今月のシグルイ覚書(51景〜60景)
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2007年10月19日(12号)
第五十一景 一ツ目(ひとつめ)
死体が山盛りとなっている仇討ち場であった。
シグルイは死体がよく出てくる作品だ。
それでも、ここしばらくの死体数は多かった。
今回の牛股大爆発は歴史的な大虐殺だったので、死体数の記録がかなり伸びたことだろう。
そんなワケで、大量の死体を片付けています。
遺族や関係者にすぐ引き取らせず、近くの小屋にうつしている。
死体がバラバラになっちゃったので、検分が必要なのだろうか?
引き取り手が来るのかどうかあやしい虎眼流はともかく、検校側ならすぐに引き取りそうなのだが。
地獄絵図のような惨状の中、光り輝くような肢体があった。三重である。
いや、三重サマは まだ死んでいませんから。
峰打ちですよ。
こんな所に捨ておいたら、生きている人でも死んでしまう。
むしろ、藤木と牛股師範はどうした?
死体を運んでいた男は、三重の姿に欲情したのか、手を出そうとする。
その手をつかんで、握りつぶしたのは、死んでいたと思われる隻腕の男であった。
まさしく藤木源之助である。
少年時代の藤木は片手で人間を振りまわしていた。
(
7巻
33景
)
骨を握りつぶすのも簡単なのだろう。
藤木源之助は生きていた!
ここから虎眼流 奇跡の逆転がはじまる、のかもしれない。
むしろ虎眼流の完全崩壊はこの日からはじまる。
トップの人間がほぼ全滅しているのだ。
人間でいえば、脳が うどん玉のようにこぼれおちた状態である。こりゃ、動けん。
そのころ、家老・孕石はふせっていた。
信頼していた虎眼流が敗れ、牛股師範が残虐ショーを演じるなどで精神的ショックを受けたのだろう。
一方、雪千代のほうはけっこうしっかりしている。
ゲロはいて、失禁寸前だったのにたいしたものだ。若さゆえの回復力だろうか。
雪千代は江戸で次郎衛門忠常に師事し、わずか三年で免許を得ている。
小野派一刀流
・
小野忠明
の三男は次郎右衛門忠常だ。
"右"がぬけているので、雪千代の師匠とは別人かもしれない。
なお、夕雲が仕えていたのは小野忠明である。(
5巻
25景
)
徳川家剣術指南は
柳生新陰流
が有名だが、小野派一刀流も徳川家剣術指南である。
柳生ほどでは無いにしても、けっこう流行っていた流派なのだろう。
入門して三年で免許というのは、かなりすごい。
ちなみに伊良子清玄は「二年足らずで」「虎眼流を己がものとして」いる。(
シグルイ2巻
8景)
伊良子はまだ免許をもらっていないので、
雪千代は伊良子クラスの天才
と言う可能性すらある。
そんな雪千代に孕石は質問をする。
「人を斬ったことは?」
まさか、俺に暗殺をさせる気っスか? 的な展開であった。
雪千代が本当に達人なのかは知らん。金許し、義理許しの可能性もある。
どちらにしても、伊良子と剣で戦わせる気ならやめたほうがいい。
強敵は容赦なく銃で撃ち殺すべきだ。当たらなくても爆音でしばらく伊良子の耳は効かなくなる。
相手はバケモノなのだ。常の方法では勝てませぬ。
同刻の賤機検校仕置屋敷では、
超無礼講
となっていた。
蔦の市が清玄のモノマネで場をもりあげる。
護衛の部下たちが相当死んだのに悲しむ様子も無い。
やはり、根本的に性根が腐った連中のようだ。
伊良子は下品な宴会には出席せずに、傷の治療をしている。
頭や首、腋の動脈など危険な部位を斬られていた。
助かったのは幸運と
着込んでいた鎖帷子のおかげ
だ。
『紙一重の勝負であった』
ナレーター氏も太鼓判を押すギリギリの勝利だった。
アホの検校どもといっしょに遊ぶ気分ではないのだろう。
伊良子だって一応剣士だし、敵にたいする敬意だって少しはもっているはずだ。
今日はエロ抜きで、読経して寝ろ。今まで破壊した仏像全部にも、あやまれ。
伊良子は、いまだに体から恐怖が抜けないらしい。
いくは、母性的な愛情で伊良子をなぐさめようとする。
その時に、いくは不気味な気配を感じた。
ふすまを開けると、伊良子の護衛が真っ二つになっていた。
どうも女とまぐわっているところを、やられたらしい。
女ともども、腹の位置で両断されている。"二つ胴"だ。
護衛の人間が交尾していてはまずかろう。
どんだけ野性度が高いんだか。
それにしても、"二つ胴"である。腕もすごいが、剣も業物だろう。
これをやった犯人はッ!?
牛股権左衛門であった。
無明逆流れで顔面を斬られながらもやってきたのだ。
『ものを思うは脳ばかりではない』
『臓器にも記憶は宿る』
『筋肉とて人を恨むのだ』
虎眼先生も顔が半分に斬られてもしばらく生きていた。(
6巻
31景
)
やはり、
虎眼流にとって「脳は飾り」なんだろうか。
今回も
ロボトミー
の引用をしますが、脳をテキトーに切り取り手術された人が、15年後に手術した医者の妻と母親を刺殺する事件などもある。
牛股師範だって、十分に暴れる資格はあるのだ。
不覚にも伊良子は丸腰だ。
浮かれまくっている検校屋敷に、牛股師範を止めるものは無い。
最後の命を燃やしつくし、牛股師範が復讐を遂げるのか!?
次回へつづく。
脳が飾りなら、トップが居なくなった虎眼流も大丈夫かもしれない。
ただ、虎眼流のトップは脳と言うよりも筋肉だよな。
第一景を見かえせばわかるように、伊良子は足を負傷する。
藤木の左腕が切断されたのと同じく、逃れられぬ運命だ。
手負いの牛股師範が、伊良子の足を斬りさくのか?
それとも、まだ どんでん返しが待っているのか?
試合が終わったのに油断できないシグルイであった。
by
とら
2007年11月19日(1号)
第五十二景 鬼哭(きこく)
今回はグロ痛い。
痛さにおいては、作中最大だろう。
虎眼先生のうどん玉を超えるレベルだ。
だって、脳は痛みを感じないって言うから、脳へのダメージは痛くないハズだし。
そういう理屈じゃないのか?
左腕を斬りおとされた藤木源之助は
金瘡
医(外科医)西川玄適のところへ運ばれる。
まず、アラキ酒で傷口を消毒をする。
アラキ酒はアルコール度数の高い蒸留酒らしい。(
参考
)
飲むとスタンド能力に目覚めて奇妙な冒険をしたくなるような酒ではないので安心だ。
さらに、焼きゴテで血管を焼いてかためる。
なんとも
ウルトラヴァイオレット
な止血法だ。
わざわざ痛そうな手段を選んでいないか?
そして、傷口を縫合するため、骨をゴリゴリ斬り落とす。
肉をあまらせて、縫いとめるのだ。
しかも麻酔なし。
もう痛い。痛すぎる。
シグルイを読むのをいったん中止して、どきどき魔女神判あたりに逃げこみたくなる。
虎眼流には痛みを春の淡雪の如く消し去る罌粟
(けし)
の妙薬がある
。(
3巻
13景)
なんで藤木に使わないかな。
もしかしたら、副作用がヒドいのかもしれない。
伊良子清玄なんて、アレ飲んでからさらに性格が歪んだし。
いや、清玄の場合は別の要因か。
痛み止めや、焼きゴテなど、妙に虎眼流となじみあるアイテムが藤木を苦しめるのだった。
1巻
1景で藤木の傷口がしぼんでいたのは、この治療法の結果なのだろう。
遠大な伏線だったなー。
そのころ賤機検校屋敷では、修羅場がつづいていた。
雷雨のせいで当道者たちは聴覚も嗅覚も効かなくなっている。
脳がちゃんと動いていないわりに、牛股師範の行動は的確だった。
やっぱり、虎眼流では脳なんてかざりなんでしょうか。
牛股師範はいきなり刀で斬りつけていた。
伊良子はなんとか両手で攻撃を止めている。
だが、怪力の牛股師範は接近戦での攻防が怖い。
空いている左手で、伊良子を攻撃すればイチコロだ。
窮地の伊良子は牛股師範の股間を蹴り上げる。
刃牙だって舌を出して悶絶する一撃だ。愚地独歩ぐらいじゃないと助からない。
だが、自ら去勢しちゃった牛股師範には通用しない攻撃なのだ。
頭部を握りつぶされそうになった伊良子は、爪先で牛股師範の股間を蹴りあげる。
爪先が、ぜんぶ肛門にめり込んだ。
ああ、もう、痛いってッ!
