今月のバキ外伝 疵面(スカーフェイス)+シグルイ感想

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2005年1月19日(3号)
バキ外伝 疵面(スカーフェイス) 第1撃

 現役警察官ですら憧れてしまう素手喧嘩(ステゴロ)ヤクザ・花山薫を主人公に、バキ外伝がスタートする。
 第一回は、オールカラー10ページッッッ!
 って、少なッッッ!

 それだけではない。袋とじ仕様なのだ。
 買わずに横からのぞこうとすると四次元空間に吸い込まれるらしい。ようするに買えということだ。
 未知なる袋とじの中には花山薫がギッシリつまっている。
 全ページにわたり、世間にお見せできない花山薫が満載だ。
 袋とじをあわてて切ると、花山の顔に新しい疵ができちゃうので、要注意ダゾ。


 繁華街で仁王立ちする花山薫で話は始まる。
 この人が街中で立っていると、たぶん人がよけて通る。
 モーゼの十戒で海を割るシーンのように、にぎわう人並みが二つに割れるだろう。

 そういうところは範馬勇次郎に似ている。
 せがれの刃牙は人前でも平気でイチャついて、違う意味で人を引かせたりしそうだけど。
 なお、チャンピオンREDの表紙は刃牙だ。
 ざっと確認したが、中には刃牙はまったく登場していない。
 空気読まずに出てくる感じは、範馬勇次郎に匹敵する。祝福するといいながら、せがれの情事をブチ壊し。

「身長191センチメートル」
「体重166キログラム」


 グラップラー刃牙27巻で克己と闘ったときは190.5cmだった。花山は少し成長したらしい。
 花山薫は成長しつづける男なのだろうか。
 特別な鍛錬をしない花山も、闘争に技術不要という勇次郎(234話)と同じ思考だ。
 範馬勇次郎にイチバン近いのは、刃牙ではなく花山なのかもしれない。

「19歳!」
「そのたたずまいから 年齢を知った者は一様に驚きを隠せない」


 まあ、あの貫禄で選挙権が無いと知ればビックリします。
 選挙権どころか、被選挙権だってもっていそうな威厳がある。
 でも、十五歳のときからあの姿だという事実のほうが驚愕だ。
 刃牙幼年編での初登場は、めちゃくちゃインパクトがありました。
 自分より花山のほうが年下だと、数ヶ月気がつかなかったほどだ。

 花山は、中学卒業時で、すでにあんな顔のはずだ。
 校長も目を合わせられない。失禁寸前だ。
 卒業証書を受け取るときに、うっかり校長の手に握撃かまして大惨事になりかねない。
 超規格外の卒業式になること間違いなし。

「実戦カラテの父 大山倍達は かつてこう述べている」
「破壊力 = 体重×スピード×握力 であると」


 理論づけて考えると、「破壊力 = 体重×スピード×握力」というのはちょっと違う。
 頭ではワカっているけど、カッコよさでうなずいてしまう。
 力みなくして開放のカタルシスは無いのだ。
 ふにゃっとした拳よりも握力でギチギチに固められた拳のほうが、理屈ではなく心情として痛そうだ。

 そして、超握力の持ち主といえば花山薫だ。
 握力だけなら範馬勇次郎と互角かもしれない。
 スペックとの死闘も、握力で握り勝った経歴を持つ。
 花山のおかげで、孫海王がダメダメに見えたことは記憶に新しい。

「しかしこの花山薫」

「本気で拳を握ったことがない」


 な、なにィ〜〜〜〜!
 今まで握力日本一、世界一とほめあげていたのに。本気じゃないのに、日本一だったのか?
 花山も、どんどん都市伝説化が進んでいるような気がする。
 本気を出したら握力だけでジャガれると言うのか?
 そんな、バカな。

「巨大恒星(太陽の30倍以上)がその大きすぎる引力のため徐々に縮小し―――」
「遂にはその姿は限りなく無に近づき―――――
 ブラックホールと化すという」
「彼の巨大過ぎる握力は
 彼自身の拳をも握り潰してしまうからである」


 これは『バキ アルティメットブック 青龍之書』で出てきた話だ。
 いわく。
『花山なんか本気で拳作ったら骨折すると思ってるんですよね、自分の握力で。ブラックホールのようにね。』

 刃牙十三歳と闘ったときは本気で拳を握らなかったから、指を破壊された事になるのだろうか。
 むしろ、限界ギリギリで握られていた拳に衝撃が入ったので、限界を超えて自壊気味に砕けたのかもしれない。
 そうなると、やっぱり殴るより握撃をかましたほうが全力の握力を使えそうだ。

「その花山が」
「この度本気で拳を握る!!!」


 そして、ついに本気の本気で拳を握るときがきたのだ。
 花山の拳は、超握力によりすでに「異形の拳」となっている。
 そこにさらに力を入れる。

 火事場にガソリンを散布するような暴挙だ。
 敵を倒しながら、自分の拳も破壊する。
 一撃必壊のブラックホール・パンチが誕生するのか?

 勇次郎の鬼の一撃、刃牙の剛体術、克己のマッハ突き、独歩の菩薩拳、郭海皇の攻めの消力などの必殺券の殿堂に新しい技が入ることになりそうだ。
 次回のREDは二月十九日(土)発売だ。
 そして次回は大増量53ページだ。
 ……………少しは、今月にまわしてくださいよ。ふたつ合わせて、割るぐらいがちょうどいい気がする。


 作画担当の山内雪奈生さんなんだが、名前の下に小さく「丸駄武夜露死苦」と書いてある。
 実は、改名だったらしい。
 また、今回はCG担当の人も加わりエフェクトにこっている。
 次回以降のモノクロページにもCGエフェクトが入るのだろうか?

 次回というと、花山が全力の拳を握る必要のある強敵が登場しなくてはならない。
 候補は誰だ?
 克己とのリターンマッチか? スペック復活なのか?
 思い切って、ジャックと戦ったりするのか?
 シコルは……………。彼も握力自慢だけど、もう旬をのがしちゃった人だ。可能性は低い。

 まあ、外伝なのであまり本編の人間は出てこないだろう。
 予告でも新キャラが出るような事を書いている。
 予測として「花山の疵がまた増える」としておこう。だから、刃物キャラではないだろうか。

 しかし、今の花山は爆発前なのだろうか?
 だとすると、この世界ではSAGAの乱がこれから行われるのだ。
 花山よ、刃牙がデートしている現場に行ってはならん。
by とら


2005年2月19日(4号)
第2撃 挑戦状

 花山薫が酒を買う。
 酒種はバーボン、銘柄はいつものワイルド・ターキーのようだ。花山薫はこだわりの男なのだ。

 ところで、おつきの木崎はどうした?
 木崎は「バキ」になってからまったく登場していない。ケガでもしたのだろうか。

 酒屋(?)で研修中の姉ちゃんを「万札出して釣りをもらわず無言で立ち去る」プレイでビビらせる。
 ギャルゲーならここでフラグが立ちますね。姉ちゃん、ベタ惚れです。

 この漫画はギャルゲーではないので、花山はそのまま目的地へ向かう。
 自分で買い物をするのは悪いことではない。
 しかし、店員が怖がるので、木崎を呼んで勝ってもらったほうが言いと思う。
 だから、木崎はどこなんだ?

 花山の手には果たし状があった。
 そう、本日花山薫が喧嘩をするのだ。なぜか、駅ビルの屋上で。
 高いところで喧嘩したがるのは、幼年編の刃牙vs.花山 以来の伝統か。
 エレベーターにのって子供に興味を持たれ、母親が困るのはドイル×烈な状況と同じだ。

 屋上ではひとりシャドーボクシングをする男がいた。
 金髪で、アゴに疵を持ち、鍛えられた肉体をしている。
 この男こそ、花山に挑戦する男だった。

「忘れたってェ顔だな……」
「ムリもねえッ あの頃は周りの中学も高校もぜェ〜〜んぶ…… お前の傘下だったからな」
「イチイチ憶えちゃあ いらんねェだろッ」


 花山は十五歳ですでにヤクザの組長だった。
 ということは、高校には行っていないと思われる。
 中学生時点で、近所の高校もまとめて面倒みていたのだろう。

 組長の息子という立場だけではなく、幼年時から超握力の持ち主だった花山だ。
 中学生時点ですでに大人と喧嘩しても負けない実力を持っていたはずだ。

 この挑戦者は、花山にアゴを割られて以来、花山薫を研究してきた。
 三年の月日を花山薫をたおすために過ごす。
 三年だと、高校卒業後からって感じなので卒業したのをきっかけに、修行に入ったようだ。

 強くなるために鍛えることは女々しいという花山の逆を行く行動をする。
 強くなるためなら、なんでもするという覚悟なのだろう。
 弱者には弱者の鍛え方があるのだ。
 ボクシングだけではなく、柔道もやって、総合的な戦いを学んでいるようだ。
 そして、実戦……。

 花山組の金バッチを狩るッ!
 ヤクザ者を襲い、ステータスシンボルである金バッチを強奪してきた。
 銃を含む武器の飛び出す実戦であり、花山に対する挑発にもなる。
 トレーニングと復讐が同時に行える行動だ。

 そして、挑戦状が届く。
 読む花山の表情は微笑が浮かんでいるようにも見える。
 名がずいぶん売れた今ではこうした喧嘩は久しぶりなのかもしれない。
 久しぶりの喧嘩に喧嘩師・花山薫が燃えているのか。

「今から花山薫(アンタ)に教育できる―――――」
「倒される痛みってやつを」


 ジャージを脱ぎならが、余裕の宣戦布告だ。
 しかし、敵を目前にして服を脱ぐのはいただけない。
 脱ぎかけの服は行動を制限する。どうしても、スキができてしまう。
 餓狼伝では藤巻が丹波の上着を半脱がしにして動きを封じたし、トランクスを脱がされて大変な事になった人もいる。
 強敵を前にして、ちょっと油断しすぎではないだろうか。

「いいのか 丸腰で」

 花山がついにしゃべった。その間 実に二十八ページッ!
 さすが寡黙な男だ。週刊連載だったら、セリフなしで一話分が終了するところだった。
 今後もこの調子で、全然しゃべらないんだろうな。

「勝利の味をな」
「より濃ォ〜〜くしてェんだ」

 花山研究家のわりに花山がしゃべったことの貴重性を理解していない。
 そして素手で戦いのも、素手にこだわる花山への対抗心ではないようだ。
 どうも、研究不足な感じがする。闘う前から、負けモードか?

