餓狼伝 (VOL.201〜VOL.210)

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2008年2月12日(5号)
餓狼伝 Vol.201

 振りかえったら笑顔の姫川勉がいたッ!
 血まみれで笑っている。
 どんなホラー展開だよ。

 イケメンは血まみれでも笑顔を忘れないのだろうか。
 梶原なら、もっと良いリアクションを返してくれるのに。
 折られたら夢枕獏的な奇声をあげつつのたうち回るのが作法だろ。(例:むげげげえぇっ)
 尿が漏らせるのなら、なお良し。
 やはり梶原に再活躍の場が欲しい。

 姫川は長田の背後に立っていた。
 だが、蹴りの風圧が前方の斜め下からやってくる。
 姫川名物のありえない角度からの蹴りだ。
 背後からの不意打ちと見せかけて、正面から攻撃がくる。
 二重の奇襲効果が期待できる必殺技だ。

(肩を外したッッ マチガイないッッ)
(捨ててなかったのか)
(勝負…)
(折られてもなおッッ)
(俺はなんて甘―――――)


 打たれる瞬間、長田の脳内を思考が駆けぬける。
 まるで死の直前に見る走馬灯のようだ。
 この集中力が当たる前に発動してば、あるいは……

 漫画版には出ていないエピソードだが、長田も折られた経験がある。
 相手は梶原だ。
 本当です。ウソじゃありません。
 読んだのずいぶん前なので、自信が無いけど、たぶん本当だ。
 とりあえず納得してくれ。お願いします。

 折られて敗北した経験がある。
 だから、折った瞬間に勝利を確信したのだろう。
 経験者ゆえの油断だ。

 だが、姫川もまた折られた経験を持っていた。
 五年前、松尾象山に右ヒジを破壊されている。(餓狼伝13巻 105話
 折られても姫川は悲鳴をあげず、ギブアップもしなかった。
 長田よりもプライドが高いのだろう。

 そして、今回が二度目だ。
 二度目だから、多少の耐性もあるのだろう。
 痛いことは痛いけど、相手に倍返しすると思えば耐えられる。
 それが姫川のサド思考だ!(偏見)

 残念だが、長田は甘かった。
 相手の覚悟を見誤ってしまったのだ。
 姫川の過去情報を長田陣営が入手していれば、また違った展開もあったかもしれない。
 ちょっと、ムリヤリ情報担当(梶原)に責任を押しつけてしまった。

 糸が切れて落ちる操り人形の図とともに長田がくずれおちる。
 ゆっくり丁寧に倒れていく。
 藤巻と梶原が大量の汗を流す。黒い人つながりだろうか。

 例によって、藤巻がいきりたっている。
 今にも飛び出しそうだ。
 実に危険である。試験中の便意よりもタチが悪い。
 藤巻よ、出ちゃダメだ。

 おなじ黒い人でも泉さんは眼を閉じるだけだ。
 竹宮流の『虎王』で敵を倒しきれなかった。
 しかし、姫川は娘の交際相手でもある。
 もしかしたら、義父(おとう)さんと呼ばれるかもしれない。
 実はイチバン複雑な心境だったのは、この泉さんだったのかも。

 グレート巽は不機嫌そうに睨んでいる。
 108ある仕置き技のうち、どれを使うのか、考えているのだろうか?

 多くの者が見守る中、長田弘は倒れた。
 五年超の連載時間をかけ、ついにトーナメントが終了したのだ。
 優勝は、姫川勉である!


 姫川は松尾象山を見る。
 優勝者は、松尾象山に挑戦できるのだ。
 かなり負傷しているのだが、姫川は松尾象山に挑戦するつもりらしい。
 だが、松尾象山は無言で首をふる。

 会場に一人の乱入者が出現した。
 あさぐろい肌をもち、危険な獣臭を漂わせる男だ。

「竹宮流 藤巻十三ォッッ」
「姫川 勉ッッッ」
「この場にて真剣勝負が望みだッッッ」


 多汗な年頃のツンデレ大魔神がついに出現してしまった。
 藤巻十三の参戦だッ!

 警察が藤巻を狙う中で、出てくるのは自殺行為に等しい。
 しかし、盟友・長田が倒されたまま黙っていることなどできないのが藤巻である。
 べ、別にアンタの仇を討ちたいワケじゃないんだからね。カンちがいしないでよっ!
 このまま、藤巻vs.姫川が始まるのか?
 次回へつづく。


 ツンデレ爆弾・藤巻十三がついに爆発した。
 同じ13でもゴルゴ13とは正反対の性格だ。あまりに直情すぎる。
 藤巻の恨みを晴らしてくれるハズだった長田の仇を、藤巻が討つ!
 まわりまわって、けっきょく自分で戦うことになったらしい。

 しかし、藤巻が出てきたのに、梶原はどうした?
 まず長田のもとにかけよったのだろうか。
 早くも巽社長にお仕置きされていたりして。

 あと、主審の死亡フラグ197話)を心配していたのだが、無事に乗りきった。
 感想を書いたあとに原作を読みかえしたら、本当に主審がまきぞえでダウンしていたので心配していたのだ。
 まあ、藤巻登場に巻きこまれてダウンする可能性もあるので、まだ油断できない。

 無いとは思うけど、逆に主審が藤巻を倒す展開があったりして。
 実は、あの主審は松尾象山の弟だったりとか。
 原作があるくせに、餓狼伝はどこに転がるのかワカらない作品なのだ。

 決勝までおとなしくしていた久我重明の動向も気になれる。
 最終的にグレート巽と久我重明が乱入して、北辰会館 vs. FAWを宣言するかもしれない。
 大会後の餓狼伝がどこに向かうのか、予想できないし。

 餓狼伝の未来には、いろいろな可能性がある。
 だが、主人公・丹波文七を大活躍させる展開だけは、なかなか思いつかない。
 どう調理すれば食えるようになるんでしょうか。
by とら


2008年2月26日(6号)
餓狼伝 Vol.202

 長田の敗北を見て、藤巻十三が乱入した。
 餓狼伝世界で最強といわれるツンデレ男である。
 「最強の → ツンデレ男」ではなく「ツンデレが最強の → 男」だ。
 いつまでも自分をおさえているコトなどできない。

 指名手配されている身の上である。
 目立つ行動は避けねばならない。
 しかし、藤巻は出ずにはいられないのだ。
 それがツンデレである。
 カン違いされては困るので言っておくが、長田が負けてくやしいワケではない。

「竹宮流ゥッ」
「藤巻十三ッッ」
「竹宮流ッ」
「藤巻十三ッ」

 大切なことだから二度言ったァッッッ!!
 すさまじい自己主張で藤巻が名乗りをあげる。
 だが、藤巻はせまい世界の有名人だ。
 観客はポカーンとなる。

 うまくフォローしてあげないと、しらけて重くなった空気でダメージを受ける。
 こんな時に本部さんがいたら、会場にハッキリと聞こえる声で的確に解説してくれるだろうに。

 だが、背水の陣で望む藤巻十三はこんなことでは怯まず、勢いで押しきる。
 そのまま姫川に挑戦だ。
 なお、背水の陣は漢の名将・韓信が行った奇策である。
 ジャイアントロボの韓信も、いつか知的に活躍するのだろうか?

 藤巻を逮捕しようと狙っていた辻警部(名前が判明!)は、この暴挙にあわてる。
 猛獣狩りのつもりで追いたてていたのに、不意打ちを喰らったようなものだ。
 辻警部は、あわてて武装隊員を招集する。
 探索のため、各地に分散していたのだろう。
 戦力を集める間は、藤巻の自由時間となっている。このスキは大きい。
 辻警部は目立ちたがりの才能はあっても、捕縛の才がないようだ。

 藤巻は貴重な時間を逃亡のためにつかわず、自己アピールに使う。
 ふたたび姫川に勝負を申しこむ。
 大切なことだから二度言うのだ。
 このクドサが藤巻十三である。
 ダウンしていた長田も、おもわず目覚めるというものだ。
 なんだ、その愛ある反応は……

『逃亡生活6年…………時効まで僅(わず)か9日』
『その全て無に帰してなおよし』
『明日を捨て去る叫びであった』


 藤巻はさらに訴える。
 三度目だ。大切すぎだ!
 辻警部が貼らせた藤巻の指名手配ポスター効果がでて、観客たちは試合場にいるクドイ人が殺人犯・藤巻十三だと気がついた。
 20巻 181話で手配書を貼りまくった効果はバツグンだ。
 これで藤巻を逮捕できれば、ニュースにもなって名前が売れる。などと考えているのだろうか。

 だが、突入しようとした辻警部を止めた男がいた。
 泣く子もダマり、審判もダマらせる松尾象山である。
 国家権力もダマらせた。
 スゲッ!
 さすが松尾象山だッ!

