グラップラー鉄拳伝

グラップラー鉄拳伝  作:らんどるふ

徳川光成 「・・・・アントンよ。いいファイターがおらんようになったのお。」
老人は切なげに煙草の煙を吐いた。
猪狩 「そうでしょうか。」
光成 「なんとゆうか。おぬしや独歩がバシバシやりあっていた頃のような・・。」
猪狩 「御老公。ご存知ですか・・・・。」
光成 「なにぃー!!?ほんとうか!」
猪狩 「ええ。」
光成 「まさかあの灘神影流の宮沢に息子がおったとは!うかつじゃったぁ!」
老人の顔は期待に満ちていた。
光成 「強いのか?」
猪狩 「歳は17歳。アイアン木場をあと一歩まで追い込み、あの朝昇を倒したと聞きます。」
光成 「クー!!草の根分けてでも連れてこい!!」


グラップラー鉄拳伝(2)  作:らんどるふ

東京ドーム地下闘技場。
葵 新吾は悪夢の真っ只中にいた。
通用しない。鍛えぬいた自分の柔術が一切通用しないのだ。
肋骨も砕け、呼吸もままならない。ここまでやられたのは始めてだ。あのキー坊でさえ自分をここまでは追い込まなかった。
辮髪を結った浅黒い肌の中国人が静かに近付いてくる。
烈 海王 「どうした。戦意を失ったならこれ以上は攻めぬぞ。」
新吾はギブアップをするわけにはいかなかった。師の忠告を聞かず独りこの地下闘技場にやってきたのだ。
いまさら退くわけには、いかないのだ。
新吾 「なんで俺がオノレみたいなカンフーバカに、まいったせなアカンのじゃ。」
せい一杯の虚勢だった。 烈の表情が変わった。 プライドを傷付けられた烈に一瞬の隙が生じた。
その虚をつき、新吾の起死回生のタックル!!
しかし、タックルが決まる前に烈の足拳が新吾の顎を打ち抜いた!!
そのまま足の指で新吾の髪をつかむと、無理矢理立たせた。
新吾の正中線めがけサンドバッグを打つかのごとく、連撃!連撃!連撃!連撃!
止めに、はだけた道着の隙からヘソに指拳を打ち込んだ。
気を失う寸前、新吾はつぶやいた。 「キー坊・・・。」
「勝負ありっ!!」

控え室ではプロモーター徳川光成が待っていた。
光成 「見事な現役復帰じゃった。」
烈    「あんな・・。」
光成 「なんじゃ?」
烈    「あんな小僧で!!私の相手が務まると思ったか!!」
光成 「・・・・・・・。」
烈    「連れてこい!!中国拳法四千年の歴史にふさわしい相手を!あのオーガの子にも匹敵するほどの男をっっ!!」
光成 「いいじゃろう。連れてこよう、トンデモナイ男たちをのぉ。」

アイアン木場邸。
木場    「ようこそ。キー坊。」
キー坊 「何の用や。」
木場    「君に面白いものをみせたくてね。」
木場はリモコンを操作した。巨大モニターに試合場らしいものが映しだされた。
試合場には二人の男。 ひとりは岩のような筋肉をもつ辮髪のカンフー。
もうひとりはキー坊もよく知る人物。かつてのライバル、葵 新吾だった。
キー坊 「し、新吾やないか。」
木場    「この試合をよーく見ておきなさい。」