 すでに負けかかっているというのに、勝つ気でいる男がおかしいのか、花山がクス…と笑う。
 花山にしてはめずらしい笑い方だ。クス…ですか?
 よっぽどヘタれているように見えるらしい。

 そういう不安要素を無視して、挑戦者は右ストレートを叩き込む。
 さらに追撃する。連打、連打、連打、打撃の嵐だ。

 そして、全ッ然ッ効いていない。
 せつない時間だけが過ぎていた。
 もう、泡ふいて半泣きだ。
 打ち疲れでダウン寸前になり、手も止まってしまった。

(こッ こいつ……)
(……………この人はッッ)
(このお方はッッ)
(勝負してない!!!)


 男は必死で殴っている。しかし、花山にとっては勝負以前の実力差らしい。
 連打が止まったところで、花山は先ほど買ったバーボンを一気飲みする。

 そして、一服したところで反撃開始だ。
 息を吸って、吐く。
 モンスターマシーンの排気量が普通のものと違うように、花山の呼吸は常人と違っている。
 呼吸すら暴力的だ。
 蹴り。
 花山のヤクザキックが炸裂する。

(勝負なんて)
(するんじゃなか…)


 フェンスまで吹っ飛び、跳ね返る。
 もうちょっと軌道が高ければ、フェンスを越えて死亡確定だっただろう。
 飛ぶときに、地面をこすっていたようなので、意図的に花山が低く飛ぶように蹴ったようだ。
 さすが花山だ。無益な殺生はしないということか。
 まあ、やったら殺人罪だ。見ている人も多いので、ごまかすこともできない。
 ヤクザという立場上、かなり困るだろう。

(よかった…)
(鍛えてて……)
(こうして生きて………)


 死にかけたことで、生きる喜びを再確認したようだ。
 しかし、花山に勝つことを誓っていた男だ。
 近づく花山に対し「殺れよ」と言う。

「敗北の味なら知ってるぜ」
「あれから… 2度負けてる」


 あれからって、いつからだ?
 無口なだけに説明不足な花山であった。

 花山を倒した人間には数名候補がいる。
 幼年編の刃牙、範馬勇次郎、愚地克巳、ガーレンの四人だ。
 このうち勇次郎とガーレンは負傷状態だったので、数えていないのかもしれない。
 また、チャンピオンREDのオマケである「花山薫 激戦譜」でも、勇次郎とガーレンの戦いは記録されていない。
 あれらは非公式記録らしい。

 花山がめずらしくタバコをふかしている。
 苦い思い出をするのに、タバコを吸いたくなったのだろうか。
 それとも祝い酒を用意していなかったので、しかたなくタバコなのか?

 花山をたおすほどの人間がどこにいるんだと聞かれ「中国 いや………アレ?」と考える。
 刃牙が毒の治療のため中国へ行ったのは知っていると思う。
 でも、最近帰ってきたんだっけ?
 そんな反応だろうか。

 それとも、刃牙を思い出した弾みで松本梢江をも思い出したのだろうか。
 思い出したくないし、話題を変えたいところだ。
 刃牙 いや………アレ?
 ………………ところで、克巳の事は忘れているのか?

「一度遊びにこい」
「ヒロシ」


 刃牙のことはとりあえず置いといて、挑戦者の名前を思い出したらしい。
 花山の肉体にはダメージを与えられなかった。しかし、心に刻む攻撃はできたらしい。
 ヒロシの表情がくしゃくしゃに泣き歪んでいく。

(オ…………オレのこと)
(覚えてて………)
(くれ……………た……)

「ありあたンしたァッッ」


 ヒロシは土下座で感謝する。
 敗北の味を教育するつもりが、戦いに臨む覚悟と生きる喜びを教育されてしまいました。
 ヒロシです。勝負にすらならなかったけど、花山に認めてもらえて嬉しかとです。
 花山薫の貫禄勝ちである。

 ちなみに、「名前を覚えていた」ではなく「思い出した」だと思います。
 殴られている間、ず〜〜〜〜っと思い出そうとしていたんだろう。
 アゴを割るほど殴ったということは、それなりに強敵だったはずだ。
 弱かったら、ちょっとなでて終わりだし。
 そんなワケで、アゴをキーワードに一生懸命考えていたと思われる。

 前回「その花山が」「この度本気で拳を握る」とあったが、それはまだ先の話のようだ。
 今回は拳を握るどころか、蹴っていたし。
 次回は、ちょっとでも握るんでしょうか。

 予告では『花山がオツトメ中に起こった伝説の大事件とは!?』となっている。
 なんでしょうか、花山版・電車男とか?
 車中で喧嘩売ってきた男を電車の床に埋め込んで、人と電車が一体化した「電車男」の完成!
 うまくすれば大ヒットします。

 電車男って、電車で喧嘩に敗北した男が2chの武道板でトレーニング方法を聞いて、リベンジを果たす話じゃ無かったんですね。
by とら


2005年3月19日(5号)
第3撃 花火

 花山薫 in 刑務所
 これが「オツトメ中」の正体だ〜〜!
 今回の話は刃牙と出会う前のヤング花山薫である。勇次郎と会ったときにできた、ホホの刺し傷がない。

 グラップラー刃牙116話の「富沢会 襲撃事件」で普通に服役していたようです。
 まあ、ヤクザ事務所を壊滅させちゃったんだし、訴えられたらこうなるな。弁護不能だ。

 でも、花山は未成年なので少年法が適用されるはずだが。
 116話の描写では死人は出ていなかったようだし、重罪ってワケではないと思う。
 だからすぐに外に出てきたのかも知れない。
 でも、根本的に未成年なんだけど。こんな顔していても十五歳なんだ。
 この人、スラムダンクの花道たちと同い年ですぜ。

 で、勘違い看守の嫌がらせも聞き流して、オリの中でおとなしくしている花山であった。
 にしても、花山デカすぎ。
 拳のサイズが、よこにある便器とたいして変わらん。

「花火だ」
「服役(るす)の間に」
「俺の手が欲しいときゃ」
「刑務所(オリ)の上に花火を上げろ」


 服役前に花山が若頭の木崎に言った言葉だ。
 そして、今がその時だった。
 花火師をつれてきて、打ち上げ準備完了だ。

 許可無く花火を打ち上げるのは、やっぱり違法なんだろう。
 まあ、法にしばられないのがヤクザですから。
 ヤクザは無許可の花火を恐れたりしない恐るべき集団なのだ。

 屋台なんかはショバ代がからんでいるから、ヤクザと関わりがあるらしい。
 で、その関係で花火師が知り合いなんだろう。
 花火上げるのも大変です。

「強ええ 強ええって……」
「どんくれェ 強ええんだ………?」
「俺(おり)ゃあよ剣道四段 柔道 カラテも黒帯」
「ケンカしてみっか 今度」
「デッけェ図体がドザーってよ」
「目に浮かぶぜ」


 勘違い看守は花山の強さを疑っている。
 かけねなしのアホだ。
 とりあえず、鼻毛切ろうよ。ここ数年で見た最大級の鼻毛だ。その鼻毛はオシャレですか?

 実際に戦ったら、前回のヒロシと同じく打ち疲れて自分でダウンしそうだ。
 この看守には前歯が無い。歯並びもガタガタだ。つまり何度も殴られた経験があるのだろう。
 喧嘩を多くこなしているかもしれないが、花山とは自力も戦歴もまるで違う。
 拳銃(チャカ)とポン刀相手に鍛えた喧嘩術だ、格が違いすぎる。

「外出だ」

 メガネかけっぱなし、座りっぱなし、黙りっぱななしの花山が立ってしゃべった!
 そして、メガネもはずした。全国のメガネフェチは落胆のタメ息をついただろう。
 花山がメガネを外したときは、本気だ。

 腕力でムリヤリ外出しちゃうのは確実として、どこを壊すのか?
 後ろの壁か、前の鉄格子か。
 と、花山は鉄格子に背を向ける。体を沈め力を込めて拳を握る。
 上半身と下半身が反対を向くほどに腰をひねり、力をためる。
 狙いは後ろか?

