グラップラー鉄拳伝

グラップラー鉄拳伝(10)  作:らんどるふ


【これまでの荒筋】
闘神・アイアン木場率いる10人の戦士たちと、地下ファイターの壮絶な闘いの火蓋は切って落とされた。
第一試合、愚地 独歩 対 栗栖 郭了は、独歩の圧勝に終わった。
第二試合、ズール 対 高石 義生。 義生は靭帯を断裂しながらも辛うじて勝利を納めた。





医務室。
ドクター   「靭帯ぶちきれて、ようまあ飛び蹴りなんぞかましたもんじゃ。」
義生       「バカヤロオ、じじい! もっと優しくやれぇ…!!」
ドクター   「こうか、ほれ。」
義生       「いててててて!!!!!!」
キー坊     「はは。 ヨッちゃん、まあアトはワシらに任して大人しい寝とけや。」
義生       「…。キー坊、やっぱここの奴等は半端じゃねえぞ。」
キー坊     「分かってる。そろそろ朝昇の試合が始まるわ。ワシもう行くで。」

アナウンサー  「さあ続いては第三試合!!
                斬撃空手の一人者、鎬 昂昇   対   3000本の骨を折った男、朝昇!!」

地下ファイター控え室。
紅葉      「今からでも遅くない。試合を辞退するんだ。」
昂昇      「兄さん。それは出来ない。」
紅葉      「よーく考えろ。あの朝昇という男がいた黒竜寺。
            あそこのトレーニングは常軌を逸している。朝昇はその黒竜寺で最強と認められた男だ。
            とてもお前が…」
昂昇      「兄さん。心配いらない。」
その時、昂昇の瞳を見た紅葉の背に悪寒がはしった。
弟の瞳には修羅が宿っていた。   紅葉は言葉をかけるのを止めた。

「青竜の方角! 鎬  昂昇!!!」
「白虎の方角! 朝昇!!!」

小坊主    「武器の使用以外の一切を認めます。」
朝昇      「…。戦闘モードのスイッチは入っています。
           つまり、あなたを壊す準備ができているということですよ。」
昂昇      「君はコードを切る必要があるな・・!」

「始めぃ!!!!」

通路。
キー坊    「お、もう試合はじまっとるな。急がな!!!」
走るキー坊の前に1人の男が立ちふさがった。
キー坊    「なんじゃい。おのれはぁ。のいてくれや。」
          「久しぶりに会ったっていうのに、何ていう言い方だい。」
キー坊    「ギ、ギャルアッドやないか!!!」
そう、そこに現れたのは最強のキックボクサー、ギャルアッド・スワンパクティその人だった。
キー坊    「…お前、ガルシアにやられて再起不能て聞いたで。」
ギャルアッド    「僕の身体はそんなにヤワじゃない。」
キー坊    「あは。ピンピンしとるな!!!もしかしてお前も木場チームか?」
ギャルアッド    「僕は今日、闘うためにここに来た!」
戦士は、静かに、だがはっきりとそう言い放った。
     
朝昇は腰を落とし、ノーガードで間合いをとっていた。
昂昇は静かに笑みを浮かべ悠然と朝昇に歩み寄っていった。
と、昂昇が跳んだ!! 空中からまわし蹴り!! 朝昇は数歩さがってそれを躱した。
アナウンサー       「始まったぁー!!!」
間髪入れずに、着地した昂昇の手刀、拳打の嵐が飛んでくる。
ヒットした部分全てが斬られる。朝昇の身体のアチコチから血が吹き出す。
アナウンサー       「斬撃ぃ!!」  
朝昇      「斬撃とはよく言ったものですね。ですが…」
昂昇の攻撃を躱しながら、独り言を言い続ける。
朝昇      「切れ味が鋭いかわりに、攻撃の軌道が読みやすい。つまり…」
一瞬だった。
腰を落としたかと思うと、うねるような、だが有り得ないスピードで朝昇はタックルに入った。
テイクダウン。 昂昇は倒れ、朝昇が上になった。
朝昇      「隙を突きやすいということです。」
昂昇      「…!!!!!」

本部      「曰く『打撃の速さで関節技を極める達人』、朝田 昇。 
            グラウンドの勝負となれば昂昇に勝ち目はあるまい。」
刃牙      「確かに僕と闘った頃の、鎬 昂昇ではこの試合キツイと思うよ。でも。」

