今週のバキ251話〜260話
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2005年5月12日(24号)
第2部 第251話 一分 (631+4回)
刃牙世界には、現実と回想のハザマに不思議な空間があるという。
アライ邸がそれだ。
また、インタビューしています。いつまでインタビューしているんだろう。
いや、もはや時間も時代も超越しているのだ。
一日三時間の密度でインタビューすれば八日でも二十四時間だ。
初登場が162話(2003/3/27)だから、91話間居座っている。もう少しねばれば百回突破だ。
十回ぐらいで打ち切られてしまう作品なんかがあるというのに、すごい贅沢をしている。
床に鉄パイプを転がしたままインタビューはつづく。
もしかして、記念に鉄パイプをもらったのか?
たぶん、あの鉄パイプは後で重大な役割をはたすのだろう。
回答編は来年の三月あたりと思われる。
アライの熱心なファンであるジャーナリストは、アライの復活を期待している。
長くボクシングを続けてきたアライは、何万ダースもの打撃を受けてきた。
ヘビー級ボクサーのパンチは蟻 百万匹なので、蟻 千二百億匹分の打撃だ。
地球人口の約二十倍という驚異ッ!
風呂に入っても落ちないほどの蟻がこびりついていそうだ。
数万の蟻は、象やライオンすら喰いつくす。
それが千二百億匹だから、アライもたまらない。十万匹のオオアリクイを援軍によこしても負けそうだ。
専門家もサジを投げるような状態らしい。
ここまで言われて、何を思ったのかアライが立ち上がった。
手も足もふるえて、よだれもたれている。
しかし、ファイティングポーズをとった。
王者のほこりがこの構えをとらせるのか。
バッ
突風のようなジャブだった。
かすめたジャーナリストの髪がダース単位でパラパラ落ちる。
シロウトには何が飛んできたのかもわからない、ホンモノのジャブだ。
続けて、連打、連打、連打ッ!
パンチの嵐がジャーナリストを襲う。
台風の目の中から外をのぞくようなものだ。自分の周囲はキケンな暴風地帯だ。
ちょっとでも外にハミ出るとたちまち巻き込まれて飛ばされる。
「助け…ッッ」
思わずジャーナリストが叫ぶ。
その悲鳴を聞いて満足したのか、アライは「コ…ッ」とアゴに触れるだけのアッパーを当てて拳を止めた。
Jr.にも負けていない、というより連打の数ならJr.以上と思わせる打撃だった。
そして、ジャーナリストが尿を漏らす前に止めた判断力もすばらしい。
「誰が信じる……?」
「60歳を超え病に侵されたチャンプに…」
「まだ全盛期の動きが出来るなんて…」
ジャーナリストの頭から湯気がたっている。
アライのパンチがかすって熱が生まれたのだろう。
ハゲにされていなくて良かった。でも、間違いなく髪にダメージを受けている。
失礼な質問ばかりするジャーナリストへ、ささやかな復讐をしたのか?
となると、248話で、アライが「私のパンチをお見舞いする」といっていたのは本気だったことになる。
ひょっとして、ジャーナリストに「もう帰れ」というサインを送っているのか?
「一分だけなら…」
「わたしは今でも世界チャンピオンだ」
逆にいうと一分しか動けないらしい。
動いてしまうと、汗だらけで呼吸も乱れている。
ボクシングではスタミナも重要なので、一分だけ闘えても現役復帰はムリだろう。
162話でもアライの震えが止まった。勇次郎の話をする直前だ
範馬勇次郎の名を出すのは、一分間のリミッターを外す覚悟が必要なのだろう。
少年時代の刃牙に勇次郎は「ボクサーに注意しろ」と教えていた。
同じように、アライも「範馬には注意しろ」と、Jr.に教えているのかもしれない。
「そして…」
「ボクシングはわたしを壊しちゃいない」
「Jr.(息子)が…」
「息子がわたしをブッ壊した」
ジャーナリストが、克巳の正中線四連突きを目撃した独歩並みに光った!
直後に握撃を喰らうような衝撃の事実だ。
息子とアライ流を完成させるために、わが身をささげたと言うのか。
自分の体を打たせてカウンターの取りかたを教えたりしたのだろう。
最高のボクサーが、最高のサンドバックとなって、最高の息子を育てる。
まさに超英才教育だ。
さわやかっぽい言動をしていても、Jr.の歩んできた道は暗黒の裏街道だったらしい。
表面上はにこやかなだけに、腹黒い中身を想像すると恐ろしい。
そうなると、梢江の件もうたがいたくなる。むしろ、納得だ。
やっぱ、刃牙目当てで梢江はオマケだったのだろう。
一方、親壊しのJr.はジャックと死闘中だった。
とにかく突進してくるジャックの口元に拳をメリこませる。
バカめッ! ジャックの口元に攻撃すると噛まれるぜ。
だが、ジャックは噛みつかなかった。
かわりに、地面も削る大振りのアッパーカットで反撃だ。
アライはとうぜんスウェーバックでかわす。
かわしつつもジャックの腕のスキマからアッパーをねじ込み、アゴに当てる。
おまけに頬に もう一撃だ。
突進してくる相手を牽制し、防御・反撃・追撃と高速で高度な技術だ。
だが、Jr.の闘いかたには余裕が無い。
今までは、一発打ったらすぐに引いていた。
一撃入れれば相手に十分なダメージを与えている。ムリな追撃は不要だ
しかし、ジャックは止まらないし倒れない。
連打しているところに、Jr.のあせりを感じる。
こっちが殴るということは、殴られる可能性もあるのだ。
Jr.はふだん間合いの外にいて、自分が殴るときだけ近づく。そして、反撃される前に離れる。
間合いの中に入りっぱなしで連打するというのは、反撃される危険も増えるということだ。
今のJr.は相手を倒せないあせりがある。だから防御の比重が軽くなっているのだろう。
そして、ジャックはなぜ噛みつかないのか?
口元を殴られたときはチャンスだったのに。
もしかすると、骨延長で伸びた体を試しているのかもしれない。
なにしろ、最初の相手がフリチン以後のシコルスキーだ。
ぬれた新聞紙よりも使えない。
Jr.なら実力は問題なしだ。
思う存分打撃を試せる。
打撃格闘家にとって大切な自分の距離感を実戦のなかでつかんでいるのだろう。
Jr.の追撃が当たるも、ジャックは気にしない。
そのまま前に出て、拳をブンまわす。当たれば場外ホームランという感じのフックがうなる。
Jr.はあわててステップバックとスウェーバックで回避する。
完璧なタイミングで入った独歩の掌底をとっさによけたディフェンス能力はダテじゃない。
そして、そこから前に飛び込むのがJr.の真骨頂だ。
だが、殴るJr.のほうが必死だった。
敗北の予兆である汗も大量にかいている。
必死の形相で右左の拳を振るう。ジャックの皮膚は裂けても肉は切れず骨も断てない。
それどころか、ついにジャックの蹴りがJr.に命中した。
Jr.が引かずにニ撃目を出したので、よける時間がなかったのだろう。
アライ流では使用しないはずのブロックで腹をガードするが、そのまま壁まで吹っ飛んで激突した。
鮮血と汗が飛び散る。Jr.が苦悶の表情をはじめてみせた!
(コンナ怪物ヨリ……ッッ)
(バキ・ハンマハ強イノカ!!!)
やっぱり、本物の範馬は強い。馬力がちがう。ただの範とは馬の差がある。
ジャック範馬が格の違いをみせて、次回へつづく!
Jr.がダークサイドの住人だと判明したのは不安材料だ。
しかし、なんかジャックが勝ちそうな予感がする。(これは予感じゃなくて期待か)
ついにJr.の連勝もストップか?
範馬一族の理不尽な耐久力にJr.は驚愕しているようだ。
まあ、Jr.も地球人としては最強クラスかもしれないが、範馬は宇宙人だから。
せめてビーム撃てるようにならないとイカン。烈に空気ビームを教えてもらうといい。
理不尽な天才では、大理不尽な宇宙人には勝てないという話だ。
Jr.は刃牙をジャックより上だと思っているが、本当だろうか?
現在のジャックは骨延長でパワーアップした。まぐわってパワーアップした刃牙より強いと思う。
そもそも、最大トーナメントでジャックに刃牙が勝てたのは「運」だと私は思っている。
ベルトを受け取るとき、ジャックのほうが刃牙より体力残っていた。
もう一回やれば刃牙はジャックに負けただろう。
まあ、運も実力のうちであり、刃牙にとって運は最大の武器かもしれない。
危険人物であるジャックと闘っていないで、Jr.はまっすぐ刃牙を狙ったほうがいい。
そもそも刃牙と闘うのもより道だ。
まず梢江をさらって(お姫様だっこで)町内一周でも二周でもすればいい。
そして、帰ってくるな。
あせりを見せたJr.はなにか必殺技を出してくるのだろうか。
父殺しの最終兵器―――
試合とはいえ肉親にしか使ええぬ技―――
なにか恐ろしい展開が待っていそうだ。
もうすぐ、アライが息子に壊された瞬間の回想シーンがはじまりJr.の反撃開始だろう。
深刻な脳障害を起こすような強烈な必殺技を隠し持っていそうだ。
しかし、ジャックにもまだ噛みつきが残っている。
一度捨てた筋肉を再度つけた理由も知りたい。(理由はないかもしれないけど)
この勝負は、まだ二回以上は転ぶと見た!
2005年5月19日(25号)
第2部 第252話 ナント… (632+4回)
やはり、範馬の血はあなどれない。
明日見ぬ噛みつきファイター、ジャック・ハンマーは圧倒的だ。
でも、骨延長手術は明日どころか半年先ぐらいを計算に入れた計画だったと思う。
薬がぬけて、健全な思考を取り戻したのだろうか。
でも、食事は肉ばかり。計算しているのか破綻しているのか わかりません。
数発殴られても、大砲の一撃で逆転した。驚異の破壊力だ。
ジャックは範馬立ち(※)っぽく構えて、Jr.を威圧する。
(※ 範馬立ち:範馬一族が好んでとるポーズ。上体は正面を向き、両手はやや広げぎみに下ろす。足はそろえ、腰から下は半身にする。倒したクマを踏んでいると完璧だ)
一方、Jr.は深刻なダメージを受けているようだ。
壁に叩きつけられて背中から煙が出ているし、全身がふるえている。
この症状は父のアライと似ている。父の思い出がよみがえるきっかけになるのか?
それはともかく、防御の要である足がふるえているのはマズい。
アライ流は動いてかわす防御を採用している。
足が止まることは、守りを失うことに等しい。
蝶の羽はもがれてしまったのか?
(ナント巨大(おお)キク…………)
(ナント重ク………)
(ナント強靭(タフ)デ………)
Jr.は、すっかり汗のにあう男になってしまった。
刃牙世界において、汗を流すのは敗北の予兆だ。
逆転するには、相手にも汗を流させるしかない。
しかし、Jr.はジャックの体格と体力に圧倒されている。
今までのJr.は天性の才能で相手を圧倒していた。苦労を知らない人間は逆境に弱い。
自分の能力が通用しない時の対策なんて考えたことも無いだろう。
父のアライ氏は逆境をのりこえてきた。目の前の敵だけでなく、国家も相手に闘った。
絶体絶命の大ピンチから這い上がるアライの闘志は、息子に受け継がれているのだろうか?
まあ、松本梢江に求婚する時点で、イバラの道を歩みたがる男なのだろう。
常人にはマネできないし、したくも無い。
精神力の強さは認めよう。もしかしたら、純粋に趣味の問題かもしれないが。
ジャックは折れた歯をはき捨てた。
歯が折れるのはけっこう不吉だ。
最大トーナメント決勝戦の「刃牙vs. ジャック」も歯が折れた瞬間にジャックは敗北した。
正確には、歯が折れた次のコマで「勝負ありッッ」だった。
そこまで徹底的に敗者の歯を折らなくても…。当時はそう思ったものだ。
そんなワケで折れて砕けた奥歯に不安を感じる。
しかし、ジャック範馬は臆せず前進あるのみだ。
打撃でJr.にダメージを与えて満足したのか、今度は組みに行く。
獲物を狙う肉食獣のような低空タックルだ。
Jr.のステップはまだ生きていた。
軽やかに後退し、安全距離をとる。
だが、まっすぐ下がっているのは弱き心のあらわれか?