シグルイを中断して、エロくて癒されるページを求め、REDをめくってしまう。
そして、REDにはエロよりグロのほうが多いことを思い出すのだった。
肛門へ阿鼻谷ゼミもビックリな一撃を喰らい、さすがに牛股師範も手がゆるんだ。
庭に転がり逃げた伊良子は、そこで いくから刀を渡される。
すかさず、いくは伊良子の背後でニラミをきかせ伊良子の目となるのだった。
いくを倒せば、伊良子の無無明も失敗するのだろうか?
三重が斬りこみをかければ勝てるかもしれない。
刀さえあれば、伊良子は必勝のつもりだった。
だが今日は状況が悪い。
大雨により地面がぬかるみ、柔らかくなっている。
地に突きたてた刀はズブズブと埋まってしまう。
勢いあまって、刀身の八割ぐらいは埋めちゃっただろうか。
いくらなんでも、刺しすぎだ。もうすこし早く気づこうや。
無明逆流れが、思わぬ不発で伊良子は大ピンチだ。
藤木は拷問のような手術で大ピンチだ。
牛股師範は、もう大ピンチを突きぬけちゃった感じがする。
誰が死に、誰が生き残るのか?
三人の運命は、次号へ持ち越しだ。
今回、蔦の市が廊下を通って惨劇の現場に遭遇した。
目が見えないから、同胞のこぼれた脳を こぼしたご馳走とカン違いしている。
意地汚く口に入れちゃいそうな雰囲気だ。
さすがに生肉の味や感触でわかりそうですが。
なんとなく、蔦の市の見えぬ目にも死兆星が見えていそうな感じだ。
今回が初登場の当道者として、螢(ほと)の市がいる。
美童で歯が全部抜き取られているらしい。
女性の陰部を『
ほと
』とも言う。男娼としての役割があるのだろうか?
無表情なのが、なんとも不気味だ。
今後、どういう役割を果たすのか予想がつかない。
伊良子につづく、お色気担当として活躍するのだろうか?
しかし、検校はなんでこんな変な人材ばかり囲っているのだろうか。
虎眼流に対する冷たい仕打ちは、本当は囲いたかったんだけど囲えなかったことに対する意趣返しかもしれない。
ツンデレもまたシグルイなり。
by
とら
2007年12月19日(2号)
第五十三景 絆(きずな)
『麻酔なしで』
『虎の手術を行ったのである』
藤木源之助の手術は成功する。最後まで麻酔なし。
鼻骨を折られた者や、肋骨にひびを入れられた者の出た大手術だ。
藤木がちょっと暴れただけで、常人には大打撃となる。
治療で、怪我人が増えてしまった。
患者も痛いが、医者だって痛いのだ。
それでも、手術をつづけるあたりガッツあるぜ。
次回から、
虎眼流お断り
の看板が立ちそうだけど。
フランケン・ふらん
(
AA
)みたいな医者にかからなくてよかったな。
きっと、死んだ虎眼流の身体を移植されて、収拾がつかなくなる。
とりあえず腕が五本ぐらいに増えそうだ。なぜか奇数で素数。
虎眼流の人は痛みに強いという印象があるが、さすがの藤木も悶絶したらしい。
肉をめくり上げて骨を削る痛みは未体験だ。
やっぱり、修行して経験しておくことが大事なのだろう。
痛くないとおぼえられませんよ。
そうなると、ぬふぅ合戦では、藤木も舟木兄弟に遅れをとりそうだ。未体験だろうし。
藤木が悶絶したのは痛みだけではなく、伊良子清玄に敗れた無念も大きいのだろう。
牛股師範が斬られたのも目撃した。
心の痛みが、肉体の痛みを数倍にしているのだ。
自分たちもダメージを受けている医者たちは、藤木に服や布団をかけてやる余裕もない。
因果応報だ。
前回
、痛みのあまり射精したのだが、それだけは片付けてくれたらしい。
気の使いかたを間違っている気もしますが。
股間が隠れているのでワカらないけど、実は下に流れただけで残っているのかもしれない。
血と汗とアラキ酒と精液のニオイが混じって、地獄のような現場だろうな。
そのころ、検校屋敷の庭では現在進行形の地獄絵図が繰り広げられていた。
やわい泥沼と化した足場のため、伊良子清玄は無明逆流れができない。
動揺してスキだらけの伊良子に、牛股師範は容赦ない斬撃をあびせる。
とっさに刀を泥から抜いて、伊良子は背後に倒れこんだ。
胸は斬られたがなんとか致命傷を避けている。
牛股師範は返す刀を、人差し指と中指ではさむ形にかえた。
必殺の握りでトドメをさす気か?
さらに牛股師範は『流れ星』の構えにうつる。
脳が働いていないのに念入りだ。
さっさと伊良子を斬ったほうがイイと思うのだが、脳が働いていないから計画性も欠けているのだろうか。
『清玄は豪雨の中』
『空気のきしむ音を聞いた』
牛股師範の怪力で刀が握られ『流れ星』の構えになる。
刀と筋肉のきしむ音が伊良子に聞こえたのだろう。
この音が後の伏線になる。などと、初見でわかる人間は諸葛孔明ぐらいのものだ。
そのころ、伊良子といくを救った月岡雪之介は、仏像を彫りながら伊良子のことを思い出していた。
9巻
47景
に登場した月岡は、名を星川生之助と改めていた。
昔の人は幼名や本名や通称など多くの名前がある。(
参考
)
また、改名する人も多い。
月岡が星川になった理由もいずれ判明するであろう。
今のペースだと10年後ぐらいか?
武士でありながら、人を斬りたくない。
卓越した剣技をもちながら、殺したくない。
星川には尋常ならざる苦悩があった。
だが、伊良子清玄には迷いが無い。
「生死の極みに入りし時」
「清玄の剣は命の流れにまかせて」
「最善の働きをやってのける」
絶体絶命のピンチは伊良子を覚醒させるらしい。
追いつめられたときの伊良子ジャンプは、もはや伝説的だ。
仕置きを受けたときも、伊良子はしぶとかった。並の人間なら、牛股・藤木の連戦で死んでいただろう。(
シグルイ3巻
)
伊良子の本能が、唯一の足場があると身体に知らせた。
それは、伊良子清玄の足である。
伊良子は右足の甲に刀を突き刺した。
そして、
おのれの足を切り裂きながら、『無明逆流れ』を放つ。
牛股師範の低空『流れ星』と激突だ。
斬り上げながら倒れこむ『無明逆流れ』は、首を狙う『流れ星』をよけることができる。
対策として、牛股師範は膝をつきながら放つ、低空『流れ星』を編みだした。
脳が働いていないのに、よく思いついたものだ。
牛股師範もまた、死地で覚醒する者なのだろう。
低空『流れ星』は、倒れこむ伊良子の胴を狙う。
頭に比べて、体の動きはすくない。
小説『
死ぬことと見つけたり
』(
AA
)の主人公も狙撃をするときは動く頭ではなく体を狙いべきだと言っている。
仲間たちの死を踏みこえ、ついに発見した『無明逆流れ』破りだ。
だが、ここで大きな誤算が生じていた。
『牛鬼の怪力は目釘を折り』
『刃なき剣を』
牛股師範、痛恨の自爆であった。
ああ、もうッ! 脳が動いていないから、力加減が効かなかったんだな。
なんだよ、目釘折れって。
逆刃刀・真打
を見習って気を利かせろよ。
伊良子が聞いた空気のきしむ音は、目釘が折れた音なのだろう。
あの時、勝負は決していたのだ。
目釘は刀と柄を固定してつなぎとめる物だ。
刀身と柄がわかれている日本刀では重要な部分である。
日中戦争時に軍で日本刀の修理をしていた成瀬関次氏は「修理に出てくる軍刀の一〇振りに一〇振り、目釘に故障があったと記している」らしい。(
刀と首取り
)
重要なわりに、故障しやすい部位である。
虎眼流が刀のぶつかり合いを避けるのは刀が折れるという理由だけではないのだろう。
目釘へのダメージも考慮して打ち合いを避けているはずだ。(
シグルイ3巻
12景)
なお、剣道で竹刀を持つとき「片手に持つ場合、柄頭を少し余して握るという条件が付与された。これは日本刀の場合、柄頭一ぱいに握ると斬撃の際、刀の柄の折れる恐れがあるため」に、規則が決まった。(
日本剣道の歴史
)
虎眼流の『流れ』も、刀をぶつけ合わないという前提の技なのだろう。
運に見放され、牛股師範は斃る。
元和八年十二月十六日(西暦1623年1月16日)に三ッ胴を達成した牛股師範の愛刀が不発に終わった。
無銘の打刀らしいが、切れ味は相当なものらしい。死体を三人重ねて胴を一気に斬っちゃうぐらいだし。
もっとも、牛股師範の力量があれば容易い気もしますが。
元和八年は伊良子が虎眼流にやってきた年だ。
なにか因縁めいている。
なお、西暦の変換は
【換暦】暦変換ツール
を利用させていただきました。
和暦とグレゴリオ暦は一年の日数が違うため、年末年始でズレが生じる。
正確な確認をする時に便利だ。
いつまでも全裸で放置されている藤木に布団をかけてくれる優しい人があらわれた。
三重さまである。
父を微妙に憎んでいる三重は、鍛えられた肉体をおぞましく思っているらしい。
しょせん、虎眼先生の傀儡ですからね。
「鍛えた肉体=立派な傀儡」
という認識なのだろう。
だが、斬りおとされた左腕だけは藤木の物ではなかった。
切断面は伊良子とつながっている。
三重は縫い合わされた藤木の傷口を握りしめ、伊良子への憎しみを募らせるのだった。
ちょっ……、
みえみえ、キャラがピンクからブラックになってるっ!