 理屈みたいなコトは言っていますが、要は気迫ですよ
 辻警部をあっさりと追いはらう。
 武装隊員ともども一気に画面から消えた!
 あれ? そういえば、梶原も姿が……
 いちおう、タンバ君はいた。1コマだけど。


 松尾象山は藤巻に近づき、ヒザの調子をたずねる。
 餓狼伝4巻のころの話だ。
 まだ、そのころの因縁が残っていたとは。

 藤巻のヒザは癒え、松尾象山の首からもアザが消えた。
 作中でも、それなりに時間が経過しているようだ。
 藤巻が乱入するのは構わんが、不調だと意味が無い。
 松尾象山は獲物のイキのよさを確認したのだろう。

「男一匹」
「こうまでの覚悟見せつけたんだ」
「汲(く)んでやれ」


 松尾象山から、姫川に指令がいった。
 姫川は笑顔で了承する。
 スペシャルマッチの決定だッ!

 北辰会館は、売られた喧嘩から逃げない。

 藤巻は北辰会館の門下生を闇討ちにしたことがあったが、彼らも逃げなかった。
 その誇りと攻撃性が、最強の空手軍団・北辰会館なのだ。

 決勝戦を超えた決戦がはじまる。
 空手と柔術、打撃と関節技、美形と非モテ、……対照的な二人が戦う。
 この試合は、何処へいく  次回へつづく。


 藤巻の緊急参戦で、スペシャルマッチが決定だ。
 ただ、姫川は長田の『虎王』で左腕を負傷している。
 このハンデをかかえたまま戦えるのだろうか?

 まあ、藤巻は逃亡生活の6年間がハンデみたいなものだ。
 生きるのに精一杯で、体を鍛える余裕なんて普通は無い。
 長田と知り合ってからは食事が良くなったのか、夢精できるほどに回復している(餓狼伝13巻 104話)。
 それでも、姫川の環境とは雲泥の差だろう。

 だが、藤巻はねちっこい執念で姫川の試合を見ていたのだろう。
 特徴や破り方もバッチリかもしれない。
 長田との特訓は、藤巻自身への特訓でもある。
 非モテの怨念がこもった関節技で、もう片方の腕も破壊する気か!?


 今回、藤巻を追いつめていた はぐれ刑事・爬虫類系の名前が判明した。
 餓狼伝BOYで丹波くんの親友だった木戸に顔が似ているので、同一人物かと思われていたが、別人だ。
 木戸が歪んだ性格に成長しなくて、一安心である。
 まあ、かわりに丹波が歪んだ活躍しかできない体になっていますが。
 今の丹波は、驚き役が精一杯だ。
by とら


2008年3月11日(7号)
餓狼伝 Vol.203

 人を殺め逃亡中の藤巻十三が、緊急参戦だッ!
 そんなことが、許されるのか?
 許される。松尾象山が許可したのだ。許されなくても通しちゃう。
 もはや 警察機関にも止められない、松尾象山をッッッ!

 すぐに試合にならず、藤巻は畳のある別室に移動する。
 そこで師・泉宗一郎と対面していた。
 松尾象山の粋なはからいであろうか。
 ワガママを通すだけでなく、こういう気づかいができるというのも松尾象山の恐ろしさだ。

 この間に、左腕を負傷した姫川の治療をおこなえば一石二鳥である。
 さらに待ち時間を利用して、北辰館選手によるスペシャルマッチをやっているかもしれない。
 ヒゲの主審・藤村がプロレスラー梶原と闘うとか。
 梶原もいちおう北辰館の門下なので、松尾象山には逆らえまい。
 そして、実力で主審に負けちゃいそうだな。
 なんにしても、負傷でも試合中止にしないあたり、松尾象山は偉大すぎる人物だ。

「長らく…」
「ごぶさたしておりました……」


 泉の娘・冴子を襲った暴漢を殺害し、藤巻はそのまま逃亡した。
 家に帰って財布とパンツとセッケンぐらいはもっていく余裕があっただろう。
 しかし、泉先生に別れを告げる余裕は無かったハズだ。
 六年の月日がすぎていた。

 泉は藤巻の身体を観察する。
 太い首に盛りあがった肩だ。
 拳には拳ダコができている。
 鍛えられた戦士の体つきだ。

 正規の職に就けるような状態ではない。
 熟睡すら許されないような逃亡生活である。
 なにを目的に強くなればいいのかワカらない生活で、モチベーションを維持するだけで大変だろう。
 心がすさみ 体がなまっても、おかしくない。
 だが、藤巻は逆境に耐え、身体を維持したのだ。

 泉は弟子が錆びついていないコトを素直よろこぶ。
 性格とか性癖にごく小さな問題があるかもしれないが、藤巻十三は闘争の才がある。
 その才能が失われていないだけで、泉は充分満足だと言う。

 なにしろ藤巻が使う技は竹宮流だ。
 藤巻が強いと言うことは、竹宮流が強いことになる。
 竹宮流の宗家としては、言うことなかろう。
 そして、たぶん泉先生の脳内から丹波文七の存在がこぼれ落ちている。

 藤巻はジーンズ姿だ。
 足を上げにくく闘いにく格好といえる。
 泉さんは、藤巻に自分の稽古着を貸す。
 常に持ち歩いているらしい。
 万が一、刃物をもった危険人物に襲われても、稽古着があれば盾がわりになる。
 武術家らしく用意がいい。

 師弟では体格がけっこうちがう。サイズが合うのか心配だ。
 しかし、和服は多少融通がきくのでなんとか着こなせるのだろう。
 師の衣服を借りる。師に認められたも同然だ。
 これで藤巻は竹宮流の代表である。

 武士であれば、主から衣服をもらうと感激して死ぬ覚悟をするという。(殉死の構造
 三国志の関羽だって劉備からもらった服を大事に着ていた。
 形から入るのも、けっこう重要なのだ。


 袴をはいた姿で藤巻は試合場にすわった。
 竹宮流の基準は不明だが、合気道だと段位をもたないと袴をはけない。
 くりかえすが、泉宗一郎に認められた証である。

 遅れて姫川が姿をあらわす。
 やはり腕の応急処置をしたのだろうか?
 藤巻は、姫川の顔をひたすら睨みつける。
 立ちあがった。
 藤巻の動作に呼応して、観客の興奮が沸点に達しようとしている。

『誰が見てもワカる何か―――が』
『その肉体から』
『その姿かたちから溢れていた』


 藤巻十三のかもしだす迫力に、事情をしらない観客たちも燃えあがる。
 たった一人の男が放射する獣臭が会場を満たしているのだ。
 長田ですらが、前座あつかいになっている。

 藤巻は姫川の左肩が壊れていることを指摘した。
 そんな状態で自分と闘うつもりなのかと。
 姫川は気にせず闘おうという。
 グダグダいうと松尾象山に怒られるのだろう。
 もっとも、姫川なら怒られなくても闘う男だ。
 クールに見えても、闘いに対する思いは熱い。

 だが、姫川以上に熱い男・藤巻十三がダマっていない。
 藤巻は自分の左ヒジを固定すると、バク転してヒジから落下した。
 ビキッ
 自ら左ヒジ関節を破壊したのだッ!

「これでハンデなし……ってところだろう」

 互角の勝負をするため、あえて自分のヒジを破壊する。
 常識を超えた奇行に、スゴイもの好きな観客も声を失う。
 さっきまで盛り上がっていたけど、ドン引きしたのだろうか?
 コイツらの戦いは、ショーでも試合でもなく、決闘なのだ。

 いろいろな意味で放送できなさそうな戦いがはじまる。
 危険な逃亡者・藤巻十三 vs. 華麗なる天才・姫川勉の激突だ。
 試合前から重傷である。
 無事に試合が終わるわけがない。
 次回へつづく。


 ところで、姫川は休憩の間にどのていど治療したのだろうか?
 骨折ではなく脱臼だったようだし、うまくやればハマって治るかもしれない。
 でも、姫川が治っていたら、みずから骨折した藤巻の立場無いよな……
 まさに骨折り損のくたびれもうけだ。

 とにかく、藤巻がわざと負傷して互角勝負となった。
 ちなみに原作だと、藤巻は立脇如水と闘いわざと腕を折らせる。
 そんな人間と闘えない。立脇は試合を放棄し、藤巻が姫川と闘う権利を得るのだ。

 漫画版の立脇如水は、すでに鞍馬に倒されている。餓狼伝15巻 125話
 藤巻の腕を折る立脇はいない。
 ならば、だれが代役をつとめるのか?

