる。
さらにひねりを加え、手を畳にもぐりこませていくッ!
なんというムチャな。カステラじゃあるまいし、ハハ…。
グボ
『つッ』
『突き抜けたァッッ』
青函トンネル開通に匹敵しそうな、ひとりプロジェクトX 畳素手づかみ開通ッ!
技でも術でもなく、ただ力のみ。
か、空手じゃねェ………。
この人、素手で人を解体できそうだ。否、間違いなくできるッ!
『かつては刀剣から身を守る盾として使用したと聞き及びますッッ』
『あるときは銃弾を防ぐ壁にしたと聞きますッッ』
そんな畳もかるく引き裂いてしまう。
空手家なんて組みついて倒せば終わりだと思われている。だが、松尾象山に関しては大間違いだ。
松尾象山なら、手を伸ばして相手の体をむしり取る。
この男の手の届く範囲が、危険地域だ。
ところで、畳を破ったのは、直前に金メダリスト柔道家の試合があったからだろうか。
柔道の使う畳なんて、こんなモンだと。
でも、松尾象山に関しては空手とか柔道とかのジャンルを超越しちゃっている。
だれにもマネのできない演武を終えた松尾象山館長をジャーナリストの引木が直撃インタビューする。
松尾象山のすぐそば、危険地域に入って捨て身の取材だ。記者の鑑ですな。
しかし、さすがの引木も汗をかいている。抜き身の刃物を突きつけられているような緊張がありそうだ。
ちなみに引木の助手は圏外に退避している。まあ、これが一般人の反応だな。
「あなたにとって」
「強さとはなんでしょう」
最強の人間に問いかける。強さとはなんだ?
確かな強さを持っている人間だから、答えることができる。
最高の美食をたずねるなら、グルメに聞けってところだ。
そして、至高の強さを手にしている男は答えるのだった。
「己の…」
「意を通す力…」
「ぶっちゃけ ワガママを貫く力ってことさ」
ッッッ!
二回戦の第一試合が終了したところで演武、という意を通すことかッ!?
わ、わかりやすい……ッッ
空手道・北辰会館という組織が一個人にふりまわされている。
「それもできることなら」
「こいつで通してェ…」
そういって、松尾象山は拳を突きだした。
畳をつかんでちぎる手は、拳になると違った迫力を見せる。
ゴツゴツとした拳ダコをもつ、ぶっとい拳だ。
まるでドラえもんの手のように まんまるで、何でも破壊する不思議な拳だ。
(ナルホド……ッッ)
「金銭…… 地位…… 人脈…… 知恵……」
「腕っ節が弱ければ 腕力以外の様々なものを使わざるを得ない」
引木が納得する。
さりげなく松尾象山に知恵はいらないと主張するのが心憎い(違う)。
腕っ節が弱いと、地位を築いて人脈つくって、知恵を絞って試し割りのトリックを仕込まなくてはならないのだ。
って、餓狼伝BOYのことか!?
今後もワガママ通します宣言をして、松尾象山が去っていく。
惚れ惚れするようなワガママっぷりに新規読者が彼を主人公とカン違いしそうでこわい。
たぶん、館長がスーツに着替えるまで試合は中断されるのだろう。
むむぅ、現在進行形でワガママ発動中だ。
そのころ、男子トイレで異常事態が発生していた。
TSUNAMIのごとき大量放尿をする男が、小便器を占拠していたのだ。
とどまることを知らぬ怒涛のラッシュに後続の男がいらだっているッ!
「いつまでやってんだテメェはッッ」
そういわれても、出ているものは仕方あるまい。キサマが代わりに出すわけにはいかんのだ。
大量尿男は無言でひたすら出しつづける。
実は止まらなくて、内心あせっているのかもしれない。
「聞ィてんのかよ」
後ろの男は横に立って因縁をつけてくる。
それに対し、尿男は陰茎の尿切りで「ブルン ブルン」と答える。
ふることによって発生する、尿滴ッ! リアル Mr.フルスウィングだ!