攻撃しちゃダメだ。
ドSに目覚めるなッ!
裏表の激しい桑島法子声は
バンブレ
で十分ですよ。
牛股師範が敗北し、藤木が拷問(?)を受けている。
伊良子は右足を斬り裂き、歩行困難な体となった。
前回が登場した螢(ほと)の市は吐血して退場か?
理不尽なまでに、みんな痛い目を見た回だった。
次回からは、藤木と伊良子が失った肉体を乗りこえ再生を目指す話になるのだろう。
でも、その前に虎眼流の更なる凋落がまっていそうだ。
あと、孕石家老と雪千代の動向はどうなったのだろうか?
ながかったシグルイ連載も材料がそろい、ゴールが見えてきた。
連載前の0話に、やっと 話がつながろうとしている。
駿河城御前試合まで、作中時間で あと一年ッ!
by
とら
2008年1月19日(3号)
第五十四景 上意(じょうい)
虎眼流が壊滅し、夜が明けた。
まあ、全員死んだわけでは無いのが救いだけど。
でも、今後の藤木源之助は伊達になってすごすワケだ。
大根買いにいくにも後ろ指さされる感じですよ。
武士ってのは命より面子が大事な価値観で生きているので、相当つらい。生き地獄だ。
賤機
検校
はさっそく
徳川忠長
に「虎眼流なんて弱かったっスよ」と報告にいく。
こうやって、虎眼流の恥をさらすのだろう。
悪い行為にアクティブな人だ。
人の痛みは、我が喜びとかのタイプでしょうか。
権力を極めるときも、そうとう悪いことをやったんだろうな。
その賤機検校が、忠長に蹴られた。
前歯が折れるほどの打撃だ。
忠長は、お殿様らしく華奢な体格なんだけど、暴力中の力はスゴい。
巨凶なる徳川家の血筋のなせる技なんだろうか。
仇討試合の話をしているときに、蹴られたらしい。
なにが忠長を怒らせたのか?
まあ、この人の場合は
尿のキレが悪かったぐらいでも怒りそう
だしな。
たとえば、ツバが飛んだのかもしれない。忠長なら十分怒るぞ。
家老・孕石備前守は仇討ち場での不始末に責任を感じて切腹していた。
五十一景
で、雪千代に人を斬った経験をたずねていたのは介錯を頼むためである。
雪千代は見事に役目を果たす。
全ての責任を取り、孕石は腹を切った。
『下級武士の仇討試合によって家老が自刃するのは』
『前代未聞の事件であろう』
山本博文『
切腹
』の切腹例を見ていると、責任というものは部下が取るものらしい。
経済政策に失敗したら、家老ではなく担当者が切腹する。
上司がなんとか還元水で会計をごまかしていたとしたら、会計担当が切腹すればOKなのだろう。
上司に達成不可能な目標を設定されたら、死亡確定ですよ。
なお、上役ってのは能力ではなく家柄で決まる。……無能率高そうだ。
武士社会、怖ぇ〜
そういう社会において、下の責任を取るというのはめずらしい。
孕石家老の人柄がしのばれる。
試合担当役人たちの助命を、この切腹で願う家老であった。
武士らしい いさぎよい死に様である。
虎眼流・岩本家の禄高は三百石から三十俵二人扶持に降格される。
収入が、だいたい1/9ぐらいになった。(1人扶持≒1.8石、1石×年貢率=収入≒1俵
だそうだ
)
人を雇えない収入なので、三重は奉公人たちに退職金をわたして去ってもらう。
二人扶持ってのは、二人分の玄米が支給される。その他の生活費とおかずは三十俵の米を現金化して補う。
非セレブな空気がただよっている。
三重が奉公人に暇をだしているころ、藤木は
切腹
の練習をしていた。
腹を十字に斬ってのどを突く。
痛くて達成困難といわれる十字切り
を選ぶあたり、藤木は通だ。
最後にのどを突くのは、介錯がいないからだろう。
腹を切るだけでは即死しないので、自分で自分にトドメをさす必要があるのだ。
虎眼流が壊滅なので、頼る相手が本当にいない。
寛永五年十一月三日(1628年11月28日)、駿河藩密用方の馬渕刑部介が岩本家にやってくる。
御前試合の行われた寛永六年九月二十四日(1629年11月9日)の約1年前だ。
仇討ちで両者が生き残るということはありえない。決着をつけろ。
そういう用件らしい。
だが、藤木は敗北を認めていた。
すでに藤木も三重も気持ちの上で切腹&自害していたのだ。
藤木が行っていたのは練習ではなく、エア切腹だったらしい。
死んだ気で生きて行こうと決心したのだろうか。
夏目漱石「
こころ
」(
AA
)の先生みたいだ。
だが、徳川"大納言"忠長はそれを許さない。
なにがなんでも決着をつけろ(訳:臓物ぶちまけろ!)
という、上意が伝えられた。
藤木、ショックッ!