 まず、藤巻と闘える実力が必要だ。
 そして、関節技が使える人間で無いとこまる。
 以上の点から、代役の有力候補は丹波文七であった

 作中では丹波の試合があってから数日なので、けっこうダメージが残っている。
 だが、連載時間だと数年前の話しだし、掲載誌もちがう。読者は忘れているだろう。
 きっと、作者も忘れている。
 ならば、闘っていない藤巻とやりあってもいいはずだ。

 最近、出番が無かった主人公に光を当てるチャンスでもある。
 活躍しつつ、藤巻の執念を感じとり、あえて身を引くというオイシイ役どころだ。
 原作既読派は丹波文七の活躍を夢想して、待ち望んでいた。

 だが、藤巻は自分で処理してしまった。
 なんという一人上手か。
 きっと丹波はヤル気マンマンで試合場のワキに移動して、身体をあたためていたハズだ。
 そんな地道な努力が台無しだ。
 今回、1コマも出ていない。
 昇らぬ太陽・丹波文七の明日は、いつやってくるのだろうか。
by とら


2008年3月25日(8号)
餓狼伝 Vol.204

 互角の勝負をするため、己の左腕を折った。
 狂気ともいえる執念で藤巻は戦いに臨む。
 梶原クラスであれば、悲鳴を上げてのたうち回るダメージだ。
 藤巻と姫川の戦いは、痛みや骨折で止まらない。

 さすがの泉先生も息をのみ、バカと言ってしまう暴挙だ。
 丹波文七でさえ汗を流すので精一杯である。
 セリフを吐く余裕すらない。
 出番も、これしか無いッ!

 松尾象山は微動だにしない。
 喜びも怒りもなく、黙っている。
 武術家であれば、確実に勝つ手段を取る。
 だが、藤巻は武術家としての手段をすて、誇りを選んだ。
 松尾象山的にはちょっと残念な事態かもしれない。

 藤巻は、この試合が終わったら逮捕されるだろう。
 しばらく異才の技を見ることができなくなる。
 せっかくだから、最高の藤巻十三を見たかった。
 でも、自分の腕を折っちゃう狂気はオイシイよな……
 そんな矛盾した思いがあって、松尾象山の表情が固まっているのかもしれない。


 左腕を負傷した者同士、ハンデ無しの戦いが始まる。
 審判が二人の中央に立つ。
 って、誰だ、このハゲは?
 おなじみのヒゲ主審・藤村ではなく、ゆるんだ身体の ハゲが立っている。

 あまりの激務で主審はダウンしたのだろうか?
 決勝戦が始まるころには、気迫だけでジャッジしていたのかもしれない。
 北辰会館トーナメントは審判にとっても苛酷なのだ。
 ストレスになる最大の原因は、マチガイなく松尾象山館長なんでしょうけど。

(キサマがここで)
(試合できることを喜べる)
(きっと夢がかなったんだな……)


 敗者となった長田は観客として試合を見守る。
 修行を通じて二人の間には奇妙な友情が芽生えたのだろう。
 藤巻の事情は知らない。
 だが、長田は純粋に藤巻の望みがかなったことを喜ぶのだった。

 もしかすると、藤巻に利用されていたのかもしれない。
 そう疑うこともできた。
 だが、長田は邪念をはさまず、友を応援する。

 ちなみに、梶原もいちおう隣にいます。
 なぜか少し離れているので、小さく見える。
 距離感……、ありますね。
 どうした、オマエら。

 藤巻は長年思いつづけてきた仇敵・姫川勉を前にして、全身が笑いだしそうになる。
 なんか、勢いで全チャクラが開いてしまいそうだ。
 むしろ五個ぐらい開いているっぽい。
 左腕は効いていないが、むしろ絶好調かも。

(朋友(とも) 長田を倒したこと)
(伴侶と決めた冴子を奪ったこと)


 やはり、藤巻も長田を友と思っている。
 藤巻はツンデレなので、長田に冷たくした時もあった。13巻 109話
 だが、本心では深く長田のことを思っていたのだ。
 ツンデレというものは、実に扱いにくい。

 そういえば藤巻は冴子に対してのツン期がなかった。
 ツンが発生しないほど好きだったのだろうか。
 それとも、ツンが発生しない程度の好きだったのかもしれない。

(しかしッ)
(理由などなくていいッッ)
(相手が姫川勉ッ)
(それで十分だッッ)


 理由づけを否定したッ!
 ここにきて、さらなるツンデレか?
 ツンデレのツンデレだよ。

 友も女も関係ない。
 強いヤツと戦いたいだけなんだ。
 逃げてきた六年間を投げすてて、本当に欲しかったのは全てをかけた闘争だった。

 さっきまでの藤巻十三は、ツンデレ ネタでいじりやすい多汗な男だった。
 だが、いまここに立つ男は、戦士だ。
 これからは、あんまりネタにするワケにもいかんな。
 夢精のことは、なるべく忘れましょう。13巻 104話


 試合がはじまった!
 藤巻は歩幅を大きくとり、安定した構えだ。
 そのまま動かず待つ。
 対する姫川は、いつもどおり自然体で立っている。
 そして、いつもどおり無造作に歩きだす。

 姫川は構えないので、どう動くのか予想しにくい。
 無防備なので、かえって攻撃しにくい部分もある。
 心理的・技術的な戦いにくさを 相手は抱えたまま戦う。
 だから、姫川に攻撃が当たらない。

 しかし、藤巻は姫川の狙いをよんでいた。
 姫川の歩行にひそむ不自然な動き。
 ヤツの狙いは――――――

(折れた左腕ッッッ)
 ガキィッ
 ズシャアァ

 両者の蹴りが交差したッ!
 藤巻は蹴りつつ右腕でガードしている。
 姫川の道着には右腰から左肩にかけて焦げ跡がついていた。
 藤巻は、姫川の負傷した左肩を狙っていたのだろう。

(それでいいんだッッ)
(これはそういう闘いだッッ)


 互いに負傷した部分を狙い合う。
 堂々と相手の弱点を攻めるのが、戦士のフェアプレーだ。
 ついに、放送コードを超越した闘いがはじまった。

 この試合が容赦の無い闘いであると、互いに確認しあった。
 ヘタをすると目玉をえぐりかねない闘いになるだろう。
 めずらしく姫川が汗を流している。
 ファーストコンタクトは藤巻の優勢だ。

 油断気味だった姫川が、なぜ藤巻の蹴りをかわせたのだろうか?
 考えられるのはリーチの差だ。
 二人の身長差、というか足の長さに差があるのだろう。
 姫川の足はかなり長い。スタイルもいいのでモテモテだ。
 同時に蹴っても、藤巻の蹴りはすこし届かなかったのかもしれない。
 ……ガンバレ、藤巻ッ!


 しばらく、藤巻をいじるつもりは無かったんですが、最後にちょっと……
 長田を朋友と呼ぶのはいい。
 だが、『伴侶と決めた冴子を奪った』は、どうか?

 藤巻が個人的に決めたことですよ。
 なんか、ストーカー的な感じがする。
 まあ、実際に藤巻は一流のストーカーでもありますが、より病んでる感じだ。
 ツンデレから、ヤンデレ参考)にジョブチェンジしたのだろうか?

 藤巻は殺人を犯し、逃げだした。
 事情を説明すれば、悪くても過剰防衛でかなり罪が軽くなったハズだ。
 それでも、藤巻が逃げだしたのは、なんか警察に知られたらこまるコトがあったのかも。
 盗んだ下着をはいて走り出すような、暴走する青春絵巻だろうか。
 泉先生が心配するのも無理なかろう。
 逃げた弟子が、ストーキング界の達人になっていたら、泣きたくなる。

 しかし、藤巻の言い分はかがみは俺の嫁発言と同じだ。
 そう思うと、なんとなく親近感が……
 ネットでググれば、藤巻なんて1/68,800の俺の嫁フリークにすぎない。(3/25現在)
 ちなみに、例のヒロインは……

 かがみと違って、ライバルがいないのは優位点ですね。
 姫川も、あまり冴子に執着していないだろうし。
 あとは冴子自身に好かれれば、晴れて『俺の嫁』だ。
 ………………本人に好かれていないのは、最大最悪の問題だよな。
by とら


2008年4月8日(9号)
餓狼伝 Vol.205

 折れたヒジを狙って蹴るッ!
 こんなことをするヤツはバンナの折れたヒジを蹴ったホーストぐらいだ。
 あれは、背筋の凍る試合だった。(K-1 GP 2002 決勝戦

 藤巻と姫川も尋常ではない戦いをしている。
 観客はどよめく。
 今までもスゴい試合だったが、今度はさらに次元のちがう戦いになっている。
 多汗な藤巻はもちろん、笑顔を絶やさない姫川も汗を流していた。
 ある意味、ふたりが同時に死兆星を見たようなものだ。
 この勝負、天すら予想がつかぬ。

(なにを狙う)(藤巻…)
(いずれにしろ共に手負い)
(短期決着は必至ッッ)


 泉さんも負けずに汗を流しつつ、試合を見守る。
 常識ならば「勝負あり」になっている負傷だ。
 長距離を走り終えた後の、もう一勝負である。
 長くは持たない。
 そうなると、狙いに狙った一撃で決まるのだろうか。

 互いに片腕が効かない。
 だが、蹴りの得意な姫川は多くの技を出せる。
 組み技の得意な藤巻は、片腕では掴むことができない。
 藤巻のほうが不利だ。
 この逆境を、どうやって乗りこえるのか!?