 ガシャァァン

 パンチで鉄格子を破壊した。
 ストレート系で、吹っ飛ばすのではない。フック系で横にひしゃげ壊した。
 背を向けていたのは半回転してのフックを打つためだったのだろう。
 天然で、読者にフェイントをかけやがった。なんと言う才能だ。

 看守はこの破壊劇を見て大失禁する。
 祝・疵面 初失禁だ。
 惜しいかな、ちょっと量が足りない。まあ、初めてだからこんなものか。
 己の尿の海に沈むぐらいが理想なのだが、美少女漫画が多い雑誌で、鼻毛のおっさんが漏らしても問題か。

(死…ッ)
「ヒィイイイィイッッ!!!」


 へたり込んだところを踏まれると思った看守はブタのように悲鳴をあげた。
 元から踏む気など無かったであろう花山は、そのまま横をとおる。
 怪物が見せた真の姿に看守の心は折れまくりだ。

 さっきまでの現実(リアル)で喧嘩すれば俺のほうが強い発言はなんだったのか?
 強い立場から一方的に攻撃することしかできない人間だったらしい。
 権力をかさにきる国家権力のイヌ、それの悪い例だな。


 そして、花山薫が脱獄する。
 前代未聞、歩いて正門からの脱出だ!
 刑務所の職員は走って追いかけるが、歩く花山に追いつけない。
 あまりに堂々と出て行く気なので、虚をつかれて対応がおくれたのだろうか。

 もう手段を選んでいられないのか、ついに発砲する。
 普通は地面か空に向かって威嚇の発砲をする。
 ところが弾は花山の首筋にかする。射殺する気ありまくりか?
 当てる気じゃないと、こんなに近いところに飛ばないぞ。

 花山の出す暴力のオーラについ過剰反応してしまったのだろう。
 人間は恐怖を感じると行動が攻撃的になる。
 彼らもかなりビビっているのだ。

 銃弾がかすったと言うのに花山は止まらない。
 堂々と正門へ向かっていく。いや、正門なんだろうか?
 デカい鉄の扉がついているが、正門とは限らない。搬入用の扉なのかも。

 いかなる打撃を受けても止まらないのが花山薫です。
 銃弾だろうと止まりはしない。
 普通の人なら、銃声を聞くだけでビビるだろう。しかし、この人は眉ひとつ動かさない。

 なんにしても、扉の前でふたたび花山の拳が猛威をふるう。
 打つときにできるスキを嫌う格闘技には無い、全力をこめた、ただ打つだけのスタイルだ。

 大きすぎるモーションは、本来ならカウンターの的になる。
 しかし、花山にはいくらカウンターを取られても沈まないタフネスがある。
 くわえて何度失敗しても向かっていく心の強さもある。
 この二つが防御無視の攻撃を有効なものにしている。

(簡単なリクツだ)
(スピード ×(カケル))(体重)(×(カケル))(握力)(=(イコール)
(破壊力!!!)


 理屈じゃなく迫力で押しきられる。
 細かい理屈は、行く手をはばむ鉄の扉と共に 花山の拳で打ち砕かれた。
 一撃。
 まさに一撃で扉を破壊して、腕力でシャバに復帰する。

 花火なんて打ち上げたものだから、外にはパトカーが多数待機していた。
 遠巻きに警官が取り囲む中で、花山は呼び出された理由と対峙する。
 そして、それはトンでも無い難題だった。

(……………ッッ)
「オフクロ」

 花山の母だった。
 今日は花山の誕生日だったらしい。手作りのクッキーで おもてなしだ。
 普通に面会するとか、差し入れするとかしてくれればイイのに……。
 やっぱり、誕生日の当日に渡さないとダメなんですか。

「ありがとう」
(だけど……)
(今年だけだぜ)


 喜んでいるけど、花山さんもちょっと困っているようだ。この人も困るときがあるんだ。
 はりきって刑務所を破ってみれば、誕生祝のサプライズパーティーだったとは。
 花山組の人たちも、組長のために体を張って警官を止める。
 感動の親子対面なんだ、カンベンしてください。

 花山は今年だけと言っている。まあ、毎回脱獄をするわけにもイカンしな。
 しかし、来年も刑務所に入っているとは限らない。
 と言うことはテレくさいから、来年からはカンベンしてくれって事か?
 この人もテレるときがあるんだ。

『この年―――――――
 バキと出会い 勇次郎と対峙 初めて敗北を知る
 母が5年の闘病の末 35歳の若さで逝く
 花山薫 16才 激動の年!!!』


 花山はこの時15才のはずなので、16才というのは誤植でしょう。
 確かにこの年は色々な事件の起きた激動の年だ。
 さりげなく、花山の父が富沢会に殺されたのもこの年だったはず。
 母のことは重要でも、父のことは忘れているらしい。
 まあ、花山にとって影の薄い父だったみたいだし。

 そうなると、今回の誕生祝も理解できる。
 花山母にとっては最後の祝いなのだ。
 このあと、病状はますます悪くなる一方のようだし、クッキー作るのも今回で最後だろう。
 花山母は、文字通り命をかけて会いにきたのだ。


 ところで今回も花山は本気の拳を握っていないようだ。
 まだ、本当の闘いは始まっていないということか。

 次回は『花山組に入門希望の空手家が見た喧嘩師・花山薫の拳とは!?』となっている。
 どうも強敵は登場しないようだ。
 花山の本気の拳はいつ握られるのだろうか?
 でも、本気で拳を握ったら、「彼の巨大過ぎる握力は彼自身の拳をも握り潰してしまう」はずだ。
 と、いうことは本気の拳を握ったときが疵面の最終回か!?
by とら


2005年4月19日(6号)
第4撃 一からッ!!

 花山薫 out 刑務所
 早ッ、もう出てきた。
 塀の中できっとすごい伝説を作っていただろうから、それも期待していたのだけど。
 とりあえず、はずみで備品を握りつぶした事はありそうだ。


 定食屋で一人の男が悶々とタギっていた。
 花山組に入ったのだが、一から修行といわれて腐っているのだ。

 ビン切り・本破り・10円玉曲げ・親指倒立もこなす 芸達者 力自慢の男だった。
 でも、花山組には花山薫がいる。だから誰もオドロかない。
 すこしはオドロいてあげようや。

 親指だけの逆立ちは、たぶんめずらしいと思う。
 極真の大山倍達先生だって、親指だけで逆立ちができることが強さだと言った。これは感心するに値するはずだ。
 花山はたぶん逆立ちなんてしないと思う。だから、みんな感動しようよ。

 花山は本のページをめくる勢いあまって破ったりしていそうだ。
 渋川&独歩が負けた勢いあまって真っ二つとか。
 でも、逆立ちはしないだろう。基本的に修行をしない人だから、トレーニングとしての逆立ちはありえない。
 でも、花山組の人々が親指倒立でおどろかないのは、花山がやって見せたからと考えるのが妥当だ。

 だが、逆立ちをする花山というのが想像つかない。
 花山と逆立ち。牛丼屋と狂牛病並みに相性の悪いこの問題を解決する方法はあるのか?
 もしかすると、花山母のリクエストだったりして。
 餓狼伝の泣き虫(クライベイビー)サクラと同しだ―――――!
 だったらイケるぜ!

 いきりたつ男のせいで緊張感が高まる定食屋だった。
 そこへ花山が入ってきた。

 とたんに空気が変わる。つうか、花山がでかい。でかすぎる。
 絵だけで見れば、身長三メートルぐらいある。
 まあ、これはリアルな映像ではなく、主観的な映像なのだろう。
 威圧感のある人間はでかくみえるのだ。
 まあ、普段から威圧感がもれちゃっている花山には多少問題があるとおもう。
 ペットショップの前とか通ったら、犬猫が狂ったように吠えまくるぞ。

 ヤンキー入った高校生と、ヤクザ入門希望の男がいた騒がしい定食屋が静かになった。
 周囲の注目を集める中で、花山が注文したものは、オムライスだった。旗もついているのがポイントだ。
 ずっと喰いたかった好物らしい。
 花山薫がオムライスを喰う姿を見る。
 ――――不良にとってはどれぐらいのステータスなんだろう?

 高倉健主演の映画「幸せの黄色いハンカチ」でも出所した直後にビールとカツ丼・ラーメンを食べている。
 やっぱり、食への渇望ってのがあるのだろうか。

 花山の威厳になぜかみんな見守ってしまう。
 首から下がうつっていないが、正座していてもおかしくないぐらいの静まりようだ。
 花山が立てる食器の音だけが響き、みなは正座で見守る(推定)。

 花山はパセリを残すものの、完食す。どうも、パセリは苦手らしい。
 てっきり、バーボンをあおったりするかとおもったが、純粋に食事を楽しんでいたようだ。
 メガネを外して食べているので、本気も本気、超本気でオムライスに挑んでいたようだ。
 花山の意外な一面だ。これなら普段から逆立ちしていても、あまり違和感がないかもしれない。

(理屈じゃない)
(すぐに理解(わか)った)
("ハナヤマカオル"この人が…)
(伝説の喧嘩師!!!)


 オムライスを食べる姿すら、喧嘩師・花山だ。
 内面の雄度がにじみ出ているのか?
 卵につつまれていても、中身は赤いんだッ!
 赤だから、どうしたといわれると困るけど。

 席を立った花山はビン切りされたビール瓶に目を止めた。
 ひろって、切断面をあわせる。
 そして超握力でおさえる。
 まさか、ビール瓶をビー玉にしてしまうつもりか?(ありえねェ)

 だが、ビンは割れることなくテーブルの上に戻された。
 なぜか、切断面がくっついている。直ってしまったのか?

