今月のシグルイ覚書(41景〜50景)

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2006年12月19日(2号)
シグルイ感想  第四十一景 分身

 印可(極意を得た者に与える許し)を受けていない門弟にすら見せていなかった、虎眼流の最大奥義『流れ星』が公開された!
 使ったのは伊良子清玄だ。
 新発売のゲーム機を買ったその日に分解してWEBでさらす行為(PS3Wii)より数倍ヒドい。

 必殺技というものは、なるべく人に見せないようにするものだ。
 対策を考えられたら困る。
 そのため、稽古をのぞき見するようなヤツがいたらブッた斬ることもあるぐらいだ。
 がんばって秘密にしてきた必殺技を伊良子がみんなの前で見せてしまった。
 人気料理店の秘密のレシピを流出させるようなものですよ。

 怒りのあまり牛股師範は「ここにいる全ての輩を」「片端から」「切り殺してしまいたいという衝動を」おぼえるのだった。
 師である虎眼先生の域にだいぶ近づいたようだ。
 剣鬼に良心はいらぬ。狂気こそ必要かと。
 まさにシグルイだ。


 伊良子は『流れ星』を二回も受けためずらしい人間だ。
 それだけに『流れ星』を盗むことができたらしい。
 無明逆流れを使うことなく、すでに必勝の体勢だ。伊良子はそう思っている。
 余裕ぶっこいて組み伏せられたり、逆転したつもりが腹に一撃喰らったりと、伊良子は詰めが甘い。
 今回も余裕の『流れ星』で失敗しそうな予感がする。

 思い起こせば、伊良子は油断して失敗することが多い。
 三重との結婚が決まりそうになった時点で、いくとの不倫を止めればよかったとか、イロイロ失敗がある。
 今回も楽勝する気マンマンで出てきたのに かなりの出血だ。
 伊良子って、基本的にドジっ娘属性なんだろうか。


 流れ星を開眼し虎眼流免許皆伝をうけた藤木源之助は、幽鬼のごとき剣士につきまとわれるようになる。
 朝晩、食前食後、寝ても覚めても剣士は出現した。
 そして、流れ星を用いて、藤木を両断しまくるのだ。
 何度、頭部(の一部とか半分)が飛んだことか。
 どう考えても妄想だな。むしろリアルシャドーだ。

 剣士は藤木自身と同じ顔をしていた。
 やっぱり、リアルシャドーのようだ。
 そのうちに巨大なカマキリとかも出現するのだろうか。

 なぜ『流れ星』をマスターしたとたん、こんな幻想を見るようになったのか?
 虎眼流の激しい修行で脳内麻薬のバランスが崩れてしまったのかもしれない。
 もしかすると虎眼先生が曖昧になったのも、自分自身の幻覚を見るようになったためだったりして。

 なんにしても、藤木は時間も場所も選ばず出現する幻覚に対抗するため、やっぱり時間も場所も選ばず抜刀しまくる。
 巻き込まれて重傷を負った人がいそうな修行だ。やはり、シグルイである。
 藤木の行動は、周囲から虎眼先生と同じような行動に見えるんだろうな。
 こうして藤木は流れ星との闘いをシミュレートできるようになった。


 伊良子の『流れ星』が炸裂する!
 対する藤木は刀の柄頭で受けて柄と茎(なかご:刀身の下部 柄に覆われている部分)を犠牲にして斬撃を止めた。
 山口貴由『悟空道』でも、如意棒を縦にして相手の斬撃を止めたことがあった。
 この技法は山口作品の伝統になるかもしれない。

 そして、伊良子の刀を封じているスキをのがさず、藤木は脇差を一閃させるのだった。
 藤木が優勢に攻めるものの、柄が破壊されているので長刀はほとんど使用不能な状態だ。
 脇差の攻撃がはずれていた場合、かなりピンチになる。
 この勝負、藤木と伊良子のどちらが勝つのか、予想できなくなった。

 とりあえず、牛股師範には、我慢しないで大暴れして欲しい。
by とら


2007年1月19日(3号)
シグルイ感想 第四十二景 双眸(そうぼう)

 脇の動脈を狙った藤木源之助の小刀が一閃する!
 だが、伊良子清玄は服に鎖を編みこんでいた。
 故に疵は浅手だ。

「鎖を着込むは決闘とあらば当然の仕儀」
「士道不覚悟にはあたるまい…」


 掛川藩家老・孕石の判定は問題なしだった。
 仇討ちは複数で襲いかかっても不意打ちをしても許される。
 忠臣蔵は公的に仇討ちの認定を受けていないのだが、集団・不意打ち・鎖を着込むなど、エゲツない。
 荒木又右衛門を有名にした鍵屋の辻の決闘も、荒木又右衛門は助っ人であり待ち伏せての奇襲をもちいている。
 NHK時代劇の「荒木又右衛門 決闘!鍵屋の辻」は河合甚左衛門への奇襲を完全再現していて、背筋が凍った。
 ある意味、結果こそすべて。武士道は甘いモンではないのだ。

 38景で伊良子は藤木の装備を気にしていたのは、自分が着ているという伏線だったのだろう。
 自分が着込んでいれば、他人も着込んでいるのではないかと疑うワケだ。

 だが、藤木は着込みをつけていない。
 藩の武芸師範としては、勝って当然だし過程も重要なのだ。
 背負っているものが大きい分、藤木の戦い方はちょっと窮屈になっている。
 40景では、孕石を巻きこむ事を恐れてトドメをさせなかったし。
 武士になりたい藤木は、武士ゆえに大きな弱点をもってしまった。


 藤木は伊良子に左手をつかまれる。戦いが膠着した。
 だが、伊良子のヒザの裏を藤木がカカトで蹴り、伊良子の体勢を崩す。
 昔の武術は総合武術だったので、剣だけではなく体術をふくんでいる物が多い。
 相手を倒す技術とか、マウントポジション返しとか、虎眼流は組み打ちにもこだわりがあるようだ。
 きっと「戯れなれば当て身にて…(笑顔)」シグルイ5巻 24景)をヤるために素手にもこだわっているんだろうな。

 体勢を崩した伊良子だったが、とっさに刀を振るって反撃する。
 藤木の皮一枚を傷つけただけだったが、倒れて無防備になった状態から回復するだけの時間はかせげた。
 狙いも首だったので、運良く当たれば致命傷になっていただろう。
 さすが転んでもタダでは起きない伊良子清玄だ。

 そして、伊良子は大地に刀を突き立てる。
 コマ外の色が黒くなり、一見すると回想シーンになったような状態だ。
 伊良子の構えは、およそ一切の流派に聞いたことも見たこともない奇怪な構えであった。
 藤木にとっては、同門や師匠を殺した憎むべき魔剣の構えだ。
 いまだ敗北を知らない、無明逆流れの構えである。


 だが、藤木には37景で特訓していた下段封じがある。
 名づけて虎眼流『簾牙(すだれきば)』だ。
 どうも自分たちで名前つけて技にしちゃったらしい。
 わりと余裕ありますね。

 藤木と牛股師範がどんな表情で名前をつけていたのか、想像つかんのですが。
「牛股師範、その技名イイっすね。めっちゃ、強そう」とか、頭を強打しても言わなさそうだし。
 藤木も酒が入ると饒舌になったりするんだろうか?