朝昇は昂昇の右腕を取った。
朝昇      「このイケナイ腕を壊してあげましょう。」
昂昇はブリッジで朝昇を持ち上げた。 しかし朝昇の手足はしっかりと昂昇にからみついている。
昂昇の右腕は極めらたままである。
昂昇は上半身を後ろに反らせ、左手の指拳を構えた。 朝昇は昂昇の右腕を締めつづける。
次の瞬間!勢いをつけ、昂昇は朝昇の身体ごと前のめりに倒れた。
と、同時に上半身の反り返りを高速でもとに戻した。
地面に倒れるまでの数瞬、凄まじいスピードで指拳が朝昇の首に向かって襲い掛かる。
朝昇はすばやく昂昇から離れた。
朝昇      「聞いています。神経を直接切断するという『紐切り』。」
両者の間合いは再び開いた。

本部      「密着した状態では、打撃技は体重を乗せられないため本来の破壊力を発揮しない。
            それは『紐切り』も同じこと。 だがあのような方法を使ってくるとはな。」
刃牙      「まあ、もし、あのやり方で指拳がヒットしても、神経切断までの威力はなかっただろうけど
            『紐切り』を知っている格闘家なら、あんな攻め方されたら本能的によけるよ。」
本部      「『紐切り』という幻想を用いた作戦か。鎬の小僧、一皮むけたな。」


グラップラー鉄拳伝(11)  作:らんどるふ


朝昇はタックルに入る機会を伺っていた。
昂昇は迷うこと無く間合いを詰めていく。掌を上むけてに構えた。
『新・紐切り』の構えである。
拳を打った。朝昇はそれを躱し、懐に入ろうとタックルに入る。
が、その時、昂昇の爪先が朝昇の右腕に向かって放たれた。
朝昇の腕の筋肉が切り裂かれ、神経が引きずり出された。
ブチッ!! 紐は切られた。
朝昇は激痛にうずくまった。右腕はダラリと垂れている。

刃牙     「爪先で、紐切り!!! すっげ。」

昂昇     「そこまでだ。」
朝昇は立ち上がった。
朝昇     「何がですか? 右腕の自由を奪っただけで勝ったつもりですか?」
昂昇はさらに紐切りを仕掛ける。
指拳を360度回転させ、朝昇の左腕に打ち込む。両腕を奪うつもりである。
朝昇はその昂昇の拳を受け流し、脇に挟んだ。
朝昇は昂昇の右腕を極め、折った。鈍い音が響き渡る。
アナウンサー       「お、折ったぁ!! こ、これで両者の右腕が封じられた!!」
迷わず朝昇は昂昇の背後にまわり、背に組み付いた。無事な左手をアバラにまわし、
ぽき。
昂昇のアバラが折れていく。『毒蛭』である。
苦悶の声を上げて、昂昇は身体を振り回す!! が、次次にアバラは折られていく。
渾身の力で昂昇は肘打ちを背中に組み付く朝昇に打ち込んだ。
何度も何度も肘を打ち込む。だが決して朝昇は離れようとしない。
昂昇は泡を吹いて前に倒れた。
朝昇は倒れた昂昇の左腕を獲り、脇固めへ、勢いよく、折った。

紅葉     「もういい。もうやめさせろ。」

朝昇は立ち上がり、勝ち名乗りをあげようとした。
しかし、その背後で昂昇は起き上がった。すばやく後ろから爪先蹴りを朝昇の首筋に打ち込んだ。
朝昇の左の視界が一瞬にして暗くなった。
昂昇     「俺は両腕。あんたは右腕と左目を失った。これで互角だ。」


グラップラー鉄拳伝(12)  作:らんどるふ


昂昇の連続蹴りが、視界を失った朝昇の左側に炸裂する。
両腕の自由を失った空手家はバランスを失いそうになりながらも休むこと無く攻撃を続けた。
朝昇は右に飛んだ。
朝昇      「んかあ!!」
そう叫ぶと朝昇は構えをとった。
なんと、視力を奪われた戦士はさらに血をたぎらせていた。

本部      「なんちゅう、なんちゅう奴等じゃ。」
刃牙      「…。腕を奪われようが、眼を奪われようが、前へ出るしかない。
            格闘家なんだから。」

朝昇は昂昇の道衣の襟をつかんだ。
昂昇は膝蹴りを打ち込む。朝昇の内臓が悲鳴をあげる。口もとから血が吹き出る。
朝昇は足の裏で昂昇のくるぶしをつかみ、跳ね上げた!!
その一瞬! 昂昇の身体は宙を舞い、頭から地面に叩き付けられた!!