(縮んでる……ッ!?)

 超圧力で、ビンを圧縮してくっつけてしまったらしい。
 んな、バカなッ!

 今号の作画担当・山内雪奈生先生のコメントがふるっている。
「くっつかない? 縮まない? あ…でしょ?
 それよりは今ある借金ですよ。」


 内弟子にとって虎眼の命令は絶対である。
 とうとつにシグルイのナレーションを引用してしまったが、気にしないでください。
 武士には黙って斬られねばならぬ時もあるのだ。
 士(さむらい)が主君に対し出来ぬと申し出ることもまた不可能。

 このムチャな特技・圧縮修復を、花山は前から使えたのだろうか。
 超握力なので、花山は普段からうっかり物を握りつぶしているだろう。
 それを握力でムリヤリなおす。サイズが縮むのが難点だけど、とにかく直す。
 握力が破壊を呼び、破壊が握力を鍛えるという仕組みで、無限に握力が強くなっていきそうだ。

 腕力のみを頼りに生き抜いていることが、花山の存在感を生む。
 男・上田輝光は花山のしたで一から男を磨こうと決意するのだった。


 というわけで、今回もバトルは無し。
 外伝だからこういうエピソード集になっていくのだろうか。
 今回の話は、刃牙と出会う直前の話になる。
 刃牙と出会うことで、花山にも新しい闘争が始まるのかもしれない。
 一度は再起不能といわれたダメージからの復活とか、ちょっと見てみたい。

 そろそろ、本編からのゲストも欲しいところだ。
 最大トーナメント編直前に板垣先生は「花山と加藤を戦わせたらどうなるか!?」などと考えていたらしい。
 正直、どうにもならんと思いますが、外伝だったらそういう遊びも面白いかもしれない。
 加藤と戦うなら、柴千春のほうがにあっていると思うけど。
by とら


2005年5月19日(7号)
第5撃 T-レックス

 JR東日本の中央線 東京行きが脱線した。
 何者かが殴って脱線させたらしい。
 その衝撃は殴った男の足にも届いたようで、床の一部が壊れている。
 ただでさえ事故でよく止まる中央線を脱線させるなんて、利用者にたいする嫌がらせか?

「犯人は単独」
「きわめて大柄にて
 顔に大きなキズがある…っと」


 なぜか警視庁で事故の報告をしている。よほど社会的な反響が大きかったのだろう。
 犯人の特徴を聞くと、警察官の誰もが花山を思い出してしまう。
 まあ、しかたがない。
 素手で電車をひっくり返す男という時点で、容疑者になってしまう。

 一方、花山組構成員の田中KEN (17)は上京してきた友人とダベっていた。
 ふむ。"KEN"ですか。不動GENに匹敵するハイセンスな名前だ。

 KENは前回自分より後輩ができたとよろこんでいた。
 17歳ということは、作中時間は前回と同じだろうか。
 花山出所時だから、バキ本編の四年前になる。花山はまだ15歳で、刃牙は13歳だ。

 KENの友人は三好政康(17)という。
 強い男を嗅ぎわけるというペットの犬を連れている。
 三好の顔にはアザがある。ペット同伴や、アザのことを考えるとなにかヤッカイなことに巻き込まれていそうだ。
 モチは餅屋ということで、花山組の旧友をたずねたのだろうか。
 花山組なら仁義にあつく、実力もある。まかせて安心だ。

 今回のタイトルT-レックスはティラノサウルス・レックスの略で、最大の肉食恐竜だ。
 最強かどうかに関しては諸説あるので、保留とする。

 そのティラノサウルスは痛風持ちだったらしい(トリビアの泉で 73へぇ獲得)。
 痛風ってのは、とにかく痛い。風が吹いただけで痛いと言う。
 そして、痛みがつづくと心がすさむ。
 ティラノサウルスが凶暴だったのも、痛みのせいだろうか。
 医者がそんな話をする。

 そう、国立中央病院の医者が突然登場だ。
 二年前までDr.鎬の患者だった男が、病院から抜け出したらしい。
 思いっきり、マズイ話だ。ティラノサウルスの話をしている場合ではない。

 ところで、この病院は「こくりつ」なのか「くにたち」なのか、ちょっと不明だ。
 まあ「こくりつ」の中央病院ってのも変だから、「くにたち」にある病院としておこう。
 「くにたち」にはJR中央線が通っている。そう、脱線事故を起こした電車だ。
 これは偶然ではない。


「登倉竜士……」

「オレ等の地元じゃ超有名(メジャー)だな…」
「当時 最強にして最悪の13才(ためどし)ッ!!」


 ふたたび田中KENッ!
 同郷の友人と昔話に花を咲かせている。
「レックス」と呼ばれていた恐怖の13歳がいたらしい。
 その姿は、浦安鉄筋家族の花園垣のごとくだ。
 体がでかすぎるのに、ムリしてランドセルを背負っているから大変な事になっている。

 そのレックスが東京にいるとKENの友人・三好はいうのだった。
 どうでもいいが、この二人もフケすぎて17に見えない。


 はだしの脱走者レックス登倉はやっぱり暴れていた。
 車を二台たたき壊し、一人の男に迫っている。
 男はナイフを出しているが、手が震えっぱなしだ。
 武器は持っていても、迫力負けしている。

「ず〜〜っと痛ェんだよ
 痛風…」
「だから頼むよ……なッ…なッ」
「グサッとやればさ…
 この痛みが…」
「少しは紛れるかもしんねェ…」


 この男が、登倉竜士(属性:痛風・変態)かッ!
 その顔にはすさまじい傷痕があった。こやつもまた、疵面(スカーフェイス)だ。
 鋭利な刃物で斬られた花山のキズとはちがい、太くえぐられたような疵をしている。

 さっきの言動からすると、痛風を忘れるために自分で刻んだのかもしれない。
 ガラスの破片などを使用(つか)って、ガリガリ削っていそうだ。
 コイツは強力な変態だ。

 登倉竜士の登場で、疵面にも強敵(いろいろな意味で)出現となった。
 ついに花山が本気の拳を握るのか!?


「5名の死刑囚の他に もう一名―――――」
「この東京(まち)を騒がせとる男がいると言う事じゃ」


 登場するは、東京ドーム地下を支配する徳川光成と、いまだに疵面のアントニオ猪狩だ!
 さすがに、暴力沙汰の情報キャッチがはやい。さっそく、第六の脱走者を狙いはじめたか。
 役者はそろい、裏街道の喧嘩バトルが始まろうとしている。
 今回、花山の出番はなかったが、気にするな。

 ところで、年代はバキ本編と同じみたいだ。
 そうなると、田中KENの年齢がちょっと問題になりそうな気がする。
 まあ、細かいことは気にするな。

 あと、最近のチャンピオンREDは「こいこい7」のオマケがやたらとついている。
 今回はフィギュア(写真)だ。
 まあ、これもあまり気にしないでおこう。


 これで、疵面も本格バトルに突入しそうだ。
 二話で登場したヒロシや、前回登場した上田光輝とは、変態度がちがう。破壊力も違う。
 登倉が花山を狙いはじめたら、ヒロシと上田が犠牲になりそうな予感がする。
 こいつらには、加藤・末堂のような活躍をして欲しい。


 今回の花山は中央線脱線事故の容疑者になったようだ。
 まあ、スペック逮捕のときに花山は警察に恩を売っているし、いきなり逮捕はされないだろう。
 それに、むやみに人の乗り物をひっくり返したりしない人格者(自分の車に対してはする)だという評判もあるはずだ。
 とりあえず、誤認逮捕の心配はしなくてもいいと思う。


 誤解を受けたのは、花山のキズが原因だ。
 刃牙キャラが一般人に目撃されると、どう表現されるのだろう。
 以下、ちょっと妄想する。

・ 背は普通か少し低めで、ちょっとアレな女の子をお姫様だっこしていました。(範馬刃牙)
・ とにかく、ふんどしのお化けでした(花山)
・ 黒人なんだけど、筋肉でできた達磨というか。(オリバ)
・「キャオラ」って奇声だけは覚えています(加藤か刃牙)
・ 水の上を歩いていました。(烈海王)
・ アントニオ猪狩だ。本物だよ!(特殊メイクの偽者かもしれない)
・ ムエタイの5冠王チャモアンかよッッ。神様じゃねぇかッッ(なんで知ってんの? グラップラー刃牙24巻・212話)
・ 人間じゃねェ……。はひいィィ〜〜〜〜。(夜叉猿)

 容貌というより、言動が変なんだ。コイツら。
by とら


2005年6月18日(8号)
第6撃 願い

 ああっ…………、虎眼先生がッッッ!
 笑っておられる! 本当の衝撃はそこじゃないんだけど。
 巻頭の「シグルイ」が衝撃の展開だったので、疵面のインパクトがちょっと弱まった。

 話をもどして、前回登場した三好政康(17)がふたたび登場する。
 強い男を嗅ぎわけるペットの犬が微反応していた。
 目の前にいるのは神心会四段の猛者であり、こいつに反応しているようだ。
 花山組の田中KEN(17)にはまったく反応していなかったので、なかなか優れたセンサーを備えている。

 範馬勇次郎の前に立つと、この犬は震えることもできずに失禁しそうだ。
 むしろショック死か?
 失禁という反応は刃牙にこそ似合う。
 でも、刃牙が相手だと、なんか犬もバカにしそうだ。

