今月のシグルイ覚書(81景〜90景)

←71景〜80景  ↑最新↑  
バックナンバー 刃牙 餓狼伝 疵面 Gロボ みつどもえ 蒼天航路 日記 掲示板 リンク1 リンク2 TOP

2010年4月19日(6号)
第八十一景 虎口前(とらくちまえ)

 ついに試合が始まろうとしている。
 藤木源之助と伊良子清玄。
 竜虎とも双竜とも言われた異能の剣士が命をかけて戦う。
 試合が終わるとき、立っている者はただ一人のみ。
 いや、二人とも地に伏せているやも……

 いっぽう死闘を見物する徳川忠長は部下にかこまれて会場へ向かう。
 有能な命を消費する贅沢な娯楽なのだが、忠長にとってただの座興でしかない。
 忠長の狙いは謀反による天下の掌握だ。(14巻 77景
 その狙いは失敗した。残ったのは試合の計画だけだ。
 惰性で行われる無意味は試合で、剣士たちの命は散りゆく。
 死ぬ意味さえ与えてもらえないなんて、不幸すぎる。

『この日』
『駿河大納言は酒気を帯び』
『童のごとく口元を緩め』
『眼差しは虚空の一点を見据えるという
 ただならぬ"仕上がり"であった』

 サディスト君主の完成形がさらに仕上がったッッッ!
 まだ、上があったのかよ!
 いや、下かもしれんが。
 徳川忠長が本気の本気を出して、更に本性を見せて、酔うことで理性の限界を突破した。
 あとは徳川の血に目覚めたらカンペキなんだけど。

 範馬勇次郎で言えば鬼の背中を出さずに、独歩の攻撃でビックリしていたころ!
 刃牙で言えばSAGAの前。
 虎眼先生で言えば曖昧な状態だよ。
 つまり、こっからが本気の駿河大納言と思えばよろしいか。
 ヤベェ。マジ、ヤベェ。
 刀の一振りで首を三つ落とすぐらいはやりそうだよ。

 野望がついえた忠長は、もう命以外に惜しいものがなさそうだ。
 いや、命すら惜しくないのかも。
 家臣も領民もすべて巻きこんで破滅に向かう気だろうか。


 いっぽう試合にむけて待機中の藤木は、突如 伊良子の本質を理解した。
 2巻 六景(アニメだと3景ぐらい)の話を思い出したのだ。
 って、古ッ!
 どんだけ長い伏線だよ。

 船木ぬふぅ兄弟を斬ったあと、伊良子は吐いていた。
 それは人殺しや、顔を剥ぎとるという残虐行為に気持ち悪くなったのでは無い。

『伊良子清玄は』
『他者に命じられて殺めるという行為に
 吐き気を催したのだ』


 伊良子は誇り高い男だった。
 人に使われることが耐えられない。
 だが、その性質はサムライにものスゴく不向きだと伊良子は気づいているのだろうか?
 忠長に仕える日々は、命じられて殺める日々でもあったハズ。
 それは伊良子の望む人生なのだろうか?

 藤木は伊良子の気高さを評価した。
 自分には無いものだから評価したのだろうか?
 愚直な藤木は武士として生きるのに向いている。
 まあ、融通がきかなさすぎる欠点がありますが。
 藤木と伊良子の良い部分をあわせれば、立派な武士ができるのに。
 世の中、うまく行かない。

 そんな藤木は牛股師範と涼の幻影を見る。
 牛股師範はともかく、なんで涼なんだろう?
 藤木にとって数すくない おとうと弟子だから、やっぱり可愛い存在だったのか?