 ふたりは試合開始直後と同じ状態にもどった。
 姫川は足をそろえて立ち、藤巻は足幅を大きくとって構える。
 不安定に立つ姫川は、すばやく動き打撃を狙うか。
 どっしり構える藤巻は、迎撃して捕まえるつもりだろう。

(姫川よ…)
(数千にも達する竹宮流の技術体系
 キサマの知る竹宮流などほんの一欠片(ひとかけら)に過ぎぬ)
(虎王だけが竹宮流ではないッッッ)


 藤巻が不敵に笑う。
 でも、汗ぐっしょりだ。
 虎王はイロイロな人に使われちゃった。気分的には、他人に汚された感じだろう。
 だけど、竹宮流には新雪のように けがれなく白い輝きをはなつ技があるのだ!
 竹宮流への愛が藤巻を動かしている。
 でも、汗をかきすぎだ。

 竹宮流の秘策があるらしい。
 つまり、片腕でも戦える技が竹宮流には存在するのだ。
 負傷以外にも片手になる場合がある。
 馬上で手綱をもつときや、人をかばっているときなどだ。
 片手だけで使える技があれば、普段の戦いでも有利である。
 たしかに、竹宮流は奥が深い。

 習得に時間がかかったり、試合などには不向きな技もあるだろう。
 すこしカジっただけの丹波や姫川には使えぬ技が多数ある。
 だ、だから、虎王が使われても悔しくなんか無いんだからね!

 秘密のベールに包まれている竹宮流の秘技がついに公開されようとしている。
 ―――いいのか? それで。本当に。
 虎王につづいて、竹宮流の情報流出がつづきそうだ。


 先に動くのは姫川だった。
 丹波文七と泉宗一郎は姫川の気配を感じている。
 藤巻は気がついているのだろうか?
 『ニラミ合っているときは、先に動いちゃダメ』という法則がある。
 藤巻が姫川の動きに気がつけば、勝てる可能性が高い!

 姫川らしく、予備動作がほとんどない。
 かすかにカカトが浮く。
 この状態から、どう身体を動かすのか?

 ドン

 藤巻が仕掛けたッ!
 姫川の爪先に足刀を蹴りこむ。

 古武術ではたまに存在する、足の甲や指を狙う危険技だ。
 一般人はマネをしてはいけないし、試合で使うものでもない。
 愚地独歩が天内悠の足を攻撃したのも同じ技だ。(グラップラー刃牙31巻 266話)

 姫川の骨がきしんだ。
 この一撃で華麗な蹴りは破壊されたのだろうか。
 いきなり、最後の切り札を失ったぞ。

 一瞬、姫川は呆然となった。
 藤巻はスキを見逃さない。
 小指で姫川の目をハジいた。
 金的とならんで危険といわれる、目への攻撃である。
 もちろん一般常識では反則だ。

 目は敏感な器官なので、つぶしたり、エグったりしなくてもよい。
 手ではたくだけで十分相手にダメージを与えることができる。
 姫川は視界と思考を奪われた。
 小さなスキを、大きなスキに変えた。
 ここから竹宮スペシャルが始まるのか!?

 ガキ

 藤巻が組みついた。
 姫川の腰に手を廻し、帯をつかんでいる。
 古武術は和服に対応した技術体系だ。
 帯をつかめばイロイロと技をかけることができる。

 丹波が泉先生に勝てたのは、エリのない服を着ていた点も大きい。
 柔術家と戦うことがある場合、裸にオイルをぬる古代レスリングのスタイルで戦うと有利だ。
 ただし、全裸状態で人に見つかると社会的に敗北する可能性が高い諸刃の剣でもある。

 帯をつかんだ藤巻は、一気に姫川を回転させた。
 片腕で持ち上げることはむずかしい。
 身体の重心を中心にして回転させると、わずかな力で人を投げることができる。(格闘技「奥義」の科学
 本来なら、重心(人体だと腹のあたり)から遠い部分に力をかけるほうが回転させやすい。
 藤巻の技は(重心に近い)帯を掴みつつ、足払いもかけているのだろうか。
 なんにしても、姫川は高速回転した。

(回転)(している……)
(委ねろ)(集中しろ)
(天地を正確に――――――認識するんだ)


 視界を奪われながらも、姫川は冷静だった。
 身体能力と長い手足だけではなく、この判断力が姫川の強さを支えている。
 目潰しを喰らった直後だ。普通なら なにも考えることなどできない。
 だが、姫川は冷静に回転を感じとり、足から着地しようとする。
 松尾象山の付人をやっていると、こういう平常心が育っちゃうのだろうか?

 自ら加速して半回転多く回る。
 これで、姫川は無事に着地できるハズだった。

『秘投必殺 地被(じかぶり) 見参!!!』

 だが、姫川は脳天から落下したッ!
 相手の平衡感覚を狂わせる技が竹宮流『地被(じかぶり)なのか!?
 姫川は、この一撃で沈むのだろうか。
 次回へつづく。


 投げられる途中で、自ら加速して着地する。
 そんな芸当ができる人間は、そういない。
 竹宮流は、こういう稀なケースのために技を作ったのだろうか?
 あまり特殊な技にすると使い方がむずかしい。
 地被は、もっと一般的な技だと思う。

 姫川は、なぜ着地に失敗したのだろうか?
 多く回転したことで、平衡感覚が狂ったのかもしれない。
 または、地面ではなく藤巻のヒザに落としたのかもしれない。
 もしかしたら、審判に投げつけていたのだろうか?
 ならば主審の交代にも意味が出てくる。

 とにかく、応用の効くような仕掛けがあったと思う。
 竹宮流の奥義がまた一つ明かされたのだ。
 そして、見た人たちにマネされる。
 → 藤巻が怒る。奥義で仕置き → マネされる → 藤巻、大激怒……
 竹宮流が負の連鎖を起こしかけている。
by とら


2008年4月22日(10号)
餓狼伝 Vol.206

 竹宮流の奥義・地被(じかぶり)が炸裂した!
 姫川は地面に激突する。
 だが、本人の感覚としては、天地が逆転して天井にぶつけられたようなイメージだ。
 体術の天才である姫川なら、投げられても足から着地できたはず。
 なぜ、失敗したのか!?

 当然のように丹波は驚き役に徹している。(今回の出番3コマ)
 技の解説は竹宮流宗家の泉先生にしていただこう。
 またもや、竹宮流の秘密が世間に公開されちゃったので、心中おだやかじゃないんだろうな。
 丹波にもかくしていた必殺技なのに。

 地被は、目を打ち視覚を奪い、後帯(うしろおび)を取って投げる。
 急加速のため、天地の感覚が狂ってしまう。
 つまり受身不可能な投げ技だ。

『地に激突する際 まるで地面が上から降り落ちてきたように錯覚するという…………
 故に名付けて"地被"!』


 地被は急加速で相手の天地感覚を狂わせる技だった。
 自分が頭から落ちていると感じなければ、頭をかばうことも無い。
 だから、防御がおろそかになるのだろう。

 人間の身体を回転させるとき、重心から遠い位置に力を加えたほうが小さな力で動かすことができる。
 だが、強い力を加えれば重心近くでも回転させることができるのだ。
 大きな力が必要だが、重心に近い位置の場合はより高速に動かせるメリットがある。
 後帯という重心に近い位置へ力を加えるのは、急加速のためだろう。

 だが、この位置に力をかけると、初速は小さくなるはずだ。
 そのタメの目潰しだろうか?
 人間は閃光弾をうけると本能的に身体を丸める。バキ5巻 39話)
 丸くなるのは人間の防御本能なのだろう。
 そうなると、目を打たれた人間も丸まるかもしれない。

 丸まると体重が前に移動する。
 この体重移動を利用すれば、帯を掴んで投げても、十分な初速を得ることができるかもしれない。
 目潰しは、視覚をうばうだけではなく急加速に必要な初手だったのかもしれない。
 竹宮流は奥が深いな。


 一投必殺、喰らえば立ちあがれぬ技であった。
 だが、姫川は意識を失っていない。
 それどころか立とうとしている。

 勝利を確信していた藤巻は、反応が一瞬遅れた。
 あわてて蹴りを打ちこむが、姫川はギリギリで攻撃をよけて立ち上がる。
 リングサイドで冷静に見ていたはずの泉先生も、これには驚愕だ。
 姫川は、なぜ立ち上がることができたのか?