木場     「『山嵐』!!かつて講道館柔道・最強と謳われた西郷 四郎の編み出した必殺技!!」
加藤     「まじかよ!!?片腕で!!」

朝昇はさらに襲い掛かる。
地面に倒れている昂昇の右膝を獲り、膝十字固め!! 膝が軋む。
しかし!! 昂昇は左足の踵で、朝昇の顎に猛打を加える!! 朝昇の意識が眩む。

光成     「もう、もう十分じゃ。」

昂昇の右膝が壊されたと同時に、朝昇は膝十字を解いて、昂昇の蹴りから逃れた。
昂昇は片足で立ちあがると、雄たけびをあげた!!
と、静かに眼を閉じ、前に倒れた。  倒れる昂昇を抱き止めたのは、
立ち上がった朝昇の右腕だった。
         「勝負あり!!!!!!」
アナウンサー        「け、決着!!! 意地と意地! 技と技のぶつかり合い!
                      戦士の魂、確かに受け止めました!!
                      ありがとう、朝昇!! ありがとう、鎬 昂昇!!」

二人の戦士は闘技場の中央で抱き合っていた。
そこには言葉こそ無かったが、たたえ合う男達の勇姿があった。

木場       「最後まで立っていた朝昇の勝ちということだ。」
キー坊     「言葉にならへんわ。ワシは、」
木場       「闘志に火をつけられたか?もうしばし待て。君の試合はまだ先だ。」
キー坊     「うおおおおお!!こうしてられへん!!!ワシ、ウォームアップしてくるわ!!」
キー坊は通路に飛び出した。

アナウンサー    「それではただ今より30分の休憩をとらせていただきます。
                  休憩後の三試合の対戦カードを発表します。
                  第四試合   花山 薫  対  ギャルアッド・スワンパクティ
                  第五試合   渋川 剛気  対  レムコ・ヤーロブ
                  第六試合   スペシャルマッチ
                             マウント斗羽  対  アイアン木場。」

キー坊     「え、いま放送で何てゆうたんや? 木場のオッサンの相手が斗羽やて?
             そんな、あほな?」
そのときキー坊を呼び止める声が背後から聞こえた。



グラップラー鉄拳伝(13)  作:らんどるふ


キー坊を呼び止めた男は、三崎 健吾だった。
三崎     「灘神影流の宮沢さんですね。」
キー坊   「あは、もしかしてワシ有名人?」
三崎はキー坊の眼を見据えた。
三崎     「わが師から幾度となく聞かされました。一子相伝にして最強の武術、灘神影流活殺術。
           いずれ手合わせしてみたい、そう願いつづけてきました。
           しかし、今宵、私はあなたの対戦相手に選ばれなかった。
           非常識を承知で申し上げる! たった今この場で私と立ち合っていただきたい。」
いきなりの申し出に戸惑うこともなくキー坊は答えた。
キー坊    「喧嘩やったらいつでも買うで!!」
両者の間に闘気の渦が動き始めた。

光成      「そう言われてものう。」
光成の前には1人の巨漢が立っていた。
光成      「マーク・ハミルトン。あのヒース・クランシーをも葬ったノールールの猛者。
            わかっとる。おぬしの武名はワシの耳にも届いておる。
            しかしのう、マークよ。地下ファイターでもない、木場チームでもない、
            おぬしを出場させる枠は今宵は残っとらんのじゃ。
            どうじゃ、後日あらためてということでは。」
マーク    「ノー。ぼくには時間がないんだ、ミスター・トクガワ。
            この闘技場には真の最強がいる、って聞いて来たんだ。
            わざわざ、ナゴヤでのエンゾウとの試合をキャンセルしてまで来たんだ。
                  本物の猛者と闘わせてくれ。」
光成      「どうしてもというならのう、考えんでもない。ワシとてお主のファイト見てみたいからの。」
マーク    「サンキューベリマッチ。で、どんなファイターと闘わせてくれる?」
光成      「そうじゃの。…。」
          「私が相手ではどうですか?」
光成の背後にひとりの男が現れた。
光成      「おぬし!」
そう、そこに現れたのは、東洋の巨人・マウント斗羽そのひとだった。
光成      「しかし斗羽くん、おぬしは木場との対戦を控えておるではないか。」
斗羽      「…。マーク君と私、勝ったほうがアイアン木場の対戦相手ということでどうでしょう。」
光成      「な!?」
マーク    「オーケー。オモシロイよ、それ。」

