今回、出番はすくないが裏でいろいろやっている曹操（そうそう）であった。
　実に楽しそうだ。
　少数ゆえに奇策の考えがいがある。
　曹操本人は、総大将の袁紹（えんしょう）ちかくに移動するのだった。


　いっぽう董卓（とうたく）陣営では連合軍の対策に議論紛糾している。
　各軍に曹操の旗があるので、各将が惑わされているようだ。
　まあ、董卓軍は兵数でかなり負けている。
　子飼いの涼州兵以外は投降兵だから士気も低かろう。
　だからこそ、局地戦で圧倒的な戦力を見せつけて、連合軍の意気を砕く必要がある。




　さきがけに名乗りをあげたのは、純粋戦士・呂布（りょふ）だッ！
　今回も電撃をまとっています。
　曹操が苦戦した徐栄（じょえい）の頭を片手で砕いて、自主的に出陣だ。
　いいの、それで！？

　董卓陣営の中核は涼州兵でしめられている。
　并州出身の呂布はよそ者だ。
　呂布の上司だった丁原（ていげん）は執金吾（首都の警備）だったので、兵を吸収したとしても数はすくなかっただろう。
　おそらく呂布は個人の武勇を評価されて董卓陣営にいたのだろう。単騎突撃は、ある意味当然かも。

　ちなみに、執金吾はきらびやかな衣装でカッコよかったらしい。
　かの光武帝も若いころは「官につくなら執金吾、妻を娶らば陰麗華（当時有名だった美人）」と言って憧れていた職だ。
　光武帝は両方とものぞみをかなえている。
　呂布もきらびやかな衣装を着ていたんでしょうか？
　のちのコトですが、賈詡（かく）も執金吾になる。イメージが合わん。




　呂布はかってに董卓の愛馬である赤兎馬に乗って戦場へ向かう。
　盗んだ馬（バイク）で走り出す！
　そして、飛ぶ！
　噴火したように兵士の血が噴出した。
　まさに呂布エクスプロージョンッ！（車田正美っぽい感じで）

　呂布が出てくると、作品が蒼天航路なのか戦国BASARAなのか判別つかなくなるぜ。
　なにを飛ばしているの！？
　どんな原理で光っているんだ！？
　これが呂布と赤兎馬が合体した力なのかッ！？
　漢（おとこ）と馬、魂と魂のぶつかり合いこそが合体で、スパークしてジェノサイドだッッッ！




　第六感で生きのびる男・劉備は呂布にキケンなものを感じる。
　勇んで戦いに行こうとする張飛が死ぬと予感した。
　妻子や味方の命であっても衣服のように脱ぎすてる劉備にも大切なものができたのだ。
　いや、蒼天航路の劉備は（まだ）そこまでヒドイ奴じゃなかったか。

　張飛にかわって関羽が出陣しようとする。
　劉備は関羽でもムリだと止めるのだが、関羽は自分の武を見せる時だと出陣するのだ。
　おおッ！ 関さんが緑に光っているッ！
　たしか関羽が緑色の服を着るのには、なんらかの由来があると本で見たことあるのだが、出典を忘れました。

　張飛はせっかくの出番をうばわれてしまう。
　なんか、上の画像だけ見ると爆死する寸前みたいだな。




　振りかえらずともワカる濃厚な武の気配だ。
　二人の武神が激突する。
　関羽には馬の差で不利なんだけど、大丈夫か？

　全軍が見守る壮絶な一騎討ちだ。
　だが、曹操は袁紹に兵を動かせという。
　戦いの主導権を人に取られたままでは納得いかんのだ。……たぶん。

　馬がへばって関羽が負ける前に、一騎討ちを台無しにする作戦だろうか？
　関羽の武だけに全てをかけるのは危険が大きい。
　やはり、主導権は自分が握っておかないと、次の展開に対応できないし。

　その一方で、武の極致ともいえる呂布と関羽の名は曹操の脳髄に刻まれたことだろう。
　どちらか（できれば両方とも）配下にしたい。
　三国志史上もっとも人材獲得に貪欲だといわれるのが曹操なのだ。