グラップラー鉄拳伝(3)  作:らんどるふ

キー坊は唖然とした顔で、モニターに映し出されるその光景を眺めていた。
剛越流柔術。過去、最も自分を苦しめたライバルの1人である葵 新吾の技という技が殺されていく。
試合開始から10分も経たないうちに、海王の指拳に新吾は倒れた。
木場   「驚いたかね。」
キー坊 「…っ!あの新吾が手も足も出んやなんて!
   それにあの試合場、あんなエグイ試合に観客一杯に入れて。」
木場   「東京ドーム地下闘技場。」
キー坊 「何やて!?」
木場   「武器の使用以外の一切が認められる!本物のバーリ・トゥードが行われている格闘技場!
   御伽の国…さ。」
キー坊 「こ、この日本にそんな所があるんか!?」
少年の瞳は輝き始めた。
木場   「ああ。実は、この私も以前、あそこで闘っていたことがあるのだよ。
   プロモーターと折り合いが合わず、ほんの数試合こなしただけで追放されたがね。
   それが、久しぶりにプロモーターの徳川氏から試合のオファーが来た。
   私が以前からぜひ決着をつけたいと思っていた男と闘わせてくれるというのさ。
   ただし、条件があるという。」
アイアン木場はサングラスを外し、隻眼でキー坊を睨みつけた。
紳士的な態度がガラリと変わり、野獣のような闘気を放ちはじめた。
木場    「徳川のジジィはこう言ってきた!
    今現在このアイアン木場の考えるこの地上で最も強い格闘家たちを引きつれて 
    地下闘技場に乗り込んで来いと!!そしてそのメンバーのひとりとして必ず灘神影流の宮沢喜一を連れてこいとなっ!!
    これは東京ドームtか闘技場からの、俺たちへの挑戦だ!!どうだ、受けるか!!」
キー坊  「…!当たり前や!!あのカンフーと闘れると思たらゾクゾクするわ!!」
木場    「くくく。いいことを教えてやろう。
    剛越流柔術の葵 新吾を倒した男は中国拳法の最高峰、海王の名を継ぐ男。
    そして彼、烈 海王は昨年あの闘技場で、ある地下闘士に敗れている。
    相手は君と同じ17歳の少年で地下闘技場のチャンピオン。名前を範馬 刃牙。」
キー坊  「はんま、ばき…。」

一週間後、東京ドーム地下闘技場。
キー坊  「ドームの地下にこんな施設があるやなんてサスガ東京やのぉ。」
木場     「・・。宮沢さんは、ここへ来ることを許してくれたのか。」
キー坊  「野暮は言いっこなしや。親父には黙って来たんや。
 そんなことより、アイアン木場の考える最強の格闘家チームって、どんなメンバーやねん?
 まさか木場のオッサンとワシだけっちゅうことはないはなあ。」
木場     「うむ。すでに我々より先に二人到着している。」
そのとき、キー坊は背後から殺気を感じた。思わず拳を構え、振り向くと。
「御久しぶりです。」
キー坊   「朝昇やないか!それに・・。」
「アイアン木場のチームに入れるなんて光栄だぜ。なあキー坊。」
キー坊   「・・・はは。ヨッちゃんか・・・。」
義生「ヨッちゃんか・・・。ってどういう意味だ!こらぁ!!」

[アイアン木場チーム]
アイアン木場(プロレスリング)
宮沢 喜一(灘神影流)
朝昇(黒龍寺・SHOOT FIGHTIING ACADEMY)
高石 義生(プロレスリング)     

グラップラー鉄拳伝(4)  作:らんどるふ

光成  「よう来た!!木場君、それに宮沢君!!」
廊下の向こうから喜色満面の老人が両腕を広げ闊歩して来た。
木場  「帰って来ましたよ、御老公。この修羅の庭へ。」
光成  「ほうほう。黒竜寺の朝昇に、人喰い義生…!!さすがアイアン木場の選んだメンツじゃあ。」
木場  「(このタヌキ爺め。)」
光成  「で、何人集まったぁ?」
キー坊「え!ワシらだけやないのか?!」
うつむきかげんに木場は苦笑した。
木場  「とりあえず、ここにいる者を含んで、10人! 
  この10人をしてアイアン木場チームとさせていただきます…。」
一枚の紙切れを木場は光成に手渡した。メンバー表。キー坊は覗き込もうとしたが見えなかった。
光成  「うほぉ。こりゃあタマランわ。それで!こののこりの6人は? どこにおる。」
木場  「おいおい到着しますよ。それより、例の約束、間違いありませんね。」
光成  「ふふふ、当然じゃ。お主とあの選手の対戦、実現できるとはワシもこれ以上ない果報者よ。
  それでは、今宵は10試合!!最高の夜になるわい! それではまた後でのお。」

光成が嬉々として立ち去った方向と逆に木場は歩き出した。 その方向に木場たちの控え室がある。
キー坊「あと6人!いったい誰が来るっちゅうんや、それに『あの男』って誰やねん。なあ?」
木場  「ふふふ。そんなことよりも。見たまえ、ここのチャンピオンだ。」
むこうからキー坊と年格好の同じくらいの少年と、空手着にオールバックの筋者のような男が歩いてくる。
義生  「…。んだぁ、あの空手野郎がチャンプってか。」
木場  「いやいや、あれは神心会空手の加藤クンさ。チャンピオンは隣の少年。」
キー坊「っ!それじゃ、あいつが 範馬 刃牙!!」