 目前の神心会門下生はコンクリート塀を蹴りで砕いてみせる。
 コンクリート塀だって他人の財産なのに容赦なく砕く暴力性はまさに戦闘集団・神心会の証だ。
 全世界に百万の門下を抱える組織だから、本気になると日本の警察よりもこわい。

「アンタじゃ」
「やっぱムリだ…」


 三好がいきなり暴言をはいた。
 このセリフは地下最大トーナメントで、範馬刃牙が神心会の加藤に言ったセリフとして名高い。
 神心会の門下生に言ってはならないセリフだ。
 知ってか知らずか、三好政康は神心会の逆鱗に触れたァ〜〜〜〜ッ!
 って、ことは無いか。加藤だし。

 犬が突然暴れだす。
 神心会門下生とは反応がまるで違う。尻に火がついたかのようにのたうって、一目散に逃げ出した。
 怪物がやってきたのだ。
 コンクリート塀をまたいで乗りこえ、ソイツはやってきた。
 推定身長は四メートルか?
 ティラノサウルスのような巨体をもつ男―――――― 登倉竜士だった。

 しかし、デカすぎ。
 きっとコイツは象なみのウンコするんだろうな。便器大爆発ですよ。
 体格もハンパじゃないが、人相の悪さもただごとではない。

「オワッ!!」

 怖いもんには慣れているはずの神心会門下生も思わず攻撃してしまう。
 顔を見せただけで、蹴られるなんて不憫な人だ。
 きっと登倉竜士は怪獣映画をみると怪獣のほうに感情移入しちゃうんだろうな。
 怪獣は悪くないのに一方的に攻撃されてかわいそうだ。

 だが、レックスの二つ名をもつ登倉竜士は人間相手の技術であるローキックにビクともしない。
 恐竜が蚊に刺されたていどのダメージしか感じていないのだろう。
 まったく意にかいさず登倉竜士は神心会門下生の腕をつかむ。
 神心会門下生の手首より、登倉竜士の指二本のほうが太い。ハンパじゃないデカさだ。

 そのデカい手で神心会門下生をブン投げた。
 回転してはるか天空を飛んでいく。

「う――わ 飛んだな〜〜〜」

 三好は他人事のように感心している。
 そんなノンキな場面では無い。しかし、登倉とつきあっているから常人とは感情のレベルが違うのだろう。
 きっと三好は小学生のころから、いつも空飛ぶ人を見てきたのだろう。
 それはもう、浦安鉄筋家族の世界でございます。

 どうも三好は登倉に強者を紹介しているようだ。
 病院を脱走した戸倉から呼び出されたと思われる。
 顔の傷跡は登倉にからまれてついたのだろう。
 ならば、花山組の田中KENに会っていたのは、強者についての情報を仕入れるためだ。
 当然、花山の話も出るはず。次の目標は、花山薫と見た。

 そして、予想通り花山組の前でふたりは待ち伏せる。
 太陽が沈んでネオンが輝くころに、その男はやってくる。
 最強の喧嘩ヤクザ・花山薫だ。

(これを…… 作った人…!!!)

 登倉の手にはトランプの束を指でちぎったものがあった。
 花山にしかできない試し斬りというヤツだ。
 どこでトランプを手に入れたのやら。そして、ずいぶん大事そうに持っている。

 どこで手に入れたかというと、田中KEN経由しか考えられない。
 しかし、都合よく田中KENがトランプを持っているものだろうか?
 花山組の構成員は、宣伝ビラ代わりにちぎったトランプを持ち歩いているのかもしれない。
 そうなると、トランプをちぎるのは花山にとって日々の日課なのだろう。
 変なところで組長も忙しいようだ。

「ハナヤマァァッ!!」

 レックス登倉が吼えた。
 いまだに裸足のままで花山の前に姿をあらわす。
 その巨体と異様な姿に、さすがの花山組もうろたえる。

「し」「知り合いっすか?」

「いや…」


 でも、若頭の木崎と花山はけっこう普通に会話していた。
 こういう場合、組長襲撃を警戒して花山の前に人間の盾を作る。
 花山でも鉄砲で撃たれたら死ぬかもしれない。
 でも、花山の体にある銃痕のことを考えれば、花山薫無敵神話が組員の間にはありそうだ。
 範馬勇次郎だって麻酔銃の一斉射撃の前に不覚を取ったことがあるんだから、過信は禁物だと思うけど。

「さがってろ」

 花山組では、組長が身をていして組員を守る。
 登倉のただならぬ様子を見て、花山がメガネを外した。
 今度こそ、花山薫が本気の拳を握るのか!?

「助けてくれェ」
(その…… 拳で…ッ)
(俺(お)ィらの痛風(いたみ)を………
 消してくれ…ッッ!!!)


 敗北を知りたい死刑囚のように、戸倉竜士が向かっていく。
 両者とも防御をまったく考えていない者同士だ。
 壮絶な殴り合いになるだろう。
 戦いは次号へッ!

 次回からついに本格バトルとなりそうだ。
 三好の犬が途中でいなくなったため、事前の戦力予想ができない。
 登倉は花山のトランプをありがたがっている。この時点で少なくとも握力だけは花山のほうが上だろう。

 そして、戦いに対する心構えに差がある。
 死刑囚と同じく後ろ向きな登倉は、明日を見ないで戦いにかける花山の覚悟にかなわないだろう。
 花山の侠客(おとこ)立ちに対抗して、竜(ドラゴン)立ちとかを出してみろ!
by とら


2005年7月19日(9号)
第7撃 風

 恐竜大戦勃発ッ!
 レックス vs. 花山薫の二大怪獣が激突する。コイツは夏休み向けの超大作だ。
 ………バトルがはじまる前に、組長を守るべく花山組のみなさんが壁を作る。
 ふところに右手を突っ込んで銃刀法違反になりそうなものを出しそうな人もいるし、危険な状態だ。

 しかし、組員を制して花山が前に出る。
 レックス・戸倉はあきらかに素手だ。クツだってはいていない。
 素手に対する武器の使用や多人数での攻撃は、花山の美学が許さないのだろう。
 百万人の神心会門下生を総動員してひとりの死刑囚を追いつめた愚地克巳とはとことん主義が違っている。
 克巳のほうがヤクザらしい行動だよなぁ。

 花山がメガネを外し、前に出る。
 戸倉は止まらない。
 二匹の怪物が近づいていく。そして、戸倉のデカさが改めてワカるのだった。

「ヌイグルミだよ」
「入ってんだよあん中に」


 通行人に「中の人疑惑」を持たれるほどレックス戸倉はデカかった。
 そりゃ、小学生のときから浦安鉄筋家族に出演できそうなサイズだったのだ。
 あの花山だって中に入れそうな大きさだ。
 間違いなく身長2mを超えているだろう。ガーレンよりデカいッッ! (不吉なオドロキかた)

 戦闘開始の合図とばかりに花山がメガネを落とす。
 ガンマンが撃ちあう合図にコインを投げるかのようだ。
 このメガネが地についた瞬間、勝負開始ッ! とはならなかった。
 レックス戸倉がメガネをキャッチしたのだ。

 ヌイグルミを着ているのに、なんという速度だ。
 いや、中の人などいないのだが。
 どちらにしても、巨体でありながらすばやい動きをする。
 巨体でありながらムーンサルトを決めたガーレンにも匹敵する身の軽さだ。

「おっこちるトコだった メガネ」

 戸倉くんは、どうも天然のようだ。
 尊敬する花山のメガネを心配して、普通に好意で動いたらしい。
 意外な展開に花山も組員もあっけにとられる。
 戸倉は暴れさえしなければ、イイ人なのかもしれない。

「い゛っ」
「でェ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ!!!」


 突風が吹いた。
 風が吹いても痛い。
 それが戸倉の病状である――――――

 痛 風

 戸倉の病気が効果音として響きわたる。
 そして、痛みに狂った戸倉が拳をふりまわす。
 花山の鼻に、アゴに、容赦の無い暴風が吹き荒れる。
 思わず突撃しようとする組員を止めたのは、打たれる花山であった。

 右手で組員を制止し、もう一方は使わない。
 つねに無防備主義の花山薫である。
 あらゆる打撃を受けて立つ。
 全ての打撃を防御せずに受けながら、花山は微動だにしない。
 体のサイズでは負けていても、パワーは互角か。

 そして、反撃だ。
 殴ってきた戸倉の拳をつかみとる。
 花山の指が戸倉の拳に喰いこみ離さない。

 メキ メキ メキ メキ メキ

「あ…」
「あッ」
「あッ」


 無敵の握力で肉と骨がきしんで悲鳴を上げる。
 恐竜・戸倉が苦痛の声を漏らした。
 さらに花山は、空いた手で戸倉の頬をつかむ。そのまま顔の肉を引っぱがしそうな勢いだ。

(ああ……)
(……ナンカ 痛みが………
 …相殺(まぎ)れて…………)


 戸倉が望んでいた、痛みを消す激痛ッ!
 望みの痛みを花山が与えてくれたのだ。
 なんか、つねられた痛みに満足して田舎に帰ったりしちゃいそうだ。
 戸倉的には任務終了なんだし、これ以上あばれる必要ないですよ。
 でも、もうちょっと暴れないと話が進まない。
 更なる痛みの解放を目指して戸倉は暴れるのだろうか?

