秘密の楓ちゃん
前編
駅のホーム、東京行きの列車が止まっている。その前で、俺は楓ちゃんと向き合っていた。今日は俺が東京へ帰る日だ。千鶴さんたちが気を利かせてくれたのか、楓ちゃんが一人で見送りをする事になっている。
「向こうに着いたら、必ず電話するよ」
楓ちゃんは小さくうなずいた。彼女は結局無口な性格らしく、例の事件が解決した後も特によく喋るようになったと言う事はなかった。しかし、以前のような拒絶するような雰囲気が無くなり、気まずさは感じない。
ホームに発車ベルが鳴り響く。
「じゃあ、また。さよなら、楓ちゃん。すぐに帰ってくるから」
俺はいったん東京に帰り、再びここへ戻ってくるつもりだ。そして、もう彼女をはなさない。
列車に乗ろうとした俺は服を軽く引っ張られ、踏みとどまった。
振り向くと楓ちゃんが俺のシャツの端をにぎっている。
「楓ちゃん?」
声をかけられ、顔を上げた彼女は自分の行為に驚いたようにシャツをつかむ手を見て、そして、俺を見た。
その目は涙であふれていた。最初にポロリとこぼれた涙は頬に一筋の流れをつくり、その後を涙が次々と流れていく。
彼女は涙を隠そうとしたが、それが手後れなのを知ると手で涙をぬぐった。しかし、後から溢れる涙はぬぐってもぬぐっても頬に涙の川をつくりつづけた。
俺は楓ちゃんの肩を引き寄せて抱きしめた。彼女の華奢な体は最初は細かく震えていたが、やがておさまり、俺に体重を預けてきた。彼女が顔を埋めるシャツの胸の部分は涙であたたかく湿っていった。
列車のドアが閉まり、走り去った後も、二人は一つのオブジェのように誰もいないホームに立っていた。
「……ごめんなさい、耕一さん。私、笑顔で耕一さんを送るって決めたのに……耕一さんはすぐに戻ってくるから、寂しくてもがまんしなくちゃって……」
「……行こうか」
「耕一さん?」
「千鶴さんたちが待っている。早く家に帰ろう」
楓ちゃんの手を引きながら駅の改札口へと向かう。
これから先、色々な問題が起こるだろう。
だが、今、俺が楓ちゃんの手を握り、彼女が握りかえす。彼女の手のぬくもりがあるうちは、どんな事でも乗り越える事ができる気がする。なぜなら、俺たちは数百年の時を越えて再会する事ができたのだから。
後編
楓ちゃんと手をつないでの帰り道、二人は何も喋らなかった。喋らなくても何か通じ合うものがあったのも確かだが、俺個人の事情として、勃起していた。
楓ちゃんとナニをしたその日、俺は自らの「鬼」に勝った。そして目覚めるとすぐに、猟奇殺人の犯人である「鬼」と戦った。激しい死闘の末、俺はそいつを倒した。だが、闘いの怪我と、まだ慣れていない鬼の力の制御のせいで、その後、丸一日意識を取り戻せないでいた。寝込んだ俺を楓ちゃんは付きっ切りで看病してくれた。そして、俺が意識を取り戻すと、その疲れが出たのか、今度は楓ちゃんが倒れてしまった。
そんなわけで、今日まで楓ちゃんとナニするのはもちろん、ろくに触れる事も無かったのだ。
そんな禁欲状態に近かった俺に、さっきの楓ちゃんの抱きつきは効いた。効き過ぎた。体に刻み込まれた、楓ちゃんの肌の感触、声、匂いが全てよみがえって俺を責め立てるのだった。股間は近年まれに見る膨張率でパンツを破らんばかりに圧迫し、歩きにくくてしょうがない。
そんなこんなで柏木家についた。誰もいなかった。理性の糸がいきなり切れた。
玄関で靴を脱ぐのももどかしく、楓ちゃんにキスをしながら、両手で楓ちゃんの体をまさぐる。
「だめ……です、耕一…さぁん…」