加藤  「まじかよ。アイアン木場に高石 義生だぜ・・。刃牙、今夜の相手ってまさかあいつらかよ。」
刃牙  「ははは。まいったな…。」

誰ひとりとして口を開かない。その無言が何よりのコミュニケイションだった。
一歩、また一歩。二組の猛獣たちは近付いていった。闘気のうねりが重く圧し掛かってきた。
木場一行と刃牙・加藤は一言も言葉を交わさずすれ違った。

キー坊「…、ぷはあ。あのガキ! とんでもないタマやで。冷静なツラして、なんちゅう闘気や!」
朝昇  「本物ですね、彼は。」
木場  「そういうことだ。」

加藤  「さすがだな、アイアン木場。すげえ殺気だぜ。」
刃牙  「うん。だけど木場さんのあとを歩いてたあの金髪の少年。あいつも本物だぜ。
   俺の闘気、すべて呑み込まれてたよ。」


グラップラー鉄拳伝(5)  作:らんどるふ


刃牙と加藤が、それ、を発見したのはアイアン木場たちとすれ違った暫くあとだった。
控え室へ続く通路で花田が倒れていたのだ。 血まみれで、右腕が有らぬ方向に曲がり、気を失っていた。
刃牙  「っ!! 花田さん!!」
加藤  「…!!なんじゃあ、こらぁ!! 」
加藤が花田の頬を張った。 花田の眼が開いた。
花田  「……。ひ、ひぃー!!!!!!!!!!!」
刃牙  「何があったんだ! 誰にやられた!?」
花田  「きょ、巨人、巨人ー!!!」

闘技場。
光成  「地上最強の男を見たいかぁ!!!」
客席からドヨメキが起こる。
光成  「ワシもじゃ。ワシもじゃ、みんなぁ。」
光成  「今宵!! あの男が!!アイアン木場が!!9人の精鋭を引き連れ、この闘技場に帰ってきた!!
  迎え撃つは我らが地下ファイター!! 最高の夜じゃあ!!!!」

木場チーム控え室。
キー坊「始まるみたいやで。」
木場  「そう、そして我がチームもようやく残りのメンバーがやってきたようだ。」
控え室のドアに巨大な人影がふたつ現れた。
木場  「遅れてきたうえに、つまみ食いまでしてきたようだな、栗栖!!」
キー坊「お前ら…。」
現れたのは、栗栖郭了、そしてレムコ・ヤーロブだった。
栗栖の拳には鮮血がベットリとついている。
栗栖  「廊下に生意気な小僧がいたもんでなあ。」
レムコ「…。」

アナウンサー 「さあ、アイアン木場を迎えてのビッグイベント!!!
   第一試合から第三試合までの対戦カードを発表しますっ!!
   第一試合  愚地 独歩 VS 栗栖 郭了
   第二試合  ズール    VS 高石 義生
   第三試合  鎬 昂昇   VS 朝昇  」

地下ファイター控え室。
柔軟体操を続ける独歩。それを見守る克己、末堂そして本部。
本部  「独歩よ。あの男、危険じゃぞ。」
独歩  「おもしれえじゃねえか。」
不敵な笑みを浮かべ、偉大なる空手家は息子に向かって一言言い放った。
独歩  「オイラの強ぇとこ、よーく見とけよ。」


グラップラー鉄拳伝(6)  作:らんどるふ


「青竜の方角! 愚地 独歩!!」
「白虎の方角! 栗栖 郭了!!」

独歩と栗栖は闘技場の中央で向かいあった。独歩は決して格闘家として小柄ではない。
しかし両者が並んだとき、巨人と人間の闘いという印象は否めなかった。
栗栖の全身は深い体毛に覆われており、盛り上がった筋肉は野獣のそれを思わせた。
視殺戦。
小坊主 「武器の使用以外の一切を…」
独歩   「すっこんでろや、ボウヤ…」
小坊主 「あの…」
独歩   「始まってんだよ、もう。」
栗栖はまさにそのときタックルに入ろうとしていた。
そう、小坊主が「武器の…」と言葉を発した瞬間に奇襲をかけるつもりだった。が、しかし、
独歩の一言でタイミングを崩された。
さすがに修羅場をふんだ数が違うか、おし殺していた殺気を読まれたな。栗栖は頭の中で呟いた。
栗栖がタイミングを逸し、独歩が小坊主の言葉をさえぎった、その間わずか一瞬。
その一瞬のあと、「 ボッ!! 」
独歩の左拳が栗栖の水月に炸裂した。