三崎 健吾はジリジリと間合いを詰めて来た。
キー坊は一気に懐に飛び込んだ。しかし、そこに三崎の姿はなかった。
いち早く飛翔した三崎は天井をけって、キー坊の頭上から足刀を放った。
喉にまともに飛び足刀を食らい、キー坊はのけぞった。三崎は間を置かず、拳打を加える。
飛燕の連撃。さらに右腕をとり、ひねり上げようとする、が、
キー坊はとられた腕を軸にクルリと身体を回転させ脱出。後方宙返りで間合いを取った。
キー坊    「少林寺ゆうのは凄いもんやね。そやけど一撃で倒せる技やないね。」
三崎      「なに、!!」
キー坊は腰を落とし三崎にトッシンした!
三崎      「(タックルか。月並みな戦略だな。)」
三崎はタックルを切る動きにはいった、が、キー坊は三崎の目の前で頭から床にダイブするような動きをした。 三崎の視界からキー坊が消えた。
三崎      「な?」
三崎の足の甲に激痛が走る、次の瞬間、顎に凄まじい衝撃を感じ、三崎は倒れた。

泡をふいて倒れる三崎。
          「やるじゃねえか。ナダシンカゲリュウ!」
いつのまにか、そこには加藤がいた。
加藤      「ダイブするような動きから、一本拳で相手の足の急所である衛陽のツボをついて、固定。
            動けなくなった相手を下から両足で蹴り上げる。人間の身体ってえのは下からの打撃に弱い
            からな。えげつねえ。」
キー坊    「的確な解説やわ。『地雷殺』ゆうねん。…。ところで兄ちゃん、誰?」
加藤      「神心会空手、加藤 清澄。用件はそこで泡ふいてるマルコメ君と一緒だ。」
キー坊    「あは、少林寺いてこました思たら次は空手かいや。よっしゃ、なんぼでもやったらぁ!!!」 


グラップラー鉄拳伝(14)  作:らんどるふ


地下ファイター控え室。
木崎      「大変です!!二代目ぇ!!!」
花山      「どうした。」
花山はギャルアッドとの闘いを控え、ワイルドターキーを一本飲みほしたところだった。
木崎      「たった今、連絡が入りました。うちの事務所にとんでもないヤロウが殴り込みかけて
            来やがって、事務所が血の海です!!!」
花山      「どこの組の者が何人で来やがった?」
花山の眼が、喧嘩者の眼から極道の頭の眼に変わった。
木崎      「それが、倉本 鉄山とかいうオヤジひとりだそうで。」
花山      「なに?」
花山は握っていた酒ビンを握り潰した。
花山      「すぐに組に戻る。木崎、車ぁ用意しな。」
木崎      「へい!!ただいま!!」
木崎は駐車場にむけて飛び出した。
刃牙      「ちょ、ちょっと花山さん試合はどうすんの?」
花山      「花山の看板に関わることだ。悪いが試合は代理を立てさせてもらうぜ。」
そう言い放った花山の視線の先には、柴 千春がいた。
花山      「たのんだぜ、千春。」
千春は奮い立った。
千春      「ヘイ!!!!!きっちり代打ぁつとめさせていただきやす!!!!!!!!!!!」          

加藤      「てめえ潰して、トクガワのじじいに俺のこと認めさせてやらあ。」
加藤はキー坊むけて突っ込んだ。下段突き、しかしそれをガードしたキー坊は逆に加藤に肘打ちを食らわせた。 
一歩さがって加藤はローを打つ、ぐらつくキー坊、そこへ容赦なく目突きを放つ加藤!!
が、しかし目突きが決る直前、加藤の動きが止まった。
加藤の頭は大きな掌に捕まれていた。 その手が加藤の動きを封じたのだ。
キー坊    「う、嘘やろ。お前は!!!」
加藤の頭をつかんだ手の持ち主は、あの『超格闘家』左門 清正だった。
左門      「灘神影流を潰すのは俺だ。小僧は引っ込んでろ。」
坊主アタマに眼鏡、残忍そうな瞳、見上げるような巨体とそれを覆う鉄の筋肉。
まごうかたなき左門だった。
キー坊    「アメリカでチンピラに撃たれて死んだんやないのか。」
左門      「俺がそう簡単にくたばると思うか?」
加藤      「んだ、てめえは!!!」
加藤は頭を捕まれたままオーバーヘッドキックを左門の顔面にむけて放った。
その蹴り足がヒットする前に捕えると、左門はそのまま加藤を地面に叩き付けた。
左門      「そこで寝てろ。」
キー坊    「まさかお前も。」
左門      「ああ。木場に呼ばれた。」