　連合軍が動いたことで、董卓も動く。
　魔王の名もふさわしく血飛沫をまとって登場だ。
　そして、董卓の背後には生首の山がきずかれていく。
　まさに魔王だ。

　董卓の暴威に連合軍は砕け散る。
　これで董卓の目的は達せられたことになった。
　過剰な虐殺もすべて目的のため。
　暴をもって理をなす。
　これが董卓という男だ。




　董卓がおりてきた崖の上には皇帝がいた。
　それに気がつき確認したのは劉備だけだ。
　いまだ一軍の将ですらないのだが、こういう自己演出は天下一ですな。

　曹操は軍と人を見た。
　劉備は権威の象徴を見る。
　二人が目指す方向は、実と名だ。
　今後の二人は、どう交わり、どう対決するのだろうか。


　　　
　今回の話は、蒼天航路（文庫版）3巻「その六十四 赤兎馬, 咆哮」から3巻「その六十八 崖の上の大儀」まででした。（極厚蒼天航路だと2巻）


◆ 蒼天雑学
　今回から一部を除いてナンバリングをやめます。
　董卓は今回が初回なので、ちょっと長め。
　次回は孫堅と呂布を書きたいところです。

・ 登場人物
・董卓
　字を仲穎という。
　若いころ、侠（おとこだて）気取りで、若いころ羌（きょう：西方の異民族）族の地方を放浪し、顔役たちと交わりを結んだ。
　桓帝（霊帝の前皇帝）の末年に、羽林郎に任命された。
　羽林郎は良家（商人・工人・芸人などの職業を除く家）の子弟を選任して構成された近衛兵だ。
　まあ、人並みの家庭に育っていたらしい。
　褒美をすべて部下に与えるなど、このころの董卓はイイ人であった。

　董卓は国の軍であるはずの涼州兵と私的なつながりを強化することで、ほぼ私物化する。
　政府は董卓と涼州兵のつながりを絶つためか、董卓を并州の牧に任命した。
　だが、董卓は涼州兵を手放さず、現状の兵のまま任地に行きたいという。
　董卓がゴネているうちに、何進に招聘され天運をつかむ。

　何進と丁原の死により、その軍勢を手中におさめた董卓は都の軍事権をもつただ一人の人間となる。
　董卓は少帝を廃し、献帝を立てた。
　名誉職となっていた相国に昇進し傍若無人のふるまいをする。

・軍制について（その2）
　所属が国だろうが個人だろうが、軍隊を機能化させるには現場で命令をだす将軍が必要だ。
　この将軍の人選が最大の悩みどころといえる。
　もちろん有能な人がいい。だが有能な人間はたいていクセのある人間という場合が多い。
　独断専行で言うことを聞かない程度ならまだいいのだが、忠誠心が無い人間だと最悪だ。戦争に行った先で反乱を起こす。
　董卓は、この有能だけど言うことを聞かない上に忠誠心まで低い人間だった。

　兵士は国のものだ。究極的に言ってしまえば、すべての兵は皇帝の兵といえる。
　だが、遠くにいるスゴくエラい人より、身近なちょっとエラい人の言うことを聞いてしまうのが人情というものだ。
　なので、国の兵であろうと反乱の危険性は常にある。
　遠征軍のコントロールができなくなるという状況は、たとえば関東軍の暴走など近年でも見られた状況だ。

　反乱をさける一つの方法が、信用できる総大将を置くということだ。
　皇帝（王）の血縁者を総大将にするコトが多い。
　当然、軍事的才能に疑問が生じるのだが、そこは有能な副官をつけてやれば何とかなる。
　曹操や孫権の親戚がよく総大将になっているのは、こういう事情もあるためだ。
　ただ、身内を総大将にすると、やっぱり指揮でマズったりもする。
　大将を捕らえるか殺すかされると軍が壊滅するので、狙われる危険性も高い。

　総大将を捕らえて身代金を要求するという方法は、中国やヨーロッパでは、けっこうあるらしい。
　日本では人質というものは、あまり聞かない。
豪族の私兵が集まった軍という性格の強いためだろうか。

