餓狼伝(VOL.121〜130)

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2003年5月20日(11号)
餓狼伝 Vol.121

 バーリトゥード(なんでもあり)であっても反則となるのが「目潰し・噛みつき」である。
 ファールカップの上から金玉を蹴りとばすことは許されても(昔は)、目ン玉への攻撃は許されないのが総合格闘技 死の掟である。

 異国でもまれながらランキング入りしただけのことはある。
 真正面から打ちあう激しい攻防の中に、安原は巧妙に目打ちをおり込んだ。
 速く、強く、したたかで、汚い エゲツない。

「夥(おびただ)しいコンビネーションに隠され―――――――」
「放たれた反則は」
「見る者の目に止まろうハズもなく――――――」
「ただ‥‥」
「多少の例外を除いて‥‥」


 すぐとなりにいた審判ですら気がつかなかった巧妙な反則だった。
 だが、これに気がついた人間が少なくとも3人いた。
 松尾象山、姫川勉、丹波文七。
 やはり餓狼の動きを見破れるのは餓狼だけということだろうか。彼らは安原がなにをやったのかを見ていたのだ。

 鞍馬は見ていなかったのか?

 それはともかく引き寄せたチャンスをクセ者の安原が見逃すはずがない。
 71キロの全体重をぶつけるように、安原が飛びヒザ蹴りをブチかます。

 歯を飛び散らせ目をゆらせてドルゴスが前のめりにたおれていく。
 慌てて審判は試合を止めようとする。
 だが、安原は止まらない。無防備に顔面をさらしているドルゴスの顔面に蹴りを入れる。
 背足(はいそく:足の甲)で蹴る空手の蹴りではない。スネで蹴るムエタイの蹴りだ。
 より強固な一撃がドルゴスの鼻にメリ込む。
 鼻への奇襲で始まった試合は、鼻へのダメ押しで決着した。

「オオッオラァッ」

 安原が会場を震わせ咆えた。
 審判が慌てて安原の体を止める。
 うつ伏せに倒れるところを蹴り飛ばして、あお向けにひっくり返したのだ。
 天をあおいで倒れる183センチ・131キロを見おろしながら安原の闘志はいまだに消えない。

「起きてこい オラァッ

 奇襲で頭突きを鼻に喰らったことを、根にもっていたのだろうか。結構しつこい。

 汚い攻撃だし、容赦ない攻撃だが、こいつは熱いッ!
 徹底して勝利にこだわる根性と、燃えさかる闘志は今までの選手の中でもひときわ目立つ。
 こうなったら一見ナンパ系対決で鞍馬と闘うのも面白いかもしれない。

『圧倒的ハンデを乗り越え』
『とんでもない男が2回戦へと駒を進めました』


 空手六級の白帯しめて「オスッ」と空手流に十字を切って安原は舞台から降りていく。
 下で待つのは例の彼女だ。激闘をくぐり抜けた安原は汗を大量に流しているのだが、それにかまわず抱きついてくる。
 うん、まあ、安原カッコよかったからね。汗だって気になんあいんだね。
 それはそれとして、人前でいちゃつくな。範馬・鞍馬に続く「第三の種馬」ってアダ名つけるぞ。


 次の試合で勝利した者が安原と闘うことになる(推定)。
 次の出場者は―――――――、立脇如水であった。
 前回優勝者であもある、ひそかな実力者だ。
 経歴から考えると、堤よりも強いはずの男だ。

 同じ夢枕作品で言えば「獅子の門」の麻生誠みたいな存在だ(注:マニア向けなネタ)。
 ところで夢枕先生、いつになったら麻生誠の闘う姿は見られるのでしょうか。
 夢枕作品の秘密兵器は本当に秘密だ。

 前回優勝者だけに記者たちの注目は高い。
 金メダリストである井野の注目度にも負けていない。
 そして、笑顔で受け答えする立脇も堂々として落ちついている。

「あの‥‥」
「顔面への手技が――――」
「ありとなしとでは‥‥」
「立脇選手が経験してきた試合とは」
「ずいぶん違うものになりますよね」


 ジロ‥‥と立脇は質問をした記者をにらんだ。
 福々しく笑っていた立脇の表情が消えている。
 静かなる実力者の内側に気迫がこもる。
 立脇は素手同士の闘いに置いて顔面を狙うのは本能と断じた。

「松尾象山館長が空手を始められる遥か古(いにしえ)より空手は人間の本能を大前提に日々研鑽を続けてきたのです」

 続けて、顔面を打たない今までの試合は空手ではないという爆弾発言も飛び出す。
 ボクシングの中にありながら、総合格闘技をイメージしていたバキのマホメドのような思想を持っていたのだろうか。

 さり気なく、トンデモないことを言っています。
 下手すると館長批判になる。
 松尾象山は器が大きいので、こういうこと言っても平気なのだろうか。
 これがFAWなら、巽に呼び出されて金玉1つを失うところだ。

 反則と気がついていても安原を見逃しているし、松尾象山は単純に北辰会館を勝たせるというだけではなく、もっと大きな視点で物事を考えているのだろう。
 単純にその方が楽しそうというのが理由かもしれないが。

「お見せします」
「本当の空手を」


 静かなる巨人・立脇は立ちあがり、会場に向かう。
 その自身と気迫、そして巨体に周囲の人間はあわてて道をあける。

 立脇の力強い発言に期待感を高められた記者だったが、そこに衝撃のニュースが届けられる。
 5年以上前の陸上競技の雑誌に「怪物現る」と書かれた男が立脇の相手だという。
 その男の名は、鞍馬彦一。FAW・グレート巽の後継者と言われている男だった。

 なにが衝撃って、立脇の相手が鞍馬という事実ッ!
 話の展開からすると鞍馬が負ける可能性は極めて少ないので、立脇如水が1回戦敗退なのかッ!?
 これは波乱に満ちすぎた展開だ。

 つうか、誰だこのトーナメントを考えたの。
 怪しげな鞍馬をエースの立脇にぶつけるのは、なにも考えていないとしか思えない。
 なんか、単純にその方が楽しそうという理由で決めてそうだ…………って、決めたの館長か?


 立脇 vs 鞍馬が決した時点で、準決勝は「長田 vs 鞍馬」が予想される。
 原作では長田は姫川と闘うのだが、板垣版では少し怪しい。
 長田が鞍馬を倒せるのかどうかは、非常に微妙だ。
 なにしろ長田の実力を知る巽が送りこんだのが鞍馬なのだ。普通に考えれば実力は鞍馬の方が上だろう。

 そうなると不確定要素として「虎王」の存在が浮上してくる。
 長田が最後まで「虎王」を温存できれば、決勝で姫川に勝つことも夢では無いだろう。
 楽しみと不安の入り混じった展開になりそうだ。

 まあ、その前に鞍馬は立脇如水を倒し、キックの安原を倒し、志誠館・片岡輝夫を倒さなくてはならない。
 この3タテはかなりきびしい闘いだ。

 例え立脇に勝っても次は安原だ。  安原のリアル彼女に対し、鞍馬は電話の向こうにしか存在しない仮想彼女で対抗するだろう。
 この時点で鞍馬はかなり負けている。
 巧妙に反則をする安原なら、巧妙に金的を思いっきり蹴り上げてくれるに違いない。
 それこそ、ヘソの下に達するほどに蹴り上げることだろう。
 当然、松尾象山は大喜びで反則にならない。
 アンテナがポッキリ折れた鞍馬にかわり、代打・久我さん!(ぇ
by とら


2003年6月3日(12号)
餓狼伝 Vol.122

 鞍馬彦一・幼年編、13歳の怪物についての話である。
 鞍馬を特集した記事を担当したのは、原本というスペックを若返らせたような風貌の男であった。
 バーチャル スペック・原本40歳(?)丸禿げは当時のことを「スッゲェ嬉しそう」に、「セキを切ったように」話すのだった。

 記事に散らばる「超人」「怪物」「空前絶後の」「天才」「神懸り的な」などの文字からも、当時の原本が興奮の絶頂にいたことがわかる。
 原本はセナやタイガー・ウッズを超える、歴史に名を刻む英雄の誕生に立ち会ったのだ。
 そう、当時は思っていたのだろう。
 その興奮と感動が今も残っているのだ。

 100mを10秒代で走る中学生を取材にいった原本(10年前から丸禿げ)は、そこでガクランを着た中学一年生の鞍馬に出会う。
 初対面でイキナリ鞍馬はその中学生と一緒に走りたいと言いだす。
 この不遜な態度は、幼くても鞍馬彦一という所だろう。ただ、ちゃんと断りを入れているので、このころはまだ礼儀正しさが残っていたようだ。
 現在の鞍馬だったら、イキナリ横からあらわれて選手を追い越してゴールするに違いない。

「勝っちまったワケだ」
「鞍馬が」

「さすがに楽勝ってことにゃならなかったンですけど
 ええ‥‥‥‥確かに」
「しかも勝ったほうはバッシューですからねェ‥‥」

 勝った、しかもバッシューで。
 週刊少年チャンピオンで水島新司が「ドカベン プロ野球編」の前に連載していたのが、「おはようKジロー」という野球漫画だ。
 この作品の序盤は主人公Kジローが野球部を作るために、運動部のエキスパートをそれぞれの分野で勝負してスカウトしていく。
 最初の相手は陸上のエース阿久根で、100m勝負を挑みKジローは僅差でやぶれる。
 勝利した阿久根はその晩、自分は陸上シューズをはいていたのに、Kジローはスニーカーだったことに気がつく。事実上、敗北していたのは自分だ。阿久根はそう思い、野球部に入部する。
 つまり、クツの差はそこまで重要なのだ。
 わんこ蕎麦対決なら、自分は普通のそばつゆだったのに、相手はドクターペッパだったぐらいの差がある。
 道具のハンデをモノともしない怪物の誕生だ。