観客   「さすが独歩!!不意打ちたぁ、やることがキタネエや!!」
刃牙   「はは。不意打ちしようとしてたのは栗栖のほうだったんだよね。」
加藤   「?」

小坊主 「は、始めぃ!」
不意打ちを食らい、前傾した栗栖の頭部めがけ独歩は右足で上段蹴りを放った。
さすがに栗栖、その一撃はガードした。しかし、次の瞬間、間髪入れずに左足が襲ってきた。
これを栗栖のこめかみを直撃した!!

本部   「双竜脚!」

朝昇   「あれは栗栖も初めて食らう打撃技でしょう。」
木場   「この試合。 円熟期を迎えた打撃格闘家と、絶頂期を迎えた鋼の肉体を持つ組み技系格闘家の激突。
   それだけを考えれば、まるで話にならない勝負だ。 だが…。
   あの武神・愚地に、総合格闘技の常識など通用するはずもなし。 どう攻める栗栖。」

独歩は一気に間合いを詰め、ラッシュをかけた。
アナウンサー   「す、凄い猛攻ー!! 武神健在!!!」
栗栖   「ガー!!」
栗栖は打撃の隙をつき、タックルを仕掛けた。独歩は体勢を回転させ、後方宙返りでこれを躱した。
二人に再び間合いが開いた。
独歩は基本の構えに戻った。 栗栖のダメージはまだそれほど深刻ではない。
独歩は顔面を下に向けたかと思うと、次の瞬間!!  タックル!!
アナウンサー   「ま、まさか!! 空手家、独歩がタック…」
独歩が懐に入ってくる前に、栗栖はタックルをきる動きに入っていた。
両肘で脇を固め、独歩のトッシンを胸で受けて、両足で後方へステップ。前傾の姿勢となった。
頭部のガードががら空きになった。
その瞬間、栗栖は再び顔面に衝撃を受ける!
そう、独歩の狙いはタックルではなかった。 
タックルと見せかけ相手の懐まで接近しハイキックを浴びせる。
アナウンサー   「な、ハイキック…!!?」
極めて不自然な体勢からの蹴りだった。よほど身体が柔らかくなければできない。
空手というより、むしろテコンドーの動きに近かった。

本部   「独歩のやつ。あの化け物を相手に遊んでやがる!!」
刃牙   「すっげ。」
本部   「あの技、見たことがある。ありゃあワシが昔、ブラジルに武者修業に出ていたとき
   世話になっていた柔術道場の道場主のガスタオンに
   ある道場破りが使った技とそっくりじゃ。  その道場破りの名は
   松尾 象山!!」
加藤   「松尾、ってそりゃあ。」
本部   「そう。北辰館の松尾だ。」

しかし、そのハイキックは栗栖を驚かすだけでダメージは無かった。
栗栖は独歩の蹴り足をキャッチして、パワーにまかせてかかえ上げた。
そのまま回転を加え地面に叩きつけた!!
アナウンサー   「あ、あの技は!」
円空投げ!! かつてピーター・カーマンを屠った荒業!!
独歩は地面で跳ねあがった。 受け身のとりようも無い技だが、独歩はかろうじて最悪の落ち方を避けていた。
栗栖は独歩に襲い掛かった。 上から馬乗り。 マウントポジションをとった!!
アナウンサー  「これはまずい。まずいぞお独歩ぉ!!」
しかし独歩は組み伏せられた瞬間、セコンドの克己に向かってそっと微笑んだ。

克己の脳裏に最大トーナメント・刃牙VSズールの試合観戦中の、父との会話が蘇る。
場面は刃牙がズールにマウントポジションをたられたところ。
     独歩 『お前ならどうする、あの馬乗り?』
     克己 『ああなる以前に終わらせるのが、空手ですから。』
     独歩 『フム。つまり策は無いと。』
あのとき、父は自嘲的に笑っていた。
克己  「お、おやじ。まさか、わざと…!!」