(万が一に備え……
 受身が取れぬときに備え 口の内(なか)
(舌を歯に挟んでおいた)


 舌を切り裂くことによる激痛で、飛びそうになる意識を取りもどす。
 幼年編の刃牙も口の中にガラスをしこみ、舌を切り裂くことで気付けとしていた。(グラップラー刃牙14巻 122話)
 姫川は、舌を半分切断する痛みで覚醒したのだ。
 そして立ちあがっている。

 舌をかんだ痛みで目覚めるのは夢枕獏が実践している。
『どういう状態で寝るのかと言うと、ペンを持ったまま頭だけガクンとなってる。で、口が半開きになっているから舌が少し垂れていて、だいたい舌を咬んだ痛みで目が覚めるんですよ。』餓狼伝 最強格闘技作法
 夢枕先生も、原稿を前に大流血しているのだろうか。
 原稿は書いたけど、流血で判読不能だったりして。


 姫川は胸を鮮血で染めながらも立っていた。
 脂汗ダラダラだが、笑いは消えない。
 人をバカにしたような、いつものクールな笑いではなかった。
 闘争に喜びを感じている、熱い笑いだ。

 自ら腕を折った藤巻に勝るとも劣らない、勝負への気迫だ。
 クールな仮面に隠されていた熱き餓狼の素顔が表にあらわれた。
 藤巻も嬉しそうだ。
 地被で姫川を倒せなかった。
 だが、この好敵手とまだ戦えるという喜びがある。

(勝ちたいのだなオマエも)
(何に替えてもッッ)

(負けず嫌いなのですよ わたしは)


 藤巻十三と姫川勉の戦いは、さらなる高みへと昇っていく。
 雑念なく、ただ勝利のために。
 きっと今の藤巻は冴子のことを忘れているだろう。
 そのまま ずっと忘れていたほうが、幸せかもしれないぞ。

 もともと短期決戦と予想されていた戦いだ。
 さらに負傷を重ねて、ついに最終局面に突入しつつある。
 今のところ藤巻が優勢だ。
 だが、姫川が思わぬ執念を見せてきた。
 肉体のダメージを凌駕する気力を見せるのか!?

『時あたかも決着の刻(とき)
『武道館の外では夜にも関わらず夥(おびただ)しい数の烏(からす)が一斉に鳴きだしたという』


 なんか、シグルイみたいなノリになってきた。
 惨劇の予感がする。
 これは死人が出ますよ。
 果たして、死ぬのはどちらなのか?
 藤巻か!? 姫川か!? それとも巻きぞえで、審判なのか!?
 次回へつづく。


 地被を披露した藤巻の回(ターン)と思わせつつ、勝負への執念を見せる姫川の回(ターン)だった。
 姫川の精神テンションは今、松尾象山に腕を折られても、負けを認めなかった時にもどっていそうだ。
 たぶん、姫川がもっとも熱血だった瞬間だろう。
 今の姫川を倒すのは、むずかしい。

 藤巻が強いのは、竹宮流の技を使えるから、だけではない。
 蛇のようにねちっこい執念が強さの秘訣だ。
 だが、姫川も同じ執念を持ってきたら、どうなるのか?
 逃亡生活ですさんだ分、藤巻が不利と言う気がしてなら無い。

 地被は、ダウンしたときの表現である「壁が迫ってくる!?」の投げ技版のようだ。
 打撃を加えて、意識が朦朧としているときに、投げても同じ気がしますが。
 虎王は、先に打撃を加えることで意識を朦朧とさせ、トドメの関節技に入るワザなのだろう。
 竹宮流は総合的な攻撃を完成させている。

 というワケで、藤巻が最後に頼るものは竹宮流だろう。
 片手で使える技のストックは、まだあるのだろうか?
 足技の得意な姫川が、やはり有利と思われる。

 そして、この戦いに決着がつけば、主人公・丹波文七の回(ターン)も来るのだろうか?
 俺、この大会が終わったら、梶原と組んで話のメインになるんだ……
by とら


2008年5月13日(11号)
餓狼伝はお休みです

 チャンピオンやイブニングの発売日は、ちょっと早く起きてコンビニによりみちする。
 前日は早寝を心がける。
 サプリメントにも気を使い、たんぱく質も多めに摂取する。
 そして、雑誌を買う前に刃牙や餓狼伝を先に読むのだッ!

 のって無ェッッッ!

 当然ながら、今号のラインナップにも名前が無い。
 社長になった島耕作ばかりが目につきやがる(参考:『島耕作祭 開催ゴルゴ31さん情報)。
 (注:たまにニートだったり、少佐だったり)
 餓狼伝が連載されていたら、支部長 島耕作が出てきたのだろう。
 道場破りをする藤巻にコッキャコキャにされていたに違いない。
 実在格闘家を容赦なくコキャる板垣恵介ならやる。必ず殺ると書いて、必殺だ!

 だが、この日たおされたのは読者である私であった。
 客観的に見たら、イブニングをもったまま、さぞかし呆然としていただろうな。
 そんなワケで、餓狼伝はお休みです。
by とら


2008年5月27日(12号)
餓狼伝 Vol.207

 藤巻十三と姫川勉の長きにわたった因縁の戦いも、ついに最終局面だ。
 会場の外ではカラスが待ちかまえているほど決着直前である。
 救急車ではなく、霊柩車を呼べってヤツですね。
 ちなみに火葬や埋葬には役所の許可がいるので、呼ばれても困る。
 せめて、王大人(ワンターレン)の死亡確認ぐらいは必要なのだ。

 藤巻も姫川も、大きなダメージをうけている。
 だが、姫川のほうが重傷だろう。
 竹宮流の奥義・地被(じかぶり)を喰らっているのだ。
 失神を防ぐため舌を噛み切り、今度は出血に悩んでいることだろう。
 姫川としては、余力のあるうちに決着をつけたい。

 藤巻にも不利な材料がある。
 片腕では、使える組み技にも限界があるだろう。
 蹴り技の得意な姫川は、片腕でも何とかなる。
 総合すると、両者互角だ。

(姫川のダメージが消えていない)
(あのヘンテコな投げのせいで)
(やれるとすりゃ あと一つか2つ)


 丹波が汗を流す。
 竹宮流の奥義をヘンテコ呼ばわりしているよ。
 泉さんに聞かれたら「じゃあ試してみようか?」と言われて、体に教えられそう。
 自分が教えてもらっていない技だから、けなしているのだろうか?
 竹宮流にとって丹波はお客さんなんだから、虎王を教えてもらっただけで満足しておこうや。

 すっかり解説役が板についてきた丹波が、姫川のダメージを読みとる。
 大技を出すなら、あと二つ。
 一つは、畑を屠った虎王・双龍脚だろうか。(21巻 192話
 だが、藤巻に竹宮流を使うのは、キケンだ。
 範馬刃牙に尿勝負をしかけるのと同じぐらいヤバい。
 刃牙は尿への耐性が変態のレベルに達している。ヒトでは勝てぬ。

 相手の土俵で闘うのは避けたほうがよい。
 宇宙の海がキャプテンハーロックのものなら、範馬の海は尿ってなものだ。
 姫川は虎王ではなく、相手の後頭部を蹴る軟体キックを使ったほうが良い。
 ただ、近い間合は藤巻のテリトリーでもある。
 遠い間合から蹴るのが、イチバン安全だ。

 まあ、安全ばかり求めてもダメなのだろう。
 あと2回しか技が出せないのだし。
 もう特攻するしかないのか?


 姫川勉は、外見も 才能も 女にも 満たされている。
 そんなふうに考えていた時期が藤巻にもありました。
 だが、姫川も身悶えするほど勝ちたい男だった。
 確かに藤巻は、身悶えのスペシャリストにしてファンタジスタだ。
 いや、主題は「勝ちたい」のほうか。

 藤巻は逃亡者だから住所不定・無職だ。
 オマケに非モテ(推定)である。
 自信のある部分は『強い』という一点のみだろう。
 だから、勝ちたいのだ。
 強さを証明するには、勝つしかない。
 勝ちたい。勝ちたくてしょうがない。

 その思いは姫川も同じだった。
 藤巻は、初めて仇敵・姫川勉に共感している。

(抱きしめたいよ…)
(姫川……)


 裏返ったァッッ!
 やっちゃったのか、藤巻さん。
 もしかして、ツンがデレになったのか?
 アンタ、どこまでツンデレ体質なんだよ。

 あれほど冴子を求めていた藤巻はどこへ行った?
 いや、あんまり求めていなかったかな。
 姫川への激しい憎しみは、愛情の裏返しだったのだろうか。
 愛の反対語は憎しみではなく、無関心だよな。(参考

(凄まじい投げ技でした…………
 藤巻さん)


 こうなると、姫川のセリフまであやしく思える。
 なんか『漫画版・どきどき魔女神判』(AA)のホモネタみたいだ。
 今なら、虎王で相手の顔をマタにはさむ行為すらあやしく思える。

 ホモかどうかは置いとく。
 人を見下していそうだった姫川が、藤巻に敬意をもったようだ。
 藤巻と姫川は、闘いを通じて互いを理解しはじめている。
 まるで、丹波文七と堤城平のように……
 最終的な敗者は冴子になったりして。


(もう……っ わたしらしくなくてもいい)
(勝てるなら……ッッ)


 姫川が構えた。
 使える右拳をアゴ下に置く。
 常に余裕を見せていた姫川がはじめて構えたのだ。
 藤巻が、姫川をここまで追いつめた。

 姫川勉といえば、クールにカッコつける男だ。
 言いかえれば、スイーツ(笑)空手家だろうか。
 松尾象山のそばについて自分磨き(笑)  小悪魔的スマイル(笑)
 相手の後頭部を蹴る隠れ家的ケリ(笑)  若い女性に人気(笑)
 あえて構えず自分らしさを演出(笑)  思い切って延長戦(笑)