 輝くダイヤモンドの原石を前に大興奮した原本は、試みに鞍馬へ十種競技をやらせてみる。

 十種競技 ――デカスロン――

 陸上競技の最高峰で最も過酷な競技である。
 全てにおいて完璧を求める超人の競技であり、2日にわたって「100m、幅跳び、砲丸投げ、走り高跳び、400m、110mハードル、円盤投げ、槍投げ、棒高跳び、1500m走」を行う。
 ちなみに板垣先生も絶賛していた「度胸星」の山田芳裕が、そのままズバリの「デカスロン」という漫画を出している。
 2日に分けて行うはずの競技を(それも大学生以上が行う競技)を1日で完遂させてしまう。
 象と綱引きして勝ってしまいそうな体力を、13歳の鞍馬は持っている。

「フォームもセオリーもあったものじゃない」
「服装(なり)はさっきも言った通り学生ズボンにバッシュ―――――」
「メチャクチャのやり方でメチャクチャのまま」
「十種目中の九種の競技に」


 当時の中学生、はたまた高校生の記録と同等かそれ以上の記録を打ち出した。
 基礎はメチャクチャでも、身体能力と学習能力でなんとかしてしまうスタイルは現在の鞍馬と同じだ。

 記録を出せなかった唯一の1種目は棒高跳びだった。
 鞍馬、バーをブチ折る。
 高みへ登ろうとしてブチ折れて落ちる。なんか、象徴的だ。
 ごくまれに選手のパワーに耐えられずバーが折れることがあるらしいと解説が入るが、そこをなんとかするのが技術である。
 これは、鞍馬が技術不足で高みから落ちるという伏線だろうか。

 確実にオリンピックで数種の金を狙える器だった鞍馬だが、グレート巽がその噂を聞きつけ運命が大きく変わる。

「巽も元々は砲丸投げの名選手でしたからね
 さほど警戒もしていなかった‥‥」


 なんと、巽は陸上競技の関係者に警戒されていたようだ。
 将来有望なピチピチの少年をかどわかす、>アスリート界の 男色家 漁色家として名をはせているのだろうか。

「あの野郎財布ごと渡したんだ
 札束でハチ切れそうなやつを中学生にッッ」

「俺にならないか!?」


 高級そうな革製のサイフをぽんと鞍馬の手に乗せ、決め台詞ッ!
 丹波文七ですら圧倒された「華」の持ち主だ。
 中学生がこんなカリスマの直撃を受けるのだ。小学生にウォッカを一気飲みさせる行為に同じだ。絶対酔う。
 それも、ひどい悪酔い。

「誰が断れる‥‥」
「相手はグレート巽だぜ」
「俺でも断れねェ」


 板垣先生は著書「格闘士烈伝」で巽のモデル アントニオ猪木をこう評している。

『でも、真っ当な人は絶対に付いていっちゃいけない人間でもあるんだ。そうは分かっていても、猪木に、「一億円用意してくれないか」って言われれば、俺なんて必死になってなんとか役に立とうって思っちゃうんだろうね。猪木がそういう台詞を口にすると。』

 そりゃ、巽に誘われたら断れない。喜んで一億積むしかない。
 巽の魔力で鞍馬の性格が現在の方向に加速しちゃったのだとしたら、微妙な部分で罪作りな人だ。
 でも、鞍馬の性格が歪んだのが巽のせだとしても、鞍馬を憎んで巽を憎めない
 グレート巽、恐るべき人間力だ。

 ちなみにシウバと対談している板垣先生は、シウバの口から「何か自分に手伝えることがあれば、是非やらせてもらいたいなあ。」と言わしめている。
 恐るべき板垣恵介。猪木の場所まであと数歩だッ!
 ちなみに、シウバはバキ161話でデイヴというキャラクターとして役に立っているので安心してください。


 現在―――――。
 その怪物・鞍馬彦一23歳がついに表舞台へ飛び出す。
 10年の年月は怪物はいかに成長したのだろう。
 その怪物を肩を叩き、さらに大きな怪物 ―――グレート巽――― が送り出す。

「遊んでこい」

 本当は、鞍馬が主役となって活躍するはずの場面なのに、きっちりとおいしい所をさらうグレート巽であった。

 対戦相手は前年度優勝者の立脇如水。
 間違いなく、今大会最強クラスの強者である。
 世界に通用する身体能力と、黒の空手家・久我重明から直伝された暗黒空手の超合金はいかに闘うのだろうか。
 と、思いつつ、なんかエピソードの展開が烈vs克巳っぽい気がする。一撃で終わったら、どうしよう。
by とら


2003年6月17日(13号)
餓狼伝 Vol.123

 前年度優勝の肩書きはダテかッ!?
 噛まれること犬のごとしなのかッ!?
 バキのニューフェイス張 洋王以上にキケンな存在(本人の地位が)となった立脇如水。
 あれだけデカく見えた体躯が、今では引き立て要素に見えてしまう。

 空手・北辰会館 立脇如水 192センチ・118キロ
 プロレスリング 鞍馬彦一 185センチ・105キロ


 100キロを超える2つの肉が、全存在をかけてぶつかり合う.
 顔面パンチと組み技の解禁も大歓迎と言っていた立脇である。
 17歳まで柔道をやっていた経験もあり、原作ではある対戦相手の腕を折っている。
 離れても組んでも闘える万能型の格闘士なのだ。

 ところで、原作の「餓狼伝VII」では立脇の身長が193センチになっている。

 ――――――ッッ!
 これか! 立脇の運命を決めたのは、この1センチの差なのかッッ!?

 一方、ここで負けたら、腹を切るしかないのが鞍馬だった。
 久々に明るいところに出られそうだった梶原をぶちのめし、試合を奪った男だ。
 グレート巽の後継者と言われている男だ。
 負けることは許されない。もちろん巽に許してもらえない。切腹しなくても介錯してくれます。
 勝って当然、負けたら切腹。苦戦で玉1つ
 鞍馬彦一、人生かかっています。本人の知らないうちに。

『神懸り的身体能力の持ち主と聞きますッッ』
『あのグレート巽の秘蔵っ子と聞きますッッ』

『噂が噂を呼び もはや正体不明ッッ』


 アナウンサーも誉めまくる、アオりまくる。
 相変わらず外様の選手に対しても、平等以上に熱く語るアナウンサーだ。

 数々の噂を持つ鞍馬だが「本体は携帯電話で体をいくら攻撃しても倒すことができない」など、ゆでたまごがやりそうな珍説まで飛び出している。
 正体不明の生きた都市伝説が歴戦の勇者と闘う。
 背後ではグレート巽が(制裁を加えるために)見守っている。
 まさに背水の陣だ。

 ドンッ

 ついに一回戦最大の闘いが開始(はじ)まった。
 はぐれFAWコンビとなった長田と梶原も熱い視線で試合を見る。
 彼らが主とあおいでいたグレート巽は鞍馬のセコンドについている。自分たちはプロレスラーの代表として出場したつもりが、巽には認めてもらえなかったのだ。
 前日には鞍馬・八百長依頼事件などもあった。
 深い因縁がある鞍馬の試合を、奥歯を鳴らしながら長田は見るのだった。

 試合は静かにはじまった。
 拳による顔面攻撃を認めた試合形式に対応するように立脇がガードを上げる。
 この構えだけで会場中が沸きあがった。立脇には王者の貫禄がある。
 下半身は後屈立ちに近い形で立つ。標準的な構えだ。
 組み技を警戒しているのかフットワークはない。

 対する鞍馬は深く身を沈めた。
 獲物に飛びかかる猫科の肉食獣のような一撃を狙っているのだろうか。

『空手の構えと言うよりはなにか‥‥‥』
『陸上競技の短距離走のスタートのような‥‥‥』


「グラップラー刃牙」でジャック・ハンマーがみせた2足歩行の猛獣の構え、あるいは合気柔術を圧倒したクラウチングスタートからのタックル、それらを思わせる最速攻撃の構えだ。
 見たことのない構えに立脇が前に出られない。
 間合いが読めないのだろう。

 どこまで近づいたら、相手の間合いだろうか。
 おそらく、そう自問していた立脇の唇が笑った。
 冷や汗をかきながらも、敵の攻撃を恐れることはないと判断したのだろう。
 あれだけ身をかがめては、蹴りは出せない。腕を伸ばしているので、パンチも出しにくい。
 そうなると、出てくる攻撃の予想がつく。

 立脇は前に出ていた左足を、さらに一歩踏みだした。
 その左足が地に着く前、まだ浮いている瞬間に鞍馬が仕掛けた。

 金メダルを狙える逸材と言われた陸上の至宝による弾丸タックル。
 信じられない間合いから突っ込んで来た。

 だが、それは立脇にとって予想の範囲内だったのだろう。
 鞍馬が動いたとみた瞬間、立脇も動いていた。
 踏み出した分ややきゅうくつだが、下段廻し蹴りで迎撃をはかる。
 全身で突っ込む高速タックルだ。それに蹴りの相対速度が加われば一撃必殺のカウンターとなる。

 必勝の確信をこめて放った蹴りが、空をきった。
 低空タックルどころではない。アゴが地面をこするような超々低空タックルだ。
 鞍馬は神懸った身体能力でローキックの下をかいくぐった。
 さらに鞍馬はその状態から踏みとどまり、立ちあがる。