神の見切りでジャックのタックルをスカらせ、アッパーを打ちこむ。
ジャックの足が、浮きかける。
だが、それでもジャックは踏みこむ。左右の連打を浴びながら、ひるまず突っ込む。
(ナント粘り強ク………)
近い間合いで撃つフックを顔面にガツンガツンあててもジャックは止まらない。
そして、この間合いは組み付ける間合いだ。打っているJr.のほうが追いこまれている。
バックステップで逃げないのは、やっぱりダメージが足にきているのだろうか。
ところで、「粘り強ク」の「り」がひらがなっぽい。判別難しいけど、たぶんひらがなだ。
不死身のジャック・ハンマーを相手にして、Jr.も動揺で発音がおかしくなったのだろうか。
つうか、外人同士なのだから、横書きのひらがなで話して欲しい。
間合いをあけず打ちつづけたが、Jr.はジャックを倒せなかった。
その結果、捕まった。腰をしっかりキャッチされた。
まるで別人になってしまったようなサル顔をしてJr.は汗をながす。
普通なら、こういう表情をした時点で勝負ありだ。
ちょっとカッコ悪い。ヒゲを失ったドリアンとか、パンツを脱いだシコルスキーなみにダメな予感がする。
しかし、Jr.に関しては油断できない。まだ、隠し技がありそうだ。
ジャックがJr.を持ち上げる。
骨延長によって二メートルを超える長身になった男が、Jr.を抱えあげたのだ。
ボクサーには未経験の高さだろう。そして、地面はコンクリートだ。
そこへ投げつける。しかも、顔面から落とす。
コンクリートの地面に叩きつけられ、それでもJr.の意識は残っていた。
だが、Jr.の眼はゆれまくりジャックが分身しているように見える。
こうなっては、神の動体視力も使用不能か?
足に不安が残るなかで、眼までつぶされたのか。
もう、アライ流は崩壊している。
(ソレホドノ潜在能力(ポテンシャル)ヲ持チナガラ……)
(徹底的デ……)
(執拗デ………)
(ソシテ完全主義者………)
Jr.に戦闘能力が残っていると見るや、ジャックは拳を振り落とす。
一日三十時間の男だから、執拗さには定評がある。
じっくりねっぷりと打撃地獄だ。
そして、ちょっと休憩してジャックは観察する。
Jr.がピク…と動いた。
動いたァ! と、すかさず蹴りを打ちこむ。ジャック・ハンマー容赦せん!
まるで、モグラ叩きをやっているようだ。なんか、楽しそうだ。
Jr.もおとなしく死んだフリをしていればいいのに、つい試しちゃったのだろうか。
圧倒的な範馬の力で、このままジャックが勝利するのか?
Jr.の表情が、花山に殴られて なんかワカってきた愚地克巳のようになっている。
ここで加藤と末藤のような人たちが応援すれば、復活するかもしれない。
たとえば、どこからともなくアライ父とジャーナリストが駆けつけ、シャドーボクシングで応援だ(一分限定)。
ジャックの圧勝ムードだけど、一抹の不安が残る展開だった。
最初から最後まで有利だと、次回に落とし穴があるんじゃないかと不安になってしまう。
最近、ますます疑り深くなってきた。
ただ、ジャックにも有利な点がある。まだ全力を出していないのだ。
最初は打撃だけで戦い、次は組みついて投げる事にこだわった。最後はグランドでの打撃をしている。
なんか、順番に技の練習をしているような感じだ。
まだ噛みつきも温存しているし、優位に立っているのは間違いない。
でも、Jr.はここで負けて再起不能になったらシャレにならない。
個人的には梢江をめぐる闘争が解消されても困らない。むしろ、良し! だ。
しかし、話の流れとして、こんな所で放置されても困る。
範海王と李海王の謎とかの置き忘れよりも問題だ。
ただ、Jr.がここで死んでジャックに自分の意思を託すのかもしれない。
「ジャックよ、私を倒した君に、あえて私の夢を託そう。
アライ流。拳だけを使って、あらゆる闘争に勝てる格闘技を完成させてくれ。
そして、松本梢江をかならず、モノにしてくれ。生まれた息子にはマホメド三世と名づけてくれたまえ」
「全部、断る!」
まあ、断るよな。
でも、最大トーナメント編のジャックは梢江とビミョウな感じだった。
もしかすると、Jr.を倒して梢江の前に立つ気かもしれない。
2005年5月26日(26号)
第2部 第253話 イツダッテ (633+4回)
マホメド・アライJr.が沈む。
頭の下のコンクリートが砕けていて、本当に沈んでいるようだ。
息はあるけど、試合場で心停止した郭海皇みたいな死相が出ている。
これはマジにヤバい。
ジャックはJr.のようすをじっくり観察する。
父である勇次郎は郭海皇の生死を一瞬で見ぬいた。もっとも、そのあとで蘇生したけど。
死亡確認に時間がかかるとは、まだ甘い。
とりあえず死亡確認といってしまうのが吉だ。
本当に死んでいるかどうかは後で考えればいい。
マジメに考えちゃうから、一度倒したシコルスキーを地下闘技場まで運んで、もう一度ボコったりするのだろう。
そんなにロシアの人をいじるのが好きか?
Jr.は戦闘不能であると判断したらしい。ジャックは背を向けて帰りじたくをはじめる。
花山のように勝利の祝杯をあけたりしない。刃牙のように勝利のメイクラブもしない(注:刃牙もやって無い)。
淡々とした勝利だ。
ジャックは食事を切りあげて闘った。もう空腹なのかもしれない。
次に食べる肉のことで頭がいっぱいなのだろう。
そのせいか、ジャックは無言のままだ。
Jr.との闘いに満足しているのかどうかもワカらない。
シャツ着かけていたジャックの動きが止まった。
Jr.が壁にもたれながら立っていた。
ボロボロになり、ジャックに戦闘不能と判断されたが、それでも立っている。
そして、去ろうとする範馬の足を止めるだけの闘志を放っているのだ。
マホメド・アライJr.はまだ死んじゃぁいない。
「ダメージヲ受ケルト……」
「立チアガッチマウンダ…」
汗をダラダラながし、出血もはげしい。
髪も乱れている。
しかし、Jr.は不敵な笑みを浮かべている。
じっくり観察したのに判断ミスをしてしまった。
戦場において、敵にトドメをささずに背を向けるのはキケンな行為だ。
戦士失格かもしれない。
このツメの甘さでは 範馬勇次郎との再戦が危ぶまれる。
また返り討ちにあうだろう。
未熟な自分への怒りと、しつこいJr.に対しての怒りが体内で膨張しているようだ。
ジャックの表情が険しくなる。
未熟な自分への怒りを敵に向けちゃうあたりが、巨凶一族らしい行動だ。
着かけていたシャツを投げすてジャックが突っ込んでくる。
Jr.はまだ壁にもたれたままだ。
もう、足が動かないのか?
だとすると、アライ流は死んだも同然だ。防御も攻撃もできない。
それなのに、なぜ立ち上がるのか?
ジャックのローキックにあわせ、Jr.が踏み込んで右ストレートを打ちこむ。
動き回ることができないので、敵を引きよせ一歩踏みこんでカウンターを狙ったらしい。
結果は相打ちだ。足を蹴らせて、アゴを打つ!
脳がはげしくゆれそうな角度でジャックはJr.の拳を喰らった。
たまらず体がガクガクとくずれる。
しかし、そこから左パンチだ。
ダメージを受けたとみせたのは、演技だったのか?
Jr.にダマされたので、やり返したのかもしれない。別にJr.はだましたわけではないと思うけど。
範馬一族はいがいと演技達者だったりする。
ただでさえダメージが足にきて動けないJr.である。
ジャックは、容赦なくその足に攻撃をした。
完全なる勝利をめざし、Jr.の足を完全に破壊するつもりだろう。
蓄積した足へのダメージのため、Jr.は棒立ちするしかない。
もう、万策尽きたって感じだ。
「イツダッテ………」
「立チアガリ――――――」
「ソシテ……」
「闘ウ…………!!!」
今のJr.にとって、闘争とは立ち上がることだ。
普通に考えれば、もう勝ち目はない。
おとなしく寝ていればいいのだ。
しかし、それでもJr.は立ちあがる。そして闘う、敗北を認めそうな自分の心と。
心が折れぬかぎり、敗北は無い!
ジャック・ハンマーはけっして容赦しない。
立っているだけしかできないJr.にアッパーを喰らわせ、天井までフッ飛ばす。
落下してくるところを、殴り飛ばした。
だが、Jr.はそれでも立つ。壁にもたれているけど立っている。
もう、ささえなしでは立てないのかもしれない。
こんな状況でありながら、Jr.は「クイ… クイ…」と手招きまでする。
倒せないのか? 倒したいんだったら今のウチだぞ。っていう具合に挑発している。
本当は苦しいはずだ。でも、苦しくないフリをしている。
ダメージがあるのはバレバレだ。だが、Jr.がダマそうとしているのは自分自身かもしれない。
オレはまだ闘える。闘えるんだ。立つんだ! そんな感じで。
さらに、Jr.は舌を出してさらに挑発する。
「イツダッテ………」
「Stand and Fight」
Jr.の顔面にジャックの拳がメリこんだ。
舌を出していたままだったから、はみでて拳と顔にはさまれている。切れていなければいいのだが。
それでもJr.は立ちつづけるのだろう。
戦いの決着が見えなくなってきた。
次号はおやすみなので、再来週へつづく!
敗北寸前の大ピンチをむかえるJr.だが、根性で踏みとどまる。
今まで苦戦しなかったのでワカらなかったが、Jr.は強靭な精神力を持っていた。
病気になりながら一分だけならチャンプだと言い切る父の魂を受け継いでいる。
この強き心を、まっていた! 今後は素直にJr.も応援できるぞ。
お先真っ暗な展開だけど、それでも闘おうとする意志が尊いのだ。
もしかすると、梢江に求婚しているのも同じ理由なのだろうか。
勝てそうにない相手に戦いを挑む。がんばって、立つんだ!
松本梢江に「Stand and Fight」は無謀だと思うけど。
それにしても、Jr.の歯はまだ折れていない。
ジャックを上まわる丈夫な歯だ。
歯折れは敗北の予兆なので、Jr.にはまだ逆転のチャンスがある。
ただ、どう逆転するのか思い浮かばないけど。
普通に考えると、タイミングを狙い済ましてカウンターを打つしかない。
でも、ジャック・ハンマーはパンチ一発では倒せないだろう。
Jr.は敗れるが、その実力をジャックが認めるという展開になるかもしれない。
今後の展開として、ジャックがJr.とコンビを組んで、刃牙と勇次郎に挑戦する可能性もある。
ジャックなら刃牙の情報も知っているかもしれない。二人が手を組めば刃牙にとって強敵となる。
かつて刃牙を失神させた、石丸コーチの凶器(ゴング)攻撃など、お得な情報を教えてくれるだろう。
もしかすると、アライ父を破壊したアライ流の裏技を使うのかもしれない。
――――――他人に見せた以上 殺さなくては(または相手を愛する by 聖闘士星矢)ならない禁断の最終技だ!
たぶん、答えは「蹴り」だ。蹴りはないと油断しているところを蹴る。
それも本格的なムエタイ式だ。そりゃアライ父も世間に公表できんさ。
2005年6月2日(27号)
大擂台賽 後半戦のまとめ
ちょっと昔を振り返って大擂台賽の後半をまとめる。(参考:大擂台賽・一回戦まとめ)
けっきょく、大擂台賽はなんだったのだろう?
振り返ってみると、範馬勇次郎と郭海皇の二人に私物化された大会だった。
登場人物の変化という点では、範馬刃牙が毒から復活している。
刃牙の復活と勇次郎の強さを再確認する。
つまり、この大会は親子対決の大いなる序章だったのかもしれない。
◆ 日米軍 vs. 中国連合軍
・ 郭海皇はトーナメントを中止し、団体戦に変更する。毛海王は排除され、郭春成と龍書文が加わった。(201話)
・ 勇次郎は郭海皇のワガママ(団体戦への変更)を受け入れる。対戦カードが発表される。(202話)
・ 勇次郎は郭海皇にケンカをうる。日米軍は中国武術をコケにすると誓う。(203話)
いきなり、郭海皇と範馬勇次郎のワガママが炸裂する!(被害者 一名)
周囲の人間はただ従うしかない状況だ。ちょっと質問しただけで毛海王は消された。
郭海皇は『海皇』の称号を海外に出さないためにルール変更すると言っている。
しかし、信用できない。範海王と毛海王の選択もテキトーっぽい。本気で勝つ気があったのだろうか?