「まずは清玄の下段をはね上がらせよ」

 牛股師範が藤木に助言をあたえる。
 虎眼流でもっとも伊良子を追いつめたのが牛股師範だ。
 だから、この助言には重みがある。
 藤木もなにかをつかんだようだ。

 合戦における激戦区を『虎口前(とらくちまえ)』と言うらしい。
 虎眼流にとって、激戦区こそ住処だ。
 常に死ととなりあわせの修行をし、相手を伊達にして生きてきた。
 合戦が日常となっている。
 だが、それは伊良子も同じだろう。

 他藩から来た見学者たちは顔面蒼白ですが。
 なにしろ、違法な殺人ショーだし。
 この場にいるだけで罪に問われそう。
 実際に、藩主自ら見学に来ちゃった加藤肥後守忠広は領国を没収されているそうだ。

 一巻一景と同じく、三重は藤木が頭を真っ二つにされる映像を見る。
 だが、藤木が勝つ姿が見たえと言う。
 このシーンになにか伏線があるのかと思っていたが、とくに新情報はないらしい。
 純粋に不吉な予感を否定しているだけだろうか?

 ちなみに僅かな運不運で生死を分けることになる武士や軍人は、意外と迷信深い人が多いらしい。
 上杉謙信が生涯不犯を貫いたのは、戦勝祈願の願掛けだったという説もある。
 虎眼流だって、出陣前に勝ち栗なんかの儀式をやっていた。
 まあ、迷信深くなくても試合前に、負ける姿が見えたと言わないか。

 三重の不安を見切ったように、藤木はどこにも行かないことを誓う。
 そして、太鼓の合図で駆けだす。
 草鞋を脱ぎすて、試合場へッ!

 向かいの東口からは伊良子清玄が出てきている。
 長き宿縁もここに決着す。
 渡辺監物からの挨拶が終わり、藤木は伊良子を見る。
 盲目の伊良子はまだ顔を藤木に向けていない。

 ついに、物語は終局をむかえようとしている。
 今年中に最終回ッ!
 なんだろうか。
 いや、また別の人の回想に入るとも限らないけど。
 とにかく、次回には一景のラストに追いつくのだろう。
 今回は追いつけませんでした。


 ついに最終決戦がはじまる。
 たぶん、はじまると思う。
 油断はできないけど。

 今回の副題である『虎口前』なんですが、一般的には「ここう」と読むはず。
 城の構造をさすときは虎口(こぐち)と読むんだけど。
 古い読みかたなのだろうか?

 ちなみに、虎口(こぐち)は城門のこと。
 城攻めってのは城壁を越えるか壊すかで内部に侵入するのが一般的だ。
 構造的にイチバン弱い城壁というのは、出入り口である門である。
 稼動部分が弱いのは人でも城でもプラモでも一緒ってことらしい。

 なので、弱点を強化するため、門の上に櫓を作ったりする。
 虎口は城の弱点をめぐって、攻守がぶつかりあう激戦区なのだ。
 なんかの弾みで戦国時代に飛ばされちゃったら、役に立つかもしれないので思い出してください。
 まあ、当時では常識なんだろうけど。

 前回の副題が『竜門』で、今回が『虎口前』だ。
 まさに竜虎相打つ状態である。
 次回は美女が火花を散らしたりするのだろうか?
 そして、この試合のあと笹原たち他の剣士は作中でどんな扱いになるんだろう。


2010年5月19日(7号)
第八十二景 白刃(はくじん)

 藤木源之助と伊良子清玄が抜刀する。
 持ち手に災いをよぶという妖刀『虎殺七丁念仏』が藤木によって抜かれていく。
 三尺三寸ほぼ直刀の大太刀『備前長船光忠 一(いちのじ)』を伊良子が引き抜く。
 まさに真剣勝負ッ!
 斬れば肉裂け血しぶき死にいたる。
 見るものも手に汗握る大勝負だ。

『桜吹雪の中で心と心をつなぎ合った源之助が』
『乙女の胸の内に棲む魔物の存在を知らぬ筈はない』


 三重の中に魔物がすんでいるですと!?
 もしかして虎眼先生が三重の体内にいるとか?
 いやいや、それは無い。というか、イヤだ。
 伊良子に勝った藤木が三重と初夜をむかえたとき、開けてビックリ虎眼先生だと衝撃的すぎる。