「ようッ」

「お‥」


 身長192センチの立脇に、185センチの鞍馬の顔が近づく。
 まるで接吻するかのような急接近だ。
 立脇は思わずマヌケな返事をかえしてしまう。負け犬のキケンなかおりがする。
 瞬間、鞍馬の体が反転した。
 上半身と2本の足をバタフライナイフのように動かしたのか、正体不明な動きで鞍馬の右上段蹴りが立脇の顔面を捉えた。

『王者・如水"正体不明"に憤死せり!!』

 とアオリに書かれているが、本当にこれで最期なんですかいッ!?
 なにもできないまま負けたら、そりゃ憤死でしょうが、それではいくらなんでもあんまりだ。
 ああ、立脇があと1センチ大きく193センチであったなら………


 今回の鞍馬スペシャルだが、超低空タックル→踏みとどまって起き上がる→前転しつつ蹴り、という流れだろうか。
 タックルする時に生じる前方への運動エネルギーを縦方向へ向けたところで回転を加えている。走り幅跳びを応用した攻撃かもしれない。


 鞍馬は相変わらず奇襲気味の攻撃をしている。
 その戦闘スタイルは、鞍馬の生き方そのものなのだろうか相手に力を発揮させず、要領よく勝つ。
 最短・最速でハデ好みな感じもある。

 長田は逆になかなか自分の攻撃にうつれない。不器用に打たれながら前に出て相手にかじりついて勝利する。
 地味で忍耐力を必要とする闘いかただ。

 板垣先生は、こういう戦闘スタイルの違いを意図して描きわけているのだろうか。
 となると姫川はやはり華麗な闘いを見せるのだろう。
 逆に、梶原は今後光ることは無いんだろうな…。

 鞍馬の師である巽も、サクラ戦を振りかえると奇襲・奇策が多かった。
 そういう意味で鞍馬は巽の正しき後継者なのだろうか。

 ただ、鞍馬には巽のように奇策を使ってもなお支持されるような圧倒的カリスマ性が足りない。
 今後は、人間力も鍛え上げたほうがよさそうだ。
 今の鞍馬では「俺にならないか!?」とサイフごと人に渡しても、即断られるだろう。
 だって、鞍馬のサイフには携帯電話がハチ切れそうに詰まっていそうだし。
by とら


2003年7月1日(14号)
餓狼伝 Vol.124

 不沈船と言われたタイタニック号は初航海で沈没した。優勝候補筆頭と言われた立脇如水も初試合で沈みそうだ。

 ガードの上からではあるが、まもに鞍馬の蹴りを喰らった。
 蹴り終わったフォームを見ても鞍馬の攻撃がどういう動きだったのか、わからない。
 まさに既知の外側に存在する技であり、変態 天才の証かもしれない。

 この攻撃で立脇の中身(意識)がちょっと漏れた。中身のなくなった立脇はそのまま尻餅ダウンする。
 攻撃を決めた鞍馬はきっちり残心を思わせる決めポーズをとり、アピールも忘れていない。
 やはり鞍馬は目立つのが大好きなようだ。

「い‥」
「一っぽ‥」


 北辰会館の最強選手が初戦の開始直後にダウンするという異常事態である。
 漫画雑誌を買ったら目当ての漫画が作者急病のため休載になっていたようなものだ。ちょっと違うか。
 とにかく北辰会館にとって大打撃だ。だが、審判は冷静に判定を下さなくてはいけない。
 立脇の敗北を伝える「一本」を宣言しようとする。

 だが、立脇はそこから跳ね起きファイティングポーズをとる。
 目はまだ虚ろだ。意識がハッキリしているかどうか分からない。
 しかし、空手家の本能が倒れることを拒んだのだろう。

「〜〜〜〜ッッ」
「技有りッッ」


 とっさに主審は判定を変えた
 誰の目にも明らかな一本だっただけに会場内は騒然とする。
 こういった判定は人間がするのだから、多少の違いは出てくる。
 だが、ここは北辰会館主催の試合なのだ。全ての判定は北辰会館有利となっておかしくない
 だから、120話で安原は抗議をしなかったのだろう。
 それが他流の試合に出るということなのだ。

 審判に口答えをし、自分のボス・巽を見て、松尾象山を見る鞍馬はその辺が甘い。
 いきなり素っ裸になった長田も甘かったかもしれないが、それ以上に鞍馬にはちょっと覚悟が足りないような気がする。
 巽が自分のかわりに抗議してくれたり、松尾象山が一本を認めてくれると思っていたのだろうか。
 巽には軽軽しく動けない組織の長と言う立場があるし(川辺さんがいれば抗議させただろう)、松尾象山は他流者の反則だって見逃す人なのだ
 格闘家なら口で文句をいうより、闘って結果を出してみろということだろうか。

 それでも松尾象山の表情が微妙なのは、立脇がだらしなかった上に審判がセコイまねをしたので、すこし腹が立っているのかもしれない。
 それでも口を出さないのは、本日すでに2回も判定にGOサインを出しちゃったので、これ以上やると主審の面子が潰れると気遣っているのかもしれない。

 この人の場合、頬をコリコリかいただけで会場の人間が注目してしまうカリスマ性をもっているのでこれでも自重しているのだろう。
 ただ、象が身を縮めているようなもので、あまり意味が無い気もする。

「ナ・ル・ホ・ド・ね〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
「くつがえらないワケだ‥‥‥‥」


 鞍馬の表情が凶暴にゆがんでいく。
 いままで余裕のバカ陽気をふりまいていた男が血管を浮かせて怒っている。
 鞍馬が登場してからここまで怒りを見せたのは初めてではないだろうか。
 必死な表情とか、死にかけの表情なら何度か見せたが、怒りは初めてだと思う。

 はっきり言って、鞍馬は性格が悪い。
 時々、ひどく自分勝手な言動をする。
 敗者を踏み付けさらしものにしたりする。たとえそれが梶原の運命だとしても、むごい仕打ちだ。
 鞍馬は、天与の肉体を持っている。だから、通常の人の視点を持っていないのかもしれない。
 おまけに師はグレート巽なもんだから、失敗したグレート巽になってしまったのだろう。
 巽の悪い所だけは必要以上に受け継いでいるとしたら、殺し屋(キラー)としての才能も持っているはずだ。
 その危険な性癖が目覚めようとしているのを感じる。

「えらいことになるぜェ」
「この判定で一ば〜〜ん困ってるのが」
「チャンピオン本人だってのによ」


 不公平な判定を受けた鞍馬は、ただで済ませる気はないらしい。
 彼のいうとおり、立脇にとってこれからが地獄となる可能性が高い。
 選手生命を断たれるようなダメージを負わされるかもしれない。

 判定に救われたものの立脇は絶体絶命だ。
 まだダメージが残っている。意識は戻ってきたが、立脇の視界はドロドロに歪んでいる
 頭蓋骨の中で脳が揺れているのだ。こうなっては自分が立っているのか寝ているのかもわからないだろう。
 攻撃するどころでは無い。
 なんとか時間を稼いでダメージを回復させないとマズイ。

 もちろん鞍馬はそんな時間をあたえるほど甘くない。
 立脇の目が泳いでいるのを見破ったのか、悠然と近づいて、いきなり身をかがめる。
 正常な状態なら目で追える動きだが、今の立脇はこのフェイントで鞍馬の姿を見失う。
 どんな時でも奇襲を忘れないところが鞍馬らしい。
 鞍馬は、かがんだ状態からチョッパーブローを立脇に叩きこむ。
 最初の蹴りはガードしていた立脇だが、今度の攻撃はまともに喰らってしまう。
 風圧でまぶたも浮き上がる強烈な一撃だった。
 前回も書いたが、これで立脇は最期を向かえてしまうのだろうか?

 今回も鞍馬は奇襲攻撃だった。
 絶対有利の状況であっても正面から闘いを挑まないという、恐るべきしたたかさだ。
 別の言い方をすればセコイ。

 せっかく超常の肉体を持っているんだから、もっとハデな正面突破を見せてもいいと思う。
 なんか能力の出し惜しみを感じる。F1マシンに乗って近所のコンビニに買物に行くようなものだ。
 レース場で全力出そうよ。

 一方の立脇は、地元有利の判定だったのに、もがけばもがくほど状況が悪くなる格闘アリ地獄に落ちてしまったようだ。
 次回から鞍馬の容赦ない攻撃が始まりそうで非常にお気の毒だ。前回優勝者と言う肩書は鞍馬の踏み台になるためだけにあったのだろうか。

 逆転の秘策として鞍馬のロン毛をつかんでみたらどうだろうか。
 向こうがつかみ返したくても、丸坊主頭ではつかむ髪が無い。
 …もう、そんな事ぐらいしか逆転方法が思いつきません。

 もう立脇については、北辰会館の梶原とでも思って複雑な気持ちで見守るしかないのだろうか。
 いやね、梶原だって原作じゃ強いんですよ、原作では。
 腕折られないし、金玉だって失わないし、丹波の良きライバルみたいなポジションだし。

 最新刊(XIII巻)には出てきませんが。
by とら


2003年7月15日(15号)
餓狼伝 Vol.125

 餓狼になれず、噛ませ犬で終わるのか?
 寝れば敗北、立てば地獄。立脇の苦難はまだ続く。
 鞍馬のチョップブローをまともに喰らい、立脇は鼻がつぶれアンパンマンのような面相になってしまう。
 鼻を打たれて涙だってでちゃう、あんこも出そうだ、大ピンチ。