201話で推察したように、ルール変更をすることで海皇襲名はうやむやになっている。
とりあえず、目的は達成できた。しかし、手段がムチャクチャすぎる。
郭春成と龍書文を参加させる必要はあったのか?
郭海皇の本音は、純粋に試合を楽しみたかっただけかもしれない。
今までの試合がぬるかったので、劇薬を投与したのだ。
のちに判明するが、郭海皇は武術が大好きなのだ。
サムワンにした仕打ちは、外国人嫌いだからとしか思えないのだが、基本的に武術大好きのはずだ。
そして、この話にのっかる範馬勇次郎も闘争が三度の飯よりも好きだ。むしろ、酸素より好きだ。
中国武術をコケにしたいというのも、愛情表現の裏返しだろう。範馬勇次郎だし。
どちらかというと、コケにするという提案にあっさり同意するバキの精神性に問題を感じる。
烈は命の恩人なんですけど。
◆ ビスケット・オリバ vs. 龍書文
・ 凶人・龍書文は台湾黒社会を生涯不敗で生きぬいている。彼もオリバと同じくアンチェインだった。(204話)
・ 龍書文はオリバの怪力攻撃を防ぎ、パンドポケットからの居合い殺法を炸裂させる。(205話)
・ 刃牙と勇次郎が仲良く観戦する。オリバがハンドパンツで対抗する。(206話)
・ オリバのハンドパンツは失敗する。普通に攻撃するが、反撃される。(207話)
・ 勇次郎が抜拳術を解説する。オリバはふたたび手をパンツへ入れる。そして、ついに攻撃が当たった。(208話)
・ ハンドポケット vs. ハンドパンツ。防御をすてたオリバの攻撃が決まる。(209話)
・ 龍書文が意地を見せるも、オリバの追撃で完全に沈む。日米軍の勝利だ。(210話)
改めて見ると、この試合は「範馬勇次郎 vs. 郭海皇」の前哨戦だった。筋力 vs. 技術の対決だ!
208話で勇次郎の言う「競うな」「持ち味をイカせッッ」は、そのまま郭海皇との試合に通じる。
肉体を駆使する単純な闘争ではなく、いかに闘うかという闘争の哲学も含んだ試合になった。
試合場の外では刃牙と勇次郎が仲良く並んでいる。
今は仲がよさそうに見えるが、のちに親子で闘う運命にあるのだ。
勇次郎が妙に解説をしまくるのは、きっと隣にいる息子に聞かせるためだな。
重度の親バカである。
試合は二人の因縁からはじまる。
龍書文の独自技にオリバは苦戦するが、自分の土俵に相手を引き込んで逆転勝ち。
実にまっとうな試合運びだ。
ハンドパンツに意味があったのかどうかは不明だけど……
手を入れなくても同じだったと思う。
技術は究極の力に勝てなかった。バキ世界にはたびたび登場する理論だ。
つまり、刃牙が勇次郎に勝つためには、身体能力の差を埋める必要がある。
技術だけを高めても足りないのだ。
刃牙の背に宿った鬼は、差を埋めているのだろうか?
◆ 範馬刃牙 vs. 郭春成
・ 郭海皇が今後の展開に不安を感じる。だが、郭春成がヤルと宣言する。(211話)
・ ベストコンディションの範馬刃牙が二秒で激勝する!(212話)
郭海皇が残り四試合を全部やろうかと言い出す。
たぶん本気だろう。名誉の問題ではなく、闘いたいのだ。
郭海皇は龍書文の敗北を怒っていない。いい試合だったら、それなりに満足なのだろう。
だから、秒殺された春成にはすごく冷たい。
二回戦は、四回戦と同じく偉大なる二世対決だ。あっさり終わるのも同じ。
勇次郎に挑戦する人間が、こんなところでつまずくワケにはいかないもんな。
一回戦で単純な力の重要性を見せた後だけに、刃牙の潜在能力も見せつけたい。
復活した刃牙は、鬼も解放しないで秒殺する。
この試合内容なら、勇次郎に挑戦してもおかしくない。
そんなふうに考えていた時期が、刃牙にもありました。
◆ 烈海王 vs. 寂海王
・ 寂海王が刃牙を勧誘する。烈は闘志を燃やす。試合がはじまる。(213話)
・ 寂海王は烈を勧誘する。そして、握手からの不意打ちをしかける。(214話)
・ 寂海王はさらに握手からの不意打ちをしかける。そして、投げが決まった。(215話)
・ 寂海王は烈の右腕を破壊する。そして、必勝の勧誘を誓うのだった。(216話)
・ 烈が反撃を開始する。寂はあっさり追いつめられ、ヒゲをむしられる。(217話)
・ 寂が烈の右腕を治療する。復活した烈海王のさらなる反撃がはじまる。(218話)
・ 寂海王が護身に開眼してカメのポーズをとる。(219話)
・ 寂海王のカメのポーズにてこずるが、烈は秘技で寂を倒す。(220話)
・ 烈は試合に勝利したが、内容には満足していなかった。寂はやっぱり勧誘をあきらめない。(221話)
刃牙史上に残る屈指の迷試合がはじまるッ!
こうして、展開を短くまとめると寂海王は勧誘しかしていない。勝つ気まるで無し。
なんか、マジメに試合している烈がかわいそうに見えてくる。
この試合がなんだったのかと言うと221話で刃牙が言うように、ズルいは美しいではないだろうか。
ズルかろうが、汚かろうが、ハゲだろうが、目的を達成すると言う執念は美しいのだ。たぶん。
勝利することだけが美しいのではない。勝利を求めてあがく姿も美しいのだ。
寂の姿は、………美しいかなぁ??
ズルいと言えば郭海皇だ。つまり郭海皇も美しいと言うことになる。
寂海王は日米軍の人間だが、立場としては郭海皇と同じだ。
圧倒的戦力を持つ烈海王あいてにズルく戦い、試合には負けるが、気持ちで勝利する。
いつだって、座りこみ――――――、そして亀になる。
いつだって………、Sit and Turtle!
◆ マホメド・アライJr. vs. 範海王
・ おどるJr.と なめる範海王。おどりじゃなかったJr.の攻撃で範は出血する。(222話)
・ Jr.はちょっとだけ蹴りに苦戦する。ボクシングって大地を蹴る格闘技なんだ。(223話)
・ 範海王は戦いを続けようとがんばってみるが、ダメでした。(224話)
刃牙に対応して、Jr.は無常に範海王を屠る。立てない範海王はレッサーパンダ以下だ。
この時点ではまだアライ流の技術紹介と言う面が大きい。
176話で寝ている相手を倒し、今度は蹴ってくる敵を倒した。
Jr.は技術系の戦士だ。天性の動体視力を持っているが、最大の武器は精密な動きをするアライ流にある。
脳をゆらす技術だけなら勇次郎にも勝っているかもしれない。
つまり、刃牙とJr.が闘うと、筋力 vs. 技術の闘いになるだろう。
って、それはジャック相手に進行中だ。
やはり、技術は圧倒的な筋力に勝てないのだろうか?
◆ 範馬勇次郎 vs. 郭海皇
・ 範馬勇次郎が郭海皇をほめたたえ、今までの戦いを無かったことにする。(225話)
・ 郭海皇は力を手に入れるためになにを犠牲にしたのか? それは力だった。(226話)
・ 郭海皇は、筋力をすてて理合(技術)を手に入れた。この試合も理合と力の闘いだ。(227話)
・ 解説・驚愕は刃牙と烈海王が担当する。勇次郎の攻撃は消力で無効化された。(228話)
・ 究極の脱力が生み出す消力に勇次郎の攻撃が無効化される。しかし、勇次郎に秘策あり!(229話)
・ 勇次郎も郭海皇もハッタリを言わないらしい。髪の毛を抜くことで消力を破った。(230話)
・ 郭海皇の攻撃を勇次郎があわててよける。守りの消力転じて攻めの消力!(231話)
・ 攻めの消力とは、インパクトの瞬間まで脱力する技術だった。今度は勇次郎が守りの消力を使う。(232話)
・ 勇次郎は消力を拒否して、力で戦う。力みなくして解放のカタルシスはありえねェ。(233話)
・ 範馬勇次郎による、俺様最強演説。人知を超えた力に郭海皇はふっ飛ばされる。(234話)
・ 勇次郎の猛攻に郭海皇は必死の反撃をする。そして、勇次郎は鬼の背中を解禁した!(235話)
・ 鬼の背中は常人と違う筋肉だ。この試合は「獅子 対 餌」となってしまった。(236話)
・ 餌=郭海皇が反撃するが、通用しない。勇次郎は最終技・鬼哭拳を放つが、命中直前で驚愕する。(237話)
・ 郭海皇は老衰で死んでいた。トドメをさせず、勇次郎はがっかり気味だ。そして、郭海皇が蘇生する。(238話)
勇次郎が郭海皇をたたえて試合がはじまる。
対する郭海皇は自己弁護をしていない。
ウソでごまかすのが嫌いなのだろうか。それとも、中国側が負けたことをあまり気にしていないのだろうか。
武術大好きな郭海皇としては、勇次郎と言う逸材と試合ができれば、それでいいのかもしれない。
攻めの消力を前にして、勇次郎が思いっきり腰を引いたりと、ちょっと苦戦している。
しかし、苦しめることはできても倒せない。
範馬は範馬でないと倒せないのか。(常に立ちふさがる疑問)
本能によって守りの消力が崩れる現象も興味深い。
範馬の覚醒は、どちらかと言うと本能の目覚めだ。純粋な闘争心が力を生む。
理性的な技術と範馬は相性が悪いのかもしれない。
勇次郎もけっきょく力みまくっているし。
だが、郭海皇は最終奥義で戦いを生き抜くのだった。
最後の最後でちょっとだけ理合が光っている。
試合には負けたけど、勇次郎をくやしがらせた。
寝ている勇次郎から逃げだしたJr.以来の快挙だ。わりと最近の話だけど。
この試合で「技術だけでは範馬勇次郎を倒すことができない」ということが改めて証明された。
つまり、刃牙には技よりも肉体強化が必要なのだ。
そうなると勇次郎に挑戦する前に、刃牙が超えなくてはならない人間は、オリバかジャックと言うことになる。
とくにオリバはぜひとも倒しておきたい。
Jr.と刃牙がなかなか闘わないのには、属性の不一致があるためだろう。
現在のJr.は範馬超えに挑んでいる。技術系のJr.が一皮むけるには必要な儀式だ。
Jr.とジャックの勝負がどうなるかワカらない。
しかし、その後は展開が大きく動くと思われる。
◆ 後日談
・ 死んで勝負無しを狙った郭海皇のたくらみは成功する。ズルい郭海皇だった。(239話)
・ 勇次郎と郭海皇は互いの実力を認めあう。刃牙は勇次郎への挑戦を決意する。(240話)
後半戦はズルい郭海皇ではじまり、ズルい郭海皇で終わった。
自説を理論ではなく迫力(と暴力)で説得するところも同じだ。
こういう部分で、郭海皇と勇次郎は通じ合うのだろう。すごく困った類友だけど。
それでも、勇次郎と郭海皇は互いの実力を認め合う。
終わってみると、第一試合、第三試合、第五試合は戦いを通じて友情に似たものが芽生えている。
刃牙とJr.の試合には、芽生えるヒマがなかったけど。
240話で書いたが、郭海皇が勇次郎に『海皇』の称号を与えようとしたのは策謀だと思っている。
それとは別に、郭海皇の素直な友情も入っていたのかもしれない。
策謀:友情 = 9:1 ぐらいの割合で。
そして、刃牙は戦いを決意する。
刃牙は死のふちをのぞいた。
死を目前にして、イチバン無念だったのが勇次郎への挑戦だったのだろう。
勇次郎と戦えば死ぬかもしれない。
でも、勇次郎と戦わずに死ぬぐらいなら、戦って死にたい。
そう思ったのかもしれない。
勇次郎への思いが熱くなる。相対的に松本梢江への気持ちがさめる。
Jr.のプロポーズ大作戦にも冷たい対応になるワケだ。
刃牙が勇次郎に挑戦する条件は、ちゃんと揃っていたのだ。
勇次郎と決着をつけるため、刃牙は死地に飛びこむ。はずなんだけど、何をやっているのやら。
勇次郎と戦いたいだけで、結果は後回しなのだろうか?