これが武士社会だ。マジ、怖ぇ〜
かなわないと言っているのに、それを許されない。
こっそり切腹したらダメなんでしょうか。
……ダメなんでしょうね。
自由に死ぬことすら許されない武士社会のキビしさを改めて教えられた藤木であった。
憧れってのは、実現すると色あせるんですね。
農民のままでいたほうが、楽は楽だったろうに。
忠長が検校を蹴ったのは
「そういう残虐ショーは俺にも見せろ!」
という意味だったのだろう。
今度は目前で臓物ぶちまけろということらしい。
牛股師範の雄姿をみたら、伊良子の三倍ぐらい気にいりそうだな。
惜しい人材を失った。
藤木は左手・師・兄弟子を失った状態で伊良子と戦わなくてはならない。
頼る人は誰もなく、今までのフォームで戦うこともできない。
これから先、生きるための必死な修行をするしかないのだろうか。
両腕があっても勝てなかったのに、片腕でどうするんだよ。
失うことから全ては始まる。
正気にては大業ならず。
武士道はシグルイなり。
この逆境からの逆転に必要なのが、真のシグルイだ。
でも、伊良子も同じぐらいシグルイなんだろうけど。
by
とら
2008年2月19日(4号)
第五十五景 兜(かぶと)
カラー表紙で十文に切腹して臓物をだすのがシグルイの作法でござる。
同じ腸でも、色がつくと印象がちがいます。
これ、11巻の表紙になったりして。
もちろん、オビで臓物を隠す。美少女モノがオビで下着を隠すように。
今回は虎眼流による最大の被害者・舟木道場の話である。
当主の舟木一伝斎は虎眼先生にアゴを破壊された。(
シグルイ1巻
5景)
しかも、虎眼先生に逆恨みされ、跡継ぎである数馬・兵馬の兄弟を殺される。(
シグルイ2巻
6景)
全部、虎眼先生がらみの悲劇だ。
跡継ぎの息子を二人同時にうしなった舟木一伝斎の嘆きはいかほどのものであろうか。
もっとも、ぬふぅ兄弟は少年の尻穴が好きだから、存命でも跡継ぎ問題が未解決のままだったろう。
しかし、舟木一伝斎には残された最後の希望があった。
第三子・
千加
(ちか)
の存在である。
今回のシグルイは、チャンピオンRED もう一つの側面である『萌え』に力を注いでいるようだ。
アニメ監督
谷口悟朗
いわく
『日本のエンタメの基本要素に「侘び寂び燃え萌え」という物がある。』
さすが、
倉田英之
の連載を姦計で終了させ、かわりに自分が連載をはじめた策士だ。考えが深い。
最近のシグルイは萌えが少なかった。これで、バランスが良くなる。
なお谷口悟朗オススメの作品『レース鳩0777(アラシ)』は、Amazonでも中古しかない。(
参考
)
この作品もチャンピオン連載作品だ。
さすがチャンピオンである。
変な
熱い作品の宝庫だ。
新ヒロイン・舟木千加はみごとに割れた腹筋をもつ少女であった。
そして、兜も割る。
舟木道場の売りである、空中に投げた兜をそのまま割る技ではない。
いまだ青いつぼみなのだろう。
たぶん、No.1美少女の座は三重にゆずる必要があるので、控えめな美貌だ。
上半身裸で兜割りをする奔放な少女であった。
8巻
39景
に出てきた娘は、髪の質感が同じなのでやはり千加だったのだろう。
39景の千加は髪がやや長い。
今回の話は、仇討ちよりも過去におきたことなのだろう。
千加は、もう少し成長してさらに美人度が上がるようだ。
「舟木一族に代々伝わる」
「怪力の特性と」
「双子の兄同様の」
「豪放な気質を備えており」
ダタ者ではない萌え気質だ。
さすが、
ぬふぅッとSister
である。
発音は『
ちょこッとSister
』の感じで。
千加は女でありながら、道場で門下生を鍛えている。
さすがに木刀は使わない。
柳生新陰流で使用される「ひきはだ竹刀」を使用しているようだ。(
参考
)
隆慶一郎の小説では おなじみですね。
ただ、これは対手
(あいて)
を気づかってのことであろう。
今回、一度も竹刀で相手を打たなかった。
竹刀を肩にかつぐ豪快なかまえを、千加はみせる。
葉隠で有名な佐賀武士は刀をかついで敵陣に突入するらしい。
千加も、そうとうシグルイな人のようだ。
打ち込む相手のそでをつかみ、崩す。
ここまでの技ならできる女性もいるだろう。
柔道の
谷亮子
なら、簡単にできそうだ。
ヒジをつかまれるとバランスを崩す。
盲目の人を案内するときはヒジをつかまず、手を引く。身長差がある場合は肩をつかんでもらう。
シグルイ1巻
1景でも、伊良子がいくの肩に手を置いている。
掣肘
という言葉は実体験に基づいているのだろう。
だが、千加は崩して倒すなどという常識をする人間じゃない。
崩した状態から、相手を頭上に持ちあげる!
ものすごい怪力だ。
男に生まれていたら、虎眼流と壮絶な死闘を演じていただろうに……
やっぱり、不幸の元は虎眼流か。
そして、相手をおろすときに
乳首チラ
だ。
凄まじきコンビネーションである。
これをやられると男子は立ちあがれない。
千加は次の相手に色白の美形・倉真又八(くらみ またはち)を指名する。
美形だが、弱い。
千加の左拳で右脇腹を打たれ悶絶した。
ボディーブローでもっとも効くといわれる肝臓打ちだ。
これは、たまらない。
又八は舟木道場に一泊を薦められる。
歩けないほどのダメージだったのだろうか。
そりゃ、
幕之内一歩
級の打撃(推定)を喰らったんだろうし、普通なら病院直行だろう。
だが、ここでまさかの逆夜這いだッ!
千加のほうから、又八の寝床にやってきた。
どうも千加は好きな子をいじめてしまう、小学生男子みたいな性質を持っているらしい。
しかも、いきなり脱いでいます。
千加は下着をつけない主義なのか?
先手必勝の武人らしい思い切りだ。
「乙女は未通であったが」
「営みの手順については」
「双子の兄から充分な説明がなされていた」
なっ! 何をするだァッッッ!
それって、教育としていいのか?
男同士からみ合う姿を見せるのは、イイのか?
そもそも、ぬふぅ絡みは映像としてNGだよ。
これも、妹萌えにはたまらないシチュエーションになるのだろうか。
もたざる者にとって、妹に性教育をほどこすという響きはたまらぬモノかもしれない。
数馬・兵馬の ぬふぅブラザーズのことだから、互いに入れあっている姿を見せていたりして。
千加は、入れる場所をまちがっていそう。
ところが、ここで異変が起きる。
異変を又八に指摘された千加は、
彼の顔面をむしりとる(素手で)凶行におよぶ。
一体、なにが起きたのか?
「事に望まんと欲した時 乙女の一部位が男子と化す!」
つまり、「
ふたなり
」でござるか!?
織田信長が両性具有者だったという小説『
信長―あるいは戴冠せるアンドロギュヌス
』もありますが、こういう柔軟性が時代物の強みだ。
なんか、千加は萌えの最終兵器みたいな存在に思えてきた。
むしろ、
悟空道
風に秘蜜兵器か?
この秘め事を床下で聞いていた生物がいた。
異形の剣士・屈木頑之助
(くつきがんのすけ)
である。
8巻
40景
で初登場した彼は、千加に焦がれていたのだ。
このまま、おぞましい恋物語が展開されるのだろうか。
まあ、シグルイだから酷い話になるのだろうけど。
屈木頑之助と千加は、原作『
駿河城御前試合
』第四話の主人公とヒロインである。
藤木と伊良子が第一試合を戦い、屈木が第四試合を戦う。
第一試合の結果をぼやかしたまま、第四試合を先にやるつもりなのだろうか?
なんにしても、千加のキャラクターが全然ちがうので、おなじ結末になるとは思えない。
伊良子よりも数段 無明な展開をつづけるシグルイであった。
本当に、今後の展開をどうするんだろう。
コンビネーションバラエティさん
が紹介していた『
ちょwwwwwスイーツ(笑)雑誌の特集に吹いた
』が、千加の行動と重なっている。
1.道場の席で、スソをつかんだ手をそのまま引きよせちゃえ!
2.竹刀を口にくわえてさりげなく男の子の体を持ちあげちゃえ!
3.道着の下は、ナッシングインナーで乳首が見えちゃえば、勝ったも同然!
4.男の子と稽古になったら、「こそばゆい」って言って肝臓を重い打撃で打っちゃえ!
ダメージで男の子は自然と家に帰れなくなっちゃう。
5.男の子の打ちすぎは注意!あそこが、ふにゃふにゃになってしまうから。
程よい量だったら問題なし。
6.彼氏が中々積極的になってくれない貴方は、ナッシングパンティにチャレンジにしてみよう。
2008年 萌えのトレンドは舟木千加が斬り開いていくと確信した。
行く先は前人未到な萌えの境地だ。
ただ、刀かついで裸体で疾走は、三重が達成している。
千加の最低ラインは、勃起しながら刀かついで全裸で疾走だろうか。
そのうちパチンコにもなります。キャッチコピーは「あなたと切腹したい…」かな。
by
とら
2008年3月19日(5号)
第五十六景 合戦(かっせん)
『天正十一年
賤ヶ岳の戦い
にて』
『無銘の刀を携えた雑兵が』
兜割を達成したッ!