『揺らいでいるッッ』
『王者の巨体が傾いたァ〜〜〜ァッ』


 立脇もこんどこそダウンかッ!?
 しかし、このままダウンすることを鞍馬が許さなかった
 倒れそうな立脇の腕をつかみ、引っ張りこむ。
 フロントネックロック、またの名をギロチン・チョーク。範馬刃牙がジャックを切って落としたアノ技だ。
 立脇の首に鞍馬の腕がからみつく。
 こいつは今まで打撃技ばかり見せていたが、こういう締め技も得意そうだ。
 鞍馬はグレート巽との握力勝負に引き分けた怪力の持ち主でもある。
 単純な力比べになっても、体格で劣る鞍馬が優勢だろう。こうなると、もう脱出不可能か。

「み‥‥ッッ」
(恥!!!)
「見られてるッッ」


 変に視界が開けているため、立脇は観客に見られている自分を自覚してしまう。
 鞍馬はここまで計算していたのだろうか。
 それにしても、餓狼伝特別変 SAGA[性]って感じの台詞だ
 本能だろうが、計算だろうが、とにかく的確に鞍馬は人の望まぬことをやってくれるようだ。
 じっくりと立脇に恥をかかせて倒すつもりなのだろう。
 冷たく見下した表情をしているのは、鞍馬が悪意をもってこの技をかけている証拠だと思う。

(恥!!!)
(恥だ!!!)
(恥ずかしい!!!)
(北辰館の王者(チャンピオン)がこんな姿をッッッ)


 とびっきりの羞恥プレイを仕掛けられ、立脇はこの体勢から脱出しようと鞍馬に必死で拳を叩きこむ。
 だが密着した状態の上に首を固定されていて、腕力だけの腰の入っていない攻撃になっている。これでは致命的なダメージを与えられない。
 攻撃を喰らっている鞍馬もただ者ではない。威力が落ちているとはいえ、立脇の連打を受けても表情が変わらない
 猫科の猛獣はシマウマの後蹴りにも屈しないタフネスだと言うが、鞍馬もそういった肉体を有しているのだろうか。
 っていうか、立脇はやっぱり弱肉強食でいえば「肉」なのか。

『オオオッッ』
『審判席を見ているッッ』
『松尾館長を睨(ね)めつけている』
『愛(まな)弟子のこの姿をッッ』
『目に焼き付けろと言わんばかりに』


 やはり鞍馬は意図的にこの屈辱プレイを仕掛けていたようだ。
 鞍馬は得意げに松尾象山を見やる。
 だが、松尾象山も負けていない。北辰館の王者がピンチだと言うのに「ニィ…」と笑って見せたのだ。
 太い。神経が太すぎる。胆が太すぎる。

 松尾象山を倒さない限り、北辰館を倒したとは言えない。
 この人はいつもそう言っている。本気でそう思っているようだ。
 だから、自分の組織の看板選手が1回戦で敗退しても気にならないのだろう。

 松尾象山は大物すぎて、まったく動じていない。
 からかっても面白くないと思ったのか、今度は長田に目を向ける。
 おそらく準決勝で闘う相手だ。
 前日からもめている相手だ。
 こっちもからかうのが楽しい相手だろう。

『同門に対する友交の証かッ』
『はたまた先輩に対する宣戦布告か!?』


 アナウンサーは事情をしらないのだが、これは宣戦布告だろう
 体がデカいだけの選手など、オレの才能で打ち砕いてやるとでも言いたいのだろうか。
 それはそうと、締められて現在進行形で大ピンチの立脇如水も誰か気にかけてやってください。

「CHU」

 鞍馬はさらに愛のこもった投げキッス(?)をしておちょくる。
 これで充分からかったと思ったのか、本格的に立脇を仕留めにかかる。
 一気に締め上げる。
 立脇の120キロの肉体が持ちあがった
 立脇は足をバタバタ振り回すが、それに構わず鞍馬はさらに持ち上げる。
 そして、そのまま垂直落下式DDTで頭から落とす。

(〜〜〜〜‥‥)

 暗転。立脇の意識は闇に包まれたのか?
 まあ、意識が残っていても良いことはなにも起きないと思うので、このまま寝たほうが幸せかもしれない
 これには編集部もコメント不能。かけるアオリ文句もないまま次回へ続く


 ちょっと前回のお詫びです。冒頭の「不沈船」と言う言葉を「浮沈船」と間違えて書いていました。櫂(かい)さんに指摘されるまで、まったく気がついておりませんでした。
 櫂さん、ご指摘ありがとうございます。
 ちなみに今回立脇が浮いちゃったので不吉なシンクロニシティーかも。


 今回は、鞍馬彦一というキャラクターについて微考察をします。

 鞍馬は悪役だ。
 それも悪のカリスマとしてファンがつくようなタイプの悪役ではなく、ひたすら罵声を浴びせられるような悪役だ。

 例えばジョジョの悪役は前者のタイプが多い。悪としての信念や決意を持っていて、やっていることは非道なのだが魅力を感じてしまう。
 後者の悪役は、古典的な悪役だ。キン肉マンや魁!男塾などに出てくるタイプだ。
 毒を使ったり、だまし討ちが得意だったり、弱者にはとことん強かったり、「俺が悪かった、命だけは助けてくれ」と言いながらスキを見せると背後から襲いかかって返り討ちに合うタイプだ。
 ………最後のヤツ、ジョジョにもいましたね。恋人(ラバーズ)のスタンド使い「鋼入りの(スティーリー)・ダン」。

 つまり、鞍馬彦一は天性の才能とセコイ闘いで、真面目に努力している相手を倒しながら勝ち進み、長田にコテンパにやられるためのキャラクターなのでしょう。
 このトーナメントは長田が主役であり、それを影で見守るのが藤巻だ。
 今の鞍馬は、対長田戦に華をそえるために読者に罵声を浴びせられているのだろう。
 このままの調子で鞍馬と長田が闘ったら、ものすごい勢いで長田を応援すると思う。

 例えるなら今の鞍馬は、仕事人に殺されるために町娘を手篭めにかけている悪代官だ
 それはもう憎いし、192cm・120kgで来月祝言をあげる予定の町娘・立脇を助けたいと思うが、ここで町娘が襲われないと仕事人の出番がこない。
 ここはグッとこらえるしかないのだ。
 町娘の婚約者だった青年・安原が復讐に行き逆に殺されても、耐えるしかない。
 町娘の父・志誠館の片岡が訴えるが陰で始末されても、忍び耐える。
 そこでようやく普段は地味な仕事人・長田の登場だ。
 読者の期待を一身に背負ってのバックドロップで決まるはずだ。
 いざという時は、美形の仕事人・姫川がいるのでなんとかしてくれるだろう。

 とにかく、好かれるにしろ、嫌われるにしろ、これだけ感情を強く揺さぶられるのだから、鞍馬彦一はある意味では良くできているキャラクターだと思う。
 風間なんて、好き・嫌い以前に覚えてもらえていないだろうし。
 彼も原作では、そこそこ……
 あ、ちなみに風間は5巻で丹波にあっさりやられた人です。

 別に鞍馬が安原戦で心を入れ替えた後、片岡に一撃で敗れても構いません。むしろ、そっちが希望かも。
by とら


2003年8月5日(16号)
餓狼伝 Vol.126

 北辰会館最強だった男・立脇如水。キサマには噛ませ犬すらヌルすぎたッ!
 前回は立脇が地面に打ちつけられ、意識がブラックアウトして終わった。
 今回は勝利者インタビューを受ける鞍馬で始まる。

 あいだはカットですか!? 立脇は放置ですか!?
 粗大ゴミは有料ですかッ!?

 立脇は敗北する姿すら使ってもらえなかった。もはや犬でもない。
 姿も名前も見せないまま敗れ去った門田賢次の対戦相手VOL.119参照と同レベルだ。
 観客に恥ずかしい姿をたっぷりと見られて失神ノックダウンである。王者の敗れる姿にしてはみじめすぎる。

 一方、立脇を踏み台に飛躍した鞍馬はおおぜいの記者団にかこまれている。
 試合になれば裸足になるのでサンダルのほうが便利だろうが、元陸上選手らしさをアピールしたいのかバッシュ(?)をはいている。
 こういう部分にもこだわるのが鞍馬流か。むしろ、巽流かもしれない。

 記者に「会心の」「ブレーンバスターでしたね」と聞かれても「いやァ フツーでしょ」と余裕をみせる。
 長田の技がバックドロップだったので、鞍馬の技がブレーンバスターというのもアリだろう
 相手が前大会の優勝者であっても余裕で闘い、プロレス技で仕留める。
 鞍馬にとっては理想的な実戦デビューだろう
 逆に立脇にとっては転落人生の始まりかもしれない。

「試合の前」
「巽さんになにかアドバイスのようなものは」

「"遊んでこい"って‥‥」


 ヒゲの記者は聞くことが違う。彼は、鞍馬が陸上界で旋風を巻き起こした天才児だったことを知っている。
 鞍馬とその背後にいるグレート巽、黒のプロレスラー師弟の陰謀を探ろうとしているのだろう。
 なにしろ、「松尾象山=北辰会館」「グレート巽=FAW」は戦争寸前の危険な状態にある。
 グレート巽が鞍馬を使って、この大会をブッつぶそうと企んでいるかもしれない

 さぐりを入れる記者の質問だが、鞍馬は巽の名言で撃ちかえす。
 グレート巽はこの場にいなくても抜群の存在感を発揮している。恐るべきカリスマだ。
 そういえば、VOL.122のラストでそんなセリフが出ていた。
 どうやら、4話前からワナを張っていたようだ。
 さすが稀代の策士・グレート巽だ。