 伊良子清玄は藤木を見ている。
 "感じる"ではなく、"見ている"のだ!
 盲目の伊良子がいかなる妖術を使い、藤木を見ているのか?
 とにかく藤木は自分がフンドシ一丁の丸裸状態になっていると感じている。

 血涙を流し戦いを見守る いくが伊良子の目となっているのであろうか?
 合図を送るなどして、位置を知らせている可能性もある。
 なんにしても、無明逆流れの剣速だけにこだわっていると伊良子を倒す事はできないかもしれない。

 伊良子は立ったまま迎撃の構えだ。
 藤木は二刀を己の牙として前進する。
 必殺の間合に入ったまま、二人は近づいていく。
 藤木の右手が動き、伊良子の刀がハネ上がる!
 同時に藤木の左手が防御にむかう。

 伊良子は斬撃を放つと同時に体を倒している。
 そして、藤木の攻撃は空を斬った。
 だが、伊良子の逆流れは左の小刀で防いでいる。
 互角の攻防だ。
 思わず全裸を突きぬけ、皮膚を透過した生筋肉の全開状態で交錯する双龍であった。
 人体模型みたいな絵を見て、美少女目当てにREDを買った読者は、卒倒していることだろう。


 藤木も伊良子も、互いに持っている技を出し尽くした感がある。
 なにしろ全裸を超えた筋肉ムキ出し画像だ。
 これからの戦いは、過去の財産ではなく、今この場で進化できるかどうかにかかっていそうだ。

 藤木が惜しかったのは、相手の攻撃方法を推測できても、伊良子の防御方法を考えていなかった事だ。
 伊良子は攻撃のさいに倒れこむことで、横からの斬撃をかわしている。
 剣速だけなら虎眼先生は伊良子に負けていない。先に当たっているのは虎眼先生の刀だ。(シグルイ6巻 31景
 伊良子はよけながら斬るから、虎眼先生にも勝てたのだ。

 "見えている"伊良子など、藤木には情報不足による不安要素が多い。
 全力を出し尽くした藤木に、残った力はあるのだろうか?
 次回もきっと無残だ。
by とら


2007年2月19日(4号)
シグルイ感想 第四十三景 腕(かいな)

 いきなり伊良子清玄のパンチラではじまった今月のシグルイだ。
 なぜ、そんなセクシーアピールをするのだろうか。
 対して藤木源之助は愚直に袴でガードしているのだった。
 やはり、エロは伊良子が担当しているらしい。

 藤木は見事に着地し、伊良子は地に落ちた。
 伊良子は、盲目ゆえ空間認識が甘くなったのだろうか。
 とりあえず立っているのが藤木だったので、みんなが藤木勝利と思って歓声をあげている。
 しかし、交錯した二人のうち先に膝をついたほうが勝つというのはよくある話だ。
 そこに陥穽がある。

 案の定、伊良子は生きている。
 だが、二度も秘剣を使ったので、MPが切れてしまったようだ。
 立ち上がるだけの気力もないらしい。

 しかし、疲労は藤木も同じだ。
 逆流れを防いだ左腕の感覚が無い。
 いや、感覚が無いというのは少しちがう。
 腕自体が無い。
 斬られている。
 左腕がヒジの上で切断されていたのだ。

 ついに、ついに、この時が着てしまった。
 『シグルイ 一巻』第一話で、藤木の左腕はすでに失われている。
 現在の話は、回想シーンなのだ。
 つまり、藤木の左腕が斬りおとされる事はすでに逃れられぬ運命である。

 今、この場がその時だ。
 NHKの「その時、歴史が動いた」でシグルイをやるなら、この瞬間こそ運命の分かれ道になる。もちろん、NHKはやらないだろうけど。
 無明逆流れは防御の脇差を押しのけ、藤木の左腕を斬ってた。
 たちまち藤木の足元に血溜りができる。
 藤木の左腕はなおも柄を握り、刀にぶら下がっていた。

 もう、ダメだぁ……
 読者的に藤木が勝つ姿が思い浮かびません。
 大量出血のニオイを嗅ぎとった伊良子は元気になってハネ起きちゃうし、一分の望みも見当たらない。

「藤木……」

「伊良子ォ」


 双龍が互いの名前を吼えた
 伊良子は見えぬ目を見開き、藤木は腕がついたままの刀を振り上げる。
 藤木が傷をモノともしないで、"流れ"で斬りかかった。
 血飛沫があたりに飛び散る。
 まさに地獄絵図だ。

 藤木も伊良子も命の限界をとっくに超えているような形相だ。
 燃料を全部使ったので、本体を燃やして爆走しているような印象がある。
 特に藤木は、本体を爆発させて部品をバラ巻きながら突っ走っている感じだ。

『抜群の精度を誇る虎眼流の太刀が』
『目標のはるか頭上をすり抜けた』


 左腕を失ったため、重心が狂っているのだ。
 たとえば、バガボンドの不動幽月斎、木城ゆきと『銃夢(Gunnm)』のマカクや、北方謙三『降魔の剣 日向景一郎シリーズ2』の鉄馬など、片腕を失い重心を崩す者は多い。
 もっとも、普通は精神的ショックで戦うどころじゃないと思うけど。
 キン肉マンだって気絶したし。

 それでもなお藤木は立ち上がろうとする。
 だが、出血多量で意識すら混濁としているようだ。
 なのに口を使って止血しているところがすごい。
 虎眼流には無意識になっても止血をする鍛錬があるのかも。なにがあっても、おかしくないし。
 火星人を切る方法ぐらいあっても不思議ではない。

 一方、伊良子は冷静に藤木の出血音を聞いている。
 虎眼先生にトドメを刺したときは取り乱し気味だった(6巻 31景)。
 一度経験したから慣れたのか、虎眼先生の威圧感がすごくて動揺したのか、どちらだろうか?
 たぶん、両方だな。

 伊良子は今の冷静さを、いくとの情事で発揮して別れていれば、現在ほど無残なことにならなかった。
 藤木は三重を慕っているけど、跡目にそれほどこだわっているように見えない。
 伊良子が跡目でも問題なかったと思う。
 しかし、時間をさかのぼる事はできない。切断された腕は元には戻らないのだ。

 出血音が止まると言う事は、心臓が停止すると言うことだ。
 体力の尽きた伊良子は静かに宿敵の死を待つ。
 藤木にできる精一杯の抵抗は、死への速度を緩めるだけなのか。
 無残なり、藤木源之助……


 見たくなかった、この時が来てしまった。
 藤木の左腕が落ちる。
 う うう…… う〜〜ううう あんまりだ…HEEEEYYYY ァァあァんまりだァァアァ
 泣いてもスッキリしません。

 まあ、アレです。
 藤木が腕を失うように、伊良子だってまだ失う余地がありますから。
 つうか、今度は牛股師範がヤバいのか?
 虎眼先生を上回る、壮絶な無残が待っていそうだ。
 2007年は暗い年です。
by とら


