餓狼伝 (VOL.151〜160)

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2005年7月26日(16号)
餓狼伝 Vol.151

『古武道炸裂ゥゥゥ――――ッッ』

 遠野春行の放った右拳を畑幸吉が捕らえて、極めた。
 そのまま体を落とし、一気にヒジ関節を破壊する!

 ………前回は立ったまま関節技を極めていたような?
 ええと、アレだ、角度だ。カメラの角度が違うから立っていたように見えたんだ。
 体を落とすほうが技をかけやすい。自分の体重も武器にできるので単純な腕力よりも効果が高いのだ。

 そして、遠野のヒジは完璧に外れた。
 遠野の連打に耐てつかんだ一瞬のスキである。畑のガマン勝ちというところか。
 逆に、遠野はちょっと攻撃に集中しすぎだった。右の攻撃が大振りになってスキが生まれたのかもしれない。
 畑が、あえて打撃戦を挑んだように見えた。しかし、あれは挑発だったのだろう。

『立っているッ』
『畑はすでに臨戦態勢だッッ』


 遠野の左腕を破壊した感触はあるはずだ。しかし、畑は油断せずに構えをとっている。
 スポーツマンではなく武道家の態度だ。決して油断をしない。
 しかし、折った畑も苦しそうに息を吐いている。
 捕まえるまでに、相手の打撃につきあったのだ。けっこう殴られている。

 肉体的な疲労だけではなく、精神的ストレスもありそうだ。
 人の関節を破壊する感覚は、気持ちのいいものでは無いのだろう。
 原作版・餓狼伝の梶原も長田の腕を折ったことがトラウマになり、丹波の骨を折れなかったと告白している。
 え、なに? 「長田が梶原の腕を折った」のマチガイじゃないかって?
 マチガイではない。断じてマチガイではないのだッ!
 広い宇宙には、梶原が長田の腕を折る世界も存在する。これは事実だッ!

「一本ッ」


 遠野は大丈夫といっているが、チョビヒゲ審判は戦闘不能と判断した。
 まあ、普通は速攻で病院だ。
 本人はヤル気でも外れた腕を攻撃されたら激痛で戦うどころではない。
 K-1 WORLD GP 2002決勝戦でもジェロム・レ・バンナが折れた腕を何度も蹴られて敗北している。参考
 あれは、範馬刃牙クラスの変態でないと耐えられそうもない。
 見ているだけで痛そうだ。

 審判の一本勝ちを聞き、初めて畑は構えをといた。
 念のため今までは用心していたようだ。
 ふかぶかと一礼して、畑は去っていく。
 簡単に背を向けたのは、ちょっと油断している気もする。
 まあ、両者の距離を考えて安全だと判断したのだろう。

「畑ッ」
「俺と戦えッ」
「こんなのは決着じゃないぞッッ」


 右腕が破壊されているのに遠野はひたすら元気だった。
 勝った畑もすごいけど、負けた遠野の勝負根性もすごい。
 畑が微妙な表情をしているのは、遠野の根性にすこしビビっているのかもしれない。
 これが試合ではなく、街頭ルールであれば勝負はあるいは……。

 負けてなお、最強の信仰を見せつける狂気の空手集団・北辰会館であった。
 腕折られても続行を望むような門下生がゴロゴロしているのだろう。マジでこわい。
 そして、それを奨励しているのが頂点に立つ松尾象山だろう。
 松尾象山が姫川の腕を折ったときの発言がこうだ。

「おめェさんギブアップもしていなけりゃ悲鳴も聞いちゃいねェ」

 北辰会館では腕が折れても、悲鳴を上げなければ負けではないらしい。

 ちなみに梶原は、丹波に折られたとき悲鳴を上げたから負け。


 次の試合がはじまる前に、恒例となった引木インタビューだ。
 あなたが出てきてから梶原の解説が激減しています。
 梶原はリング上の居場所を奪われた。今度はリング下の居場所も奪われてしまうのか。
 長田のセコンドというリング横の居場所だけは奪われないで欲しい。
 藤巻が出てくると、それすら奪われる可能性もあるけど。

「イチバン早いでしょ」

 日本拳法の椎野一重が、引木へ直突きを実演してみせた。
 195cm・123kgの巨漢である。拳も引木の顔と同じぐらいにデカい。
 理屈ではなく、迫力で一撃必殺の威力があるとわかる拳であった。

「標的への距離も」
「そして到達時間もイチバン短い」
「だから直突(ちょくづ)きなのです」


 総合格闘技である日本拳法が誇る直突きだった。
 スピードがあり破壊力もある直突きは実に合理的な攻撃方法だ。
 椎野は直突き一発で一回戦を勝利している。
 ボクシングもできるカルロス・バジーレですら殴り合いを避けたほどの迫力を持っているらしい。

「近代の格闘技で最も進化したパンチを持つのが」
「ボクシングです」
「そのボクシングで最もKO率の高いパンチ」
「それは左フックです」


 引木があえて反論をする。
 実際にボクシングでは左フックのKOが多いらしい。
「最強格闘技の科学」吉福康郎(著)では、ストレートとフック・アッパーの威力を実測している。結果、威力はストレートのほうが高い。
 フックの高いKO率は、当たる角度と飛んでくる角度の結果だと考察されている。
  「武道の科学」高橋華王(著)では計算値からフックのほうがストレートより威力があるとしている。今回は実測値を信用した。)

 つまり、攻撃は単純な威力だけでは測定できない部分があるのだ。
 人間の目は正面についているので、まっすぐな攻撃は対応しやすいのだろう。
 逆に、視界の端になる横からの攻撃には反応しにくいと思われる。

 椎野は引木の左フック有利説に対し、実際に左フックを打ってみせる。
 まず、右を出し。次に左フックだ。
 椎野は左フックには2アクションが必要だという。

 ヒジを曲げて打つフックは、ヒジを伸ばすストレートに比べ射程が短い。
 そのため、フック単体では使えないということなのだろう。
 ジャブなどで相手を牽制して、近づく必要がある。
 ボクシングに不可欠なコンビネーションが、必殺の左フックを生むのだ。

 武道は自分の安全を第一に考える。
 武器を隠し持っているかもしれない相手と接触するのは、なるべく避けたい。
 そのためにはリーチのある攻撃で、一撃必殺を狙うのが上策だ。
 射程距離の短いフックは、理想からやや外れた攻撃になる。

「最初でキメる」
「初動が即 決着につながる」
「動く時は終わらせる時」


 さすが武道家だ。一撃必殺の心構えを持っている。
 たぶん、「『ブッ殺す』と心の中で思ったならッ! その時スデに行動は終わっているんだッ!」というプロシュート兄貴な心構えをしているのだろう。
 最速・最短で打つ直突きはまさに武道家にとって最適の攻撃手段だ。
 打つと心の中で思ったならッ、その時スデにブラジル人は倒れているのだッ!
 ロシア人でも可だ。大相撲にはたぶん通用しない。

 なんでもイイんですが、この大会は武道家がゴロゴロしている。
 ルールはスポーツだが、スポーツマンのほうが少ない。
「倒す必要はありません。技術で、ポイントで勝てばいいんです」などと言うスポーツマンは存在しないのか?
 まあ、北辰会館でそういうこと言ったら、松尾象山にお仕置きされるのだろう。


 椎野の覚悟をみた引木と相棒は、対戦相手であるレスリング・畑中恒三のところへ行く。
 太い首とつぶれた耳を持つ畑中は、二本束ねた柔道の帯を引きちぎって見せた。
 恐るべき怪力である。

 肉体のみで闘う伝統の格闘技でありスポーツがレスリングである。
 レスリングは、古代オリンピックでも行われていた由緒ある競技だ。
 鍛え上げられた肉体が生み出す力は全格闘技中でもトップクラスだろう。
 武道家・椎野に対する、スポーツマン・畑中だ。

 レスリングは ただの力比べではない。綿密な研究に基づいた科学でもある。
 筋肉も関節も自分の体重も利用して、技にするのがレスリングだ。
 日本拳法が総合格闘技であっても、組んでしまえばレスリングには勝てない。

 そして、レスリングでは相手に組みつくことも競技のうちだ。相手の背後をとるだけでポイントが入る。
 総合格闘技では組み技系のタックルをめぐる攻防が試合を決めることも多い。
 最速の直突きであっても、油断はできない。


 次回の試合は「拳(フィスト) vs. 関節技(ツイスト)であり、「武道 vs. スポーツ」だ。
 畑 vs. 遠野の裏対決といえる。
 これでレスリングの畑中が勝つと、次の試合は畑と畑中の組み技対決になる。
 畑と畑中で非常にややこしい。

 畑中と椎野では、打撃・組み技ありの総合ルールになれているのは椎野だ。
 打撃も組み技も経験しているのは大きい。
 どちらかといえば、椎野が有利だろう。

 それにしても、「畑 vs. 遠野」と「畑中 vs. 椎野」で組み合わせの名前まで似ているな。
by とら


2005年8月9日(17号)
餓狼伝 Vol.152

 レスリング畑中恒三が見せる驚異のパフォーマンスだ!
 二本に束ねた帯を腕力だけで引き裂く。
 引く力こそレスリングの力だ。
 ハラショー畑中! ハラショー レスリング!
 ウラー(バンザイ) 古代オリンピック!