 今のところ、花山が圧倒している。
 戸倉のパンチは効いていない。しかし、花山の握力は戸倉に痛みを与えている。
 このまま進めば花山が本気の拳を握るまでもなく勝利するだろう。
 しかし、戸倉の本気がどれほどのものかまだわからない。
 戸倉には中央線を脱線させたパワーがある。
 なにか、特殊な技を持っているかもしれない。まだ油断はできない。


・ おまけ
 シグルイ 第二十五景 戯れ(たはむれ)

 今回の「シグルイ」は微妙にワカりにくかったので、ちょっと整理してみる。
 ネタバレゆえに、コミックス派の方々はご注意を。
 コミックスの喜びを引き替えにされても、このようなネタバレが御覧になりたいと仰せられるか?



 今回のワカりにくさは思わせぶりなナレーションに原因がある。
『(前略) 夕雲(せきうん)が』
『親に疎まれ捨てられたのは』
『髷が結えぬからではない』


 ナレーションはこのあと話を変える。
 捨てられた理由が続くべきだがまったく無い。まるっきり痴呆のようなナレーションだ。
 答えらしきものは四ページ後に出現する。

『そのために己自身が捨て石となることを主君に命じられたなら』
『よろこんで仰せつかるのが士(さむらい)の本懐であるが』
『夕雲には理解できないのだ』


 この文章は微妙に前後から浮いている(あくまで微妙。普通に読もうと思えば読める)。
 体毛が一切ない身体の異常性ではない。武家社会の通念に反する精神の異常性が問題らしい。
 精神が異質と言うほうが、肉体が異質と言うよりもキケンだ。
 行動を理解することも、予測することもできなくなるためである。
 ただし、次回でごく普通に捨てられた理由が出てくるかもしれない。

 どちらにしても、身体の異常性で社会から迫害を受けている点では、虎眼先生も夕雲も同類である。
 両者の心に理解や共感という感情が浮かんでも良いではないか。
 もっとも、二人ともキチガっている可能性が高いので無理な話なのかもしれない。


 今回、伊良子清玄を目視した虎眼先生は、全てを忘れて斬りに行くのではないかと心配だった。
 勢いあまって検校さままで三枚におろす絵が脳裏に浮かぶほどの心配であった。
 しかし、ちゃんと試合を続けるあたり分別が残っているようだ。
 とりあえず、伊良子清玄の横にいる いくへの未練はまったく無いらしい。まったく眼中に無し。


 ところで、この時代は人の呼び方の基準が現代とはかなり違う。
 中国の影響で「名前」を呼ぶのは基本的に失礼になるのだ。
 伊良子清玄は仕置き編に入ってから急に「清玄」と呼び捨てにされていて、周囲の態度が激変しているのがわかる。

 ちなみに、虎眼先生の「虎眼」は実名ではなく号だろう。柳生宗厳も号である「石舟斎」のほうが有名だ。
 流派に本名をつけるのはかなり穏便でない。
 流派名を口にした人に対して「先生の名を呼ぶとは無礼!」と言って片っ端から斬らねばならぬ。ちと、物騒だ。
 うまく流派継承ができたら、次の人は二代目虎眼と号すのかもしれない。

「検校さまお抱えの剣士ゆえ
 先生は躊躇しておられる」


と牛股師範はおっしゃる。たしかに、頭蓋を砕いたりアゴを飛ばしたりするのに躊躇するわなぁ。
 当てて砕いたりすると「不作法」の謗りを受ける。あの折、恥をかかされた恨み(逆恨み)を忘れたりしないのだ。
 同じ場面になったら、いかに相手の面目をつぶしつつ、肉体をブッ壊すか。おう吐をもよおすような妄念で考え続けていたに違いない。
 積年の恨みを(赤の他人に)晴らしたあとの晴れ晴れした虎眼先生の笑顔は、処世術というより獣が牙むく行為なんだと思いました。
by とら


2005年8月19日(10号)
第8撃 重衝突

 戸倉レックス竜士は花山につねられて大喜びだ。
 通風の痛みを消すために、より大きな痛みを欲している。
 薬物に手を出さないのは健全な思考なのかもしれない。でも、やっぱり常人にはありえない発想だ。

 ついでに、レックスの肉も常人では考えられないほど柔らかい。
 一回転分ぐらいはひねられている。一般人ならとっくに切れているところだ。
 まるでゴム人間だ。むしろ、ゴム製のきぐるみを着ていそうだ。
 あんまり引っぱると、中の人が出てしまう。

 さらに激しく つねられて、ついに出血した。きぐるみ じゃなかったのだ。
 生きている証の流血だ。ところが戸倉は気持ちがいいという。
 戸倉は入院中も通風のため暴れまわっていた。
 PS2も置いてあるが、痛みを紛らわすことはできなかったようだ。
 そもそも、手がデカすぎてコントローラーなんて持てない。
 かえってストレスが溜まったことだろう。

 ついにゴムゴム戸倉の頬肉も限界をむかえた。
 引っぱりすぎて、ついにちぎれる。
 新たなる痛みによろこんだのか、戸倉が花山に強烈なボディーブローを打ちこむ。
 巨体の花山が垂直に打ちあがったッ!
 なんというパワーだ。

 しかし、胴廻し回転蹴りだってつかいこなす花山だ。宙に浮いてもあわてない。
 さりげなく、空中戦は得意なのだろう。あんまり飛ぶと組員が驚くので普段は控えていると思われる。
 きっちり足から着地すると、体勢を整えることなく右拳をふるった。
 感涙して無防備な戸倉にまともに当たる。今度は戸倉が吹っ飛ぶ。
 花山が垂直なら、戸倉は水平に飛んだ。
 だが、飛んだ先が悪かった。トラックのまん前だったのだ。

 戸倉がフロントガラスにぶち当たり、木っ端微塵にガラスが砕ける。
 しかし、レックス戸倉は砕けない。まさに恐竜並みのタフネスだ。
 砕けないどころか、戸倉はトラックを押し返して、ひっくり返した。
 このパワーは間違いなくスペック以上だ。
 機関銃の装備が必要と警察官に言われた、最凶死刑囚スペックを超える怪物なのか?

「効いた〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜……」
「パンチ 効いた〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ」


 うれしそうに戸倉がはしゃぐ。
 効いたといいながら、全然効いていなさそうな感じだ。
 しかし、戸倉にとって痛みを相殺するダメージは初めてなのだろう。

 普通に考えたらトラックにはねられたほうが痛そうな気がする。
 機械の痛みでは効果が無いのだろうか。やっぱ、人間力だな〜。
 五話で中央線をひっくり返したのは、痛みを消してくれなかったので八つ当たりをしたのだろう。

 お互い小手調べで打撃力と耐久力を見せ合ったというところだ。
 花山と戸倉が本気を出すとどういう闘いになるのだろう。
 単純な殴りあいで進むのは間違いない。
 それだけだと闘いが単調になるので、なんらかのギミックが必要だ。

 戦いはつねりからはじまった。
 次は打撃の応酬か?
 今回、吹っ飛びまくった二人なので、次回は巨漢同士の空中戦になるかもしれない。
 着地と同時に地震が起きそうな闘いだ。



・ シグルイ「第二十六景 約定」感想

 夕雲がなぜ『親に疎まれ捨てられた』のか、その理由が確定する。
 虎眼先生に打たれた夕雲の頭部は二倍にふくれ、左の眼から謎の液体が流れている。
 そして、形相が一変していた。
 一言で言うと「キシャ―――ッッ!」って感じになっている。
 立ち上がった夕雲の切先は、検校を向いていた。

『忠義を理解出来ぬ』
『夕雲の本性が剥き出しになっていたのだ』


 毎度、ワカりにくいナレーションをありがとうございます。
 本性むきだしになって、なんで検校を襲いますか?
 闘っている相手も、憎い相手も、横にいる虎眼先生ですよ。
 野獣になってスクール水着の美少女に襲いかかるならわかる。その本性、痛いほどわかる。
 しかし、遠くにいる上司を襲うというのはなんだろう。
 単に打たれて混乱しているだけではないかとも思ってしまう。

 本当のところ、夕雲は虎眼先生に勝てないことが骨にしみてわかったのだろう。
 もう、この人(剣鬼)とは闘いたくない。
 しかし、打たれた恨みは残っている。
 とりあえず、倒せそうな人を襲ってしまおう。そう考えたに違いない。

 夕雲が侍になれなかったのは、忠義を理解できなかったからだ。今回、確定した。
 えらい人に剣をむけるのはヤバイ。マジヤバイ。
 江戸時代で一番大事なのは国家の安定であり、次に藩主への忠誠で、一家の存続、自分の命だ。
 夕雲のような困った人がいると、一家断絶になったり、藩に迷惑をかけたりする。
 こりゃ、侍になれない。してはいけない。

 だが武家社会の反逆者(トリーズナー)夕雲は、蝉丸という名の中間により止められ殺される。
 蝉丸は伊良子にしたがっていた巨漢だ。全身に火傷したようなあとがある。
 手甲鉤という忍具を使っているので、忍びだろう。
 湯屋に刀を持ち込んだもの、蝉丸の仕業と思われる。