「試合のあと‥‥」
「すぐに松尾館長のもとへ行きましたね」
「館長が何か言ったように見えましたが」


 ヒゲの記者は食いさがる。
 鞍馬と巽の関係を考えれば、鞍馬が松尾象山に接触するのはなにか腹黒いおもわくがあるとニラんだのだろう。
 試合中にも判定に対する疑惑が生じるなど、危険な兆候があった。
 鞍馬としては松尾象山をからかうつもりで近づいたのだろう。

「もちろん"オメデトウ"って祝福してくれましたよ(はぁと)」

 だが、松尾象山は立脇を無残に倒した男の腕をとって祝福したのだ。
 その話を聞いて、記者団は松尾象山の度量の大きさに感心する。
 この場にいなくても存在感を発揮する点では、松尾象山もグレート巽にヒケはとらない。

 だが、ヒゲ記者だけは冷静に鞍馬を見ていた。
 確かに松尾象山は他の団体の選手が勝っても惜しみなく称賛をしていた。安原の反則だって見逃した。
 しかし、内心ではどう思っていたのだろう。
「オメデトウ」とカタカナでしゃべっているところなんかが怪しい
 鞍馬の腕を持ち上げているが、そのままコキャッっとやりそうだ。
 如才なくインタビューを終了させ、鞍馬は帰っていく。
 ヒゲ記者はその背中から目を離していなかった。

(ウソつけッ)
(あの松尾象山が―――――)
(そんなタマかよ)


 彼の予想は的中していた。
 記者団からはなれ、1人になったとき、やっと鞍馬の表情が変化(か)わった。
 うっかりシコルスキーのような表情になってしまった鞍馬は戦慄の記憶を再生していた。

「ヒコイチよ‥‥」
「必ず勝ち上がってくるんだ」
「途中で負けてみやがれ‥‥」
「コロす」


 ニコニコと子供のように笑いながら松尾象山はそういった。
 顔は笑顔である。
 しかし、言っていることは本気だ。
 0.01% のウソも混じっていない、混じりっけなしの特濃本気100%だ。
 松尾象山がヤルといったら、必要以上にきっちりとやってのけるだろう。

 北辰会館の看板選手を倒したのだ、簡単に負けてもらっては困る
 もちろん、決勝では負けてもらう
 そしてコロす。

 そんな決意があるのだろう。
 実質的な死刑宣告のようなものだ。

「〜〜〜〜ッッ」

 鞍馬はおそらくグレート巽と同質の危険なにおいを感じたのだろう。冷や汗が流れ落ち、声も出ない。
 鞍馬は確信しただろう。負けたら二人の人間に1回ずつ殺される。


「‥‥〜〜〜〜〜〜ッッ」

 鞍馬の悲鳴に合わせるように意識が闇から戻ってきた。
 立脇(敗北済み)が目を覚ましたのだ。
 いいところなく沈んでしまった。前大会王者の肩書きも今は虚しいだけだ。

「負けたか」

 立脇は小さくつぶやいた。内容はかなり重いが。
 人間は負けを知ることで、ひとつ大きくなれる、ハズ。
 立脇は敗北を素直に受け止めているようだ。
 この悔しさをバネに更なる奮起をして欲しい。


 一回戦第九試合(Bブロック)

 これまでの8試合がAブロック、これからの8試合がBブロックのようだ。
 そのBブロック、最初の試合はッ

 サレクセイ・コッホ (サンボ 179センチ・118キロ)
 遠野春行 (空手・北辰会館 190センチ・92キロ)

「コッホの弾丸タックルを
 磐石の前屈立ちで受け止め」
「膝蹴り一閃!!」
「遠野春行 一本勝ち」


 基本的なタックルのよけ方は2つある。
 ひとつは正面から受けずに受け流す方法だ。相手の首を押さえてさばき、横によける。
 自分は倒れないようにして、打撃での決着を狙う。

 もうひとつは相手のタックルをつぶす方法だ。
 遠野のとった戦法はこれで、相手のタックルを受け止め自分の下にしている。
 このまま体重をかけると、相手はつぶれる。
 総合格闘技だと、タックルをしたほうは手をついて四つんばいになる事が多い。コッホもそうなのかは確認できないが、たぶん似た状態だろう。

 この状態は頭部へのガードが甘くなり、ヒザ蹴りを受けると非常に危険だ。
 その危険なヒザ蹴りを遠野は決める。

 遠野は総合格闘技で闘うことを前提にトレーニングしていたのだろう。
 ストライカー(打撃系)がグラップラー(組み技系)と闘うときの理想のような勝利だ。
 自分よりも重い人間のタックルを受け止め、ヒザの一撃で決めているのは、足腰が強い証拠だろう。
 組つかれても、対処できる力をもっていそうだ。
 北辰会館の底はまだまだ見えない。


 一回戦第十試合


 畑幸吉 (古武道・拳心流 175センチ・71キロ)
 宮戸裕希 (空手・北辰会館 182センチ・98キロ)

「宮戸の猛波状攻撃に手こずるも―――――」
「逆関節を捕り小手返しから―――――」
「裏固めによる 畑 幸吉 一本勝ち」


 ムダに連打しても勝てないのは、バトル系漫画のオキテだ。
 2回戦では遠野と畑の闘いになる。
 一撃の打撃で勝利した遠野と、一瞬の関節技で勝利した畑。
 打撃vs関節、次の対戦も見逃せない。


「そして―――――」
「こんな大会を――――――――
 こんなルールを―――――――」
「心から待ち望んだ
 日本拳法の登場である」


 古くから日本で行われていた総合格闘技、日本拳法。
 その使い手、椎野一重がついに出陣する。

 梶原もVOL.110「奴は上がってくるぞ」と評している実力者だ。
 梶原のお墨付きではありがたみが少ないかもしれないが、それでも有力候補には違いない。
 ただし、対戦相手にもよるが……。姫川だったらサヨウナラ



 Aブロック終了記念と言う事で結果をまとめてみる。

○長田 弘 vs. ●加山明
○井野康生 vs. ●加納武志
○君川京一 vs. ●川田治
●ソーアジソン vs. ○工藤健介

○片岡輝夫 vs. ●会田 勝
○門田賢次 vs. ●不明??
○安原健次 vs. ●ドルゴス
●立脇如水 vs. ○鞍馬彦一



 改めてみると、鞍馬の対戦相手は強敵ぞろいだ。
 なんとなく、主人公っぽい試練かもしれない。
 スポーツマンとして鍛えられたキックの安原と、武道家として鍛えた志誠館の片岡が相手だろう。
 違うタイプの2人だが、強敵と言う点では共通している。
 鞍馬も無傷では勝ち進めまい。

 あとは、井野康生 vs. 君川京一がどれだけ盛り上がるかも気になる。Aブロックの中では、このカードが1番目立たない。
 ここで両者が強さを見せてくれれば、次の試合も盛り上がる。話の流れとして、けっこう重要なポイントだ。

 そして、この中には誰が見ても負けそうな人がいる。
 相手が強敵なのもあるが、本人が活躍していない。憶えていない人もいるかもしれない。
 門田賢次だ。
 彼の負けは賭けの対象外になる。賭けるなら「門田は何週生き残れるか」だろう。

「やった 初ゼリフ!」と言えるかどうかすら怪しい。
by とら


2003年8月19日(17号)
餓狼伝 Vol.127

 噛ませ犬ッ!
 板垣世界では(かわら)よりもろく、初雪よりもはかない存在である。
 ムエタイ・ブラジリアン柔術・テコンドー・巨漢・ロシア人、みな登場した瞬間に読者は眉をひそめ(笑いをこらえるために)、事実 負けっぱなしだ

 椎名一重(日本拳法 195センチ・123キロ)
 カルロス・バジーレ(北辰会館ブラジル支部 184センチ・106キロ)


 日本拳法・椎名の相手はブラジル人だった。
 ブラジるッ!
 そう、噛ませ犬の名をほしいままにするブラジリアン柔術の産地だ。カポエラを生んだ土地だ
 この国名のキケン度はロシアと互角かッ。

 最大トーナメントで日に2度負けたズールも1回戦の相手がムエタイでなかったら、どうなっていたかわからない。
 それほどブラジルは呪われている。例外は猪木ぐらいだろうか。
 このブラジリアンをどう処理するか、椎名の力量がとわれる。

 そもそも、椎名の流派「日本拳法」はどんな格闘技なのか。
 プロレス一筋、プロレス馬鹿一代である長田は当然しらないので、梶原が解説をする。
 このへんが驚き役もこなし、噛ませ犬にもなれる総合雑用解説者・梶原年男の真骨頂である。

「日本で生まれた純国産 総合格闘技だ」
「拳法を名乗っちゃいるが
 組み打ちを視野に入れた技術体系は
 明らかに総合格闘技のそれだ」
「発足が昭和7年‥‥だから‥‥‥」
「90年以後に起きた総合格闘ムーブメントとの
 その時間差は―――――」
「50年以上‥‥‥!!!」


 くわしいッ!
 なんで梶原はこんなにくわしいのだ?
 ひかえ室で鞍馬にのされたときとは別人のように雄々しく解説する。
 今なら本部以蔵にも勝てると思わせる風格すらある。
 このまま、格闘家というより解説家として第2の人生を歩んだほうがイイかもしれない。

 快調な梶原の解説は止まらない。
 次はブラジルからの刺客について解説をはじめる。
 なんで北辰会館ブラジル支部の選手まで知っていますか、この人は。

「空手を始めてまだ2年だが―――
 もう一つの方がヤバい」
「ボクシングだ」


 それはヤバい。
 現役ではないボクサーは非常に危険だ。(注:本人が)
 無駄に戦歴があったりすると、なお悪い。
 ボクシングじゃゴールデングローブにも出場しているペイントレスラーのマイク・クインという前例もある。

 このキケンすぎるブラジル人を相手に椎名の試合がはじまった。
 開始後はたがいに様子をみる。たがいに動かず、膠着…。
 お互い間合いを詰められずに試合が停滞した、フランシスコ・フィリォ(ブラジル/極真会館)VS マイク・ベルナルド(南アフリカ/キック)状態だ。

 動きのない両者をみて涼二はおもいっきり あくびをする。
 だが、丹波はちがう。2人の作る圧力を感じ冷や汗を流している。
 若き解説王・梶原も「カルロスが詰められている」と、動いていないようで動いている試合の流れを解説する。

 じり…と進む巨漢(195センチ)・椎名におされカルロスはじり…とさがる。
 ブラジル国内選手権で2度優勝したカルロスだが、打撃では分が悪いと感じているようだ。
 カルロスは体勢を低くし、組みつくようすをみせる。
 ボクサーよ、それでいいのか?