「こんなことがよォ」
「レスリングだ なんて言うつもりはねェよ」
「こんなこと………」
「強ええってこととは関係ねェよ」


 常人には帯を素手でちぎったりできない。しかし、この力は強さと関係ないという。
 力こそ強さの根源である板垣世界の住人とは思えない発現だ。
 じゃあ、ヘリコプターを引っぱって鍛えたオリバの立場はいったい。
 むしろ、特訓に付きあわされたパイロットの立場はいったい。
 家に帰って子供に「今日はどんなお仕事したの?」って聞かれたら、どうすりゃいいんだ。

「何時間も 何時間も 基本稽古って呼ばれる反復練習?
「わざわざ真冬を選んでやる 滝浴びの行?
「手足の形がひねくれるまで叩きまくって 局部鍛錬?
「そしてオヤクソクの試し割り?
「俺の眼から見たらさ そんな訓練――――」
「強くなるっちゅーか」
「強く見せるためのパフォーマンス」

 畑中め、ダブー中のタブーに触れやがった。
 爆弾発言に引木もおどろきつつ、うれしそうだ。
 うむ、この対決はネタになるぞ。記者魂が炎を上げている。

 畑中の視点はスポーツのものだ。
 武道の視点で見れば反復練習・瀧浴び・局部鍛錬・試し割りにも意味がある。

 反復練習は型(フォーム)を覚え維持するのに必要だ。
 瀧浴びは精神の鍛錬になる。突然やってくる危機に対しても動じない精神力と自信を鍛えあげる。
 局部鍛錬は危機に対する肉体の鍛錬だ。素手で人や物を殴っても壊れないように鍛える。
 試し割りには、何者も傷付けることなく得られる上達の実感があると劉海王さんも言っています
 武術としては、ちゃんと意味があるのだ。

「俺らはさ 真冬の吹雪に氷の上でレスリングをして見せるとかさ」
「ブリッジで巨大なドラム缶を投げて見せることはねェんだよ」


 個人的には、すごく見たい。
 真冬の吹雪に氷の上でレスリングッ! 常人にはできない発想だ。
 畑中はパフォーマンスを嫌っているようだけど、帯をちぎるなど才能はバツグンだ。
 進む道をかえていれば、すごい芸人になれたのに。芸人かよ。

 シベリアブリザードの中でトロッコを引くとか、当時は感動したパフォーマンスもかすんで見えるような演出力だ。
 アナコンダと異種格闘技したって追いつかない。
 氷上レスリングで格闘新世紀を作ることができるかもしれないぞ。
 畑中は嫌がるだろうけど。

「トコトンまで肉体を追い込んでさ」
「無駄なんか絶対なくってさ」
「見せる要素なんか一っつもなくってさ」
強くなる! 一切合切 それ一点のみに向けられててさ」


 畑中はとことんスポーツマンだった。
 スポーツは、突然喧嘩を売られたときに対処するための物ではない。
 強さを見せつける必要も無い。試合で結果を出せばいいのだ。
 健康のためにやるスポーツは別だけど。
 才能あるものが試合に向けて努力して、限界まで己を高めるのがスポーツだ。

 肉体を限界まで鍛えると言う点では武道よりもスポーツのほうがきびしい。
 たいていのプロスポーツは年をとると体力が落ちて引退することになる。
 武道家はムダにムダなところを鍛えている。畑中にはそう見えるんだろう。
 老人になってもできる運動なんて、たかが知れている。スポーツマンは短く激しく燃え尽きるのだ。

「そんなレスリングを喧嘩に使ったらどーなる?」
「試してみたかった実は」


 畑中は自分の実力を武道の世界でも試して見たかったようだ。
 ルールの中で鍛えて競うスポーツマンだから、ルールの無い闘いにも憧れているのだろう。
 でも、今からやるのはちゃんと審判もルールも存在する試合だ。
 総責任者がああいう人だから、ルール無用のデスマッチみたいな印象になっているけど。


 椎野 一重(日本拳法 195cm・123kg)
 畑中 恒三(レスリング 181センチ・105キロ)


 ふたりの戦士がにらみ合う。
 椎野は背筋を伸ばし打撃の構えだ。
 畑中は腰を落とす。タックルの狙っているのだろうか?

『片や』
『日本拳法 全日本選手権5連覇ッ』
『片や』
『フリースタイル レスリング 全日本選手権2度ッ』
『世界選手権 優勝1度ッ 準優勝1度ッ』

『共に経歴に遜色はなしッッ』
『総合格闘技の老舗 日本拳法
   VS.
 人類最古のスポーツ レスリング』


 超異色の対決をアナウンサーが盛りあげる。
 経歴に差は無いようだけど、世界で実績を残している畑中のほうが知名度は上だろう。
 歴史もレスリングのほうが上だ。素っ裸でプレイしてもわいせつ物ちんれつ罪に問われなかった時代から続いているスポーツなのだ。
 しかし、総合ルールでは椎野が有利だろう。打撃の経験値が段違いだ。
 椎野の打撃が決まるかどうかが、試合のカギだろう。

「2人のやろうとしていることは」
「まるで正反対だ」


 餓狼伝に欠かせぬ解説者となった引木がすかさず説明する。
 解説のライバルだった梶原も、今は背景にも出てこない。
 引木の一人勝ちだ。

 武道家として試合にのぞむ椎野と、スポーツマンとして試合に挑む畑中の対決だ。
 椎野は武道家として、一撃必殺を理想とし、過剰な鍛錬を積んできたのだろう。
 畑中はスポーツマンとして、己の強さの限界に挑み、完璧な肉体を作ってきた。
 どちらも熱く重い決意でここまで来た。

 そして、両者が椎野の間合いに入った。
 出るか最短最速の直突きがッ!?
 畑中は組みつくことができるのか!?
 まて、次号!


 闘いの駆け引きがどうなるかは予想がつかないが、試合そのものは椎野有利だろう。
 総合ルールになれているというのが大きい。
 それ以上に覚悟の量で椎野のほうが上だろう。
 椎野は、殴り殴られる痛みと恐怖に耐える鍛錬をしている武術家なのだ。

 アマレス選手がどのていど打撃の痛みに耐えられるのかがポイントだ。
 負けたら自決ぐらいの覚悟で試合に出ているのかどうか。
 柔道選手は金メダルを取れなかったら日本の土を踏めないと思うらしい。まさに切腹級の覚悟が必要だ。
 レスリング選手にそこまでの執念と覚悟があるのか。
 そして、武道家・椎野の覚悟はどれほどの物だろうか。
 志誠館の人間凶器である片岡クラスなら腕が折れても相手を倒しそうなのだが。
 でも、普通の大会みたいに、腕が折れたら負けだからなぁ…。
by とら


2005年8月23日(18号)
餓狼伝 Vol.153

 (フィスト) vs. 関節技(ツイスト)の闘いだ!
 打撃を狙うは日本拳法の椎野一重であり、組みつきを狙うはレスリングの畑中恒三である。
 異質な二人がジリジリと近づいていく。
 試合を制すのは、拳か!? 関節技か!?

 ここで、過去の試合をふりかえってみる。
 拳と関節技(組み技)が闘う試合はかなり多い。
 今までの22試合のうち9試合が拳 vs. 関節技だった。
 全試合の45%が拳 vs. 関節技の闘いだ。これでも空手の大会だと言い張るのがすごい。
 もちろん松尾象山がそう言ったんならしょうがない。

  一回戦 結果
●加山明(拳)vs. 長田弘(関節技)○
●加納武志(拳)vs. 井野康生(関節技)○
●立脇如水(拳)vs. 鞍馬彦一(関節技)○
○遠野春行(拳)vs. アレクセイ・コッホ(関節技)●
●宮戸裕希(拳)vs. 畑幸吉(関節技)○
○椎名一重(拳)vs. カルロス・バジーレ(関節技)●
●竹俊介(拳)vs. 畑中恒三(関節技)○
●八木正美(拳)vs. 仁科行男(関節技)○

 ドルゴスはモンゴル相撲出身だが空手選手であり打撃で闘ったので、数に入れなかった。
 カルロス・バジーレは空手選手だがタックルを使ったので関節技とした。

  二回戦 結果
●安原健次(拳)vs. 鞍馬彦一(関節技)○
●遠野春行(拳)vs. 畑幸吉(関節技)○

 一目でわかるが、拳の勝率20%と非常に低い。
 やはり、打撃系の選手にいきなり総合ルールをやらせるのがマズいのだろう。
 大会開始直後にルール変更するのが、ムチャなのだ。

 関節技陣で負けているのはロシア人とブラジル人だけだ。なんか、非常に説得力がある。
 噛ませ犬の三大産出国と言われるタイ・ロシア・ブラジルのうち二国だ。
 あらゆる有利な条件も帳消しにできる実力と不運を持っている。
 さらに、サンボとブラジリアン柔術という最凶の食い合わせを持ってきている。
 もう、スキしかないから、どこにツッコメばいいのかワカらない状態だ。

 今までの条件を整理する。
(1) 関節技は圧倒的に有利だ。
(2) ロシア人とブラジル人は負ける。

 つまり、打撃で闘う椎名はかなりヤバい。
 畑中の母親がロシア人で父方の祖母がブラジル人だという回想でも入らないかぎり、負けてしまいそうだ。
 丹波も観客席に逃げ出したくなるような不吉な展開に、椎名は打ち勝つことができるのか!?

 試合はすでに打撃の間合い寸前だ。
 いや、もう打てば当たる距離なのだろう。
 しかし、当たっても倒せない距離だ。
 組みつこうとしても、よけられる距離だ。
 両者、命をけずってでも、もう少し前進したいところだろう。
 この睨みあいを観客席の丹波文七も興味深く見ている。

「ああベクトルが真逆だ」
「中心軸から遠去けたい打撃系格闘技
 中心軸へ近付けるほど技を効果的に発揮できる組み技系格闘技」

 これが、「2人のやろうとしていることは」「まるで正反対だ」の正体だッ!
 シンプルに打撃と組み技のちがいだった。うーむ、いろいろ考えすぎてハズしたな。
 打撃と組み技となると、この試合は間合いが勝負を決めそうだ。

『あと一歩ッッ』
『共にあと一歩の距離で動けずにいるッッ』


 両者とも汗をながしながら、最後の一歩をふむことができない。
 真剣を持って対峙しているような緊張感だろう。
 ふみそこなえば、一撃できまる。
 打撃の間合いがもう少し伸びれば。
 椎名はそう思ったのだろうか。先に動いたのは、椎名だった。

『前蹴り……ッッ』

 そう、拳の間合いよりも長い、蹴りの間合いだ。
 直突きと同じくまっすぐ蹴りこむ前蹴りを椎名は放った。
 前蹴りなら突っ込んでこられても止めることができる。間合いを作ることのできる蹴りだ。

 しかし、先に動いたのはキケンだ。
 原作の餓狼伝には「膠着状態は、追いつめられたほうが先に動いて負ける」という法則がある。
 特に姫川の対戦相手とか。
 精神的に弱いと、ただ待つことに耐えられなくなるらしい。
 つまり、椎名は追いつめられているのか?