 もう一人の中間である友六は馬上筒をふところに忍ばせていたという鉄壁ぶりだった。
 火縄銃は点火しておかないと、撃てない。だから、馬上筒には火かついていたはずだ。
 火のついた火縄銃をふところに入れるのはどうかと。火傷するぞ。
 むしろ蝉丸はそれで火傷したのだろうか。


 夕雲が死んで虎眼先生のたわむれも終了した。
 検校と食事を取っている。
 でも、検校に酌をしている いくの姿を見て、めっちゃ不機嫌だ。
 ある意味、夕雲よりもキケンな虎眼先生だけに暴発するんじゃないかと心配でしょうがない。
 虎眼先生の場合、殺っちまっても乱心で片付くだろう。
 その辺、計算のうえで殺りそうで怖い。

 そのころ藤木と牛股師範は控えの間で食膳を前に座っていた。
 それこそ通夜の席のようだ。まったく手をつけていない。
 虎眼先生たちはウナギらしきものを食っているが、藤木たちの食事は安そうだ。

 安い服を着た藤木たちの前に、裃つけた伊良子が出てくる。
 虎眼先生が切れるのと、藤木と伊良子が闘い始めるのとどちらが早いのか勝負だ。
 伊良子は藤木たちに酒を浴びせかけたりと、挑発に余念が無い。
 実際に挑発するだけではなく、闘ってたおす自信が伊良子にはあるようだ。

 虎拳も速い。
 興津の抜き打ちを見極めた友六ですら、鮮明に見えぬ一撃だった。
 落とした徳利も空中で捕まえている。
 盲目とは思えない動きだ。
 伊良子は、どうやって空間を把握しているのだろう?
 音か、においか、第六感か?


 そして、一人しか使う者のない虎子の間にもどった藤木は、あやしげな文を発見する。
 藤木は、ただよう芳香から何者の文か悟った。
 さすが、妖刀・七町念仏の置かれていた刀架をなめて犯人を割り出した虎眼先生の弟子だ。
 とうぜん、手紙は伊良子のものだった。盲目なのに字も書けるのか? それとも代筆か?
 いずれにしても、一対一の決闘の申し出である。

 ついに、運命の刻がきてしまったのか?
 三年前、秋葉山で生まれた三匹の怪物たちにふたたび試練が訪れようとしている。
 藤木はいかに腕を失ったか。
 伊良子はいかに足を斬られたか。
 三重はなぜ伊良子を憎むようになったのか。
 運命の三叉路が交わろうとしている。
by とら


2005年9月17日(11号)
第9撃 本当の拳

 花山薫の拳はトラック激突よりも痛い。
 一発喰らった戸倉竜士はおおよろこびしている。
 読者的には戸倉の反応が痛い。やっぱ、狂い気味だなぁ。

「効いたあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!」

 四ページにわたり、花山の打撃が効いたと戸倉が叫ぶ。
 バキ地下最大トーナメント決勝の決着シーン並みの大絶叫だ。
 でも、最初の攻防でここまでよろこんじゃってイイのだろうか?
 料理で言えば前菜とサラダを食べた時点で、感動のあまり絶叫しながら店を飛び出したようなものだ。
 デザートまで食べようよ。

「痛すぎて痛くないッ」

 いや、それは痛いのでは?
 その場にいる人たちは心の中でツッコんだ事だろう。
 戸倉はダメージがあると周囲の人たちにアピールしながらどこかへ走っていく。
 なんか、明日を見失っている感じだ。

 花山は路上に落ちたメガネをひろう。
 花山が戦闘に入るときは、メガネをはずす。
 となると、メガネを装備するのは戦闘終了の合図なのか?

 メガネを装備して知性派に変形した花山が、よくワカらない方向へ突っ走ろうとしている戸倉に向かう。
 すると、戸倉はいきなりダッシュをかけ、一気に花山の横を通りすぎた!
 ………アレッ?

 戸倉がどこかへ走り去っても、花山は動じない。
 いなくなった戸倉を振り返りもしないで進んでいく。
 まさか、花山まで明日を見失って迷走なのか?
 と、思ったら向かう先は戸倉をつれてきた三好政康(17)のもとだった。

 花山は、三好が戸倉を連れてきたことを知らないはずだ。
 人通りの多い場所で、いきなり襲われたのにも関わらず、三好の存在に気がついたのだろうか?
 するどい観察眼だ。
 人を動かす組長として、この観察眼は武器になる。拳だけが花山の武器ではないらしい。

 戸倉と一緒にいても、さほどビビらなかった三好が激震している。
 加藤がサンドバックに詰めこまれた神心会クラスの激震だ。
 歯だけではなく、骨全体がかみ合っているように震えている。
 振動は花山がふところに手を入れたとき、頂点に達した。

 匕首かッ!? 鉄砲かッ!?
 三好の脳裏にヤクザ必携のアイテムが浮かぶ。
 しかし、花山の非武装は美学にまで高められているので、武器という線は弱い。
 可能性があるのは、武器を三好にわたして「これで俺と互角」状態にしてから、喧嘩をはじめるぐらいだ。
 三好は、そこまで読んでふるえているのか?
 だが、花山が取り出し、投げつけたのは名刺だった。

 渋谷区新堀一四三五の二五
 二代目 花山組
 組長 花山薫

「何時(いつ)でもいい…」
「次は…………」
「連絡しろ」


 組長はいつでもどこでも喧嘩上等なのだった。
 ただし、予約(アポ)無しは、カンベンな。
 今宵の組長はどことなく紳士でござった。

 ちなみに「渋谷区新堀」は架空の地名だ。
 都内なら江戸川区東大和市に「新堀」がある。

 そこに戸倉が突進してきた。
 差し出した左手の中には、ダンゴムシが三匹いたッ!
 ダンゴ三兄弟?? び、微妙なネタだ…、微妙すぎるッッッ!?
 よくわからんが、痛みから解放された戸倉はダンゴ虫を見つけて、花山の横をダッシュしたらしい。
 ダンゴムシ マニアなのか?

 ますます、微妙な戸倉レックスであった。
 やっぱり、哺乳類と爬虫類では脳の構造が違うのか。
 恐竜は二心室二心房らしいから心臓(ハート)は同じらしいんだけど。
 心は通じても、会話は成立しないのかも。
 しかし、闘う者どうしでなにか通じたのか、花山は戸倉の頭を軽くつかんで去っていく。

(本当に強い拳って……)
(あんなに… 優しいんだ…)


 花山ハンドを受けて(いろんな意味で)暴れまわっていた戸倉がおとなしくなる。
 吹く風も、今は痛みに変わらない。
 慈悲の巨拳が巨獣を癒したのだ。
 次号へつづく。

 って、これで終わり?
 サラダ出たところで店が閉まっちゃった………




・ シグルイ「第二十七景 月光」感想

 今回は牛股師範が主役だ。
『検校屋敷での魔の宴より六日後』
 師の命により牛股師範は他流の道場を訪問していた。

 怨敵・伊良子清玄が姿を見せた以上、師の身辺を守ることが必要だ。
 しかし、虎眼先生はその辺の優先順位が曖昧になっている。
 こういう上司をもつと大変だ。

 でも、検校さまの屋敷に火をかけ皆殺しにしろと命じられなかっただけましだ。
 さすがの虎眼先生もそこまで曖昧ではない。
 自分の手で直接やりたいだけなのかもしれないけど。

 他流の道場といっても無差別にまわるわけではない。
「無双」の二文字が入っている道場だけを狙っているのだ。
 この時点でページをめくらずとも、理由が読める。
 無双とは「ふたつと無い」の意味だ。頂点はひとつ。二つもいらん。
 前漢・建国の名将である韓信は「國士無雙」と絶賛された。天下第一の勇者というわけだ。

 虎眼先生は濃尾無双をうたっていた。
 圏内に「無双」が二人いるのは許せないのだ。それはもう、理不尽に許さなかったに違いない。
 なにしろ身辺警護より優先している。まさに狂人の妄念だッ!
 これには読者おおよろこび。道場主は大迷惑だ。

 ちなみに「濃尾」は美濃と尾張をあわせた範囲だ。織田信長と斉藤道三の領地ですな。
 現代風にいうと、美濃は岐阜県県の中部・南部、尾張は愛知県西部になる。

 牛股師範は、さすがに道場門下生を血祭りに上げるような無作法はしない。
 笑顔をみせて相手を引きつらせてから、巨大木刀「かじき」を振って、指導の名目で礼金を受け取る。

『無双許し虎参りと恐れられた』
『若き日の虎眼の路銀調達法であった』


 すさまじい収入源だ。
 むろん金を払わないと、道場ごと伊達にされてしまうのだろう。
 剣名を上げつつ生活費も稼げる。一石二鳥の仕事だ。
 濃尾から逃げだす兵法家も多かっただろうな、こりゃ。


 濃尾の無双系道場に挨拶しまくった牛股師範は、帰り道で奇襲に会う。
 前回、夕雲を倒した蝉丸と三名の手練が刺客である。

 だが、牛股師範は虎眼流印可を受けた剣士だ。
 三間(5.4m)の間合いも流れの握りでものともしない。
 そして、「虎眼流 星流れ」だ。
 背後から襲う蝉丸を振り返りざま一閃し、首を跳ね飛ばした。

 手元の握りを見せなかったのがポイントだろう。
「星流れ」の構えだと、剣の軌道が一定になるから剣筋を読まれやすい。
 手元を見せなければ、そういう読みは通用しないのだ。
 さすが、牛股師範は磐石である。

 そう思っていると、蝉丸の死体が動いて、鉤爪が牛股師範の足に刺さる。
(毒か!)