2007年3月19日(5号)
シグルイ感想 第四十四景 牛鬼(うしおに)

 藤木源之助、斃(たお)る!?
 斬りおとされた左腕からの出血音が停止した。
 心臓は血液を送り出すポンプなので、出血が止まった=心停止とみなす事ができる。
 パトリシア・コーンウェル『検死官シリーズ』でも、出血の痕跡を心電図のように見るというシーンがあった。
 ただ、藤木は止血しているので、運良く血が止まったのかもしれない。

 くふっ くふっ。伊良子清玄は笑いをこらえる。
 積年の恨みをついに晴らしたのだ。
 かなりの部分が逆恨みなんですけが、本人視点では正義の行いなのだろう。
 伊良子は剣以上に逆恨みの達人なのだ。

 そして、伊良子は笑いをこらえながら悲しむフリをする。
 餓狼伝の鞍馬みたいな演技だ。
 思えば、伊良子は昔から演技をするのが好きだった。
 仇討場は芝居をするところではござらぬ。シグルイ1巻 三景)

 そう、こんなときこそ、この人の出番である。
 虎眼流師範・牛股権左衛門の登場だァ〜〜〜〜ッッッ!
 弟弟子の危機に飛び出した。
 だが、その顔には死相が見える。見えてしまう。死兆星が頭上に輝いている。

[敵討(あだうち)心得 助太刀之法]
[ 一、敵討において妄(みだ)りに助太刀をするを認めず
 一、討手(うちて)・仇人(あだびと)、幼児・女人に限り助太刀これを許すべし
 一、討手・仇人、手負い等により仇討能(あた)わざるとき親類縁者これに代わるを許す]


 葵の紋所を背景に『敵討心得』を解説だ。
 これで武士じゃないも安心である。
 藤木が手負いになったため、牛股師範が出動したらしい。

 『カムイ伝』でも、仇討ちで女子供を含めた数人が主人公の一人である草加竜之進を襲うシーンがある。
 女子供以外が助太刀だ。
 竜之進は達人なので女子供も容赦なく斬ってしまう。
 それが 野生動物 武士の厳しいオキテなのだ。
 だから、三重も斬られる運命にあると今ごろ気がついた。
 伊良子陣営から、思いっきり攻撃目標にされています。

 対抗して、伊良子側である賎機(しずはた)検校も助太刀を送りこむ。
 その数十一名だッ!
 金で買われた者たちが槍で完全武装している。
 いずれもかつて藩で警護をしていた武芸者たちだ。

 よく言われる話だが、刀と槍では 槍が圧倒的に有利である。
 戦前の大日本武徳会の支部で佐分利(さぶり)流槍術宗家の師範が剣道相手に三十何本かとって圧勝したこともあるらしい。(鈴木眞哉『刀と首取り』)
 中国でも槍は「百兵の王」と呼ばれている。(参考
 対する虎眼流陣営は刀しかない。セレブな装備と人数動員に敗北してしまうのか?


 相手が弓矢・鉄砲を用意していなかったのは助かるが、大ピンチにはちがいない。
 牛股師範は二本の巨大木刀「かじき」を両手にさげて、うつろな表情だ。
 検校助っ人どもは、おそらく牛股師範をあなどっているだろう。

 だが、彼らは知らないのだ。
 うつろな表情をしている虎眼流はキケン度が高い。
 たとえば覚醒している虎眼先生は、激怒する理由を瞬時に発見して人を斬る。
 だが、曖昧な虎眼先生は涎小豆をみつけたら反射で斬ってしまう。
 そして、涼が斬られたときの反応からすると、小豆がなくても人を斬るらしい。(シグルイ4巻 十七景)

 槍が繰りだされた瞬間、牛股師範の「かじき」が一閃する。
 肉塊が舞った。木刀でありながら、人体を両断している。
 三人の武芸者がバラバラに分断されて、血肉の雨となった。

 生き残った連中も、これにはビビる。
 人体が分断し、血雨したたる情景は、虎眼流だとたまに出くわす。
 しかし、普通の生活をしていればお目にかかる事は、まず無いだろう。
 たとえ武士の家に生まれても、滅多に無い。
 武芸者たちは未知なる恐怖を味わっているはずだ。

 牛股師範が、牛鬼にジョブチェンジした。
 七巻 三十三景で、牛に変化した牛股師範がさらなる進化を遂げたのだ。
 でも、魔人になった虎眼先生が意外と短命だったことを考えると、牛股師範の未来も暗いかもしれない。


 今回の『シグルイ』目玉情報は、TVアニメ化決定だ!
 編集長も納得する熱意があったらしい。

「山口先生の鮮血世界を忠実に映像化したいと語ったアニメスタッフの熱い心意気。この目で、しかと見届けたいと思う。」

 製作は「マッドハウス」だ。
時をかける少女」「DEATH NOTE」など、クオリティーの高い作画には定評がある。
 作画面に関しては心配はいらないだろう。
 放送局はWOWOWで七月から放送開始だ。
 地上波に比べると規制が多少ゆるく、R-15指定アニメと言った表記も存在する。
 無残描写も期待できるのかもしれない。

 スクランブル枠になるのかどうか、現時点では不明である。
 シグルイのために、WOWOWと契約出来るのか。
 出来る。出来るのだ。
 チャンピオンアニメ視聴道はシグルイなり。
by とら


2007年4月19日(6号)
第四十五景 赤縄(あかなわ)

 牛股権左衛門が大爆発だ。
 むしろ周囲の人間が爆発している。
 散らばったジグソーパズルみたいに元の形がわからないほど細切れになっています。
 後片づけは誰がするんでしょうか。
 武士道とは死狂ひなり。掃除をするにも覚悟が必要なのだ。

 そして、見学者たちも大変な状態だ。あちこちで吐いている人がいる。
 藤木源之助は虎眼先生の死に動揺して士道不覚悟といわれた(シグルイ 七巻 33景)。
 ゲロ吐いた人たちも、士道不覚悟としてあとで処罰されそうだな。
 悪口いわれて、黙ったままでも士道不覚悟な世界だし。

「牛股権左…」
「あれは人にござるか?」


 13歳にして下女三名を妊娠させた豪傑・孕石雪千代も、どうやら吐いたようだ。
 目が落ちこみ、急に老けたような顔つきになっている。
 まあ、寿命はちょっと縮んでいるかもしれない。
 巻きぞえ喰って、この場で死ぬ可能性もありますが。


 ここで、牛股師範の知られざる過去が明らかになる。
 幼名・権三郎は少年時代から恐るべき怪力の持ち主だった。
 常人離れしているため、剣術道場でも浮いた存在である。
 まるで羊の群に象がいるような状況なのだろう。
 普通に歩くだけで、周囲に被害を出してしまう状態だ。

 権三郎少年は師に他の道場へ行くように言われる。
 "無双"とうたわれた最強の道場だ。
 もちろん、無双虎眼流道場である。
 こうやって、各地の規格外サムライが集まって、ますます規格外な集団に成長して行くのだろう。