 心という器は ひとたびひびが入れば二度とは……
 直ったように見えても、それは元の器にあらず。
 三重の心には破滅を望む魔物がいるのだろうか?
 ちなみに、三重の引き出しにはセミの死骸がたっぷり入っているらしいぞ。

 心の病になってから三重の言動に異常な部分が出てきた。
 まあ、だからこそ心の病なんだろうけど。
 虎眼先生の行動がアレだったのも心の病だ。……たぶん。
 若いときから基本は同じだった気もするけど、気のせいだ!

 藤木は三重の地雷性を理解した上で、娶るつもりだ。
 妖刀『虎殺七丁念仏』は魔性の伊良子清玄を斬るためだけに用意したのではない。
 三重の魔をも断ち切る!
 妖をもって魔を制す。
 鞘をすてた決死の覚悟で藤木は伊良子清玄に挑む!

 その伊良子清玄は必勝となる無明逆流れの構えにはいっている。
 藤木には、病のなかで見た悪夢が再現されているようだった。(14巻 73景
 ドクロの顔をした伊良子清玄が剣を構えている。
 顔も両手も骨だけなのだが、胸は女人のものであった。
 乳首が二つともあるから、いくではない?

 伊良子の乳房に斬られた跡が走る。
 傷口が開き、目が現れた。
 藤木の姿には、なぜか股間から斬られ眉間まで達する傷が発生する。
 魔性と妖刀がぶつかりあう異様な圧力で、常世に魔界が生まれたのだろうか?
 藤木の見た白昼の悪夢にはいかなる意味があるのだろう。

 武士でありながら身分差別を否定してしまった伊良子は、すでに死に体ということか?79話
 言っていることはカッコイイのだが、武士の自分を自己否定しているもんな。
 伊良子が勝ったとしても、階級社会の中で心安らかに暮らせないと思われる。

 肉がついている胸が女性化しているのは、伊良子が母性(いく)に支えられているということだろうか?
 乳房が斬られるのは、伊良子が仕置きをうけたときと似た構図だ。(3巻 15景)
 斬られた傷口から生まれた目は、新しく得た心眼を意味するのだろうか?

 そして、藤木は伊良子の新・無明逆流れを目撃する。
 足の指に挟まれた刀が、引き絞られていく。
 片腕になった藤木は、流れ星が使えない。
 剣速で大きく劣る状態だが、藤木はどうやって伊良子と戦うのだろう。

 伊良子はさりげなく太陽を背にしていた。
 この戦いは第一試合なので早い時間に行われているはずだ。日の位置は低い。
 藤木は逆光をまともに浴びている。
 地の利がないので、藤木は横に回りこむ。
 伊良子は、まるで見えているかのように、藤木の動きにあわせて回転した。

 盲竜の感覚はとぎすまされている。
 微塵もスキがない。
 見えぬ目でこちらを睨みつける伊良子を前にして、藤木が構える。
 刀をかつぐ。虎眼流が太刀をかついだら用心せい。
 この構えは虎眼流"流れ"だ!

 だが、"流れ"では無明逆流れに勝てない。
 血迷うたか、藤木よ。
 妖刀『虎殺七丁念仏』を振りかぶる藤木の姿に、掛川天女・三重の姿が重なる。
 (危ない)(不充分な「流れ」はそれゆえに危ない)
5巻 21景)
 まるで涼の声が聞こえるようだ。

 これが、無明逆流れに対抗する藤木の秘策なのか!?
 ある意味では、三重と藤木の共同作業かもしれない。
 もしかしたら次回で決着かッ!?