 椎名の蹴りと同時に畑中は動いていた。
 前進だ。突っ込む。
 もしかすると、打撃位置を前にずらそうと考えたのだろうか。
 蹴りが最高速度を出す前に、あえて当たる。
 当たりはするが、相手のベストな打撃ではない。なんとか耐えられるはずだ。
 そして、相手の中心軸へ近づく。

 ドキャッ

 畑中の腹へ、まともにヒットッ!
 前進する畑中の動きが止まった。相手の突進を止める蹴り、それが前蹴りだ。
 そして、畑中が止まった位置は拳の間合いだった。
 まさに好機だ。
 すかさず椎名が必殺の直突きを最短で、最速に、打ち込む!

 バカッ

 だが、カウンターだ。
 畑中が上体をかたむけながらフックを打った。
 ロシアンフック気味な一撃が椎名のこめかみに打ちこまれた。
 椎名の直突きはかすっただけだ。かすっただけで切れて出血しているが、ダメージは少ない。

『これを待っていたのか畑中アアアッッ』
『絶対の自信を持つ胴体を的にかけ―――――』


 胴を打たせたのはオトリだったのか?
 といっても、相手が胴を蹴ってくれるとは限らない。
 前蹴りが飛んできた瞬間、畑中は鍛えた体を信じて賭けに出たのだろう。
 そして、次弾の直突きをかわす。コンビネーションになっているからタイミングはとりやすい。
 カウンターのフックで相手を一瞬でも怯ませることができれば―――――

『とっ捕まえたアアアアッッ』

 ついに畑中は椎名の左腕をつかまえた。
 そして、一気に引く。
 捕まえるまでが勝負か。

 だが、椎名は終わっていなかった。
 左腕はつかまっているが、右拳は生きている。
 相手が引っぱるよりも速く、最短に、右拳を打ちこんだ。
 逆転の直突きが畑中の顔面に突きささるッ!

 この一撃で畑中の鼻から下の部分が陥没した。
 しかし、畑中は椎名の左腕を離さない。
 二本の帯を引きちぎる握力で椎名の左袖を握りしめ、そのままフッ飛ンだ。
 あわれ椎名の道着はビリビリに破れていく。そして、それが畑中最後の抵抗だった。

「一本ッッ」

 椎名の道着を破壊して一矢報いたものの、畑中はそのまま撃沈した。
 勝った椎名もおもわずヒザをつく。
 けっして楽な勝利ではなかったのだ。
 最後の一撃は、考えて打っていたら間に合わなかった。
 何時間も重ねた基本稽古から生まれた反射的な打撃だったのだろう。

 必殺の直突きをかわしたのは、相手をじっくり研究しベストをつくすスポーツマン・畑中の作戦による。
 つかまれても反撃できたのは、予期せぬ危機に対応する武道家・椎名の鍛練によるのだろう。
 まさに紙一重の勝利だったが、ここは打撃の椎名が勝利する。
 畑中は家系にロシア人かブラジル人がいないか調べたほうがよさそうだ。
 ロシアンフックっぽい攻撃からすると、ロシア人の血が混じっている可能性が高い。
 あのロシアンフックさえなければ………


 畑中は腕をつかまずに胴タックルをしていれば勝てたかもしれない。
 胴に喰らいつけば、相手が打てる打撃はほとんど無くなる。
 あとは倒しておしまいだ。

 そうしなかったのは、なれない打撃戦をしてすこし腰が引けていたのかもしれない。
 中心軸へ近づけるチャンスに、相手の末端である腕をつかんで引っぱったのは失敗だった。
 やはり、総合ルールに不慣れな部分が出てしまったのだろうか。

 胴タックルがムリなら、足へのタックルという選択肢もあった。
 これなら、打撃を喰らってもズボンとパンツを破りさって、精神的に勝てた。
 上だけ着て下すっぽんぽん というフェチズムの極み(参考:ヤマカムさん)で椎名は逃げていったことだろう。
 畑中は最大にして最後のチャンスを逃したロシア人だったのだ。
by とら


2005年9月13日(19号)
餓狼伝 Vol.154

 あらゆる格闘技の中でもっとも顔面を殴るものが、ボクシングだ。
 そして、顔どころか体にも当てないのが寸止めだ。
 寸止め空手の雄・神山徹が出陣する。
 出陣する前に準備体操だ。

 ちょっと動きがジジくさいのも神山さんの魅力の一つだ。
 準備運動というより、ラジオ体操の動きという気がする。
 中国後漢の医者である華佗は「五禽の戲」という虎鹿熊猿鳥の動きをマネた健康体操を考えた(「三国志 華佗伝」)。のちに「五禽の戲」が拳法になったという伝承がある。
 ラジオ体操もあと千年ぐらいすると拳法になっているかもしれない。
 名づけてラジオ拳だ。なんか未来感覚にあふれていて、ファンタスティックだ。

 神山さんは体がかたい。
 後で判明するが51歳という話だ。ちょっと関節がさびついているのかもしれない。
 一部の武術家は試合や練習前でも準備運動をしない。
 突発的に事故が起きた場合、準備体操をするヒマなど無い。
 準備運動をしないとできない動きでは、緊急時に対応できないのだ。
 普段からできる動きを身につける必要がある。

 逆に非日常の世界で競い合うスポーツは、限界ギリギリまで体を使うから準備体操が必要なのだろう。
 関節は少しでも大きく動かせるようにして、筋肉は最大の力を出せるようにする。
 体の限界に挑むから、スポーツ選手はケガや故障に泣かされるのだ。
 ケガをしないためにも準備運動は必要になる。

 この大会は時間も場所も決まっている。
 どちらかというと、スポーツ的な物だ。
 選手は体調をととのえ、相手を研究して戦いに向かう。
 いろいろ思うところがあって、神山さんもなれない準備体操をやっているのだろう。

 神山さんが準備体操をしているとヒゲメガネのジャーナリスト・引木がやってくる。
 仕事とはいえ、この人たちはマメです。
 まあ、半分異常は趣味なんだろう。いつも楽しげに取材している。

「わたしゃ この柔軟体操ってやつが…ハハ」
「大の苦手で……」


 神山さんがいきなり弱点を告白した。
 周囲には選手や関係者がいるのになんて大胆な。
 多少の弱点は気にしない大物だ。
 とりあえず、関節技には気をつけてください。

 サービス満点な神山さんは立位体前屈をしてみせる。
 指先は足首にもとどかない。神山さんは言葉どおり関節がかたいようだ。
 ならば、蹴り技が苦手なのだろうか?
 とりあえず、上段蹴りはないと考えてもよさそうだ。
 もしかすると、体がかたいフリをしているという可能性もあるけど。

 引木にヘビー級のプロボクサーを相手にしても、当てないつもりかと問われ、神山は口ごもる。
 当てるつもりなのか? 当てないつもりなのか?
 本人も決心していないのかもしれない。
 けっきょく答えることなく、神山さんは試合に向かう。


 神山は異様な気配を感じとった。
 思わずそちらに視線を向けてしまうほど、強い気配だった。

『その漢(おとこ)は―――――――――』
『黒かった』
『シャツも』
『ズボンも』
『靴も』
『そして恐らくは――― 下着も』


 鉄の皮膚を持った男だった。
 首のボタンも、手首のボタンも、全部しめている。
 会場のスミにある暗闇の中に、男はひそんでいた。
 闇の空手家、久我重明である。

 グレート巽ですら一目置く実力者である。
 また、鞍馬彦一に天誅を喰らわし、読者の喝采を浴びた男だ。
 FAWと北辰館が五対五の試合をするとき、FAW側から出場するとの内部情報がある。
 グレート巽のつてで、久我さんは会場に潜入したのだろうか。
 同じ空手家として神山とは知り合いのようだ。

「このサディストが」

 時節の挨拶もなしに、いきなり久我重明が斬りこんだ。
 口元が上がっているので、一応笑っているようだが、内容は暴言である。
 不快感から言ったのではなく、好意的な感情を持ちつつ神山さんを「サディスト」と呼んだらしい。
 むしろ、ほめ言葉なのか?

「大の男が………」
「最もダメージを受けるやり方を選択(えら)んでやがる」


 二年前の九月、神山さんは寸止めの連発で大の男を泣かせた。
 肉体ではなく、精神に深い傷を負わせる「寸止め殺法」だ。
 凶器のような男である久我重明も、神山さんを認めているらしい。
 神山さんも若いころは「絶対寸止め無しの神山」などと恐れられていたのだろうか。

 無言になった久我さんが近づきはじめる。
 足取りに緊張はなく、普通の歩き方だ。
 だが、久我重明がなんの意味もなく間合いに入ることは無い。
 神山さんも久我重明のキケン度は十分理解している。

「久我さん………」
「およしなさい」


 真剣な表情で神山はいう。
 だが、おそれや怒りの表情は無い。精神的動揺は皆無だ。
 さすがベテランである。修羅場の経験度がまるでちがう。

 いきなり、久我の拳がはしった。
 神山は頭をふってかわし、カウンターの右拳を打つ。
 その拳は久我の手の平で受け止められていた。……いたのか?

 打撃音は無かった。
 神山さんは、最後まで打ちこんだのだろうか?
 当てるつもりがあったのだろうか?