まあ、梢江さえ後回しにしてくれたら、とくに問題ないんだけど。
2005年6月9日(28号)
第2部 第254話 来…イ…ヨ… (634+4回)
マホメド・アライ Jr.は、イツダッテ Stand and Fight!
立つどころか、むしろ浮いている。
ジャック・ハンマーの全力パンチを喰らって、文字どおり地に足が着いていない。
目標が反撃できない状態のJr.だから、ジャックは防御をすてて思いっきり殴っている。
もともと防御を考えていない人だったけど、今回はさらに上をいく。
上半身も下半身もひねっていて、パンチが当たっていなければそのまま倒れていたであろう。
間違いなく全体重をのせた一撃だ。Jr.はこれを喰らって無事なのだろうか。
ただ、この一撃をもってしても範馬勇次郎のMAX鬼パンチ(鬼哭拳)には勝てないのだろう。
一般人とは形状の異なる筋肉が、勇次郎を地上最強の生物としている。
もちろん、守りの消力を使えるなど技術もスゴい。筋肉はもっとスゴい。
痛みに耐えて骨を伸ばしても、鬼の領域にはたどりつけぬのか。
ジャックの通っていたジムのトレーナーは「ハード・トレーニングもやり過ぎるくらいなら彼女とベッドでイチャついているほうがまだ強くなれるってものだ」と言ったことがある。
範馬バキという成功例もあるので、まさに至言だ。
ベッドどころか蒲団もしいて いなかったが、条件は同じとみなしてよかろう。
勇次郎だって、闘争だけではなく色もたしなんでいた。世界中に種をバラまいている。
梢江を求めるJr.は本能で最強に近づいているのかもしれない。
少なくとも骨を伸ばそうとするジャックよりもッ!
話をもどすと、ジャックの全力パンチでJr.の顔面は陥没していた。
おまけに、殴られるときに舌を出していたから歯と拳にはさまれて、舌が八割がた切れている。
もう少しで「ウダウダやってるヒマはねぇ!」のアマギン状態になるところだった。
ギリギリくっついていても あまりなぐさめにならない。
舌も大変だが、顔面陥没はもっと大変だ。さすがのマホメド・アライ Jr.も立ちあがれない。
そのまま、腰が落ちて起きあがれなくなる。
Jr.の顔面にクレーターを作って満足したのか、ジャックはすぐに背を向けた。
前回倒すことを失敗したのに、今度は確認をしない。
たぶん、会心の一撃だったのだろう。
Jr.がしりもちをついてすぐに去ろうとしている。なにか、急ぎの用でもあるのか?
振り返りもしないでジャックは服を着る。このあわてぶり、やはり急ぎの用があるのだろう。
たぶん、もう腹が減っているのだ。
ムチャして体をデカくした副作用だろう。
あわてているのか、ジャックは無防備に背中を見せながら服を着る。
服を着ているとちゅうは、腕が自由に動かないので攻撃されるとマズい。敵に背を見せているのも危ない。
つまり、今のジャックはスキだらけの油断しまくりだ。
そういえば、バキも油断する傾向がある。
範馬は油断しやすい一族なのだろうか。
強靭な肉体を持つため、多少スキをみせても何とかなってきた先祖ばっかりなのだろう。
女に生まれていればドジっ子として、読者を萌え狂わせたに違いない。
「Зξυ゜」
早く帰ろうとあせっている(?)ジャックだったが、異音を聞いて動きが止まった。
振りかえると、Jr.がまだ動いていた。
もう立ちあがることはできない。とうぜん、戦闘不能だ。
確かにJr.の肉体はもう闘えない。だが、Jr.の精神はまだ闘っているようだ。
Jr.の相手はジャック・ハンマーでは無い。
おそらく敗北を認めて楽になろうとする自分に闘いを挑んでいる。
生命を全額かけて、大勝負を挑んでいるのだ。
「ﺂﻴﻧﻮﺠﻳﺇﺍﺭﺁﻮﺪﻴﻣﻮﻫﺎﻣ (来…イ…ヨ…)」
舌が破壊されたせいで、アラビア文字だか宇宙語だがわからないような発音になっている。
しかし、それでもマホメド・アライ Jr.は敗北を認めない。
イツダッテ、Stand and Fight!
立てなくたって、闘う(Fight)!
Jr.の心は折れちゃいない。ちぎれかけた舌をだして、ニィ…と笑ってみせた。
Jr.の視線は定まっていない。
強気の発言をしているが、闘える状態ではない。
もう、殺すか見逃すかの闘いになっている。
ジャックは…………、トドメをささずに帰った。
明日をすてて戦うジャックは、殺人も辞さない精神構造をしていると思う。
だが、ここでトドメをささなかった。
これは、Jr.の根性に対する静かな賞賛なのだろうか?
三崎健吾・ガーレン・渋川剛気あたりには、かなり念入りにトドメをさしていたのに対し、わりと優しい態度だ。
殺すには惜しい男だと思ったのかもしれない。
シコルスキーに対しては、殺すに値しない男だと思っていそうだ。
ジャック・ハンマーはそのまま去った。
彼はどこへ行くと言うのだろう。
範馬勇次郎との闘いはどうした?
「逃ゲラレチャ…
ショウガネェ………」
去っていくジャックを見送りながら、Jr.は俺ルールで勝ったつもりになるのだった。
自分をなぐさめる負け惜しみだろう。
さいきん連勝でテングになっていたから、敗北の味がしみる。
刃牙をブチのめして、梢江をゲットする。そんな明るい家族計画がまっていたはずなのに、ロボコミとつぜんの最終回って感じでしょんぼりだ。
そして、五日がすぎた……
Jr.はファミレスで松本梢江とあっていた。
指に包帯がまかれている。
じょうぶな拳を持っていると思われていたJr.だが、ジャックの骨には勝てなかったようだ。
そして、顔はかなり普通にもどっている。
腫れているけど、鼻にテープをはっているだけだ。
陥没していた部分はどうやって埋めたんだ?
オマケに舌もくっついている。どういう手術をしたのか不明だ。でも、とりあえず治ったらしい。
独歩の右手をくっつけた梅澤医師の上をいく治療だ。
こういう技術を持っている人間は、鎬紅葉だけだろう。
もしかすると、ジャックが紅葉に連絡をしたのかもしれない。
鎬高昇の復讐をするという約束は守らなかったが、強敵への礼儀は忘れないらしい。
「君カラ………」
「元気ヲモライタクテ………」
病気でも もらえ。
じゃなくて、Jr.はやっぱりヘコんでいるようだ。
天才だけに負けた経験が少ないのだろう。
範馬の壁と理不尽さを思う存分味わったところだ。
そして、いばら色の結婚生活には範馬刃牙がジャマだ。これでヘコまなかったら、おかしい。
そして、梢江と会うとJr.は元気になるらしい。
なにしろJr.は逆境でこそ燃え上がる人だ。イツダッテ、Stand and Fight!だ。
松本梢江を見てふるい立たなければ男じゃない。
常人の発想には無い気合の入れ方だ。
直後にJr.が「OHッ」と叫ぶ。梢江を直視してシミたのか?
確かに、その二つ前のコマに出ている梢江はマジ…いや 本気でキツい。
熱いコーヒーがしみただけらしいが、オレは疑る。
なお、梢江はここで冷たい飲み物を提案している。
細かい心づかいのできる女の子をアピールしていて好感度アップだ。
飲むの止めたほうがいいんじゃないかと言わないところがいい。
闘いから逃げるな! 種類を変えてでも飲め! という態度にシビれる!あこがれるゥ!
これで、炭酸のキツいやつ頼んだら泣くね。
とりあえず、会うのはかまわんが、それ以上は期待するなと言われる。
でも、Jr.は会えるだけで十分らしい。
そう言っているけど、幸せそうな表情には見えないぞ。
Jr.は、まだ湯気の立っているコーヒーをゴキュ…ゴキュ…飲みほす。元気イッパイだぜ、ってところか。
さっき飲んだときのカップの傾け方から考えると、このコーヒーは二杯目だ。
たぶん間に冷たい飲み物(ケガ人だけに「ドクターペッパー」か?)もあっただろう。
そして、ホットコーヒーの追い討ちだ。
松本梢江、まったく容赦しない。泣けてくるぜ……
「お譲ちゃん」
「この兄ちゃんちょっと借りていいかな」
「渋川さん…………」
達人・渋川剛気の登場だ!
どん底状態のJr.を狙っていたかのようなタイミングで、達人はなにを狙うのか!?
次回へ続く。
達人の目的は復讐だろう。
復讐に決まっている。
そうなると、三つのパターンが予想できる。
(1)Jr.に倒されたことへの復讐
(2)ジャック・ハンマーへの復讐
(3)直接うらみは無いんだけど、刃牙と勇次郎への復讐
(1)の場合だと、弱っているJr.を倒すチャンスだ。
達人は、復讐のためヤカンをもって街を徘徊した事もある。執念深いのだ。
体は死闘で弱っている。心は梢江と向き合い衰弱している。今なら余裕で勝てそうだ。
今度はやさしくJr.をノックアウトしてやると考えているだろう。
(2)の場合だと、達人はJr.と共闘してジャックに当たることになる。
柳に二人がかりで攻撃した事があるのだ。ジャックにも二人で襲いかかる気だろう。
ただ、達人はジャックへの恨み言がない。最大トーナメントでは負けて納得しているようだ。
それに、ジャックとJr.がもう一度闘うのも新鮮味がない。
ジャックへの復讐説はすこし弱い。
(3)はジャックにこだわらず、範馬一族への復讐だ。
勇次郎にはすこし怨みがある。柳との決着の場に出てきて、結果的にジャマをされたからだ。
もちろん、その前に本部がジャマだった。本部への怨みはもっと強い。
あれから本部は出てこなくなった。たぶん達人が復讐したのだろう。
話をさかのぼると、柳には刃牙が常に絡んでいる。
柳は刃牙を低酸素で倒した。あれで刃牙を倒せると思ったのか、柳は刃牙狙いをはじめている。
達人にとっては面白く無いだろう。
柳に逃げられたのも刃牙があっさり倒されたからだと 恨んでいるかもしれない。
と言うわけで、Jr.をけしかけて範馬一族に迷惑をかけるのを狙っていそうだ。
もちろん自分は安全なところから見ているだけ。さすが達人、策士だ。
普通に考えれば、Jr.に合気を教えるのだろう。
そこに独歩も加わって、チーム・アライの誕生だ。
こういう展開では、普通すぎてつまらない。
そもそも、すでに完成しているアライ流に新要素を加えるとバランスが悪くなりそうだ。
新しい技術を学ぶことが強さにつながるとは限らない。
その上、アライ流は特殊な格闘術なので他の技術とは相性が悪そうだ。
また、大擂台賽・後半を見ると、技術は力に勝てない傾向がある。
技術系のJr.がさらに技術をみがいても刃牙に勝つのはむずかしい。
とにかく力をつける必要があると思う。
どちらにしても、最近まったく出番のない刃牙よりも主人公っぽい。
困ったことにたまに出てきても、やる気が無い。
今回の表紙だって、ホクロがなければ普通にJr.だと思うところだった。
2005年6月16日(29号)
第2部 第255話 決闘 (635+4回)
達人・渋川剛気がデートの現場に乱入だ!
この快挙に日本中の読者がブラボーと叫ぶだろう。
少なくともバキSAGAに対するよりははるかにね。
達人が登場した事におどろいていたが、よく考えたら絶好のタイミングだった。
あやうくJr.と梢江の甘すぎる時間を堪能させられるところだったのだ。実に危なかった。
達人の助けがなかったら、ハチミツと砂糖を混ぜてじっくり煮込んだトロけるラブストーリーで瀕死の胸焼けになっていただろう。
それどころか、バキSAGA エピソードII 開始でJr.のライトセイバーがブンブンうなっていたかもしれない。
というわけで、読者の救世主・渋川剛気はJr.を連れ出そうとする。
渋川の雰囲気にただならぬものを感じたのかJr.はあっさり席を立つ。
「ゴメンナサイ梢江サン」
「ミスター渋川ト大事ナ約束ヲ忘レテイタ」
Jr.の優先順位は「渋川 > 梢江」となっているようだ。
梢江に対する思いは、その程度らしい。
それとも、梢江を巻き込むことを恐れたのだろうか。
とりあえず、ラブコメ展開には巻き込まれたくは無いぞ。
チャンピオンの場合コメディーよりバイオレンスだから、「バイラブ」か?
