スペシャルマッチ! (16)〜(20)


スペシャル・マッチ!(16)〜運命の奴隷作:MBO

<前回までのあらすじ>
準決勝第一試合は刃牙チームが激勝! しかしその時、範馬グレートのマスクに異変が…!?

刃牙「親父、その頭は…!?」
範馬グレート「あ、頭……?」
しまった、バレたか? 焦るジャック。しかし…
刃牙「なァ〜んだ、ハゲだったのかァ〜
にこやかに笑う刃牙。
ジャック「誰がハゲじゃボケーーーッ!!」
バコッ
考えるより先に、つい手が出てしまったジャックだった。
刃牙「な、何だよォ〜ッ」
ボコッ
と、逆切れした刃牙も殴り返す。
アナ「おおっと範馬ブラザーズ、仲間割れだ〜ッ」
そんな、殴り合いをする二人を、遠くで暖かく見守る人影があった。父、勇次郎であった。
勇次郎「最高の兄弟喧嘩だ…」

一方、こちらは医務室付近の通路。
高木「何だよコラーッ! 俺は加藤さんを応援に来ただけだっつってるだろーが!!」
小坊主「うるさい、おとなしくしろッ」「話は後で聞いてやる!」
小坊主二人が、高木を連行していくところであった。そこへ…
加藤「すまないが、そいつを離してやってくれないか?」
高木「ああっ加藤さん!
加藤「そいつは、俺の後輩なんだ」
小坊主「わ、分かりました」
突然現れた加藤にたしなめられ、小坊主達は、そそくさと通路の奥に消えていった。
加藤「高木、どうしてこんなトコに…」
高木「俺、加藤さんの応援に来たんス……でも、もう負けちまったって…」
加藤「ヘッ、馬鹿な奴だな、お前は…。応援なんかあったって無くたって、俺が勝つことなんてあるわけねえのによ…」
高木「な、何を言うんですか、らしくないっスよ!」
しかし、加藤はブラフかましてる時の猪狩のように生気の無い顔で答えた。
加藤「俺はお笑いキャラとして、みんなの引き立て役として、この大会に参加したんだ。でなきゃこんな、やられザコ役の俺なんかが出してもらえるわけねえだろ」
高木「そんな…加藤さんは刃牙のライバルじゃないっスか!!」
加藤「刃牙のライバルか……そんな時代もあったなァ……
加藤は、遠い目で答えた。
加藤「いいか高木、俺達は運命の奴隷だ。運命からは誰も逃げられねえ。俺だけじゃねえ、例えば克巳や鎬兄弟だってそうだ。いつのまにか皆、引き立て役の、驚き要員じゃねえか。それが運命って奴さ。元々こうなる運命だったんだ」
高木「そんな…そんなこと言わないで下さいよ。俺、加藤さんに憧れてたんですよ。ギラギラした目をして、闘志をむき出しにして……カッコ良かった」
半泣き入ってきた高木のセリフに、加藤は大きく溜め息を吐いて言った。
加藤「お前、栗木さん知ってるか」
高木「えっ、あの、伝統派空手の…?」
加藤「そうだ。俺は、あの人に憧れてるんだ
何ぃ!?
加藤「みんなから馬鹿だの弱いだの言われてよう、虚栄心が強いだとか、身のほど知らずとか………掲示板でウケ狙おうといったら、まずみんな栗木ネタだ」
高木「加藤さん…」
加藤「けど…それでもあの人は、無謀にも自分の力を過信して、出来もしない奥義を引っさげて、勝てるはずの無い相手に向かって行く……」
そう言って加藤は大きく天を仰いだ。
加藤「あの人見てたら、真面目に格闘やることすら
馬鹿らしく思えてきちまってよぉ…」

高木は思った。もう駄目かもしれない。
加藤「今は”三流やられ雑魚キャラ”という、自分に与えられた役割を果たすことが全てだと思っている」
と、その時、噂をすれば影とばかりに栗木がやって来た。傷が完治していないのか、包帯でぐるぐる巻きの姿だ。
栗木「加藤君…」
加藤「ハ、ハイィッ栗木さんッ!!」
敬礼する加藤、まるでガーレンの前のロジャー・ハーロン状態だ。
栗木「サイトのため、読者のため、お笑いのため…つくづくそんな運命から逃れられないらしい…
……それが幸福でならない
どうやら栗木は、二人の話を聞いていたようだ。
栗木「考えよう加藤君…ていねいで…面白くて…真剣なギャグを!
加藤「く、栗木さん!!」
加藤の心は、トキメイテいた。
高木は、手を取り去っていく二人を見送ることしかできなかった。
高木「加藤さん……もう俺の知っている頃の加藤さんではないんですね…」