 というワケで掛川天女が伏線だったという驚天動地の展開だ。
 まさか、こんなところに繋がるとはッ!
 藤木の人生はけっこう無駄が少ないんですね。

 しかも、掛川天女は三重の心が壊れていることを具体的に描いた話だ。(アニメ9話
 心に魔物を宿した三重を見てひらめいた技かもしれない。
 危険な「流れ」・七丁念仏・三重の魔と共通する要素が集まっている。

 真っ二つにされる幻影を見せられながらも、藤木は斬りかかっていく。
 今の伊良子は超感覚を発揮して、相手が見えているように行動する。
 藤木の刃は伊良子に届くのか?

 そして、今回の第八十二景は第一景・第二景の話を追いぬいた記念すべき回だ。
 回想シーン、長うございました。


2010年6月19日(8号)
第八十三景 鍔迫り(つばぜまり)

 藤木源之助と伊良子清玄。宿命的な二人の戦いも決着が近いッ!
 先に仕掛けたのは藤木だ。
 三重がかつて行った不完全な"流れ"を感じさせる斬撃をする。(5巻 21景)
 完全な"流れ"でも勝てないのに、不完全な"流れ"だとより勝てないのではなかろうか?
 だが、藤木には秘策があるのだ。(13巻 71景

 対する伊良子は無明逆流れで待ちかまえる。
 古い言いかたをすれば"待ちガイル必勝の構え"だ。
 無明逆流れのもつ長い間合いと速度で相手を斬る。
 まともに行ったら藤木は真っ二つだ。
 無策で近づくのは死を意味する。
 はたして藤木の策は通用するのか!?

 三重が行った不完全な流れは、握りが甘かったためスッポ抜けてた。
 藤木はそれを意図的にやるのだろう。
 そして、71景でやったように、刀を己の分身として対手の注意をひきつけるのだ。
 と思っていたら、刀が真横に飛んだ!
 方向がちがうッ! 失敗か!?

 藤木の使う、妖刀『虎殺七丁念仏』は いくを目がけて飛ぶ。
 いくとも因縁のある妖刀が光を放つ。
 思わず、いくは目を閉じた。
 そして いくに反応するように伊良子は無明逆流れを放ってしまう。
 不発だッ!

 盲目の伊良子は敵をとらえるのに視覚以外の感覚を使っている。
 だが、強敵と戦うときは いくを近くに置き、なんらかの手段で補わせているようだ。
 そんな時の いくは相手を睨みつけていた。
 だが、頼みのいくが目を閉じたためか、伊良子は反応が狂ってしまう。

 無明逆流れは空ぶっただけではない。
 いつものように倒れこまず、手が柄を滑ってもいなかった。
 形がキマっていない。中途半端な技になっている。
 タメが不完全なままあわてて放ったのだろう。

 虎殺七丁念仏は いくの手前で地面に刺さっていた。
 なぜか刺さった地面から血が出ている。
 これは妖刀の力なのか?
 それとも地面に忍者が潜んでいたりして。
 まあ、映像表現の一種なんだろうけど。

 目を開けた いくは、伊良子の危機となっている場面を目撃した。
 伊良子はすぐに失敗を悟り、刀を持ちかえ上段から振りおろす。
 藤木は脇差を抜き、斬りかかる。
 いくの対面の陣幕で、三重は二人が激突するのを見ていた。

 牙が噛みあうような金属音を立てて、両者の刀がぶつかる。
 鍔迫り合いだ。
 こうなると片腕の藤木が圧倒的に不利か?
 藤木には鍔迫り(つばぜまり)という得意技があった。
 しかし藤木と伊良子がはじめて戦ったとき、鍔迫りは敗れている。

 かつての対決では、骨子術によって動きを封じられ、投げられ、指も折られた。
 藤木の完敗だ。
 一瞬でも動きが止まると、まずい。

 みりっ

 藤木の背筋がうなった。
 鍛えに鍛えあげた背面の隆(おこ)り、腕一本分の働きは充分にするものと評されている。
 その筋力で零距離から斬る。
 伊良子の愛刀三尺三寸『備前長船光忠 一(いちのじ)』が折れた。