 権三郎をむかえたのは濃尾三天狗が一人・伊吹半心軒であった。
 のちに師匠により真っ二つというか、真っ四つというか、とにかく多数の肉塊にされる(シグルイ六巻 28景)。
 人が未来を知る事ができないのは、けっこう幸せなのかもしれない。
 怪力を誇る権三郎は、伊吹と相撲をとっても互角(か、それ以上)の力を発揮する。
 牛股の牛伝説はここにはじまるのだった。

 そして、例によって涎小豆で入門の儀式をする。
 涎小豆は虎眼先生の強さを見せつけるためのものだろう。
 この人には逆らえないという恐怖を骨髄にまで染みこませるのだ。
 ついでに、ビビって震えるような すくたれものは真っ二つにして振るい落とす。
 虎眼流に弱兵は要らぬ。
 だから、涎小豆がなにか事前に説明しないんだろうな。


 権三郎は愚直に鍛錬を繰りかえす。
 だが、虎眼先生は権三郎の存在を無視した。
 虎眼先生は権三郎を縛る"赤い縄"に気がついていたのだ。

 赤い縄とは、運命の赤い糸のようなものだ。
 出典は『太平広記』と書いてある。
 中国・北宋にまとめられた小説集で、神仙や怪異をあつかっているようだ。
 牛鬼として妖怪一歩手前になりつつある牛股には似合いの書物かもしれない。

 牛股には将来を誓いあった女人がいた。
 彼女に心を残している事が、牛股を縛りつけていたのだ。
 元服し名を権左衛門とあらためた牛股師範は、恋人を斬る。
 すべては剣のためか。

[ この日 ]
[ 権左衛門は素手による去勢を決行している ]

 恋人も捨て、男もすてた。
 って、ええええええ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!
 牛股師範、家畜じゃないんだから睾丸を引き抜かなくても……
 本当にすべてを捨てている。

 ある意味で『ドスペラード』よりも強力な、永遠の童貞になってしまった。
 いく に見せた狂気じみた態度にも納得がいくと言うものだ。
 ついでに、なんで牛股師範が虎眼流の跡目に選ばれなかったのかも納得できる。
 種ないんじゃ、しょうがないよね。
 ちなみに、原作での牛股師範はすでに奥さんがいるので、婿候補から外れているようだ。


 きんたまを抜く実例なら、三田村泰助『宦官』にくわしい。
 たとえば「明のころ一人の秀才が、学問をするのに色欲がじゃまになるというので自宮したところ、宦官のように、まつげやひげが抜けて身体が女のようになってきた」とある。
 自宮とは、自分で去勢することを言う。
 抜くと男性ホルモンが出なくなって、ヒゲが無くなるというのは有名な話だ。

 シグルイ 七巻 33景の牛股師範はヒゲが生えていた。
 睾丸を抜きとっても、男性ホルモンが溢れているのかもしれない。
 なにしろ牛鬼だもんな。
 目玉の親父なんて、目玉だけでも会話したり飲み食いできる。文字通り「目は口ほどに物を言う」だ。
 牛鬼なら睾丸が無くとも、気合でヒゲぐらいのばせるだろう。

 牛股師範が虎子の間にいないのは、去勢している事を隠すためかもしれない。
 一緒にくらしていれば、いつかはバレるだろう。
 牛股師範が一人暮らしを選択するのは、当然の成り行きだ。


 このタイミングで牛股師範の過去が判明しやがった。……ちょっと死亡フラグのニオイがする。
 圧倒的な物量をほこる敵に牛股師範は勝てるのか!?
 すでに勝っているような状況になっているけど、油断はできない。
 敵は牛股師範とは逆属性な絶倫モテ男・伊良子清玄だ。
 餓狼伝で言うなら姫川勉である。
 ガンバレ。みんな(私の属する集団)は牛股師範を応援しているぞ!
by とら


2007年5月19日(7号)
第四十六景 修羅(しゅら)

 ひさしぶりに駿河大納言 徳川忠長の登場だッ!
 大納言ッ! なんと聞こえのいい言葉か!
 現代人にはなじみのない官位ですが、大納言は正三位で とてもエラい。(参考

 征夷大将軍の次にエラく、中納言(黄門)より上だ。
 つまり水戸黄門の印籠攻撃が通用しないッ!(たぶん)
 カウンターで黄門さまが土下座する。(たぶん)
 そんな大納言が悪行をした場合、征夷大将軍以外に止めることはできないのだ。(たぶん)

『袴の裾を踏んだという理由で』
『小姓が一名手討ちとなった』


 『手討ち』を辞書で引くと、『[4](「手討ち」とも書く)武士が家来や町人を自ら斬り殺すこと』とある。(参考
 駿河大納言みずから、小姓を殺しています。
 でも、斬っていない。
 獲物を狩るように、縛りつけた小姓に弓矢を射かけているのだ。
 これはヒドい。まさに残虐行為である。

 武士とは自分で責任をとって死ねる存在である。
 ゆえに責任をとって切腹するのだ。(参考:2時間でわかる図解・武士道のことが面白いほどわかる本
 つまり罰則で殺されることは、武士にとって非常に不名誉である。
 オマケにジワジワとなぶり殺しだ。

 やるほうも、武士らしくない陰湿な振る舞いである。
 世間のウワサも良くないだろう。
 双方にダメージが発生する行為だ。
 将軍になれなかった忠長には、破滅的な行為をやめられないほどの鬱屈した感情があるのだろう。

『忠長の附家老 朝倉宣正は隣接する掛川藩の城主でもあるが』


 と、ここで掛川藩城主の朝倉宣正が登場する。
 掛川藩は虎眼道場の所属する藩だ。
 忠長は掛川藩の親会社・社長みたいなものだということらしい。
 という事は、徳川忠長に命じられたら、掛川藩士は逆らえないのだ。
 悲劇への扉が、また一つ開いた。

 朝倉と鳥居成次は忠長の癇癖をなだめるために、親会社に出向中なのだ。
 これで、自分の藩で揉め事が起きたら、きっちり怒られるのだろう。
 実に報われない。
 なお、鳥居成次は一巻 一景に登場して、やっぱり報われていない。
 代表的なセリフは「暗君…」だ。

 こっちでは残虐大会を開催中だけど、掛川では武士らしい仇討ちが行われているんだろうな。
 朝倉はそんな風に思いながら空を見るのだった。
 でも、掛川のほうが、もっとスゴい残虐大会になっている。
 それこそ忠長が裸足で駆けつけて見学しそうな状態だ。
 忠長が御前試合を開催すると言い出したのは、この試合が原因かもしれない。


 さて、掛川ですが牛股師範が止まりません。
 とうとう十一名の助っ人を全員肉塊に変えてしまったようだ。
 ちょっと細かすぎて、本当に11人いたのかワカりにくい。
 検死にはパズルの得意な人をお願いします。
 あと、早くしないとカラスに喰われてしまうので、急いでください。