ちなみに順番はバロン・ゴング・バトルの名言「(バトルが終わって)勝利のメイクラブ」にのっとり、バイオレンスが先に来ております。
Jr.がさわやかなウソで梢江をゴマカしているとき、渋川先生はそっぽを向いていた。
正面を向くとウソがばれると思っているのかもしれない。
さらに、今回の渋川先生はつねにメガネが白くて表情がよみにくい。
メガネの下に放送できない凶暴な顔を隠していそうだ。
そして、Jr.と渋川先生は店を出る。
放置された梢江は、ちゃんとJr.がウソをついていた事に気がついていた。
ウソとしりながらも、Jr.を止めないあたりに、梢江の愛情の少なさを感じる。
大ケガしたあとだけど、またケガしてしまえと言っているようだ(偏見)。
プロポーズをして猛烈アタック中のJr.と逢ったのは、梢江なりに心が動いていたのかもしれない。
どう考えても、最近の刃牙は冷たいし。
それで、びみょうに期待をしてやってきたのだろうけど、Jr.も梢江よりも闘争を優先した。
男はみんなアタシを通りすぎていく。と、すっかり薄幸の少女だ(※ 松本梢江に「美」はつきません)。
「このあたりは」
「都内にしては緑も多くてな……」
「空き地もけっこうあって……」
「遊ぶにゃもってこいだ」
バキが住んでいのは国分寺の近辺らしい。都区外だから緑も多いのだ。
ちょっと歩いて緑の多い公園らしき場所に誘い込んだ。
達人は早くも上着を脱いでいる。
ヤる気だ。めっちゃ、ヤる気だ。復讐劇の始まりだ。
昼の公園でも、武術家二人……………勝負でしょう。
そして、緑の多いこの場所を選んだのは、殺したあと埋める気か!?
埋めるかどうかはともかく、渋川さんは入念に周囲の地形を調べていたのだろう。
どの場所なら、人目につかないか。交番の位置はどこか。埋めるならどこか。
柳が言うには渋川さんは慎重な人らしい。だから、しっかりと調査しているはずだ。
もしかしたら落とし穴も作っているかもしれない。
「理解(わか)ラナイ……」
「我々ハ決着ガツイテイル」
Jr.は渋川についてきたが、その行動が理解できないらしい。
前回の戦いは自分の圧勝だった。
もう勝負する必要なんてないと思っているのだろう。
この理屈だと、Jr.はジャックにもう戦いを挑まないことになる。
心は折れなかったが、勝てないと自覚していたはずだ。
Jr.は範馬越えをあきらめたのだろうか。
「ゲームだろうが遊びだろうが負けは負け」
「負けっぱなしは ど〜〜〜も性に合わんでな……」
渋川剛気が笑った。
前回の闘いでは、Jr.の拳に殺気がなかった。おかげで油断して負けた。
だが、今回は最初から本気モードに入っている。
本気の渋川をお見せしましょうというつもりなのだろう。
「やりましょうか」
「決闘」
メガネを外し、草履をぬいで、完全に戦闘モードに入った。
昼の公園で、本気の決闘が始まろうとしている。
意外な展開にJr.も汗を流す。地の利を取られ、気持ちの面でも負けている。
闘う前から、Jr.は圧倒的に不利な状態だ。
ファミレスで達人が声をかける前から、出会う前から勝負は始まっていた。
これが達人の作戦だろう。
(決闘ジャナカッタダト?)
(アノ………)
(アノ緊張感溢レル闘イガ……ッッ)
殺気は出ていなかったけど、先の闘いはJr.にとって十分決闘だったようだ。
表の世界には出てこないJr,だが、闘いの内容は試合形式なのだろう。
本人は本気で戦っていても、命のやり取りにはならない。
独歩と戦ったときに、Jr.は初めて人を殺そうとしていると感じていた。
つまり、それまでは殺す気で拳を振るったことは無い。
達人・渋川の経験にはまるで及ばないのだ。
今のJr.は人を殺す覚悟を経験したし、死にそうな目にもあった。
修羅場はJr.を強くしたのだろうが、同時にどこかが弱くなっているかもしれない。
心は折れていないが、磨耗した可能性がある。
闘いへの恐れが、生まれているのかもしれない。
(老齢ニ達シナガラ……)
(ナント言ウ負ケ惜シミッッッ)
自分のことは棚に上げて、怒るJr.であった。
そこは、老齢に達しながらすごいファイティング・スピリットだとほめるべきだろう。
自分の言動を振り返ると、同じような部分があるんだし。
それとも、こういう負け惜しみは若さの特権とでも言うのだろうか。
Jr.「歯くいしばれ!そんな大人、修正してやる!」 渋「これが若さか…」ってな具合に。
決闘にふさわしく、荒野を思わせる突風がふいた。
間合いは遠い。アライ流のジャブでも届かない。
しかし、張り詰めた殺気は交差し、周囲の獣は殺意にうたれ動きを止める。
この場にレッサーパンダがいたなら、立ったまま静止したかもしれない。惜しい。
渋川が仕掛けた。以前は、Jr.の攻撃を防御できなかった。今度は先手をとるつもりか。
渋川が動くと同時にJr.がジャブで迎えうつ。
射程距離と速度ではJr.が上だ。カウンターで、迎撃できる。
だが、目標である渋川の姿が消えていた。
渋川はとっさにJr.の足元に沈み込み、攻撃をかわしていたのだ。
同時に肩で足を打ち、Jr.を崩した。
最大トーナメントで、ロジャー・ハーロン相手にみせた技だ。
まっすぐ突っ込んで行き、手を出させる。
そこで、急にしゃがんで相手の視界から外れて、足を払う。
経験豊かな渋川だから、このタイミングを取れるのだろう。
急に足元にしゃがまれると人間は対応ができなくなるらしい。
特にボクシングから生まれたアライ流は、足元への対応が弱いはずだ。
普段はステップでよける。しかし、攻撃した瞬間を狙われては、よけようが無い。
Jr.はみごとに転んでしまう。
転んだアライ流は羽をもがれた蝶だ。攻撃も防御もできないキケンな状態だ。
チャンスを逃さず、渋川はJr.の人差し指を握りしめた。
「兄ちゃんや…」
「痛ェぞ…」
視線を合わせずに渋川が言う。
これは、目線で自分の行動を読まれることを避けているのだろうか。
もしくは残虐行為をおこなうので、相手に人間的な情が起きないようにしているのかもしれない。
そして、指を極めながら投げたッ!
枯れ木を折るような乾いた音が指からひびき、Jr.は地面に顔面から落ちる。
渋川剛気、容赦無し!
次回へつづく。
予想の範囲内ではあったが、達人大爆発だ。
前回は様子を見ながら戦って、Jr,の速度に反応できずに負けた。
だから、今回は積極的に動いて翻弄している。
場所の選びかたやメガネの光りかたにも、達人の本気が感じられる。
Jr.を倒して、渋川さんは何をするつもりだろう。
とりあえず負けっぱなしは嫌だというのは本音と思われる。
飽くなき勝利への渇望こそが、強さを生むのだ。
満足しちゃったら、もう伸びない。もちろん、刃牙のことだ
達人にはJr.と協力する気があるのかもしれない。
でも、まず自分が勝って指導する立場になりたいのだろう。
技を教えるつもりが無いのなら、命令する立場を狙っている。
なんか、いまのJr.はみんなから殴られていた末期のドイルみたいだ。
自分から敗北を認めると、開放感があるらしいぞ。
そして、梢江と駆け落ちしようと船に乗ったところで、日本刀を持ったバキに襲われる。
2005年6月23日(30号)
第2部 第256話 大変(てえへん) (636+4回)
これが禁断の渋川流か? 恐怖の指取りだッ!
相手の指を折りながら投げ飛ばす。本部には逆立ちしてもできない芸当だ。
Jr.はひたいを木にぶつけられ、ガガガッとこすりつけられた。
樹皮が削りとられるほど激しくこすられる。
しかし、Jr.の皮膚は血が出ただけで無事だった。てっきり皮がベロンとはがれたと思ったのに。
自分の敗北は認めず、人の負け惜しみも認めないアライJr.だ。面の皮の厚さも超一流らしい。
Jr.としては、顔よりもボクサーの命である拳の状態が気になるらしい。
左の人差し指が思いっきり折れていた。この状態で拳を握ることができるのは愚地独歩か花山薫ぐらいだろう。
親子二代の夢がつまった指を折った罪は重い。重いぞジャップ!
Jr.の表情にすさまじい殺気が宿った。
相手の大切なものを破壊して冷静さを奪ったのは、達人の作戦だろうか。
少なくとも、Jr.の戦力は奪っている。
ボクサーの攻撃はジャブから入るのが基本だ。右利きのJr.にとって左手を破壊されるのは、戦闘の起点をつぶされたに等しい。
まず、ボクサーの左を破壊するところが達人らしい老獪さだ。
いきなり力士の小指を狙っちゃう本部はなにを考えていたんだろう。
普段の知識量はどうした?
「決闘してんだぜ兄ちゃん」
「ボヤっとしてんじゃねェよバカヤロウ」
もちろん、決闘モードに入った渋川剛気が親切な忠告などするはずも無い。
しからば―――― ダメ押しィィィィッッをするような人です。
スキだらけの人をだまって見ているなんてできないのだ。背後からJr.の後頭部を蹴りつける。
この攻撃で、またまたJr.はひたいを木にぶつける事になった。
この攻撃は挑発しているっぽい。
冷静になるための時間をJr.には与えず、自分のペースで闘いを進めようとしているようだ。
みごとにつられたJr.は、怒ってハネ起き、反撃する。
Jr.は傷ついた左をあえて振った。
自分の左は死んでいないと言いたいのだろうか。
それとも、痛みで心が折れたりしないと主張するつもりか。
窮地におちいってなお、舌を出して相手を挑発する男なのだ。Jr.らしい負けず嫌いな行動だ。
Jr.の左手は拳ではなかった。
手を広げたままの掌底にちかい形状(かたち)だ。
もしかすると、掌底がアライ流の秘密兵器なのか。
グローブをはめるボクシングには存在しない攻撃方法だ。手首から先の形状を変化させている。
状況にあわせて使用と用法をかえる、――――――まさに全局面対応型 闘争術だッ!
傷ついた左手をあえて使ったのも、不意打ちの効果を狙っていたのだろう。
まさか指の折れた左は使うまい。
そんなふうに相手が油断していれば、一撃で脳をゆらすことができる。
だが、渋川剛気は数段上を行く。
Jr.の掌底フックより早く、掌底アッパーをきめたッ!
女の子のような体格といわれる渋川さんだが、背伸びをして手を伸ばせば、Jr.だって浮かすことができる。
蝶のように舞うボクサーが柔術家のアッパーで舞い上がった。
そして、Jr.の顔面をつかんで地面に叩きつける。
受身も取れず、Jr.は交頭部をまともに打ちつけた。
この一撃で視界はドロドロだ。
「兄ちゃん」
「大変(てえへん)なことになったぜ……」
現役バリバリの妖怪も逃げ出しそうな凶暴な笑顔だ。
渋川剛気のキケンな部分を惜しみなく出している。
もしかすると江戸っ子喋りをするのは、渋川のもうひとつの人格だったりして。
ぞく‥‥
大変(てえへん)なことに、Jr.の折れた左人差し指がふたたび渋川に握られていた。
折れた指をさらに痛めつける気か?
一箇所を徹底的に破壊するつもりなのか?