『源之助の鍔迫りが』
『胸骨もろとも心臓を瓜の如く両断した』


 伊良子清玄は死の淵にたつ。
 盲目である伊良子が最後に見る風景は、母の姿であった。
 自分の前にいる藤木を母と誤認したのだろうか、伊良子は藤木の頭を抱く。
 予想外の優しい抱擁に藤木は戸惑ったかもしれない。

 少女漫画なら背景に花が咲き乱れそうな場面であった。
 だが、ここはシグルイの世界だ。
 背景に咲くのは臓物だった。腸が一面おおいつくしている。
 腸に囲まれ裸で抱きあう藤木と伊良子だった。
 なんと肉感的で美しい光景なのだろう。

 藤木はさらに力をこめ脊柱までも斬り裂く。
 伊良子は声も出さずに倒れる。
 駿河城御前試合、その第一試合が決着した。
 まさに真剣勝負だ。敗者には死を。

『あの夏の日出会って以来』
『源之助が清玄を思わぬ日があっただろうか』


 それは、もしかしたら三重に対する想いよりも強い感情だったかもしれない。
 方向はちがうが強さとして。
 伊良子と競い憎みあい、認めあった。
 双竜と讃えられた二人は、共存できなかったのだろうか。

 藤木は倒れた伊良子を見つめる。
 笑みは無い。まあ、もともと笑わない人だけど。
 勝利の喜び。思いつづけた強敵(とも)を失った思い。どちらが大きいのだろう。

 いくは呆然とこの光景を見ていた。
 三重は……

『源之助が勝利した時』
『三重の深部に潜みし「魔」は跡形もなく消滅していた』


 消えたの!?
 いままでさんざん無残を重ねてきたシグルイだが、幸せな結末をむかえるというのか。

 伊良子を倒して、虎眼流が復興する!
 晴れて三重と結婚だ。
 そして、徳川忠長に召抱えられて、高額収入者の仲間入り!
 徳川忠長が罪に問われて切腹する。藤木たちは職を失う。
 あ、やっぱり未来はバラ色じゃないぞ。臓物色だ。

 そして、次回でシグルイも完結する。
 残酷時代絵巻ついに終劇だ。
 と、言ってもガマ剣法の人など、決着のついていない話がいくつかある。
 原作『無明逆流れ』が終了であり、今後は他の話も描いていくのかもしれない。

 だが、当面は虎眼流の今後についてだ。
 藤木と三重は幸せになれるのか?(忠長が切腹するまでの間だとしても)
 伊良子を失った いくは?
 次回ですべての決着がつくのであろうか?

 原作の残りはあと三行ッ!


2010年7月17日(9号)
最終景 真紅(しんく)

 シグルイ 堂々完結!
 長かった回想が終了してすぐに決着だよ。
 まるで地下の幼虫時代がずっと長いセミみたい。
 ある意味、命がはかないシグルイ世界に似合っているかもしれないけど。

 藤木源之助と伊良子清玄の死闘は壮絶ながら一瞬で終わった。
 だが、底には長くすさまじい因縁があったのだ。
 まさにセミの一生に似た根深い戦いだった。

『隻腕の剣士は刀の重量を支えきれず宙空に投げ出し』
『盲目の剣士はやはりあらぬ間合いで刀をふるった』
『壮絶なる秘剣の応酬は』
『「大納言秘記」にはそのように記録されている』


 二人の試合は歴史の闇に消えてしまったようだ。
 双方、高い技量だったことは見ていた者たちならワカるだろう。
 なにか隠さなくてはならない事情があったと思われる。
 技量の高い人間を真剣で戦わせて死なせた。
 やっぱり、それは問題になるのだろう。

 倒した伊良子を見おろしながら、藤木は感慨にふける。
 伊良子はまぶしすぎる男だった。
 だから、嫉妬をうけたりする。

 まあ、自業自得の部分が大きいのも事実ですけど。
 伊良子の寝取り癖は、掛川の男衆から一人一刺しされる程度には罪深いハズ。
 藤木は性欲が少ないほうだから、あまり伊良子を恨んでないだけじゃなかろうか。