・馬具について
　三国志時代の馬具はどんなものであったのか、資料が少ないため良くわからない。
　馬具のなかでも特に重要な「鐙（あぶみ）」は、三国志時代のころに使われはじめたという説がある。
　馬具のなかで足をかける部分のことを鐙という。
　鐙のおかげで、馬上でもふんばるコトができ槍や弓矢をより自由に使えるようになった。

　初期の鐙は馬にのる時に、足を引っかける道具だったらしい。
　なので、乗りおわったら足から外す。
　だから馬の左側にしか鐙はつけなかった。（騎馬民族は来なかった）
　この頃は槍も弓矢も鐙の恩恵を受けていない。
　おそらく三国志のころは、まだ鐙に足をかけて戦っていない時代だろう。

　鐙を作ったのは漢人だと言われている。
　漢人は騎馬民族に比べると、乗馬が下手だったので道具の助けが必要だったのだ。
　自転車に補助輪をつけている人みたいに、周囲の補助輪無しグループから馬鹿にされていたかも知れない。

　なお、蒼天航路だと漢人は鐙をつけている。
　ただし、烏丸（うがん）などの騎馬民族は鐙をつけていない。
　細部にこだわりが見える描写だ。

　一般的に、三国志作品では鐙を使用している。
　でないと戦闘シーンの迫力が落ちてしまう。
　ただ、小説の北方三国志では鐙が登場しない。
　騎馬兵は突撃の前に腿で馬体をしめると言う鐙の無いときの乗りかたをしている。
　こちらも細部にこだわっている描写だ。

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（更新2009/6/21）

　首都・洛陽を焼き払い、長安に拠点をうつした董卓（とうたく）政権では、文官たちが悩んでいた。
　高名な学者である蔡邕（さいよう）はありのままの歴史を書こうとする。
　董卓におもねる文官たちは蔡邕を処罰しようとするが、董卓が自由に書けと命じた。

　暴虐でありながら、董卓は蔡邕の才能を正しく評価している。
　多くの知識人に尊敬されている蔡邕であっても董卓の底が見えない。
　この男は、いったい何者かッ！？

　三公・司徒の王允（おういん）は悩んでいた。
　王允も有能なので董卓に取り立てられたのだ。
　なりゆきで董卓に協力したままでは、後世の歴史家になんと言われるだろう。
　かなり自分勝手な理由で困っていますが、悩みは深刻だ。




　王允の養女である貂蝉（ちょうせん）は、冷静に事態を把握していた。
　董卓を戦で倒すのは非常に難しい。
　ならば、暗殺するしかなかろう。

　貂蝉はまぶたを自ら切って、簡易整形をして美女に変身する。
　美しき暗殺者の誕生だ。
　琵琶（？）を鳴らし、董卓討つべしの決意を見せる。
　のちの、薄皮太夫である。いや、ちがう。中の人は一緒だけど。




　曹操のもとには放浪で見聞を深めていた荀イクが帰ってくる。
　歯が抜けちゃって美形がけっこう残念なことになった。
　オマケに性格も変になったっぽい。
　もう、葬式に似合う男No.1じゃないな。

　ちなみに曹操が打っている碁は、当時としては新しい娯楽だった。
　三国志・注『博物志』によると『馮翊の山子道・王九真・郭凱らは囲碁が上手であったが、太祖はすべて彼らに匹敵する能力をもっていた。』

　曹操陣営は兵数が少なくて悩んでいる。
　荀イクによる献策は、反乱農民を吸収するということだ。
　税を払えず土地から逃亡する流民を集めて、自分のものにしちゃうという。
　この時代ではよく行われていたことだ。
　荀イクはさらに、優秀な人間を配下にする一石二鳥の作戦を考えていた。
　さすが軍師だ。役に立つな。

　で、見つけた男は一話に登場した許褚（きょちょ）だった。
　一族を食わせるため、しかたがなく盗賊になった許褚を曹操は口説き落とす。
　「億で数える民を食わせることを考えるなら」「ふたたびこの曹操に仕えろ！」
　乱世では、こうやって相手を言いくるめた人間が勝つのだ。
　こうして、曹操陣営がまた強化された。