陽気なおじいちゃんとは思えない、邪悪な攻撃だ。
「ほい ♥(はぁと)」
指をひねる。勇次郎ににらまれた軍人のように、Jr.はつま先まで伸ばしてイエッサー立ちだ。
キンタマを握られている以上に、行動を掌握されている。
もう、脱出不能だ。
手ごろな木を探して、達人はJr.をぶつけた。
木に、地面に、数回も数十回もゴキゴキとJr.を叩きつける。
まるで、猫がネズミを叩きつけているようだ。
Jr.がボロボロの無残な姿に変わっていく。
「いい汗かいたわい」
「どーするよ兄ちゃん」
「もうチョイやるかい」
さんざんJr.を叩きつけておいてこの態度だ。恐ろしい。
中国には郭海皇という妖怪がおり、日本には渋川剛気がいて、ちょうどつり合っておるのだ。
渋川 vs. 郭海皇なんて試合になったら、のちの世に妖怪大戦争として伝わるんだろうな。
Jr.は全身から湯気を立ててぐったりしていた。
もう、へらず口も黒目も出てこない。
達人が指をはなすと、死体のように地面へ転がった。
「また逢おうか」
「兄ちゃん」
決闘モードの渋川剛気は、ここまで強い。
おごれる二世を圧倒して勝利だ。
これだけ強かったら、そりゃ遊びで負けたって言いたくなるだろう。
本気を出せば勝つんだし。
今回の達人は、Jr.の得意技を出せないようにして、自分の得意分野で戦っている。
戦いの場所を選んだもの達人だ。
最初から木にぶつけることを考えていたのだろう。
うかつに相手の誘いにのってしまったJr.は若すぎたッ。
達人に敗北したことで、Jr.は刃牙に対しての勝機を見出すかもしれない。
ジャックに敗北したのは、身体能力で劣ったからだ。
相手倒すだけの攻撃力が無いのに、相手の攻撃はめっちゃ効いてしまう。
性能に差がありすぎる。これでは勝てない。
だが、身体能力が自分より劣っている達人に、今度は負けてしまった。
つまり、戦術を考えて戦えば、身体能力の差を埋めることができるのだ。
昔の赤い人も「モビルスーツの性能の違いが戦力の決定的差ではないということを教えてやる」と言っています。
工夫しだいで、自信過剰の天才に勝てるのだ。
Jr.はそのことを自分の体に刻みつけられたのだ。ちゃんと学習しよう。でないともったいない。
次回は、またまたヘコんだJr.がファミレスで梢江と逢引するのかもしれない。
「昨日よりケガ増えてるンですけど」
「手術ヲシマシタ」
「箸もてる? スプーンにする?」
Jr.は根性出して手づかみで喰う。
そこに独歩が登場する。
「この兄ちゃん ちょっと借りていいかな」
「愚地さん…………」
「今度は眼帯ですか」
「手術ヲシマシタ」
「メニュー見える? 水だけにする?」
Jr.は記憶だけを頼りにホットコーヒーを注文する。
そこに範馬が登場する。
「この兄ちゃん ちょっと借りていいかな」
「バキくん…………」
「荒井注ですか」
「ドリフはやめました」
ボコボコにされすぎて、もはや別人の顔だった。
冗談はともかく、このままだと独歩だけあつかいが悪い。
もう一度 武神に機会(ジーフィー)をッ!
達人は「また逢おうか」と言っているから、再登場するのだろうか。
思いっきりブチのめしたから、次は機嫌がよくなっているかもしれない。
そうなると二人がかりで鬼退治か。
現在のチャンピオンは美少女キャラに力を入れ始めているようだ。
そうなると「兄ちゃん」を連発する渋川剛気は「妹のような可愛いタイプ」を意識しているのかッ!?
さすが達人だ。打ち込むスキが見当たらないッッッ!
2005年6月30日(31号)
第2部 第257話 こっちの世界 (637+4回)
Jr.と梢江がファミレスで三度目の逢引だッ!
達人に負けて元気がなくなったので、梢江から元気をもらいたくなったらしい。
負けたから、もらった元気がすぐに無くなるのだろう。
どっちかって言うと、梢江に会って元気をもらえるという前提がひどく激しく間違っていると思う。
梢江なんて飾りですらありません。エラい人にはそれがワカらんのですよ。
「うわァ…」
思わず梢江が声を上げるほどのダメージだ。前よりもケガが増えている。
どんなファイトをやらかしたのか、気になるだろう。
そして、思わず声を上げたくなるほどのアレな美少女っぷりだ。前より顔がデカくなっている。
どんなファイトをやらかしたのか、気にしたくもない。
「渋川さんと………」
「喧嘩したのね…」
「ケンカデハナイ…」
今度の戦いは決闘だった。いや、一方的な暴力だったのかも。
ケンカを否定するあたり、Jr.も戦いにこだわりを持ち始めたようだ。
これが独歩ぐらいの経験を重ねると、決闘ですら「ケンカ」だと言うようになるのだろう。
違いを知ってこだわるがゆえに、まだ甘い。
どっちにしても結果を聞かれなくてよかった。
また負けたの? とか言われたら、元気になるどころかヘコみます。
「死ぬまでやればいい」
キズだらけの喧嘩バカ二代目に、梢江は暴言を吐く。
目も合わせず「死ぬまでやればいい」だ。
刃牙に対しても同じような思いをしているのだろう。ちょっと冷たくなるのも仕方が無い。
そういう梢江本人もバキSAGAでは、(読者が)死にそうになるまでヤっていたんだけど。
やっぱ、(映像の)暴力ってよくないよねって話だ。
「強いのは俺 イイヤ俺が強い」
「イイヤ俺ッ イイヤ俺ッ」
「強いんだ星人」
松本梢江は激怒した。周囲の人間はこんなヤツばっかりなのだ。
格闘家には、自分がイチバンというタイプが多い。
最強を目指すと言うことは、自分以外の他人をすべて倒すと言うことになる。
刃牙だって、梢江の恋では止まらなかった。
そして、異星人との恋愛は苦労が多いのだろう。
範馬星人につづいて、強いんだ星人まで出てきた。
どっちの宇宙人とも永遠にワカりあえない気がする。
しかし、これで梢江が異常にモテモテな原因がハッキリした。
異星人の美的感覚は地球人のものとは違うのだ!
あいつら宇宙人だから梢江に欲情できるんだ。
みんな絶対ウソだと言いますが
本当のことなのでこれはしかたのない
ことなのです。
「傷ツイテ イタンダネ…………」
「僕ノタメニ………」
「え…ッ」
「イヤイヤイヤイヤ」
自分に都合よく勘違いする強いんだ星人と、地球向けではない萌えがバーニングする梢江であった。
梢江は目の前にいるJr.ではなく、バキのことで傷ついている。
Jr.に呼ばれて出てくる中途半端な優しさがかえって残酷だ。
そんなにモテモテ気分を満喫したいのか、この地球人は。
ふと、外を見ると愚地独歩が立っていた。
粋に帽子をナナメにかぶり笑顔でJr.を挑発している。
達人が出てきて、次は独歩かと思ったけど、本当に出てきやがった。
「呼んでる…」
「強いんだ星人」
もう、梢江はちがう星の話としてスルーしている。
それだけ、格闘家と一般人には差があるのだろう。
いずれ刃牙もこうやって消えていくのかもしれない。
むしろ、すでに消えているのかも。
刃牙は4/21を最後に姿をくらましているが、ナニをやっているのだろう。
ジャック兄さんにJr.の戦闘スタイルや弱点を教えたり、渋川さんや独歩にJr.負傷の情報を流したりしていたのかもしれない。
沈む梢江を残してJr.は席を立つ。
どれだけ愛を語ろうと、けっきょく格闘家なのだ。
好みの女の子よりも、強いおっさんの方が燃えるらしい。
Jr.は無言で独歩のあとを歩く。
いくら強イ男に弱いくても 誘われるままホイホイとついて行きすぎだ。
だから毎回クソミソにやられちゃうんですよ。
「おあつらえの空き地だ」
最初から目的地を決めていた渋川さんとは違い、独歩は思いつくままに歩いていたようだ。
愚地独歩は感性の人だな。
しかし、歴戦の勇者は漫然と歩いているようでも周囲をしっかり見ている。
ちゃんと、人通りが少ないことをチェックしていたのだ。
「3分以内に終わらせりゃいいワケだ」
そう言いながら、帽子・上着・メガネを取る。
相手より先に準備するところが経験の差だ。
戦う場所が決まった時点でゴングは鳴っている。それなのに動かないJr.は油断しすぎだ。
時間は三分、つまりボクシングの1ラウンド勝負だ。
ボクサーにとっては最もなじみのある時間だろう。
もう少し場所を探せば、五分ぐらい戦える場所も見つかっただろう。
しかし、あえて相手に有利な時間で戦う。不屈の戦士・愚地独歩らしい戦いかただ。
「アナタハ数日前…」
「僕ニ殺シ合イヲ挑ンダ」
「ソシテ敗レテイル」
渋川さんには、決闘ではなかったと言われた。
だから、今回は「殺シ合イ」と念を押している。
前に全力出して勝てなかったんだから、あきらめろと言いたいらしい。
Jr.は一度勝った相手とは戦いたくないようだ。
純粋に闘いが好きなのではなく、戦うことで自分を向上させることが好きなのかもしれない。
戦いたくないなら、最初から相手について行かなければいいのに。
どっちつかずの態度が、Jr.の拳を微妙に曇らせている可能性がある。
「あの勝負はもちろん坊やの勝ちさ」
独歩はあっさりと敗北を認めた。
人気・実力ともにトップクラスの愚地独歩だが、けっこう負けることが多い。
おかげで右目に眼帯をしているし、爆破されて顔中キズだらけだ。
それでも、闘いを止めないのが、愚地独歩のすごいところなのだ。
「現実にこうして俺(おい)らは坊やとやりたがっちまってる」
「ならばどーする」
「眼の前に立っちまった以上――――」
「叩きのめすのがこっちの世界だろ」
ここは「強いんだ星人」の世界だ。
相手が強かろうが弱かろうが、抵抗する以上叩きのめすしかない。
独歩は勇次郎に一度殺された。しかし、また勇次郎と戦うつもりでいる。本当にこりない男なのだ。
肉体を倒すことはできても、心を折ることができなかった。
相手の心をヘシ折るまで戦いは終わらないのだ。
独歩がヤル気なので、Jr.は違う角度から説得してみる。
自分はケガをしているのに卑怯じゃないかと。
確かに、ケガ人を襲うのはズルい。
でも、通り魔のように夜の公園やレストランで襲いかかろうとするのも卑怯だ。
Jr.はちょっと自分を正当化しすぎな部分がある。
「人間生きてりゃ飯も喰えば酒も飲むんだ」
「ケガもするし病気もするだろうよ」
「ベストコンディションなんて望むべくもねェ………」
「それがこっちの世界だぜ」
卑怯といわれても独歩はさがらない。
武術は日常坐臥が戦いなのだ。
試合と言う一点に向けてトレーニングをして対策を練るスポーツとは、違う。
選手ではなく戦士だといわれるJr.だが、精神的な部分がスポーツマンだ。
闘いに対する覚悟の差を感じてJr.は動揺している。
拳を交える前から汗が流れはじめた。
独歩はようしゃしない。Jr.の折れた指を軽く蹴った。
当たり前だが激痛が走り、Jr.は表情をゆがめる。
「坊やとはもう2度とやりたくねェ」
「俺(おい)らにそう言わせてみな」
相手を精神的に追いつめて独歩が宣戦布告だ。
出口の無い戦いに入ってしまった。Jr.がそう思っていたら、負けたも同然だ。
ロクにデートもできず、何度倒してもケンカを売られてはたまらない。
ジャックと戦ったときは、肉体的に追いつめられても意地を張ることができた。
しかし、精神的に追いつめられて抵抗することができるのか?
相手の心を折るため、独歩の執念深い攻撃がはじまりそうだ。
普通に打撃戦を挑んだら独歩のほうが不利だろう。
どうやって自分に有利な展開に持っていくのか?
独歩の活躍に期待する。
しつこいぐらい梢江が出てくる。独歩の執念よりも恐ろしいぞ。
根本的に「強いんだ星人」のJr.とはつきあえないのだろう。
Jr.は本人の知らないところで、梢江争奪戦から脱落しようとしている。
梢江は刃牙と上手くやりたいのなら、独歩の奥さん・夏江さんから夫婦円満の秘訣を教えてもらうべきだ。
ケガが増えているJr.だが、相変わらず梢江は本気で心配していない。
あのようすなら、Jr.の前で塩タンとかタンシチューとか、舌づくしの料理を食いかねない。
基本的に蛮勇系な女だしね。
独歩にJr.が負けたら、次は範海王だろうか?
ワルいが、範海王の勝つ姿が思い浮かばない。
範馬に苗字が似ているから期待させたが、範だけじゃダメなのだ。
餓狼伝の鞍馬彦一を見ていて思った。
範馬で重要なのは「範」ではなく「馬」なのだ。
範馬の「馬」は馬力の「馬」だ!
どこの馬の骨ともワカらぬ範海王より、鞍馬の方が範馬に近いと思う。
2005年7月7日(32号)
第2部 第258話 愚地の拳 (638+4回)
なんか世紀末救世主伝説みたいなサブタイトルだッ!
武神の拳は天の怒りなのか?