 もっとも、伊良子は女性人気が高そうだ。
 天性のモテ男だけに。
 伊良子を慕う女の首席である いくは、伊良子の死を見て自決していた
 藤木の投げた妖刀『虎殺七丁念仏』にて喉を斬っている。
 因縁深い妖刀が、また人の血を吸った。
 人の恨みを喰らい、さらなる妖力をつけそうで怖いな。

 試合を見ていた徳川忠長は藤木に何事かを命じる。
 貴人だから直接話しかけたりしない。
 三枝伊豆守が代わりに藤木に話しかける。
 おかげで忠長の表情や声がわかりにくい。
 とにかく心情の見えない殿様だ。

 とにかく三枝が藤木に言葉を告げる。
 清玄は当道者でありながら武芸にやってきた無礼者だった。
 なので、清玄を獄門に処すので首を刎ねろ!

 いきなり、ムチャ注文が来た!
 お気に入りだったはずの伊良子にたいする、文字通りの切捨て処置だ。
 名前を呼び捨てってのも、当時の儀礼からすると、かなり悪い扱いだし。
 気に入っていたオモチャだけに、敗北による失望も大きいのだろうか?

 死後に名誉を辱める。
 武士にとっては、かなり厳しい処遇だ。
 伊良子には身内がいないからいいけど、身内がいたら肩身の狭い思いで生きていくハメになるだろう。

 藤木は伊良子の強さと気高さを認めていた。
 伊良子を辱めることは、自分の誇りも損なうことだ。
 口下手な藤木は反論することもできず、戸惑っている。
 三枝もムチャな注文をしている自覚があるのだろう。
 忠長のほうを見つつ、汗だくになりながら藤木を説得する。

「士(さむらい)ならば」
「士(さむらい)の本分を全うすべし!」


 藤木がイチバン弱い言葉で攻めてきた。
 そう、サムライに憧れる農民出身の藤木は、「サムライ」って言葉に弱いんですよ。
 サムライならば、主の命令は絶対である。
 だが、サムライなら名誉も同等に大切ではないのだろうか?

 このあたりの矛盾は江戸時代が長い年月をかけて、主命のほうが大事というふうに変化させてきた。
 三代将軍・家光の時代では、まだ個人の誇りが重視されていたハズ。
 しかし、もともと武士ではない藤木には、そのへんの考えがないのだろう。

 葛藤のすえに、藤木は壊れた傀儡のように刀を伊良子の首に当てる。
 まるで力が入らない。
 己で己の誇りを汚すような自傷行為だ。
 力が入るワケない。

『自己の細胞が次々に死滅してゆくかのような嘔吐感』
『しかしこれは…』


 虎眼先生の命令で伊良子と三重が契るのを手伝おうとした時と同じ。(シグルイ2巻 9景)
 心を殺して、藤木は伊良子の首を切り落とす。
 見守る三重から表情が消えていた。

 藤木は、この場で駿府家中に召し抱えられた。
 間違いなく大出世だ。
 虎眼流の名誉も回復した。
 すべて望みどおりのハズである。

『平伏しつつ源之助は嘔吐した』
『試合場を後にする源之助の姿は』
『入場した時とは別人である』
『全て奪われた』
『残ったものは約束だけだ』
『乙女との』

 喉を懐剣で突いて、三重は死んでいた。
 残り物まで、失ったよ!