 そんな姫川が、自分らしさの演出をやめた!
 脱・スイーツ(笑)だ。
 でも、外見がイイから、非モテ世界にはやって来ないんだろうな。

 姫川が必死の姿を見せている。
 いままで、内面をまったく見せなかった男が、はじめて見せた姿だった。
 姫川もまたツンデレだ。
 藤巻の表情が、驚愕 → 理解 → 歓喜 と変化していく。
 綾波レイがはじめて笑う姿を見て、ノックアウトされるがごとき喜び。

 二人のツンデレが理解しあって、デレ期に入った。
 餓狼のような二人のツンデレが激突する。
 まさに、ヘブン状態だ。
 目と目で通じあっちゃっている。もう、手がつけられない。

「応ッッ」
(やろうッッ
 根限りッッッ)

(やろう…)
(根限り…ッ)


 やらないか。
 姫川の構えに、藤巻が応じる。
 藤巻の気迫に、姫川が応じた。
 そして、ノーガードでの殴りあい。
 せっかく集まったカラスも逃げ出す、壮絶でツンデレな殴りあいだ。

 勝ちたい姫川の策が、これなのか?
 勝ちたい藤巻の選択が、これなのか?
 すべてをさらけ出して殴りあう。
 次回こそ、決着だろうか?


 姫川までツンデレに目覚めるとは思わなかったな……
 しかも、相手が藤巻だ。
 長田をめぐって三角関係になるのだろうか。

 藤巻はツンデレだと思われていた。実際ツンデレだけど。
 ただ、並みでは無い。
 (スーパー)ツンデレだ!

 藤巻は長田にたいしてツンデレだった。
 だが、もっと長いスパンでは 姫川にツンデレだったのだ。
 長い長いツン期だった。
 あまりに長かったから、ツン期だとは気がつかなかったよ。
 反動で、今後スゴい事になるかもしれない。


 二人はノーガードで打撃戦をしている。
 ダメージは姫川のほうが大きい。
 このまま殴り合っていると、姫川が先に倒れるだろう。
 それがワカらない姫川では無い。
 なにか、秘策があるのかも。
 姫川の蹴りに気をつけろ。

 最後の乱打戦で、姫川は二回殴ってしまった。
 コレで打ち止めというコトは無いだろうけど、ちょっと心配だ。
 次回、いきなり体力切れでダウンしていたら、どうしよう。

 藤巻は打撃から、組み技にうつりたい。
 弱っていても、姫川との打撃戦はキケンだ。

 そしてッッッ
 (抱きしめたいよ… 姫川……)
 想像したくも無い、壮絶な決着がまっていそうだ。
by とら


2008年6月10日(13号)
餓狼伝 Vol.208

 出来ることは、あと一つか二つ。その全てを、キサマに叩きこむ。
 姫川が最後の力を藤巻に捻りこんだ。
 人差し指一本拳で眉間を打ち抜く。
 普通なら、必殺となる一撃である。

 だが、藤巻は倒れない。
 むしろ反撃する。
 藤巻は、逃亡生活の過去数年 + 刑に服すであろう未来の数年 をかけて戦っているのだ。
 人生の貴重な時間がこめられた重い鉄槌が、姫川の頬に打ちこまれる。

 両者ともにグラつき体勢をくずすが、倒れない。
 むしろ主審がビビって倒れていそうだ。
 観客は総立ちになる。
 常に優雅かつ華麗に戦っていた姫川が、泥臭い打撃戦をしているのだ。
 互いの全存在をぶつけ合うような試合が展開している。

 顔面を打たれ美形のカケラも無くなった姫川は、5年前を回想した。
 バトル漫画における逆転奥義『回想』だ。
 このタイミングということは、姫川の勝利だろうか。
 後出しジャンケン勝利の法則もあるので、藤巻が回想返しをする可能性もある。
 だが、いままでキャラを立ててきた反動で、藤巻の残りMPは少ない。大丈夫なのか?


 松尾象山に敗れた姫川は、北辰館に入門した。
 誰もいない夜の道場で、三戦立ちをし、型稽古する。
 折られた腕は治っているようだ。
 愚地独歩がやるとパワフルな三戦立ちだが、姫川だと華奢に見える。
 当時の姫川は、まだまだ未完成だったのかもしれない。

 何者かの気配を感じ姫川がふりむく。
 男がいた。髪は大雑把に肩の上までのばして、無精ヒゲを生やしている。
 身なりに気を使っているとは言いがたい。まるで野生動物だ。
 男は、不気味な威圧感をかもしだしている。

 姫川は北辰館内で評判になっているらしい。
 館長に挑戦して腕を折られ、恨むどころか逆に入門したのだ。
 松尾象山の強さとフトコロの広さをしめすエピソードとして噂になりやすい要素が満載だ。
 話題性十分の美談である。いや、美談とはちょっとちがうか。

 男が聞かせてくれた北辰館内のウワサに対し、姫川はひとつだけ訂正をする。
 自分は敗北を認めていない。だから、勝負ナシだ。
 負けず嫌いなオレ理論だ。

「ハハハハハ」
「そいつァ 名案だ」
「そう言ってりゃ」
「誰と闘おうが生涯無敗でいられる」


 姫川の詭弁を聞いて普通なら怒りそうなものだ。
 だが、男は笑う。
 この男もそうとうな変人らしい。
 類が友を呼んだのだろうか。
 もっとも、姫川が男を呼んだというよりは、松尾象山が類友を強烈に引きよせているのだろう。
 全ての変人は松尾象山に引きよせられる。数年後、丹波も引きよせられた。

 笑う男に対し、姫川は反応しない。
 すました表情の裏で、なにを考えているのだろうか。
 こういう態度が生意気に見えるから、風当たりも強いのだろう。

「東郷ってんだ」
「北辰館でイチバン不器用な男だ」


 姫川も東郷を知っていた。
 「最も多く最も苛酷に肉体を追い込む男――――」として。
 猛トレーニングをしているが、大会優勝はできないのだろうか。
 効率が悪いというか、やはり不器用な男かもしれない。

 姫川が型稽古しかしていないことに対し、東郷は文句をいう。
 北辰館は直接打撃の流派だ。
 入門したのに型稽古しかしないのは、おかしい。
 これでは、なんのために北辰館へ入ったのやら。

 もっとも苛酷なトレーニングをする男にとって、姫川の存在は許せない。
 姫川は自分の鍛錬・生き方を否定するような存在だ。
 伝統派と直接打撃派の間にある軋轢も大きいのだろう。
 苦痛の少ない鍛錬は、サボっているように見えそうだ。

「こちとら最初(ハナ)っから最後(シメ)まで空手のことを考え」
「食う寝るタレる以外は全部 空手やってンだぜ」


 それでも、松尾象山に挑むなど及びもつかない。
 だが、型稽古だけで汗もかかないような男が館長に喧嘩を売った。
 身の程知らずめ。東郷にとって、面白くなかろう。
 そういう場合、立ち合うのだ。

 どんな練習が正しいのか。どっちが強いのか。
 サッカーと野球では勝負にならないが、武術なら立ち合えばワカる。
 東郷は最初から喧嘩を売る気で声をかけたのだろう。
 姫川の練習を見て、実力もはかった。
 ただ、東郷は胴衣を着ていない。姫川を見つけたのが偶然だったためかもしれない。

 東郷は姫川のことを ナメて油断している。――ワケでは無かろう。
 腕を折られても負けを認めない。それがどれだけ痛いか想像がつく。
 姫川は、その痛みに耐えた。
 ただのアホかもしれないが、根性だけは本物だ。
 型稽古を見れば、どの程度の実力があるかもワカるだろう。

 姫川勉は黙って見過すことができないほどの強者なのだ。
 東郷もまた、闘いを求める餓狼である。
 胴衣も着ていなくて、準備もしていないが闘わずにはいられない。
 姫川も東郷の闘争心を感じているようだ。

(可能な限り…………)
(全身全霊で……)
(打ってこいッ)


 東郷は、弱いものイジメをするつもりなどない。
 全力で闘うべき相手と向かい合っていると知っているのだ。
 そして、姫川は渾身の一撃を期待している。
 ナニを狙っているのかッ!?

 カウンターッ!?
 姫川は、東郷の顔面をつかんでいた。
 まるで合気道のような動きだ。
 このまま東郷の後頭部を地面に叩きつけるつもりだろうか?


 姫川の回想は、相手が宙に浮いた瞬間に終わった。
 現実では藤巻が渾身の力を振り絞り、飛び蹴りを放ったところだ。
 まだ飛ぶだけの体力があったのか!?
 そして、藤巻の足刀は姫川のアゴに当たる。
 一撃で決着のつく場所だ。

(ありがとう…………)
(理想の打撃を……)


 相手の全力攻撃を利用して、カウンターを決める気かッ!?
 東郷にかけた技は片手で行っていた。
 つまり、今も使うことができる。
 全ては姫川の計算どおりなのか!?