グラップラー鉄拳伝(7)  作:らんどるふ


キー坊   「ああ、終わりやで。あの巨体にマウントとられたら、ブリッジで返すのも無理や。 」
木場は静かに苦笑した。

マウントポジション。
栗栖は決して密着しようとはしない。 打撃で決める気だった。
栗栖は巨大なハンマーのような鉄拳を独歩の顔面に打ち下ろした。
一発、二発、三発、四発、地獄のようなパンチの嵐が独歩を襲う。
栗栖     「嬉しいぜ。誰も止めやしねえ。」

そのとき、審判は栗栖の勝ちを宣言しようとしていた。が、光成がそれを制止していた。
光成     「あれしきで負けるようなら、あの男、愚地 独歩ではない。」

独歩は出来る限り、栗栖の剛打を捌いていたが、頭部には夥しい出血が見られた。
しかし、六発目がヒットしたあと独歩はニヤリと笑い嘯いた。
独歩     「きいてねえぞ。 この鼻垂れ小僧。」
栗栖     「んだとぉ。」
栗栖はパンチを止め、独歩の首に左手を当てた。頭を固定して右拳で一気に決着を狙っている。
そのとき、独歩は、自分の首を押さえる栗栖の手首を軽くひねるような動きをした。
ガクン、栗栖がわずかに体勢を崩した。 次の瞬間!!
独歩は、凄まじいスピ−ドで、右手の中指を立てて、栗栖の耳の穴にねじ込んだ!!
耳から血が吹き出る。 栗栖の右拳は空振りして地面を打った。
独歩は怯んだ栗栖の隙を突き、身体を回転させ脱出した。 
独歩     「へっ。」

キー坊   「え、えぐぅー!」

克己     「…っっ!!」
本部     「いよいよ愚地空手、本来の怖さが見れるな。」

起き上がろうとした栗栖の腹めがけ、独歩は爪先蹴りを放った。
栗栖     「ぐおっ!!」
もだえる巨漢。
鍛えぬかれた独歩の爪先は刃物と同様。 蹴られた個所はすべて急所と化す!
独歩     「忘れたのかい? こちとら全身凶器・空手だぜ!!」
血がベットリとつき、残忍な笑みを浮かべた顔。 そのときの独歩の印象は 『悪漢』そのものだった。
口にたまった血を、ぺっ、と吐き出すと独歩は栗栖の耳こめかみを掌底で打った!
栗栖の顎が外れた。  『風魔殺』である。
独歩     「打撃の闘いの基本は、歯ぁ食いしばることだぜ。 どうした兄ちゃん、顎戻んねえかい。」
あんぐりと口を開いた栗栖の顔面に、肘打ち!!
かつてないダメージが栗栖を襲う!!  ダウン!!
独歩は勝利を確信したかのように、克己の待つコーナーへ戻って行った。

独歩     「良い汗かいた。タオルくんな。」
克己     「…。」
独歩     「どうした、その顔。タオルだよ。」
克己     「親父ぃ。 まだ終わっちゃいねえ!!!!!!」
ゾンビのように立ち上がった栗栖がまさに背後から、つかみかかろうとしていた。
独歩は身体をクルリと反転させた!

「勝負あり!!」
克己立つコーナーの目の前で、
白目をむいて倒れたのは栗栖だった。その額は拳大に陥没していた。
構えたままは敗者の前に立つ武神の右拳は、菩薩拳の形に握られていた。

キー坊   「あの栗栖が。な、なんちゅうオッサンや。」
木場     「ああまで見事に『意』を消されては、
     栗栖もカウンターをとられたことにさえ気づかず倒れただろうな。」
朝昇     「あれが、伝説の『正拳』ですか…。」