　廃墟となった洛陽に一番乗りしたのは、孫堅だった。
　董卓軍を相手にして実質的に勝った武将は孫堅だけである。
　客将として行動をともにしていた夏侯惇は、地味な忠義の姿勢を見せるのが良いと献策した。
　資質としては猛将なんだけど、時に智慧を見せるのが夏侯惇だ。

　曹操や荀イクのような奇策を生みだすきらびやかな才能ではない。
　生活や常識にねづく骨太の方針ですな。
　いつの時代も常識というものはバカにできないのだ。

　そして、孫堅軍による戦災復興がはじまる。
　実際にこの行為は後世の歴史家に評判いいんだよな。
　これ以降、孫堅は勤皇家としての評価を得る。




　洛陽の復興時に異変が発生した。
　若き軍師・周瑜は五色の気が龍のように立ちのぼるのを感じる。
　その元には玉璽（ぎょくじ）が。
　王朝の実印を入手したようなものだ。

　まあ、ハンコだけあってもしかたがないんだろうけど。
　天意が自分を推しているという根拠にはありますな。
　ちなみに玉璽は玉（ぎょく）で作られているので、金色じゃないハズ。
　けっこう硬いので、加工するには技術が必要だ。




　孫堅は袁術（えんじゅつ）から荊州の劉表・攻略を命じられる。
　袁術は袁紹（えんしょう）の弟（あるいは従弟）なのだが、仲が悪い。
　劉表は袁紹と同盟をむすんでいるため、袁術が攻撃をしかけたいのだ。
　西にひっこんだ董卓は無視して、東では群雄割拠の状態になっている。

　孫堅の長男・孫策（そんさく）は袁術の命なんか受ける必要ないという。
　けっきょく袁家の兄弟喧嘩に巻き込まれているだけじゃないか。
　孫策は若いけど、見るところは見ています。そして旺盛なる独立の意思だ。
　積極姿勢は孫堅の血を引いている確かな証拠だろう。




　袁術に使われるのではなく、袁術を利用する。
　そして、荊州を手に入れるのが孫堅の狙いだ。
　大局を見て行動している。

　孫堅の威風に劉表陣営は戦わずに退く。
　防御範囲を狭めて守りの姿勢だ。
　夏侯惇の献策がいきている。
　孫堅にとってはいいことだけど、曹操のためには良くない気がする。
　献策するなら、曹操にしてやれよ。

　だが、単騎で行動していた孫堅は矢を浴び、昇天するのだった。
　勝って制圧したとはいえ、ここは敵地だ。ちょっと油断しすぎ。
　だが、孫堅は天命に満足し「快なり！」と叫んで果てる。金の龍だって出てきちゃう。
　董卓をもっとも恐れさせ、天下に近づこうとしていた。
　実に惜しい男を亡くした。
　孫堅、享年37歳である。


　　　
　今回の話は、蒼天航路（文庫版）3巻「その六十九 五色の龍」から3巻「その七十三 巨星昇天」まででした。（極厚蒼天航路だと2巻）

（更新2009/6/27）

　反董卓連合の攻撃を防ぎ、董卓（とうたく）は西の長安に遷都した。
　東にいる諸将の圧力に引いた形ではある。
　だが、董卓の野望はまだついえていない。
　大地全てを攻略対象とし、羅馬（ローマ）まで視野に入れている。

　ローマに行くには砂漠をこえねばならん。
　かなり大変です。
　真の狙いは西方との貿易かもしれない。
　歴史上の董卓は質の悪いお金を大量につくり、インフレを起こしている。
　財源確保はけっこう切実な問題だ。




　前回、整形美人に生まれ変わった貂蝉（ちょうせん）は、董卓の首を狙う。
　音楽で董卓を油断させ、一気にしとめる作戦だ。
　武田信玄には、笛の音に聞きほれているところを狙撃されたというネタもある。
　三国志では、蜀のの費禕（ひい）が宴会で酔ったところを刺殺された。
　乱世では、酒や音楽に酔うと危険らしい。