 組みつくのはボクシング以上に得意なのだろうか。
 カルロスの耳はつぶれているのでグランド経験はありそうだが、それが国内選手権2度優勝のボクシング以上に得意だといえるのか。
 梶原ッ、情報をたのむッ!

「殴り合いを避けやがった」

 梶原も有益な情報を持っていないようだ。
 ………それはダメってことなのか?
 右利きの人が「右手で倒せないから、左手で殴る」と言っているようなものだ。やっぱ、ダメっぽい。

 組みつくようすを見せながら、カルロスは結局じり‥‥とさがる。
 汗も増量中だ。

 もしもし…、状況がさっきよりも悪くなっていますよ
 なんか野球選手がサッカーで勝負しているみたいで、具合が悪そうだ。

 対する椎名は総合格闘技を70年前に通過した日本拳法の雄である。
 組み技、くるならこい。
 闘気を炎と燃やし待ちかまえる。

「‥‥ッッ」

 追いつめられたカルロスが突っ込む。
 それは四次元ポケットを失ったドラえもんが特攻するような、悲壮な突撃だった

「タックル‥‥‥か」

 椎名にとって、その攻撃はめずらしいモノではなかったようだ。
 動揺もなく冷静に、相手との距離・タイミングをはかっている。
 プロボクサーのように鍛えられた動体視力が、打つべき瞬間をみつけだす。

 今!!!

「ていッ」

 ガコッ


 前足をふみこみ体重をしっかりとのせた椎名の右拳が飛ぶ。
 各分野でも評価の高い日本拳法の直突だ。拳は回転していないので「素突」だろうか。
 まるで音速の壁を破ったかのような衝撃。拳がカルロスの顔面にめりこむ。

 一撃!
 まさに一撃でカルロスはタックル途中の奇怪なポーズでふっ飛び、ダウンする。

 勝負ありッ!
 日本拳法の恐ろしさを会場に知らしめ、椎名一重 激勝ッ!

 これはまた、恐ろしい選手が登場してきた。
 彼なら姫川と十分に闘えるだろう。

 椎名の強味は日本拳法という流派だけではない。
 195cm・123kgという優れた体格も強味だ。
 データーのわかる選手のなかでは、椎名は身長1位(2位 工藤健介193cm、3位 立脇如水192cm)、体重2位(1位 ドルゴス131kg、3位 工藤健介120kg)である。
 実は大型選手だったのだ。

 こうしてみると、長田の183cm・108kgという数字(原作から引用)は特別大きいわけではない。
 長田は体格の上でも苦戦しそうだ。

 今回のラストは驚愕する丹波文七、主人公の顔で終わっている。
 丹波は毎回驚いているが、この人は試合がないから、おどろくぐらいしか出番が無い。主役なのに。
 このままでは、松尾象山やグレート巽よりも印象にのこらないキャラになってしまう
 いや、もうなっているかもしれない。
 主役としてブラジル国籍以上に、大ピンチだ。

 丹波よ、なにか目立つことをッ。せめて、せめて解説をッッ!
 ……それだと梶原になっちゃうな。
by とら


2003年9月2日(18号)
餓狼伝 Vol.128

 直突き一閃! ブラジル撃沈!
 つぶれたバジーレが反動で、頭を下にした倒立状態で固まる。
 ブラジル発祥のカポエラを彷彿とさせるシュールなやられポーズは、芸術面の評価も高そうだ。

 椎野一重(日本拳法)が、総合格闘50年の歴史をみせつけ、圧倒的な一撃で一本勝ちをおさめた。
 打撃にも組み技にも死角はない。
 唯一の不安材料はコロコロ変わる名前だろうか。名前が椎野に戻っているのはナイショだ。

 長田ははじめて見る直突きの破壊力におどろく。
 そして、梶原は解説する。
 梶原の解説にも死角はない。

「直突き‥」
「日本拳法 最大武器
 全体重拳面に乗せる
 その術理は自他共に定評があり――――」


 本部がのりうつったかのように梶原の解説が冴える。
 123キロの体重を拳にのせてぶつける。
 完璧にきまれば、技術だけではなく体格にも恵まれた椎野なら、凶器といえる攻撃だ。

 ボクシング、キックと各ジャンルの頂点を極めた技術が、直突きである。
 実戦で効果をあげている技術だ。
 実務の世界では、実績がものをいう。
 テストでの性能が高くても、現場での使用経験のないものは信用されない。
 50年以上の経験と、各分野で成果をあげている実績をもつ。信頼性はバツグンだ。
 日本拳法――――、Bブロックに嵐を巻き起こすか!?

 そして、ここで梶原が参加者32名大トーナメントの全貌をついに明らかにする
 パンフレットをもっているなら、もっとはやく見せてください。
 公平性を期するため、今まで隠していたのか?

 一回戦は16分の11を消化し、のこるは5試合だ。
 注目の男である姫川は、一回戦・最終試合(ファイナル)での登場になる。
 北辰会館の大トリを飾るのはこの男しかいないという考えがあったのだろうか。

 表の看板である立脇如水(注 パンフレットでは「立川」と誤植されている)はAブロックに、裏の看板・姫川はBブロックに配置されている。
 最強の切り札はわけて配置し、決勝で闘わせるつもりだったのだろう。

 だが、立脇は初戦の鞍馬でつまずいてしまった。
 勝ったにしても、その後の相手は強豪が多い。
 どうせなら、初戦の相手はムエタイかテコンドーにしておけばよかったのに。

 あえて立脇をきびしい所に配置したのは、前回優勝者にたいする愛のムチだろうか。
 立脇なら期待にこたえて勝ち進むだろうと思っていたのかもしれない。
 ルール改正を立脇が一番喜んでいたらしいし、本人は十分な勝算を持っていたのだろう。

 もし、立脇が負けてもBブロックにいる姫川が保険になっているのだろう。
 立脇がダメでも、鞍馬と長田を準決勝でぶつけてツブしあえるようにしているのは芸が細かい。

 ちなみに、このパンフレットは人名の誤字が多い
 立脇についてはすでに書いたが、加納(武志⇔武士)や門田(賢次⇔憲司)も名前が変化している。

 それ以上に、謎のままだった門田の対戦相手の名前が「西脇実」と判明したのは大きい。
 姿を見せず消えていった西脇の分も、門田には頑張ってもらいたい。
 同時に敗北しただけではなく誤植の屈辱もうけた立脇と加納の無念もはらして欲しい。
 なんか、ものすごい不吉な縁を引きずっている気もしますが…

 梶原は、この強豪ひしめくトーナメント表をみて眉をひそめる。
 細かいことには気がつくが実戦は苦手になった梶原とちがい、長田は悠然としている。
 そんな長田をみて、梶原も「作戦なんざない 最初(はな)っから‥‥」110話からの覚悟を再確認するのだった。
 実際に闘う選手のほうがセコンドよりも落ちついているというのは、ちょっと妙ではある。
 昔は好敵手だった長田と梶原だが、いまでは…。
 門田以上に明日が見えない梶原であった。


 試合は進む。
 次の試合の勝者が、椎野と当たる。
 闘う2人はどちらも他流、グローブ空手とレスリングの闘いであった。

 竹 俊介(グローブ空手 179センチ・84キロ)
 畑中 恒三(レスリング 181センチ・105キロ)

 竹はソデのない空手着を着る。
 ソデがないほうが自由に腕が動く。グローブ空手は、より拳の打撃を重視した空手なのだろう。
 顔面打撃の錬度が高そうだ。

 対するレスリング畑中は空手着に身をつつみ、前屈姿勢をとる。
 この重心位置は、つかみ・投げを狙っているのだろう。

 試合開始、2人はにらみあう。

 レスリング畑中がしかけた。アマレスのタックルか。
 だが、打撃だった。レスリング畑中が左の拳を突きだす。
 打撃はグローブ空手=竹の得意分野である。あっさりとカウンターを取る。
 それも、単発ではなく、顔面に左右の拳を叩きつける。
 左・右とキレイなワン・ツーが入った。

 ここで、竹は蹴りにはいる。
 カウンターで顔面に2発入れたのだ。普通なら相手はダメージで動きがにぶっている。
 大技をしかけるチャンスだ。

 だが、畑中は動いた。
 足を正面に残したまま、上半身がヘビのように竹の背後にまわりこむ。
 ガシッ!
 あっという間につかまえた。
 そのまま、持ち上げて投げる。
 長田のバックドロップのようにそのまま背後に投げるのではなく、アマレス流の持ち上げてから投げる技だ。
 相手の両手両足をマットからひきはがしているのでレスリングなら5ポイント獲得だ。