アナウンサー    「まずは地下闘技場の一勝です!!さあ、続いて第二試合!!!」

義生     「ああ!! 次、俺の出番じゃねえか!! き、着替えねえと!!」
キー坊   「忘れとったんかい!! わあ!! ここでパンツ脱ぐなぁ!!」

地下闘士・控え室。
独歩     「相手が闘志ムンムンの兄ちゃんだったからよう。大人気なくついヒッサツしちまったぜ。」
   「相変わらず下品な空手やのお。独歩。」
独歩     「き、貴様!!」
いつのまにか、控え室には1人の老人が紛れ込んでいた。
柔術衣に、はげ頭。その目はただならぬ殺気に満ちていた。
独歩     「茨 玄舟!!」
克己     「何者ですか、この無作法な人は?」
本部「剛越流柔術・茨 玄舟。」
玄舟「おったんかい、本部ぇ? 影うすうて気づかんかったわい。」
独歩「なぜ貴様がここにいる!!?」
玄舟「うちの新吾がのぉ、ここの烈 なんたらゆうクソガキに世話になってのお。
やられっぱなしでは剛越流のメンツに関わる思うとったら、
アイアン木場のほうから声がかかってのお。」
克己「そんなことはどうでもいい!! 先刻の父に対する『下品な空手』という言葉、
訂正してもらおう!!」   
玄舟「何じゃ、オノレ、独歩のガキか?」

「青竜の方角!! ズール!!」
「白虎の方角!! 高石 義生!!」





グラップラー鉄拳伝(8)  作:らんどるふ


木場    「ズール、か。 あの男、この私にも予測がつかん。」
朝昇    「確か、ブラジリアン柔術台頭以前からバーリ・トゥードで無敗だった選手ですね。」
木場    「その通り、だがズールの怖さはそんなプロフィールではとても言い尽くせない。」

ズールは頬をプーっとふくらませながら試合場に現れた。
アナウンサー     「出ました!! 蛮性のバーリ・テューダー、ズール!! 
 このパフォーマンス、いまだ理解せきません!!」
義生    「なめてんのか、コノヤロー。」
アナウンサー     「さあ、そして対するは『人喰い』!! 高石 義生だー!!」
小坊主  「武器の使用以外、一切を認めます。」
  「始めぃっっ!!」
ズールがしかけた!!  イキナリのミドルキック!! 義生の脇腹にヒット!!
間合いを測るわけでもなく、フェイントを仕掛けるわけでもない。
ただ野生動物のように襲い掛かる!! 義生は不意をつかれたが、
義生    「…っ!! 格闘技だぞ!! なめるな!!」
ズールの右腕を捕え、そのまま飛びつき腕ひしぎ十字固め!!
倒れた状態でズールの腕は完全に極められた。
義生    「ついでだぁ!!」
極めているズールの右手の親指を折った!! 義生の得意とする裏技、指取りである!!
しかし、ズールは戦意を喪失するどころか、白い歯を見せて笑顔を浮かべた。
極めている方の義生の身体が浮きあがった。

キー坊  「嘘やろ!! 腕ひしぎをリフトアップしとるで!!」

義生   「おいおい、ま、まじかよ!!?」
ズールは義生の身体をリフトアップするとそのまま地面にむかって叩きつけた!!
義生は後頭部を強かに打ちつけられた!!

地下ファイター・控え室。
玄舟   「遊んでほしいんかい、ボーズ?」
克己   「ええ、たった今ここでね。」
緊張が張り詰める。 一触即発。 殺気が渦巻く。
玄舟   「死にたいようやのお。」
刃牙   「まっずいなあ。」
 「こりゃ、よさんか。我慢のきかんやつらじゃ。」
本部   「し、渋川老!!」
現れたのは達人・渋川だった。 さすがに歴戦のツワモノ、場に漂う殺気を一瞬にして断ち切った。
渋川   「玄舟、まったくお主はちょっとの間もおとなしゅうできんか。」
玄舟   「ちっ。まあええわい、今夜中にどうせオノレらはワシが全部壊したるわい。」
そう言い放つと玄舟は控え室から姿を消した。
烈     「ふん、命拾いしたな。」

ズールは腕ひしぎから脱出すると、倒れている義生の顔面めがけ、
踵から飛び込んだ!! 全体重の乗った踵が義生の鼻っ柱に炸裂。
メキッ!! 義生の鼻が折れた。

キー坊 「っかー!! エベンゼール・ブラガかい!!」

義生の眼がすわった。
義生   「なるほどね。 喧嘩ってわけだ。」
跳ね上がるように立ち上がり、拳を構えた。
義生   「はんぱな攻撃しかけて悪かったな。こっからが本番だ。」