　貂蝉の暗殺計画は失敗する。やっぱり董卓は強かった。
　噛みつき攻撃という、江珠（刃牙の母）なみの根性は見せたんだけど、届かなかった。
　衆人のなかで犯され、妃（きさき）として飼われることになる。
　だが、貂蝉は董卓の偉大さを理解できているため、それなりに満足なのかもしれない。




　そんな貂蝉に呂布は一目惚れした。
　不器用な男ですから、手順を踏まずに行動する。
　即、レイプだ。でも、貂蝉の反応も、まんざらじゃなさそうだ。
　王者の資質は董卓だけど、男としては呂布のほうが好みなのかもしれない。

　もっとも、貂蝉の狙いは二虎競食の計にある。
　自分では董卓を倒せなかったから、もう一方の強者と食い合わせようという計画だ。
　計画を自分で考えているのがスゴい。
　実は策士だ。
　王允は、鵜飼いとして鵜を操っていたつもりが、鵜に操られた心地だろう。




　そして、董卓暗殺計画だ。
　武将の強さが突出している蒼天航路世界では、猛将を味方にするかどうかが重要となる。
　呂布というコマを手に入れた時点で、勝利は鉄板のハズ……

　思ったより、董卓が強かった！
　なんと。ここまで強かったのか、矢印ハゲめ。
　恐竜とだって戦えそうな呂布と互角以上の攻防をしている。
　そもそも、最初の一撃（左画像）で血の噴水を出しているのに、まだ動けるのがスゴい。
　董卓はナニでできているんだ？

　呂布を殴り飛ばす。逆に蹴り飛ばされる。
　柱を投げつけて反撃だ。
　董卓、強ぇ――――――！
　もしかしたら張飛よりも強いんじゃないだろうか。
　だが、最後は呂布の力に押し切られ、剣が砕けて額を割られるのだった。




　董卓は倒したものの、軍事基盤である関西勢（涼州兵）はのこっている。
　このとき、主力部隊は洛陽よりも東にある陳留（ちんりゅう）・潁川（えいせん）のあたりを攻めていた。
　曹操たちがどう対応していたのか、気になるところだが、良くわかりません。
　まあ、とにかく董卓軍の主力は外にいたおかげで無傷だ。

　王允は董卓軍を引きついだ李カクと手をむすぶ。
　李カクと呂布をぶつけることで、共倒れを狙うのだろう。
　これもまた二虎競食の計だな。
　王允は後世の評判ばかり気にする男に成り下がっている。
　養女である貂蝉ごと呂布を殺させる気だ。

　無残にも貂蝉は斬られ、呂布のみがたすかる。
　嘆きの呂布は、月下に飛びだし、いずこかと消えていくのだった。
　それにしても、飛びすぎだよ呂布。
　スパイダーマンでも、あそこまでジャンプしないよ。

　すべてを利用したつもりの王允だったが、李カクに狙いを見破られ、首を刎ねられる。
　最後には忠義の心すら売名行為になっていた。
　もとは立派な人だったのだが、どこかで王允の心はねじれてしまったらしい。

　皇帝をようしているものの、李カクたちのいる長安は歴史の中心から外れていく。
　やはり、王の貫禄をもつのは董卓だけだったのか。




　いっぽう、関東では諸将が勝手に土地を占拠する群雄割拠の時代になりつつあった。
　戦乱のため流民も続出する。
　青州にいた百万をこえる黄巾賊たちは、食糧を求め兗州（えんしゅう）に侵入した。
　そこで頼られたのが曹操だ。
　軍事と行政、ふたつの権限をもつ州牧に就任し、百万の黄巾賊を迎えうつ。

　だが、曹操の手勢はだいたい五千ぐらいだ。
　圧倒的な数の差を、曹操はどう乗り切るのか！？
　それとも、乗り切れないのか！？
　次回へつづく。


・蒼天雑学
・貂蝉
　前に書いた文章があるので、そちらを参考にしてください。
　　※ 今後の展開が、若干ネタバレです。


　　 　　　 　　 　 　 　
　今回の話は、蒼天航路（文庫版）3巻「その七十四 毒蛇を娶る者」から4巻「その七十九 黄巾の子ら」まででした。（極厚蒼天航路だと2巻・3巻）

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（更新2009/7/3）

　曹操は黄巾賊に攻められている兗（エン）州に援軍としてやってきた。
　対董卓戦で名を上げたためか、貫禄が出ている。
　って、いつのまにかヒゲが生えてるんですけど！？
　前回はヒゲなかったハズなんだけどな。