場内アナウンス「準決勝第二試合、青竜の方角、2000万パワーズ!!」
(続く)




スペシャル・マッチ!(17)〜グレートvsグレート!!(前編)作:MBO

<前回までのあらすじ>
長かった二回戦もついにファイナル! 烈海王&アレクサンダー・ガーレンの2000万パワーズと、松尾象山&グレート巽のヘル・グラップラーズが、決勝戦への切符をかけて激突!!

アナ「ついにこの時が来てしまったッッ!!」
場内アナウンス「青龍の方角、2000万パワーズ!!」
アナ「まさにッ、超ッ大物対決ッ!!!」
場内アナウンス「白虎の方角、ヘル・グラップラーズ!!」
アナ「まさに、グレート対グレートッ!! そして…」
ドドドドドドドッッ
観客達の足踏みが大きくなる。
アナ「まさに真の決勝戦だァーッ!!!!」
そこまで言うか!?

闘技場で対峙する両チーム、だが、彼らの瞳からは意外なほど殺気が感じられなかった。
アナ「静かな表情の両チーム! しかしタダでは済むはずも無いッ!!」
小坊主「両者もとの位置ッッ」
アナ「烈海王vs松尾象山!! 中国拳法vs空手!!!」
象山「烈君、一つ言っておこう。一回戦で君が勝ったのは、姫川勉という個人に対してだけだ。北辰館に勝ったわけではない」
烈「関係ないな。君たちのいる場所は既に2000年前に通過している。現時点での対決で、空手の勝ちは有り得ない」
アナ「アレクサンダー・ガーレンvsグレート巽! アマレスvsプロレス!!」
スッと、構えを解いたまま、ガーレンの方へ歩み寄る巽。
巽「握手だ、ガーレン君」
その顔には、屈託のない笑みが浮かんでいる。
ガーレン「………」
無言のまま、ガーレンも手を差し出す。その時!!
バシィッッ
巽は突然、烈の顔面に向かって蹴りを放った!!
ビリビリビリ
咄嗟にガードした烈の腕が痺れる。
烈「〜〜〜〜ッ
そして、殺気に気付いて振り返った烈の目に飛び込んできたのは、一直線に自分に向かって歩いてくる象山の姿だった。
ドシュッッ
前蹴り――
烈「ハッ!!」
バオッ
烈は一瞬の差で身をかわし、難を逃れた。しかし、それも束の間、眼前に巽の拳が迫ってくる。
ピシッパシッガッガッ
観客「か、空手だッ!!」
アナ「凄まじい速攻だッグレート巽ィ〜〜ッ!!!」
烈「ヌゥッ」
不意をつかれた烈は、巽の連撃を捌くだけで精一杯だった。
巽「どうだいミスター四千年、俺の空手じゃ不満かいッ?」
(後半に続く)



スペシャル・マッチ!(17)〜グレートvsグレート!!(後編)作:MBO

<前回のあらすじ>
2000万パワーズvsヘル・グラップラーズ! 死闘の幕が今、切って落とされた!!

象山「へっ、巽め、遊んでやがる。ま、じゃァ、そろそろこちらも始めようか。なァガーレン君」
ザッ
と、象山は、足で床の砂を大きく舞い上げた!!
ガーレン「!」
アナ「め、目潰し…ッ」
思わず目をかばって、体勢を崩すガーレン。
バチィッ
その側頭部に、象山の強烈な蹴りが決まった。
ガーレン「………!!
メキィッ
さらに、顔面に正拳突きが炸裂する。
ドドッドッドドドッ
アナ「腹部への猛烈なラッシュ、ラッシュゥ〜〜〜ッッ!!」
観客「決まっちまうぞオイッ」「ガーレンは何もできないッッ」
ガーレン「ぐ…ッ」
何とか体勢を立て直そうとするガーレン、しかしガードした腕の隙間を縫って象山の拳が切り込んでくる。
ズガッッ
さらに、強烈な回し蹴りを食らい、ガーレンは吹っ飛んだ。
アナ「飛んだ飛んだ、2M169Kgの巨体が地面と平行に飛んでいく〜〜ッ!!」
ドガッ
アナ「ブ厚い柵に叩き付けられたァ〜〜ッッ!!!」