もしかすると愚地三兄弟とかいるのか?(ジャギ様のことは忘れてください)
武神はケガ人相手でも容赦しない。そして、一度ノックダウンしたぐらいではへこたれない。
なにしろ、拳を斬りおとされても心が折れなかった男なのだ。
独歩から見れば、指一本なんてダメージのうちに入らないのだろう。
「受ケヨウ」
独歩の殺気が電撃として伝わったのか、Jr.も戦いの覚悟を決める。
左手の包帯をはずし、人差し指を固定していた金具を捨てた。
金具をポケットに入れず捨てたのは、不退転の覚悟だろう。
もし、Jr.が日本人なら「小次郎敗れたり。勝って帰る者が、なにゆえサヤを捨てるか」と精神攻撃を受けているところだ。
武蔵 vs. 小次郎を知っている者なら、この攻撃に動揺してしまう。
もちろん、武蔵を知らない人もなにを言われているのか一瞬考えちゃうのでスキができると思う。
さすが伝説の剣豪・宮本武蔵だ。二段構えの言葉責めは四百年後の世にも通用する。
日本の古典を知らないJr.は、自分のした不吉な行為を気にせずに戦闘準備をする。
折れた指をムリヤリ握りこみ拳=ボックス(box)を作る。
ものすごく痛そうだ。
そして、ものすごくスキだらけだ。
独歩は喧嘩大スキなので付きあってくれるが、刃牙の前でこういうことをしてはイカン。
間違いなくバケツをかぶせられる。その上でボコられる。
たぶんズボンとパンツを下ろされ、「誰がパンツはいていいッつッた」と理不尽に怒られるだろう。
もちろん、生で蹴られてフクロ破れる。
やっぱりJr.はスポーツマンだ。ちょっと油断しすぎ。
「拳という箱……」
「ボックスをぶっつけ合い競い合う」
「ゆえにボクシング」
Jr.があまりにもスキだらけなのが不憫だったのか、独歩が小ネタで間をつないでくれた。
独歩は空手だけではなくボクシングにも精通している。
敵を知り己を知れば百戦あやうしからずだ。
自分のことで精一杯なJr.とは違い余裕がある。
なお、ボクシングの語源については、こちらのサイトに色々情報がのっている。
ちなみに、四角い(ボックス)場所で戦うからボクシングという情報がのっているが、それはマチガい。
大昔は丸いところで戦っていたから、四角くなった今でも輪=リング(ring)と言う。
独歩ちゃんのトリビアを聞き終わったころ、Jr.は会心の拳を完成させていた。
しっかりと見て確認している。すばらしいデキなんだろう、きっと。
しつこいようだが、その間はスキだらけですよ?
刃牙が相手ならこの間に睾丸の二つや三つは潰されている。
「3度目ハ ナイ」
「君ヲココデ ナックアウト スル」
「ソノ後 俺ハ…」
「君ノ顔ヲ 何度モ踏ミツケル」
「力イッパイ」
「許シヲ乞ウ 君ヲ俺ハ 決シテ許サナイ」
以下、踏んで許さないを繰り返す。ちとくどい。
3度目はないと強調しているところが、マジ…いや 本気でイヤがっている感じが出ている。
それよりも、ボクサーを基本としたアライ流が踏みつける宣言というのは、どういうことか?
うたい文句を「蝶のように舞い、象のように踏む」と変更したのか?
たぶん、ジャックとの戦いで踏みつけられた記憶が、Jr.の中に恐怖として残っているのだろう。
自分の知る最大の恐怖を相手に与えて、心を折ると決めたのだ。
この場に木があったら「何度も木にぶつける」と言っていたのかもしれない。
でも、渋川さんの時はすぐに気絶して恐怖を感じるヒマが無かったのかも。
他人がやった手段に頼ると言うことは、自信を無くしている証拠だろう。
己の武器を信じることができなくなれば、戦士は終わりだ。
戦いをすてた範馬のように別世界でヤリがいを見つけるしかない。
もちろん、ジャックの早食いのことだ。
長々とやっつけるプランを聞かせたJr.はステップを取りはじめる。
自信を無くしているかもしれないが、眼には力が残っていた。
まだまだ、戦闘意欲は消えていない。
「終わったかい」
「ハナシ」
「なら行かせてもらうぜ」
Jr.の脅し文句は独歩にまったく通用していない。
そりゃあ、手首斬りおとされた経験がある人だもん。
ついでに一度死んだこともある。
顔面を爆破されました。
とりあえず、眼帯と顔のやけどを見て、脅しが通用する相手かどうか考えるべきだった。
独歩があまりに平然としているので、脅したほうのJr.が呆然としてしまった。
闘いに対する覚悟の差が大きい。拳を交える前から相手に飲まれている。
一方、独歩は平然と歩きはじめた。
散歩に出かけるよう、とまでは行かないがヅカヅカと無防備に前進している。
ガシッ
間合いに入った瞬間、Jr.が右拳を打ち込んだ。
いつものアライ流は、踏み込んで打つ。だから射程距離が長く威力も大きい。
今回は踏み込んでいない。迎撃の拳だ。
渋川さんとの第二戦と同じく、打っているのではなく打たされている。
しかも、ケガをしていない右で攻撃していた。
これらは、全て独歩に読まれているのでは無いだろうか?
打撃は当たった。
しかし、その結果は………
プシュッ
拳が砕けた。
甲の骨が折れて皮膚を突き破っている。
硬いものを殴るとこういう風に折れるらしい。
殴った場所は独歩のひたいだった。
「ベアナックル時代には基本的な防御だったんだぜ」
頭部の中でもっとも強いところで受ける。
現代でも一応残っている防御方法だ。
高橋陽一のあんまり伝説ではないボクシング漫画「CHIBI−チビ」にだって出てくる防御方法だ。
信用性がかえって減ったかな…?
ヘビー級王者アイアン・マイケルも柴千春の頭突き攻撃で拳を破壊されている。
素手のボクサーにとって、相性最悪の技だ。
やっぱりボクサーの弱点は鍛えていない拳にあったようだ。
左手に続いて右手まで。
もう、針が折れたハチのような状態だ。
最初の接触でドン底の大ピンチになってしまったJr.だが、まだあきらめない。
人差し指が折れただけで、まだ状態のいい左拳を打ち込む。
同時に独歩がつっこんできた。
ガキッ
独歩の狙いは打ち込んできた左拳ではなく、温存した右拳だった。
戦場における非情の戦術は「敵の愛するものを叩け」だ。
ガードに残した右拳をあえて殴った。
骨がさらに飛び出し血の噴水がわき出る。
「決して許してあげない」
非情の愚地独歩が残酷に告げる。
肉体を倒すのではなく、心を折る。
独歩もJr.と同じことを狙っていたのだ。
二度と戦いたくないと思うまで、決して許さない。
次回、心は折れるのか!?
前回、正面から殴り合って負けたのがくやしかったのか、かなりエゲツナイ独歩になっている。
Jr.もジャックや渋川さんとの戦いで非情さを知ったものの、実践はできていないようだ。
やっぱりどこか甘い。ゴングで闘いを始めるスポーツマンの心が抜けていない。
Jr.は今後どうするつもりだろう。
踏むといっていたから、踏み技を身につけているのだろうか?
せっかくアライ流を完成させたんだから、パンチにこだわって欲しい。
ジャックのドーピングを分けてもらって力をつけて、渋川さんの戦術を学び、独歩の心構えを学ぶ。
これで心技体三拍子そろった究極のボクサーが完成するかもしれない。
素手で殴ると拳が壊れるという弱点はそのままなんだろうけど。
2005年7月14日(33号)
第2部 第259話 自由 (639+4回)
Jr.の右手はバキボキに破壊された。
これで両手とも負傷したことになる。普通だったら戦闘不能だ。
両腕が折れても戦うのは範馬バキぐらいだといわれている。バキなら両玉がつぶれてもヤるだろう。
しかし、無慈悲な武神・愚地独歩は「許してあげない」。更なる戦闘を始めるのだった。
傷ついているJr.の右手を容赦なく蹴る。
独歩のヤツ 攻撃のポイントを中心から末端へもっていきやがった!
というオドロキは前回と同じだが、敵の攻撃力をつぶした状態でも容赦ない攻撃をする。
まるで、恥辱のきわみを受けたサムワンにダメ押しの一撃を喰らわすがごとき所業だ。
骨折に骨折を重ねるような痛みでJr.の動きが止まる。
そのスキをのがさず、独歩が手刀を叩き込んだ。狙いは左手だ。
比較的無事だった左手もこの一撃で出血する。
とことん末端を攻めている。まずは、攻撃力を完全にはぎとるつもりだろうか。
体の中心を攻撃するのは、より深く踏みこむ必要がある。だから、反撃を受けやすい。
Jr.は拳の攻防だけなら最速の男だ。想像を超える反射神経と、反応できない拳速を持っている。
ヘタに近づくのはリスクが大きい。攻撃力を奪い取ってからじっくりと体を攻めるのだろう。
ムエタイを壊すには、まずパンツからという事らしい。
「喧嘩で相手の弱点を攻めるのは常識じゃねェか」
独歩が非情の街頭ルールをあらためて説明する。
Jr.は文句こそ言わないが、かなり不満そうがあるようだ。
気持ちよく戦えないと言う時点で、独歩のペースに巻き込まれている。
独歩は喧嘩ルールを勝手に死闘ルールに変えてJr.の拳が当たらないようにした過去がある。
場の空気を読んで自分のペースに巻き込んでいけるのは、百戦錬磨の経験があるからだろう。
それに比べると、バキ一人戦いに引きずり出せないJr.はしょせんボーイです。
バキと戦うだけなら、シコルスキーにだってできますよ。
ケガをしているところばかり攻撃されてはたまらない。
Jr.は大きく間合いを取った。緊急回避だ。
そして、すばやく上着を脱いで引き裂き、拳に巻きつける。
グローブ完成ッ!
この間7コマ。はっきり言って、あまり素早くないしスキだらけだ。
漫画版ガン×ソードで言えば、今週からヒロインの髪にトーンを貼りましたって感じのパワーアップだ。
うむ、次回はがんばって髪にツヤを入れよう!
Jr.の布と同じく効果が薄そうだが、理論上はパワーアップしているはずだ。
「カマンッ」
「カマンじゃねェだろ ‥…ったく」
「グラブができるまで人を待たせておいてよォ」
普通にツッコまれてしまったッッ!
