餓狼伝(VOL.90〜100)
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2002年1月15日(3号)
餓狼伝 Vol.90
前口上と前回までのあらすじ(ムリに読まなくていいです)
さて、グラップラー刃牙アニメ版も無事に終了しましたので、今回からは隔週で餓狼伝の感想を書こうと思います。
で、サブタイトルが無い上に表紙に何話か書いていないと言ういきなりの先制攻撃を喰らってかなり不安な出だしですが、コミックスが出たら修正と言うことでサクサク進みます。
丹波文七と堤城平の火を吹くような熱闘は、竹宮流の秘奥義「虎王」で丹波文七が勝利をもぎ取った。全国放送で秘奥義をさらして良いのだろうかと言う疑問は置いておいて、その丹波の激闘は藤巻・長田・姫川など、闘いを待つ餓狼たちに火をつけるのだった。
そして、かつて丹波文七を倒し、そして倒された男・梶原年男も再び餓狼への道をあゆもうと…していたんですが…、餓狼伝会イチの鼻つまみ者・鞍馬彦一により負け犬街道へ軌道修正されてしまう。
そして、鞍馬は梶原の対戦相手であった船村弓彦に戦いを挑む。
と、言うのが前回までの大雑把なあらすじです。
さて、今週の餓狼伝はッ!?
「なにするンだキサマッッ」
いきなりビンタをあびせられボーっとした感じの船村もついに動いた。鞍馬の胸元をつかみ殴りかかろうとする。
しかし、この人って鈍すぎますよ…。ヨーイ・ドンがかかってもスタートが遅れるタイプなんでしょうか?
そんな船村をレフリーや他の連中が止めようと駆け寄る。…確か巽の指示でそのままやらせるはずだと思ったのですが、土壇場でマズイとおもって止めに入ったのでしょうか?
そんな中で突然に電子音が鳴り出す。
そう、鞍馬彦一必携の武器(アイテム)携帯電話だッ!
「オ――――――
ヒトミちゃん」
と、何時いかなる時であろうと携帯電話を再優先させる男の本領発揮だ。
このパフォーマンスにお客さんも大喜び。涙を流して笑い転げます。
「ケータイだよケータイ」
「試合中にッッ」
「彼女泣かすなよッ」
「会場では電源をお切りくださいッッ」
「紹介しろォッッッ」
と、お客さんも絶妙の突込みを見せ会場は沸きに沸く。……でも、いいんスか、それで…
すでに梶原 の遺体 は片付けられたようでリングに転がっていませんが、こんな名も無い選手に試合の一つをメチャクチャにされたと言うのに、実におおらかなお客さんたちです。
ところで、鞍馬が久我さんにこねられた時の電話の相手は今回のヒトミちゃんでは無くマキちゃんでしたが、鞍馬は30分後の待ち合わせに遅刻してフラれたのでしょうか?
しかし、巽と手四ツをしていた時は「キョーコちゃん」からの電話でしたので幅広く付き合って約束を破りまくっているのかもしれません。
なんにしても、皆さん名前がカタカナなので、お店の人と言う感じがしてしまいます。
どーも、素で彦一がモテる姿が思い浮かばないせいなんですけど…。
さて、鞍馬の携帯電話では恒例の「会おうよ終わったら」発言が飛び出し、やはり恒例の時間予測が始まります。
「どのくらいの時間でおわるかって!?」
そして、船村を上から下まで見る。
ちなみに絵では鞍馬の目から点線で矢印が3本出ています。顔、みぞおち付近、そしてコマの外の下半身…ってどこを見ているんだコイツ??
そもそも、プロレス用のスマートなパンツにTシャツだけの服装で、携帯電話を隠せる位置はパンツの中ぐらいしか思い浮かびません。と、なると鞍馬の持ち物はパンツに携帯電話を入れても平気なスリムサイズなのか?
と、なると攻撃を喰らいにくい戦闘向きのサイズと言えるかもしれません。年末に行われたPRIDE.18での 松井大二朗 vs クイントン“ランペイジ”ジャクソン戦は始まってすぐに見ていて気の毒なほどの壮絶な松井の金的反則勝ちになってしまいましたが(手が震えるほどの悶絶っぷり)、鞍馬であればそう言った事態も起こらないのでは無いでしょうか。
まあ、そんな彼だからこそ、他人のサイズも気になるのかもしれません(と勝手に決めつけてみる)。
「10分ぐらいかな?」「だいたいそんぐらい…」
「よっしゃアッ」
「時間がねェッッ」
「さっさと始めんかいッッ」
と、またもやアテになら無い、勝利時間の宣言をする。
そして、一気に服とスニーカーを脱ぎ捨てた。が、携帯は宙に舞っていない事から再び鞍馬のパンツの中に収まったものと思われます。
そして、こんな鞍馬にお客さんも再び沸く。
「エライことになりましたッ」
「突如 現れた新人ひとりのためにッッ」
「選手の紹介もなしにッ」
「試合が始まろうとしていますッ」
と、ついにアナウンサーも無責任に話を進めてしまいます。
初めてのプロのリングでいきなり訳のわからない展開に巻きこまれて、船村も不安げにリングサイドを見ます。
ですが、試合はもう始まっている。動揺しながらも鞍馬に向き直り戦闘開始だ。
「なんてェ 馬鹿力だ」
「胸倉を掴まれただけで足がすくだぜ」
と、鞍馬も船村の底力を一応認めます。認めたものの、表情はなめ切っていて今後の展開が心配になります。
そして、誰も梶原の事を気にかけていない…。
今ごろ控え室で「みんな……、オレのことなんか眼中にねェでやんの……」とひとり天井を見ながら涙していることでしょう。
ゴングと同時に鞍馬は飛びあがり、船村の上半身めがけ落下する。
が、倒れない!
十分な筋肉の厚みを持った鞍馬彦一の落下を正面から受け止め、踏みとどまった。
そして、そのまま、〜ン投げェッッ!
とっさに彦一が船村の帯に手を回したので防ぐのかと思いきや、火花も飛び散る「世界一の投げ」で鞍馬はマットに叩きつけられる。
が、「◆鞍馬はただじゃ転ばない!!」
船村の黒帯をいつの間にかほどき奪い取る。
パラ…と船村の柔道着がはだけて次回へ続く。
と、言うわけで、自称”なんでも知っている”黒人マッチョ男が欲しくてしょうがなかった黒帯をあっという間にかすめ取った鞍馬君でした。
この鞍馬と船村は漫画版オリジナルのキャラクターですので今後の展開がどうなるのかまったくわかりません。
まあ、今後の展開の事を考えると鞍馬が勝つと言うのが妥当なのでしょうが、原作に近い展開ならば鞍馬を倒した船村がそのまま北辰館のトーナメントに出場すると言うのもありかもしれません。
そして、鞍馬はヒトミちゃんのもとに間に合うのか!?
ほとんど、「走れメロス」状態の次号はスピード決着の予感がします。
2002年2月5日(4号)
餓狼伝 Vol.91
柔道 vs レスリング 組み技(グラップル)対決…!
と言うアオリ文句に乗り、船村 弓彦 vs 鞍馬 彦一、因縁の「彦」同士の闘いが始まります。
と、いきなり先週奪った黒帯を鞍馬が投げ捨てる。
人の大事なものを奪い取っておいて、ぞんざいな扱いをすると言うのは相手を挑発する時の基本中の基本と言える。
実力の方でも巽や久我さんにお墨付きをもらった鞍馬だが、相手を挑発する事にかけては万人が認める天才では無いだろうか。もっとも、自分より強い相手を挑発して、ボコられる所がマヌケなんですが。
「おおおっと」「これはどういうことだ!?」
「奪った帯をアッサリと……!?」
この鞍馬の行動にアナウンサーが驚いていますが、黒帯が欲しくてしょうが無いマッチョな黒人じゃないんだし、そんなに黒帯にこだわっているとも思えません。
どっちにしても、帯の取れた道着ではカッコがつかないので船村は落ちている帯を取ろうと身をかがめる。
鞍馬が狙っていたのはこのスキだった。一気に間合いをつめようとする。
が、船村もそれを読んでいた!