巽「いいのかい、早く助けに行かねぇと、やばいんじゃねぇのか?」
不敵に笑いながら、烈を挑発する巽。
烈「フッ」
だが、不敵な笑みであれば烈先生も得意とするところであった。
スッ
観客「あ、あれはッ」
アナ「烈海王が大きくスタンスを広げた構えを……ッこの構えは…!!」
パパパパパパパパンッ
アナ「マッハ突きだーッ!!!!」
巽「ぐおおおおおおッ
ザザッ
必死で耐える巽。
アナ「た、倒れないッ! マッハ突きをくらって倒れない!!」
烈「フン…! そのタフネスだけは賞賛しよう!」
巽「ぬかせや小僧ッ」

一方、松尾象山は倒れたガーレンにとどめを刺すべく、歩み寄っていった。
ぬおおおおお
気力で立ち上がろうとするガーレン、しかし象山はそこに容赦なく攻撃を加えた!!
バキイッ ドゴッ ガスッ
象山の拳が、脚が、ガーレンの顔面を打ち、その度に歯が欠け、破片が宙を舞う。
………だが、ガーレンの目はまだ死んではいなかった!!
ガシッ
象山「!!」
アナ「ガーレンの腕がはじめて象山を捕らえた〜〜ッッ!!!」
ブンッッッ
アナ「出たァーーッ!! 全世界が畏怖れるガーレンスペシャルゥゥゥ〜〜ッ!!」
ドガッ
象山「ガハッ
受け身も取れぬまま後頭部を強打し、象山の体は枯れ葉の様に舞った。


――刃牙チーム控え室――
範馬グレートことジャックは、モニターを通してこの試合を見ていた。
しかし、刃牙の方は梢江ちゃんの膝枕で漫画を読んでいる。
範馬グレート「おい、いいのか刃牙。この試合の勝者が決勝で俺達と当たるんだぞ?」
刃牙「はァ〜? 何寝ぼけてんだよ親父、どう転んだって俺達の優勝に決まってるっつの!
バカじゃん?」
範馬グレート「…………」
(続く)



スペシャル・マッチ!(18)〜キューバ代表ヘクター・マレンが中国拳法でございます??(前編)作:MBO

<前回までのあらすじ>
準決勝第二試合、2000万パワーズvsヘル・グラップラーズ!!

何のイベントも組まれておらず、誰もいない東京ドームで、今日もバイト君は元気に働いていた。
バイト君「ふ〜、ったく、何の因果か、俺みたいないい若ぇもんが真っ昼間から…」
と、一息ついて汗をぬぐうバイト君、しかし今ワックスがけが終ったばかりの通路をスタスタと歩いていく二人連れが!
バイト君「! まだ歩くんじゃ……あッ!!
カラーン
バイト君は驚きの余り、モップを落としてしまった。
マイケル「おお、スマンスマン」
爺さん「ほっほっほ」
そう、その二人連れとは、あのボクシングヘビー級チャンピオンのアイアン・マイケルと、三崎健吾のとこの爺さんであったのだ! よくわからん組み合わせだ。
呆然とするバイト君のことをもう忘れてしまったかのように、二人は通り過ぎて行った。
マイケル「とりあえず、ヒゲは剃ることにしました…」
爺さん「ほっほっほ…惜しいのう……」
ただただ、バイト君は二人の後ろ姿を見送ることしか出来なかった。
ヒゲを剃ろうとしているアイアン・マイケルが、三崎健吾のとこの爺さんと二人で東京ドームにいる…。この両名の直撃世代とは言えぬ19歳の彼には、自分の置かれてしまった立場の重要性がよく解らなかった。
それは、他人の事など考えたことも無いぐうたらな男が、巨大ダムに亀裂が走っていることに
気付くこと無く通り過ぎてしまった時の心境にも似ていた。
バイト君「あ〜あ、なんだよあいつら。またやり直しじゃねえか」