キスをされ、激しい愛撫に息も絶え絶えに楓ちゃんは言った。そう言いながらも、足に力が入らないようで倒れないように必死に俺にしがみついている。
そんな楓ちゃんの髪に隠れた、貝殻のような耳たぶを優しく噛む。楓ちゃんはビクリと体をよじり、
「姉さん…たち、が帰ってきたら…」と言った。
楓ちゃんは千鶴さんたちにこの場を見られるのを心配しているようだ。
「耕一さん、お願いします、…せめて部屋、まで…」
楓ちゃんは瞳を潤ませ、耳たぶまで赤く染めて、そう訴えた。このままでは楓ちゃんが可哀相なので、彼女を抱きかかえて部屋を目指す。途中、柱に頭を2回ほどぶつけたが気にしない。
動きながらなのでキスがしにくいが、部屋まで待てず、楓ちゃんにキスを繰り返す。
楓ちゃんも俺の首に腕を絡ませ、乳房を押し付けてくる。突然の大胆な行動に、思わずバランスを崩し、廊下に倒れ込んだ。
初音ちゃんの部屋の前だ。ここならいざと言う時、楓ちゃんの部屋に駆け込む事が出来る。体勢を整え楓ちゃんを見る。楓ちゃんは静かに目を閉じる。彼女も、ここでならいいと思ったのだろう。ここから楓ちゃんの部屋まで、わずかな距離しかないが、その距離すらもどかしい。楓ちゃんの唇までの距離ですら長く感じる。焦る気持ちを押さえ、ゆっくりと口付けをする。
自分の服を剥ぎ取り、楓ちゃんの服を脱がす。楓ちゃんは自分で服を脱ごうとするが、指が震えてボタンがはずせないでいる。多少乱暴でも俺が脱がす。ボタンがいくつか飛んだが気にしない。
4日ぶりに見た彼女の肌は記憶に残っていた通りに白かった。ただ、4日前と違うのは、乳房の間に長さ10センチほどの痕(きずあと)がある事だけだ。
「あっ……」
楓ちゃんは声を漏らすと、その痕を細い指で隠した。
その傷は、彼女が俺の命を救おうとしてできた物であり、結果的には俺の心も救ってくれた。
「耕一さん、やっぱり部屋に、行きませんか?」
「どうして?ここでもいいじゃないか?」
「やっぱり、恥ずかしいです…」
「何を、いまさら…」と、言おうとした時だった。心が触れた。
醜い傷痕…。
この傷痕は耕一さんと私をつなぎ止めるだろう。かつて、エディフェルが次郎衛門を蘇らせるために、鬼の細胞を植え付けたように。
次郎衛門は生き返っても幸せとは言えなかった。いや、人間が鬼に変化して、幸せになれる訳がない。それがわかっていながら、次郎衛門を生き返らせた。この人を失うと後悔するという、自分のエゴだけで。
前世の約束にもかかわらず、耕一さんは次郎衛門の記憶を、なかなか取り戻さなかった。それだけ、鬼に変えられてしまった次郎衛門の記憶は、つらい物だったのだろう。
今、耕一さんと私をつなぐ物は前世の記憶、それだけ。いつか、耕一さんはその記憶を重荷に感じるかもしれない。そのしがらみを断ち切りたいと思うかもしれない。私は話し上手ではない。おしゃれも苦手だし、胸も、小さい。私は、あの人に何もしてあげられない。与えられる物全てをあの人にあげたいのに、私は何も持っていない。
それでも、あの人に嫌われたくない。嫌われるくらいなら、私の思いが届かなくてもいい。たとえ、あの人が誰かのものになっても、遠くから見ているだけでも構わない。あの人の存在があるから、何とか私は生きられる。
でも、側にいて欲しい。優しく微笑みかけて欲しい。
本当に、醜い傷痕…。自分勝手な私の心にそっくり。早く消えてしまえばいいのに。
どれくらいの時が経ったのだろうか。ほんの一瞬か?数分間か?