突進する鞍馬を左の横蹴りで迎撃、更に右の正拳で顔面へ鉄拳制裁だ。
「読んでいた〜〜〜〜〜ッッ」「仕掛けられた罠を読んでいた〜〜〜ッッ」
「すンげェ〜〜 船村ァッ」
と、この攻防にアナウンサーもお客さんも大興奮する。
そして、倒れる鞍馬を見下ろしながら船村は(せっかく黒帯を取り戻したのに)道着を脱ぎ始める。
この行為に控え室の巽も「ほう……」含みのある薄ら笑いをみせる。
柔道家である事を売りにしている船村があえて道着を脱ぐと言う行為はショーの要素の強いプロレス的な行為だ。
もし、鞍馬がこれを狙って帯を取り挑発をしていたのなら、やはりヤツはプロレスラーとして天才なのかも知れない。
自分で舞台を作るのではなく相手に舞台を作らせる。
「あえて敵の土俵に降り立つ絶対の自信!!!」とアナウンサーにも絶賛される船村は、筋書き無しの展開に戸惑っていた先ほどの武骨な姿を捨て去り、柔道世界一の武士(もののふ)としてスポットライトの下で輝いている。
ここで、船村を持ち上げておいて、美味しい所をさらおうと言うのが鞍馬の作戦なのだろうが、果たして上手く行くのかどうか…
と、不安を感じさせながらも、鞍馬は船村を自分のテリトリーであるレスリング勝負に持ち込み不敵な笑みを浮かべながら上体をやや前屈させたストロングスタイルで構える。
「奇しくもFAW御大グレート巽こそが継承するストロングスタイル」
「イギリスを発祥の地とする」
「キャッチ アズ キャッチ キャンッ」
「またの名をランカシャースタイルと呼ばれる関節技の集大成ッッ」
構え一つで盛り上がるとは、さすが通の集まる会場です。
相手を立てる演出をした上で今度は自分が巽の後継者だとアピールする。鞍馬は、実に抜け目の無い動きを見せます。
ところで、「キャッチ・アズ・キャッチ・キャン」ですが、これはグラップラー刃牙ではローランド・イスタスが学んでいたレスリング技術として覚えている人も多いと思います。
イスタスのモデルは「カール・ゴッチ」であり、グレート・巽のモデルであるアントニオ・猪木はカール・ゴッチの弟子、つまり鞍馬は「キャッチ・アズ・キャッチ・キャン」直系の技術を会得している事になります。
「キャッチ・アズ・キャッチ・キャン」はレスリング・グレコローマンスタイルを元にイギリスで生まれたスタイルで、グレコローマンスタイルが上半身のみを使用し、攻めると言うスタイルであるのに対し、手足も利用してよく関節技を使用するものです。
「キャッチ・アズ・キャッチ・キャン」の関節技を禁止し安全化をはかりスポーツにしたものが、現在のフリースタイルレスリングになります。
プロレスのスタイルの違いについては勉強不足なので詳しくは知りませんが…
西洋の古武術とも言える「キャッチ・アズ・キャッチ・キャン」に対し、船村は柔道スタイルで挑む。
はっきり言って、裸の勝負だと柔道の方がメチャメチャ不利なんですけどね…。
低い体勢からスキをうかがう鞍馬に対して、相手を掴みに行こうとするように両手を伸ばして立っている船村はなんとなくスキだらけと言う感じがします。
ちょっと張り切って吠えても、やっぱりこの人はボーっとしている方が似合っているのでしょうか?
そして、そんな船村に鞍馬はタックル、と見せかけ左の回し蹴りを顔面に決める!
相変わらず、虚を突く攻撃で次回に続く!
しかし、タックルの体勢からハイキックってのは時間と場所と人物が全部違っている気がするんですけど…(原作ネタバレ)
まあ、それはともかく、これだけじっくりと闘うと言う事はまた鞍馬くんは待ち合わせの時間に遅れてしまいそうです。
この後、久我さん直伝の空手技で一気に決めるつもりでしょうか?
残念ながら船村にはあまり技が無さそうなので、このまま沈む可能性が高そうです。今週は柔道技は1つも出さずに蹴って殴っていましたが、打撃対策はバッチリなんでしょうか?
さて、前回の感想に対し、ショショさんから次のようなメールを頂きました。
船村 弓彦は一応原作に出てきているんです 梶原に負けたら
プロレス入りするということで・・・で筋書き道理に梶原に負けてます・・・・それ
よりこの試合ポスターでも文七VS堤戦の前だった気がします でないと試合前なんで
梶原はあそこに居たのかが
説明つきません まあ板垣イズム、板垣流って事でしょうか?
これは私の確認ミスで、確かに船村弓彦は原作に登場しています。
原作では丹波が控え室で勝利者として取材を受けているうちに負けると言う印象の薄い役どころだったので、すっかり忘れていました。
ご指摘ありがとうございます。
試合の順番ですが松尾象山の見ていた新聞広告には試合順序は書いていないので、たまたまああ言う順番で並んでいたのでは無いでしょうか。一応、堤は余所から無理を言って借りたお客さんですし、目立つ位置に載せないと松尾象山がうるさい事を言いそうです。
また、選手の知名度では丹波と堤は最も低いと言わざるをえませんし、セミファイナルを任せるのは厳しいでしょう。
初めて総合で闘うフォースターは下手をするとしょっぱい試合になる可能性があるのですが、熱戦が予想される丹波 vs 堤を直後にぶつければ緒戦で失敗しても再び盛り上がると言う計算があると思われます。
梶原 vs 船村は知名度と筋書きがあると言う安心感からセミファイナルに、メインは当然グレート巽と言うのがこのイベントの組み立てなのでしょう。
梶原があそこにいたのは、やっぱり丹波の事が気になっていたからなのでしょう。
試合後だと1度控え室に戻ってから、また会場に行くことになり丹波の入場に間に合わないかも知れません。むしろ、梶原の試合が後のほうが自然かも?
2002年2月19日(5号)
餓狼伝 Vol.92
「More than feelings!(闘いが肉体を超える。)」
というアオリ文句で始まる餓狼伝。どちらかと言えば、この言葉は極限バトルの丹波vs堤戦にふさわしい物ですね。
さて本編は彦一キックが船村に炸裂した所から始まります。
やっぱり打撃対策がいまいちなのか船村は頬にまともに喰らってしまいました。
「いいいいいいのが入ったァ!!」
とアオリ文句(?)にも書かれた通り、蹴られた反対側から意識が抜ける衝撃です。
この「意識が抜ける」と言う表現は、船村の顔が描かれた湯気のようなものが頭から漂い出ると言う風に描かれています。餓狼伝の文学的表現を、そのまま絵にしてしまうのが板垣流の漫画表現方法ですが、今回の表現も独創的です。
なんか意識と言うより霊魂が抜けてそのまま帰らぬ人になってしまったかのような表現にも見えてしまいますが…
だったら逝けるぜ…
半開きの虚ろな目になって船村はゆっくりと傾いていく。
格闘技を知っている者ならば誰もが分かる、二度と立ち上がる事のできない倒れ方…、顔面からマットに沈む倒れ方だった。
「いっぽん」
残心の構えを取りつつ、誇らしげに鞍馬が宣言する。
次に出場する北辰館の大会での話題性を狙ったのか、久我さんから直伝の空手技での勝利を奪い取るッ!
「終わりか!?」
「これで終わりか!?」
「これで終わりなのかァ!!?」
とアナウンサーも絶叫し、お客さんは大喜びだ。
この展開に、巽もなんか悪い顔で笑っている。
巽にとってこの展開と言うのは理想通りの展開なのでしょうか。船村のデビュー戦はこれで無茶苦茶にされちゃった訳ですが、今後の彼の身の上がどうなるのか心配です。
まあ、今後出て来る事は無いと思いますが…(-_-;
「ハイキック一閃ッッ」
「たった一パツのハイキックが」
「船村の野望を一瞬にして消し去ってしまったァッ」
「中腰に構える体勢に―――――」
「誰もがレスリング勝負を予測しましたッ」
「組み技勝負を期した船村弓彦」
「地を這うようなタックルからいきなりのハイキック」
「あまりに手痛いプロの洗礼だ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
と、アナウンサーが解説してくれていますが、プロレスの先輩として相手の力を極力殺し自分の強さを最大限に生かすと言う闘いはいかがな物でしょう。
格闘家としてならこう言う闘いも有りでしょうが、プロレスラーならもうちょっと見せる闘いを心がけた方が良いかもしれません。
なんにせよ、原作を読んでいる人にとっては今後どうするんだろうと心配になるかもしれない「タックルからのハイキック」と言う奇襲技で勝利した彦一くんでした。
やはりヒトミちゃんとの約束が気になって短期決着を狙ったのでしょうか。
とにかく久我さんの教えが無駄になっていなかったのは喜ばしいことです。
見事な勝利の後、彦一は控え室に向かう。
そこに待ち構えていたのは姫川勉だった。
なんでFAWが仕切っている会場で部外者の姫川が自由に振舞っているのか謎ですが、彼のことですから警備の者に少し眠ってもらってここまでたどり着いたのではないでしょうか。
見なれない男である姫川に鞍馬が気が付いていないはずは無いのですが、あえて視線を外し無視するように歩く。
姫川も鞍馬を無視するような態度で片手ハンドポケットのまま煙草に火をつけふかし始める。
その二人が交錯する瞬間、火のついたタバコを姫川が指先で弾き飛ばす。
狙いは鞍馬の顔面、それも目を狙って飛ばしている。
タバコの燃えている先端が鞍馬に当たる寸前、鞍馬が動く。
ザウッ
斜め下から斬り上げるようなヒジ、離れた位置にいる姫川の頭髪を揺らす鋭い動きだ。
「よっしゃアアアッッ」
なんと、タバコを弾き飛ばしたのではなく、ヒジにタバコを挟みこんで締めつけている!