グラップラー鉄拳伝(9)  作:らんどるふ


義生は拳を構え、つっかけた。 敵の目つきが変わったことにズールも気づいた。
義生のいきなりのアッパー!! 
ズールはそれをよけようともしない。 逆に、笑顔を浮かべ義生の懐へ飛び込んだ!!
脇腹に義生の拳がヒット! それをものともせず、
ズールの頭突きが義生に炸裂する。 両者ともスウェイなどしない、ノーガードの打ち合いである!!
義生の頭部が血に染まる。 
キックが、拳が、ヘッドバットがうなり声をあげて襲い掛かる。
まっこうからの殴り合い!!
アナウンサー  「す、すごい打撃戦だぁー!!!!」

木場   「くくく。 義生ほどの総合格闘家ならば、もっと他の攻め方があるはずだ。
   だが半端な技はあのズールには通じない!! 」
朝昇   「お馬鹿さんとお馬鹿さんの闘いですね。」
玄舟   「ガキの喧嘩やの。」
木場   「おう!! 玄舟先生、よく来てくださいました。」
キー坊 「い、茨 玄舟!」

義生   「ふんがー!!」
渾身の一撃がズールにヒットした。 ズールが後ろ向きに倒れた!!
が、ズールはその拳を食らうやいなや、身を屈め、義生の足を刈るような蹴りを放った。
義生は転倒!! 
ズールは体勢を崩した義生の背後にまわり、胴に腕をまわし、後方へ頭から叩き落とした。

木場   「ほほう、スープレックスを使うか…。」

だがそのスープレックスは一度で終わりはしない!
何度も何度も、義生は頭から硬い地面に叩き落とされた。 
四度めのスープレックス、義生は空中で身をよじり脱出!! 
形勢逆転!! 義生はズールの背後にまわり、
義生   「スープレックスってぇのは、こうやるんだ!!」
美しい弧を描き、義生のジャーマンスープレックスが炸裂。 完璧なスープレックスだった。 
しかし、ズールは立ち上がった。 義生の脇腹への蹴りを狙っている。
義生   「おめえはすげえよ。 尊敬する。」
義生はズールの蹴り足をキャッチした!!
義生   「ヒッサツ技、使わせてもらうぜ!!」

キー坊 「あ、あの体勢はっ!!」

ズールの両足を脇で挟み、さかさまにしたまま持ち上げた。
ズール 「!!!?」
義生   「っしゃあ、行くぞお!!」
そのままジャンプ!! 空中でズールの顎に踵をあてる!!

猪狩   「ヤロウ。あの技ぁ使う気か。」
刃牙   「あの技?」
猪狩   「人喰い義生がメキシコのカリスマ的ルチャ・ドール、チコ・フェルナンデスを葬った技。
   キャノン・ドライバーだ!!」

ズールは頭から地面にむかって激突する、はずだった。
ズールは空中で義生の足をつかみ、身体を回転させた!!! 
義生   「な、ななな!!!?」
キャノン・ドライバーは成功しなかった。両者は地面で転倒。
そのとき、

キー坊 「おい、あれ!!」
朝昇   「…。極まってますね。ヒールホールド。」

義生   「いててて!!」
靭帯がきしむ。 ぶちっ!!!

本部   「切れたな。」

ズールは立ち上がった。そのまま、義生の上に馬乗りに、
義生   「っ…!!」
義生は飛び起きて、ズールの顔面に拳を放った。
義生   「やっぱ、尊敬なんかしねえ。てめえは!!!ブッ殺す!!!!!!!!!!」

キー坊 「あーあ、きれてもうた。」

ズールは義生の肩に噛み付いた。義生はズールの金的を狙い膝蹴りを放った。
ズールは本能的に後ろに飛びのき、それを躱した。
が、次の瞬間!! 怯んだズールの隙を突き、義生は無事なほうの片足で跳びあがり、
その足で飛び蹴りを放った。 顔面にヒット!! ズールの歯が飛び散る。
義生    「おらおら、びびってんじゃねえ!!」
巨大なハンマーのような拳がズールに降り注ぐ。

木場    「終わったな。義生の喧嘩魂がズールの蛮性に勝った。」

ズールは背中を見せて逃げた!! 義生はそのズールの背に組み付き、倒した。
首に手を回し、チョークスリーパー。
義生    「ぬおおおお!!!」
がくん。
ズールはおちた。
「勝負あり!!!!」

刃牙    「すっげ。」


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