気が付くと楓ちゃんが心配そうに俺を見上げている。
「耕一さん……大丈夫ですか?」
俺は答える代わりに、彼女の頬にキスをした。本当は、楓ちゃんに、心から君を思っていると言いたかった。でも、それは言葉にはできない思いでもあった。どんなに言葉を並べても、この思いは伝える事はできないだろう。だが、心は通じるはずだ。俺が、楓ちゃんの心に触れる事ができたように。
俺は楓ちゃんの髪を優しくなでて、彼女の頬に自分の頬を触れさせた。彼女の温かく柔らかな肌を感じながら、ゆっくり囁いた。
「楓ちゃん、俺の思いを感じてくれ、ほんの少しだけでもいい、君に、伝えたいんだ」
そして、彼女の事を思う。過去、次郎衛門が記憶を消そうと思ったのは、エディフェルを失った事があまりに辛かったから。そして現在、どれだけ楓ちゃんを大切に思っているかを。
それは難しい事ではなかった。彼女の姿を思い浮かべるだけで、自然と湧きあがる思いだった。俺は、自分の腕の中にいる、華奢な少女の事を、ただ思いつづけた。
しばらくすると、俺の頬が濡れてきた。楓ちゃんの涙だった。
俺は何も言わなかった。言う必要もなかった。伝えるべき事は伝えたのだ。楓ちゃんも何も言わず俺の胸に顔を埋めている。俺は楓ちゃんの髪を優しくなでた。
「さっきの続きしない?」そう囁くと、彼女は頬を赤く染めた。
「はい」
ちょっと恥ずかし気な笑顔でうなずくと、おずおずと楓ちゃんから俺に唇を重ねてきた。
俺は舌で彼女の小さな歯をなぞり、唾液を送り込む。それを飲み込んだ彼女の喉がかすかに鳴る。
楓ちゃんの薄い舌がぎこちなく俺の唇を割って入ってくる。俺は彼女の舌を引っこ抜けるほど強く吸った。二人の唇の間から空気が漏れ、ビチュ、ブチュと音をたてる。
彼女のつつましい胸をもみ、乳首を優しく噛む。体中にキスをして、指は秘所をなぞる。指先が小さな蕾に触れると、楓ちゃんは体を反らし短い悲鳴を上げた。
「ごめん。痛かった?」
楓ちゃんは小さく首を振ると
「気持ち…よかった…です…」とかすかに聞こえる声で言った。
「そうなの、じゃあもっと気持ちよくしてあげるよ」
楓ちゃんの腰を抱えるように引き寄せると、足を限界いっぱいまで開かせ、幼さの残る花弁に舌をはわせる。ヒダの1枚1枚をなぞり、舌をとがらせて、むき出しになった蕾を責める。楓ちゃんの太股が痙攣し、愛液が溢れ出す。
楓ちゃんは真っ赤になって声を押し殺しているが、息と一緒に喘ぎ声がもれる。
「楓ちゃん、誰もいないんだから遠慮せずに声を上げていいんだよ」
「で、でも、私…恥ずかしい……」
そうは言いながらも、執拗な愛撫に彼女の声はしだいに大きくなる。
楓ちゃんの秘所に、指を潜り込ませていく。プチュクッ、と卑猥な音が漏れる。
「ひぃあぁぁぁぁああっっ」
ひときわ声が大きくなる。最初の時と変わらず、すごい締め付けだ。ここに、俺のモノが入ったのが信じられないくらいだ。
「楓ちゃん、感じている?」
「はぁ、はい…。感じ、すぎて……」
「そう。じゃあ、これは?」
今度は、楓ちゃんの中で指を曲げるように動かす。
「くぅああっっうううぅぅ」
楓ちゃんは背を思いっきり反らし、叫んだ。
「こういちさん、おねがいします。……もう、わたし、このままじゃ…」
楓ちゃんは肩で息をしながら、俺に囁いた。
実は俺も狂わんばかりに、楓ちゃんを求めていた。
もう一度軽くキスをすると、俺は楓ちゃんの中に入っていった。
最初はゆっくりと、次に足を持ち上げ、奥まで突く。
楓ちゃんの細い指は俺の背中を、何かの答えを探すかのように滑った。その動きはだんだん速く、強くなっていく。
もう楓ちゃんは恥じらうことなく歓喜の声を出している。イヤイヤをするように首を振り、髪を振り乱し、俺の背中につめを立てながら、うわ言のように俺の名前を呼ぶ。
二人が達したのは完全に同時だった。楓ちゃんはほとんど気を失っていて、俺は何も考えられなかった。ただ、二人が深くつながっている事だけが感じられた。
玄関で、ドアの開く音が聞こえ、次に声が聞こえた。それの意味する事に俺はすぐに気が付かなかった。千鶴さんたちが帰ってきたのだ。
まずいっ!これは、まずい。とにかく楓ちゃんを起こす。が、彼女はまだ、ボーッとしていて何が起きているのかわかっていない。とにかく彼女に服を着せ…る暇はないので、部屋に運ぶ。ベッドに寝かせ、風邪を引かないように、布団をかける。
そして、勢いよく部屋を飛び出した俺は………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。
これは全てが終わってしまった今だからこそ言える事だが、この時の俺はとんでもないミスを犯していた。それに気づくのは、この更に数時間後であり、その時には全てが手後れだった。
もっとも、今の俺でさえこの時のショックは大きく、この当時の事を語るには、精神科医の手助けを必要としている。
結果だけを話すと俺は、柏木家の地下室で、全裸、失禁、脱糞、打撲傷28、擦過傷16、亀裂骨折4、完全骨折1の状態で発見された。
完
作者から、後書きと言うか、言い訳と言うか……
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