と、言うかタバコに対しヘッドロックを敢行しているッッ!?
いや、タバコのヘッドと言うか首ってどこよ???
「オラッ」
そのまま背後にバックドロップで落とす。頭から(だからタバコの頭って?)地面に叩きつけられ、無残に砕け散る。内贓物の葉が文字通りぶちまけられ間違い無く即死状態だろう。
だが彦一は止まらない。
エルボードロップを、無残な姿に変わったタバコに叩き落す。
体はさらにバラッバラ飛び散り、乾燥しているはずのタバコなのに地面に血飛沫のような染みができる。
って鞍馬くん、コンクリートにヒジなんかぶつけたから出血したのか?
「ワーン」
「ツゥー」
「スリー」
「カンカンカン カァー……ン」
「だァ〜〜〜めじゃないッスかァ」
「禁煙スよここォ」
姫川に挑むように睨みつけながら、タバコに対しフォールをかまし完全勝利の鞍馬彦一であった。
自分でカウント数えていますが、ヒジを落としたままでちゃんとフォールしていません。ひょっとするとコンクリートに打ち付けたヒジが思ったより痛くて、動け無かったのかもしれません。
この時のヒジの負傷が、後の北辰館トーナメントでの鞍馬敗北の原因になったりして(冗談です)。
取り合えずヒジの状態が描かれていないので、本当に負傷しているかどうかも分かりませんが…。
とにかく、この後で闘うかもしれない二人のしなやかな野獣の初顔合わせは意表を突く展開となりました。
今回はここで終了となりますが、次回はこの油断のならない若手二人のやり取りが楽しめそうです。
そして、残るは巽とイゴーリー・ボブの試合ですが、こちらも波乱が起きそうです。松尾象山がボブの事を問題にしていましたが、それがどう展開していくのかも興味深い所です。
今回は予想以上に船村が活躍しないまま成仏してしまいましたが、同じく鞍馬に噛まれた梶原に復活の場はあるのでしょうか。原作では北辰館のトーナメントの前に長田と梶原が試合を行うのですが、あの名試合を漫画版でも再現して欲しいものです。
2002年3月5日(6号)
餓狼伝 Vol.93
「お前も出せよ。お前の狼。」
今週は講談社・光文社・双葉社・秋田書店の4社合同「夢枕獏&板垣恵介 格闘ロマンフェア」開催中のためか巻頭カラー&餓狼伝 激闘十番勝負が載っています。
でも、十番勝負のうち4つが決着つかずの引き分けと言うのが餓狼伝っぽい気がします。夢枕獏先生が現時点で考えている餓狼伝のラストは、やっぱり勝負つかずで終わるらしいのですが、どっちかと言うと夢枕先生の寿命の方が作品の完結にたどり着けない様な気も…(マジで…)
それはともかく、禁煙にも関わらず火をつけられた煙草に対し非情の制裁を加えた鞍馬が姫川にせまる。
しかし、姫川はあっさり視線を外し、鞍馬に背を向けバラバラになった煙草の残骸を拾い始める。
「スバラシイ身体能力だ」
「北辰館トーナメントへ」
「FAWが長田選手のほかにもう一人送り込むと聞いています」
「あなただったらいいのにな……」
そう言いながら淡々と姫川は吸い殻を拾う。その姿はスキだらけのようで、実は鞍馬を誘っているとも見える。そして、今ごろ思い出したのだが、北辰館の方々は鞍馬彦一の名前や姿を知らなかったんでしたね。登場してからずいぶん長い時間がたっているので、すっかり忘れていました。
鞍馬彦一は無名の選手として北辰館のトーナメントに参加するはずでしたが、ここで乱入したために無名の選手から謎の選手へと格上げになりました。鞍馬もせめてアナウンサーが「選手の紹介」をしてから試合を始めておけば、ここで姫川に名前を覚えてもらえたんでしょうけど。
まあ、翌日あたり松尾象山との密談中にスポーツ新聞を広げて名前の確認をすることになると思いますが。
「やりたいってことかな」
「俺と……」
そして、いかにも”襲ってくれ”と言っているような姫川の背中に対し、鞍馬は挑発的な言葉をかける。しかし、なんか誤解を受けそうな台詞ですね。
だが、反応は無視。黙殺。黙って吸い殻拾いつづける。
自分から話しておいて、その後シカトと言う非常に失礼な態度にいい加減そうな鞍馬もブチ切れる。
まるで鬼のような形相(と言うか髪形も表情も勇次郎氏にそっくりだ)で姫川の背後から蹴りを放つ。
だが、姫川はその攻撃をあっさりとかわし、鞍馬の足の上に着地する。そのまま拾い集めたタバコの破片を投げつけた。
思わず目を閉じた鞍馬に、左の掌底をブチ込む。
一見ダメージは無さそうだが、自分の奇襲を読まれ逆に吹っ飛ばされた鞍馬は全身に血管を浮かせて怒りにたぎる。
「いいなァ……」
「アンタいいよ」
あんまり怒りをあらわにする所を見せない鞍馬ですが、涼しい顔と丁寧な物腰で人をおちょくる達人である姫川勉の攻撃に、とうとう怒りMAXになったようです。
姫川は、このような「試合」では無い闘いでの駆け引きが上手い。逆に鞍馬は巽の英才教育を受けているとは言え、本分はスポーツマンにあると言う気がします。だから、こう言う慣れない不意打ちを受けると怒ってしまうのでしょう。
先ほど闘ったばかりだと言うのに、今度は姫川とのファイト、と思わせておいて、鳴り出すのが鞍馬の携帯電話であった。
やっぱりと言うか、予想通りパンツの中にしまっていたようで尻の方から携帯電話を取り出す。しまっていたのが『前』じゃなかっただけマシですが、やっぱりパンツにしまうと言うのはどんなモンでしょうか。今後の鞍馬が間違って電話じゃないモノを出さない事を祈ります。
それでも鞍馬がちゃんとデビューを迎えたのなら、是非ともパンツから凶器として携帯電話を取り出してもらいたいですね。
「ア〜〜〜〜〜 ヒトミちゃんゴメンゴメン」
「エ〜〜ッ」
「もう会場まできちゃってるの!!?」
どうやら待ち合わせの時間に送れていると怒られているようです。それにしても待ち合わせ場所を会場にしていしていたのか、この男はッッ。
さて、目前の姫川とのバトルを優先するのか、電話の向こうで怒っているヒトミちゃんの元へ行く事を優先するのか、鞍馬のとった行動とはッ!?
「かんべん」
「大会ではアンタと当たるまで絶対 負けないからさッ」
今更、予想とか言うまでもなく、やはり鞍馬は女を優先し走っていくのだった。
恐るべきは鞍馬の携帯である。彼の携帯は常に確実に最悪のタイミングにかかってきています。そして鞍馬は携帯を優先する。社長よりも、闘いよりも、酸素よりもッッ(言い過ぎ)。
どちらにしろ1人取り残された姫川はちょっと寂しそうにしています。この人って、闘いを女に邪魔されるのが妙に多いですね。
そして、餓狼伝・格闘ファイルに新たな「勝負つかず」の記録が残されるのだった。
「フラれましたか…」
そうつぶやく姫川ですが、きっと大丈夫! 鞍馬もこの後フラれるでしょう!