戦場において、刀が使われることは少ない。
それでも、兜割を達成した人間もいるそうだ。(鈴木眞哉『
刀と首取り
』)
ごくまれに起きる奇跡だからこそ、尊い。
成功させたのは、若き日の舟木一伝斎である。
彼も虎眼先生と同じく、戦国の世を生き抜いた実戦経験者だ。
舟木流の兜投げは、この偉業をもとに生まれた。
剣名を上げるために欠かせないイベントでもあるのだろう。
門下生を多く集める手腕も経営者には必要なのだ。
虎眼流は試合を申し込んできた相手を伊達にすることで生きた宣伝とする。
舟木流の選んだ方法は、デモンストレーションによる宣伝だ。
兜を斬る。つまり防具による防御は不可能だ。
一撃必殺の攻撃力である。
まあ、当たらなければ、どうということはない。
兜を空中で斬り裂く剛剣も、虎眼先生に通用しないでアゴを飛ばされてしまう。
寸止めではなく、最初から当てる試合ならば。一伝斎はそう思っていたかもしれない。
この話に限れば、虎眼先生は無作法だった気がしてくる。
千加は舟木の血を唯一受けつぐ人間だ。
兜投げを成功させれば、彼女の婿になることができる。
虎眼流は男子に恵まれなかったので、婿取りに苦労していた。
舟木も同じ苦労をするハメになっている。
これも、虎眼先生が舟木の息子を惨殺させたせいなんですが。
自分と同じ不幸を、恨みのある相手にも与えたかったのだろうか。
その兜投げに、ガマ男・屈木頑之助
(くつきがんのすけ)
が参加したいと願いでた。
床下で千加の行動を盗聴するほどひたむきに思いをかけていたのだ。
現代なら立派なストーカーである。
兜投げに成功すれば屈木は合法的に千加と結婚できるのだ。
優秀な剣士であれば、誰でも参加できるという約定があるため、一伝斎は屈木の参加を拒まなかった。
屈木をなめていた部分もあるのだろう。
舟木の血筋は油断気味なのかもしれない。
屈木が婿選びの儀式に参加する。それは千加にとって不快だった。
乙女らしい『可憐な抗議』をする。
一伝斎の愛馬を斬り殺し、肩にかついで登場だ。
馬は股間のあたりを斬られて、内臓が出ている。
なんて、『可憐な抗議』なんだろうか。
シグルっている人にとっては、馬を斬り殺して肩にかつぐのが可憐なのかもしれない。
これも双子の兄たちが教えたのだろうか?
さりげなく上半身裸で、えっちい姿もアピールする。
露出の多いチャンピオンREDであっても、トップクラスの脱ぎっぷりだ。
次号のオマケは、舟木千加の全裸クリアファイルだろうか?
ぜひ、学校や会社で使っていただきたい。
そのうち、舟木千加の抱き枕が出るかもしれない。
翌朝、枕に圧殺されているとか、枕が馬の死体に変わっているとかの、サプライズがありそう。
想像しただけで、胸がきゅん
♥
(はぁと)
ってなります。安眠できません。
胸の谷間にも目がいきますが、腹筋の割れた峡谷のほうが目立つ。
なんか、前回よりも育っている気がする。
お嫁さんになるぐらいだから、育ち盛りなんだろうね。
馬をかついでいるから、バンプアップ中なのかもしれないけど。
つうか、いつまで馬をかついでいるんだろう。
「千加よ」
「どのような境遇の者であろうと一生に一度だけは」
「自己の運命を覆し得る場に立つことが出来る」
「舟木流は合戦の武功で成り上がった家ゆえのう」
舟木一伝斎は、愛娘の可憐な抗議にたいし、熱く諭すのだった。
アゴが無くてもしゃべることできるし、カッコイイぞ!
一生に一度の機会をのがさず、モノにする。
今でも、舟木一伝斎は挑戦者なのかもしれない。
ちなみに、虎眼先生の生涯一度は家康への仕官だったのだろう。
失敗しましたが。
藤木源之助の生涯一度は仇討ちだったと思う。
アレで勝っていれば、虎眼流をついで二代目になっていたんだし。
失敗しましたが。
牛股師範は素手による去勢だろうか。
虎眼先生にとっては、失敗だったろうな。
逸材の種を無くしちゃったんだし。
虎眼流は、なんか失敗する人が多いな。
寛永四年五月五日(1627年 6月18日)、運命の兜投げが行われる。
桑木十蔵、倉川喜左衛門はすでに失敗していた。
残るは随一の使い手である斎田宗之助と屈木のみだ。
斎田は美太夫でもあり、千加も期待している。
千加さんは、けっこう美形好きなのだ。
そういえば、兄たちが絡みながら性交のやりかたを教えたとき、千加の股間は反応しなかった。
やはり、ぬふぅ兄弟ではダメなのだろう。
美形同士が絡んでいたら、おもわず千加も起立していたかもしれない。
千加が美形好きとなったのは、ぬふぅな兄をもった反動であろうか。
斎田は千加の期待にこたえ、見事に兜を斬る。
皆もほめているので人望もあついのだろう。
なかなかの好人物らしい。
そして、最後に屈木頑之助が登場する。
白塗りで化粧をし、武士の正装である裃(かみしも)らしきものを着ていた。
裃に家紋はなく、血を落としたような模様となっている。
ハッキリ言って、不気味だ。
門下生のなかには、吐く人間すら出てきた。
不気味な姿をさらす屈木だが、刀をかまえる姿には迫力があった。
一流の剣客である舟木一伝斎は、その姿に戦慄する。
結果、舟木一族の怪力をふるい一伝斎は兜を投げた。
屈木の顔面めがけて!
兜は屈木の顔面に炸裂し、歯が飛び散る。
一伝斎や千加の顔にまで返り血が飛ぶ。
尋常ではない衝撃が起きたのだ。
高速で金属の塊がぶつかった。鍛えた人間でも、大ケガする。
さすがの朽木も、一撃で失神したらしい。
「戦場に於いて敵の兜が」
「己の欲するように程よきところに飛びくると思いおるか」
一伝斎が逆ギレたッ!
ものすごい 言いがかりだよ、オイ。
屈木は気絶して話を聞いていない。それでも、一伝斎は咆えている。
弟子たちが見ているから、言い訳が必要なのだろう。
だって、ヒドイよ、こりゃ。
なんにしても、屈木の生涯一度は打ち砕かれた。
逆に斎田と千加の生涯一度は守られたのかもしれない。
いや、二人が結婚し、その初夜をむかえるこれからこそが、生涯一度の修羅場になるだろう。
ふたたび千加にバベルの塔がそびえ立つのだろうか?
次回へつづく。
現在、放置中の虎眼流にかわり、しばらく舟木流の話がつづきそうだ。
片腕になった藤木には、治療と再起のために時間が必要だ。
今の展開は、ちょうどいい休憩になるかもしれない。
よそから来た異端の男が、嫁取りと拒否され師匠にヒドイことをされた。
伊良子と屈木の状況的はにている。
ただ、伊良子は性格が悪く、屈木は容貌が悪い。
似ているけど、憎しみの育てかたが違ってきそうだ。
伊良子と似たパターンだとすると、屈木が舟木流の門下生を闇討ちする展開が予想される。
むしろ、千加が股間の秘密を知った男を闇に葬らないか心配だけど。
たくましくなった腹筋に比例して、脇差が太刀になっていそうだな。
by
とら
2008年4月19日(6号)
第五十七景 瘡蓋(かさぶた)
千加のドキドキ初夜体験です。
場合によっては普通にエロなんだけど、下半身の問題があるので簡単にはいかない。
ふたなり系の至極は百合と見立てそうろう。
男相手じゃ、生えている意味が無いよ。
でも、SAGAよりマシ!(←魔法の言葉)
危惧は現実のものとなる。
性的に興奮した千加の股間がタケノコと化す。
そして、斎田宗之助が飛んだ!
天井に当たるほどの勢いで。
餓狼伝の姫川勉なみの腰力だ。(
餓狼伝13巻
105話
)
いや、腕で飛ばしているらしい。
腕力だけだとしたら、そっちのほうが凄いな。
ヘビー級ボクサーよりもスゴい。
おそらく他の筋力も使っているのだろう。
すぐれた体術と怪力が可能にした技だ。
結婚相手に使うのがイイのかどうかは別問題ですが。
斎田は頭部を負傷するが、千加の秘密に気づかなかった。
うむ、世の中知らないほうが幸せなコトもあるしな。
そして、
斎田はなにも知らぬまま殺される。
ヒザから下の両脚を切断され、顔がそぎおとされていた。
兄たちにつづいて、夫までもが顔をそぎおとされる。
とんでもない不幸が舟木道場につづく。
本格的に御祓いしてもらったほうがいいんじゃなかろうか。
犯人は屈木頑之助
(くつきがんのすけ)
だった。
富士山麓の洞窟で、屈木は斎田の脚と顔を並べている。
密かに修行をして背中の皮はカサブタだらけとなり、手足のツメがはがれていた。
どんな技を練習したら、こういうケガをするのだろう。
あおむけに寝て、手足でかきむしるように疾走するとか。
映画『
エクソシスト
』(
AA
)の映像特典「スパイダーウォーク」みたいな感じで。
修行をやりすぎたせいか、屈木は自分が美形に変わったと思いこんでいた。
脳内麻薬の出しすぎだろうか。
屈木の脳内では「千加は俺の嫁」ぐらいの勢いだ。
それにしても、妄想の千加は股間のタケノコがデカすぎるだろ。
文字通りの男勝りだよ。
喪服の千加が斎田の墓を見舞う。
舟木道場の連中といっしょにきている。
喪服は美人度を上げると言われるアイテムだ。
そのうちに、
アイドルマスター
の新衣装で登場します。(しない)
喪服のせいかもしれないが、この千加は確かにかわいい。
股間のタケノコさえなければ嫁にしたいほどだ。
まあ、油断していると素手で顔面の肉をむしられたりするから、常人には扱えないんでしょうけど。
「一度も契りを結ばぬうちに」
「逝ってしまわれるなんて」
千加は涙をながし、衝撃の告白をする。
魔性の女だ!