 牛股師範はさらに暴走する。
 まさか、この先があったのかと思うぐらいに暴走するのだ。
 倒した相手の死体を砕いて撒き散らす。
 新築祝いで菓子をまくワケではない。誰も喜ばない。
 さすがに牛股師範を止めようという命がくだる。

 しかし、止めよといわれて止められるものでもない。
 猛獣に縄をかけるような心境だ。
 だが、ここで石田凡太郎なるものが進み出た。
 人は彼を"菩薩の石田"と呼ぶ。

 カマキリに似ているといわれる賄頭・豊岡惣右衛門の三女を妻にしたが、きっちり三人の男子を作った男だ。
 想像図とはいえ奥さんがカマキリそのものなんですが。
 100kgのカマキリは象すら倒す。秋田書店では常識である。
 この三女さんもカマキリだけに、タダ者ではないのかも。

 菩薩の石田が牛股師範をなだめて、水をすすめる。
 大丈夫、怖くない。と、まるでナウシカがテトに語りかけるような状態だ。
 牛股師範の場合、テトというより王蟲ですが。

 でも、牛股師範が止まったりするワケない。
 そのまま石田の首をハネ飛ばすに決まっている。
 と、思っていたら巨大木刀"かじき"を地に突き刺し、小休憩した。
 ナウシカだ。ナウシカの優しさが王蟲に通じたんだ!

 そう思って油断していたら、牛股師範が素手で石田の腹を引きちぎった。
 さらに腸を引きずりだす。
 エラい事になってしまった。
 後にこの話を聞いた徳川忠長はきっとライブで見たかったと思うのだろう。
 そして、鳥居が見せてくれたから喜ぶんだろうな。

 いくが整備した地面に血肉がバラまかれた。
 おそらく、地形効果が変化したと思われる。
 この条件が伊良子清玄の無明逆流れにどう影響するのか。
 目の不自由な伊良子にとって、滑りやすく障害物の多い地形は、間違いなく不利だ。

 牛股師範は、そこまで考えていたのだろうか?
 考えていたとしても、普通は血肉をバラまいたりしないよな。
 虎眼流は、思考の制御ネジがはずれている。

 おそらく、牛股師範は虎眼先生の魔人モード(シグルイ6巻 28景)をマスターしちゃったのだろう。
 師匠のこまった部分まで学ぶことは無いのに。
 はたして、牛鬼となった牛股師範は人間に戻ることができるのだろうか?


 ストップ・ザ・牛股に名乗りをあげたのは伊良子清玄であった。
 女人を断つため素手で去勢して、非モテ男へとセルフ改造した牛股師範と対極にある男だ。
 男根を焼いても自己再生しそうな気がするあたり、伊良子も妖怪化している。

 勝算がないと出てこない、慎重な伊良子が出てきたのだ。
 牛股師範は危機をむかえている。
 ただ、伊良子は計算高いわりに計算が苦手だ。
 人の力量を見誤ることにかけても達人といえる。

 今回の伊良子は計算を間違っているのか、いないのか?
 虎眼先生、藤木源之助につづき、虎眼流 vs. 伊良子清玄の第三幕がはじまろうとしている。
 そして、腸(はらわた)にまみれている藤木源之助のことをだれか助けてあげてください。
 放置しっぱなし(しかも重傷で死にかけ)は、かなり無残だ。
by とら


2007年6月19日(8号)
第四十七景 稚児(やや)

 伊良子清玄がストップ・ザ・牛股を申しでる。
 これはヒーローの立ち位置だ。
 自分を正当化して、正義の立場を得た。
 機を逃さない美事(みごと)な演出である。

 涙まで流して、伊良子は訴える。
 もともと自分が原因である。命をかけて幕を引きましょう。
 まるで、お人よしな伊良子が他人の責任まで引き受けているように見える。
 だが、伊良子が全ての元凶というのは本当の話だ。
 もう少し早く伊良子の悪根を焼き断っていれば、四巻から先の悲劇は起きなかったんだし。

 まあ、それを言っちゃうと元凶は虎眼先生かもしれない。
 虎眼先生が曖昧にならなきゃ、悲劇はもうちょっと少なかった。
 それを言い出すと、徳川家康が兵農分離をすすめたのが原因と言うことになりかねないな。


 一方、いくは身の毛もよだつ真相に気がついていた。
 いくの許婚(いいなずけ)である二人の男を斬ったのは、牛股師範だと言うのだッ!
 ええッ!? ちょっと待って、なんか今までの話が根底から崩れてしまう。

 たしかに、『シグルイ2巻 第七景 童唄』で、許婚を斬ったのは虎眼先生だと断言していない。
 許婚の話をしたあとに、七丁念仏の話なんかするから、カン違いしただけだ。
 そもそも、いくがカン違いしたから読者も引きずられた。

 許婚を斬ったのは。たしかに牛股師範かもしれない。
 だが、いくを惑わせ、読者も惑わせたのは伊良子清玄だ。
 思わせぶりに、全然関係のない話をするなッ!
 ダマされたよ。ああ、ダマされていたさ。

 七丁念仏の巻きぞえ喰らった人って奉行所の人なのか? とか、呉服屋はどうしたの? と 考えた事はある。
 でも、虎眼先生ならやりかねないと思って疑問を振りはらってしまったのだ。
 伊良子の美事(みごと)な誘導に引っかかってしまった。
 あと、虎眼先生の素行がちと…………。
 シグルイ作中で死体が発見された場合、その犯人として最初に疑うべきは岩本虎眼だ。


 それはさておき、話は伊良子仕置きの直後へ飛ぶ。
 両目を切り裂かれた伊良子清玄をかかえ、いくは途方にくれる。
 まずは伊良子の治療が必要だ。
 長期滞在の場所も欲しい。
 でも、お金ないよね。たぶん。

「滋音寺へ参られよ」

 ジオン ジ! なんかサイド3で独立宣言しそうな名前だ。
 こまったことに滋音寺は実在するようです。中国に。
 瀬戸内海の、あたりじゃなくてChinaの中国だ。
 牛股師範、それはムリ。
 いくらなんでも不可能すぎる。

 なお、『シグルイ3巻 十五景 産声』を見ると、牛股師範がいくに何事かを言っている描写がある。
 いくの許婚殺害といい、実に遠大な伏線があったのだ。

 罠っぽいと思っていても、他に道が無いとハマってしまう。
 完全に包囲すると敵は死に物狂いになるので、わざと逃げ道を開けてやり、そこに罠を仕掛けると良い。
 兵法の基本です。

 ヤバそうな選択だが、お寺だったら、タダで面倒見てくれる可能性もある。選択肢としては悪くない。
 なかなかイイ選択だけに、危険度が高そうだ。
 そんなワケで、いくは伊良子を連れて寺に向かうのだった。
 いくは、時に伊良子へ肩をかし、時におぶって進む。
 すごいタフネスですな。