 切り札である『回想シーン』を効果的に使った姫川が、勝利に王手をかける。
 このまま決着なのか!?
 次回へつづく。
 ただし、次号は休みらしい……
 こ、こんな所でッッッ


 最初に読んだときは、東郷が小物かと思った。
 姫川に嫉妬して、なめて喧嘩売っているのかと。
 FAWで言えば、チャラチャラした鞍馬に喧嘩を売る梶原みたいなポジション。

 一日中空手のことを考えている人は、北辰館にはいっぱいいる。
 たとえば門田賢次は、食事すら空手にささげていた。16巻 143話
 そう考えると、東郷は強くない。
 大会にだって出場していないのだ。

 それでも、東郷が小物とは思えなかった。
 見た目の怖さがハンパではない。
 そう思って読みなおすと、東郷は姫川の実力を理解していたことがワカる。
 弱いものイジメという意識はなく、強者への挑戦だ。
 姫川に挑発されても、東郷は激昂しない。
 才能ある男だと感じているのだろう。

 でも、東郷は自分で「不器用」と言っちゃうのがスゴイ。
 なんか「アタシってツンデレだしィ」と言い出す女みたいだ。
 もしかして、スゴイ勘違いをしていませんか?
 東郷は不器用の定義を間違えているのかもしれない。
 まあ、探りの打撃もしないで、いきなり全力攻撃をしちゃうのは、不器用だけど。

 不器用という点で、東郷と藤巻は共通している。
 藤巻にトドメを刺すため、姫川の脳が似た相手と闘った記憶を呼び出したのだろうか。
 走馬灯のような現象かもしれない。
生命存続の危機に際した時 人間は本能的に』
『それを回避する方法を記憶の中から探し出そうとする』
シグルイ4巻 16景)

 回想することで、過去の逆転事例を思い出して攻略の糸口をつかむのだ。
 回想したまま負けちゃう人も、たまに居ますが。


 感想を書くときに、キャラクターのモデルや作者の都合には、あまり触れないコトにしています。
 基本的に、外の人なんていません という態度だ。
 だが、今回はちょっとだけ書きます。

 東郷は、板垣先生をボコボコにした太気拳のS先生だと思われる。格闘士烈伝
 板垣先生は、その時の恐怖があったので太気拳を避けて行動するようになった。
 だが、ついにS先生と対談をして和解(?)に成功したのだ。2006年12月のことである。
 S先生とは、島田道男先生だ。(wikipedia画像検索

 島田先生は写真でも十分迫力がある。
 実物は、もっとスゴイのだろう。
 そんな島田先生がモデルかもしれない、キャラクターを出したのだ(推定です。あくまで推定)。
 板垣先生がなにかを吹っ切ったのかもしれない。

 次回から餓狼伝は、ガラリと世界が変わるかも。
 もしかしたら、絵柄も変わったりして。
 それにしても次号はなんでお休みなのだろうか…………
by とら


2008年7月8日(15号)
餓狼伝 Vol.209

 姫川勉、最後の一撃だッ!
 背水の陣かつ残弾数ゼロの状態で逆転のカウンターを狙う。
 これが失敗したら、姫川は敗北する。

 乱打戦のなかで藤巻は飛び蹴りを放つ。
 高い位置からの攻撃なので、本来なら奇襲となる攻撃だ。
 だが、姫川はその攻撃を待っていた。
 全身全霊をこめた藤巻の一撃をッ!

(君の放つ極上の一打によって… わたしの残弾は……)
(救われた…… 実を結んだのだ)


 姫川は左足を前にした構えだった。
 この状態で左から右へと蹴られると、体が右に回転する。
 右肩が背後にまわってしまうので、攻撃できる右腕が前に出てこない。
 藤巻の飛び蹴りは、相手の反撃も封じることができるのだ。

 まさに会心の一撃だ。
 藤巻はおそらく勝利を確信したであろう。
 この一撃で倒せなかったとしても、反撃は無いはずだ。
 気持ちは、ダメ押しの追撃にむかっている。

 だが、姫川は反撃した。
 体をひねって打撃を受け流し、すぐにひねりを戻す。
 信じられない運動能力だ。加速装置でも積んでいそうな動くをする
 すさまじい腰の回転である。音速超えて衝撃波を出しそうだ。
 冴子との立ち合いは、やはり腰運動の修行だったのだろうか。(餓狼伝13巻 105話

 回避から反撃に転じた姫川は、右掌で藤巻のアゴを打つ。
 前回の回想で姫川が見せた、打撃から投げにつなげる攻撃だ。
 虎王は打撃と関節技の複合技だが、この技は打撃と投げの複合技だろうか。

 技をかける姫川の視線は相手を見ていない。
 これは型を反復練習で憶えきって無意識に体が動く状態にしたためだろうか?
 待ち状態になって攻撃をくらうと、自動的に反撃するように学習したのだ。
 『 ユーザーイリュージョン』でも、意識しておこなう行動よりも、無意識におこなう行動のほうが早いとある。
 武術の究極はやっぱり『無心』らしい。(参考
 姫川も限定的に無の境地に達したのかもしれない。

 顔は重心から遠い場所にある。
 だから、少ない力で相手を回転させることができるのだ。(参考:「格闘技「奥義」の科学」)
 そして、相手の後頭部を地面に叩きつける!

 先の大戦で、多くの人間を殺したという拳心流の投技"切り落とし"にも似たキケンな技だ。(21巻 191話
 体勢として、受身をとることはできるだろう。
 だが、この技は相手が最高の打撃を叩き込んだと確信したところをかえす技だ。
 会心の一撃をミスさせて、痛恨の一撃を浴びせる状態と言ってもいい。
 心のスキを突くキケンな技である。藤巻ですら受身を取ることができなかった。

 この技は腕力をあまり必要としない技だろうか。
 必要なのは相手を浮かせるだけの力だ。ヘビー級ボクサーみたいな攻撃力はいらない。
 MPがほとんど空っぽな姫川にとって最適な技だったのだろう。
 前回の回想も、腕を折られた直後で力の出ないコンディションだったのかもしれない。
 つまり、姫川にとって、この技は本当の本当に崖っぷちの逆転狙いだったのだろう。

『もはや残心を取る力もなく……』

 姫川は座りこむ。
 藤巻は黒目から光が消え、気絶しているようだ。
 姫川も、空手で重要とされる残心も取ることができない。
 実戦であれば相討ちと判断されかねない状態だ。

 ちなみに極真系のK-1選手はダウンをとったとき、残心を心がけている人が多い。
 なぜか、フィリォフェイトーザのようなブラジル系の人ほど、きっちりやる。
 姫川も、途中まで残心をとる動きだったが、立つこともできずに尻餅をついてしまった。

 まるで、両者ノックダウンのような結末だった。
 最後まで立っていたのは審判だけだ。
 観客たちも声すらあげず、呆然と見ているだけだった。

 静寂を破るように審判が拍手をする。
 そして、一本の宣言だ。
 姫川の勝利を宣言する。
 これで沈黙の呪縛がとけたかのように、観客たちは完成を爆発させた。

 長い、長い北辰館最大トーナメントが終了したのだ。
 主人公である丹波文七も、これでやっと表舞台に復帰できる。と思う。たぶん。きっと。

 泉先生は弟子の敗北を見届け、目を閉じた。
 不幸な出来事が重なり、藤巻は逃亡者となる。
 もし、真っ当な環境で藤巻が鍛錬をつづけることができたなら……
 いろいろな思いもあるだろう。
 だが、泉先生はすべて飲みこむのだった。

 丹波はふたたび戦いの日々にもどるのだろう。
 最強を目指す以上、姫川はいずれ戦う相手だ。未来の敵にたいし感動の表情はみせない。
 長田と梶原も、とくに表情を変えないのだった。
 マユゲが下がっているせいで、梶原の表情がマヌケっぽくなっていますが、気にしてはいけない。

 グレート巽だけが睨みつけていた。
 この拍手と栄光を受けるべき人間は、FAWのプロレスラーだったハズだ。
 できれば、俺がッ! と思っているのかもしれない。
 負けず嫌いな巽だからこそ、この試合を上まわりたいと思っているのだろう。
 トーナメントのあとには、北辰館 vs. FAW の団体戦が企画されているが、どうなるのか?