計算しているとは思えないが、見事に男心をくすぐっている。
これは孔明の罠か!?
当然、舟木道場の男たちは千加に萌えあがるのだった。
罪つくりな娘さんです。
どうせ、結婚しても突き飛ばして天井にぶつけるだろうに。
寛永五年五月五日(1628/6/6)の兜割りは異様な熱気につつまれていた。
千加が甲冑を着こんで見守っているのだ。
今回は、みんな兜を持参している。
屈木が舟木家に侵入して兜をすべて斬ってしまったのだ。
イロイロな意味で波乱の予感がする。
前回失敗した倉川喜左衛門が、今回は兜割りに成功する。
はやくも甲冑美少女となった千加にメロメロだ。
けっこう露出の多い甲冑なのでそそられるのだろう。
恐るべき天然小悪魔・プチ痴女系だ。
モンモンとしている倉川は、もう結婚までまてない。婚約すらまてなかった。
夜眠れず、布団を抱きしめるがおさまらない。
北方謙三
に相談したら「ソープに行け」って言われること間違いない状況だ。
ガマンできない倉川はついに走り出した。
夜の街を疾走する。
さすがに長距離を走っていくのはいかがなものかと。
疲れすぎて、本番で活躍できないかもしれないぞ。
だが、敵は道の途中にいた。
立ち脱糞をしながら屈木頑之助がまちかまえていたのだ。
このタイミングと言うことは、倉川の様子を見張っていたのだろうか?
さすが忍び込みの達人だ。
見た目以上に危険な怪物である。
屈木は刀の鍔に近いところを握っている。
両手の間にスキマはない。
基本から外れた握りだ。
正式な訓練を受けていないことがワカる。
ゆえに異形の剣術がまちかまえているのだろう。
屈木は頭を地面につけて、頭で逆立ちする。
そのまま頭を軸に回転だ。
まるでコマのような技である。
一刀でヒザの下を切断した。
『巨大な頭部を起点に背と首の筋肉ではね上がる天地逆転の斬法!』
無明逆流れに匹敵する異形の剣術だ。
断面が異様に汚い。
刀をうまく使えず、力まかせに叩きつけたようだ。
これが屈木の
『がま剣法』
である。
倉川を斬殺した屈木の姿は脳内補正で美形だ。
道の真ン中で立ち脱糞しても美形なら許される!
恐るべき脳内美形の魔の手が千加に迫るのか?
次回へつづく。
いくにも負けない、むざんむざんな男たちだった。
まあ、この場合は下手人がハッキリとしているので、千加が呪われているという噂にならないのだろうが。
どちらかと言うと、屈木討伐隊が結成されるのだろうな。
ただ、問題の根幹は千加の股間だ。
アレをなんとかしないとハッピーエンドにならない。
屈木の背中は、頭回転の修行で傷ついたのだろう。
失敗すると、背中で回転するハメになる。
ツメがはがれた理由はちょっとワカりませんが。
屈木にはまだ隠し技があるのかもしれない。
にわのまこと『
THE MOMOTAROH(ザ・モモタロウ)
』でも頭で回転する技が出てきたが、ハゲるよね。
まあ、屈木は脳内補正で生きているのでハゲても問題ないのだろう。
がま剣法は身を削る荒業のようだ。
藤木たちの話は、仇討ち試合後の寛永五年十一月三日(1628/11/28)で止まっている。
がま剣法編が、追いつきそうだ。
仇討ち試合の舟木一伝斎は自力で立てないようだった。
もしかすると、このあと屈木に斬られるのかもしれない。
御前試合の行われる寛永六年九月二十四日(1629/11/9)まで、あとわずか……
藤木たちの放置も、もうすぐ終わるかもしれない。
早ければ今年中に……
by
とら
2008年5月19日(7号)
第五十八景 大蛇(おろち)
みんなのアイドル、駿河大納言
徳川忠長
の登場だッ!
今回も狂気の風にのってフルスロットルで疾走しています。
ちなみに大河ドラマ『
篤姫
』の
徳川家定
はシグルイの忠長をイメージして役作りされているという。
すいません。今、思いついた嘘です。
忠長たちが
久能山
の家康廟に詣でたときのことである。
石段に一丈(約3m)を超える大蛇が居座っていた。
神聖な場所だから殺生はできない。
しかし、殺さず大蛇をどかせるのは至難である。
一休さんでも、これには頭を抱えるだろう。
進退きわまった状態のなか、忠長のこめかみに血管が浮きでてくる。
忠長と兄の
家光
は跡目争いをしていた。
相続を決定したのが、家康だったという説がある。
忠長にとっては、この地に住む蛇まで己をバカにするのかという思いもありそうだ。
放っておくと、忠長が爆発して蛇を斬殺しかねない。
そうなったら、責任とって全員切腹だろう。
武士社会ではトップの責任は下の者が引き受けることが多い。(
山本博文
『
切腹
』)
忠長の責任になったとしても、お家取りつぶしでみな失業だ。
失業道もシグルイなり。
さりげなく命がけの事態であった。
そこへ槍が一閃する。
前髪の美少年(?)馬廻役の笹原修三郎だった。
槍は蛇の舌を貫き、体をからめとり、無血でわきにどける。
家臣団を救った神技だ。
以後、笹原は"笹原の舌切り槍"という呼ばれるようになったという。
戦場では鎧兜で身を守る。
だから、防具の隙間を狙う技量が必要になるのだ。
司馬遼太郎
『
国盗り物語
』でも、斎藤道三が屏風に描かれた虎の眼を狙って槍で突くシーンがある。
精密攻撃は、達人の証だ。
笹原は、前髪があるので元服(成人)前だろう。
しかし、馬廻りという役職についている。
実力を認められて、若くして抜擢されたのかもしれない。
そして期待以上の腕前を見せたのだ。
ちなみに、前髪は武士世界の衆道フェチズムだ。シグルイだと
涼
が代表例だろう。
現代で言えば半ズボンを装備したショタ声
釘宮
レベルと思っていただきたい。
笹原修三郎は世間で大評判になりそうだ。
ちなみに、蛇は全身の骨を砕かれて殺される。忠長の恨みが、そうさせたのだろうか。
笹原修三郎の従弟に笹原権八郎という男がいた。
舟木兵馬・数馬と親友だったらしい。
もしかして、親友以上だったりして。
……しかし、便利ですね舟木兄弟は。
コイツらと仲がイイというだけで『変態である』という説明になる。
従弟というから笹原修三郎より年下なのだろうが、笹原権八郎は老けていた。
むしろキモい系だ。
蛇ファッションに身をつつんで、一流のキモさを演出している。
笹原家の成長具合は、どうなっているんでしょうか。
誤植で『従兄』なら説明つくんだけど。
笹原権八郎は舟木千加の内臓を見透かし未通女(おとめ)であることを見抜いた。
どんな嗅覚なのやら。
ニオイでわかるものなのだろうか。
とりあえず権八郎はオトメ好きということで。きっと『
舞-乙HiME
』とか好きだろうな。
でも、タケノコの気配に気がつかないあたりが、人間の限界だろうか。
権八郎は、オトメな千加に求婚するのだった。
だが、千加の夫を狙う不吉な影がある。
権八郎は、襲撃者を倒し千加をゲットできるのか?