木場は駐車場で瞑想していた。
そこに現れたのは、他の誰でもない刃牙だった。
刃牙      「すげえ闘気。」
木場      「刃牙くん。」
刃牙      「は、はい。(気づかれてたのか)」
木場      「私と闘うのは恐いかね。」
刃牙      「…。」
隻眼の闘神は、若き王者を睨み付けた。


グラップラー鉄拳伝(15)  作:らんどるふ


刃牙は全身の毛が逆立つような感触を憶えた。
木場      「私と闘うのは恐いかと聞いているんだ。」
二人以外、だれもいない暗い駐車場で木場は静かに刃牙に歩み寄ってきた。
刃牙      「(まるで猛獣。)木場さん。ガキの頃からあなたのファンだった。
            そんなあなたと喧嘩できるなんてね。」
猛獣の片目が光った。巨体をうねらせ、その剛拳はうなり声をあげて刃牙に襲い掛かった。
刃牙も同時に拳を放った。
互いのパンチがヒットする直前に、二人ともが掌で相手の拳を受け止めていた。
刃牙の掌にジンジンと衝撃を感じた。
刃牙      「なぜ、本気で打ち込まないんですか。
            今のタイミングなら確実に俺をノックダウンできたはずなのに。」
木場      「ふふふ。すまん、斗羽を倒したという少年の実力が知りたくてね。」
木場から嘘のように闘気が消えていた。木場はクルリと刃牙に背をむけて立ち去ろうとした。
その瞬間、刃牙はハイキックを木場の後頭部に放った!
木場は左によけ、刃牙の蹴りを躱し、同時にバックブローを刃牙に打ち込んだ。
刃牙はそれを腕でガードした。
刃牙      「木場さん、マウント斗羽は強いよ。」
木場      「ああ、分かっているとも。そして、君も、強い。斗羽を食ったら次はお前さんだ。」

アナウンサー      「それでは、第四試合の前にEXHIBITION・マッチを執り行います。
                    東洋の巨人、マウント斗羽  対  最も『最強』に近い男、マーク・ハミルトン!!
                    なおこの試合の勝者が、アイアン木場との対戦権利を得ます。」

キー坊     「嘘やろ。あのマークが?」
木場       「くくく。私との闘いの前にウォーミングアップのつもりか?斗羽さん。」
キー坊     「オッサン、まじで斗羽と闘うつもりかい!!? 
             斗羽はオッサンと同じ『プロレスラー』やゆうても、根っからのショープロレスや。
             そんな…。」
木場       「だから、どうだというのだ。」
キー坊     「真剣勝負できるんかい!? あのマウント斗羽に!!!!」
木場       「まあ見ていたまえ。」             





グラップラー鉄拳伝(16)  作:らんどるふ


「青竜の方角!! マウント斗羽!!」
「白虎の方角!! マーク・ハミルトン!!」

両者が闘技場に現れた。歓声が巻き起こる。
アナウンサー       「出ました! マーク・ハミルトン!!
                     あの筋肉!!完璧な肉体とは彼のためにある言葉だ!!」
マーク     「こんなオジイチャンと闘わせるなんて、ミスター・トクガワは僕を舐めているのか?」
小声でつぶやきつつ、マークは笑顔で歓声に答えた。
マーク     「まあこの試合に勝てば、あの木場と対戦できるんだ。
             P○IDEさぼって来たかいはあったね。」
反対側のコーナーで斗羽はヒンズースクワットを始めた。
みるみるうちに、斗羽の全身の筋肉が膨れ上がっていった。
マーク     「???!!」

キー坊     「バンプアップ?!まさか全身をバンプアップしとるんか!?なんちゅう心臓や!!」
木場       「よく見ておけ、40年間ひとつの格闘技に打ち込んだ男の本気の姿が見れる。」