男の眼めがけて飛ぶそれは、まさしく尿弾の絶技であった。
「うッ!!!」
尿弾により男は眼にダメージを負った。視力を一時的に封じられたのだ。
そのスキをついて、尿男はイチモツをしまう。
危険な部位をさらした状態、いわば死に体から通常状態へ移行したのだ。
この間の取り方、スキのつくりかたはタダ者ではない。
飛ばしかたは、もっとタダ者ではないッ!
「まてコラッッ」
尿を飛ばされたのだ。そりゃ、怒るだろう。男は怒りにまかせて突っかかる。
だが、尿男はその突撃を片手で止めた。
尿だけではなく、腕力もすごいこの男とはッ!?
そう、この尿男こそ餓狼伝の主人公・丹波文七であった。
「うるせェなァ……」
「モタモタしてっともれちまうぞ」
「はやくすませち…」「ま…」「い……」「な」
同時に丹波が男の鼻を握りしめる。
その衝撃で、せき止められていた男の黒沢ダムは決壊する。
ジワァァ…‥
足元に水溜りをつくり、男は敗北した。
どうも、切実に緊迫した状態でたまっていたようだ。だからイラついていたのか。
「あらら……」
「ハハ…」
「意(ワガママ)を貫けなかったか……………………」
己の放尿を貫き、他者の放尿をさまたげる。
丹波文七、新天地での初勝利であった!
し、新連載が尿まみれッッ…‥
とりあえず、尿の話は置いといて(あとで拾います)、ついに新連載だ。
中断前の前回に丹波の姿が見えず心配していたが、トイレに行っていたようだ。
涼二の姿がないので、あまりに長い尿であきれて帰ったのだろう。(ッ!? たった二行で尿を拾ってしまった)
とりあえず、尿の話は置いといて(あとで拾います)、新天地で新連載なので主人公を登場させたのだろう。
どこにも説明が無いので、新規読者には彼が主人公だとわかったのか微妙だが。
次回からはまた背景の人として地味に活躍すると思う。
そして、次回から試合再開だ!
君川京一と工藤健介の北辰会館同士の闘いになる。
ある意味では話題性のうすい試合だ。
それだけに高度な攻防のある展開で、盛り上がって欲しい。
なにしろ、この試合の勝者が裏主人公の長田と闘うのだ。
次回からの、本格始動が待ち遠しいッ!
置いといた物を拾います。
水・酸素・砂を武器化するのが当たり前の板垣ワールドに新しい兵器が追加された。
小説版・餓狼伝では酸味のあるオレンジジュースを目潰しに使う描写がある。
対する漫画版はアンモニア味で目潰しだ。小説版の息吹を映像に伝えるアレンジだ。
しかし まあ、あの量は出した丹波本人が驚いていたのではないだろうか。
(出るッ! まだ出るッ! いいのかこんなに出しちまって…
シン‥イチ‥‥、オ‥‥オレはさァ‥‥ッッ)
だれだよ、シンイチって。というよりシンイチにどうしろと言うのだ、ってな感じの状況だ。
己の肉体からほとばしる現象に丹波がおののく。
(よし…。うん、よし。わかった…、わかったよ。
まったく止まらない、それでいい。
どーしても止まらない、それもいい。うん。
だからさ……、もーちょっと待って、後ろの人)
山田くん(後ろの人)には よくない。
内心では丹波もあせりまくり。そして更なる緊急事態が。
(あ… 出る…ッ 大きいほうまでッ
やめろッ マジでッッ こいつが出ちまう!)
丹波がみょうに乱暴だったのは、彼もギリギリでガマンしていたからだったりして。
なんにしても、同じ雑誌に料理漫画がのっていようがお構いなしのワガママっぷりが健在で何よりです。
作者コメントは『見てろ!(板垣)』の一言のみ。
これは、今後も見守っていくしかあるまい。
もう、我々は引き返せないところまで来ているのだッ!
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