 久我重明の口が開いた。鉄の皮膚に刃物で切れこみが入ったかのような開き方だ。
 表情がごくわずかしか出てこない。
 人を倒すときも、表情が変わらない人だ。
 会話するときだって、まったく変わらない。

「神山よ」
「当ててやれ」
「俺のように優しく……」


 精神に苦痛を与えず最短で敵をたおす久我重明には、彼なりの慈悲があるらしい。
 逆に、最短で敵を倒せるはずの神山さんが回り道をしているのが気に入らないのだろう。
 神山の行動は、久我重明の美学から反している。
 久我さんはもしかすると鍋奉行かもしれない。
 食材を入れる順番にも美学があるんですよ。たぶん。


 キャッチボールをするような間合いで、チャック・ルイスはパンチングミットを叩いていた。
 スポーツマンらしく試合前のウォーミングアップに余念がない。
 うっすらと汗をかいて、十分に体があたたまっている。
 すぐにでも体の限界までカッ飛ばせる状態なのだろう。

 ルイスは対戦相手を念のために確認する。
 今頃するな。おそすぎる。
 でも、ルイスの場合は完全に自分のスタイルを完成させているので、相手が誰であろうとベストショットを叩き込むだけなのだろう。
 相手がムエタイだろうがロシア人だろうが、同じように倒すだけだ。
 ただ、ムエタイやロシア人が倒れるのは同じでも、倒れ方が非常に個性的だったりする。

 しかし、今度の相手は51歳の神山徹である。
 ムエタイとはちがう。
 それでも、ルイスは同じ練習を繰りかえす。
 相手が誰であろうと、自分の信じるベストを尽くすのみだ。
 油断も妥協もない、現役のヘビー級ボクサーであった。
 こいつは、強敵だ。

(当てるのか)
(当てぬのか)


 そして、試合が始まろうとしている。
 舞台に向かう神山さんは悩んでいるようだ。
 なぜ、そこまで当てることに悩むのだろう?
 過去に、拳を当てて人を殺めたことでもあるのだろうか?

 神山さんが、殺人経験のある暗黒空手家だったのなら、久我重明とのつきあいも理解できる。
 そういえば松尾象山も「俺(おい)らのカワイイ弟子ィ殺すつもりかよ」と言っていた。
 ヤバい拳であることにマチガイは無いようだ。

 久我さんは、神山さんを闇の世界へ呼び込もうとしているのだろうか?
 神山さんが拳を当てたとき、すべての真実があきらかになる。
 そして、暗黒面に堕ちた神山改め鬼山が誕生するのかもしれない。


 神山の苦悩も気になるが、ルイスの射程距離をどう攻略するのかも気になる。
 相手は、自分の身長より長い間合いから攻撃してくる。
 よけて反撃する前に、敵の第二撃が飛んできそうだ。
 こうなると、飛んでくる拳を拳で迎撃するか、捕まえて関節技を狙うか。反撃するのは難しそうだ。

 仮に丹波がルイスのジャブに虎王を合わせても、足で頭をロックする前に逃げられてしまいそうだ。
 そのまま空中から落下する丹波の姿は、さぞみじめだろうな。
by とら


2005年9月27日(20号)
餓狼伝 Vol.155

 ヘヴィ級ボクシング VS. 伝等派空手ッッッ!
 射程距離五メートルの現役ボクサーと、当てずに勝利する51歳の達人が激突する。
 普通に考えれば、世界を舞台に闘っている現役ボクサーのチャック・ルイスが勝利するだろう。
 大会のルールがボクシングに近いものルイス有利の根拠となる。
 顔面をグローブで殴った経験はマチガイなく大会No.1だ。

 しかし、当てない男・神山徹もタダ者ではない。
 夢枕獏の小説『獅子の門』からゲスト出演している暗黒空手の使い手・久我重明の知り合いなのだ。
 久我さんも一目置いているようすなので、神山さんもどこかに闇を持っているのだろう。
 キケン度はルイスより上かもしれない。
 若いころの神山さんは、死の淵寸前で寸止めする寸止め殺しの神山と恐れられていたかもしれない。

 神山徹(伝統派空手 175cm・74kg)
 チャック・ルイス(ボクシング 198cm・95kg)

 近代と古代、直接打撃と寸止め、西洋と東洋ッ!
 とにかく対蹠的な二人の闘いがはじまろうとしている。

「はじめいッ」

 審判の合図と同時にルイスが跳躍をはじめる。
 足のバネをいかし、最大最速で敵に飛びこんでいくのがルイスのスタイルだ。
 距離はおおよそ五メートルだが、ルイスにとっては十分に届く距離である。

「ほう……」
(届くか………… この距離で)


 まだ構えもとっていないが、神山さんはルイスの射程距離を理解している。
 理解してなお 構えをとらないのはこの距離だったら防御できる自信があるのだろう。
 ノーガードの神山さんを見てもルイスは動かない。
 届いても当てることはできない。ルイスは神山さんを強敵と認識しているのだろう。

 なぜルイスは前進しないのだろうか。
 相手が構えているならともかく、ノーガードなのだ。
 神山さんの誘いかもしれないが、すこし間合いを詰めてようすを見るのは悪い作戦ではないはずだ。
 しかし、ルイスは動かない。いや、正確には動けなかったのだ。

(俺ガ コノ小サナ カラテノイベントニ期待シタノハ)
(正ニ コレダッ)
(コンナ………
 ライト級(ウエイト)カ ウェルター級(ウエイト)ノ骨格シカ 持タヌ コノ男ガ)
(俺ト同ジ距離ヲ持ツ!)


 なんと、神山さんも長距離射程の持ち主だったのだ!
 両者ともに間合いに入っているのでうかつな動きが出来ないようだ。
 キャッチボールするような距離でありながら、両者は膠着状態に入っている。

 ふと、神山さんが天井の照明を見上げた。
 つられてルイスが視線を上げる。
 相手が視線を動かすと、つい追ってしまう。
 これは視線によるフェイントだ。

 ルイスが視線を動かした瞬間、神山さんの上半身が消えた。
 そして、走るッ!

 バババババ

 低い位置から神山さんがせまっていく。
 まるで潜行する潜水艦のような突撃だ。
 あっという間にルイスのふところに飛び込み、右拳を放つ!

 バシュッ

 だが、ジャブでカウンターを取られたッ!
 射程距離だけではない。
 最速の拳がジャブなのだ。
 虚をつかれ、間合いに入られても拳の速度で逆転できる。これがボクシングだ。

 神山さんは鼻血を出して後方へさがる。
 一撃で眼がゆれている。しかし、ダウンはしない。
 上半身が吹っ飛びそうな勢いでカウンターを喰らったが、ダメージは少ないようだ。
 寸止めのつもりで打ったため、踏みこみが浅かったのだろうか。

 遠距離両用のジャブをはなつルイス有利で次回へつづく。
 神山さんは、拳を当てるのだろうか。
 そもそも、当たるのか!?


 神山さんも長距離攻撃ができたようだ。
 ただ、ルイスとは理合(技の原理)がかなりちがう。
 神山さんが攻撃するさい、上半身が消えて下半身は動いていなかった。
 これは上半身を動作の起点にしているということだ。
 つまり、地面を蹴って飛び込む下半身重視のルイスとは、正反対の動きになる。

 また、間合いに飛びこむときも様子がちがう。
 ルイスはジャンプして飛びこんでいた。
 後ろ足は浮いて前足で着地している。勢いを体ごとぶつけているのだ。
 イメージ的には、後ろ足でアクセルをかけて、前足で急ブレーキをかける。
 行き場がなくなったエネルギーは上半身に移り、パンチ力に変わるのだ。

 少年サンデーで連載しているフィギュアスケート漫画「ブリザードアクセル」で、ジャンプのコツは急にブレーキをかけることで滑っていた勢いをジャンプに変えるとあった。
 人体運用の基本というのは格闘技でもフィギュアスケートでも同じらしい。

 しかし、神山さんの攻撃はちがう。
 前足が浮いていて、後ろ足が地面についているのだ。
 これは、ふつうに歩くときの足運びだ。
 古流武道の技術なのだろうか?


 近代格闘技では筋肉が生み出す力を重視する。
 筋肉の力は鍛えやすいし、力も大きい。効率のいいエネルギーの発生方法だ。

 近代格闘技があまり気にしていない技術に、自分の体重を利用した力というものがある。
 たとえば、重心を前にかたむけることで、前向きの力に変える技術だ。
 重力にたよるので、物を落とすとき以上の速度は出ない(理論上)。
 また、体を沈めることでエネルギーが発生するので、体が沈みきってしまうと力は出せなくなる。
 この動きは、筋肉の動きになれた人が見ると予想外の動きに見えるらしい。
 そのため、虚をついた攻撃ができる。

 自重を利用した技術は、武術を主とする日本の身体操法の研究者である甲野善紀氏がいろいろと研究されているようです。
 甲野氏は、チャンピオンに記事を載せたこともあり、科学では説明できないと言っていました。
 甲野氏が知らないだけ(※)だと思いますが、自重を利用した運動は「動歩行」といってロボットのアシモなんかは実現できている。
 スケート靴がなぜすべるのか、科学では説明できない(仮説はある)のだ。
 アシモが歩くのも科学では説明できない現象なのかもしれない。
  (※ 甲野氏の著書「身体から革命を起こす」にロボットの動きに武術の動作を応用させたいと研究者が来たという話がある。知らないというより、忘れているのかも)


 話を神山さんにもどす。
 神山さんは上半身を倒すことで自重を利用して、倒れこむようにルイスの間合いに入ったのだろう。
 スピードはルイスの飛びこみより落ちる。
 しかし目線のフェイントも加えて、虚をついた攻撃になっている。
 うまくスキをついて、懐にはいることができた。
 移動はジャンプではなく、走るか歩く動きでせまっている。
 前足でブレーキをかけたりしないで、体当たりのように拳を打ちこむ予定だったのだろう。

 ルイスの攻撃は体格と筋力に頼った力+スピードのミサイル攻撃だ。
 神山さんの攻撃は相手のスキをついて静かにせまる潜水艦(サブマリン)攻撃だ。
 ただ、途中で見つかったので撃墜されてしまったけど。
 同じ方法が二度通用するかどうか微妙なところだし、次回は新たなる秘策が必要だと思う。


 もともと伝統派空手は連打をする格闘技ではない。
 競技の場合だと、ロングレンジから一気に飛び込んで一瞬で勝負が決まる。
 フェンシングにも負けない高速の攻防を一瞬でするのだ。
 ただ、その高速の攻撃であっても、ボクシングのジャブには及ばなかった。