一方、バイト君の数十メートル下に位置する地下闘技場では、ヘル・グラップラーズと2000万パワーズの激闘が続いていた。
死闘30分を超えるも、決着つかず。あまりにも凄まじい技の応酬に、観客達もトイレに席を立つことさえ出来なかった。
当初の予想では、短期決戦ならヘル・グラップラーズだろうと言われていた。
烈とガーレンは今までそれぞれ一人で蛮勇を振るっていたので、タッグ戦には慣れていない。
経験豊かなヘル・グラップラーズがそこをつけば、一気に突き崩せるだろうと言うことであった。
しかし、現実にはそうはならなかった。確かに、烈&ガーレンのコンビは、チームワークがいいとは言えない。が、それを補って余りある個人の技量で、そのハンディを埋めてしまっていた。
恐るべき力技である。
また、逆に戦いが長引けば、2000万パワーズが有利だと言うものもいた。年齢的に見て、ベテランである象山と巽はスタミナに不安がある、という理屈である。しかし、この予想も事実の前に崩れ落ちようとしていた。あれほどの激闘を30分以上も繰り広げながら、二人には疲労の色は微塵も見えなかったのである。これには解説のアナウンサーも「流石」の一言すら出なかった。
アナ「まっ、まさに怪物ゥゥ〜〜〜〜ッ!! 恐るべし2000万パワーズ、恐るべしヘル・グラップラーズ〜〜ッッ!!!」
睨み合う両チーム。
巽「ハア、ハア……フン、予想以上だな。………ぬう!?」
と、巽はある事に気がついた。自分と象山の顔から流れる汗が、かすかに肌色がかっているのだ。
目の錯覚ではないようだった。
象山「…しまった、おい、まずいぞ。時間切れだ」
象山も、同じ事に気がついたようだ。
巽「うむ……ここまでが限界と言うことか…仕方あるまい」
巽は憎々しげに烈たちを見た。
巽「最後の手段だ。あれをやるぞ」
と、象山に目で合図を送る。
象山「解った。一気にケリをつけるんだな」
その時、象山は巽がいつも言っていた言葉を思い出した。
”後援会を使ってもッ 特殊メイクを使ってもッ 最後に勝つのがプロレスラーだッ!!”
ヘル・グラップラーズが何やら合図を交わしたのを見て、2000万パワーズも油断なく身構える。
巽が、サインを出した。
「梶原、やれッッ!!」
(後半に続く)



スペシャル・マッチ!(18)〜キューバ代表ヘクター・マレンが中国拳法でございます??(後編)作:MBO

<前回のあらすじ>
梶原に連れられて、二人の男が白虎の方向から現れた!!

アナ「あ、あれはッッ!」
烈&ガーレン「!!」
二人は、目を見張った。
白虎の方向、梶原に連れられて現れたのは……
アナ「キューバ代表ヘクター・マレンと、”中国拳法でございます”の爺さんだ〜〜ッ!!!」
観客達は、言葉も無かった。ただ、得意げな表情の梶原だけが、一生懸命二人をアピールしようとしていた。
烈&ガーレン「だッ」
烈とガーレンは、目を見開いたまま思わずプルプルと振るえだした。
烈&ガーレン「だからどうしたって言うんだ??」
「ダッシャアッ!!」
バキッ
巽のドロップキックが、烈の後頭部に決まった。
ガンッ
柵まで吹っ飛ばされ、頭を打ちつける烈。
一瞬、意識が飛びかけたが、何とか持ち直して振り向いた。
烈「くッ、卑劣なマネをッッ」
しかし、向き直った彼の目に飛び込んできたのは、
シュバッ
目と耳から激しく血液を吹き出すガーレンの姿であった。
象山の秘技・六波返しが炸裂したのである。
巽「おっしゃァッ!!」
バキャッ
ふらつくガーレンに、巽のナックルアローがヒットした。
巽「もう一丁ッ!!」
バキャッ
アナ「またしてもナックルアロ〜〜ッッ!!」
さらに巽は、ガーレンをコブラツイストの形に持って行く。
烈「いかん!」
烈はダッシュした。ガーレンは半ば意識を失っている。自力でコブラから脱出することは出来ないだろう。そして、ガーレンの負けは、烈の負けをも意味するのだ。
アナ「おおっと巽ッ、コブラからグランドコブラにいったァ〜〜〜ッ!!」
烈「(頼む、間に合ってくれ!!)」
必死にガーレン救出に走る烈。しかしその時、彼は、おかしな事に気付いた。
烈「ハッ!?」
巽とガーレンばかりに気を取られていたが、象山の姿が、いつの間にか消えていたのだ。
烈「一体どこに!?」
タッグ・マッチという形式に不慣れであったための、ミスと言えよう。
烈が自分の背後に気配を感じて振り返った時には、既に遅かった。
烈「〜〜〜〜ッッ
ずいっ
象山の顔が、アップで迫っていた。
「だおォッ」
ドリュッ
咄嗟に拳を繰り出す。しかし、象山はそれを待ち構えていたかのようにカウンターを放った!!
カッッ
菩薩像――人差し指と小指を僅かに甘目に握った象山の拳が、烈の顔面を穿つ。
アナ「ちゅ…ッ」
烈の体は大きな弧を描いて宙を舞い、柵を超えて観客席まで吹っ飛んだ。
ドガッ
アナ「中国拳法敗れたりィ〜〜ッ! 2000万パワーズ敗れたりィ〜〜〜ッ!!」
小坊主「勝負ありッッ」
(続く)