　黄巾賊の先遣隊はだいたい三十万人だ。
　城を守る曹操軍は約一万人である。
　圧倒的な戦力差だ。
　しかも、敵の本隊百万人が近づいている。
　この局面をいかに乗りきるのか？

　そうは言っても、城攻めは守る側が圧倒的に有利といわれている。
　攻める側は10〜50倍の戦力が必要らしいぞ。時代によって、ずいぶん違うだろうけど。
　敵の本隊さえこなければ耐えられる。……のか？

　籠城（攻城戦）が防御側に有利なのは、三国志に限らない。
　だが、みんな外に出て野戦をしたがる。
　なんで、不利な外に出て戦いたがるのだろう。

　籠城だと、負けたら後がないのでイヤなのかもしれない。
　それと、篭っていると城の外で敵に好き勝手やられる。
　人の田畑に入って、米や麦を刈り取る行為はけっこう普通に行われるのだ。
　この手の刈り取りも武力行為にあたる。

　財産を守るためにも、領内に近づけないことが必要なのかもしれない。
　孫子も散地（領地内）で戦闘してはならないと言っている。（孫子 九地篇）
　柘植久慶は逆に愛国心をあおるためにも国内で戦ったほうが良いといっている。（「実戦」孫子の兵法）
　この辺は歴史の蓄積に差があるのだろう。
　あとは農作物への依存度もちがうだろうし。

　そんな感じで、曹操は農作物を早目に刈り取って蓄えているのかもしれない。
　エサに群がるイナゴ。またはアリ。
　城壁に人が取りつくさまを『蟻附』という。
　損害が多く、取ってはならない戦術とされる。（孫子 謀攻篇）



　黄巾賊の攻撃を耐え切った曹操は、ついに敵本隊を引きずりだす。
　敵本隊の正体は、餓えた難民であった。
　本来なら敵の前にさらしてはならない弱点を見られてしまった状態にある。
　黄巾賊は完全に追いつめられた。

　相手の弱点がわかってしまえば交渉はお手の物だ。
　蒼天航路の定番である言いくるめモードが炸裂して曹操は100万人の労働力と30万の兵をゲットする。

　人を国とみなし、心を尊重する。現代にも通用する政策だ。
　ちなみに、コードギアスR2(AA)の「8話 百万のキセキ」は、このエピソードが元ネタかもしれない。
　日本人であるコトを決定するのは「心だ」。文化や宗教観と言いかえても良いだろう。
　黄巾の民を、黄巾たらしめているのは「心」だ。
　曹操は信仰の自由を認め、同盟国を作ったといえる。




　そのころ、北では袁紹（えんしょう）と公孫瓚（こうそんさん）が激しく争っていた。
　情勢は袁紹がやや有利だ。
　その有利な陣営から、公孫瓚へと移る一人の武者がいた。
　彼の名は趙雲、字を子龍という。

　公孫瓚の陣営には劉備・関羽・張飛の三人がいる。
　ちなみに、なぜか劉備のいる陣営には不幸が起きていく。
　さすが「幽州の北斗七星」だ。北斗の拳だと、北斗七星は不吉の星だもんな。

　趙雲は圧倒的な武を見せる。
　劉備は自分につかないかと誘う。
　だが、趙雲は公孫瓚につかえると先に言ったので、義理を通す。
　おとこだてにとって、約束を守ることは重要なのだ。
　でも、劉備の勧誘はしつこいぜ、きっと。




　領民と兵が増えた曹操陣営は、さらなる人材を集めていた。
　武は、おとこだてで名を上げた典韋（てんい）だ。その怪力は許褚（きょちょ）と互角である。
　知は 程イクと陳宮（ちんきゅう）の謀臣二人が加わる。
　正方向の連鎖となって、すべてがうまく行っているように思えた。