せっかく不屈の闘士を持つ男を演出したのに、これでは喧嘩に不慣れなボクサーくずれだ。
今のJr.は、喧嘩も得意だったユリーとガチで戦えば負けてしまいそうな勢いがある。
とりあえず、ムエタイかロシア人を喰ってパワーアップしたほうがよさそうだ。
「ま……いずれにしろ」
「これで少しはカタチになるか……」
敵がグローブと言う名の武器を装備したのにも関わらず、独歩はよゆうを見せている。
まあ、ここで動揺したらカッコ悪いし、つけこまれる。
武道家たるもの、追い詰められているときにこそ冷静に対処しなくてはならない。
もっとも、折れた骨が飛び出ているJr.の拳は、布巻いたぐらいじゃダメだろうと判断して、余裕があるのかもしれない。
独歩はいきなりJr.に近づく。ジャブもフェイントも無しで間合いに入ってきたのだ。
あわててJr.はジャブを出す。しかし、独歩は上体をふって見事にかわした。
245話でも独歩はJr.のジャブをよけている。
いくらJr.のジャブが速くても、打ってくるタイミングがおおよそわかれば当たらないようだ。
そして、独歩はボクシングには存在しない攻撃―――― ジャンプしてからの蹴りを放つ。
こういう攻撃が出てくるボクシングは車田漫画ぐらいのものだ。
Jr.もさすがに対応が遅れる。
とっさにステップバックするが、飛ぶ独歩にからは逃げられない。
横によけていればよかったと思うのだが、飛び蹴りは想定の範囲外だったのだろう。とっさに両腕でガードを固める。
アライ流は敵との接触をなるべく避ける格闘技だ。
ガードした時点でかなりマズい。空手家ならマウントを取られる寸前といったところだ。
しかも、独歩はさっきまで拳を狙っていた。ガードは相手にエサを与えたようなものだ。
ガシュッ
狙いは足だった。
けっこう痛い急所である足の甲を蹴りつぶされた。
これまた激痛、そしてJr.は激怒する。
傷ついた右拳をかまわず打ちこむ。
しかし、ヒジでガードされる。痛めた拳がさらに痛い。
右は痛すぎて使えないのか、今度は左で殴る。
独歩のほおに当たるが、当てたほうも痛い。
なんか、攻撃しているJr.のほうがダメージでかそうだ。
ベキンッ
しっかりと腰を落とした騎馬立ちから独歩が拳を放つ。
Jr.のヒザからイヤな音がした。
おどるようにJr.がよろける。
これで両手両足、全てにダメージを負った。
まさに羽をもがれ、針が折れた状態だ。
「これで」
「武器は全てなくなっちまったワケだ」
などと独歩は言っている。でも、本当はちがう。
格闘者にとってイチバンの武器は闘志だ。闘う意志がある限り敗北は無い。
もちろん独歩もわかっているはずだ。
だから、肉体的に戦闘不能だと告げて、Jr.の闘志を萎えさせようとしているのだろう。
北風と太陽のような作戦だ。温かい言葉だが、含まれた毒が心を腐らせる。
「俺(おい)らはもう帰(けえ)るがよ」
「続ける続けねェは坊やの自由だ」
「勝手に後ろから襲いかかるもよし」
「敗(ま)けたと思うなら放っとくもよし」
「決めるのは坊やだ」
そして独歩は去る。
勝敗判定をJr.に預けたように見せかけ、戦闘を放棄したのは独歩の方だ。
相手の心を暴力で折ろうとすると、反発される。なかなか折ることができない。
ジャックと戦ったときのJr.がそうだった。
ドイルもそうだった。
ジョジョ5部のG・E・レクイエムでひたすら起きては殺され起きては殺されプレイを受けたみたいに、ボコられ続けても敗北を認めなかった。しかし、優しくされたら上着を脱いで敗北を認めた。
まさに北風と太陽だ。
独歩は楽な逃げ道を教えてやることで、Jr.の闘争心を溶かしたのだ。
背後に逃げ場所があると人間は踏んばれない。
敵を完全包囲すると窮鼠猫を噛む状態になるので、わざと逃げ道を残すことは戦術的にも有効なのだ。
つらく痛い戦いを追いかけるより、立っているだけで訪れる休息をJr.は選び取ってしまった。
Jr.は自ら敗北を選んでしまったのだ。
屈辱の涙を浮かべ、Jr.はただ立ち尽くす。
肉体的には思ったよりダメージを受けずに戦いが終わった。
最悪、改造手術が必要になると思ったけど開放性骨折ですんだ。
バキ世界なら三日で治る。
骨が出てなければ、三時間で治ったかもしれない。惜しいことです。
しかし、精神的に再起不能かもしれない。
ギブアップやタップのように「まいった」の意思表示をしたわけではないが、完全敗北を認めてしまった。
戦闘恐怖症になってもおかしくない状態だ。
このままだと、バキが戦わずして勝利となるのだろうか。
ある意味では、負ける戦いにはたどり着けない達人を超えている。
ヤル気の起きない戦いが、バキにたどり着けていない。
範馬勇次郎クラスになると、核ミサイルだってたどり着けなくなるかもしれない。
やっぱり、Jr.は死刑囚編からやり直したほうがよさそうだ。
スペックのように燃え尽きてもいい。
シコルスキーに学べば梢江を拉致ってバキと戦える。
ドイルに学べばさわやかな敗北を知るだろう。
柳のように本部に説教されるのもいい。
いっそうのこと、ドリアンのように全てを忘れてしまえ。特に女性関係だ。
肉体は三日で回復しても、精神は簡単にはもどらないだろう。
次回はJr.復活のための儀式が必要だ。
考えたくは無いんだけど、SEXしてパワーアップしたバキを思い出してしまう。
2005年7月21日(34号)
第2部 第260話 ファイト (640+4回)
また、ファミレスかよ。そして、梢江かよ。
くどい、しつこい、引かぬ、媚びぬ、省みぬ!
萌え系の読者に媚びて女性キャラをまったく出さない。それぐらいの譲歩が欲しい。
それにしても、格闘の帝王学をまなんだ人は考えることが常人とちがう。狂人のそれに近い。
むしろパンチドランカーだ。やったことをすぐに忘れて、同じ事を何度もくりかえす。
こいつら何回目のデートだっけ?
一、二、三で、四回目だ。さすが打たれると立ち上がってしまう男である。
痛みを感じると梢江に逢ってしまうようだ。殴られるたびに記憶も壊れているのだろうか?
死ぬ寸前に見る景色はきれいに見えるらしい。
死ぬ思いをした後の松本梢江は、真夏の冷えたビールみたいなモノなのだろう。
ちょっと、尿の色に似ている。
Jr.のダメージは深刻だった。右手は親指を残してギブスに固められている。
左手は人差し指と中指がギブスに、右足もギブス、左足はヒザサポーターとスネにも器具をつけている。
あやうく甲賀忍法帖の地虫十兵衛になるところだ。まさに満身創痍である。
無事なのは金的ぐらいだ。不思議とJr.は股間を攻撃されない。
金玉を狙い狙われるのが常のバキ世界において、Jr.の不可侵金的は大いなるミステリーだ。
「会うたびにケガが増えて………」
さすがに梢江も普通につっこむしかない。
かける言葉に悩むだろう。会うたびに毛が増えていたら、言葉に詰まるのと同じだ。
ついでに、会うたびに負け犬臭も強くなっている。しかし、Jr.はあいかわらず強気だった。
さぞかし頭にも打撃を受けたのだろうと心配になる。
「会ウタビニ ケガガ増エテイル」
「ドウイウ事ダロウ」
「ボク等ハ何度モ会ッテイルトイウコトサ」
なんというポジティブ思考だ。
むしろ、こじつけや はぐらかしに近い。範馬流話術に対抗して、アライ流話術なのか?
こうやってJr.は一方的にボコられた事実を隠そうとするのか。
しかし、己の弱さに向き合えないのは心が弱い証拠だ。
敗北した事実を認めないことには、敗北の原因追及と対応ができず、同じ失敗をくりかえす。
ジャック戦の敗因は身体能力の差だろう。身体能力を上げるか、差を埋める技術が必要だ。
渋川戦の敗因は油断と戦術ミスだ。相手をナメていた上に、相手のペースに乗せられてしまった。冷静な判断力と鉄の自制心が必要だ。
独歩戦の敗因は現状認識の甘さにある。自分のケガと拳の弱さを認識していなかった。あの場合は「スピード勝負だ」と言って走って逃げればよかったのだ。
Jr.の最大の弱点は、判断力が低い点にある。
彼の選んだ女性を見れば一目瞭然だ。
「友達だから」
「会うこともあるでしょうね」
「2人ノ関係ヲドウ呼ブカ」
「ソレハ重要ナコトデハナイ」
「少シズツデハアルケレド……」
「ボク等ハオ互イヲ理解シ始メテイル」
わざわざ「友達」を強調してしゃべる梢江に対して、呼び方は重要でないとごまかす。
ならば、ガキ警察風に「闘猛友達(トモダチ)」と呼ばれてもいいのかと問いたい。
梢江が「恋人」といったら「呼びかたが重要。二人の関係が進展した」と言いだしそうだ。
まあ、なんにせよ相互理解はいちおう進んでいるらしい。
Jr.は梢江の意見を聞かずにレモンティーを頼んでいたようだ。毎回ワンパターンな逢引なのだろう。
席も梢江が出口に近いほうと決まっている。
つまり、梢江は逃げ出しやすいポジションを選んでいるのだ。
レモンティーも酸味のあるレモンを相手に投げつけるための選択だろう。
理解はあっても信頼は無いらしい。
「愚地館長とはどうなったの」
ウダウダうるさいJr.に、梢江がきびしい一言を投げつける。
そうとうきびしい一撃だったようで、Jr.の動きは止まり、目から光が消えた。
そして、コーヒーを一杯飲むほどの時間がたって みじめな告白が終わった。
「ひどい負けかた……」
「僕ハ負ケテナイ」
思わずボソリとJr.は言い返す。
はっきり言えないあたりが弱気になっている証拠だ。
もうダメ。全然ダメ。ボウシのつばで目を隠しちゃうほどダメだ。
「カッコわる」
こ、梢江に言われてしまったァ〜〜〜〜ッッ!
さすがチャンピオンがほこる「リアルファイト・ヒロイン "スネ蹴る娘伝説〈Saga〉"」だ。
人がいいにくい事をサラっといいやがる。
いくら負け惜しみをいっても、第三者からこういうことを言われたらおしまいだ。
Jr.、かっこ悪い。
さて、そろそろ範海王が登場するころですか?
「愚地克巳さん?」
「NOォ……………… これはミスター・オロチではない」
ってな感じで出てくるのか。
以前に背後と窓から御指名があったので、今度は床か天井から出てくるのだろう。
今のJr.なら範海王でも余裕で勝てる…………か、どうかワカらない。
海王十二人の中で もっとも評価に困るのが範海王である。
ところが、Jr.はなにごともなくホテルに帰ってしまう。
ベッドに寝転がり反省中だ。
なるほど、ここで範海王が出てくるワケだ。
強敵との決戦をひかえた男がホテルで謎の敵に襲われる。
グラップラー刃牙の「範馬勇次郎 vs. 愚地独歩」を前に鎬紅葉が登場するシーンの再現だ。
ドアベルが鳴った。間違いなく範海王がやってきたのだ。
と、思っていたらホテルマンだった。
シィィトッッッ! フェイントか。
たぶん、このホテルマンの中に範海王が潜んでいるのだろう。
Jr.は猟奇的にピンチだ。
あやしげな笑顔をうかべたホテルマンは地下二階「孔雀の間」にてJr.を待つ者がいるとつげる。
地下、そして孔雀ッ!
地下といえば、地下闘技場である。これバキ読者の常識。
そして毒蛇を喰らう孔雀は、悪鬼を降伏する孔雀明王のモチーフになったほど攻撃的な鳥なのだ。
間違いない。戦いの予感だ。
「毒蛇を喰らう孔雀」が、「梢江を喰らうJr.」の暗喩であるという解釈は一切受けつけない。
そして、範海王が相手ではないだろう。
いくらガンバっても範海王じゃ孔雀にはなれない。
弟の李海王のほうが、毒つながりで孔雀っぽい。
しかし、残念ながら孔雀の間はパーティー会場だった。
そこに匿名希望である一人の男がまっている。
会場貸し切りでホテルマンをあやつる謎の男とは?
ジャックか? 勇次郎か? オリバか?
開かれた扉の先には……………
ガウンを着たアライがいた。
ドッペルゲンガーか!?
もうひとりの自分を見たら死ぬっていうけど、これはJr.が死ぬ予兆なのかッ!?
「父さん…」
って、オヤジのほうかよ。
そっくりだから素でカンちがいした。アップになると違いがわかるのだが、ロングだと判別しにくい。
まあ、アライ氏なら貸し切る財力があるだろう。
でもって、ホテルマンもボクシングのカリスマにあえて大喜びだ。
「どーしてここに…ッッ」
もしや、梢江との結婚にダメ出ししにきたのか?
Jr.は当然ツッコミを入れる。
てっきり時空のハザマにある回想空間で永遠にジャーナリストとインタビューをしているのかと思っていた。
とりあえず、ジャーナリストは回想空間に置きざりですか?
手段はともかく、父・アライ氏の来日目的は「ファイト」だった。
アイアン・マイケルを励ますために降臨したサリバンの霊みたいだ。
えっと、………もしかして このアライさんは霊なのか?
「おまえとだよJr.」
「ノーグラブだ」
オトンが息子に宣戦布告だ。
かつてJr.に破壊されたと告白したアライ氏が、ふたたびJr.と拳を交えると言うのか。
駄々っ子と化しているJr.を立ち直らせるのは父親の役目だ。
アライ魂が大爆発している。腐った根性を叩きなおしたるッ! オヤジの拳骨はなにより痛い。
そんな感じで張り切っている。
アライ父はわが身を犠牲にしてJr.を復活させようと考えているのだろうか。
でも、Jr.は手足を負傷しているのだ。
あんまり追いつめるとボクサーのダークサイドに取り込まれるかもしれない。
親殺しの果てにダース・ジュニアとなってサイボーグ化したらシャレになりません。
まあ、順当な予想としては、Jr.の本気を取り戻させるのだろう。
かつて実父を自らの手で破壊してしまったJr.は、無意識に実力をおさえるようになってしまった。
アライ父はもう一度Jr.と戦うことで、ためらい無く全力パンチを打つ天才児マホメド・アライJr.をよみがえらせるつもりなのだ。
ついでに、女性の好みも標準に戻させよう。
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