北辰館トーナメントではまた新しいガールフレンドの名前が聞けるに違いありません。
なお、鞍馬がレスリング勝負では無く打撃で秒殺したのは、待ち合わせの時間が気になったのと、組みついてパンツの中の携帯が壊れるのを警戒したためなのでしょう。
鞍馬の本体は携帯で、人間に見える方はダミーと言う説もありますが、毎回絶妙のタイミングで電話が鳴り出す所を見ると、この説もひょっとしたら…と思ってしまいます。
さて、前3つの試合でハデに真剣勝負をやられてしまいましたが、次こそがメインイベントでFAW総帥のグレート巽の登場になります。さっきまでの闘いは興行主としてはOKだけど、1選手としては美味しい所を持っていかれてちょっと悔しいのかもしれません。
川辺が試合の流れを確認するのだが、その説明も適当に流し、酒を飲んでいます。テーブルには吸いかけの葉巻も置いてありますし、かなりやる気無さそうです。
いつも通り、シナリオ通りに試合を進め作られた盛り上がりの中でグレート巽を演じる。
社長としてはここでちゃんと仕事をこなさないとマズイと言う事なのでしょう。
巽個人としては前の試合で格闘家としての心に火がついていて、それを押さえるためにわざと気の抜けた様子を見せていると言う事も考えられます。
それはともかく川辺さんの顔がなんか園田警視正の顔に似てきているような気がするんですけど…。川辺さんも当分驚くぐらいしか出番が無いのでしょうね…。
さて、巽の対戦相手のイゴーリー・ボブですが、彼も微妙な気分を抱えたままウォームアップをしているようです。
トレーナーの「調子よさそうじゃないか」と言う言葉に対し、「調子がいいとどうだと言うんだ」と凄んで見せる。ボブも真剣勝負で内に潜む餓狼を解き放ちたいのでしょう。
しかし、彼はプロですから契約した仕事はきっちりとこなさないといけません。その辺のジレンマに悩んでいるかも。
と、そんな悩める北の最終兵器の控え室に訪問者がッ
「あなたは……」
「オオ オスッ」
「館長(マスター)ショーザン!!!」
なんと、北辰館の総帥・松尾象山が自らやってきたのだ。
試合前に控え室に誰かがやって来るのは不幸の前触れ、つい先ほども梶原がとっても悲惨な目にあったばかりだ。
「ボブよ」
「ちと聞いておきたいことがある」
何を言い出すのか、松尾象山ッッ!? っと言う所で次回へ続く。
続くのはいいんですけど、鞍馬のマネして「この試合、俺と替わってくれねェか?」などと言い出したら大変です。まあ、この先の展開は原作通りのように進むような感じですが、そこは原作クラッシャー板垣恵介先生の事です、試合にはボブのきぐるみを着た松尾象山が出るといった離れ業が出て来るかもしれません。
どちらにしろ、次回の展開を待つしかありません。
ところで、板垣先生と夢枕先生のサイン会が3月17日に三省堂コミックステーション渋谷にて行われるそうです。
以前行われた板垣先生のサイン会では〆切りに追われている板垣先生がサイン中に原稿開始ッ! と言う暴挙に及び、逆にファンサービス(?)になったと言う伝説があるらしいです。
おそらく今回もッッ(ォィォィ)
多分サインをしてもらえる人数は100人程度だと思いますが、時間が余れば簡単なお話を聞けるかもしれませんし、サインに間に合わなくても行く価値はあるかもしれません。(参考:板垣恵介トークショウレポート1 レポート2)
ちなみに、フェアの新刊は全部買っちゃったんですけど…。サイン貰うにはやっぱりもう1冊買わないといけないのか?
「獅子の門」イラスト付きは持っていないので、買い直しても良いんだけど、それだとサイン貰えるんだろうか??
2002年3月19日(7号)
餓狼伝 Vol.94
今週は初心者も安心の餓狼伝あらすじが載っています。
「早い話、誰が一番強いのか? そういうことなのだ。
強い奴を見ればすぐに喧嘩をふっかける丹波文七。」
………最初の2行で、お腹いっぱいです。
丹波文七も主人公なのに酷い言われようです。しかもタチの悪いことに、かなり的確な内容なだけに救いがありません。
登場人物の紹介は今後の展開を踏まえてなのか、丹波文七・松尾象山・グレート巽・姫川勉・長田弘・鞍馬彦一・藤巻十三となっています。梶原がいないのはもはやどうしようもないとして、堤がいないのが少し寂しいところです。
ちなみに、この中でしばらく出番が無さそうなヤツと言えば、丹波文七と見て間違い無いでしょうね。
さて、今回はイゴーリー・ボブの控え室に松尾象山が乱入したところから始まります。
「ボブよ」
「恨んでんだぜ 俺(おい)ら」
「おめェがキックに転向したと聞いた時ゃよ」
「啼(な)いたぜ俺ァ……」
なんと、ボブは元・北辰館門下だったのです。
だからこそ前回のラストで象山の事を「館長(マスター)ショーザン!!!」と呼んでいたいた訳です。
格闘家には自分の学んでいる格闘技以外は認めないと言う傾向が多少あると思います。だから、象山の名は格闘家の間では恐るべきビックネームでしょうが、館長と呼ぶのはやはり身内の人間と言う事なのかもしれません。長田なんで「松尾さん」でしたからね。
「白帯のクセに強かったからなァ おめェは……」
「なァ ボブよ」
「オ…オスッッ」
「強いだなんて……」
(死ぬかと思ったぜあん時ゃ)
松尾象山にタップリ可愛がってもらった当時の事を回想しつつ、ボブは口には出せないツッコミを心中でするのだった。
強いとはいえ白帯の門下生を死を意識するまで可愛がってしまうのが松尾象山らしいと言えるかもしれませんが、やっぱり無茶苦茶です。ボブが空手を辞めたのは、松尾象山が原因だったのでは…?
ちなみに回想シーンで松尾象山が騎馬立ちで構えています。今後出て来るかどうか分かりませんが、原作では松尾象山が騎馬立ちの構えで戦うシーンがあり、その辺の期待をさせる静かな原作ファン向けサービスカットなのかもしれません。
ついでに言うと、ここでボブの使う「オス」は夢枕先生がくだけた話を書くときに良く使う「押忍は肯定にも否定にも使える万能語である」と言う説明を連想させます。
「ボブよ」
「プロのリングってやつはァ」
「一筋縄じゃねェ」
(知られている!!)
(この試合が真剣勝負(リアル)じゃないことを――――)
「だがよ ボブ」
「おめェがリングに立つってことはだ」
「我々北辰館がリングに立つってことだ」
「そうだな ボブ」
無茶苦茶だァ〜〜〜〜〜〜ッッ!!
元・弟子なんですから、北辰館をムリヤリ背負わせ無いで下さいよッッ。なんか屁理屈でもないような言いがかりを言ってますよ、この人。
当然、ボブだって戸惑います。
「…………」
「じ…自分がですか……」
なんか、しょぼくれちゃいましたね。
冷や汗をかくのは当然としてもなんか背中が縮んだかのような錯覚すら覚えます。
「そうよ ボブ」
「おめェがだよ」
ここで松尾象山はガシッっと肩をつかむ。早くもミシッと軋む体にボブは「オス…(肯定)」と言うしかない。
ここで、「いや自分もう北辰館とは関係ないッスから」などと言おうものなら、人間がどこまで凶暴になれるか、自分の体に見せられるてしまいそうです。
そして、松尾象山館長の攻撃はまだ止まないのだった。
「北辰館がリングに立つってのは」
「どういうことだボブ?」
「生きて帰さねェってことさ」
「五体満足でリングから出さねェッてことさ」
「そうだなァ ボブ」
傍らにおいてあった、水の入ったペットボトルを片手で握り潰し破裂させる。
まるで、ボブが無様な姿をさらせば、俺がひねり潰すと言わんばかりだ。
「堤城平の仇――――」
「おめェが獲ってこい」
「し…しかしミスターツツミの相手はタンバ…」
「男が細けェこと言ってんじゃねェよ」
「俺らに恥ィかかせんな」
細かいもなにも、仇は誰かと言う事はかなり肝心な事なんですけど、もはや正論を言うだけ無駄、と言うか無理です。
この人が「やる」と決めたら、もう人間の力でどうこうできるレベルじゃありません。
と言うわけでボブもいい加減逃げ道が無いことに気がつくのだった。
「できないッッッ」
「とてもできないッッ」
「八百長試合(フェイク)などできっこない!!!」
でも、松尾象山に「帰ったら黒帯(ブラックベルト)だ」と言われて、「ホクシンスタイル黒帯(ブラックベルト)……」と呟くなど、ちょっぴり嬉しそうな所も見せています。
外国人にとって黒帯はそんなに魅力的なのでしょうか?
どちらにしろ、1つのアメと99のムチという松尾象山流の交渉術でボブは完全に陥落してしまったわけです。
この辺のムチャなパワーで人を人災の真っ只中に落とすと言う展開は板垣先生も大絶賛の「アグネス仮面」(作:ヒラマツ・ミノル)のノリに近い物があるように思います。
ボブも油断をしたら、ブラジル出身のマスクマンに仕立てられてリングに上げられたかもしれません。
そして、リングへ。
もう、逃げ道は塞がれているボブは目が据わっています。
はっきり言ってヤケクソですね。
一方の巽はシナリオ通りに事を運ぶつもりで余裕しゃくしゃく。リングサイドに座る古泉総理のガッツポーズに笑顔で答えると「フィニッシュはロープ際 総理の前だ」と勝利の演出に更なる磨きをかけます。
だが、ボブは真剣をやる気だッッ。
どうなるッ、この試合ッッ。
と、言うわけで次回へ続くッ!