 滋音寺は廃寺だった。現代日本には存在していないのだろう。
 だからGoogleにも引っかからない。
 だが、あやしげな住職・瀬安がいた。
 もちろん罠である。

 伊良子に娘や妹を汚された掛川藩士代表として、角野安次郎と桜井彦九郎が参上する。
 美しいまでの身から出たサビ状態だった。伊良子に同情の余地なし。
 なお、『シグルイ3巻 十五景 産声』に、ちゃんと二人の名がのっていた。
「角野安次郎の娘 八重」「桜井彦久郎の妹 房野」とある。
 桜井の名が違うのは、誤記か、錯乱した伊良子の記憶違いだろう。

 伊良子は青竹でしこたま打たれた。
 いくは、瀬安に犯される。
 この、売僧がッ!
 伊良子はむしろ根を焼ききるぐらいがちょうど良い。しかし、いくは関係なかろう。


 二日後、伊良子といくは山中に放置された。
 死ぬ寸前の二人を救ったのは、月岡雪之介となのる剣士であった。
 月岡は飛騨の岳仙寺に、二人をかくまう。
 彼もいろいろと悩みを抱えて諸国漫遊の旅なのだ。
 大仏を見る眼が、とても切ない。

 月岡雪之介は、のちに駿河城御前試合・第三試合の選手となる。
 『峰打ち不殺』の主人公にして、かなり天然ボケの入った男だ。
 途中で、オチが読めるような、大ボケをかましてくれる。

 話をもどす。
 やっと落ち着いた生活になった伊良子は散歩(?)で いくとはぐれてしまう。
 はぐれるようなトラブルが発生したのだろうか。
 若い女のニオイを嗅ぎつけて、伊良子が勝手に歩いて行ったのかもしれない。

 なんにしても、伊良子は一人だ。
 まるで、このタイミングを狙っていたかのように月岡があらわれた。
 そして伊良子に斬りかかるッ!
 脳天から真っ二つだ!

 いや、斬られていない。
 触れる直前に刀をもどしたのだ。
 だが、伊良子は気絶している。
 見えない目でありながら、なにを感じたのか?

『"見た"のである』
『無無明(むむみょう)


 伊良子がなんか目覚めちゃったァ〜〜!
 月岡め、己が新たな災厄の種をまいたと気づいておるのか?
 見えないのに見えている。伊良子の謎がついに解明しそうだ。
 無明なのにさらに無ッ! 二重否定なのか?

 一見、意味がワカらないが、読み直してみてもさっぱりワカらん。
 伊良子は、どんな魔界の扉を開いたのだろうか?
 次回へつづく。


 今回のエピソードは伊良子逆転につながる話なのだろうか?
 いまさら、見えるといわれても、あまり意味がない気がする。
 とりあえず牛股師範の かじきニ刀流を、どうやって防御するのだろうか。
 そもそも人間には防御不可能だろ、アレ。

 伊良子も妖怪化するのだろうか。
 たしか、目を斬られたとき、伊良子は怪物に生まれかわったハズだ。
 真の怪物性がついに目覚めるのだろうか?


チャンピオン RED (レッド) 2007年 08月号 [雑誌]
チャンピオンRED
2007 8号
    シグルイ 藤木源之助 (1/10スケールPVC塗装済み完成品)
藤木源之助
(1/10スケール
PVC塗装済み完成品)
    駿河城御前試合
駿河城御前試合
by とら


2007年7月19日(9号)
第四十八景 無苦集滅道(むくじゅうめつどう)

 今回は伊良子清玄が盲目でありながら敵をとらえる修行をする話だ。
 表紙からフンドシ一丁でセクシー全開である。股間のふくらみがただ事ではない。
 恐るべし、伊良子清玄ッッッ!

 第四十八景はセリフがまったく無い。
 サイレント状態でおおくりしております。
 盲目の伊良子がいる世界は無明だ。
 それを疑似体験するがごとく、読者は無音の世界に送りこまれる。


 伊良子は道に並ぶ地蔵を手でまさぐる。
 似ている。この地蔵は牛股に似ているッ!
 伊良子の逆恨み能力は人類最強クラスだ。『北斗の拳』の逆恨み王子ジャギの上をいく。
 逆恨みオリンピックがあれば金メダルも取れる。
 牛股に似ている地蔵など許せるはずも無い。
 即、打つ。石で殴りつける。顔が壊れるまで殴った。

 そして、今度は藤木似の地蔵を発見する。
 尿ッ! 放尿による復讐だッ!
 伊良子清玄、容赦せん。
 なんか、盲目になって人間が一回り小さくなった気がする。

 わざわざ仇に似ている地蔵を探して冒涜する。
 偶然ではない。
 明確な目的を持って怒りをぶつけている。
 ものすごく手のこんだ事をやっています。
 自分の怒りをぶつけるための努力は惜しまない人なのだ。

 おそらく周辺の仏像・地蔵を片っ端から調べてメチャクチャにしているんだろうな。
 地蔵殺しの伊良子清玄が誕生した瞬間である。
 ……罰当たるよ。
 石を砕くから手に傷ができて、その手でイチモツをつかむから傷口に雑菌が入る。
 そんな因果で手や股間が腫れて膿む。


 もちろん、伊良子は近隣の地蔵にヤツアタリするだけじゃない。
 ちゃんと修行もしている。
 今日だって、箸で いくの乳首をつまむ鍛錬を行って…………
 ……って、え〜〜〜〜〜ッッッ!!!?

 なに、このセクハラ剣士は?
 おっと、目が見えないから間違えちゃった。とか言っているんですか?
 思えば 伊良子は昔から乳首責めが好きだったな。

 やっぱり、伊良子のチンポは根腐れて落ちたほうが良いのかもしれない。
 本人のためにも。
 修行のジャマだろ、それ。

 気を取り直してちゃんと修行をします。
 最初は、中に鈴の入ったマリであった。
 いくが投げたマリを伊良子は両断する。
 音さえすれば斬れる。斬れるのだ。

 次はお手玉、さらに小豆と修行内容はグレードアップしていく。
 そして、いくの投げ方も進化する。
 マリは放り投げていた。だが、お手玉は本格派ピッチャーのような豪快な投げ方だ。
 さらに、小豆を投げるときには白ハチマキに たすきがけという真剣勝負のような姿をしている。

 そして、投げる小豆は必殺だ。
 さすがに小豆を斬るのは無理だった。小豆は伊良子の目に当たる。
 伊良子はダメージに悶絶するのだった。
 いくも、さすがに思いっきり投げすぎたと思ったことだろう。
 伊良子の修行に付き合っているうちに、いくもまた怪物になりつつある。


 そして、ついに伊良子は小豆斬りに成功する。
 成功しないと、いくに小豆で撃ち殺されていたかもしれないし。
 そりゃぁ、もう命がけですよ。
 涎小豆の件もあるし、小豆と伊良子は相性が悪いらしい。
 ここまで書いておいて、小豆じゃなくて大豆でしたと言われたらどうしよう。


 前回から登場している月岡雪之介は菩薩像らしきものを作っていた。
 座っているポーズからすると弥勒菩薩だろうか。
 伊良子は、この姿から何らかのヒントを得たらしい。
 『関節王』という漫画にもこの姿を模した『弥勒牟』という技がある。
 もしかすると、武術的に意味のある型なのかもしれない。
 無明逆流れの完成まで、あと少しか?