 地面に叩きつけられまいと竹はとっさに片手をついた。
 約2人分の体重が竹の腕にかかる。
 手首・ヒジ・肩が瞬時に外れた。
 声にならない悲鳴を上げ、ありえない方向に曲がった腕をかかえる。

「一本ッ」

 レスリング畑中の快勝であった。
 打撃の不器用さはあったものの、顔面攻撃に耐えることができたのはレスラーとして首を鍛えていたためだろう。
 背後を取るときの動きは、体の柔軟性と足腰の強さをしめしている。
 そこから生まれる投げは、それだけで必殺だ。

 ボクシング技術の高いバジーレのタックルは撃ち落すことができた椎野だが、レスリング技術の高い畑中のタックルはとらえることができるだろうか。
 次戦は日本拳法が研究しつづけてきた投・極の技術が鍵になりそうだ。

「組み技を知らねェ空手家のバックを取るなんざ」
「赤子の手をヒネるようなもんだぜ」


 すっかりおなじみになったヒゲ眼鏡のジャーナリスト・引木が語る。
 アマレスでは相手の背後をとって両手両膝をつかせるとポイントになる。だからバックを取る技術が高いのだろう。
 総合ルールではアマレスの存在は油断できない。

 アマレスの強さを確認した引木は後輩(?)をつれて、選手控え室へ向かう。
 ウォームアップをするでもなく、1人しずかに正座をして目を閉じる男がいた。
 手に盛り上がった拳ダコを持つ男だった。
 若くはなかった。髪は白と黒がまじり灰色にみえる。
 初老とも言える年齢かもしれない。
 今大会の参加者では最高年齢ではないだろうか。

「神山さん」

 引木が声をかける。
 そう、この男こそ次の試合を控える伝統派空手・神山徹であった。

 ガビーン! 老いてるッ!

 お手元の餓狼伝10巻73話か13巻110話をご確認ください。
 どうみても10歳か20歳分は歳をとった。
 この短期間でいったいなにがあったというのだ。
 バキSAGAでもよんでショックを受けたのだろうか。

 とにかく、正座をしずぎて足をしびれさせている(自己申告なのでブラフの可能性アリ)のが伝統派空手の象徴といわれる神山徹である。

「見せてくれるんですね神山さん」
「直接打撃(フルコンタクト)カラテへの復讐劇ッッッ


 組み手で相手を殴らない空手が、実戦で相手を殴れるワケがない。そう主張してきたのがフルコン系の空手である。
 実戦では役に立たないとフルコン系空手に言われつづけ、直接闘うことがなかった両者である。
 闘いから逃げていると言われてきた伝統派空手が、ついにフルコンタクト系空手に復讐するというのか。

 象徴とまで言われる人物が他流の大会に出場するのだ。
 松尾象山が他流の大会に出るようなものだ。
 勝って当然と言われ、負ければ失うものは大きい。

 そこをあえて出場したからには必勝の自信があるのだろう。
 拳ダコの大きさが、空手にささげた時間と情熱をものがたる。
 1人静かに落ち着いているのも、独特の風情がある。
 これは予想以上の猛者登場となりそうだ。

 もう、パンフレットの誤植や外見がかわっている事なんて気にする余裕もない。
 むしろ、積極的に忘れるぐらいの気持ちでいたい。

 ツェペリさんは、結婚もしていないし子供もいないと言ったとか、そんなことはいいんです。
 笑って流しましょう。
by とら


2003年9月16日(19号)
餓狼伝 Vol.129

 神山の対戦相手は浅黒い肌をしたハゲだった。

 ハゲかよ。ぷっ、と笑いかけたとき、凍りついた。
 ものすごくヤバいことに気がついたのだ。

志門 烈海王
新キャラ・志門剛俊
若かりし日の烈海王(小龍)


 なんでもありません。忘れました。


「手よりも迅(はや)く」
「手よりも多彩に脚を操る」


 今回初登場の新キャラクター・志門剛俊は、そう称される男であった。
 テコンドー川田の前例があるだけに、多彩な蹴りという言葉には不吉なものを感じる。
 しかし、シャドーでみせる動きは、近代空手の選手らしい拳に蹴りを加えたコンビネーションであり、中間距離での打撃戦に強そうだ。
 足指で相手の耳をつかんだり、足で拳をつくったり、多彩な蹴り技を……、いやいや、なんでもありません。
 相手が『寸止め空手』の伝統派だと楽勝を信じる周囲に烈…じゃなくて、志門は異議をとなえる。

「攻撃を当てない―――」
「寸止め空手だから実戦に弱い」
「その見識の浅さこそが」
「今日のこの日に君らを試合場に立たせぬのだ」


 ハゲていようが三つ編みだろうが基本は大蛮勇な浅黒い人とは違う、人格的にも功が成った人物のようだ。
 試合前だから神経質になってもおかしくないのだが、闘わぬうちから相手をあなどり慢心する周囲の人間をたしなめている。
 精神的に強いから、相手の強さも認められるのだろう。

「おそらく俺は神山さんに勝つだろう」
「体格・体重・年齢・技術・運動能力―――――」
「あらゆる要素(データ)を比較分析した上の答えだ」
「勝利までの試合時間がいかに短くとも――――――――」
「それは決して神山さんが弱かったからではないということだ」


 危険な大口だ。
 この人は本当にデータを分析したのだろうか。
 検討要素に「技術」は入っているが、「経験」が入っていない。
 柔道選手を相手にするとき、投げ技だけ研究して寝技を忘れているようなものだ。
 確かに体力的に神山はおとるだろうが、技術と経験では志門に勝っているだろう。
 その辺の読みが間違っていると、負ける。

(甘かった!!!)

 向かいあった瞬間に志門はさとった。
 はやくも敗者の証である脂汗を大量に流している
 ヘビににらまれたカエルのごとく動けない、前に出られない。

 神山徹 (伝統派空手 175センチ・74キロ)
 志門剛俊 (北辰会館 180センチ・86キロ)


 たしかに志門は身長・体重では勝っている。
 しかし、ノーガードで自然体に立つ神山に近づくことができない。
 ダンス空手や健康体操と揶揄(やゆ)していたはずの伝統派空手を前に、ただステップをふむだけだった。
 これではダンスをしているのは志門の方だといわれそうだ。

(出たら打たれる――――)
(―――からって)
(だからって―――――)
「どうだってンだよォッッ」


 相手の実力をはっきりと理解しながらも、志門は特攻した。
 北辰会館には撤退の文字はないとばかりに。
 だって、後には松尾象山がひかえている。
 さがったら、もっと酷い目にあいます。

 多彩な蹴りをもつ男がえらんだ攻撃は、打ち下ろすローキックだッ。
 コンビネーションの初弾としては基本といえるだろう。
 だが神山はなにごともなく歩を進め、左の逆突きでカウンターをとった。

 ぴたっ

 しかし、寸止め。志門の顔の間に指一本分の空間がある。
 ローキックが思わず止まる一撃だった。
 北辰会館の志門は1度敗北した。

 志門は神山の拳をはらい、あわてて反撃の右拳を打つ。
 かわされ、金的に蹴り。
 またもや、寸止め。
 寸止めだから許される危険個所への打撃。これが伝統派か!?
 志門、2度目の敗北である。

 志門の金玉をからかった神山がさらに追撃する。
 アゴの先にすくい上げるような掌底ッ!
 まともに喰らえばダウン必死の攻撃だが、これも寸止めだった。
 志門はこれで3度目の敗北である。

 こう密着されては多彩な蹴りが出せない。
 あがくように志門は左拳を打とうとするが、すでにノド元に左の平拳がそえられていた。
 平拳は正拳よりも鋭い打撃と鎬流もみとめる攻撃だ(グラップラー刃牙 第23話)。
 のどに受ければ勝負ありだろう。
 これで志門は4度敗北した。

 それでも、志門は神山の手首をつかみ反撃をはかろうとする。
 だが、つかむと同時に鼻に風圧がかかり、一瞬だけクレーターのように顔の肉が陥没した。
 ふれなくとも人を殺傷できそうな神山の正拳であった。

 志門は手をおろした。
 わずかの間に5度敗北した。
 それでも、一撃も入れられていない。生殺しである。
 まだ続けるかと問う神山に、志門は「いえ‥」と敗北を認める。

「アリガトウございます」
「いい勉強をさせていただきました」


 ふるえて涙を浮かべ、志門の心は折れた
 伝統派空手・神山徹、かくしてフルコンタクト空手への第1の復讐は成就した。

 本気で攻撃している志門に対し、約束組み手をしているかのようにさばいて寸止めをする。
 私の個人的な感想だが、志門にとってこの試合は地獄であったと思う。
 殴って倒してもらえたら、どんなに楽だったろう。

 板垣先生の著書「格闘士烈伝」に『怖さの先にあるものは、自分の目の前に立っている人間ではない。自分が積み上げてきたモノが、通用しなかったらどうしようという恐怖感が付きまとうんだ。』とある。
 この試合はまさにそれだ。
 絶望的なまでに、自分の技術が通用しない。

 原作の餓狼伝I巻で丹波は梶原に破れる。
 その闘いで、梶原は丹波の骨を折る寸前まで追い詰めるが、折らない。
 少し前に梶原は長田の骨を折っていて、その感触が残っていてなかなか折れなかったのだ。
 その時点で丹波に勝ち目はなかった。
 丹波は自分の口から「負けた」といいたくない一心で、むしろはやく自分の関節を破壊してくれとすら思ってしまう。