今回、都合により感想を書き切れていないので、21日に追記するつもりです。
2002年3月21日(木)追記
なんか、あらすじしか書いていない気がしたのでちょっと追記です。
巽はフェイクだと思っている試合で、相手選手が一方的にシュートを仕掛けると言うこの展開は実は原作通りなのですが、原作では試合後に松尾象山が関わっていた事が明らかになるのに対し、漫画版は試合前にそのからくりを見せています。
この展開は、巽とボブの試合に予測不能の緊張感をもたらしており、なかなか見事な演出です。
ちなみに、原作のグレート巽は試合中に真剣(シュート)を仕掛けられる事が妙に多い人です。こう言う展開もなれたものなんでしょうね。
総理の前でどんなパフォーマンスを見せるのか。また、見せる事ができるのか非常に楽しみです。
ところで、グレート巽も将来的に政治家を目指しているんでしょうか。だから、総理にコネつけているのかも。
さて、次の試合が終われば、丹波&堤の後日談があると思われます。
その後がよいよ北辰館のトーナメント!
いつもこれくらいテンポ良く進んでくれれば連載時もストレスなく読めるんですけどね。コミックスになってから読むと、適切なテンポに思えるのですが…。
2002年4月2日(8号)
餓狼伝 Vol.95
今週のアッパーズは士郎正宗のイラストがあるせいか、エロ度強化週間のせいか、いつも雑誌を買っているコンビニにアッパーズが無くて焦りました(3件目の本屋で発見)。そんな事とは関係なく巽とボブがリングの上で対峙しております。
「うまくやってくれよボブ」
「おいおい眼が怖いぜ」
と茶化しながらもボブの態度に不審なものを巽は感じている。しかし、すでにリングの上と言う引き返す事のできない所に立っているのだ。もう、前に進むしかない。
その状態をテレビモニターで見つめる男がいた。
堤との激闘を経て凄い顔になってしまった丹波文七であった。
病院直行でもおかしくないようなダメージを負っていそうな感じでしたが、取り合えずテレビを見れる程度の余力はあるようです。
それにしても、ライバルだった(過去形)梶原が惨めな姿をさらした件について丹波のコメントが欲しいところです。なんとなく不機嫌そうな表情をしている気がしますが、鞍馬彦一の所業に腹を立てているのかも知れません。
その丹波に声をかける男がいた。
「いい試合だったぜ」
「伊達…」
「いい試合だった…」
本当に久しぶりに出て来たので顔を忘れていましたが、伊達です。アメリカの裏試合で巽が戦っていた事を丹波に教えた男です(板垣版では)。
今コミックを読み返して見たら、フルネームすら出ていませんが斑牛(まだらうし)こと伊達潮男(うしお)です。
板垣版・餓狼伝では松尾象山とグレート巽にかかるウェイトが大きいせいか、脇役になればなるほど見せ場が減っている気がします。ここで復活できた伊達はまだ幸せな方でしょう。
そして、「いい試合だった」と言うのはすでに自分が降りてしまった世界で、全存在を根こそぎ賭けて闘い輝いていた丹波と堤に対しての素直な賞賛の言葉なのでしょう。2度同じ言葉を繰り返しているところが、しみじみとした伊達の思いを表しているように感じます。
「知ってるかい丹波」
「このボブなんとかって選手 北辰館だったんだぜ」
「まあ もっとも」
「試合そのものはつくりだがな」
ただ試合を賞賛するためだけに来たと思われるのは照れくさいのか、伊達がプロレス内部の人間としてマル秘情報を教えてくれます。内部事情と言うか、伊達さん北辰館について詳しいですね。どこから、どうやって情報をし入れたのやら…
でも、内部の人間が「つくり」などと言ったのが巽にばれたら、シメられますよ。最悪、1つは覚悟しましょう。
現役プロレスラーの貸し切り解説という贅沢なシチュエーションでテレビ観戦となった丹波&涼二ですが、姿の見えない泉先生はどうしているんでしょうね…。
板垣版の恐ろしい所は、今後の展開が危うくなるようなイベントをいきなり打ち上げたりしちゃう所です。
会場の隅で昔のお弟子さんに「なぜ、丹波などに『虎王』を教えたのですかッ、泉先生ッ!? あと、冴子さんを私に下さいッッ!」などと詰め寄られて、そのままバトルになっていてもおかしくありません。
それはともかく、リングでは試合開始のゴングが鳴ってしまう。
コーナーから動かず巽はやや前屈姿勢ので構える。そう、ストロングスタイル――――――キャッチ・アズ・ キャッチ・キャン スタイルで構えている。
真剣勝負ゆえの不動の対峙、そう思わせ構えるだけで観客を沸かせるのがグレート巽だ。
「ケッ」
「てェしたもんだぜ巽のガキャあ」
「動かねェことで」
「客 沸かせちまうんだもんなァ」
観客席で見守る松尾象山はそうボヤく。
松尾象山は喧嘩ができると嬉しくなって動かずにはいられず、こう言う客の沸かせ方ができないと思うのですが、そう言う自分の性格を知っているからこう言うボヤキが出ちゃうのかもしれません。
緊張と興奮が交じり合う会場内が静寂に変わる。
ボブが人差し指を天に向かって立てている。
プロレスで飯を喰うならこれがなんのサインか分かる、真剣(シュート)を意味するサインだ。
「ボブが巽に申し出てるんだぜ」
「オレと真剣勝負(ガチンコ)で勝負しろって」
この展開に百戦錬磨の伊達も冷や汗を浮かべる。もっとも口元には笑いが浮かんでいますが…。
一方、影の仕掛け人・松尾象山はなんとなく不満そうな表情だ。カッコつけずにやれる時にやるのが北辰館なんだよ、と思っているのかもしれません。
この展開に丹波も固唾をのんで見守る。
「どう出る 巽――――――」
パンッ
こう出ました、張り手ェッッ!
ボブの横っ面を思いっきりはたく。
だが、ボブは動じない。鼻血を出しながらも巽をしっかりと見据える。
会場に音は無い。誰もが声も出せずに2人を見ている。
「OK…」
受けた。
松尾象山の命を受けてから眼が据わっているボブだが、それ以上に危険な目をした巽が出現した。
試合会し直後の余裕の笑みも、ボブに平手を喰らわせた時の怒りも、あらゆる感情を封じこめたような無表情でありながら底知れぬ凄みを感じさせる眼だ。
ボブが、突き上げていた右手を下ろす。
真の闘いはここから始まる。そして、次号へ続く。
てっきり、試合中に一方的にシュートを仕掛けるものかと思っていたのですが、正々堂々の宣戦布告となりました。
でも、これはボブにとって不幸な展開ですね。
あの巽の眼はどう考えても殺る気です。そりゃあもう徹底的勝つ容赦無くバキボキに殺る事でしょう。
巽にとっての真剣勝負はまさに命の取り合いです。
闘いの中で友情すら感じたクライベイビー・サクラの頚骨を泣きながら折った男です。
たとえ、ボブが数多くの試合を潜り抜けてきた男だとしても、覚悟の量と質が違いすぎる。
もう、こうなっては巽がどれほどのパワーを見せて勝利するかを見守りしかありません。
それはそれとして、久しぶりに登場の伊達ですが、丹波をなんとしてもFAWに組み入れたいと巽が接近するように指示をだしたのかもしれません。
どちらにしてもボブのお陰でそう言う工作もしばらくお休みになりそうな気がしますが。
そして泉先生はどこへ? トイレに行こうとして迷っているのか?
2002年4月16日(9号)
餓狼伝 Vol.96
「真剣(シュート)。」
「それは、死ねるということ。
それは、殺せるということ。」
さあ真剣のグレート巽を目撃する覚悟は出来たか!?と言うわけで久々に巽が本気の姿を見せる時が来たようです。
泣き虫(クライベイビー)サクラとの死闘は人から聞いていたものの、実際に本気の巽を目にするのは初めてである丹波はモニターの前で息を呑む。
巽にとっての真剣とは文字通り死ぬか生きるかを賭けた闘いであり、VOL.25では「真剣」と言う言葉が丹波の口から出たとたん、刃物を突き刺すような殺気を放っています。
「見られる……」
「グレート巽の真剣勝負(シュートマッチ)!!」
観客の大歓声の中で拳を上下に揺らしボブが迫る。一方の巽は無表情のまま静かに下がる。
そして、追い詰められた巽の肩がコーナーポストに触れた。
ボブが大きく踏みこむ。上から振りかぶった右拳、ロシアンフックがうなりをあげて叩きつけられる。
バカンッ
リングごと共振させる凄まじい打撃だが、かろうじて巽はかわしていた。
パンチを受けたコーナーポストは見事に折れ曲がり鉄柱から外れかけています。恐るべき打撃力だ。
だが、この破壊力を見せられても巽の表情はまったく変わらない。何を考えるグレート巽よッ!?