 伊良子清玄はいくの乳首を吸いつつ、仏像をブッた斬るなどの蛮行で住職を驚かせるのだった。
 乳首吸いと仏像斬りの、どちらが より驚愕だったのだろうか。
 金銭面と精神面への同時攻撃であった。
 いくらなんでも、コレはヒドい。寺に住まわせてもらっている身なのに。

 魔道におちた伊良子清玄は何を思うのか?
 そして、今回の話が牛股師範との決戦にどう関わるのか?
 菩薩受けで、牛股師範のかじきを止めるのかもしれない。

 なお、今回のタイトル『無苦集滅道』は般若心経からきているらしい。(参考
 おっぱいに かぶりつくのも般若心経なんだろうか。
 とことんまで、罰当たりな伊良子清玄であった。
by とら


2007年8月18日(10号)
第四十九景 幻視(まぼろし)

 荒れ狂う牛鬼と化した牛股権左衛門をいかに倒すのか?
 盲目の剣士と刺青の美女は、妖怪に勝ているのか?
 勝つ気マンマンだ。気持ちだけは勝ったも同然らしい。
 いくは「うふふふ」と不気味に笑っている。
 二人そろって、必勝の妄想にとりつかれてござるか?

 怪物二人の対峙に、見ている孕石雪千代は失禁寸前だ。
 伊良子清玄は、かつて牛股に穿たれた背中の傷がうずいている。
 逆恨みが得意技である伊良子だが、理由ある恨みもちゃんと使用するのだ。
 伊良子清玄の恨みは108まであるらしい。

「仇討場は芝居をするところではござらぬ」
「虎眼に玉を抜かれたうぬら門弟は」
「乱心すら出来ぬ傀儡(くぐつ)の群れ」


 牛股師範は自ら去勢したという過去をもつ。(シグルイ9巻 45景
 伊良子清玄は、その秘密を知らないはずなのに、的確に弱点をついている。
 嫌がらせの天才めッ!
 餓狼伝の鞍馬彦一に匹敵する困った才能であった。
 それとも、調べたのだろうか?
 人の嫌がることに対する努力は惜しまないのだろう。

 そして、伊良子は牛股大爆発の暴挙が、幻想だと断じる。
 本当は苦戦して足掻いていたんだろ? と、決め付けるのだ。
 ナニを言っとるんだ、この 乳首ちゅぱえもんは?

 逆恨みと思い込みの激しい伊良子だけに、不利な現実から目をそむけて都合のいい幻を見ているのだろうか?
 背後にいる、いくに同意を求めない理性は残っているが、痴呆状態だ。
 現実から目をそむけても、事態は改善しないのに。
 伊良子清玄は、すくたれもの にございます。

 もっとも、圧倒的不利な感じのある伊良子だ。
 己をふるいたたせるために、自己暗示をかけているのかもしれない。
 ポジティブな気持ちで、帰ったら思いっきり おっぱいちゅぱちゅぱする、と思いさだめておるのだろう。


「今日という日は」
「お主が虎眼流を倒した日とはならぬ」
「そのようには決して記録されぬ」
「一名の乱心者が掛川領の数多の民を殺戮せし災禍の日」
「左様に記されるのだ」


 大暴れする牛股師範の真相が判明した。
 理由なき虐殺ではなかったのだ。
 ちゃんと、理由がある。理由があればイイってものじゃないけど。
 虎眼流が爆死した跡をごまかすために、更なる大爆発を起こした。
 痛みを、更なる痛みでごまかす、痛すぎて痛くない作戦ににている。
 壮絶な隠蔽工作だ。

 壮絶に間違っている気もしますけど。
 スマートかつオサレに勝てば、敗北は帳消しになると思う。
 それとも、次期当主である藤木が負けたのは回復不能の痛手なのだろうか。

 牛股権左衛門は死狂いなり。
 命を燃やしつくして、リセットボタンを押すつもりだ。
 乱心者の最期は良くて切腹になる。最悪、このまま討ち取られる。
 牛股師範の死後評価は、そうとう悪く書かれるんだろう。
 名誉も命も捨てた最期の爆発だ。

 でも、これだけの斬殺事件を起こしたら、徳川忠長に興味をもたれそうだ。
 かえって出世したりして。


 伊良子清玄は一太刀で牛股師範を屠ると宣言する。
 虎眼流殺しの魔剣『無明逆流れ』に絶大な自信をもっているのだろう。
 自信があるなら、牛股師範のダメっぷりを捏造しないでもイイのに。
 しょせん強がりか?

「よう見せてくれた無駄にはせぬぞ」

 ナレーターに『無明逆流れと相対して』『生き残った虎眼流剣士は皆無である』と勝手に断定されてしまった藤木に、牛股師範が感謝をのべる。
 勝手に死亡確認しないでいただきたい。
 とにかく、藤木源之助が伊良子との死闘でいくつかのヒントを残していたらしい。
 藤木の遺志(死んでないけど)を受けつぎ牛股は、構えをとる。

「伊良子清玄 敗れたり!」

 その眼は、表情は、澄みきっていた。
 虎眼流の名を守るために汚名をかぶり、牛鬼と化した男が、侍にもどったのだ。
 ほれぼれするような男っぷりである。
 この男が悪であるわけがない。
 侍の鑑のような姿だ。

 二刀の巨大木刀"かじき"を『簾牙(すだれきば)』風に構える。(シグルイ 8巻 42話
 片手で伊良子の下段を防ぎつつ、もう一方で伊良子の頭を狙うのだろうか。

 無明逆流れは、刀の出所がハッキリしている。
 リーチの長い武器で、刀の先を押さえれば止められそうだ。
 かじきを用いれば楽勝っぽい。
 もちろん、伊良子も対策を考えていそうだ。
 いや、考えていないかも。妄想に逃げがちだから、悪い未来からは眼をそむけている可能性が高い。

 牛股師範の秘策とは、なにか!?
 伊良子に対策はあるのか?
 そして、藤木はいつまで死亡確認のまま臓物に埋もれているのか?
 次回へ、つづく!


 チャンピオンRED 10号の付録は、若本規夫朗読のシグルイ原作『無明逆流れ』だ。
 きっちりと、いく&三重を演じておられる。
 そして、伊良子清玄がみょうに男らしい。
 漫画と ちょっとイメージ違うぞ。なんか偉大夫みたいな迫力がある。

 当然ながら、原作ネタバレなので聴くかどうかは熟慮したほうがよさそうだ。
by とら


2007年9月19日(11号)
第五十景 契り桜(ちぎりざくら)

 牛股師範に迎撃の準備あり。
 無明逆流れを破る秘策があるらしい。
 山口先生は、先の話はあまり考えずにマンガを描いているらしい。(シグルイ奥義秘伝書
 チャンピオンRED 10号のコメントでも言っていたが、『来月の俺に任せた!』状態だ。
 今月の牛股師範に任せた!