おどろいたことに、舟木一伝斎は下手人への対策を考えていなかった。
達人も老いには勝てないのか。
かわりに、権八郎が敵の動きをシミュレートしてくれくれる。
見かけと性癖に問題ありそうだけど、権八郎はけっこうイイやつかもしれないな。
千加のタケノコも気に入ってくれるかもしれない。
権八郎の見立てではこうだ。
剣は下に向かうほど威力を失う。
そこで敵は身を伏せて、足を狙ってくるのだ。
(屈木頑之助…)
カエルのような姿に舟木家の人たちは戦慄するのだった。
嫌なことから眼をそらしていたのだろうか。
舟木家は勉強する前に、仮眠をとるタイプかもしれない。
少なくとも、兄たちは結婚を考える前に男娼を抱くタイプだし。
まあ、屈木はあんまり思い出したくない容貌だよな。
とくに食事時に。
とにかく、権八郎は槍で兜割(兜突き)を達成して、千加と婚約する。
襲いかかるであろう襲撃者を警戒し、つねに
若党
の佐助に槍をもたせるのだった。
刀は武士の身だしなみみたいな物だが、槍は戦場の武器だ。
常に機関銃を持っているようなもので、物騒な姿だろう。
権八郎は戦国時代に間にあわなかったカブキ者かもしれない。
月代
も剃っていないし、就職していないのだろう。
実は、ニート侍か?
強力な武装をしている権八郎だが、それで諦めるような屈木ではない。
塀の上から、大量の唾液(?)をあびせる奇襲攻撃だ。
狙いは権八郎にあらず。
槍もちの佐助だった。
『相手の得意手は戦う前に奪う!』
『がま剣法とは合戦の心得なり!』
敵の槍持ちを狙う戦術は
荒木又右衛門
ももちいている。
あいてに槍の名手がいたため、四人の人員のうち二人を槍持ちに向かわせたのだ。(
刀と首取り
)
敵の戦力を奪うのは、闘いの常道だ。
最大の武器を奪われ、権八郎は動揺する。
だが、権八郎は舌をかみ切ることで、気力を復活させたのだ。
まさに蛇のような執念。
二人は同時に動いた。
屈木は頭を地につけて回転をねらう。
権八郎はヒザをつきつつ、下段に切りこむ。
まず、権八郎の刀が屈木の背中に喰いこんだ。
だが屈木は構わず回転する。
相手も低い位置にいて、斬られながらの斬撃だった。
縦回転にかわった屈木の一閃は、権八郎の鼻と額を斬りおとす。
切り口から、脳が露出した。
屈木の背中はカサブタ状になっており、致命傷を避けることができたのだ。
さらに言えば、権八郎は片膝をついた体勢の攻撃だったため、威力も不十分だったのだろう。
脳が出ちゃっている時点で勝負アリだと思うが、権八郎は刀を構える。
やはり、
脳なんて飾りなんでしょうか。
だが、屈木は刀を投げつけ、権八郎の足を斬りおとす。
四肢の短さを投げることで補ったのだろうか。
正統な剣を学べば学ぶほど、異形による奇襲に弱くなりそうだ。
今回の死闘も がま剣法の勝利であった。
屈木も技を相手に研究されて、負傷した。
だが、まだ がま剣法の優位は崩れてないようだ。
権八郎の顔を削いだ一刀は、断面が滑らかである。
屈木は刀の使いかたもマスターしつつあるのだろう。
がま男とタケノコ乙女の運命が決するのは、駿河城御前試合だ!
藤木たちの話が止まっている状態だが、先に『がま剣法』の決着をつけるのだろうか?
屈木の頭回転斬りをどう攻略する!?
『
ジャングルの王者ターちゃん
』に出てきたバイオレンス・マッスルパワーのように、股間を軸に回転するのはどうか。
千加さんのタケノコなら出来る。出来るのだ!
by
とら
2008年6月19日(8号)
第五十九景 幻影肢(げんえいし)
ひさしぶりに藤木たち虎眼流の話にもどる。
54景
以来だ。
タケノコ姫 & がま王子の話で忘れていたけど、藤木たちは修羅場だった。
虎眼道場は事実上の解体状態にあり、藤木と三重は農家の納屋を借りて住んでいる。
屋敷を出ていくことはないと思うのが、世間体があるのだろうか?
収入も少なくなり、奉公人もいない。
あるのは、死んだ者たちの位牌と虎眼先生の血を吸った人面打ち掛けだけだ。
シグルイ7巻
35景
に出てきたアレです。
早く燃やして供養してあげればイイのに。
こんな物を毎日見ていたら、精神がおかしくなりそうだ。
虎眼先生の
戒名
は
『濃尾無双虎眼居士』
だッ!
ものすごい自己主張の強い戒名だな……
どう考えても安らかに成仏できない。
行き先は、
修羅界
だろうな。
前に書いた
が、虎眼先生の『虎眼』は本名(
諱
)じゃないようだ。
もしかして、出家していたのだろうか?
いや、虎眼先生は出家なんてしないだろうな。
最期の日まで人を殺めていたし。しかも、自分の弟子を。
仏様も逃げだしてしまいそうだ。
落ち目の藤木は、伊達面(ダテメン)をした男二人に狙われている。
虎眼流に恨みをもつ連中だろう。
まあ、藤木なら楽勝だろうから、あまり心配しませんけど。
ただ、コイツらが言うように生き恥を晒していると世間に言われるのがつらい。
もう一度、伊良子と戦え。藤木はそう命令されている。
だから生き恥を晒しているのだ。
しかし、武士が本気になったら、止めるのは難しい。
どんなに止めても脅しても、腹を切ってしまう。(山本博文「
切腹
」「
殉死の構造
」)
藤木が死なないのは、剣士として伊良子に一矢報いたいという思いがあるのかもしれない。
いさぎよく死ぬのも武士道だが、本懐を遂げるために七難八苦を乗りこえるのも武士道だ。
特に戦国時代の武士道は、勝利のためなら手段を選ばない思想でもある。(佐伯真一「
戦場の精神史
」)
自分の命をやたらと軽視するのが、武士の特徴だ。
日本だけではなく、決闘好きな古代ローマ人も同じぐらい人命軽視である。
勇気を誇示するため、わざわざ苦痛の多い方法で自殺をする人までいたらしい。(
図説 決闘全書
)
こういう「意地・名誉 > 命」という思考があったという例は見かける。
だが、「なぜ命が軽いのか?」を推測したものを見たことがない。
なぜ武士はシグルうのだろうか。
この時代は死亡率が高かったためかもしれない。
関が原のころの平均『寿命はよくてもせいぜい三〇歳程度であったであろう。』(
人口から読む日本の歴史
)
幼児での死亡が多いので、平均寿命が短い。江戸期前半の男子は35%が5歳までに亡くなる。
5歳を過ぎれば平均余命は46.0歳、つまり大部分の人は51歳で亡くなるのだ。
短くはかない人生だ。ならば、自分の死に様ぐらい自分で決める。
そんな考えなのかもしれない。
異様な迫力をまとった藤木は道ゆく人をビビらせながら歩く。
失ったはずの左腕が痛むのだ。
無いはずの左手が右手を押さえ、技が出ない。
『これは幻影肢と呼ばれる』
失ったはずの左腕を感じる。ただならぬ感覚なのだろう。(参考:
幻影肢
)
藤木は、切断された左腕の感覚に惑わされ、剣に集中できない。
このままでは、伊良子との再戦がなったとしても……
苦悩する藤木の前に訪問者が現れた。
孕石家老のせがれ雪千代だ。
父が腹を斬ったのは、藤木のせいだと罵り、刀を抜く。
藤木よりも伊良子のほうを恨んでも良さそうなのだが、雪千代は藤木に刃を向ける。
伊良子は大納言忠長が預かっているので、手を出しにくい。
それに、父は藤木に期待していた。
藤木には、裏切られた感が大きいのだろう。
雪千代は藤木に斬りかかる。
跳躍して、一閃ッ!
藤木が抜き打ちを放つ。
雪千代は指も腹もキレイに切断された。
でこぼれ落ちる臓物までもが美しい。
無念に天空をあおぎ、雪千代は倒れた。
藤木は雪千代の遺体に服をかける。
武士としての礼を尽くすつもりだろう。
その時、血溜まりに右腕がうつった。
鏡にうつる右腕は、左右反転されて左腕となる。
血溜まりの中に、左腕が生きていた。
藤木は、これで痛みと違和感から解き放たれるのだろうか?