小坊主     「武器の使用以外の一切を認めます。」
二人の巨人が闘技場の中央で向かい合っていた。
マーク     「すごい身体だね。だけどアンタに負ける気はしない。」
斗羽は穏やかな笑みをたたえたまま、握手を求めた。マークはそれに答えた。
二人の手が握り合った瞬間、斗羽は腕を時計まわりに回転させた。
マーク     「え?」
マークは腕をひねり上げられた形になった。
体勢を崩したマークの水月に斗羽の蹴りが炸裂する。
さらに前屈したマークの頭上に踵を食らわす。
アナウンサー      「で、出たー!!16文踵落し!!!!!」
マークは辛うじて片腕でガードした。
マーク     「はは。すげえや。」
斗羽は後ろにさがって、指でマークを挑発した。
マーク     「舐めるな!!!」
レスリング出身のマークは腰を落としタックルの構えをとった。
鋼鉄の肉体が高速で放たれた!! 
世界中のノールール系格闘家が畏れる『ミサイルタックル』である。
斗羽は突っ込んでくるマークにむかって、腕を掲げてスライディングをしかけた。
斗羽の腕がマークの首に入った!! 
マークは思いもよらぬカウンターを受けた。
アナウンサー        「こ、これはランニング・ネックブリーカー!!??
                      ミサイルタックルが潰されたぁー!!!」
マーク      「!!!??」
マークの褐色の巨躯が、斗羽の腕とマークの首を軸に反転し、地面に叩きつけられた。
そのまま、斗羽はマークの首に両腕をまわし、グラウンドのままチョークスリーパー!!
白目をむくマーク。

木場        「マーク・ハミルトンも度肝を抜かれたか。斗羽の真の実力を知らねば無理もない。」
左門        「終わったな。」
木場        「んん。ではそろそろマークに魔法の言葉をかけに行くか。」

木場がマークのコーナーに現れた。そしてマークに向かい怒声を発した。
木場        「そんなもんか貴様の実力は!? この『サノバビッチ(淫売の息子)』が!!!!」
マークの眼がギラリと輝いた。
マーク      「ノオオオオオオオオオ!!!!」
斗羽のチョークを振りほどき、肘打ち!!
立ち上がった両者。 間髪入れず、マークのヘビー級の鉄拳のラッシュが斗羽を襲う!!
成すすべなく殴られる斗羽、そこからマークは片足タックルへ。
テイクダウンを奪うと、ニー・イン・ザ・ベリーの体勢へ!!
上半身の体重を存分に乗せられる体勢から、さらなるパンチの嵐。

キー坊     「さすがに無理やわ。圧倒的なパワーの差や。」
左門       「そう、思うか?」


グラップラー鉄拳伝(17)  作:らんどるふ


斗羽は微笑んでいた。マウントパンチの嵐の中で。
斗羽       「これが流行のマウントパンチっていうやつかい。勉強になったよ。」
マーク     「!!!????」
斗羽はマークの膝を獲り、ブリッジ、そのまま軽々とマークの身体を持ち上げてしまった。

キー坊     「ダ、ダメージがないんか!!??」
木場       「あれが『プロレスラー』だ。相手がどんな殺人技を仕掛けてきても決して避けない。
             相手の技はすべて受けきる!!
             受けきるだけの身体を持っている!!決して悲鳴を上げない身体を持っている!!
             『プロレスラー』は『選ばれし者』なのだ!!!」

斗羽はマークの足をカンヌキに極め、ジャイアントスイングへ!!
10回転したところで柵に向かって投げ飛ばした!!
マークは柵をぶち抜き、客席に飛びこんだ。
マーク     「は、はが。」
歯が砕けている。斗羽は歩み寄り、アイアンクローを極め、片腕でマークを引き起こした。
斗羽       「ありがとう、おかげで身体がようやく暖まってきた。
             そろそろ終わりにするか。」
斗羽はマークの胴に腕を回しクラッチ!! そのまま後ろへ反り投げ!!
アナウンサー      「ジャーマンスープレックス!!!!」
マークは地面に後頭部から落とされた。
           「勝負あり!!!」
 
キー坊     「ネックブリーカー、ジャイアントスイング、アイアンクローにジャーマン。
             あのマークをプロレス技で決めてもうた。」
木場       「一流の総合格闘家相手に一貫して『プロレス』をやってのける。
             圧倒的な実力差あって始めて可能なことだ。」

アナウンサー     「つ、強すぎるぞ!!斗羽ぁ!!!!
                   これで予定どおりアイアン木場の対戦相手はマウント斗羽に決定!!
                   続きまして、第四試合!!
                   花山 薫選手の欠場により、リザーバー登場!!
                   ギャルアッド・スワンパクティの対戦相手は、な、なんと柴 千春だぁ!!!!」