 シグルイ〜無明逆流れ編〜完


 見事に原作どおり救いのないオチで終了しちゃった。
 せっかく三重から魔を浄化したのに、新しい魔が生まれちゃったようだ。
 サムライ傀儡は三重にとっての自爆を促す暗示だった。
 即座に自決しちゃうあたりが、シグルってるよな。

 こうして藤木は失った家禄を得るかわりに、すべてを失った。
 サムライになる夢がかない、すべてを失ったのだ。
 まさに武士道残酷物語である。

 アニメの特別編で言っていたとおりだ。
『善なるものが報われない』
『努力した人が報われない』
『そういう世界が残酷だと思う』
 藤木も伊良子も、自分の中の善をつらぬき努力してきたハズだ。
 だが報われなかった。
 本当に残酷な結末である。

 来月は作者ロングインタビューで、重大発表もあるそうだ。
 シグルイでは、がま剣法の人などの決着がついていない。
 今後は、残りの剣士たちの顛末を描くのかも。
 完結はしたが、まだまだ続きそうな予感のするシグルイであった。
 でも、続くってコトは、無残もつづくってコトなんだよな。


2010年8月19日(10号)
山口貴由ロングインタビュー

 シグルイが最終回をむかえ山口先生のロングインタビューが掲載された。
 途中からどんどん難解になっていったシグルイの解説もすこし入っていて読者必読の内容となっている。

『藤木に関しては、三重と心がつながったあの一日というか一瞬があるだけで、あいつの人生ってのはハッピーだったんじゃないかって思いますよ』

 確かにアレは奇跡のような一瞬だったかもしれない。(14巻 75景
 でも、それだけで一生分の幸せを全部チャラにできるのかというと……
 江戸時代の平均寿命が人生50年だとしてもキビしい気がする。
 もう、藤木の余生は不幸ばっかりと予告されたも同然ですよ。

 藤木が失われた左手で三重と手をつなぐ。
 この場面は最終回の最後にも使われている。
 すべてを失った藤木にとって、この記憶だけが希望となっているのだろうか?
 文字通り幻の体験なんだけど。

 伊良子に敗北し左腕を失った藤木は、やっぱり戦意が無くなっていたそうだ。
 そりゃまあ、常識的に考えてもうムリだもんな。
 両腕がそろっていて負けたのに、片腕になって勝てるワケない。
 それでも勝てたのは事前の準備をしっかりしたからだろうけど。

『牛股のね、約束の木のシーンありますよね(第四十五景色、第五十景)。あれはふくを殺してないですからね、牛股は』

 アレは殺していなかったのが、正解らしい。
 でも、殺したと解釈して牛股師範をヒドい人だと思うのもかまわないそうだ。
 二通りの解釈ができるような展開に敢えてしているらしい。
 シグルイが途中から難解になっていくのは、そういうコトのようだ。

 伊良子も最後になって、いいヤツだったのかもしれないという解釈が出てきたし。
 美しすぎるゆえに、他人から嫉妬されて追い込まれる。
 反発するように伊良子は凶行を重ね、土地をはなれていく。
 伊良子も不幸な放浪者だ。

 で、肝心の次回作ですが何も決まってないそうです。
 しかし次々号(12月号・10/19)には新連載開始らしい。
 早いな。ほとんど準備もなしに始めちゃうのか。
 ついでに来月はサイン会のお知らせもあるそうだ。

 たぶん、来月には作品名が発表されるだろう。
 新作の感想にも対応していくぞ!
(更新 10/8/21)



←61景〜70景  ↑最新↑  
バックナンバー 刃牙 餓狼伝 疵面 Gロボ みつどもえ 蒼天航路 日記 掲示板 リンク1 リンク2 TOP

和書
コミック

 チャンピオン 
ジャンプ
マガジン
サンデー
RED
 板垣恵介 
夢枕獏
山口貴由

DVD
アニメ
CD
 ゲーム 
DS
PSP
Wii
PS3
360
PS2
PCゲーム
 PCギャルゲー 
フィギュア
パソコン
テレビ
メディア
家電
サプリメント
板垣恵介の激闘達人烈伝 板垣恵介の格闘士烈伝
駿河城御前試合 獅子の門 雲竜編 (カッパ・ノベルス)