 また打ち合いになると、連打をしない伝統派は不利だろう。
 多彩なコンビネーションと攻防一体の技術を持つボクシングは、打ち合いでこそ実力を発揮する。
 神山さんは長距離と接近戦のどちらに転んでも、不利なのだ。
 伝統派空手が、ものすごいピンチだ。
 常識的な作戦なら一撃離脱を心がけ、蹴りを有効に使える中間距離で闘いたい。
 でも、神山さんって体かたいから、蹴りが届かなかったりして。
by とら


2005年10月11日(21号)
餓狼伝 Vol.156

 寸止め空手の神山徹 vs. ボクシングのチャック・ルイスは初弾から出血した。
 神山さんがルイスのフトコロに飛びこむもののカウンターを喰らい鼻血がでる。
 だが、表情は冷静だ。ダメージは無いらしい。
 むしろ殴ったルイスのほうが汗を流していた。

 板垣ワールドにおいて、汗を流すのは敗北の予兆だ。
 出血もヤバいが、鼻血もヤバい。でも、ムエタイよりはマシだ。
 肉体にダメージを与えたものの精神的に追いつめられているのはルイスのほうらしい。

 鼻血を出したものの神山さんはダウンしなかった。ヒザもつかない。
 ゆえに試合続行だ。
 北辰会館ルールは今のところ明確に説明されていない。
 フルコンタクト系のルールに従うなら有効な打撃を与えて数秒のダウンを奪えば「一本」になる。
 立脇のケースを考えると、三秒以内に立てないとアウトだろうか。

(気付いた…………)
(ハズだが………)


 冷静に距離をとりながら神山さんは考える。
 鼻血はでたが思考はクリアなままだ。脳はゆれていない。
 深刻なダメージは受けていないようだ。
 そして、神山さんはなにを狙っていたのだろうか。

 ルイスは気づいたハズだった。
 実際、気がついたから汗を流している。
 つまり、前回ラストの攻防には神山さんのメッセージがこめられていたのだ。

「バカヤロウが……………」

 試合を見ている久我重明がひとりつぶやく。
 松尾象山の指に力が入る。
 我らが主人公・丹波文七が観客席でみてた。
 識者は先ほどの攻防の意味を気がついていたのだ。
 丹波も入れてもらって、一安心である。

 おそらく、さきほどの攻防には寸止めのトリックが隠されていたのだ。
 ダメージが少なかったのも、寸止めしたため踏みこみが浅かったのだろう。
 すべての謎は解けたのだ。

 神山さんが「ハズだが」と疑問に思っていたのは、それでもルイスがパンチを当ててきたためだろう。
 コイツちゃんと寸止めしてやったのワカっているのか? 空気読めねェなぁ〜。って感じだ。
 空気が読めない相手に神山さんはどう動くか?


 そして、第二局面がはじまる。
 ふたたび神山さんが動き出す。
 もう一度、寸止めを試す気だろうか。それとも、今度は当てるのか?
 一流同士の闘いだ。得られるチャンスは少ない。
 この状況下で寸止めをする余裕はあるのか!?

 小さな歩幅でしずかに動く。と思ったら跳躍した!
 前回の地面をはうような低軌道の動きとは逆だ。
 虚をつかれたルイスはあっさりと懐に入られてしまう。
 もはや、ストレートの間合いではない。フックやアッパーの間合いだ。
 この間合いだと体の小さな神山さんが有利になる。

 バッ

 慌てながらルイスは左アッパーをはなつ。
 だが空振りッ!
 神山さんの頭部はわずかに後方へ動き当たらない。
 同時に神山さんは左のハイキックを打っていた。
 体がかたいといったのは偽情報だったのかと疑いたくなるほどの高い打点だ。
 だが、当たらない。寸止めだ!

 ガッ


 寸止めに冷や汗をかきながら、ルイスは右フックを打ちこんだ。
 このフックは当たる。
 まともに喰らって、神山さんの頭部が跳ね上がった。

 吹っ飛び転びながらも、神山さんは起き上がる。
 片ヒザをついた状態だが、ダウンにはならないらしい。
 しかし、地面が揺れている。思わず片手をついてしまうほどだ。
 深刻なダメージがある。
 年齢や体格のことを考えると、もう一発受けたら立ちあがれないかもしれない。

「いやァァアァツッ」

『きッ…気合一閃(いっせん)ッッ』
『神山の眼が変化(かわ)ったァァッ』


 神山さんの表情が激変した。なにか思いつめたような表情だ。
 追いつめられ、隠していた牙をむきだしたのか。
 無言の圧力があるのか、ルイスの汗が増量中だ。
 いまだに攻撃を一発ももらっていないのに、ルイスの汗は増えつづけている。

 そして、丹波が笑う。姫川が笑う。松尾象山が笑う。
 三人が変化を感じ取って餓狼の笑みを浮かべるのだった。
 今度は久我さんが出てこない。久我さんの笑顔は貴重だから見せないのだろうか。
 最近の丹波は出番そのものが貴重だ。

 ちなみに丹波のコマはページのハジにある。
 裁断の関係で私のイブニングではかなり紙面から切れている。左目が半分ぐらいしか見えない。
 あと、主人公なのに姫川よりコマが小さい。
 松尾象山のコマに比べると、もっと小さい。
 なんか、現在の餓狼伝における力関係をそのままあらわしているようなサイズだ。
 丹波文七がなんだというのだ! やつは表紙でポーズをとるだけの番犬のような存在、なのか?

『何かが変化(かわ)るそッ』
『何かが起きてるぞ日本武道館!!!!』


 神山徹(51)が、ついに本気を出したかッ!
 つねに寸止めで闘う神山さんの謎が解ける瞬間がやってくるのか?
 久我さんも認める武道家・神山の真の実力はいかに?
 次回へつづく!


 前回とは違う接近方法をみせて、バリエーションの多さを見せつける神山さんであった。
 そして、今回も寸止め攻撃だ。
 しかし、ルイスは汗をかいているが心は折れない。
 すぐさま反撃して神山さんを追いこんでいる。

 空手家の志門とボクサーであるルイスでは、寸止めに対する反応がちがう。
 ボクシングは多数のパンチを打つコンビネーションを基本とする。
 倒すパンチとフェイントや牽制のパンチを混ぜるのがコンビネーションだ。
『はじめてのボクシング(渡辺政史)』という本によると、強く打つパンチは一度のコンビネーションで一回だけにするのが基本らしい。

 強いパンチは体重移動から生まれる。
 常に体重移動をしていないかぎり、強打は連続で打てない。
 やや強いパンチを数回打つか、一回だけ強いパンチを打って残りは弱いパンチを打つかという選択になる。

 一連の攻防のなかでパンチがいくつ当たったのかは重要ではない。
 本命のパンチが当たるかどうかが重要なのだ。
 寸止めではフェイントのパンチと変わらない。当たっても痛くないパンチと変わらないのだ。
 結果だけ見れば本命パンチを当てたのは自分だ。
 ルイスはそう思っているのかもしれない。

 ボクシングにも寸止めでおこなうマスボクシングという練習がある。
 しかし、一撃必殺の思想があるため寸止めで練習をしていた武術とは真剣度がちがう。
 木刀寸止めの剣術と、竹刀の剣道が対戦しているような展開だ。

 当てない寸止め空手には一撃必殺の理論がある。
 当てるボクシングにはダメージという実践がある。
 神山さんは、理論を実践できるか自分の体で証明しなくてはならない。
 木刀を止めずに当てるがごとく、拳をルイスに当てるのか。


 神山さんに反応しているのが、久我重明・松尾象山・丹波文七・姫川勉だ。
 みんな暗黒方面でも一流の人たちばかりだ。
 やはり若き日の神山さんはそうとうに黒い人だったのだろう。
 ただ、ジャーナリストの引木がその辺のことに言及していない。
 神山・暗黒空手伝説は、マスコミに伝わっていない情報だと思われる。

 最終的な問題として、神山さんのパンチが当たるとどうなるのかが気になる。
 暗黒空手(推測)なんだから、きっとすごい一撃だと思う。
 喰らうと三年後に死ぬのかもしれない。まるで柳の毒手のようにだ。
 でも、三年後に死んだとしても、現在の大会で勝てないと困る。
 SAGAったら普通に治りそうな感じがするのも問題だ。
by とら


2005年10月25日(22号)
餓狼伝 Vol.157

 神山さん……。こ…拳があたって無いんですけど…。
 寸止(と)めてんのよ。

 そんな、寸止め達人の神山徹さんが本気になったようだ。
 暗黒面の空手技が公共の場で炸裂するのか!?
 止めないどころか、当てちゃイケない場所を狙いそうだ。

『ふつうだぞッッ』
『神山がふつうに歩いているぞッッ』


 神山さんが無表情のまま前進する。
 汗をかいているのは、ノーダメージであるルイスのほうだ。
 構えもとらず ふつうに歩くことで、神山さんはルイスの虚をついたのだろうか。
 今回もあっさり拳の射程距離に入ってしまう。
 そして、神山さんの右腕が動いたッ!