グラップラー鉄拳伝(18)  作:らんどるふ


「青竜の方角!! 柴 千春!!!!」
「白虎の方角!! ギャルアッド・スワパクティ!!!!」

青竜のコーナーから、柴 千春が現れた。
リーゼントにねじりハチマキ、くわえ煙草、派手なガウン。
今回は『厳駄無』の舎弟たちの応援はない。千春は花山の代打である。
今宵、自分は暴走族ではなく、花山の面子を守ることを任された1人の任侠である。
そう考えた千春は、自ら応援を控えるよう舎弟たちに命じたのだった。
千春      「俺っちに代打を任してくれた花山さんに恥じはかかさねえ。」

キー坊    「うっわー。もろに暴ヤンやんけ。」
ギャルアッド      「…。」

小坊主    「武器の使用以外の一切を認めます。」
千春      「くぉら、ムエタイ!?
            タイマンてえのはなぁ、技術じゃねえんだ。性根でやるもんだ、性根で!!」
そう言い放つと、千春はくわえていた煙草の火を自分の首に押し付けて、消した。
千春      「殺すぞ? こらぁ!?」
ギャルアッドは表情ひとつ変えずに千春の眼を見据えつづけた。
千春はガウンを脱いだ。
アナウンサー      「で、出たぁ!!キングギドラの紋紋だ!!!」
          「始めぃ!!!!」
千春はハンドポケットに大股で詰め寄った。 ギャルアッドの腹目掛けて、蹴り一発!!
アナウンサー      「け、蹴ったー!! 素人まるだしぃ!!!!」
ギャルアッドはスウェイして難なく回避し、千春の軸足にローキック!!
千春、転倒。が、すぐに跳び起きる!!
千春      「手加減してんじゃねえぞ、こら!? 命張った喧嘩じゃ!!!」
ギャルアッドは渾身のローを放った。
千春、その迎撃に見よう見まねのローキックを放つ!
両者のローキックが、スネがぶつかり合う。
一発!二発!三発!四発! 蹴りあいである。
アナウンサー      「け、蹴りあっている!! 
                    世界一、蹴りあいの強い、ムエタイ戦士相手に!!言っちゃなんだが!!
                    素人が!! 真っ向から蹴りあっている!!!!」
鉄と材木がぶつかり合っているようなものだ。千春のスネの肉はすでにえぐれていた。
ギャルアッドは一歩後ろに下がり、千春の太股へ蹴りを打ち込んだ。
バシ!!   さっきまでとは明らかに違う打撃音!! 千春の太股は肉離れを起こした。
千春      「それがどおした!? ああ!?」
千春は思い切り拳を振るった。完全なテレフォンパンチ、ギャルアッドはそれを躱し、
両手を千春の首に回した。首相撲から顔面へ膝打ち!!
鈍い打撃音が響き渡る。千春の鼻が折れた。
しかし、膝が打ち込まれた瞬間、千春の左腕は、ギャルアッドの膝関節を捕えていた。
千春     「これを待ってた。あんたが俺に密着する瞬間をなあ!!」
蹴り足を捕まれ、一瞬動きを封じられたギャルアッド。拳を振り上げる千春。
千春のテレフォンパンチがギャルアッドの顔面に炸裂!!
さらに千春は金的を蹴り上げた!! のた打つギャルアッド!!
無防備なギャルアッドの下腹を千春は容赦なく蹴った。
さらに背後に回りギャルアッドを抱え上げる。そのまま柵に向かって走る千春。
千春     「ほらよ。ムエタイ野郎、こんなの食らったことねえだろ。」
柵めがけてバックドロップ!!ギャルアッドは頭から柵をぶち抜き、叩き落とされた。
倒れたギャルアッドを上から、蹴る!蹴る!蹴る!
ギャルアッド       「…。なめるな。」
千春     「ああ!?」
ギャルアッドは立ち上がった。額から血が流れ出ている。
ギャルアッド       「君がどれだけ喧嘩なれしてるか知らないが、
                     僕も路上では50戦無敗だ!! ここはあらゆる攻撃の認められる場所。
                     金的でも何でも汚い攻撃は好きなだけ使えばいい。
                     だが、僕はムエタイ戦士だ。あくまでも君を『ムエタイ』で倒す!!!」
千春     「上等じゃねえか!?」


グラップラー鉄拳伝(19)  作:らんどるふ


ギャルアッドは一気に間合いを詰めた。 ミドルキック!! 千春の内臓がゆれる。
顔面へストレート!! 千春はのけぞった。
千春     「(やべえ!)」
さらに右フック、それを躱した千春の目の前に超高速で迫ってくる肘!!
凄まじい音がして千春は顔面から血を吹き出してダウンした。 