スペシャル・マッチ!(19)〜近代空手vs中国拳法!作:MBO

<前回までのあらすじ>
ヘル・グラップラーズが2000万パワーズをくだし、決勝戦進出を決めた!

張「ま、まさか…」
担架で運ばれていく烈とガーレンを見ながら、張は呆然と呟いた。
張「あの、烈海王が負けるなんて……」
彼は直接烈本人と面識があるわけではなかったが、その武勇伝は幾たび耳にしたか、数えきれないほどであった。曰く、中国拳法の最高峰、”海王”の名を継ぎし者――。その烈が敗れる事など、およそ中国拳法家にとっては信じがたい事であったのだ。
そんな張の心中を知ってか知らずか、一人の空手家が傍にやって来た。「本部神心」と、胴着の胸に書いてある。――指導員、高木であった。
高木「空手の方が強ぇ…」 ボソッ
彼は、わざと張に聞こえるように呟いた。
張「…! な、何だと、貴様ッ!!」
ガシッと、高木の胸ぐらを掴む張!
しかしそんな脅しにも表情一つ変えず、高木は冷静に誘いを掛けた。
高木「ここは、ギャラリーが多すぎる……」
張「…フンッ、面白い」


――数分後――

人気の無い、寂しげな通路。
今ここで中国拳法と近代空手の代表者が雌雄を決しようとしているなど、誰が知りえただろうか。
張「ここらでいいだろう」
スッ…と身構える張。しかし、高木はそれをなだめるように手を振った。
高木「まてまて、張くん。はじめる前に、ちょっと面白いものを見てみないかね」
と、偉そげに言って指差すその先には、人の背丈以上もある土管が置かれている。いつ誰がこんなもん運んで来たんだ? しかし、張に疑問を与える間もなく、高木は土管の淵に手を掛けるとジャンプしてその中に入ってしまった。そして…
高木「ハッ」
ゴッ。土管を殴ったらしい、鈍い音が聞こえてきた。そして、しばしの静寂の後、
高木「…ぐ、ぐおぉ〜〜〜……
と言う、痛みをこらえるかのような呻き声が。
その後、コンッ、コンッと、さっきより弱めに土管を殴っているような音が聞こえてきた。
無論、土管は先程同様、微動だにしない。再び沈黙があった後、呆気にとられる張の前に高木は土管の中から戻ってきた。右手を摩り、心なしか、泣きそうなのをこらえているように見える。
張「フッ」
そんな高木を一笑に伏すと、張はくるっと背を向けて、通路の壁と向き合った。そして次の瞬間!
カカカカカカカッ
張は壁にすさまじい速さで連撃を叩き込んだ! そして拳を押さえて屈み込んだ。
張「〜〜〜〜ッッ
さすが鉄筋コンクリートの壁である、かすり傷一つついていなかった。
高木「ヘッ」
まだズキズキと痛む手を摩りながら、高木は張に言った。
高木「これからだな…」
「ああ…これからだよ……」
二人は思った。「こ…ッこいつ最高……ッッ」
と、その時!!
二人は、通路の向こうに強烈な殺気を感じて脱兎のごとく飛び退いた!!
張は通路の右側に、高木は左側に逃げたので、二人で道を開ける形となった。やって来たのは……
勇次郎「………」
範馬勇次郎であった。
二人「〜〜〜〜〜ッ
ブルブルと震えながら、思わず「気を付け」をする張と高木。
しかし、勇次郎は二人など眼中に無いかのように一瞥をくれただけでそのまま去って行った。
「ほっ」とため息を吐き、へたへたと座り込む二人。戦う気など、とっくに萎えてしまっていた。