 な、な、な、なんだってェ〜〜〜〜〜〜〜ッッ!

 牛股師範大ピンチのまま次回へつづく。

 そして、満月である今夜は藤木源之助と伊良子清玄の果たし合いの日でもある。
 もしかして、この日に虎眼流の人たちが全員退場してしまうのか?
 虎眼先生の死因なんて老衰以外には考えられないけど、弟子の死にショックを受けてポックリ行く可能性もある。
 次回は、より無残になる予感が消えない。


 オマケで、シグルイ原作の『駿河城御前試合』復刊の情報がのっている。
 カバーは「シグルイ」イラスト!
 一巻58、59ページの見開きをもとにしているようです。
 原作はすでに買ったけど、こりゃ買いなおすか。
by とら


2005年10月19日(12号)
第10撃 巨拳、地球を釣る!!

 戸倉竜士の話はマジに終わってしまいました。
 正しい意味で、暴風雨のような男だった。なんか荒らすだけ荒らして去っていったような。
 そのうちに再登場するのだろうか?
 というわけで新展開だ。今度は海釣り編である。

 船上で飲むビールは一味ちがうらしい。
 いつもは度数の高そうな酒を好む花山であるが、今日はビールを飲んでいる。
 高い位置から瀧のように口中へ流しこむ。
 あいかわらずワイルドな飲みっぷりだ。

 さすがに白スーツの上着は着ていないし、ネクタイもしていない。
 しかし、シャツとズボンはあいかわらずだ。
 衣服は常にダンディズムを基調としている。花山はアロハシャツを着たりしないんだろうな。
 ジャック範馬は寝るときにパジャマを着ている。花山はなにを着て寝るのだろうか。

 で、飲み終わったビール缶を超握力で小さな球状に圧縮する。
 か、環境に優しいッッ!
 ゴミの体積を減らすとは、なんとエコロジーな。
 戸倉を癒した拳は地球も癒すのか。


 特訓をしない喧嘩の天才・花山薫は、釣りの才能もあったらしい。
 次々と大物を釣りあげていく。
 ごつい指で、エサの小エビを針につけるなど意外と器用だ。
 花山は、ウイスキーを飲むときにフタをあけずにビンを折るっている。
 不器用だからだと思っていたけど、精密動作性も高いらしい。

 ここで異常事態が発生する。
 花山の針が海底に引っかかったのだ。
 男・花山薫は針を外しに海へ飛びこむ。
 衣装はとうぜん、フンドシと背中の侠客立ちだ。
 海だろうと山だろうとビル中だろうと、スーツの下はフンドシと侠客立ちである。
 夏は涼しく、冬は寒い。たぎる漢(おとこ)にとって、すごしやすい衣装なのだ。

 同船者が見とれているスキに、花山が海へ飛びこむ。
 その時、海に異変が生じていたことを花山は知らない。
 もちろん、フンドシのオバケが飛びこんだのは大異変だ。
 しかし、それ以外にも変化があった。
 サメ………である。

 そうとは知らず、釣り針救出をミッションコンプリートさせた花山が海面へあがっていく。
 だが、そこには10m以上あるホホジロサメが待ちかまえていた。
 地上最強の生物・範馬勇次郎も未体験と思われる水中バトルがはじまろうとしている。

 水中戦や空中戦は、ファンの間でたまに出てくる話題だ。
 地上最強の生物・範馬勇次郎は「水中の敵に勝てるのか?」、また「空飛ぶ敵に勝てるのか?」
 空はともかく、水中でも勇次郎は勝つだろうとファンは期待している。
 でも常識を超えた筋肉密度を持っているから、水には浮かないかもしれない。
 筋肉を鍛え上げた体操選手も水には浮かないらしいのだから、勇次郎ならなおさらだろう。

 勇次郎と同じぐらい浮きそうもない花山薫が、水中の敵と戦う。
 花山の場合は「侠客立ち」の背後霊が背負っている鐘ごとついていそうで、とても重そうだ。
 でも、水より軽いアルコールを多くとっているから意外と浮力が高いのかもしれない。
 それに、ゼロ距離でもつかえる握撃がある。
 実は、水中戦は得意なのかもしれない。


 サメは恐竜時代からほとんど進化しないで生き残ってきた。
 恐竜時代に体の構造が完成してしまったのだ。  サメという生物は一億と二千年前から愛してる、じゃなくて通過している!(注:年代はテキトウです)
 サメは烈海王よりも伝統派だ。
 脳が恐竜なみの戸倉竜士を癒し殺した奇跡の拳は魚に通用するのか?
 でも、魚類と友情を結ぶのはかなりムリだと思う。




・ シグルイ「第27景 双竜」感想
 先月予告のあった「サイバーシグルイ」とは、このことか!
 どうも連載でイラストを載せていくようだ。
『その動力源は「呪い」や「恨み」といった精神(サイコ)エネルギーに酷似しているという。』
 この解説文のワケのわからなさが、シグルイの真骨頂だ!
 今回は『源之助』と『無明』(伊良子タイプ)がイラスト化している。
 文章に『無残』の名が出ているので、次回はメタルの華が登場するのだろうか。


 本編は虎眼流の聖地・秋葉山昆獄神社で準備に余念のない藤木源之助からはじまる。
 源之助もアキバ系だな。
 酔っ払いは伊達にして帰すべし。
 すくたれ者のエルメス伊良子は、鍛錬によって到達し得る領域を明らかに凌ぐ跳躍で電車の網棚へ逃げるのだった。

 源之助は右手をふって抜き打ちの準備をしているようだ。
 指が手首にくっつくほど関節が柔らかい。まるで柳龍光のようだ(不吉ポイント+1)。
 虎拳で人を打ち倒せる頑強な関節でありながら、柔軟に動くこともできる。
 剛柔あわせもった肉体を作り上げたのだ。

 左手の親指で鍔をはじいて、剣を鞘から抜き飛ばし、柄を右手の人差し指と中指で挟んで斬りつける。
 源之助の新技だろうか。
 右手を柄本にもっていかなくても抜けるので、相手の意表をつくことができる技だ。
 盲人の伊良子清玄には関係ないかもしれないが、気にするな。

 伊良子にたおされた虎眼流高弟たちは、みな一刀のもとにで斬られていた。
 つまり、抜き合わせてからの一刀で決着がつくと源之助は見ているのだろう。
 技の正体は不明だが、何度も打ち合う闘いにならないと予想できる。
 入念に技を見直しているのは、最初の一撃にすべてを賭けるためだ。

 だが、やってきたのは検校屋敷の友六であった。
 友六は火縄の短筒を構えている。すでに着火済みだ。
 銃を持った相手にこれほど接近させたのは源之助の不覚といえる。
 伊良子の性根がどれほど腐り毒をもっている。それを見誤った源之助の不覚であった。

 銃に狙われた無双虎眼流は、どう動くか。
 別に子細なし。胸すわって進むなり。
 動じることなく源之助はすすむ。
 友六にとって、源之助はキケンなけものだ。
 一発で仕留めねば、反撃で斃(たお)される。
 一発で仕留めるなら、狙いは頭と心臓だ。

 だが藤木は右肩を前にした半身になる。
 右腕によって、敵の標的から心臓をかくす。
 これで狙われるのは頭部のみとなった。

 森村誠一『新撰組』に、新撰組隊士が寝るとき右腕を下にするか、上にするか議論したという場面がある。
 敵に襲われたとき、右手で刀を抜いてとっさに防ぐには右腕を上にして寝たほうがいい。
 敵に襲われて斬りつけられても、右腕を下にしていれば利き腕が残るからまだ戦える。
 さて、どっちが有効だろうという話だ。
 ちなみに「葉隠」では刀を抱いて右腕を下にして寝ろとある。「武士に左腕は不要」派だ。

 源之助は右を前にしている。とっさの防御を優先したのだろう。
 相手が銃弾ではいたしかたなし。
 つうか、脳髄飛び散っては右腕が無事でも、ちょっとこまる。


 友六の火縄が火を噴く!
 弾丸はまっすぐに眉間へッ!
 しかし、源之助はとっさに刀でガードしていた。

『源之助が弾丸を避け得たのは』
『強運と』
『攻撃部位を』
『頭部に特定することに成功したためであろう』


 虎眼流剣士はけっこう頭脳派だ。
 前回の牛股師範も 機転がきいていた。
 毎日虎眼先生の状態を見極め、機転をきかさねば生きてゆけぬ生活が虎眼流剣士を鍛えたのだろう。
 まさに常住坐臥が、生死をわける戦いの場である。

 逃げる友六を源之助は伸びすぎる『流れ』で斬り飛ばす。
 いくら何でも伸びすぎだろうとツッコむ余裕はない。
 源之助は目前の戦いに勝利した。
 しかし、自分がほんらい居るべき岩本家を離れている時点で敗北しているのだ。
 戦術で勝って戦略で負けた状態である。

 源之助が守るべき岩本家に、伊良子といくがやって来た。
 牛股師範はおらす、源之助もいない。
 血の惨劇を止めることができるのは、誰だ。
 というより、一番暴れて巻き添え被害者を生みそうなのは虎眼先生その人、という気もします。
 源之助が帰ってきたら、高弟をボリボリむさぼり喰っていそうで怖い。
by とら


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