 ガッ

『アッパーカットおおおッッ』


 だが、攻撃したのはルイスだった。
 またまた神山さんは出血してふっ飛ぶ。
 だが、倒れない。
 かろうじて左手でガードしていたようだ。

 神山さんには、ガードする余裕があった。
 殴ったルイスは、あいかわらず汗を流している。
 ダメージは受けたが、闘いの流れを支配しているのは神山さんのようだ。

 神山さんは、またもや寸止めをしたのだろうか。
 雰囲気が変わっても、まだ寸止めにこだわっている。
 なぜ、寸止めにこだわるのだろうか。
 今の状況だと、すなおに殴ったほうが ずっと楽なはずだ。
 あえて困難な道をすすむ神山さんの胸中やいかに。

『またしても歩き始めたッッ』
『これしか』
『この作戦しかないかのように』
『またしてもキケンな領域に――』
『足を踏み入れたアアッッ』


 なぜか おのれのスタイルに こだわり続ける神山さんであった。
 こだわりの男・神山さんは飲むコーヒーの銘柄も常にひとつなのだろうか。
 はいているパンツも全部おなじデザインかもしれない。
 パンツまで黒と決めている(というウワサの)久我重明とは、こだわり者同士で気があう仲間だったりして。
 いっしょにパンツを買いに行く姿は、ちょっと想像しにくい。

 こだわりのノーガード+ふつうに歩くで神山さんは前進する。
 またもやルイスのふところ深くに入った。
 あくまで静かな眼で相手を見る神山さんに対し、ルイスは汗を流すばかりだ。
 ここだけ見ると、圧倒しているのは神山さんのほうだ。

 神山さんの右足が動いた。右の前蹴りか。
 だが、蹴りは当たらない。
 神山さんの前蹴りは、すでに引かれていた。
 逆にルイスの左ストレートが神山さんを襲う。

 神山さんはこの攻撃も腕を十字にかまえてガードしていた。
 ふつうは攻撃をするとスキが生まれる。
 だが、神山さんは攻撃をしながらも致命的なスキを作らない。高度な技術をもっているのだ。
 神山さんの技術を理解したのか、殴ったルイスが動揺している。
 つうか、この人は動揺しっぱなしです。
 すかさず、神山さんが左拳を打ちこむ。
 だが、ルイスは右フックでカウンターに取る。

『めった打ちだあああああッッ』

 ボディブロー、左フック、アッパーとルイスはつぎつぎと打撃を打ちこむ。
 本来ボクサーは連打を得意とする。
 人体に打撃をあてつづけたボクシングは、倒れないために防御の技術も発達した。
 ゆえに、フェイントをおりまぜつつ相手の裏をかいて連打しないと、KOパンチが当たらないのだ。
 ルイスも、長距離狙撃のリードジャブより こういう連打のほうが得意なのかもしれない。

 今までのルイスは、神山さんの攻撃に反撃するかたちでパンチを出している。
 これは自分からパンチを出すのが怖いのだろうか。
 相手のスキにつけこんでカウンターを取るのはいいけど、自分から攻撃をしてスキを作りたくない。
 そんな心理が働いているのかもしれない。
 寸止め攻撃は、ルイスの心を地味だが確実に削っているようだ。

「やめやめやめッッ」

『おお…ッと』
『これは??』

 不可解な打撃戦にまったをかけた男がいた。
 右手を上げるだけで試合を止めることができる男だ。
 そんな男は一人しかいない。

『松尾象山 大会最高審判長が――――』
『惨劇に割って入ったアアッ』


 ついに最終兵器 館長が動いた!
 つうか、アナウンサーよ惨劇は言いすぎだ。
 松尾象山が出たからには、惨劇はこれから発生する。

 すべては松尾象山の仰せのままに。それが北辰会館のルールだ。
 松尾象山が北辰会館に与えている影響は審判のあわてっぷりをみればワカる。
 しつけられた犬よりも、従順な姿だ。
 犬は本能で相手の強さを感じるが、審判は本能にくわえて理性でも理解している。
 松尾象山がでてきたので、観客にも緊張が走った。
 お客さんもワカっていらっしゃる。

「ガンコ過ぎるぜ」
「神山さん」


 大量に鼻血をだし、神山さんの胸元は真っ赤にそまっている。
 ふつうに判断すると、一方的に神山さんが殴られていたように見える。
 しかし、超一流の武道家である松尾象山は、神山さんの闘いを理解していたのだ。
 神山さんの第一試合も勝利判定を確実にしたのは松尾象山だった。
 今回も空手界の古き強敵(とも)に塩を送りにきたのだろうか。

 松尾象山の問いかけに神山さんは答えない。
 松尾象山の問いに返事をしないとは命知らずな……
 やはり、ガンコ者だ。
 もちろん神山さんの実績があるから許されるガンコなのだろう。
 これを梶原がやったら、今ごと地面に寝そべって最後の睾丸に別れをいっているはずだ。

 ガンコな神山さんは置いといて、松尾象山はチャック・ルイスに視線をむける。
 ただ、それだけでルイスがちょっとビビる。
 現役ヘビー級ボクサーをサングラスごしの視線だけでビビらせる。さすが松尾象山だ。

「血だらけのボロボロじゃねェか……」

「イエス……」

「オメェがだよ」
「チャック」


 松尾象山がサングラスをはずして凄んだァアア〜〜〜〜〜ッッ!
 ただでさえ まぶしい太陽を、虫メガネで見るようなものだ。
 眼に悪い。否、身体に悪い。悪すぎる!
 これは、俺(松尾象山)がチャックを「血だらけのボロボロ」にするという宣言なのか!?(たぶん違う)
 混乱する事態をさらに混沌の方向にもっていきつつ、次回へつづく!


 ふつうに考えたら、松尾象山がルイスに説教するのだろう。
 相手が寸止めしているのに自分だけ殴るなんて、恥ずかしくないのかと。
 正座させて、試合中に説教開始だ。
 なぜか、となりで審判も正座する。

 でも、神山さんの攻撃があたっても ルイスが倒れるとは限らない。
 稽古をしているわけではなく、試合なんだからちゃんと当てないと意味がない。
 ルイスがそう反論したらどうなるのだろう。
 やっぱり、松尾象山がルイスを「血だらけのボロボロ」にするのか?

 北辰会館の土俵にあがったのだから、北辰会館のルールにしたがうのはスジだと思う。
 松尾象山はぎゃくにルイスに恐れず攻めろと たきつけるのかもしれない。
 そして、神山さんに気合注入して戦闘モードに変えるのだろうか。
 大量出血しても当てようとしない神山さんが背負う業は、どれほどの物なのだろうか?
 できることなら、全部まとめて鞍馬に背負わせてあげたいものだ。
by とら


2005年11月8日(23号)
餓狼伝 Vol.158

 突然の"象山裁き"!
 編集者のキャッチコピーも完璧だ。
 大岡裁きも目じゃない。四角いものも丸く変形させる、恐怖の象山裁きである。

 松尾象山が、サングラスをはずしてヘビー級ボクサー・ルイスにせまる。
 ポリゴンで立体にするのが むずかしそうな肉体だ。
 猛獣並みの迫力を出す肉体が近づき、ルイスは冷や汗を流すのだった。
 ヘタに逆らったら、つぶされる。ルイスよ、気をつけろ。

「なァ チャック」
「命拾いしてるよなァ」
「それを おめェ」
「大恩人をこんなめに…………」

(バレテル!!!)


 ルイス、驚きすぎだ。
 まあ、相手が松尾象山だしな。
 自分が犯人じゃなくても「オメェが犯人だ」といわれたら、参りましたと言ってしまいそうな迫力がある。
 まして、この場合は自分が犯人なのだ。

 神山さんとルイスの高度で静かな攻防を松尾象山は見ぬいていたのだ。
 ただ強引なだけではない。冷静な観察眼も持っている。
 だからこそ、北辰会館の大ボスとして君臨できるのだ。
 松尾象山の存在は、北辰会館の全部よりもたぶん大きい。

(一方的ニ俺ガ打チ込ンデ イルカニ見エル コノ試合)
(ソノ実――――――)
(ドノ局面デモ先ニ当テラレテイタノハ俺ダ……………ッッ)


 審判も驚愕する。
 もっとも選手のそばにいたのに気がついていなかった。
 これは、あとで松尾象山に怒られそうな予感がする。
 そういえば、一回戦でもちょっと怒られていた。
 審判にとって、神山さんの試合は胃が痛くなるモノだろう。

 今までの攻防には神山さんの寸止めがまじっていたのだ。
 それも、すべての局面で神山さんに先制されていたらしい。
 審判すら気がつかない一瞬のできごとだ。
 そりゃ神山さんも相手が気がつかなかったのではないかと心配してしまう。
 範海王クラスなら絶対に気がつかないな。

(モシ ミスター神山ガ パンチ・キックヲ
 寸止め(ストップ)シテクレナカッタトシタラ………)
(俺ノ姿ハ今……………)

 ルイスによる脳内シミュレートの結果、ボロボロになったゾンビのような我が姿浮かんだ。
 実際に拳を当てるプロボクサーらしく、リアルにダメージを計算してしまうらしい。
 軽量の神山さんだが、拳の破壊力はヘビー級に負けていないようだ。
 単純な威力というより、相手の出鼻をくじくような形で撃つカウンター気味の打撃なのだろう。
 だから、ルイスのほうから突っこんでいけなかったのだ。

「そのとおりさニィちゃん」
「神山くんが寸止(とめ)てくれなかったらえれェことになってる」

 松尾象山がルイスの思考を読んだ! なんだ、この人っ。エスパーかよ!?
 卓越した洞察力が正確にルイスの考えを読んだのだろう。
 ついでにいうと、プレッシャーを与えることでルイスの思考を誘導した可能性もある。
 松尾象山は、闘争がらみの駆け引きだって得意なのだ。

「どーする?」
「寸止めしたら「反則負け」ってことにして」
「続行してみるかい」

「わたしの……」
「敗けです」


 ルイスが敗北を認めた。
 松尾象山の介入により、一気に試合終了だ!
 神山徹、またもや当てることなく勝利した。

 拳闘士の本能なのか、劣勢を知りながらもルイスは止まらなかった。
 ダウンするまで止まらないのが拳闘士なのだろう。
 ボロボロになるイメージを持ちながら、心折れなかったのはさすがだ。
 松尾象山の説得がなければ、本当にボロボロになるまで闘ったかもしれない。

 神山さんは礼をのべることもなく、静かに会場を去る。
 勝利はしたが、ダメージが大きい。なにを思い困難な道を歩むのだろう。
 個人的には、このへんで黒い神山さんを見たかったのだが、今回も不発だった。
 観客席の久我重明もちょっと不満そうだ。

『空手家 神山 徹』
『その背には』
『尺八の調べが聴こえます』


 アナウンサーも興奮したのか、かなり意味不明なことを言いはじめた。
 尺八の調べですか??
 達人の闘いは、むずかしすぎる。
 そりゃ、審判も胃を痛めるわけだ。

 つぎの闘いでは尺八の調べにあわせて、真の当身が炸裂するのだろうか?
 封印し続ける神山さんの破壊力やいかに?