「ロシアンフック」
「角度とタイミングが従来の打撃技――――――
ボクシングともキックとも空手とも違うボブ(やつ)独特のもの」
「レスリングのトップアマの連中も」
「ブラジリアン柔術の一流どころも」
「ことごとくあの一発に沈んでいる」
「破壊力は 今 見た通りだ」
ロシアンフックと言う単語を知らない丹波に、伊達が親切な解説をしてくれます。
格闘一筋っぽい丹波がロシアンフックを知らないのは意外です。ただ、丹波はモニターを楽しげに見ながら返事をしていて、適当に相槌打っているようにも見えるので、技の名前を知らなかっただけで勝手に伊達が解説してくれたのかもしれません。
なんにせよよそ見しながら返事をするのは礼儀正しくありません。話をする時は人の目を見て話す、闘うときは相手の目を見て構える、と先生(学校とか空手の)に習わなかったのでしょうか。
この打撃に対して巽は静かに指を天に向け、そのまま自分の顎を指す。
天に向けた指の形は真剣(シュート)を意味する人差し指と親指を伸ばしたものであり、それを自分の顎に向けたということは「真剣に自分を殴れ」と言う意味でしょうか。
「叩かせる気だッッ」
今回の解説役(認定)伊達がさっそく解説してくれます。
「これは無謀な挑発だ〜〜ッ」
「強烈無比のロシアンフックッッ」
「この顎に打ち込めと…ッ」
「ノーガードだッッ」
「正気か巽ィィッ」
真剣と言うのにもかかわらず、このパフォーマンスにアナウンサーも絶叫する。
だが、それも当然です。いままで無表情でいたくせに挑発をしたとたん口元に笑みが浮かんでいます。まるで、イケナイ遊びを始めようとしているようです。
「バカかおめェ…」
丹波も巽の行動に、思わず素で突っ込んでしまう。
やっぱり、丹波は基本的に格闘家であってプロレスラーではないということなのでしょう。
そして巽はプロレスラーらしく全ての打撃を受け切るつもりなのか?
考える暇もなく、ボブが2発目のロシアンフックをッッ
「いったァ〜〜〜」
入ったァ〜〜〜ッ!
見事に頬骨の下にボブの拳がメリ込む。顔は変形しまぶたもめくれ上がる一撃が入った。と言う所で次回へ続く。
今回の巽は何を思っていたのでしょうか。
巽にとってはメインイベントのシナリオをブチ壊され一方的にシュートを挑まれたわけです。ボブの事がかなり憎い事でしょう。
または、個人的に恨んでいなくても、この行為を黙認する事は組織の規律を乱す事になり社長としては許すわけには行かないはずです。(身内に鞍馬と言う最悪の違反者がいるんですけどね)
そして、巽にとっては限りなく重い「真剣」勝負。
最初のロシアンフックは、わざとコーナーに追い詰められることで打たせたのではないかと言う気がします。
そしてボブの打撃力を確かめる。確かに強烈だ。だが、サクラに比べれば物の数ではないッ。そう思ったかどうか知りませんが、あれで受けても大丈夫だと判断したのでしょう。
そこまでして受ける意味ですが、もちろん客に対するアピールもあるでしょう。しかし、やはりボブへの制裁と言う意味があるような気がしてなりません。
ボブの最大の武器であるロシアンフックをまともに受け切り、ボブが今まで闘ってきた中で、積み上げてきたロシアンフックへの自信を根こそぎ奪い尽くす。ボブが今後格闘家として生きていくために必要な自信を全て突き崩してしまおうと言う黒い企みがあるような気がしてなりません。
その場合、フィニッシュは掟破りのロシアンフックなんでしょうか。
いずれにしても、ボブの命は長くなさそうです。
2002年5月2日(10号)
餓狼伝 Vol.97
「いま、狩りのとき。」
そう狩りです。巽と言う獅子がボブを喰い殺す闘いです。放送できるレベルの惨劇であればよろしいのですが…
まあ、そんな心配はトビラの丹波と共に捨て置いて、先週の続きでボブの豪腕ロシアンフックが巽に決まった所から始まります。
渾身の右拳が入り、あの巽がたった一発で沈む!
それも、試合前に指定していた古泉総理の目の前でッ(多分)。
「あ…マズ」
1人異質な反応を見せたのは松尾象山だった。なにがマズいのか。アンタが仕組んだんだろ!? いや、松尾象山が仕組んだと言う事は、ボブがマズいということなのか?
そのボブは巽が倒れた後も格闘ゲームで乱舞技を外したキャラクターのように誰もいない空間で両腕を振り回しラッシュしつづける。
「打つッ」
「打つッ
打つッ」
「必殺の勢いが止まらなァ〜〜いッ」
止まらないのは良いんですけど、ボブ君ちょっとマヌケです。倒れている巽を見てちょっと意外そうな表情を見せています。大抵の格闘技で「殴られても目は閉じるな」と言うことは初期に教えられる事だと思いますが、ちゃんと目を開けて殴っているんだから追撃は正確にしましょう。
殴ったボブも1発で倒せたと思っていなかったから追撃のラッシュをかけていたのでしょうが、巽の方は虚ろな目をして口も半開きと言うヤバ気な状態だ。
「しかしこの試合はバーリトゥードッ」
「ダウンした巽に再び襲いかかる〜〜〜〜ッッ」
やっと倒れた巽に照準をあわせたボブが今度こそ追撃をかける。
だが、リングの外にいる人間の中で1番この試合の流れを呼んでいるであろう松尾象山はこの展開を喜んでいないようだ。
「ア〜〜〜ッッ」
ため息とも取れる気の無い声を出されていますが、ボブは片手で巽の顔面を押さえつけて殴りにかかる。
一瞬。殴りかかろうとした一瞬で巽は体を入れ替えボブの背後を取る。
ボブの巨体を曲芸のように操って手玉にとっています。スタンドならともかくグランドでの実力差はまさに大人と子供、ボブは半回転させられてマヌケな表情でしりもちをつくありさまです。
こうなると先ほどの失神も巽の演技と言う事なのでしょう。役者のレベルにおいてもボブと巽ではかなりの実力差があるようです。
「オオオ……っと」
「巽が不気味に」
「嗤(わら)ッ…」
巽が嗤った。巽は嗤いながら人を殺せるだけの経験を持つ男だ。しかも、相手は自分に真剣を挑んできた男なのだ。笑顔のまま、殺る気か巽ッ!?
慌てて殴りに来るボブを頭突きのカウンターで押し返す。たまらず顔面を押さえボブはロープの外にエスケイプする。
ダウンした直後から人が変わったのような巽の激烈な攻撃に思わず丹波も立ちあがる。
ボブが肩から上程度をロープ外に出したためロープブレイクとなり、良いリズムの攻撃も中断となりレフリーが割って入る。
が、巽は離れない。止まらない。右手を掴んで離さない。
ボブが戦慄を感じた瞬間、腕十字でヒジは折られていた。
技の入る過程も、ギブアップを尋ねる間も、折る事に対するためらいの時間もまったく無い、刹那の破壊だ。
折れた後で、初めて折られた事を知覚し、皮膚を破り骨やじん帯が関節の組織ごと飛び出しているのを理解する。
最後は悲鳴だった。
1ページと4分の1の紙面に渡り、ボブの絶叫が静まる会場に響き渡る。
「なッ」
「なんという決着ッッ」
「なんという理不尽ッッ」
「これは明かに巽の反則負けだ〜〜〜〜〜ッッ」
反則負けを告げられながらも巽は勝者は俺だと言わんばかりに腕を上げる。
右腕を押さえうずくまるボブを睨みつけ、何を思うのかグレート巽ッ!?