　だが、大きな問題が発生する。
　戦乱を避けて避難していた曹操の父・曹嵩（そうすう）が盗賊に殺された。
　曹操は護衛をおこたった陶謙（とうけん）に怒りを向け、壮絶な復讐戦を始めようとする。

　三国志演義だと上のパターンで曹操が逆恨みする。
　でも、正史には曹嵩は陶謙に殺害されたと書いてあるのだ。（三国志1）
　殺される場所も、どうも違っているらしい。
　情報がかなり混乱しているのだが、曹操は陶謙を親のカタキと思うに足る状況があったのだろう。
　親の恨みを晴らすのは、儒教的にもあっている思想だ。
　次回、正義による虐殺がはじまる。


・蒼天雑学
・青州黄巾賊について
　曹操が飛躍するきっかけとなったのは、青州黄巾賊を自軍に吸収してからだ。
　三国志・武帝紀によると青州黄巾賊は百万の規模だったらしい。
　だが、別の個所では兵が30万人で、非戦闘員が百万人となっている。
　この規模の人間を吸収するのは容易ではないので、わりとドンブリ勘定だったのだろう。
　また、戦死・逃亡した人間もいたハズだ。どちらにしても、大人数であることにかわりはない。

　約百万人の集団は、青州から移動して兗（エン）州にやってきた。
　めぼしい物を食べつくしたのだろう。
　つまり、青州黄巾賊は生産的な集団ではなく、流賊（移動する盗賊）的な特質をもった集団と思われる。
　流賊として見ると、兵士と非戦闘員の数が3:10という点が気になる。
　兵士の数が多いのだ。
　一般的な流賊ってのは、「戦士一人について五人から十人くらいの雑役夫が必要だという。」（中国の大盗賊・完全版）
　青州黄巾賊はかなり人手不足だ。そうとう追いつめられた状態だったのだろう。

　ちなみに、この時代では兵士：非戦闘員が1:10ぐらいだ。
　蜀滅亡時の人口は九十四万で、兵士が十万二千、官吏四万だった。（三国志5）
　ちょっと公務員が多い気がする。役人天国だな。

　曹操も青州黄巾賊をとりこむ時に『そのうちの精鋭を吸収して、青州の兵と称号をつけた』とある。
　30万の兵を12万ぐらいに減らして適正な数にしたのだろう。

　ここまで大規模な取りこみは珍しいが、小規模な例は数多く行われていたらしい。
　土地をすてて逃げだす流民を集め自分の領民にしてしまう豪族がけっこういたのだ。
　豪族の農民は戦時には兵士となって戦う。
　集めた人間の数は戦力に比例する。
　だから、約百万の人間を手に入れることができた曹操は飛躍していくのだ。

　なお、第五話感想で書いた、曹操の統治が青州黄巾賊におおきく関わっていると思われる。
　おなじ青州にいたのだから統治の様子も良く知っていただろう。
　曹操は邪教にたいし厳しい態度で臨んでいる。
　黄巾賊は、それが自分たちの神と通じる姿勢だと感じていた。
　悪徳宗教を憎み、正義を行う態度があったのかもしれない。
　なんにしても、曹操の政治スタイルは信用が置けるものだったのだろう。

　黄巾の乱を鎮圧し、青州を治め、こんどは黄巾賊をゲットする。
　なんとも、奇妙な縁だ。


　 　　　 　　 　 　 　
　今回の話は、蒼天航路（文庫版）4巻「その七十九 黄巾の子ら」から「その八十六 天下のものなり」まででした。（極厚蒼天航路だと3巻）

（更新2009/7/13）

　司馬光の『資治通鑑』によると、曹操（そうそう）軍の虐殺っぷりは以下の通りである。
『曹操が至るや、男女数十万を泗水（しすい）で坑殺（こうさつ）し、ために川の流れが止まった。』
『取慮（しゅりょ）・雎陵（しょりょう）・夏丘（かきゅう）を攻め、皆殺しにした。鶏や犬さえいなくなり、町も村も人の姿は絶えた。』（訳は「三国志きらめく群像」より）