 そして、エリート刑事の辻警部たちは呆然と拍手をしていた。
 今までの人生+これから服役で失う時間のすべてをかけた藤巻十三の戦いを目撃したのだ。
 おそらく試合がはじまる前は藤巻など出世のための点数稼ぎぐらいにしか思っていなかっただろう。
 だが、その藤巻の人生十数年を取り出し煮詰めて作った濃厚なスープを出されたようなものだ。
 数分にまで濃縮された人生劇場。
 はじめて味わう感動があったのだろう。

 これで改心して、人情もわかるエリートになってくれればいいのだが。
 そして、藤巻には情状酌量のよちを大きめにした求刑をしてもらいたい。
 あ、でも、それは検事の仕事か。
 さすがに「うっかり逃げられちゃいました」と逃がすわけには行かないよな……
 近くにいるガングロ(梶原)を誤認逮捕してみてはどうか?(いや、それはヒドイ)

 勝った姫川も目から光が消え、死んだ目になっていた。
 まさに紙一重の勝利だ。
 倒される直前の藤巻には、少しだけ余裕があった。
 だから、追いつめられるギリギリ寸前の力が出なかったのだろう。
 めぐりあわせの運。そうとも言える勝利だ。
 姫川勉が そんな死に体であると知りながら、松尾象山は楽しげに試合の準備をするのだった。

 ええぇッッッ! やのかよ、アンタッ!?
 今の姫川なんて、梶原でも勝てるかもしれないぐらいに弱っている。
 松尾象山とは戦えませんよ。
 それでも、やる気らしい。
 どこまでオトナゲないんだ松尾象山。

 もちろん、姫川はプリンかトコロテンなみにへばっています。
 さすがの松尾象山も、戦いがいがないだろう。
 オマケに戦ったら死傷事件になる。
 まあ、松尾象山なら満足できる戦いであれば死傷事件も望むところなんだろうけど。

 姫川が役に立たないということは、別の誰かを用意する必要がある。
 道着まで装備しちゃって、松尾象山はやる気まんまんだ。
 どうやれば止まるのか、世界中の名探偵を集めたってわからんだろう。
 トーナメントは終わっているけど、最後の問題が片付いていない。
 次回、どうなるッ!?


 長かった、北辰会館トーナメント編も終わりません。
 すでに、201話の時点で決勝が終わっているんですけど、どこまで延長するのやら。
 ただ、因縁のある試合はほとんど終わった。
 そして残ったのが松尾象山だ。
 実にやっかいな人がのこった。

 松尾象山の餓えをいやせる人はだれだろう。
 実力的にはグレート巽しかいない。
 少なくとも、FAWを印象づけるため、なにか言うために舞台にあがる可能性がある。
 そこで、梶原を指名したりはしないだろうけど。

 こんなところで松尾象山 vs. グレート巽はやったりしないと思う。
 それやったら、次回最終回ってノリだよ。
 この対決は もっと後か、永遠にやってこない。

 ならば会場のどこかにいる久我重明というのは、どうか?
 久我さんなら松尾象山ともいい勝負になる。
 もっとも、この二人に戦う理由があるとは思えない。
 久我さんは自分の闘争欲には鈍感なほうなので、戦ったりはしないだろうな。

 さすがに、もう巨人は無いはずだ。
 決勝戦の前で巨人の試し割りはしちゃったのだ。
 二度目は無いだろ。

 ならば、泉さんが出陣するというのはどうか?
 弟子ばかりに死闘はさせられない。
 北辰館に竹宮流を刻みつけてやる!
 そんな理由で決死の出陣をするかもしれない。
 もちろん、松尾象山にはかなわないのだろうけど。

 会場のどこかにムエタイとアマレスとブラジリアン柔術を習って本格的なジャブも撃てるロシア人チャンピオンとか落ちていないかな。
 こうなったら、畑の兄弟子であるチョー先輩さんに期待だッ!(19巻 173話
by とら


2008年7月22日(16号)
餓狼伝 Vol.210

 餓狼伝世界で最強・最太の男が登場だ。
 北辰会館の館長、松尾象山である。
 とうとう眼光から呼吸までもが太くなってしまった。
 メタボすら、やせて逃げ出すような太さを有しつつある。
 時代に流されない骨太の館長だ。

 松尾象山は、世界中の格闘家に勝利し、牛すら倒した。
 格闘技の世界では、動物を倒すことも重要なのだ。
 『獅子の門』でも、久我重明が弟子の志村礼二に犬を殺すよう指示している。(青龍編
 まあ、久我さんの場合は「人を殺すと罪になるから、犬」という発想かもしれないが。

 丹波も、まず犬からはじめてはどうだろうか?
 いや猫かな。いきなり犬はいかん。
 やっぱ 鳥だ。あとで喰えるし。丹波なら、きっと勝てる。

[ 全ては伝説である]

 そう、だが松尾象山が実際に戦うところを見たものはすくない。
 数十分前にアジア最大の男チェ・ホマンをブチのめしたばかりですが、みんな忘れたのか?21巻 195話
 なんにしても、空手着に身をつつみ試合をする姿を見た人間はすくない。
 北辰会館の人間は、見たり、実際に闘ってブチのめされたり していそうだけど。

 松尾象山の試合を見る。
 格闘技ファンにとって最高の栄誉(ステータス)だ。
 ただ、相手が問題である。
 誰が相手なのだろう。へっぽこな相手では話にならぬ。
 神心会の門下生だと、やらせ試合になってしまいそうだ。

 チェが倒された時点で、名のある格闘家は会場から逃げ出しただろう。
 残っていたら、御指名を受けてしまうかもしれない。
 丹波みたいに「先日、試合をしたばかりなのでムリっす」と言いかえせないと地獄を見る。
 松尾象山の餓えをいやせる格闘家はいないのか!?
 そういえば、会場には梶原がいたな……

『対戦者は2名……』


 一人は、どうみてもヤクザです。
 顔面にものすごい切り傷がある。
 傷量だけなら花山薫を上まわる逸材だ。
 なんでも、その世界では超一流の人間らしい。

 花山と同じく喧嘩師として活躍しているのだろう。
 刃物で斬られたと言うことは、命のやりとりをした経験があると言うことだ。
 試合で闘うスポーツ選手とは気迫がちがう。
 花山が超A級喧嘩師ならば、この男は超B級喧嘩師かッ!?
 ああ、なんか講談社よりも秋田書店のほうが にあいそうなキャッチフレーズだ。

 姫川が負傷欠場ということで、松尾象山が呼びかけたらしい。
 かなり強制的だったようで、ヤクザは内心不満そうだ。
 そりゃ、逆らったら大変な目にあうんだろうしな。
 暴力組織としての北辰会館はヤクザよりも怖いのか。
 それとも、松尾象山個人が怖いのかも。

 そして、もう一人ッ!
 完全武装の機動隊だッッッ!
 藤巻逮捕のために召喚された機動隊を有効活用している。
 警察の横ヤリをみごとにカウンターでかえした形だ。
 さすが松尾象山、ただでは転ばぬ。

 法を守る側と、犯す側の強者がそろった。
 そして迎え撃つのは伝説の空手マスターである。
 意外な組みあわせだけど、二人まとめて松尾象山に倒されるのは目に見えているよな……
 次号はお休みなので、撲殺祭は8/26開催だッ!
 ……ずいぶん先だな。


 ほぼ死に体の姫川をムリヤリ闘わせるのかと思ったら、ちゃんと休養させるらしい。
 当たり前の行動なんだけど、松尾象山の温情だと思わせてしまうのが人徳だ。
 むしろ、普段の行動がムチャクチャだからまともなことをするとイイ人に見える効果だ。
 姫川のかわりに、丹波や梶原が死地に引きずりこまれなかっただけでも、良しとしよう。

 しかし、代役が弱い。
 ヤクザは観客が見守るなかで実力を発揮できるのだろうか?
 最低でも武器の使用を許してもらわないと、片手の松尾象山にも勝てないだろう。
 だが、武器を使用したところで松尾象山に傷を負わせられるのかどうか……

 機動隊もあまり期待できない。
 藤巻対策として二人一組で行動するように指示されていた連中だ。20巻 183話
 それが松尾象山に単独でたたかう。
 なんか かけ算とわり算を間違えて計算したような勝負だ。

 でも、藤巻対策のときには付けていなかったプロテクターを装備している。
 さらに盾と警棒も持ったまま会場にあがった。
 これなら単独で藤巻とたたかえるかもしれない。
 だが、松尾象山に通用するのだろうか?

 グラップラー刃牙では通常の格闘技以外に「不良」「動物」「軍隊」と戦う要素があった。
 人間が強さを求めるうえで避けられない要素だ。
 手段を選ばないアウトロー、圧倒的な力をもつ野生動物、殺しのプロである軍隊だ。
 その意味では、今回の相手はアウトローとプロにあたる。
 松尾象山が、スポーツではなく武術としての空手を見せるのなら格好の相手だ。

 ケンカ好きな暴れん坊ともちがう、武術的な奥深さを見せてくれるのだろうか?
 それだったら、神山さんと高度な空手対決をやって欲しかった気もする。
 松尾象山は力任せの荒い空手だけではなく、芸術的な技ももっていると思うのだが。

 大会の最終試合となるこの戦には、裏のバトルがある。
 いわずと知れた解説合戦だ。
 松尾象山の難解な戦いをどう解説するのか?
 背景で舌戦が繰りひろげられる。

 おそらく、丹波 vs. 梶原の因縁対決が始まる。
 より深く。より広く。充実した解説ができるのは、どっちだ?
 うっかりすると、アナウンサーに全部もっていかれるぞッ!
by とら


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