やるとは思っていましたが、ここまでやるとは思っていませんでした。
わざわざご丁寧に利腕(推定)の右腕を完全破壊すると言う念のいれようです。あそこまで右腕を破壊されてしまってはボブの選手生命は絶望的と思われます。
ボブに対する制裁が、右腕の完全破壊にあるとするのなら、シュートを受けてからの巽の行動はすべて計算されたもののように感じます。以下、想像。
まず、ロシアンフックをわざと喰らう。これでダウンしたフリをしてボブを寝技に誘う。ボブ自身はダウンを奪える攻撃ではなかった事を無意識に気が付いていたのか、攻撃を続けていたが気絶している巽に思わず攻撃を仕掛けてしまう。
グランドでの実力差はハッキリしている。ボブはあっさり手玉に取られる。
巽は嗤う。ダウンしたときにムリに寝技に付き合わず、俺が立つのを待てばチャンスはあったのに、お前は墓穴を掘ったんだ。
頭突きで意識を昏倒させる。ロープブレイク。レフリーの静止。競技者であるボブはここで油断しているはずだ。
巽が闘った事のある闇のリングは、レフリーなどいない。反則など無い。
警戒させる間もなく折る。
巽の真の怖さが存分に発揮された闘いでした。
しかし、あれで反則負けと言うのはイマイチ釈然としない物があります。まあ、刃牙におけるアイアン・マイケルの反則負け程度の理不尽さですが…。
次回は伊達の再登場に何らかの理由付けがされるかもしれませんが、おそらく次回はグレート巽と松尾象山の二大巨頭によるスペシャルトークで話はほとんど終わってしまうでしょう。
この2人に巻きこまれて、誰かが不幸な目に遭わされそうな気も…。
まあ、今回大会の最大の被害者は間違いなくボブなんですけどね。
2002年5月21日(11号)
餓狼伝 Vol.98
ボブのヒジを躊躇もせずにブチ折り、グレート巽は勝ち名乗りを上げる。
だが、そのフィニッシュホールドはレフリーの制止を無視して仕掛けられている。当然、巽の反則負けだ。
この壮絶な幕切れに観客はただ呆然とするしかなかった。
一方、リング上の巽はボブに駆け寄るトレーナーの襟首をつかみ引き寄せる。
「なぜ約束を守らない」
「おまえらを――――
イゴーリー・ボブを守るための」
「約束事だろうがッッ」
「約束を守っていたなら……」
「あんな目にあわせることもなく……」
「適当に見せ場も作ってやれたものを…」
「すっかり湿らせやがって……」
うぉッ、なんと言う無茶苦茶なセリフだ。
試合前の打ち合せは、ボブの身体を守るための処置だと来たもんだ。
シナリオ通りの試合は、巽にとって手抜きでは無く、試合相手を気遣っての真剣な手加減だった言うのか。
父親が幼子にジャレつかれるとき、その親が子供の身を案じ最小力でぶつかり、最小力で叩き、最小力で蹴りとばすように気をつかっていたというのか。
雄だッ! 雄度高すぎるッ!!
試合前に酒を飲むなど妙にリラックスしていると思ったら、あれは一生懸命気合を抜いていた様です。
グレート巽は本物のプロだ。ボブとの試合に向けて、必死にリラックスをしていたのだ。
試合前に松尾象山が持っていたチラシでは丹波vs堤がセミファイナルの位置に記載されていましたが、巽が直前に熱くなりそうな試合を見ると気合が入ってしまうと考えて、セミファイナルを梶原vs船村に変更したのかもしれません。
どちらにしても、本気の巽は超危険な存在だったようです。
古泉総理も観客席で冷や汗を流すしかなく、「打撃を耐えてよく折った、(見ていて)失禁した」などのパフォーマンスを見せる余裕もありません。
巽の方は文句を言って気が済んだのか、今度はゆっくりと手を広げ観客にアピールする。
壮絶な試合に飲まれていた観客の間に、巽の凄さが染み渡り、次第に拍手が沸き立っていく。
「おお……」
「巽…… カッコイイ……」
そして観客の心を掴み切った瞬間、大きなモーションでガッツポーズ。
一気に沸騰する場内。
後味悪いまま試合を終わらせず、キッチリと盛り上げるのがグーレート巽の凄い所です。これなら会場のお客さんも次回の試合を見に来る事でしょう。
ところで、最初に手を広げる巽に拍手したのは女性客でした。あれはやっぱりアメリカ仕込みの巽フェロモンによる効果でしょうか。
反則の末にアレだけの人体破壊劇をやりながら、非難されることなく歓声を一身に集めてしまう恐るべき魔性のカリスマ・グレート巽。その姿をモニターを通し丹波たちは見ていた。
思わず涼二も「スッゲェな…」「グレート巽…って」と誉めてしまう。
VOL.25で「片手一本で場内一つにまとめ」た巽を見ていただけに、その人間力に改めて脅威を感じたのか、丹波はモニターを睨みながら歯を噛み締め軋ませるのだった。
控え室に戻った巽は自分の顎を殴らせる。
グローブをつけた弟子らしき男の左フックをモロに喰らいながらもきっちり踏みこらえて余裕を見せる巽。
さり気なく左手で打たせているのが計算高い。
「ご覧のとおり…」
「わたしにはパンチが効かない」
「秘密はここ」
「この長い顎…」
「ボクシングやキック―――――
顔面を叩き合う格闘技には無論 不利だが」
「いったんこうして―――――」
「肩に固定してしまうと……」
「どんなに叩かれても絶対に……」
「脳は揺れない」
「支える場所が大きいからね」
ボクシングなどでは、肩を使用してアゴをガードするテクニックがありますが、肩を使ってアゴを固定するとは、殴られるのを前提にしたプロレスならではの発想です。
せっかく本気になったので、打撃に対する圧倒的な免疫力を見せつけて、プロレスの凄さと怖さを見せつける魂胆でしょうか。
ただ、わざわざ打撃を受けてやるお優しいディフェンスはこういう試合でしか出さないと思われます。普通の人がやったら、肩で固定すると打撃の衝撃が逃げずに、顎が砕けると思います。顎が長いのが自慢というよりは顎が頑丈という方が自慢になりそうです。
どちらにしても、やっぱり超人的な肉体です。
その控え室へ、姫川も連れずに松尾象山が単身で乗り込んで来た。
「いやァ〜〜〜………」
「惚れ惚れするほど強ええ男だねェ…」
「ええ?」
「なるほど……」
「松尾さん……」
「あんたが仕組んだことだったのか」
「俺ァただボブの控え室を訪ねただけだぜ」
「この俺に恥ィかかせる試合はするなと――――」
「そのくらいのことは言ったがね」
多分、巽は北辰館の連中(と言うか松尾象山)が怪しいとにらんでいたのでしょう。顔を見ただけで犯人を見抜いています。
一方の松尾象山もボブをけしかけたと言う事がバレバレでも、とぼけています。もっとも、言い訳になって無い気がしますが…
どちらにしろ、二大巨頭によるトークバトルが開始される、と思っていると巽が意外な行動に出る。
「みんな……」
「離れていてくれ……」
ま、まさか巽がこの場で喧嘩を売るつもりなのかッ!?
そして次回は作者取材のため休載ッ!?
なんの取材だァッッ!? やっぱバキと梢江のガチンコファイトのための取材なのか?
いたがきぐみの情報によるとバキを隔週連載にしてまで、ヤングチャンピオンでやるらしいのですが……、そこまで気合入れんでイイです、板垣先生。
2002年6月18日(13号)
餓狼伝 Vol.99
梢江×バキが引き起こした超ド級の緊急事態により1ヶ月ぶりになる餓狼伝です。
バキ方面でのインパクトが凄すぎたため少しだけ忘れかけていましたが、松尾象山とグレート巽の餓狼伝最強を争そう2人が一触即発の状態で対峙している。
はっきり言って、主人公の丹波文七よりも存在感のある巨魁2人に読者の注目もストーリーも持って行かれています。
「い〜〜〜〜い 空気をつくってくれたぜ」
「さすがグレート巽だわ」
敵地の真っ只中に単独乗りこみ、事件を引き起こした張本人でありながら、この余裕の態度だ。まさに居るだけで周囲を圧倒する大山のような存在です。
「松尾さん」
「実は今ここで……」
「デモンストレーションをやってまして」
「わたしが」
「どんなパンチにも耐えられるという……」
「こいつにブン殴らせてはみたんだが」
「これがまた…」
「なんとも…」
若手に思いっきり殴らせて、その打撃が「なんとも…」弱々しくデモンストレーションになら無い、と言外に伝えている。
クセ者として決して象山に負けて無いグレート巽だがが、何を企んでいるのか。
と言うか、この人も館長を「松尾さん」と呼んでいますね。
長田が松尾象山のことを「松尾さん」と呼んだのも、巽のクセが移ったのかもしれません。
でも、巽と松尾象山は知らない仲では無いんだし、そんな他人行儀な呼び方しなくても良いと思うのですが、この関係は二人だけの秘密なんでしょうか?
で、なにかを企んでいるっぽい巽の次のセリフは…
「松尾さん」
「あなたの正拳(パンチ)ならどうだろう」
優しげとも言える表情を見せながら、巽は爆弾発言をかます。この衝撃発言に回りの者は声を出す事もできない。
そして、当の松尾象山は静かに俯いている。影になり表情が見えない。
ゆっくり、顔を上げる。松尾象山が笑っている。いつもの豪快な笑いでは無い。闇を感じさせる危険な笑いだ。
「いやァ〜〜〜………」
「生きてる……ってのは」
色々と面白いことがあるとでも言いたいのだろうか。
この松尾象山に殴れと言う人間が居たとはなァ、そう言いたいのだろうか?