悪い方向に覚醒しなきゃいいのだが。
孕石家が武門の恥を隠そうとし、雪千代は病死として処理された。
近所にいた伊達面(ダテメン)は気がついたら生首になって転がっている。
藤木がやったのだろうか?
武士の礼が尽くされていない。
野良犬を斬った程度にしか思っていないのだろうな。
まさに、虎眼流だ。
三重は肌をさらし、鏡のまえでセクシーポーズを取る。
自信を失った藤木を焚きつけるための練習だろうか。
藤木が覚醒したように、三重も覚醒しようとしている。
たぶん、やっかいな方向に。
だが、伊良子清玄の無明逆流れを破る妙案はあるのだろうか?
虎眼流の死霊を背負いながら藤木と三重の修羅がはじまろうとしている。
次回へつづく。
雪千代が死んだ。
もともと死相を感じていたが、思ったより早かった。
女がらみで死ぬと思っていたのだが、武士として死ぬ。
親に尽くす「
孝
」は徳目の中でも尊いものだ。
藤木は養子に出され、親の愛情をあまり知らない。
雪千代の生きかたに 憧れがあったのだろうか。
死体への接しかたが丁寧だ。
まあ、家老の息子だからということもあるんだろうけど。
そして、血溜まりに右腕をうつすと、左腕の違和感が消えることを発見した。
血溜まりを求めて辻斬りをしないか心配だ。
伊達面たちは、血溜まり要員として斬られたのかも。
そして、三重さんも本格始動だ。
一時期は鏡を嫌がっていたのに、今はポージングする気迫がある。
シグルイは、鏡がキーワードになっているようだ。
藤木は明鏡止水の心がまえで、新必殺技を生み出すのだろうか?
今後は、がま剣法編と二次元中継になりそうだが……
どうやってクライマックスに持っていくのだろうか?
駿河城御前試合は十一番勝負ですよ。
まだ、控えているドラマが九つもある。
by
とら
2008年7月19日(9号)
第六十景 男女(つがい)
伊良子清玄と いくは海岸を歩いていた。
かつて、虎眼流の仲間とおとずれた海らしい。(
シグルイ7巻
36景
)
伊良子が決定的に虎眼流と決別した地でもある。
虎眼流をほぼ全滅させたので、気持ちに区切りをつけるため旅行しているのだろうか。
牛股師範との戦いで右足が傷ついた。
そのため杖を使用している。
心の区切りだけでなく、身体のリハビリもかねているのかもしれない。
左腕を失った藤木の比べたら、ずっと楽に現役復帰できるのだろうけど。
伊良子は徳川忠長の客人となり、人生勝ち組状態だ。
護衛が二人もついている。
いや、伊良子の実力なら護衛なんていらないんじゃないのか?
あれか、気持ちの問題か?
燃費とか考えず、リムジンで出迎える心意気みたいな感じで。
武士でも高い身分になると槍持ちなどの家来をつれて歩く。
ちなみに、虎眼先生の三百石なら、軍役規定で侍2人・具足持ち1人・槍持ち1人・挟箱(はさみばこ)持ち1人・馬取り2人・草履取り1人・小荷駄2人の家来が10人必要だ。(
図解 武士道
)
検校の家に行ったときの陣容も、そんな感じだったのだろう。侍が牛股師範と藤木だ。(
シグルイ5巻
24景)
合戦では直接戦う以外に雑務も多いので、家来が必要なのだろう。
仇討ちなどで、こういう家来の人も戦っているので、実戦ではそれなりに戦うと思われる。重労働だ。
護衛の剣士は、同時に見張りでもあるのだろう。
伊良子ほどの剣士を失うのは惜しい。
また、忠長の悪行を少なからず目撃しているはずだ。
幕府の人間に捕まって しゃべられたら やっかいなことになる。
伊良子は盲目なので、目撃ではなく聞いて、か。
イロイロな意味で、伊良子を失うわけにはいかないのだ。
「それにしても不運は三重どよの」
「
いく
さえいなければ己を婿に迎え入れ」
「三百石を手離すこともなかったろう」
伊良子はとつぜん妙なことを言いだす。
なんか、三重と三百石にみれんがありそうな感じだ。
いくも「なに言いだすの、この人」みたいな表情をしている。
伊良子は、ここで起きた歴史の分岐点をちがう方向にむけたかったのかもしれない。
やっぱ、フローラにしておけば良かったかな……的な後悔か。
忠長の庇護をうけている伊良子の未来は明るい。
だが、伊良子の剣はイロモノだ。
立派な武士として尊敬を受けるというより、曲芸士として注目をうける。
オマケに忠長は悪行三昧なので幕府に処罰される可能性が高い。
前に
日記で書いた
が、後継者争いをした兄弟が和解できることは少ないのだ。
当時の人でも、歴史を学んでいれば忠長の立場が危ういと考えるだろう。
安定性と発展性を考えれば、虎眼流をついだほうが良かった。伊良子はそう思っているのかも。
もう藤木とあうこともあるまい。
そう考えているあたり、伊良子は守りに入っているのだろうか。
片っ端から女を陥落
(おと)
していた性欲が消え、ハングリー精神も減ってしまったらしい。
藤木は右腕を水面にうつし、左腕に見せることで幻肢痛を和らげることを発見していた。
前回
心配したが、
血溜りじゃなくても、治るらしい。
辻斬りに走らなくて良かった。
虎眼流が本気になったら、一日十殺なんて簡単にクリアしますよ。
統計にあらわれるぐらいの勢いで、掛川の人口が減る。
藤木は、巨大木刀のかじきをかついで散歩する。
これで新しい重心を身体に憶えさせているらしい。
戦うからには、全力をつくすのが藤木の流儀なのだろう。
しかし、無明逆流れに勝つ方策は無い……
三重はプチ村八分状態になり、買い物すら苦労するありさまだった。
武士は弱いものいじめをするものではない。
女子供に暴力をふるうのは、卑怯者であり武士失格だ。
だが、村八分を行っているのは村人である。
武士階級では無いことが、かえってキケンにつながっているのかもしれない。
おかげで三重は買い物をそろえることができなかった。
再試合への調印だというのに、出陣前の四方膳に打鮑がない。
だが、藤木は文句もいわず、食べるフリをするエア打鮑で場をのりきるのだった。
口中をモゴモゴさせて見せるなど、けっこう芸達者だ。
藤木にこんな特技があったとはッ!?
[ 虎は復活しつつあった]
エア打鮑でッ!?
もしかすると、エア左腕で隻腕生活になれたから、エア打鮑もできるようになったのだろうか。
とにかく幻肢痛が減ったので表情がよみがえっている。
エア打鮑の芸人っぷりよりも、精神状態の回復のほうが重要だ。
左手がなくなったから『星流れ』が使えない。
でも、イメージの力で人は音速を超えられる(
刃牙理論
)。
だから、片腕だけの関節でも音速を超えられるはずだ。現実さえ、見なければ。
一方、
伊良子は無明逆流れを進化させていた。
傷ついた右足で刀身をはさみ、『星流れ』と同じくデコピン理論で斬る。
藤木が全盛期にもどることすらできていないのに、伊良子は更なる高みを目指す。
全裸でッ!
見守るいくも全裸だった。いや、足袋だけはくマニアックな格好だ。
脱ぐ意味がワカんない。
伊良子は身体の動きを確認するのに裸のほうがいいのかもしれない。でも、フンドシはつけようよ。
そして、本当に意味不明なフェチズムあふれる いくの姿だ。
この男女
(つがい)
ッ、変態だッ!
なにをイマサラって感じだけど、ド変態だよ。
あらためて変態っぷりをアピールする伊良子陣営に藤木は勝てるのか?
思えば虎眼先生も奇行をするたびに強くなっていた。
藤木も、もっと己を解放していかないと勝てないぞ。
エア打鮑だけでは、やはり弱い。
とりあえず、イメージの力で音速を超えろ!
じわじわと再試合が近づいている。
がま剣法編のほうは どうなっているのだろうか?
屈木の変態力は伊良子に負けていない。
変態のほうが強いのだ。
千加も股間のタケノコが強さの八割を支えているんだろうな。
藤木も幻肢痛をしずめるために辻斬りをしていれば、よりパワーアップできたかもしれない。
人間として、そし武士としては、失格かもしれないけど。
とりあえず、かじき担いで散歩するとき、全裸になっておけば良かったのだろうか?
by
とら
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