 志門も同じように殴って欲しかったのではないだろうか。
 しかし、神山は肉体を傷つけるようなことはせずに、心を攻めた。

『敵軍を撃破するには、二つの方法がある。
・敵軍を消耗させる(力を砕く)。
・士気を失わせる(気力を奪う)。』

 英陸軍少将フラーの言葉だ。

 志門は、結果的に心が折れて敗北を認めた。
 単発の攻撃をする伝統派があいてなら、幼年編の刃牙のようにダメージ覚悟で乱打戦にもちこみ、殴られなれていないゆえに低い耐久力という弱点を突けば勝機はあったかもしれない。
 ただ、圧倒的な実力差をみせつけられ玉砕することもできなかったようだ。

 肉体的にダメージはなくても、精神的に再起不能になっていないか心配だ。
 彼のそっくりさんにシンクロニシティーが生じるかもしれないので、とても心配だ。

 次の試合は梶原パンフレットによれば、瀬津浩二(北辰館)vsチャック・ルイス(ボクシング)だ。
 この試合の勝者が神山と闘うことになる。
 今のところ外国人は1人も1回戦を突破していないし、伝統派vsボクシングをみたいのでルイスの勝利を期待する。

 ところで、このボクサーは俳優のチャック・ノリスがモデルなのだろうか。
 チャック・ノリスは「ドラゴンへの道」でブルース・リーと闘った人だ。
 浦安鉄筋家族の春巻龍の効果音(?)でも「ノリスー」と鳴ったこともある。

 前回、梶原パンフレットには名前に誤字が多いと書いた。
 しかし、誤字は名前だけではなかった
 当サイトの掲示板で、fluidさんに流派にも誤字があると教えていただいた。
 無道会のはずの加山は北辰館になってるし、北辰館のはずのカルロス・バジーレは柔術になってる。
 これには気がつきませんでした。情報感謝です。

 もしかすると、これだけ誤字が多いのは正規のパンフレットではないためかもしれない。
 梶原が後輩にも手伝わせ、情報収集してつくったオリジナルの資料なら多少の誤字はあるかもしれない。

「もう、なにやってんのよ、アナタたち!
 情報は闘いにおいてもっとも重要な要素なのよッ!
 それが見なさい、誤字だらけじゃないのッッ!」

 てな感じに後輩を怒っていそうです。
 で、梶原は後輩には受けが悪い、と。弱いし

「梶原先輩は片玉なくしてから、しゃべりがクドくなったよな」
「というか激昂すると、おねぇ言葉になるのなンとかなんないかな」
「鞍馬先輩みたいに常にパンツに携帯電話入れてるのもヤだけどな」
「あの人の携帯は特注ですごい振動するンだって」
「電磁波の悪影響でイチモツがしなびてるらしいぞ?」
「鞍馬先輩って、巽社長に『俺とやらないか!?』ってスカウトされたってウワサだ」

 こんなFAWはイヤだ。
by とら


2003年10月7日(20号)
餓狼伝 Vol.130

 今大会初ッ、寸止めでの決着だ―――――ッ!
 刃牙・最大トーナメントのズールと同じ決着のつき方なのは、色黒つながりだろうか。
 そうなると次は烈が寸止めで……(もういいって)。

 おたがいの拳が当たらぬうちに敗北を認めた志門に審判が文句をつける
 審判の判定に文句をつける敗者はいるが、敗者に文句をつける審判というのも珍しい。
 今大会は最初の試合から脱ぐ人が出るなど珍事が続出している。
 この審判も大変だ。大会が終わったころには数キロやせているだろう。
 胃を壊す前に大会が終わるといいですね。

「キサマ‥」
「直接打撃制を否定するつもりかッッァッッ」


 審判怒る。
 怒りのあまり、語尾が難しい発音になっている
「つもりかっっぁっっ」
 むずい、発音できません。誤植か?

 それはともかく、この人は北辰館を愛しているようだ。
 だからこそ、他流に負けると悔しいのだろう。
 そして、打撃を当てられる前に負けを認めた志門を歯がゆく思っていそうだ。
 この審判の現役選手時代は、後退のネジをはずしたファイターだったのかもしれない。

「そういう問題ではありません」
「当てずとも分かる空手があるということですッッ」


 伝統派空手の奥深さを身をもってしった志門は、功が成っていないと実感しているようだ。
 逆に神山の技術を理解できる才能が志門にはある。
 しかし、立合った者と横で見ていた者の差なのか、審判にはその辺のことがわからないようだ。

 ここで危険な男が動いた。
 松尾象山が「クイ‥‥クイ‥‥」と手まねきをする。
 手を動かしただけで、山が動くような迫力がある。
 大慌てで審判が駆けだす。

「押忍」「押忍」「押忍ッッ」

 空手界の挨拶を連発しながら、超高速・残像四分身でひとりジェットストリームアタック+1となって審判が走る。
 松尾象山に呼ばれて遅れたら、大変です。胃が壊れます。

「藤村ァ〜〜〜‥‥」
「おめェ」
「俺(おい)らのカワイイ弟子ィ殺すつもりかよ」


 同じく横から見ていたのだが、松尾象山は神山の恐ろしさを理解していた。
 営業的な意味合いで寸止め空手を否定してはいるが、その技術は認めているようだ。

「勝負ありだ」
「少しゃあ空手勉強しな」

「オ‥ッッ 押忍ッッ」


 松尾象山に面と向かって怒られたら誰でも恐縮するだろう。たぶん、巽も。
 審判・藤村はやはり残像で分身する高速で自分の非をわびるのだった。
 北辰会館の掟・松尾象山が白といえば白ッ!
 しかも、いっていることが正しいのでお弟子さんは恐縮するしかない。

 そして、ヒゲ審判の名前が判明した。
 ヒゲ審判=藤村も、これで思い残すことなく、選手の乱闘に巻きこまれて退場できるだろう。

 次の試合はボクシングのチャック・ルイスが登場する。
 ドレッドヘアという今までにないタイプの外見をしたキャラクターだ。
 試合の直前まで秘密裏に続けていたのは謎のトレーニングだった。
 5メートル以上も離れた相手に向かってミット打ちをしている。
 ボクシングだけではなく、他の打撃格闘技でも届かない身長の2倍以上の距離だ。
 いったい、どのような練習をしていたのだろうか。
 謎はとけぬまま試合がはじまる。

 チャック・ルイス(ボクシング 198cm・95kg)
 瀬津浩二(北辰館 178cm・93kg)

『本格プロボクシング ヘヴィ級ランカー 北辰館オープントーナメント参戦ッッ』

『日本全土が待ち望んだ対決がここに実現したのですッッ』

 ヘヴィ級ボクサーが空手着に裸足で試合場にあがった。
 袖がない空手着はパンチを出しやすいように考えてのものだろう。
 帯は白だが、ちゃんと試合への対策を考えている。

 対するは北辰館の瀬津だ。
 体格では負けているが、相手にはない蹴りの技術を持っているはずだ。
 拳での殴りあいをさけ、ローを中心に攻めるのが正攻法になるが、どのような作戦を考えているのだろう。

(文句なしだ)
(この男を倒したのなら)
(空手はボクシングの上にランクされる)


 作戦は不明だが、ボクサーをなめているのが、わかった。
 油断するのは危ない。
 グローブをつけての顔面パンチは、ボクシングの歴史がものをいう。
 もっとも瀬津も、その辺のことは理解しているようで「ジャキッ」とガードを固めて試合開始をむかえる。

「え‥」

 だが、始まったとたん瀬津は驚愕する。
 ルイスの秘策「5メートルの間合い」が炸裂するのか!?
 グローブを外して投げるは、やってはいけない。

 前回、チャック・ルイスはチャック・ノリス似かと予想したが全然別人だった。
 ちなみに前回「神山」と「志門」を混同して書いた部分があると当サイトの掲示板で愛読者さんに指摘を受けた。
 すいません、なおしておきました。またミスを見つけたら教えてください。

 少年チャンピオンで連載中の「バキ」にも総合格闘技をボクシング技術をベースに闘うマホメド・アライ・Jrがいる。
 板垣先生にとってボクシングとは、まだまだ魅力のある素材のようだ。
 ヒジ打ち、ひざ蹴りあたりで枯渇してしまったムエタイとはずいぶん違う。
 どこかでボクシングの魅力を再発見したのだろうか。

 新技となりそうなルイスの5メートル攻撃はどんな技なのだろう。
 練習でのミット打ちは2つのミットに打撃の痕跡があったので、単発の攻撃ではないだろう。
 5メートルの距離を一気に詰めてパンチを打ち、また5メートル離れる技なのだろうか。
 ちょっと、想像しにくい。

 瀬津が驚いているので、独特の構えをしている可能性は高い。
 5メートルの間合いなら相手の攻撃は届かないので防御を無視した奇抜なポーズだって大丈夫だ。
 ありがちな考えではクラウチング・スタートから突っ込んでの攻撃だ。
 しかし、5メートルの距離で上体を起こして攻撃するのは難しいだろう。下手するとスキだらけだ。

 そうなると、5メートルのジャンプをして空中から攻撃して、着地と同時にジャンプして帰っていく、とか。
 それでは違う漫画だ。

 でも、「見慣れない=ボクシングでは使っていない」と考えると、総合ルールでないと打てない攻撃だという気はする。
 ジャンプしてからの攻撃って、ボクシングでは認められていたのだろうか。
 チャンピオンで連載していた「満天の星」ではやっていたが、あの世界を信じるのは漫☆画太郎の「地獄甲子園」をルールに野球をやるに等しいし(言いすぎ)。

 なんか、必殺技の名前を叫びながら殴れば、理屈を超えて強い、とか。
 それだと具体的にちがう漫画になってしまう
by とら


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