 次の試合に出場するサンボの仁科行男は、控え室で準備中だった。
 スパーリング・パートナーの右拳を顔面に受け、左ハイキックも顔面に受ける。
 試合前なのに、顔つきがボロボロだ。
 なんか変な性癖をもっているのか?

「はは……」
「思ったとおりだ……………」
「姫川 勉に絶対組みつける」


 そう、仁科の対戦相手はもっとも有力な優勝候補である姫川勉なのだ。
 どんな打撃を喰らっても ひるまずに組みついていくつもりらしい。
 しかし、組み技系の選手にとってその考えはキケンだ。
「打撃対策は完璧だ!!」とか「捕まえるまでが勝負か……」と思っている人ほど打撃に負けるし、組みつけない。
 仁科もちょっと危険なオーラがただよっている。

 仁科は知らないのだ。姫川勉がどれほど恐ろしい化け物なのかを。
 105話をみるとわかる。姫川の腰は凶器だ。
 一人の女性を勃起力だけ(?)で宙に飛ばせる。
 仁科が組みついた瞬間、三本目の足が仁科の顔面を捉えるようすがアリアリと浮かぶ。
 これに勝つには、口で捕らえて逆転を狙うぐらいの秘策が必要だ。
 ある意味、尺八の調べが聴こえます。

 なんにしても、姫川の腰力は並みではない。
 組みつけば勝てると思っていると、予想外の角度から打撃を受けることになりそうだ。
by とら


2005年11月22日(24号)
餓狼伝は休載です

 バキの最終回で忙しいのか、餓狼伝はおやすみです。
 ところで、谷口ジロー版『餓狼伝』を買いました。
 板垣先生が解説を書いている文庫版です。

 前回のラストで『空手家 神山 徹』『その背には』『尺八の調べが聴こえます』とアナウンサーが絶叫していた。
 文庫版の解説で『丹波文七と泉宗一郎の決闘のシーン、あれ、尺八の音が聴こえるようなんです。』と書いている。
 神山さんの闘いを日本的な風情で決着させたのは、谷口ジロー版に対抗した部分があるのかもしれない。

 一回戦で闘った志門剛俊や、二回戦の相手チャック・ルイスでは神山さんの暗黒面を引き出すにはいたらなかった。
 姫川が相手ならば、今度こそ当てる神山徹を見ることができるだろう。
 まだ、姫川が相手だと確定しているわけじゃないんですけど。
 確定はしていないけど、ここで姫川が負けちゃったらシャレにならない。
 長田が道着をぬいだから一回戦で反則負けになってしまうぐらい、シャレにならない。

 というワケで、姫川には姫川らしいガンバリを期待する。
 ちょっとだけ、神山さんがどういう組み技対策をするのかを見てみたかったけど。


 先週、PS2ゲーム『餓狼伝Breakblow』が発売された。
 圧倒的な物量を誇る『機動戦士ガンダムSEED 連合 VS. Z.A.F.T.』と同時発売で、売り場面積比が十倍ぐらいあった。
 私が買ったあとはもう在庫がないのではないかと、ちょっと心配だったりする。

 ファンの贔屓目もあるだろうけど、なかなか面白い。
 ローキックで相手の体力上限を削って、ボディーで体力をうばって、ハイキックを狙う。
 戦闘の流れがある部分がいい。
 ただ、なにも考えずボディー連打してつかんで投げるほうが有効な気もするんだけど。
 一発殴られても、二発殴りかえせば勝てるのが餓狼伝らしい。

 とりあえず、鞍馬に負けると、すげぇムカつく。
 鞍馬プレイで久我さんに勝って鞍馬の暴言聞くと、スゲェ微妙な気分になる。
 でも、久我さんを使用するためには鞍馬をクリアしないといけないのだった。

 板垣版ではパッとしない梶原もなかなか強そうだ。まだ使えないので、闘った印象ですが。
 しかし、強い梶原という存在にとまどう私がいる。強いのか? 梶原が?
 まあ、原作の梶原がよみがえったと思って喜ぼう。

 強いのはイイとしても、梶原のLv.2必殺技が「プロレスをナメすぎだッ」ってのは、いかがなものか。
 板垣版だと、このセリフの直後に梶原は腕を折られるんだよなぁ……
 ちなみに、キャラクターのプロフィール紹介は『梶原メモ』というコーナーになっている。
 やはり、梶原のポジションは解説役かッッ!

 各キャラの動きも板垣キャラらしさが出ている。
 ステージの背景だって地味にこっている。FAWの社長室にはサクラが描いた巽の絵が飾ってあった。
 全裸絵を飾るとはさすが巽だ。己への自信があふれている。
 コミックス未収録だが、漫画版にはサクラ増刊号で巽が絵を社長室の天井に飾っているシーンがある。
 天井なんて普段は見ない。こっそり飾っているのだろう。

 どうどうと飾っていると「あれ? 社長の金玉って左右の大きさがずいぶん違いますね」といわれる。
 まあ、辰巳クラスになると金玉のウェイトバランスなど些細な事なのだろう。
 さすが、グレート巽だ。

『餓狼伝Breakblow』の感想は時間が空いたら日記にUPする予定です。
 キャラクターの衣装替え方法も教えていただいたので、まずはクマ着ぐるみ丹波の勇姿を堪能してやるッ!
by とら


2005年12月13日(1号)
餓狼伝 Vol.159

『大会史上空前の密度とオリジナルに彩られた二回戦』
『遂に最終試合を迎えています』


 北辰会館の空手大会である。
 しかし、第一試合 開始直前で『なんでもアリ』なってしまった。
 投げてもよし、絞めてもよし、極めてもよし。
 おかげで北辰会館の選手が二人しか残っていない。
 まさに史上空前だ。

 そして、強烈なオリジナル度である。
 異色につぐ異色であり、異端の対決がつづく。
 もう、原作は骨しか残っていねェ。
 もはや大会がどこへ向かうのかもわからぬまま、二回戦の最終試合がはじまる。

 姫川勉 (北辰会館 186cm・87kg)
 仁科行男(サンボ 180cm・95kg)


 白帯同士の対決だ。

 だが、同じ白帯であっても二人は対照的だった。
 姫川はすらりとした長身の打撃系であり、背筋をのばして立っている。
 対して、仁科はがっしりした体つきの組み技系でやや背を丸めて前屈気味だ。
 開始前だが、仁科は臨戦態勢らしい。

 姫川は一回戦を蹴り一発で勝利した。
 打ちあわずに最小の打撃で相手をたおす。
 優雅な動きは水鳥のようであり、血生臭さを感じさせない。
 でも、姫川も水面下では努力しているのだ。そして、けっこう生臭そう。

 対する仁科は打たれながらの勝利だった。
 前回ラストの練習でも打たれることを想定している。
 自分の体をおとりにして相手のスキをさそう戦闘スタイルなのだろう。

『選手と言うよりは武人ッッ』
『アスリートと言うよりは武士(もののふ)ッッ』


 アナウンサーはイケメンの姫川(※ いちおう身内)よりも、武士っぽい仁科を応援したいのだろうか。
 気分的に、野武士をプロデュースだ。
 板垣漫画では十年に一度といわれるサンビストの祝日だ!
 河野さん(※)の分までガンバレ!

   河野さん
   原作の小説『餓狼伝』に登場するサンボ使い。梶原に敗れた丹波は河野さんに関節技を教えてもらう。
   堤城平も河野さんに関節技を学んでいる。そして河野さんの道場にて丹波と再会するのだった。
   漫画版には河野さんのサンズイすらでてこない。
   オイシイところは ほとんど泉先生がもっていった。

 とにかく、サンボ使いには不遇の歴史が染みついている。
 河野さんのようにシミすら つかなかった事もあった。
 とにかくロシア人の無念もふくめて、怒りをぶつけるんだ!
 仁科は日本人だけどな!


『当然組みたい仁科ッッ』
『無論離れたい姫川ッッ』
『わがままを通すのはどっちだァアッ』


 強さ = わがままを通す力、ということで試合開始だ!
 153話の『日本拳法 vs. レスリング』と同じく、間合いをめぐる攻防になりそうだ。
 ………っと、両者動かない!
 特に姫川は構えもとらず、ただ立っている。

 攻撃時のスキを狙って反撃するのが仁科の作戦だったはずだ。
 姫川が手を出してくれないと、仁科も攻めにくい。
 ちなみに『餓狼伝Breakblow』で神山さん相手に闘うと、同じ状況になる。
 あの人は連打をねじ込んでも寸止めで断ち切っちゃうから、打撃後のスキを狙わないと勝てない。
 範馬勇次郎と同じぐらい怖い相手だ。

 仁科は姫川の射程圏外をまわり始める。
 姫川はあいかわらず無反応だ。
 仁科は足を交差する動きをみせた。
 足を交差させた状態は次の動作に移りにくいので、さけたほうがいい動きだ。仁科の誘いか?
 しかし、姫川は視線を落としたままピクリとも動かない。

『背後に回った仁科―――――』
『見えないベールに近付けないッ』


 とうとう、仁科は背後をとった。
 それでも姫川は動かない。
 表情もかえず、微笑んでいるような柔らかい表情のままだ。

 むしろ、仁科の顔がスゴイことになっている。

 眉間にきびしくシワをよせて、とてもムズかしい表情だ。
 姫川の態度に怒るのはヤバそうな気がする。
 夢精で汚したパンツを台所で洗うぐらいキケンだ。逃亡者なんだから、戸締まりを ちゃんとしたほうがいいぞ。

 しかし仁科は動かない。
 スキだらけに見える背後へ襲いかからない理由があるのだろう。
 背を向けていても不気味なオーラが漂っている。
 姫川のことだから、首を180度回転させてエクソシスト風の振りかえりをやりそうだ。
 うかつに近づけない。