 牛股師範は巨大木刀かじきを大地に叩きつけ、臓物やハラワタや内臓をまきちらす。
 全部いっしょと思わせておいて、頭が混じっているのがポイントだ。
 コウモリはこれぐらいの臓物はよけられるらしいが、お前はどうかな?

 盲目の伊良子は自分にむかって来るものを反射的に斬りあげている。
 オリバも愛読している『ユーザーイリュージョン』によると、人間は意識して動くほうが反応が遅くなるらしい。
 無意識の反応のほうが速いのだ。
 つまり、無明逆流れの神速も理屈に合っている。

 ニールス・ボーアは西部劇で主人公が勝つのは、無意識の動作だからという仮説を立てた。
 悪漢は自分から銃をぬく。つまり意識的な動きだ。
 逆に主人公は悪漢の手が動いた瞬間、反射的に銃をぬいて撃つという訓練をする。
 主人公が勝つのは、無意識の行動による速さのおかげだ。
 ボーアはおもちゃの拳銃を買い、この理論で「弟子を全員『射殺』した。」

 目の悪いカエルが目の前で動くものを反射的に食べるように、伊良子は飛んできた頭を斬る。
 そこへ二の太刀を叩きこみ、伊良子を真っ二つだ。
 カエルなみの男など、恐れるコトはない。
 これが牛股権左衛門の導き出した必勝の法である。

 なんか、微妙に穴があるような気がします。
 伊良子が反応しなかったらどうするんだろう?
 それと肝心な前提が抜けおちている。
 伊良子の無明逆流れは、流れ星殺しの必殺技なのだ。

 流れ星は横なぎに対手の首をハネ飛ばす必殺剣である。
 極限まで高められた剣速がある反面、軌道はほぼ一定だ。
 虎眼先生を斃した時(6巻 31景)や、藤木の腕を斬りおとした時(8巻 42景)を思い出していただきたい。
 伊良子は倒れこみながら斬りあげている。つまり、攻撃と回避をかねているのだ。
 困ったことに牛股師範は、伊良子が攻撃しながら倒れることを失念している。
 これは、空振る。空振るのだ。


 愚直な牛股師範は、そのまま計画を実行してしまう。
 まずは土と肉の散弾だ。
 伊良子は、あえて防御しない。すべて受けきる。
 遺体の頭が顔面に直撃しても泣かない。頑張った。

 人間の頭は体重の4.4%ほどだという。(参考「最強格闘技の科学」)
 江戸時代の平均身長は男性155〜158cmぐらいだ。(参考
 そう考えると、2kgぐらいの塊を直撃で喰らったことになる。
 へこたれそうなダメージだろうが、伊良子は耐えた。そして、反撃だ。

 土と肉の散弾をあびせたあと、すぐに横なぎを放つ。
 牛股師範は、そうイメージしていたのだろう。
 無意識の悲しいところで、止まらない。
 必殺のかじきは、惜しいところで当たらず、空を切る。

 そして、伊良子の無明逆流れは牛股師範のアゴから入り、左目を抜け、額まで斬り裂いた。
 牛股師範が倒れる。
 無残な場面を意識不明と思われていた藤木が見ていた。
 家老の孕石に「あの太刀を離さぬうちは源之助は死んでおらぬ!」と言われた藤木であった。(9巻 44景
 だが、ここで遂に手から太刀が落ちる。
 虎眼流の命運は、この瞬間に尽きた。

 残った虎眼流の討手である茂助と大坪は、伊良子に突っこみ、最小の斬撃で斃れた。
 小刀を抜いて立ちむかう三重は、峰打ちで倒す。
 一瞬で、全滅だ。
 検校は大喜びで、孕石たちは沈みこむ。
 明暗がくっきりと分かれてしまった。


 倒れる前に、牛股師範はいくを見ていた。
 いや、いくではない。
 いくの姿に、幼馴染のふくを見ていたのだ。9巻 45景
 ふくとの間に子をなし、約束の契り桜を訪れる。
 そんな幸せな世界があったのかもしれない。

 伊良子も仕置きで倒されたとき、幻影を見ていた。(3巻 13景)
 心身のダメージが大きいから、脳内麻薬で鎮痛しようとして、幸せな幻影を見たりする仕組みなのだろうか?
 なんにしても野心も大事だった伊良子に比べると、剣すら捨てているように見える牛股師範の妄想は穏やかだ。
 本当は平穏に暮らしたい人だったのかもしれない。

 そして、牛股師範がいくに時折見せた妄執のような態度は、ふくの姿を見ていたためであろうか?
 ちなみに名前が似ている点が悲劇の発端というのは、原作駿河城御前試合にも出てくるネタである。
 これって、遠大な伏線なのか?
 回収は何年先になるのだろう……

 牛股師範は死んだように扱われている。
 だが、脳へのダメージは無い、かもしれない。主に斬られたのは、顔の下半分だからだ。
 なにしろ、毒を喰らっても生きのびた人だし、期待はできる。(5巻 26景(※ 連載時は一回目の27景)
 ダメージがあったとしても、ロボトミー手術のように脳の前頭葉をテキトーに切る手術だって過去にあった。
 牛股師範も生存している可能性はある。
 ある、けど、『楽天的で空虚な爽快感をいだくようになり』『多弁で下らないことをいう』人格になったら、嫌だな。


『肉片と化したかに見えた石田凡太郎並びに賤機家助太刀衆の遺体は
 思いの他 原型を留めていた』


 さすが計算された乱心である。
 牛股師範は無用な残虐をさけていたようだ。
 思いの他というのが、全員コマ切れだと思っていたら、頭ぐらいは残っていたというレベルかもしれないけど。
 最初の印象が悪いと、すこしイイ事をすれば、数倍 好印象になると言う一例であった。
 臓物バラ巻きって、ツンデレ?

 遺体を大事にするのは、もともと儒教の考えかたらしい。
 中国で生まれた儒教的な考えは、いろいろな形で日本にも根付いている。
 葬式のときに棺や位牌を拝むのも儒教の風習だ。
 真の仏教徒は棺や位牌ではなく、本尊を拝む。
『仏教では、死者の肉体は、もはや単なる物体にすぎないからである。』儒教とは何か

 インドだと、遺体は焼いてガンジス川だ。
 日本人の私からすると、あまり大切にしているようには見えない。
 江戸時代では、まだ土葬だし先祖代々の墓に入れてこそ供養になると言うものだ。
 遺体に対する最低限の礼儀を、牛股師範は失っていない。

 現代のファンタジー『十二国記』(AA)でも遺体に対する感覚はもちあわせている。
「降りてこい。さもなくば、お前の仲間を切り刻む」
 このセリフは、もっとも酷いセリフとして読者の心に刻まれているであろう。(※ その仲間はすでに死体となっている)
 ちなみに、これは主人公(女)のセリフです。アニメでも、ちゃんと言っていました。ヤるときゃ、ヤるな、NHK。

 でも、牛股師範は、伊良子の体を散らばる躯(むくろ)と かき混ぜるって言っていた……
 牛股師範が勝っていれば、凡太郎たちの遺体も判別不能になっていたかもしれない。
 凡太郎的には伊良子が勝って、助かったのだろうか?
by とら


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