「わたしゃ昔……」
「牛ブン殴ったり――――
羆(ヒグマ)ブン殴ったりしてたんだけど――――」
「あの時代に……」
「アンタがいてくれたらなァ…… って思うよ」
つくづく、この人は喧嘩が好きなんですね。
本当は人間を殴りたかったのに、規格外のパンチ力がそれを許さず、仕方なく人の代わりに牛や羆を殴っていたようです。
そして生きていればこそ、自分から殴ってくれと言い出す人間にも出会える。
もっと早く、こうやって思う存分人をブン殴りかった、それが松尾象山の素直な思いなのでしょう。
人を殴れるのが嬉しくて仕方ないのか、いつもの陽性の笑顔に戻り、松尾象山が拳を握る。
「さァ…」
「遠慮なく」
長い顎を肩につけて、巽が耐打撃の体制に入る。
対する松尾象山は、愚地独歩が菩薩拳を放つ時の構えに似た体勢を取る。
顔はうなだれ、左手は前に。拳の握りは普通の正拳だが、これが松尾象山の究極の拳なのだろうか。
「せいやッッ」
気合を入れ、拳を突き出す。ゆっくりと演舞よりも静かに拳を伸ばす。
スローモーションのように動く拳ではあるが、その拳が危険だと知るギャラリーたちは固唾を飲んで見守っている。
拳が巽への軌道の半ばを過ぎた時、爆発するように一気に加速する。
ガッ
「とッ」
「取ったァッ」
拳は顎に当たる前に、巽に止められていた。
恐るべしグレート巽。あの松尾象山の手首を掴み、拳を止めるとはッ。
まあ、顎で受け止めるような危険な行為をしなかったのは好判断です。受け止めていたら、今ごろ顎が砕けています。
が、それで終わる松尾象山ではなかった。
にゅう…っと指2本を伸ばし、巽の目に指先を押し当てる。
「深ぁ〜〜〜〜〜く 入(へえ)りそうだぜこの指……」
「なァ巽の」
「どうでェ……」
「俺(おい)らとまっとうに試合してみっか」
前回に続き、今回も危険な発言で次回に続きますが…ッ。
今回は本当に危険だッ。
巻末インタビューの『漫画「餓狼伝」、またしても原作から離れます。期待していいぜ。(板垣)』 このコメントが危険だッ!
象山が、いきなり巽を自分の所のトーナメントに呼んでしまいそうな勢いだッ。そうなると、ますます長田の立場が危険だ。噛まれるッッ
梶原はもう手の付けようが無いので諦めていますが、これで今後の展開がどうなるか予想不能になりました…。
でも、泣き虫サクラ編でアレだけ原作をクラッシュさせておいて、見事に元のレールに軟着陸できているので、今回も最終的には原作の道に降り立つのでは無いでしょうか。
このままだと主人公の影が薄すぎるので、丹波が主役の特権で超回復して巽と一緒に北辰館トーナメントに参加して、鞍馬を撃破するのを希望しています。
もちろん決勝直前に丹波の控え室に久我さんが激励にやって来てエラいこっちゃになろうと、わたしは一向にかまわんッッ!
むしろ、そう言うハデな展開を希望しています。
2002年7月2日(14号)
餓狼伝 Vol.100
脅威の原作破壊者・板垣恵介は何を仕掛けるッ!
前回の『漫画「餓狼伝」、またしても原作から離れます。期待していいぜ。(板垣)』と言う物騒なコメントのおかげで期待が膨らみます。
連載100回記念で、松尾象山とグレート巽の頂上決戦となるのか?
「アンタと俺が試合するんだ」
松尾象山の超爆弾発言に周囲(まわり)の記者団は騒然となる。
おそらく記者団がいる事を計算してこの挑発を仕掛けたのだろう。ここで巽が断ると、FAWが北辰館の挑戦から逃げたと言う事ができる。先ほどの試合で堤城平は敗北してボブは破壊された。負けが重なって北辰館のイメージが悪くなったので、ここで強い所を見せようと狙っているのかもしれない。
………この人の場合、ただ純粋シンプル理屈抜きに、喧嘩好きと言うだけの気もしますが。
「いっそうのことどうでェ」
「北辰館とFAW 5対5マッチってのは」
って、なんて事を言い出すんですか松尾さんッッ!?
火に油を注いでダイナマイトを投げ入れるような所業で、更に焚きつけていく。こんな提案に記者たちも黙っておれず「夢を与えてくださいッ」などと叫び懇願する。
お互い団体経営者としての立場があるのに、巽よりはるかに年上の松尾象山が組織とか立場とか放り出したような好き勝手な事を言っています。それに怒っているのか、巽の眉間には1本の怒りジワが刻まれっぱなしです。
嬉しく無さそうな表情で巽は一応常識的な問題点を指摘してみるのだった。
「ルールがもめそうだ」
「いいんじゃねェか?」
「ルールなんざなくたって」
松尾象山の勝ちです。
こんな天真爛漫の喧嘩好きに、常識的な事を言っても勝てませんって。
巽の方は、興行的な事や互いの企業イメージとか考えろと思っていることでしょう。周囲に誰も居なければ、絶対ツッこんでいますよ、関西弁で。
「バーリトゥード(なんでもあり)で……」
「やる気ですか」
「二人の男がリングに入(ヘ)ェり」
「一人の男だけが出てくる」
「シンプルでワカりやすいじゃねェか」
松尾象山の2連勝だ。
間髪入れず、答えるな。なにも考えずに、反射で答えているだろ、アンタ。
この高密度な二人のやり取りの前では、背景の記者たちの姿はかすれてしまうほどだ。
何を言っても無駄っぽいが、それでも巽は理をもって松尾象山を説得しようと試みる。
「正気の沙汰じゃない」
「TV放映があるんですよ」
「眼突き」
「こいつだけは封印しようじゃねェか」
「こいつを使用(つか)っちまうとよ」
「他の格闘技との差が開きすぎちまってなァ……」
おおっと、巽が怒ったッ!
アゴに梅干ジワを作り、唇を引締めている。
説得を聞かないのはともかく「他の格闘技との差が開きすぎちまって」と言うセリフが良くなかったのでしょう。
FAWを「他の格闘技」として、その他大勢扱いしたあげく、「差が開きすぎ」とタダでさえ差がついているのにと言わんばかりのセリフが、グレート巽の逆鱗に触れたのでしょう。
この瞬間、理由をつけて戦いを回避しようとしていた巽の考えは、どっちが上か戦って証明してやろうじゃないか、に変ったのだろう。
「裸締め(チョークスリーパー)」
「一旦決まったこの技を もし解かなかったなら―――――――」
「死に至ることは子供でもワカることだ」
「我々も殺人者にはなりたくない」
「絶命の以前(まえ)に放してさしあげましょう」
巽さんヤる気満々ですね。
まだ眉間のシワは取れていませんが、表情が少し嬉しそうになっています。
色々言っていますが、この人も喧嘩大好きな餓狼な漢です。
本気で殴り合って、本気で折り合うような闘いがしたいのでしょう。
ここまで言ったら、もう引き返せない。
これでスペシャルマッチの開催はほぼ決定です。
あ、でも子供には裸締めの危険性がワカらないと思いますが…
「殺人者………」
「たしかにそうだ」
「あんなものは一度でじゅうぶん」
「なァ巽の」
松尾象山が突然グレート巽の最大の急所を突く。
この一言で、巽は一気に血管ピクピクの怒りマックス状態に入ってしまう。
いきなり、この場で死闘が始まるかと思いきや、松尾象山は巽の手をパシっと取って握手に持ちこむ。手の握り方は腕相撲のような握り方だが、まさしく承諾の握手と言えよう。
「遠くガス燈時代から米国で語り継がれる永遠のテーマ……」
「強いのは拳(フィスト)か関節技(ツイスト)か!?」
「ヘビー級ボクシングとプロレスリング」
「遂には出せなかった答えを俺たちが出す」
「21世紀……」
「空手かプロレスか!?(フィスト・オア・ツイスト)」
記者たちによって焚かれるフラッシュの光の中で二大巨頭は視線を交わすのだった。
北辰館トーナメントが始まってもいないのに、こんな企画をブチ上げちゃってどうするつもりなんでしょうか。
次回から、どう言う展開になるのか予想つきません。トーナメントがちゃんと行われるのかも怪しい所です。
そして、ラストに滑りこんだ丹波文七は、このニュースを報じる新聞を睨むのだった。
「なにを企む……」
「松尾象山……ッッ」
たぶん、なにも企んで無いと思いますけど。喧嘩したいだけでしょう、あの人…
それより、この流れにちゃんと乗れないと主人公としてとても寂しい目に遭うので、注意しましょう。
この5対5には誰が出てくるのでしょうか…。普通に考えると
松尾象山 vs グレート巽
姫川勉 vs 鞍馬彦一
堤城平 vs 梶原年男
丹波文七 vs 長田弘
この4人の組み合わせが簡単に思いつきますが…。
ちなみに鞍馬は控え室に乱入して来た藤巻にボコられ交替し、梶原はやっぱり久我さんにボコられ交替すると素敵です。
やや、北辰館のメンバーが少ないような気がしますし、この辺で新キャラ投入が有るかも知れません。
どちらにしろ、次回も見逃せないッッ!
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