『仁科も構えを解いた』

 だが、仁科はもっとキケンな行動にでた。
 構えをといて、姫川の正面に移動する。
 挑発にのってはダメだ。サンボの守護星である死兆星が光ってしまう。
 ロシアの、ロシアの呪いがッッ! ハラショー…

「嘗めてんのかてめェ…」
「ヤレやおらァ」


 ああ〜〜〜っと、怒った仁科が左手で殴りかかった。
 これは姫川のまいたエサに喰いついてしまった状況なのか。
 しかし、左だ。右手は防御のために残しているのだろう。
 ギリギリ理性は残っている。
 しかし、相手は姫川なのだ。とてもキケンな状況といえる。
 仁科の攻撃は、どんな結果を………

 アッ

 文字通り会場が「アッ」と息をのんで、次回へつづく。

 やっぱり、仁科がワケもワカらず倒されていそうな予感がする。
 日本人であってもロシアの呪縛からは逃げられないのだろうか。


 さて、仁科はどうやって負けたのだろう?
 いや、もちろん、まだ確定ではない。
 でも決まったも同然という気もする。サンボだし。

 とりあえず予想してみる。
 会場が息ののむぐらいだから衝撃的な状態のはずだ。
 姫川がカウンターを決めるのは当たり前すぎる。仁科だって警戒しているから決まるものでは無いだろう。

 むしろ、仁科の出した左腕をとって関節技をきめているかもしれない。
 サンボ使いが空手家に関節技をとられる。実に屈辱的な状態だ。
 姫川が好みそうな展開といえる(偏見)。
 そして、いつのまにか仁科が全裸にされているという可能性もなくはない。いや、ぜんぜん無い。

 もしかすると空中に飛びあがって反撃を許さず踏み続けているのかもしれない。
 ただ、仁科はバランスが悪そうなので、転がることで脱出できる可能性がある。
 仁科が姫川に勝利するには、サンボを超えたサンボを生みだすしかない。
 一日二十四時間という真実の果てにサンボを克服するのだ!
 けっきょく、ロシアから逃げないと勝てないのか?
by とら


2005年12月27日(2号)
餓狼伝 Vol.160

 サンボ使いの仁科を前にしながら姫川はノーガードのままだ。
 姫川のノーガードを 仁科は侮辱と受けとった。
 グラップラー刃牙では引く力がサンボの力だといっていた。
 となると、打撃などの押す力はサンボにとって不得意な技となる。

(上等だよッッ)
(殴りっこが不得手ってワケじゃないッッ)


 仁科が挑発にのってしまった。
 打撃が不得手ではないことを証明するため、果敢に殴りにいく。
 もっとも、いきなり右で殴ったりはしないで、左のジャブからはいる。
 左で相手の体制をくずして組みつこうと考えているのだろうか。

 しかし、仁科の左手は感じるはずの衝撃を感じなかった。
 一回戦で姫川と闘った早川満とおなじだ。打撃がスカっている。

 姫川の体が柳のようにしなる。軽やかに攻撃をかわしていく。
 そして、そのまま仁科の左腕をつかみ、両足をはねあげ仁科の頭部を はさみこもうとする。
 この流れは竹宮流の秘技『虎王』かッ!?
 まさか、姫川も『虎王』を使うのかッ!?
 と思ったら、頭部に蹴りはくわえず、そのまま仁科の腕に脚をからませた。
 飛びつき逆十字だ。ゲーム風にいえば パンチキャッチ技だったらしい。

 あっさり仁科は引きたおされて、あおむけに寝てしまう。
 抵抗する間もなく、ヒジが引き伸ばされた。
 姫川がもう少し体重をうしろにかけると折れるだろう。それほど完璧に決まっている。

 たまらず仁科が姫川の体をタップして「降参」の意思をつたえた。
 すかさず審判が「一本ッッ」を宣言する。
 どこからも文句のでない みごとな一本勝ちだった。
 完璧な勝利のハズだった。

(痛み(ダメージ)ではなく弾みだった)
(あまりにも完全な飛びつき逆十字)
(完全過ぎる故(ゆえ)の)
(反射的タップ!)


 体が悲鳴を上げるより先に心が折れたか?
 というより、練習でのクセなんだろう。
 関節技を練習するとき、いちいち折っていてはたまらない。
 完全に極まったと思ったらすぐにタップして、もう一本やるのが普通なのだ。
 で、練習のときみたいに完全に極まっちゃったので、習慣でタップしたのだろう。
 練習どおりに極まるなんてめったにない事だから、ショッキングな初体験だったと思われる。

 仁科の心がウォームアップ時の練習モードから戦闘モードに切りかわる前に、腕を極めたのか。
 殴られる覚悟で仁科は舞台へ上がった。肉を斬らせて骨を断つ覚悟だ。
 ところが痛みもダメージもない敗北だった。
 なっとくのいかない負けかただっただろう。

 思わず仁科が姫川に声をかける。
 だが、声をかけても言葉がつづかない。
 試合内容に不正があったわけではない。完全に負けたのだ。
 なっとくがいかないというだけで、勝者を呼び止めることはできない。
 梶原なんて今回もスルーされている。敗者はだまって去るのみだ。

(サンビストへ対し――――)
(典型的サンボ技)


 しかも、相手の攻撃にたいするカウンターだ。
 本職でも決めるのがむずかしい高度な技だった。
 敗北というより、屈辱の苦さに仁科は顔をしかめ、姫川への言葉を飲みこんだ。
 心がこんどこそ折れたのかもしれない。
 サンボ使いにサンボ技をかけるという悪魔的発想で、仁科行男が打ち砕かれた。
 甲賀の女に伊賀と刻んだり、鞍馬のケータイを水に沈めるのと同等の所業である。

 姫川の黒い部分が外にでてきたような一戦だ。
 きっとVol.105で「見たぜェ‥‥」といった 藤巻の存在も知っていた上で冴子と長丁場のファイトをしたのだろう。
 人の嫌がることをする天才か、コイツ。
 姫川勉。笑顔の裏におそろしい毒針を持つ男であった。
 今度は鞍馬のケータイを接着剤でとじて開かないようにするイヤガラセをしてください。


 これで二回戦が終了した。
 八人の闘士が生きのこっている。
 いずれも二人の闘士を倒してはいあがってきた、格闘の怪物たちだ。
 そして、三回戦 選手入場ォ〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!


『準決勝第一試合ッ』『Aブロック』
『長田 弘 プロレスリング』 183cm・123kg
『VS. 工藤建介 北辰館』  193cm・120kg


 プロレスラーの誇りをかけて大会にのりこんだ長田と、北辰館の巨漢・工藤が激突する。
 両者の合計体重は243Kgだ。床がうける重さも大会最大になる。
 クマとヒグマが対決するような感じだ。
 今までの闘いにはなかった、重量級のド突きあいになるだろう。

 組み技なら長田が有利で、打撃なら工藤が有利となる。
 ただ、長田なら打撃を受けながらでも前に出て行くだろう。
 しかし、体重のある工藤ならかんたんに投げられるとも思えない。
 勝っても負けても、激しい消耗戦が予想される。

 ほとんどしゃべらない工藤だけに、苦痛にも無言でたえそうだ。
 長田の試合はつねに苦痛と疲労にたえる闘いになる運命らしい。


『第二試合』『Bブロック』
『片岡輝夫 志誠館』  182cm・95kg
『VS. 鞍馬彦一 プロレスリング』 185cm・105kg


 読者のうち、かなりの人が鞍馬の敗北を期待していそうだ。
 鞍馬のケータイごと骨をブチ折ったれという方向で、片岡にはお願いしたい。
 でも、実際のところ鞍馬の人気ってどれぐらいあるんだろうか。
 実は人気キャラだったりするかもしれない。

 今のところ、鞍馬はおのれの天才にあぐらをかいてナマイキな発言と態度がおおい。
 影で努力はしているらしいけど、やっぱりナマイキだ。
 そこで、鍛錬に鍛錬を重ねている片岡が鞍馬を教育する場面が欲しい。
 鞍馬は、人への敬意をもっと学ぼう。久我さんに土下座してあやまれ。

 二人とも中量級なので、速さと力を競う試合になるだろう。
 トリッキーな攻撃をする鞍馬にたいし、片岡は古流(クラシカル)な戦法をとる。
 第二試合も「組み技 VS. 打撃」の闘いだ。


『第三試合』『Cブロック』
『畑 幸吉 古武道拳心流』  175cm・71kg
『VS. 椎名一重 日本拳法』 195cm・123kg


 個人的には第三試合でイチバン地味な試合だと思う。
 二人ともゲームに出てこないし。

 椎名はわりと昔から名前が出ていたし、けっこう良いキャラなんだけど。
 名前がしょっちゅう変わるのが欠点といえば欠点だ。
 今回は椎野ではなく「椎名」ですか。

 第三試合も「組み技 VS. 打撃」だ。
 そして、重量級と軽量級の闘いになる。
 体重差もあるし、椎名が有利だと思われる。

 なんか、予想まで地味になってしまった。


『第四試合』『Dブロック』
『神山 徹 伝統派古流空手』 175cm・74kg
『VS. 姫川 勉 北辰館』  186cm・87kg


 もっとも気になるのが最終試合だ。
 寸止めの神山さんはいまだに打撃を当てていない。
 はたして神山さんは、当てるのか? 当てないのか?
 暗黒格闘家の久我重明が関わっているので、神山さんにも闇の部分があるはずだ
 その闇とはいったいナニか。実に気になる一戦だ。

 とかいって「秘密なんて、ありませんでした」ってオチになったりして。
 でも、一度当てるようになると必殺の急所ばかり狙いだすような黒神山さんが見たい。
 できれば、鞍馬の急所という急所に打ちこんで欲しいものだ。
 準々決勝というのが おしい試合だよなぁ。


 そして、次回から長田 VS. 工藤の超重量級対決がはじまる!
 でも、試合の前にまた館長演武がはじまったりして。
 止められるわけがない。
 北辰会館において松尾象山こそが法であり、支配者なのだから。
by とら

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