本部     「今の肘打ち!?」
刃牙     「軸足を固定してからの超高速回転肘。あんなのまともに食らったらアウトだ。」
本部     「聞いたことがある。あまりにも強すぎ、賭けが成立しないため
           タイのルンピニースタジアムでは試合を組んでもらえなくなったムエタイ戦士。
           そのキックボクサーが使うという殺人的肘打ち。『スパイン・ウィップ』。
           まさかそのキックボクサーがギャルアッドだったか。」

千春は倒れたままピクリとも動かない。
ギャルアッドは勝利を確信して千春に背を向けた。
しかし、千春は静かに、膝で立ち上がった。その眼はうつろに照明を眺めていた。
ギャルアッド     「!!??」
千春      「(同じだ。ナナハンかまされた時と、アイアン・マイケルのパンチもらったときと。
             ……………。だったらイケる。)」
千春の眼に生気が宿った。
千春      「だったらイケるぜ!!!!!!!!!」


グラップラー鉄拳伝(20)  作:らんどるふ


立ち上がった千春。不敵な笑みを浮かべ、ギャルアッドに向かっていった。
ギャルアッド     「君は死にぞこないだ。」
ギャルアッド、ハイキック! 千春はそれを額で受ける。
血が吹き出す。しかし千春は倒れない。

本部     「ふん。人間の額はハンマーで殴ってもそう簡単には割れないという。
           それにしても何ちゅう石頭じゃ。」

千春はギャルアッドの目の前で、パンと手を叩いた! 『猫だまし』である。
隙が生まれた。 ギャルアッドの胴に足で跳びつき、ヘッドバット!
ギャルアッドの鼻が折れる。
が、ギャルアッドは肘打ちで千春を引き離す。
そのとき、千春の内臓がうねり始めた。先刻のミドルキックが効いて来たのだ。
ギャルアッドはそれを感知し、さらに脇腹に蹴りを入れる。
千春     「〜!!!!」
ギャルアッドのミドルキックの連撃!! 千春はサンドバックのように打たれていた。

紅葉     「これ以上は無理だ。」

千春     「どうしたい。屁でもねえぞ、コラ!?」
足は腫れ上がり、肉離れがジンジンと痛む、内臓が悲鳴を上げる、顔面からの流血は止まらない。
千春は一歩ずつ退いていく、徐々に柵に追いつめられる。
ギャルアッドはとどめとばかりに前蹴りを千春の腹に打ち込む。
しかし、その瞬間、千春は柵に飛び乗った。
ギャルアッドの足が柵に食い込む。千春は柵の上から、飛び蹴り!!顔面にヒット!!
千春     「オレッちの身体も限界っぽいからよう。これで決めるぜ。」
ふたたびギャルアッドにヘッドバット!!つづいてアッパー!!
ギャルアッドの歯が砕ける。
千春     「見よう見まねだがよう。」
千春はギャルアッドをアタマから抱え上げた。そのまま地面にむけて叩き落とす!!

木場     「ほほう。ブレーンバスター。」

遠のく意識の中、脳裏にワイクーミュージックが響く。屈辱的な負けはしない。
ギャルアッドは立ち上がった。
千春     「はは。まじかよ。」
次の瞬間。千春の視界に映ったのは、膝。そして、暗闇。

本部    「打ちおろしの膝打ち。噂に聞く『コブラソード』か。終わりだ。今度こそ。」

千春    「(花山さん。あんたみたいには、なれなかった。)」
ギャルアッドは千春を見下ろている。
千春    「(やっぱ、かなわねえよ。アイアン・マイケルに勝ったのだってまぐれだったんだ。)」
審判が闘技場に降りようとする。
千春    「(花山さんの面子、守れんかった。そうだ。おとなしくしてりゃあ良かったんだ。)」
ギャルアッドは拳を高らかに上げた。歓声が巻き起こる。
千春    「(身体ぁボロボロだ。もう痛みもねえ。
           負けちまえばいいんだ。ケツまっくて逃げちまえ。それで楽になる、それで。)」
審判がジャッジを下そうと歩みよる。
ギャルアッドは千春に背を向け、歓声に答える。
        「勝負あ、」
千春    「ちょっと待てコラぁ!!!!!!!!!」
ギャルアッドは振り向いた。
千春が立ち上がっていた。
千春    「誰が!てめえみてえなヘナチョコに !負けぇ認めた!?
          てめえは、今から俺にブッ殺されんだ!!ぁああ!!!!?」   





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