　川が死体で埋まるようすに、さすがの三兄弟も絶句する。
　だが、たすけをもとめる民たちを見て、奮起した。
　曹操の覇業が青州黄巾賊を手に入れたことに始まるのなら、劉備（りゅうび）の覇業は徐州で名を上げたことではじまる。

　徐州牧の陶謙（とうけん）は、援軍にきてくれた劉備にムチャ言われて昏倒する。
　三国志演義だと昏倒するのは劉備の仕事なんだけどな。




　いっぽう、曹操の本拠地では陳宮（ちんきゅう）が暗躍していた。
　張邈（ちょうばく）をだまし、呂布（りょふ）を呼びこみ反乱を起こす。
　曹操の足元が崩れようとしている。

　アニメ十話で書いたが、張邈（字：孟卓）は曹操の親友であり「わしがもし帰ってこなかったら、孟卓のもとへ身を寄せろ」と家族に言ったほどだった。
　そんな親友に裏切られた曹操の心境はどのようなものであったろう。
　ちなみに、以後の曹操は子供も戦場に連れて行くようになる。本拠地に残していても危険というわけだ。詳しい話は、いずれ。

　蒼天航路には、もう張邈は出てこない。
　彼の顛末を すこし書いておこう。
　張邈は曹操と何度か戦い、敗れる。
　袁術のところへ身をよせようとして、兵に裏切られ殺された。
　曹操は敵だった人間も積極的に仲間にする男なのだが、張邈の弟・張超とその一族を皆殺しにしている。（三国志2 呂布伝 附・張邈伝）




　陳宮が裏切り、呂布がやってきたと聞いて曹操はすばやく転進を決断する。
　あと一手で徐州を攻め落とせる時点で帰る決断ができるのがすごい。
　賭け事で大勝ちしているときに、手を引くようなものですよ。
　鋼鉄の意志が必要だ。カイジにも教えてあげたい。

　遠征中の敵軍を退却させるには、敵の首都（または重要拠点）を攻める。
　孫子の兵法時代から何度も実行されている戦略の基本だ。
　勝ちを目前に退きながら、曹操は孫子スゲーと思っていそうだな。
　失敗も糧にするのが曹操なのだ。

　十一話での呂布大爆発を荀イクは見ていない。
　なので、天才軍師といえども呂布を測りそこねる。
　曹操の危惧はそこにあった。
　なんか本拠地の心配よりも、荀イクのほうが心配らしい。
　誰よりも人材を愛するのが曹操なのだ。
　ごくまれに、一族皆殺しせずにいられないほど憎い相手もいるようだけど。




　そして やっぱり呂布大爆発＆呂布大飛翔だッ！
　こりゃ荀イクにも予想つかんよな。
　見ているほうも、最初は爆発して飛ぶとは思っていなかったよ。

　呂布が長安を出ていった経緯を考えると、ひきいる兵は少数だ。
　史書だと流浪の傭兵団になっているので多少の兵はいるみたいだけど。
　とにかく兵のほとんどは張邈の軍だろう。
　他人の兵でありながら、その強さを引き出すのが呂布の怖さらしい。




　ピンチの荀イクをすくったのは曹操だった。
　駆けつけるのが早ッ！
　即断即決のおかげで間に合ったようだ。

　あまたの豪傑を両断してきた呂布の一撃が曹操にせまる。
　だが受け止めた。
　それも、二度ッ！
　天が曹操に味方しているのか。
　つうか、曹操軍にも猛将がいっぱいいるんだから、ちゃんと前面に出そうよ。




　とりあえず呂布は退けた。
　一年くらいかけて呂布と戦う方針でいく。
　ならば、呂布と戦ってみたい人間も集まってくる。

　その第一号が郭嘉（かくか）であった。
　荀イクの知り合いであり、彼も軍師タイプの男だ。
　難敵呂布を知で倒すことができるのか？


　 　　　 　　 　 　 　
　今回の話は、蒼天航路（文庫版）4巻「その八十七 輝きがもたらすもの」から「その九十二 汎の決意」まででした。（極厚蒼天航路だと3巻）

（更新2009/7/20）

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