象山「30分が特殊メイクの限界か…」
巽「ああ…次は、早めに決着を付けねばな……」
白虎の方向、入口からやや離れた通路で、ヘル・グラップラーズはウォーム・アップを続けていた。
ついさっきまであれほど熾烈な戦いをしていた筈なのに、たいして休息を取った様子も無い。
そんな時。 ギギギギギ… 不意に二人の耳に、壁を引っ掻いているかのような不愉快な音が聞こえてきた。…振り返る二人の目に映った人物は―― ギギギギギギギ ……”オーガ”、範馬勇次郎。
(続く)



スペシャル・マッチ!(20)〜もう一つのファイナル作:MBO

<前回までのあらすじ>
タッグ・トーナメントもいよいよファイナルを迎えようとしていたその時、ウォームアップを続ける象山と巽の前に勇次郎が現れた!

勇次郎「決勝進出、オメデトウ」
ニヤニヤと笑いながら勇次郎は言った。
象山「何の用だね」
たんたんとウォームアップを続けながら、象山が問い掛ける。”地上最強の生物”を前にしても全く臆した様子も見せないのは、さすが完璧グラップラーのドンと言ったところか。
勇次郎「あんな小僧たちを相手にするってえのに、随分と準備に余念の無いことだな」
象山の顔を覗き込むように見る勇次郎。そこへ、巽が割って入った。
巽「そんな事を言いにわざわざやって来たのかい?」
勇次郎「フッ」
そんな筈はないだろうとばかりにクスリと笑う勇次郎、
勇次郎「倅の刃牙も、今頃ウォームアップがてらに一勝負やらかしてるころだ」
象山「我々との試合を前に勝負だと?」
いぶかしむ象山。しかし、巽の方はしたり顔である。
巽「ヘッ、どうせリアルシャドーで俺達と戦ってるってんだろ!?」
だが、その台詞に勇次郎は首を振って返事を返した。
勇次郎「いや、違うな」
巽「なッ何!? じゃあ、いったい誰と?」
流石の巽も、意外な答えに動揺を隠せない。
勇次郎「小林流……知念さんとだッッ!!」
象山&巽「ち、知念さんとだと!?」

一方ここは、刃牙チーム控え室前の通路。
二人の格闘家が、向かい合っていた。刃牙と知念さんであった。
刃牙「でかい……4年前より!!」
刃牙は思った。
剛壮の破壊力と飛燕のスピードの拳を持つ男、知念さん。その巨体は刃牙より頭一つ分は高く、悠然と見下ろすその瞳には、静かなる闘志が秘められているようであった。まさにグレートだぜ。
どこから見ても強そうな男、知念さん。顔以外。
知念さん「目の上のたんこぶだった」
ボソリと、知念さんが言った。
知念さん「範馬刃牙の持つ主人公パワー、デタラメに変動する強さ、インチキ臭いパワーアップ…」
そう言って、天井を仰ぎ見る知念さん。
知念さん「そのどれもが憎く、羨ましく……」
そこで知念さんは一旦、言葉を切ってうつむいた。そして……
知念さん「範馬刃牙さえいなければッッ」
いや。
それはちょっと違うと思うよ、知念さん。あんたの場合、もっと根本的な問題があると思うし。
刃牙いてもいなくても関係ないよ、やっぱり。
しかし刃牙は、そんな知念さんの真顔の力説を一笑のもとに付した。
刃牙「プッ」
その顔を見た瞬間、知念さんは怒りに燃えて刃牙に突っ込んでいった!!

小坊主「シュ〜ッ。急げ〜」
トイレに走る小坊主が一人。
早くしなければ決勝戦が始まってしまう、そんな気持ちに急かされながら通路の角を曲がった時、
彼は余りにも凄絶な物を見てしまった。
小坊主「…ば……ッ」
そう、刃牙と知念さんの戦いである!
もちろん、即座に失禁した。
小坊主「化け物オォォォォォ!!!」
(続く)



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